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続・歩留まり率と直行率

85号のコラム「歩留まり率と直行率」について読者様からご投稿をいただいた。

=== Zhen様の投稿 ===
歩留まり率と直行率については、林様の考え方は、まさに正論です。そして「ものづくり」は正論を目指さなくてはなりません。(あたりまえのことを愚鈍なまでに実行する)しかし現実は必ずしも正論一筋では立ち行かないこともあると思います。

中国のサプライヤーの中には技術レベルが低く、はじめから直行率の向上を目標にすると頓挫してしまうところが多々あります。具体的には以前メルマガでも紹介いたしましたように、アナ(メス)は公差の下限(小さいほう)を狙い、オスは公差の上限を狙うと言う公差を外しても手直しの効く作り方です。

なぜこのような発想になるかと言うと、材料費に比較して人件費が安いと言うことが根本にあります。そのことは、歩留まり率が悪いと損益が悪化し、経営的にその仕事を請ける価値がなくなってしまうこと。また林様のメルマガに記述されていますように、納期に発注数量の出荷を確保させる必要性というものがあります。

このようなケースの場合は、第一段階では歩留まり率向上(直行率を下げても)を目標にしなくてはなりません。そしてあるレベルに達したら、目標を直行率向上に切替えなくてはなりません。しかし、この切替えのタイミングと経営層の意識の切り替えが難しいです。つまり経営的に一定の利益をあげてしまっていると、更に上への向上心が欠如してしまっているうえ、過渡期は一時的に歩留まり率の低下もあります。この辺で苦労されている技術者は、意外に多いのではないでしょうか。僕も苦労した経験があります。
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Zhen様ありがとうございます。
Zhen様のメールマガジン

私は電子部品・製品生産の経験が多いので、Zhen様のように機械加工部品を主に取り扱っておられる方と単純には比較はできない。例えば再生不可能な原料を投入して製品を生産するような場合は、歩留まり率で管理しても直行率で管理しても殆ど同じ結果になるだろう。

私たちには最初から歩留まり率という発想はなかった。
修理・手直しをするのだが歩留まり率で管理していると、不良の発生は無視されてしまう。

各検査ステーションでの不良率を掛け合わせたモノを総合不良率として考えていた。各ステーションで不良と判定された製品はすぐに修理してラインに再投入されるので、この総合不良率を直行率に変換しても正しい直行率にはならない。これを補正するために不良率の分母・総検査台数は、前工程で不良になった台数を差し引いて計算していた。

確かに人件費が安いので、修理にかかる工数はたいしたことはない。しかしここ数年毎年最低賃金が十数%上がり続けている。例えば15%毎年上がったとしても3年で1.5倍、5年で2倍の給与となる。そろそろ人海戦術に頼った生産は限界だと考えている。


このコラムは、2009年3月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第86号に掲載した記事です。

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出来る出来ないではない

 久しぶりに「カンブリア宮殿」を見た。
TVを見ていると、本を読む時間や睡眠時間が短くなるので用心している。アマゾンプライム、アベマTVなど映画やTV番組を見だすとキリがなくなる。さらに、フジTV、TV東京のオンデマンドサービスも入れてしまった。今まで以上の自制心が必要な状況となった(笑)

伊賀焼きの土鍋を作っている窯元経営者永谷氏(77)の言葉が心に刺さった。
「出来るか出来ないかではない、やるかやらないかだ」

陶器の特性を活かし、新たな機能を持った土鍋を次々と商品化した。その結果倒産寸前だった下請け仕事を脱し、人気商品を持つメーカになった。

私自身も改善活動を指導している時によくこの言葉が口から出そうになる(笑)
このメルマガでも、同様な事を何度か書いた。

“出来ない”を叱らない

出来ない理由が解決課題

出来ない理由を言うのは簡単だ。
出来ない理由を言ってしまうと、出来る方法を考えようとしなくなる。そして行動しない。行動しなければ何も改善はない。

出来るか出来ないかわからないときは、まずやると決める。やると決めれば、方法を考えねばならなくなる。

改善活動を指導していて、こうすれば改善出来ると方法を教えることは簡単だ。
しかしより重要なことは、出来ないと考えずにやってみようと行動することだ。出来る方法を教えてしまえば、効果は一度きりだ。
ダメな理由を考える前に行動して見る習慣が身につけば、自分で改善方法を見つけることができるようになる。つまり効果が再生産される。

