生産改善」カテゴリーアーカイブ

失敗を恐れない勇気

軽装の女性客、行き先は冬山 決意したタクシー運転手

 奈良県宇陀市の近鉄榛原(はいばら)駅前で1月中旬、タクシー運転手の森田義彦さん(68)はひとりの中年の女性を乗せた。女性が告げた行き先は東吉野村の高見山の登山口。標高1248メートル、冬場は登山客に人気の山だ。

(以下略)

(朝日新聞デジタルより)

 女性乗客の様子がおかしい。タクシー運転手は気がつき女性に話しかけるが、女性は上の空。運転手・森田さんは意を決して車を止め「命を絶とうとしてるんと違う?」と問いかけ、榛原駅まで戻り交番に女性を預けた。

初めて会った人に「自殺しようとしてないか?」と問いかけるには相当の勇気が必要だっただろう。その勇気が一人の命を救った。

我々の生産現場でも同様なことはある。
改善のアイディアを思いついたが上手くいかなかったらどうしようと、躊躇する事があるだろう。ここで勇気を出して行動しなければ、進歩はない。

「駄目元改善」という言葉がある。
「ダメでもともと」上手くいかなくても、命まで取られるわけではない。
「ダメなら元に戻すだけ」今まで問題はあっても生産できていたので、改善できなくても、元に戻せばいいだけ。
「駄目元改善」はこの二つの意味を持っている。

駄目元改善の極意は「金をかけない」だ。
改善のために立派な生産設備を導入してしまうと、元に戻せなくなってしまう。極力LCA(ローコストオートメーション)を目指す。設備を作る前に効果を検証する。

以前リードタイム短縮のためにインライン乾燥炉を検討した。半田付け部分に絶縁材料を塗布し、まとめてラインアウトし自然乾燥後に次工程に投入していた。この工程だけで2時間停滞時間が必要だった。生産スペースの都合上インライン乾燥炉は1m以下にする必要がある。ここでいきなり乾燥炉を作ってしまうと乾燥が不完全となる可能性がある。
ここでエイやっと設備発注するのは「勇気」ではなく「蛮勇」だ。

小型のコンベアを段ボールで覆い布団乾燥機を使って温風を吹き込んで実験。コンベアのスピード、温風の温度設定を確認してからインライン乾燥炉を発注した。
この改善だけでリードタイムが2時間短縮できた。

失敗を恐れない勇気に必要なのは、とりあえずやってみる、駄目元の組織文化だと思う。試しにやって見てダメならば、別のアイディアを考えれば良いだけだ。


このコラムは、2020年2月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第940号に掲載した記事です。

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原因と言い訳

 発生してしまった失敗の原因を探求し、再発を防止する。類似の失敗が発生しないように水平展開をする。さらに失敗を抽象化しまだ発生しない問題を未然防止する。

ここで重要なことは、正しく不良原因を見極めることだ。

例えば、100台生産ロットの部材発注時に1台2個使いの部品を100個しか発注しなかった、という問題を考えよう。業務システムを使っていれば、この様な問題は発生しないだろう。例題と思ってお付き合い願いたい。
発注担当者はExcelの部品表を確かめながら、発注伝票を作成。その際にミスが発生した。発注伝票はリーダが確認するが、見逃してしまった。

ここでその発生原因(間違った伝票を作成した原因)と流失原因(間違った伝票を見逃した原因)を分析し対策をすることになる。

発注担当者は「風邪気味でぼんやりしていた」
リーダは「仕事が忙しく焦っておりチェックが不十分だった」
発生原因、流出原因に、体調や心理状況などの人為的要素を入れてしまうと、「体調が悪くならない様に健康管理を徹底する」「体調が悪い時は休む」「忙しくても焦らない様に精神強化する」「リーダを増員する」などという、実現不可能または困難な対策しか考えつかない。

「ぼんやりしていた」「忙しかった」というのは原因ではなく「言い訳」だ。
言い訳に対して対策を考えても現実的な効果のある対策は出てこない。
ぼんやりしていると間違ってしまう、ということは「難しい」「複雑」「煩雑」などの原因があるはずだ。したがって、ぼんやりしていても問題が発生しない様にするのが本当の対策だ。
忙しいとチェックの時間がなくなる、という言い訳は作業改善で時間確保する方向に改善しなければならない。

