月別アーカイブ: 2019年4月

韓非子

 韓非子は性悪説という先入観念があり,今までまったく興味を持たなかった.しかし日本に帰国した折に,何も考えずに韓非子に関する文庫本を買った.長らく放って置いたが,最近ぺらぺらと眺めている.

韓非子の言葉にこんな説があった.

下君は己の能を尽くし
中君は人の力を尽くし
上君は人の智を尽くす.

自分の能力に頼るのは,下級のリーダ
人の力を活用するのは,中級のリーダ
人の智恵を活用するのが,上級のリーダ
ということだろう.

自分で何でもやってしまえば,部下が育たない.いくら高い能力を持っていたとしても,部下10人分の力を発揮できるリーダはいないだろう.従っていくら能力が高くても,それに頼っているうちは本当のリーダとは言えない.

部下の力を活用して,成果を挙げて初めてリーダと言えるだろう.
しかし韓非子はこのレベルでは中級のリーダだと言っている.
つまり部下にいくら力があっても,リーダの指示に従わせるだけでは,たいした働きはしない.命令・指示に従う部下のモチベーションは高くはない.部下の能力を,いかにしたら100%引き出せるかと,悩むことになる.

上級のリーダは,部下に自ら考えさせる.
自ら考えることにより,部下は成長する.そして命令・指示で動くよりは,自らの考えで動いた方がモチベーションは高くなる.この場合は,いかにすれば100%以上の能力を部下が発揮するかを,考えることになる.

この話をクライアントの中国人幹部たちに話してみた.
一人がこの話に異を唱えた.彼曰く;
100しか仕事が出来ない人に150の仕事を与えたら,仕事の質が落ちる,本人は疲弊する.良いことはない,と言う主張だ.

もっともに聞こえる主張だが,仕事に対する能力は仕事を与えることによってしか成長しない,と言うことを忘れているようだ.

100の能力の者に200も300も仕事を与えたらば,彼の指摘のようになるだろう.しかし少しがんばれば達成出来そうな目標を与える,そしてそれを達成することにより,部下は成長するはずだ.
その時に150の仕事をこなすための方法をこと細かく教えてしまうと,中級リーダと同じことをしていることになる.


このコラムは、2010年8月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第168号に掲載した記事に加筆しました。

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トヨタ、北米でリコール カローラなど136万台

 【ニューヨーク=山川一基】トヨタ自動車は26日、米国、カナダ、メキシコで販売した主力車の「カローラ」と「カローラマトリックス」計約136万台をリコール(回収・無償修理)する、と発表した。エンジンを制御する電子部品の不具合でエンジンが止まる恐れがあるという。

 対象車は2005~08年型で、そのうち米国向けが113万台。制御システムに使われる電子基板が使用中にひび割れる可能性があり、エンジンがかからなくなったり、運転中にエンジンが止まったりする恐れがあるという。

 日本など北米以外で販売されたカローラなどは部品が違うため、リコールを実施する予定はないという。

 トヨタによると、この不具合によるとみられる事故が3件報告されており、そのうち1件は軽傷事故だった。この問題を巡っては、米高速道路交通安全局(NHTSA)が消費者からの苦情を受けて本格調査に乗り出した、と発表したばかりだった。

 また米自動車最大手ゼネラル・モーターズ(GM)も同日、トヨタの2車種と同じ機構を使い、米工場でトヨタと共同生産していたポンティアック「バイブ」(05~08年型)約19万9千台をリコールすると発表した。

(asahi.comより)

 トヨタは以前中国で,68万8千台のリコールをしている.それを上回る台数のリコールとなってしまった.米国でフロアマットの問題対象は380万台だったが,これはリコールとは違い,注意文書の配送だけだった.したがって136万台と言うのは過去最大規模のリコールではないだろうか?

ところで今回の不良は,報道によると,プリント基板のひび割れが原因だ.プリント基板が経年変化によりひび割れるとすると,機械的ストレスが継続的にかかっていたと思われる.

