月別アーカイブ: 2018年11月

航空機事故から

 先週は米子空港の自衛隊輸送機のオーパーラン事故福岡空港の大韓航空機緊急着陸と立て続けに航空機事故が発生した。両事故ともに負傷者もなく重大事故とはならなかったが、ヒヤリハット事故として原因を究明の必要がある。
自衛隊機は減速、操舵の操作が出来なかった。大韓航空機は操縦席内で発煙を確認。とそれぞれの直接の事故原因は報道されているが、真因はまだ判明していないようだ。

現時点で再発防止や、水平展開を議論してもあまり意味がなかろう。
本日は1994年4月26日に名古屋空港で発生した中華航空の着陸失敗事故を検討してみよう。

事故発生の経緯。

  • 着陸態勢に入った後副操縦士が、ゴーレバー(出力最大)を誤操作。
  • 機長が気がつきゴーレバーの解除を指示するが、解除されず。
  • 航空機(エアバス)は着陸やり直しモードに自動で切り替わり上昇を開始。
  • 副操縦士は自動着陸モードをオンにし機首下げ操作をする。
  • 着陸やり直しモードの自動操縦装置が反発し機首を上げようとする。
  • 機長が操作を変わり、着陸やり直しのためゴーレバー作動、機首上げ操作。
  • 機体が急激に機首上げし、失速墜落。
  • 乗客乗員264名死亡、7名重傷。

この事故の発端は副操縦士の誤操作であるが、操縦の矛盾(着陸やり直し時で機首下げ操作)時に自動操縦を優先する設計思想になっていた事で、失速してしまった。緊急時には、人よりコンピュータの方が冷静に判断出来る、と言うのがエアバス社の基本設計思想だった。一方ボーイング社は、人の操作を優先する設計思想になっていた。今回の事例で言えば、着陸やり直しモードで機首下げ操作をすると、着陸やり直しモードは解除される。

確かに人はミスをする。しかし自動制御が万全かと言うと、そうではない。プログラムにはバグがつきものである。更に制御プログラム設計時に想定できない事象が発生する事もあり得る。そう考えると、最後の砦は人の判断になる。

この問題は、機長の指示に対して副操縦士が従わず最大出力のまま着陸モードにした所が発端だ。普通に考えると、複数人で操作をする場合は、指示に対し復唱と確認は必須だ。コックピットの中で指示、復唱、確認の手順が遵守されていなかったのではなかろうか?

我々の仕事にも、指示、復唱、確認が必要な場面は多くありそうだ。
特に中国人スタッフに指示を出す場合、より復唱、確認が重要になる。


このコラムは、2017年6月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第532号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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航空機事故(人為ミス)

 先週は1994年4月26日に名古屋空港で発生した中華航空の着陸失敗事故を検討した。着陸やり直しモードで自動操縦されている旅客機を手動で着陸させようとして発生した事故だ。
これも人為ミスと考えてよかろう。人為ミスに対して「パイロットの教育訓練」と言う対策では殆ど効果はないだろう。先週の記事では、機長と副機長間の認識の違いを埋めるため「指示」「復唱」「確認」を徹底すると言う対策を考えてみた。実は事故機のエアバス社は、自動操縦のプログラムを変更し、自動操縦時にパイロットが操縦操作をすると、自動操縦モードを解除する様にしていた。プログラム変更が事故機に適用されていれば、事故は発生しなかったであろう。
機長・副機長間のコミュニケーション改善(人に依存した対策)よりはプログラム改善(設計による対策)の方が効果は確実だ。

本日も人為ミスによる航空機事故を紹介する。

VORの誤入力により、自動操縦中の旅客機が山脈に激突墜落した事故だ。
VOR(無線信号灯)とはVHS周波数滞の電波により、航空機に方位を知らせる灯台の様な物だ。自動操縦ではVORを目指して飛んで行く。