改善活動の目的は、目の前の問題を改善することではない。改善の実践を通し、改善リーダを育成することだ、と考えている。


このコラムは、2017年4月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第522号に掲載した記事です。

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続・現場改善

 先週のメルマガで「部品の組み付け作業が時間がかかる」という問題に対しQCサークル手法で改善に取り組み始めたと、コラムに書いた。

現場改善(先週のコラム)

作業は、パスの前後の車軸をフレームに組み込む作業だ。製造,設計、生産技術、品証のメンバーでチームを作り,現状把握をした。

現状把握結果
前部調整時間:68分
後部調整時間:62分
合計調整時間:130分

作業を観察した結果、調整後の前後左右のホイールアライメントの測定結果が基準ないに入らないと再調整が必要になる。現状把握時には6回再調整・測定を行った。従って調整を1回で済ませる事が出来れば、調整時間を減らす事が出来る。

改善目標を調整時間130分→55分とした。

彼らは現状把握に際し、エース級のベテラン工員を投入した。実は現状把握の130分は、過去の実績より半分近く短い時間だった。作業員の経験や能力に回数が決まるという事だ。改善方法は、人に依存しない方法としなければなない。

QCC活動指導者としては、従来の作業時間を基準に改善目標を設定したい所であった(笑)

時間がかかるという抽象的な問題を、調整を1回で済ませる、と言う課題に置き換えることにより、対策のアイディアが簡単に出る様になる。現状把握の翌日には即対策実施となった。

対策の効果確認結果:
前部調整時間:32分
後部調整時間:15分
合計調整時間:47分

目標超過達成、64%短縮。
一発調整は達成出来なかったが、調整時間は約1/3になった。
次の取り組みは、一発調整、更に無調整化が出来れば一段高いレベルとなる。

実はこの活動は、指導日程の都合で対策検討、対策実施はサークルメンバーだけで行った。自分たちだけでここまで出来たというのは、メンバーにとって大いに自信となっただろう。


このコラムは、2016年11月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第504号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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統計的思考

 私の世代は、高校3年の時に数学で統計と確率を勉強した。全員ではなく、理系クラスだけだった。大学に進学して電子工学を勉強したが統計確立理論とその応用は、夏期集中講座があっただけだ。それらの教育を受けて、統計確率理論を応用する統計的思考が身に付いたとは言い難い。工学部にいた時でさえ、どのように応用出来るかよく理解できず、単位取得が最重要目的だった(笑)

就職して、回路設計エンジニアとして仕事を始めた。製品の精度を決める回路部品の精度を決定する際に、部品の最大値・最小値を使って計算していた。最大値・最小値で設計すると、必要以上に高精度の部品を使うことになっているのでは?と言う疑問があり、当時普及し始めたPCでプログラムを組み、シミュレーションで証明しようとしたことがある。

それを見た先輩が見かねて、「バラツキ」について教えてくれた。
今思い出せば「大数の法則」を分かり易く教えてもらった。これが私にとって最初の実践的統計思考との出会いだった。

その後、品質保証の仕事をすることになり、40代にして統計確率理論を再勉強した。この時に身につけた統計的思考が今でも役に立っている。

統計数字は、身近な所にもある。
例えばTV番組の視聴率。先週のニュース番組の視聴率は20.2%だった、と言う会話がよく出て来る。ほとんどの人は、自分がどの番組を見ていたかを報告した記憶は無いはずだ。放送局の方も、今何人の人が番組を見ているかを知る方法はない。視聴率は、無作為に選ばれた家庭をサンプルとして、全体(日本の視聴者)を統計的に計算し推定している。本来視聴率は幅を持っている。

こういう統計的思考法は、品質管理に大いに役に立つ。
例えば、工場で生産した製品は全て全く同じに出来ている訳ではない。バラツキがある。生産したモノを全て計測出来れば、そのバラツキの範囲を知ることができ、製品規格の範囲に入っているかどうか検証出来る。しかし、計測にコストがかかる。または計測をすると出荷出来なくなる場合もあり得る。製品強度とか、アンプルに入った薬液の量などは、計測が破壊試験となるため、全数検査は出来ない。サンプルの計測により、全体を推定する統計手法が必要になる。