  • プリント基板が,筐体ケースとぶつかっている.
  • プリント基板の固定ねじ穴の位置がずれており,ネジ締めでストレスが発生.

しかしこんな簡単な不良を,生産時に見逃し,3年間も生産し続けたとは思えない.

プリント基板アッセイの半田接合点に,ひび割れが発生したのではないだろうか?半田接合点に機械的ストレスをかけ続けると,経年変化でひび割れが発生する(半田クリープ)

  • 半田付け後に半田結合点にストレスを与えるような実装方法だった.半田付け後にネジ締めがある場合などは,要注意.
  • プリント基板端の部品が傾いて実装され,筐体ケースにぶつかり半田接合点にストレスがかかり続けた.
  • プリント基板アッセイ内の重量部品が,自動車に実装後半田結合点にストレスを与える方向になった.(例えば重量部品が実装されているプリント基板アッセイが半田面を上にして実装されれば、重量部品の半田結合点には常にストレスがかかり続けることになる)

こういう予測される不適合を,設計時,量産移行時に洗い出せる仕組み(例えばFMEAやレビュー制度)を持つ必要がある.
この予測力の広さと深さが,それぞれの企業のノウハウだ.


このコラムは、2010年8月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第168号に掲載した記事に加筆しました。

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ベンチャー・中小企業支援

 ネットのニュースで,郵便事業会社(JP日本郵便)が,集配に使う電気自動車1030台を岐阜県のベンチャー企業から購入する,と言う記事を見た.

こういう記事を見るとうれしくなる.

民営化されたとは言え,JP日本郵便は元々国営企業で頭が固い人たちばかりそろっていると思っていた.そういう会社が,大手の企業ではなくベンチャー企業から,資材を購入する,と言うのがうれしい.

過去の実績を頼りに,資材の調達をしていれば,何かあっても調達担当者の責任になることはないだろう.しかしベンチャー企業に発注し,何か問題があれば担当者の責任となる.

こんな雰囲気が公官庁にはあると思っていた.

日本の産業を元気にするためには,中小企業企業やベンチャー企業が元気にならなければならない.戦後日本の成長を支えたのは,中小企業の存在だ.

国は中小企業やベンチャー企業の育成を狙った政策を出しているようだが,一番効果があるのは,注文が中小企業・ベンチャー企業に入ることだ.

活力のある組織は,過去の実績だけで調達先を決めない.現在持っている技術,商品で調達先を決めている.米国のNASAが日本の町工場から部品を調達するなどということが起こる.

税制の改定や,中小企業・ベンチャー企業向けの融資も重要だが,頭の固い公官庁に調達の一定比率を中小企業に出すように義務付けてしまってはどうだろうか.


このコラムは、2010年8月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第167号に掲載した記事に加筆しました。

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続・異常感度を上げる

 先週のメルマガ記事「異常感度を上げる」では,中国工場での正常と異常の閾値が我々が期待するレベルと大いに異なっている、という事例をご紹介した。この記事にたくさんの方に共感していただけたようで,コメントのメッセージを7件頂いた.
異常を異常と感じない事例を紹介いただいた方もあり,なるほどと,一人で頷いていた.事例を他の読者様とも共有したいと思う.

  • 3本並んだ蛍光灯が「チカチカ」していても、誰も取り換えようとも取り換え依頼をお願しようともしない。
  • 食堂に並んだ蛇口が壊れても、他が使えるので、問題ない。
  • 日本でギァから異音がすれば、大騒ぎになるが中国では、機械が動いている限り問題にならない。
  • 中国の露天でマグカップを買う、自宅に帰ってよく洗うとヒビがある。今のところ中身も漏れず、使用上なんら問題なければ、没問題となる。執拗に交換を迫れば応じてくれるが、交換したヒビのあるマグカップは、再び店頭に陳列される。

私が一番驚いたのは,中国工場で見たトイレのロック.
扉の取っ手の下にくるりと回すレバーがついており,固定部分に引っ掛けて外から扉を引いても開かないタイプのロックだ.
しかし扉は外から押して開くようになっており,ロックは機能しない.この扉が出来てすでに,何年もたっているようだが,そのまま使っていた.