機長が選んだ航路上のROZOのVORを自動操縦システムに入力する際に、誤ってROMEOのVORが選択されてしまった。平地を飛んでいるはずが、山脈に向かっており、警告が出た時には上昇が間に合わず山脈に激突墜落した。

警告が発生した時に機長が冷静に対処出来なかった事もあるだろうが、事故の発端はVORの入力ミスだ。

VORの入力は「R」を入力した時点で第一候補の「ROMEO」が表示されそのまま選択してしまった。そして間違った選択に気がつかなかった。と言うのが事故の根本原因だ。これを「人為ミス」で片付けてしまうと、有効な再発防止対策は得られない。

多分航空機会社の、システム設計者はユーザビリティを考えて、設定の簡便さを優先したのだろう。

例えばGoogleやYahooの検索も検索文字入力の途中で候補が表示される。そしてリターンが押されると即検索が始まる。検索の場合間違った文字列が入力され間違った検索が行われても、やり直せば問題はない。間違った検索結果が表示されても重大な事故につながる事はないだろう。

VOR設定ミスによる潜在問題を洗い出すと、XY軸(緯度・経度)に関しては燃料の浪費、時間の浪費に気がつく。Z軸(高度)に着目すれば、山に激突すると言う重大事故に気がつくはずだ。
航空機の航路設定の場合は、簡便さより安全性が優先されるべきだ。

航空機のコックピットの写真を見ると、スイッチ類がぎっしり並んでいる。多分「ROZO」と入力するだけで,何度もスイッチ操作を繰り返さねばならないのだろう(アルファベットが刻まれたロータリィSWを合わせ、一文字ごとにエンターSWを押すのではないだろうか?今ではこんなユーザインタフェイスは考えられないが、事故が起きたのは1995年だ。)最近の航空機は、操作性と確実性が両立していると考えたい。

しかし、出発準備が忙しく民間機と自衛隊機がニアミスした事故があった様に航空機の操作は、相変わらず煩雑さが改善されていないのかも知れない。

製造現場では、もっと容易に操作性と安全性を両立する事ができるだろう。
操作が複雑、分かりにくいなど改善のチャンスだ

今回の失敗事例は「失敗百選」中尾政之著を参考にさせていただいた。


このコラムは、2017年6月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第533号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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杭打ち工事、現場の言い分

杭打ち工事、現場の言い分。データ再調査は「パンドラの箱」となるか?=近藤駿介

 新たな不正が見つかり、日増しに批判の声が高まっているマンションデータ改ざん問題。この風潮に異を唱えるのが、30年前に元請会社の技術者として杭打ち工事を担当した経験を持つ、元ファンドマネジャーの近藤駿介さんです。
自然相手の工事における「必要悪」としてのデータ改ざんとは?

(以下略)
全文はこちら

(MONEY VOICE ニュースより)

 以前杭打ち工事のデータ偽造のニュースに関してコラムを書いた。

「旭化成建材、現場責任者の3割偽装 出向が大半、調査難航」

当初現場責任者の問題と言う論調だったが、予測通り業界全体の問題に発展して来ている。

本日取り上げたコラム著者・近藤駿介氏は杭打ち現場の経験があるようだ。現場人間の私には、彼の主張を理解できない訳ではない。

空調が効いたオフィスで仕事をしている実務経験のないボーヤが、偉そうに施工検査に来た所で何が分かる。と言う筆者の気持ちがコラムの端々から滲み出ている。

実務経験がない検査官は、施工データをどう読むか分からない。検査官は必要データが揃っている事をマニュアルに従って確認するだけになるだろう。コラム筆者はこのような「マニュアル検査」を続ける以上施工データの改ざん・流用は無くなる事はないと言っておられる。

この議論は納得ができない。

確かに現場には予期しないことが突発的に起きる。それによってデータが取れない事もあり得るだろう。だからといって、データの存在だけを問う施工検査をするから施工データを改ざん・流用してよいと言う事にはならない。データをきちんと取る様に努力を傾けるのが本物の現場人間だと思う。

コラム筆者は何度も「施工品質と施工データは別物だ」と主張しておられる。きちんと施工さえしていれば、施工データを改ざんしようが流用しようが施工品質は悪くはならない、と言う主張と理解した。
確かに、施工データは偽物でも、決められた材料を決められた工法で正しく施工すれば、施工品質は悪くはならないだろう。しかし正しい材料、正しい工法、正しく施工が行われた事をどのように保証するのだろう?