例題は、業務システムの活用や、Excelのマクロなどで自動チェックができる様になるはずだ。
より複雑な問題でも、原因分析の結果が「言い訳」になっていないかどうか見極める。言い訳は、「ぼんやりしていた」「忙しくて焦っていた」の様に個人的な体調、心理的状況に依存している場合が多い。


このコラムは、2020年2月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第937号に掲載した記事です。

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動画の力

 テキストデータを読んだり,聞いたりするよりは,写真を見た方が素早く理解出来る.写真を見るよりは,動画を見た方がより深く理解出来る.

これは情報量が,テキスト<画像<動画となっており,情報量が多い方がより理解が深まる,と言うのが一般的な理解だろう.

しかし私はちょっと違う解釈をしている.
人は物事を理解したり,記憶するのは,経験を通して達成される,と考えている.この仮説が正しければ,情報量ではなく実体験に近い方が,理解が深くなるはずだ.
たまたま情報量の多さと実体験との近さが同じ順番になっているだけだ.

私の仮説が合っているかどうかは別として,工場で指導する時に,ポンチ絵,写真,動画を使う事が多い.

ある工場では,熟練を要する作業があり,その工程がいつもボトルネックとなっていた.班長も組長も,その作業が熟練の過程でどう変わっているのか分からないので,新人作業者に説明が出来ない.

こう言う場合は,その作業をビデオで撮影し,熟練者と新人の違いを分析する.その違いを言葉で説明しながら,ビデオを見せるとその瞬間から新人でも,ベテランと同じ様に作業出来る様になった.

違いを分析する,それを言葉にする,と言う作業は多少能力が必要だが,動画の威力は高い.

今週の雑感でも紹介したが,Youtubeの動画もたびたび活用している.
バスを造っている工場に,トラックや乗用車の生産ラインの動画を見せた.ここの経営幹部に「バスはトラックや乗用車とは同じではない」というのが「口癖」の人がいる.こう言う発言は,思考停止に他ならない.他の業界でうまくいっている方法を,そのまま真似出来ないにしても,自分たちの工場に適用するにはどうしたらいいか?こう言う発想が革新を生み出す.

「理想解」から色々な制約条件の元に「現実解」を見出すことができれば,それが自分たち(制約条件下)の「理想解」にほかならないだろう.

現場改善も同様だ.現在の作業をビデオに撮る.そのビデオを見ながら,ムダを見つけ,改善のアイディアを出す.
私のような現場改善のコンサルは,現場を改善することが仕事だ.
しかし自分で改善を進めてしまうと,仕事が終わった時点で改善は停まり,むしろ退歩が始まる.現場のリーダたちに改善の方法を教え,行動を起こさせる所までやらなければならない.自分で改善してしまった方が楽でも,ビデオを見せながら一緒に考える.

ビデオカメラ一台で,リーダの改善能力が相当上がるはずだ.
ビデオカメラと三脚,高級品でなければ2~3000元もあれば買える.
効果に対して相当安い投資だと思えるが,あなたの工場ではビデオカメラを改善に使っているだろうか?


このコラムは、2013年7月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第316号に掲載した記事です。

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中国QCサークル事情

 最近中国にてQCサークル活動を指導している中国人と知り合った.
中国の経営者は,日本的モノ造りの優位性を信じており,QCサークル活動に対しても少なからぬ期待を持っているようだ.

中国では,既に製造業以外でもQCサークル活動が行われている.
彼は中国の通信系会社(キャリア)でもQCサークル活動の指導をしている.

ところで,本家であるはずの日系中国工場のQCサークル活動状況は,あまりぱっとしない.大手企業はQCサークル活動を導入しており,グループ会社間で交流会を開催しているところもある.しかし中堅・中小の工場ではQCサークル活動を導入しているところは少ない.

QCサークル活動は,活動そのものによる改善効果だけではなく,チームワーク,仕事を通した求心力の醸成,問題解決能力,プレゼンテーション能力などの開発が期待できる.