このような代替のない機能不全まで,放置されているのに驚いた.

このような状況を打破するために,TPM(Total Productive Maintenance)の自主保全活動を,導入すると良いだろうと思っている.

I様からはこんなコメントを頂いた.

 小生、中国深せんに赴任中です。小生の専門はTPMです。中国でまさかTPMをやる事になるとは夢にも思いませんでした。日本の仲間は、TPMは中国人にはムリだと言っていましたし、小生もそうだと思っていました。が、違っていました。日本よりすんなり受け入れられたのです。苦労はしましたが、根付きつつあります。

大変心強いメッセージを頂き,私もTPMの導入推進に自信が持てた.


このコラムは、2010年8月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第167号に掲載した記事に加筆しました。

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勇を好みて貧を疾む

yuē:“hàoyǒngpínluànrénérrénzhīshènluàn。”

《论语》泰伯第八-10

素読文:
わく、ゆうこのみてひんにくむはらんす。ひとにしてじんなる、これにくむこと已甚はなはだしきはらんす。

解釈:
勇を好んで貧を憎む者は世の秩序を乱す。不仁を甚だしく憎む者も世の秩序を乱すことがある。

孔子は『勇而无礼则乱』《论语 泰伯第八-2》とも言っています。『勇』は使い方を間違うと世の秩序を乱す。仁なき者を極端に糾弾する風潮も世の秩序を乱す。ということでしょうか。

『貧』をなくそうと勇を持って世の中を変えた。しかし貧富の差はむしろ拡大してしまった。
孔子は2500年後が見えていたのでしょうか。

競争より協調

 他人と競争する事で、人のパフォーマンスは上がる。スポーツ競技は、練習中に世界記録が出る事は無いそうだ。(公認記録が練習中にでる事が無いのは当たり前だが、一人で練習している時に世界記録越える事は無い)試合中にライバルと競争する事により、より高い記録を達成する事が出来る。
格闘競技でも同じだろう。自分より格下の相手と戦って最高の試合が出来た、と言う事は無いはずだ。実力が拮抗する相手、自分よりわずかに強い相手と戦った時に最高の試合が出来るはずだ。

競争をする事により、実力以上の結果を出す事が出来る。そしてその結果が自信となり、自分の実力となる。競争環境が無い所で成長する為には、昨日の自分との競争を常に継続する事で成長が可能になる。

企業内での仕事も同様だろう。競争が有れば、個人は努力し能力を高める。
確かにそのようなメカニズムは働いているだろう。しかしこのメカニズムが機能する為には条件が必要だ。受注量が無限に有れば、純粋な競争で生産能力を上げれば、その分個人に成果が分配されるだろう。
しかし受注量は有限であり、競争はゼロサムの競争となる。

上位ポストを目指して競争すれば、それぞれが自分の能力を高める努力をするだろう。しかしポストは一つしか無い。

良い競争が続いていれば良いが、組織内の競争は間違った方向に行きやすい。
良い競争とは、各自が自分の能力を高める競争だ。間違った競争は、相手の能力を下げる(能力が低く見える様にする)競争だ。
間違った競争の事例は数限りなくある。あなたも組織内で働いていれば、1度や2度は不愉快な思いをした事が有るだろう。

競争は有るべきだと思うが、チームや組織での協力・協調が有る事が前提だ。
組織の能力を伸ばす事を前提に個人の競争が無ければ、組織の能力はゼロサムになりかねない。


このコラムは、2016年5月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第475号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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自動運転、異業種とタッグ 車大手グーグル参入に危機感