それを検証しようとすれば、破壊試験しかないだろう。

施工データは、合理的なコストで施工品質を保証する唯一の根拠だ。
施工データの改ざん・流用を施主の施工検査のせいにし、最終顧客には大丈夫だから信じろ、と言っているのと同じだと思うがいかがだろうか。


このコラムは、2015年12月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第453号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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仁者は人を憎まず?

yuē:“wéirénzhěnénghàorénnéngrén。”

《论语》里仁第四-3

(注)hào。好む。yàn。憎む。嫌悪する。

素読文:
子曰く、ただ仁者く人を好み、能く人をにくむ。

解釈:
子曰く:“ただ仁の徳を持った者だけが正しく人を愛し、正しく人をにくむことができる。”

仁者たるもの、人をあまねく愛し、人を憎むことなどないと考えがちです。
孔子が言っているのは「正しく」愛し、「正しく」憎むのが仁者ということだと思います。溺愛したり、私情で憎むのは仁者ではありません。

続・現場力の継承

 第86号で「現場力の継承」を工場でどう工夫するかという問いかけをした。

作業指導書とか作業標準で作業方法は継承することは可能だ。

しかし作業指導書や標準書などで本当の現場力は継承できない。本当の現場力は作業方法などの方法論ではないはずだ。その作業方法を生み出す品質第一のココロ、継続改善のココロが本当の現場力だと思う。

また作業標準や規準書を後生大事に継承したのでは,進歩から取り残される。標準化をするということは、その時点で最善の方法にいったん固定することだ。従って時がたつにつれ、世の中の進歩から取り残されてしまう。標準化をするということは相対的な退歩だと考えねばなるまい。

(注)標準化が悪いといっているわけではないことをお断りしておく。標準化をしたその日から、標準の改定を検討しなければならない。

現場力を継承する方法として「コトづくり」を提案したい。

以前指導した工場で段取り換え短縮の改善に取り組んだ事がある。実際に1時間半かかっていた段取り換えは30分以下で完了できるようになった。これを手順書化してやれば、新しく入ってきた作業員でも同じように段取り換えをする事が出来るだろう。

しかしそれでは不十分だ。
段取り換え短縮の改善プロジェクトに参加した作業員達は,どう改善するかという目的意識によって色々工夫したはずだ。この意識をきちんと伝承しなければ、現状維持が精一杯である。むしろ段取り換え時間は徐々に長くなっていってしまうだろう。

そこで「段取り換えコンテスト」を年に1回とか2回開催することを提案した。段取り換えをする作業員が、段取り替えの手順を競う。最も良い方法で作業できた作業者が優勝の栄誉を得る。またその様子をビデオに撮影し新人作業員の教育資料として使う。こうすれば優勝者の誇りにもなる。

このようにただ手順を標準書に残して伝えるのではなく、目的意識や改善に向ける熱意を「段取り換えコンテスト」という「コト」を作って伝承するのだ。

日本にもモノ造りの技能を伝承するための「技能コンテスト」や「技能オリンピック」という「コト」がある。これをあなたの工場に応用可能な形に置き換えてみよう。

読者様からはこんな投稿をいただいた.