製品のバラツキを減らす工程改善をした。改善の前後のデータから、改善の効果があるのかないのか、こういう判断をするのを「検定」と言っている。

実は統計的思考は、ギャンブルにも応用可能だ。
長・半ばくちをする場合、10回やれば5回は偶数が出る、こう考えるのは平均値だけを考えているのと同じだ。統計的思考を使えば、10回の内8回長の目が出るのは、偶然のバラツキなのか、イカサマなのか判断出来る。

外貨投資に出て来るボリンジャーバンドは、過去の値動きのバラツキを示している。例えば2σのボリンジャーバンドを越えるのは、過去のバラツキから判断すると、2.3%となる。

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竹槍の戦い


このコラムは、2012年12月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第287号に掲載した記事です。

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竹槍の戦い

 顧客企業の技術部門を指導している。技術的な解決課題を挙げてもらった。
10項目の課題が上がった。そのほとんどは彼らの固有技術で解決可能な課題だ。
それぞれの課題は製造部門の努力でなんとかしのいでいる状態であった。そのため生産効率が上がらないでいる。

一般的に言って、私自身がそうであった様に(笑)設計者という人種は新しいモノ好きで、過去に設計した製品のメンテナンス(設計改善)を嫌がる傾向がある。そこをなだめて、今製造が困っている課題を設計の力で解決するというテーマに取り組んで貰っている。(彼らを納得して動かすコツがある・笑)

ほとんどの課題は1ヶ月以内にほぼ解決しており、改善の効果確認待ち状態となった。これで製造部門は相当生産性が上がるはずだ。設計者が見積もった改善効果は、かなり過小評価してあった。意外にも、彼らは遠慮がちだ(笑)

しかし1点だけ、プレス部品の不良が解決の見込みが立っていない。
このプレス部品は、深絞り加工で加工時に亀裂が入ってしまう。不良が大量にあり溶接で亀裂をつなぎ研磨をしてなんとか形状を出している状態だ。強度が必要な部分ではない。外観意匠を保つために後の工程でも追加工が必要になっている。この加工は彼らにも技術はなく、ベンダーに加工してもらっている。しかもベンダーにも技術がなく、亀裂が入っており明らかに不良でも納入して来る。

そのような状態なので、ベンダーとともに改善をしようにも手探り状態だ。
手当り次第に良いと思われる方法を試して一喜一憂している。いきなり金型を修正してみて、不良が半分になってたと報告して来た。半分になったと言っても、サンプルが少ないので有意差は認められない。
まさに「竹槍の戦い」状態だ。

統計的に評価をするアプローチを教え、不良が発生する要因を全て挙げる様に宿題を出して今回の指導を終えた。プレス加工に関しては私も素人同然だ。しかし問題解決のための管理技術は分かる。次回は彼らの検討をどう確かめ、不良を減らすかというステップに入る。相当困難が予測される。万が一好ましい効果が上がらなくても、この経験はきっと彼らの成長につながるはずだ。竹槍だけではなく、管理技術という新しい武器を実装する事が出来る。

久しぶりに骨のある課題と取り組んでいる。


このコラムは、2016年9月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第493号に掲載した記事です。

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統計思考力

 以前「統計学が最強の学問である」という本を空港の書店で発見し、一気に読んだ。

「統計学が最強の学問である」西内 啓著

先週末は「統計思考力」という本をBOOK OFFで見つけ即買いした(笑)

不透明な時代を見抜く「統計思考力」神永 正博著

どちらも数式を使わずに、統計学の意味を伝えようという趣旨で書かれている。

私は製造現場で統計学を応用できる様に指導をしている。
統計学の意味を理解するだけではなく、実際に活用しなければならない。
しかし私も、極力数式を使わない様にしている。
数式はExcelが勝手に計算してくれるので、その意味を理解してもらう様にしている。数式で説明してしまった方が簡単だが、その数式を見て理解するにはある程度の素養が必要となる。

そんな訳で、この二人の著者の努力には大いに共感できる。

私の場合は現場で応用するという必然性がある人に教えているので、彼らより楽だろうと思う。統計理論や確立理論となじみのない人に対して、統計学に興味を持ってもらう様に書かねばならない。このつかみがなければ、本は手にとられない。