 クルマに革命をもたらすといわれる自動運転の分野で、世界の自動車大手が競うように異業種との提携を加速させている。背景には、「頭脳」に当たる制御ソフトで米グーグルに主導権を握られれば、車体を提供するだけの「下請け」になりかねない、との危機感がある。

(朝日新聞デジタルより)

 記事は米国ラスベガスで開催中の家電見本市(CES)の現地レポートだ。トヨタが、CESに自動運転のデモで出展している。家電もITも車もどんどん境界が曖昧になり、業界が融合し始めているようだ。

記事の中に自動運転関連で自動車メーカが異業種と提携した例が出ていた。

  • BMW:百度と提携。
  • アウディ、BMW、ダイムラー:ディジタル地図会社を買収。
    これらの買収、提携は地図データの入手を目的としているのだろう。
  • トヨタ:ITベンチャーに出資。
  • GM:配車サービスドフト会社に出資。
    自動運転アルゴリズムの開発を目的に出資。
  • 日産:NASAと共同研究。
    詳細は記事になかったが、衛星写真を解析して自動運転ルートの探索を開発するつもりだろうか?

航空宇宙産業と自動車業界、ベンチャー企業のAI技術と自動車業界などの異なる分野の協業により新しい価値の創造が生まれる。

これは自動車業界に限った事ではない。
コンビニ大手はPOSデータと言うビッグデータを持っている。これを解析し広告業界に販売する事も可能だろう。例えば屋外の電光掲示板に、今コンビニで売れている商品の広告をリアルタイムで流す。多分普通の広告の何倍もの宣伝効果があるはずだ。広告主の商品が売れる。しかもその店舗が、自社のコンビニであれば広告費をいただいて自社の売り上げ増になる。

部品の生産や加工の請負をしている企業は、単独では下請けの域を脱する事が難しいかも知れない。
絶対緩まないナットを生産し、点検・まし締めのコストダウンを提供する。
片手で簡単に回せるナットで金型交換の段取り時間短縮を提供する。
このようなアイディアで、顧客に新しい価値を提供する事が出来るのは限られた企業だけだろうか?

斬新なアイディアが思い浮かばなくても、異業種との協業により新たな価値が生まれるかもしれない。往々にして自業種では当たり前の事が、他業種では新しいアイディアで有ったりする。又は業界が変われば、同じアイディアでも提供する価値が変わる事もあり得る。
例えば、航空会社は旅客機により「移動」と言う価値を提供する。
同じ旅客機でも、旅行会社は旅により「体験」と言う価値を提供する。
同じ旅行でも、研修会社は研修旅行により「学び」と言う価値を提供する。

異業種との交流で新しい価値を生む。
買収や出資は難しくても、志と夢が共有できれば協業は出来るはずだ。
志や夢が有る方は、是非自社技術やアイディアの棚卸しをしていただきたい。準備ができていなければ、チャンスが来た時に乗り遅れてしまう。

今年のテーマ「交流」は、生産現場や経営管理のベストプラクティスばかりではなく、このような新規ビジネスの創造も含んでいる。一人で考えても実現不可能な事を、交流の力で実現可能にしたいと考えている。


このコラムは、2016年1月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第458号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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ボーイング737Max墜落事故

 3月10日エチオピア航空302便(737Max8)が離陸直後に墜落事故を起こした。乗客乗員157人全員が死亡。昨年10月29日にも、インドネシア・ライオン航空610便(737Max8)が墜落し、乗客乗員189人全員が死亡。両事故機は、離陸直後上昇中に何度も機首下げ動作を繰り返し墜落した。わずか5ヶ月弱の間に同様な事件が2件発生している。

公式事故原因はまだ発表されていないがAOAセンサー(仰角センサー)の出力に誤りがあり、失速回避のため機首下げ動作を繰り返したためと報道されている。巡航高度まで上昇中に機体が機首下げ動作をすれば、当然操縦士は機首上げ操作をする。コンピュータによる機首下げ動作と操縦士による機首上げ動作を繰り返した挙句に墜落した様だ。