さて今週の「現場力の継承」ですが、林様のおっしゃるように現場力は、マニュアルや作業標準で継承できる、ものづくりのノウハウとは違います。マニュアルで伝えられるのは、いわば「停まっている技術」です。現場力とは、外部環境や要求に応じて技術をブラッシュアップしていく力、改善力です。
まさに情熱、プライド、こだわりといったものに乗って伝わるものです。

では情熱やプライド(誇り)といったものは、どのようにして形成されるか?
一つ目は、限られたジャンルであってもNo.1を目指すことではないかと思う。例えば品質ではなく、コストでNo.1を目指すとする。品質は二の次なのだから簡単なように思えるが、そうではない。品質を下限ギリギリまで下げれば、下限を下回る不良が増えて、結局コストを圧迫したり、市場クレームで出費がかさんだりして、コストNo.1は達成できない。どんなジャンルであってもNo.1であることは、容易でなく、常に切磋琢磨していなくてはその地位は維持できない。

そしてもうひとつは、自分の作ったものの、一つ先が見えるようにすることではないか。アッセンブリメーカであれば、完成した姿、使われる姿が見えやすいので、モチベーションは上がりやすい。しかし部品メーカとなると、作業者レベルでは、目の前のものが何になるのかまったく?で、モノづくりしていることが多々ある。僕はサプライヤーの経営者、従業員に、完成して据付の済んだ彼らの努力の集積(製品)の写真を見せたが、一様に皆目を輝かせ、良い顔をしていた。これは重要なことだと思う。
しかし、中国のカネのためだけに仕事している労働者が、そんなこと理解するか?と反論する人がいると思う。「カネのためだけに働く」と言う意識の低さと、これはある意味別次元だと僕は思う。それは自分の息子や娘を慈しむ目であるような気がする。このような感情は、断じて「労働に対する意識」とは、比例も反比例もしない。まさに誰もが持っている感情ではないだろうか。

Z様。いつもご投稿ありがとうございます。
私の思いと非常に近いご意見と感じた。

中国の若者は「カネの為だけに働く」という人が良くおられる。これはある面で真実であるが、一部の中国人のことしか捉えていないと思っている。特に最近の若い人たちは、自分のスキルアップ、キャリアアップに高いモチベーションを持っている。そのキャリアアップの先にたくさんお金を稼いでよい暮らしがしたいというのはあるが、目前にあるのは自己成長意欲だと考えている。


このコラムは、2009年3月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第87号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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現場力の継承

 第83号の「究極のモノ造り」で伊勢神宮の遷宮の話を紹介した。
伊勢神宮の遷宮時に使う和釘を、新潟・三条の加治屋さんが再現した、というお話だ。

伊勢神宮が20年に一度遷宮をする理由は、モノ造りの技術を次世代に伝えるためだ。
多分遷宮工事にかかわることは、大変名誉なことだっただろう。
大工、鍛冶屋など代々の棟梁は遷宮の工事を任されることにより、次世代にその技術を伝える。遷宮がモノ造りの技術を次世代に伝えるための仕組みになっていた。親方から弟子に代々受け継がれるモノ造りの技術は、遷宮により確かめられるわけだ。

ヨーロッパやエジプトの遺跡は「そのモノ」が現代にも伝わっているが、日本は「様式」を伝える文化といって良いだろう。

このような古来から伝わるモノ造りの技術だけではなく、今私たちの工場にある現場力も5年後・10年後に代々伝えてゆかなければならない。しかもそのままではなく改善して伝承をしてゆかねば、時代から取り残される。

中国の工場では作業者・技能者に5年・10年と勤務してくれることは期待できない。では作業標準・マニュアル類で現場力は伝承できるだろうか?
これらは最低条件ではあるが、十分ではないと考えている。
現場力は、モノ造りへの情熱という器に乗せて次々と伝承してゆくものだと思っている。

工場の現場力をどう伝承してゆくか、読者様も考えてみていただきたい。
私のアイディアは例によって「金曜日版」で発表します。


このコラムは、2009年3月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第86号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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