中堅・中小企業の場合,適切な指導者が社内にいないなどの理由があり,QCサークル活動の挿入に踏み切れない.また外部から指導者を招聘すれば,費用の負担が大きくなる.などの理由により,なかなかQCサークル活動が活性化しないようだ.

また日本でQCサークル活動が停滞しているのも一つの要因だろう.
しかし中国では,リーダクラス育成のためのOJT効果を期待してQCサークル活動を再生できると考えている.

異業種交流の形をとって,QCサークル活動を導入するなどの方法を考えれば,中堅・中小企業にも比較的容易に導入可能だと思う.

日本で生まれ,日本の経済発展に貢献したQCサークル活動が,中国企業だけで活性化しているのを見るのは大変残念だ.


このコラムは、2010年5月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第154号に掲載した記事です。

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データは現場・現物で見る

 不良の低減とか生産性の改善をする場合,データは重要な鍵になる.
しかしデータから見えてくることだけでは改善はできない.

例えば工程間の作業バランスを改善するために,各工程の作業時間を測定し机上で検討してもあまり良いアイディアは出ない.つまり計測した作業時間データは,今の作業方法によるデータでありそれをいくらひねっていても大きな改善にはならない.

作業時間と仕上がり数量から平均作業時間を求めても何も分からない.このデータからは,作業者ごとの作業時間のばらつき,作業者間の作業時間のばらつきは見えてこない.

作業現場を良く観察することにより改善するポイントが分かる.
着眼点はばらつきだ.

理論的な作業時間分析どおりに作業ができていることはあまり無い.
作業時間のばらつきから無駄な動作が見えてくる.作業者間のばらつきから,習熟度に依存してしまう作業や,細かな作業方法の違いによる効率の差が見えてくる.
これらは現場でしか分からない改善ポイントだ.

不良統計データも現場・現物で見直す.同じ不良現象の中に,別の原因が含まれている事がある.
例えば異物や傷による外観不良は統計データだけでは,改善ポイントは見えない.
現場・現物を見ることにより初めてどこで,どうして異物や傷が発生しているかがわかる.

データを取る事が無駄というわけでは無い.悪さ加減を知る,改善効果を測定するためにもデータは必要だ.改善に役に立たないデータの収集や加工はやめる.その時間があれば現場に出かけるほうが効果が高い.


このコラムは、2009年7月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第107号に掲載した記事です。

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作業標準化のコツ

 今週のお題にご投稿をいただきました.ありがとうございます.
今週号の記事はこちら

【今週のお題】
 皆さんは作業現場の工夫をどのように作業標準化しているだろうか.

Z様のご投稿

 僕は現場の作業標準というものは作ったことがありませんが、製作指導書は日々作っています。多くの場合、日本工場の班長や熟練技能者にヒヤリングして工程のポイントとなる部分だけをピックアップしていることと、品質確保を重点に作ってことが作業標準との大きな違いです。
 作る僕の語学力の問題もあって、図面追記型(=製作指導図)と写真中心型のいずれかですが、大抵日本語版を作ってから、翻訳して中国語版を作ります。上手くまとめられた時は、中国のサプライヤーから感謝されるだけでなく、日本の技能者からも自分のノウハウが、目に見える形になったことで喜ばれたこともありました。

Z様は機械加工部品の中国調達のお仕事をされている.
通常のバイヤーであれば,設計者が描いた部品図面を右から左に加工業者に渡しても仕事は勤まるであろう.品質とコストに対する飽くなき追及が,自ら製作指導書を作る原動力となっていると推察した.
部品図面にちょっと加工順を記入してやっただけでも,品質やコストに影響を与える事が出来るはずだ.

技能者というのはえてして文書化や図面化が得意ではない人が多い.
図面を見ただけで頭の中で加工順を考えられるのは,ベテラン技能者のノウハウだ.これを若い技能者に伝えるのはそうは簡単ではない.
一つ一つの製作指導書がノウハウ事例となり,日本での技能伝承にも役に立っているのであろう.