巡航高度に達する前に上昇、下降を繰り返したわけだから乗客・乗員の恐怖は大変なものだっただろう。コックピットもこの様な状況で冷静に判断が出来たか疑問が残る。

この事故で思い出すのが、1994年4月26日に名古屋空港で発生した中華航空の着陸失敗事故だ。

「航空機事故から」

この事故は副操縦士の誤操作により、操作の矛盾が発生し自動操縦に切り替わった状態で着陸やり直しをしたため失速墜落している。

墜落機(エアバス)の設計思想は操作に矛盾があった場合、コンピュータ操作を優先する仕様になっていた。一方当時はボーイング社は操作に矛盾があると、人の操作を優先する設計思想だった。

失速の自動回避はコンピュータ優先にせざるを得ないのかもしれない。

事故原因はまだわからないが可能性を考えてみると、

  • AOAセンサーの故障
  • AOA警報システムのバグ
  • 操縦システムのバグ

が考えられるだろう。
ソフトウェア業界のには「バグはもう一つある」という格言(?)がある。検証・デバッグを繰り返してもまだバグは残っているという警句だ。

我々の製造現場でもIOTが進めば、システムの複雑度が上がりバグによる障害が発生する可能性が上がるだろう。

AOAセンサの点検整備が地上でできるのかどうか定かではないが、もし異常値を示す故障が発生した場合の検出方法を検討する必要がありそうだ。

世界中に737Maxは200機稼働しているという。各機が平均1日1往復フライトの稼働率だとすれば、半年で2回の事故は27ppmの事故発生率となる。家電製品に使われる電子部品の不良率であれば、許されるかもしれない。
運悪く不良品を購入してしまっても、新品と交換すれば済んでしまう事もある。
しかしたった2度の事故で300人以上の人命が失われている。27ppmの事故率でも許されない。


このコラムは、2019年3月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第799号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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JR運転士を書類送検へ 三重・名松線の無人走行事故

 津市白山町のJR名松線家城(いえき)駅で4月、車両の入れ替え準備中だった回送列車(1両編成)が無人で約8キロ自走した事故で、三重県警は、ブレーキをかけずに列車を離れた男性運転士(25)を業務上過失往来危険の疑いで、近く書類送検する方針を固めた。

 県警などによると、男性運転士は4月19日午後10時ごろ、JR名松線家城駅で車両の入れ替え準備中に列車のエンジンを始動させたまま、ブレーキをかけずに運転台を離れ、列車を同市一志町の井関―伊勢大井駅間の踏切付近まで8.5キロ自走させ、衝突などの危険を生じさせた疑いが持たれている。

 名松線では06年8月、今回と同様に家城駅に止めてあった無人の列車が車輪止めの付け忘れなどが原因で自然に走り出す事故があり、男性運転士が業務上過失往来危険の容疑で書類送検され、起訴猶予となった。

 捜査関係者は、今回も運転士のみを送検する理由について「JR側の再発防止策が不十分だったわけではなく、運転士の過失が大きいと判断した」としている。

(asahi.comより)

 記事にある06年8月の事故は,車輪止めのつけ忘れに加え,エンジンの停止時に空気圧が抜けてブレーキが緩む構造だったことが分かり,JR東海はエンジンを切った場合も制動の機能が落ちないようブレーキの機構を改良していた.

つまり,車輪止め忘れと言う人為ミスが発生しても,ブレーキの欠陥を改善することにより問題が発生しないようにしている.言ってみればポカ除けをしてあったわけだ.

今回の事故では車輪止めをはずした後にブレーキをかけ忘れている.ポカ除けがしてあっても人為ミスを起こしたのだから,今回は書類送検となったようだ.

もちろん人の命を預かる業務をしている者が「ついウッカリ」でも良いというわけでは無い.
しかし人の命にかかわる作業であるからこそ,人の注意力に頼らない徹底的なポカ除けを考えるべきだろう.