神永氏は「ゆとり世代は学力が低い」は本当か?という問いでつかみに成功している様に思う。少なくとも「統計力」などというマニアックな分野で出版し、文庫化を果たし
ている。多分多くの人がこの本を手にしたのだろう。

じっくりこの本を分析し、どうしたら数学に興味がない人をこちらの世界に引き込めるか研究したい(笑)


このコラムは、2015年10月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第445号に掲載した記事です。

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統計手法

 先週は、ネジを作っている工場を訪問した。改善アドバイスをした後に、困っているコトありますか?と聞いてみたら意外な質問が来た。

ネジを生産している人たちは、生産を数量では管理していない。重量で管理している。一方顧客の方は、数量で発注をする。当然顧客側は、部品表に指定してあるとおりに、ベンダーに注文するわけだから、ネジを1kg発注することはない。1000本と発注する。

しかしネジの工場では、本数を数えていては、梱包作業に時間がかかりすぎる。したがって、重さで本数を管理している。つまり1本のネジの重さを量り、1000倍した重さで、1000本のネジを梱包する。

バネ、リベットなど小さな部品は、同様な管理をしている工場は多いだろう。

ところがこの方法で出荷すると、顧客から本数が足りないとクレームが来るそうだ。顧客がわざわざ受け入れ検査で、ネジの納入本数を検査しているとは考え辛いが、そのようなクレームがあるという。

やむを得ず、何個か追加して出荷しているが、小さなネジの場合なかなかクレームがなくならないそうだ。どうすれば良いかと聞かれた。

こういう時にこそ統計的なモノの考え方をすればよい。

通常出荷する時に、出荷ロットの山から、1本製品を取り電子秤に乗せる。重量を測定した後、出荷個数を入力すれば、一袋に詰めるべき重量が自動的に電子秤に表示される。その重さになるように、袋詰めする。
これが通常の作業方法だろう。

これを統計的に考えてみる。
ネジは皆同じ重さではない。ある範囲でばらついているはずだ。たまたま秤に乗せた1本が、そのバラツキの軽い方のネジだったら、出荷重量規格は小さめに設定されてしまう。ネジの重量バラツキが1本分の1/1000だとしても、梱包単位が1000本だとすれ
ば、その影響は無視できなくなってくる。

したがって、この問題を解決するには、統計的アプローチを取る必要がある。

生産ロットごとに、ネジ重量の平均値、ばらつきは変化するはずだから、生産ロットごとに、梱包の重量規格を変える必要がある。

生産ロットごとにサンプルを抜き取り、そのサンプルデータから平均値、標準偏差を計算する。この値をその生産ロット全体の、平均値、標準偏差の推定値とする。

検査規格を、(平均値+3×標準偏差)×梱包個数
とすれば、梱包個数未満の袋が発生する確率は、0.15%以下となる。
もしも0.15%もクレームが来ては困る、と言う方は、
検査規格を、(平均値+4×標準偏差)×梱包個数
としていただけば良い。これならば梱包個数未満の袋は30ppmしか発生しない。100万回梱包して30回だけだ。

納入本数が足りないと言うクレームに対し、むやみに余分に出荷する、または、自動機で個数をカウントする、という対策を取れば、コスト上昇を招き、利益は減る。

自動機で個数をカウントすれば、正確になるが、設備投資が必要になり、計数時間は秤を使う方式よりは、遅くなる。

統計的手法を使えば、梱包数量が少ない不良を、統計的に少なくすることになる。本来の梱包数量より若干余分に梱包する可能性があるが、全て作業員が数えたり、自動カウンタを導入するよりははるかに安いだろう。


このコラムは、2012年11月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第284号に掲載した記事です。

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改善テーマ

 本日のテーマでお話したお客様でのQCC研修は,次から次へと改善テーマが見つかっている.

QCC手法の講義と,実践活動を同時に指導している.
先週は対策の決定のところで,問題点から系統図を使って対策案を列挙する.それにマトリックス図を併合し,即効が期待できる対策から順に実施していく.という手法を講義した.
講義では,完成品倉庫の削減を事例として手法の説明をした.

その講義に早速生産管理部門の管理職が飛びついて来た.彼の部署では年間のQCC活動テーマとして,完成品在庫の削減に取り組んでいたのだ.研修前の工場診断で完成品在庫の多さが気になっていたので,研修の例題として在庫削減を選んだ.それがストライクだった訳だ.