K様のご投稿

 作業標準化ですが、弊社でのやり方は、

  1. 生産開始前に図面作成担当がサンプル基板と図面を見ながら、各工程毎に作業を割り振り、それぞれの図面を作成する。
  2. 実際の生産開始時、図面作成担当、管理者で作業現場に行き、現場での問題点、改善点を手書きで記入する。
  3. 手書き修正図面を電子データに展開し、図面が完成。

 このやり方である程度完成度の高い図面は出来ていますが、まだ作業者の意見を取り入れるところが弱いと思っています。作業者が自由に発言し、管理者がそれを受け入れて図面に反映する環境を作っていく必要があると思っています。
 また、1.の図面作成はベテラン(10年選手)が行なっているので、今までのノウハウなども最初から盛り込めていますが、その人が居なくなったことを考えると、今の内に後継者を作っておく必要があります。
あと、図面フォーマットの改善点として、右上に枠を作り、各工程での作業箇所数を見易く記入する様にしています。(はんだ付け箇所:9箇所、ねじ締め箇所:4箇所 など)
作業者に数を意識させることで、作業モレを防ぐのが目的です。

詳しい作業標準策定の手順を書いていただき,皆さんのご参考になったと思う.

私が生産委託工場で指導した時は,1.の段階を,現場班長クラスの作業員で構成された「試作製造チーム」と生産技術員が一緒に試作品を作ることで対応していた.

ベテランの生産技術員は,作業中にどんな不具合が発生するか読めるのであらかじめそれを回避する作業手順を作れるのだと思う.従ってベテランのノウハウを若手に伝承するのは,工程FMEAのフォーマットで潜在不良項目を伝承するのが良いと思っている.

最後の作業点数を作業指示書に書き出しておくというのは,すぐにでもベストプラクティス(まね)すべきポイントだと思う.
私も以前,電子部品の極性チェック工程で同じように作業指示書にチェック点数を書いた事がある.このときは点数が多すぎて作業者にカウンターを渡さなければならなかった(苦笑)

お二人のご投稿は,同じように文書化することで作業を標準化するというアプローチであった.

その他にもビデオ映像で作業を標準化する方法もありうる.
文章や図解では表現しにくい作業もある.こういう場合はビデオで撮影したモノを作業訓練に使い作業を標準化する事が出来るだろう.

例えば,段取り換え作業を効率よくしようと思うと,作業内容を箇条書きにしただけではなかなか表現しきれない.実際に作業をしている場面を撮影し,ポイントをナレーションで入れておく.
定期的に「段取り換え作業コンテスト」を開催し優勝者の作業がビデオ教材に採用される栄誉を得る.

作業標準は決めた日から改善対象になる.このようなイベントで作業標準を改定していくと,作業者のモチベーションアップも同時に狙える.文章による作業指示書は改善したら手書きでも良いから、すぐに書き込むようにすべきだ.


このコラムは、2009年1月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第79号に掲載した記事です。

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続・作業の標準化

 先週の作業の標準化に対してメルマガ読者H様から投稿をいただいた.
皆さんとシェアしたいのでご紹介する.

H様のアイディア

作業標準書を作るのが一番上手なのはそこの職場に長年いるパートのおばちゃん(笑)

それも、いきなり「作業標準書」を作るというと相手もひくので(苦笑)
料理好き?得意料理何?という話題から入って、「その料理どうやって作るの?」と聞くとこうやってあーやってとわかりやすく言ってくれます。

「そうやると上手にできるん?」と聞くと必ず「そうよー」と言ってくれるので、そこで、「それなら、その料理が上手にできるみたいに、今やっている仕事はどういう風にするか教えてよ」というと、意外とすらすらと出てくるものです。

この時は、思いっきり口語でいいと思います。あと、手順書らしい文体にするのは班長の仕事(笑)

私の経験では、この方法で口説き落として作成してもらっていました。
その職場の人の意見も取り入れることにより、「班長や職長が勝手に作った」という気持ちがなくなり(この気持ちがあると形だけの作業書になってしまいます)
のちのちスパイラルアップにも役立ちます。

あと、作業標準も時と場合により、掲示や記録表に併記も有効に活用するといいですよね。

本来作業を一番熟知しているのは,班長でなければならないはずだ.しかし毎日同じ仕事を何百,何千回と繰り返している作業者の方が熟練している.その熟練の過程で小さな工夫の積み重ねで,班長より速くかつ楽に作業をするコツを体得しているものだ.