工場の不具合発生にも同様の人為ミスはある.その不具合に対し「作業員に注意し,再教育した」「作業員を罰して,担当業務からはずした」などというレベルの低い対策を良く見かける.

今回のニュースをポカ除けの観点で見直してみよう.

06年の不具合は車輪止めを付け忘れている.そのためブレーキの性能を上げて(欠陥を改善して)対策とした.

今回の事故ではブレーキをかけ忘れている.人為ミスとしては同じレベルのミスだ.エンジンをかけた状態では車輪止めをつけないわけだから,ブレーキのかけ忘れが直接事故につながる場面は多いはずだ.

例えば駅に停車した際に運転席からプラットホームに降りるという状況はいくらでもあるだろう.
従って車輪止めの付け忘れと言う人為ミスよりもブレーキのかけ忘れと言うミスの方がリスクは高いだろう.

リスク=影響×発生確率と考えた時,上記のミスはどちらも同じ影響度であり,ブレーキのかけ忘れのほうが発生確率が高そうだ.

車輪止め忘れよりもブレーキかけ忘れに対するポカ除けをする方が優先度が高いはずだ.
列車の運転手は指差し点呼で人為ミス防止をしているが,これは自己チェックの機能しかなくポカ除けとはいえない.

例えばブレーキレバーを引かなければ運転席の扉が開かない構造にするなどは比較的簡単に出来るのではないだろうか.こういうのがポカ除けだ.

職人の技、機械に伝承 44年の「勘」をデジタル化

 レーザーが当たると、金属の粉末がいくつもの四角形を描いて積み重なり、凹凸のある部品ができあがる。新潟県刈羽村にある従業員約170人のバルブメーカー、日本ドレッサーの工場では、大型の3Dプリンターが昼夜を問わず動き続けている。

 「熱を加えると、どう変形しますか?」。図面を手にした設計担当の三橋栄治さん(39)が尋ねると、顧問の田代為常さん(67)は「この材料は縮むので、少し大きめにつくろう」と応じた。田代さんはバルブづくり一筋44年。この会社の競争力を支えてきた「職人」の一人だ。

 その田代さんの職人技を、三橋さんがつくる設計図を介して3Dプリンターに学ばせている。親会社の米ゼネラル・エレクトリック(GE)から1年前に導入されたものだ。国内の製造業の働き手は減る一方。高齢化する職人たちの技術をどう伝承していくかが課題のひとつだった。

(朝日新聞デジタルより)

 日本のモノ造りを支えて来た職人の技を伝承しなければならない。私も同じ危機感を持っている。しかし職人の勘を3Dプリンターに学ばせると言うのは、違和感を持つ。

「熱を加えると、どう変形しますか?」
「この材料は縮むので、少し大きめにつくろう」
この会話は、多分非専門家の記者の理解だろう。熱を加えて縮む材料をバルブに使用しているとは思えない。例えば、加工中に熱が発生するので穴径は加工後縮む、と言う意味だろう。
確かにこれも職人の勘には違いない。しかしこのような問題はコンピュータでシミュレーション可能だ。職人は経験により一瞬の判断で収縮後の穴径が図面通りとなる様にドリル径を選択できる。コンピュータは時間はかかるがより正確にそれを計算できる。従ってコンピュータシミュレーションの結果を使い完成図面を加工図面に置き換えれば良いはずだ。

職人の真価は他にあると思っている。

同じくバルブを生産している佃製作所(池井戸潤「下町ロケット」・笑)は、手で加工する技術が高く、高性能なバルブを作る事が出来る。こういう技術は長年の積み重ねが必要だ。
長年の鍛錬によって磨かれた「巧みの技」がなければ、ディジタル化した「勘」も実際に加工が出来ない。こういう「巧みの技」を残せるのは日本しかないと思っている。

巧みの技を持っている中小零細企業が後継者難により、廃業せざるを得ないと言う事例があると聞く。日本の産業の財産が失われていく様な焦燥感を感じる。


このコラムは、2016年1月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第457号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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