例題に沿って現状を聞いて見ると,工程内不良を想定して受注数量に大きな係数をかけて,生産投入をしていることが分かる.

また別のサークルは,設備稼働状況の記録の記入漏れ,誤記を削減すると言うテーマに取り組んでいた.さほど大きな改善効果はないと高をくくっていた.
原因分析が甘いので,実際の記録表を見せてもらった.
記録表からは,チョコ停が多いこと,段取り換えに時間がかかっていることが見えてくる.

それぞれにすごく大きな改善効果が期待できるテーマが浮かんでくる.目の前に,水をたっぷり含んだ濡れ雑巾があるのと同じだ.たっぷりと成果が搾り取れそうだ.


このコラムは、2011年5月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第207号に掲載した記事です。

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景気と改善コンサルの仕事

 私は現場改善の仕事をしている.お客様の工場に出かけ,生産性や品質の改善を現場で進める仕事だ.

面白いことに,景気が悪くなると改善コンサルの仕事が増え,景気が回復すると改善コンサルの仕事は減る.08年11月から徐々に仕事が増え,09年はかなり忙しかった.しかし09年の11月頃から,仕事が減ってきている.

お客様の工場は,受注が増え改善どころではなくなってきた,ということなのだろう.それはそれでめでたいことなのだが,忙しさに負けて改善を後回しにすると後で苦労することになる.
今は作業員が足りていない状況だ.徹底的に改善をし,少人数でも生産できる体制を構築する必要が有る.

最近は改善コンサルの仕事は減っているが,社内研修の仕事が増えている.最近発生した,フォックスコンの連続自殺事件や,自動車部品メーカでのストライキの影響なのだろうか.お客様が,従業員の教育に力を入れ始めているのを,肌で感じる.

改善も従業員教育も,重要な仕事である.しかし一刻を争う仕事ではない,「重要だが急ぎではない仕事」だ.こういう仕事は往々にして,後回しになる.「重要だが急ぎではない仕事」は計画を立て,計画に従って進めるのが良い.
計画なしにいつかやろうと考えていると,時機を逸してしまうことがまま有る.


このコラムは、2010年7月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第162号に掲載した記事に加筆修正しました。

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改善を阻害する文化

 最近訪問した中華企業で働いている日本人の方から、面白い話を聞いた。彼は香港人経営者、中国人従業員の中で広東語と北京語を駆使して活躍をしておられる。

1台1万元の温度調節設備をオーナーが買おうといいました。
幹部従業員が反対しました。「こんなのは自分で作ったほうがいい!」
自分で作りました。オーナーは大喜び。
オーナーのWIN : 当初1万元のものが8千元で買えた。2千元のWIN!
部従業員のWIN : 実は原価は4000元でした。残りの4000元はWIN!
結局負けたのは“品質”です。業界各社が必死で研究している製品なのに
素人のDIYが使い物になるわけがない。年間数千元の損失でしょう。
もちろん、統計はされていません。だれも‘王様は裸だ’といいません。

私は、この工場を診断した結果、理想像を描き、そこに到達するために、こんな活動をしてはどうですかと提案した。それに対して、彼はこんな事例を紹介し、もっと目先の現実から着手したいと言ってきたのだ。つまり私の描いた理想像を香港人オーナは理解できないだろう。もっと目先の具体的改善を通して、その先を徐々に見せてゆく方がうまく行く。というのが彼の考えだ。

長らく中華系企業で苦労をされた方の、処世術だと思う。
私自身も中華系工場を指導していて、同様の経験をしたことがある。
現場の改善はそこそこ進むのだが、会社全体の企業文化を改革しようとするととたんに抵抗勢力が立ちはだかる。厄介なのはこの壁が現場従業員の壁ではなく、経営者の壁だということだ。

改善のお手伝いをして、大きな成果を得られた会社は、みなこの障壁が低い会社だった。
現場の抵抗勢力は、何とかなるが経営者の壁はなかなか越えられない。

今回は私も彼の処世術を真似て、目先の改善から懐に入る戦術を取ってみようと思う。
現場のリーダたちの心に「改善の魂」を埋め込めば、小さな改善は連鎖的に発生するはずだ。


このコラムは、2010年6月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第159号に掲載した記事に加筆修正しました。

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