これはなかなか言語化するのが難しい.
これをH様のようにまず話しやすい雰囲気を作り,そのコツに焦点を当てて聞き出す.聞き出した内容を作業標準に落とす.この「キキダス」作業標準が作業者の効率のばらつきを埋めより高い生産性を実現する.

非言語的なコツ(暗黙智)を他の作業者でも分かるように形式智化するということだ.

更にH様がご指摘しているように,作業標準は自分達の工夫を盛り込むものだという理解が更に良い作業標準に進化する.
「ねぇねぇ,こんな風にやってみたらもっとうまく行くよ」という会話がおばちゃんたちから出てきたら最高だ.

作業標準は決めたその日から改善の対象としなければならない.

M様からもメールをいただいた.

いつも、楽しく読ませていただいています。
私も昨年まで、6年間中国の工場に駐在していましたがいまだに作業指導書がない工場があったのは驚きでした。
中国も不況で大変でしょうが、これからもがんばってください。

機械設備など一品物を造られている工場は別として,日系工場で作業指導書がないところはまだ見たことがない.
メルマガで紹介した中国企業のように,日本人の指導が入っていない工場だとまだこんなものなのかも知れない.

まだまだ日系企業の優位性がある.

さて今回は【お題】を用意した.
皆さんは作業現場の工夫をどのように作業標準化しているだろうか.
皆さんの工夫をご投稿ください.


このコラムは、2009年1月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第78号に掲載した記事です。

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作業の標準化

 製品の品質や生産性を均一にするために作業の標準化は欠かせない.
その標準作業手順を文書化したのが作業手順書とか,作業指導書などと呼ばれているものになる.

殆どの工場には,優劣の差はあっても作業手順書の類はある.
しかし今全く作業手順書を持っていない工場を初めて指導している.製造現場に唯一あるドキュメントは,製品の分解図でありこれは作業者向けとは言いがたい.明らかにエンジニア向けである.

この工場では,そのエンジニア向けの図面を班長さんが作業者向けに噛み砕いて作業指導をして生産している.したがって班長さんの力量によって生産性が変わってしまう.

また作業指導が十分でないところについては,作業者ごとにやり方が変わっている.
例えば狭いスペースに部品と配線を押し込むようにして組み立てなければならない製品がある.この作業がネック工程になっており4人の作業員で分担しているが,全員が違う作業方法で作業している.したがって出来上がりの製品は4種類の異なる配線経路を持っている.

また班長さんごとに,経験値が違うのでラインごとに違う作業方法を取っている.これで製品の品質や生産性に大きなばらつきが出ている.

実はこの工場にも以前は作業手順書があり,工程順を決め,その工程ごとに写真入りの手順書を作っていたという.しかし4000品目もある製品の手順書を造りきれずに途中で断念し,分解図だけで生産する方法を選んだようである.

一人の班長さんに,こういう状況をどう思うか?とたずねてみた.
彼曰く,
作業の生産性や品質を決めるのは作業員の「心態」(中国語で意識とか精神状態の意味)である.作業標準を勝手に決められてしまうと,現場の変動に合わせられない.

言うことは立派だが,偉そうなことを言う前に製品の品質と作業員の生産性を均一にしなさいと言いたい.

この工場では,製品は班長さんの「暗黙智」で生産されているといって良いだろう.暗黙智は他の班長さんや作業員と共有する事が出来ない.暗黙智は「形式智」に変換することによって始めて他者と共有する事が出来る.暗黙智を形式智に変換したものが標準作業手順だ.

全く標準作業手順書を作った事がない人たちに指導をするのは易しい.教えれば良いだけだ.
しかしこの工場のように一度挫折した人たちに,標準作業手順の重要性を説いて再度作業手順書を作らせるのは骨が折れる.

まずは品質と生産性に重要なインパクトを与えるところから,簡単に作業手順書もどきを作って教えてゆこうと考えている.


このコラムは、2009年1月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第77号に掲載した記事です。

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完結編・現場の工夫を引き出す

今週のメルマガでは,現場の工夫を引き出す方法について書かせて頂いた.

【私のアイディア】
工夫に考案者の名前をつけることにより,「名誉」を感じさせる.

ポイントは
・楽しくやること
・即実行して効果を感じさせること
・ただで出来る(笑)
だと考えている.

【Y.H様のご意見】
古くからある方法ですが、やはり改善提案です。
そして、職長がいいと思った内容はすぐに導入してみる(テスト的でもOK)。
そのあとの水平展開については職長以上の人間の責務。

おおげさに改善提案大会とかして、賞金どうこうというよりも、提案したことがいい内容ならば、すぐにテスト的にでも実施してもらえることの方が、賞金とかなくても、パートさんとか工員さんのモチベーションはあがると思います。

改善提案制度を利用するのはよい手だと思う.
すぐ導入することにより提案者の工夫が認められた事を感じてもらう.
賞金よりも自分の工夫が認められることによるモチベーションのアップ.
中国ではお金がまず第一だというご意見も多いが,人から認められるという喜びを理解させると,改善のモチベーションが上がるはずだ.

【H様のご意見】
改善提案制度を導入する.
あらかじめ改善効果の○○%を賞金とする事をきめておく.

H様のご意見は中国人スタッフのやる気を金銭で引き出そうという考えだ.
こういう考えも有効だと思うが,しかしお金は「麻薬」と同じで続けているうちに効果が落ちてくる.そして更に強いドラッグが必要になってくる.という点にも気を使っておいたほうが良いだろう.

【T様のご意見】
工夫による改善を「改善前」と「改善後」の写真と一緒に,目立つところに
張り出すというのはどうでしょうか.

写真により改善の効果が良く見える.その事例を見た人たちも自分のラインに応用する事が出来る.という効果が期待できるだろう.
改善の水平展開を図るときには他の人間が成果を出して評価されているのを見せれば,皆それを取り入れるようになるだろう.


このコラムは、2008年12月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第69号に掲載した記事に加筆しました。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

現場の工夫を引き出す

 モノ造りにおいて,与えられた道具をそのまま使わない,何らかの工夫を入れて道具を使うという姿勢が重要だ.匠と呼ばれる職人さんたちの道具には全て工夫がある.工夫を道具に与えて初めて道具を使いこなしているといえるのではないだろうか.

中華系工場の生産現場を見ていて感じるのは,設備・道具をきちんと使いこなせているところが少ない.与えられた設備・道具の本来の機能を維持することすら難しい.いい加減な日常点検やメンテナンスでは高価な日本製の設備を導入してもすぐに使えなくなってしまう.

日系の工場に行くと,旧式の設備をきちんとメンテナンスをして使いこなしているところが多い.中には設備の年式の古さを自慢げに大きく表示している工場もあった.
同じ中国人が作業をしていても,きちんとした指導で設備の可動率はぜんぜん変わってしまう.

この日常点検・メンテナンスで設備・道具の機能をきちんと維持するのは基本だ.更に設備・道具に現場の工夫を入れてゆかねばならない.

中国人のメンタリティでは,設備を保守する人,設備を工夫・改善する人,設備を使って作業する人は全然別の人種であり,相互に干渉しないことが「善」と考えているフシがある.

これを打開するために,こんな工夫をしている.
難しいことはあまり期待できないが,治具を使って生産する方法を思いついたり,治具の改善を思いついたりしたらすぐ褒めることにしている.そしてそれをすぐに実行に移す.その治具には「○○式治具」など考えた人間の名前をつける.「○○式治具」のすばらしさを他のラインなど全社に吹聴する.
こんなちょっと幼稚とも思える方法で現場の人間が自分も工夫してみようという気になる.

こういう仕事上の工夫は製造現場だけではない.
以前日本で仕事をしていた時も同じ事をやっていた.品証部の部下が面白い評価方法を考え付く
「〇〇マトリックス評価法」などと考えた人間の名前入りで名称をつけてやる.
この名称をことあるごとに使うわけだ.これで考えた本人もその気になるし,他の人間も工夫をしだす.

私はこんな一見幼稚な方法でもある程度成果が出せた.
皆さんは現場の工夫を引き出すためにどんな工夫をしておられるだろうか?


このコラムは、2008年12月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第68号に掲載した記事に加筆しました。

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