月別アーカイブ: 2020年2月

太陽の役割、月の役割

「太陽と月はどちらが偉いか」
「太陽は明るい昼間しか照らさないが、月は真っ暗な夜を照らしてくれる」

なるほどと感心する。明るい昼間を照らしても無駄だ。ならば暗い夜を照らしている月の方が価値がある。

下村湖人の書籍に出てきた言葉だ。
「青年の思索のために」下村湖人著

しかし御巣鷹山日航機墜落事故を題材にした推理小説「クライマーズ・ハイ」にはこうある。
「月は太陽がなければ輝かない。月を輝かせるのが太陽の役割」

「クライマーズ・ハイ」横山秀夫著

太陽が明るい昼間を照らしているのが無駄である、という論は、太陽が明るい昼間を作っているのを忘れている。しかも暗い夜を照らしている月は太陽に照らされて輝いている。

目に見える活躍だけに着目し、本来の役割を見失うと同じような過ちが発生する。

昼行灯のような職員が休暇でいなくなると、急に職場が暗くなる。
老害と思っていた年寄りが定年退職すると、仕事が回らなくなった。
何の役に立っているかわからない部品をコストダウンで外したら不良が増えた。
訳の分からないコードを削除したら、プログラムが動かなくなった。

あなたの周囲にも太陽と月問題が潜んでいないだろうか(笑)


このコラムは、2019年7月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第851号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

君子は義を以って上とす

yuē:“jūnshàngyǒng(1)?”
yuē:“jūn(2)wéishàngjūnyǒuyǒngérwéiluànxiǎorényǒuyǒngérwéidào。”

《论语》阳货第十七-23

(1)勇:勇気
(2)义:正義

素読文:
子路しろわく:“くんゆうたっとぶか。”
わく:“くんもっじょうす。くんゆうりてければらんす。しょうじんゆうありければとうす。”

解釈:
子路が「君子は『勇』を尊ぶか?」と孔子に問う。
孔子は答えて曰く「君子は『義』を重視する。君子に『勇』があり『義』がなければ、反乱を起こす。小人に『勇』があり『義』がなければ盗賊になる」

君子たるもの『義』がなければならない。その上で『義』を貫く『勇』が必要。

作業の標準化

 製品の品質や生産性を均一にするために作業の標準化は欠かせない.
その標準作業手順を文書化したのが作業手順書とか,作業指導書などと呼ばれているものになる.

殆どの工場には,優劣の差はあっても作業手順書の類はある.
しかし今全く作業手順書を持っていない工場を初めて指導している.製造現場に唯一あるドキュメントは,製品の分解図でありこれは作業者向けとは言いがたい.明らかにエンジニア向けである.

この工場では,そのエンジニア向けの図面を班長さんが作業者向けに噛み砕いて作業指導をして生産している.したがって班長さんの力量によって生産性が変わってしまう.

また作業指導が十分でないところについては,作業者ごとにやり方が変わっている.
例えば狭いスペースに部品と配線を押し込むようにして組み立てなければならない製品がある.この作業がネック工程になっており4人の作業員で分担しているが,全員が違う作業方法で作業している.したがって出来上がりの製品は4種類の異なる配線経路を持っている.

また班長さんごとに,経験値が違うのでラインごとに違う作業方法を取っている.これで製品の品質や生産性に大きなばらつきが出ている.

実はこの工場にも以前は作業手順書があり,工程順を決め,その工程ごとに写真入りの手順書を作っていたという.しかし4000品目もある製品の手順書を造りきれずに途中で断念し,分解図だけで生産する方法を選んだようである.

一人の班長さんに,こういう状況をどう思うか?とたずねてみた.
彼曰く,
作業の生産性や品質を決めるのは作業員の「心態」(中国語で意識とか精神状態の意味)である.作業標準を勝手に決められてしまうと,現場の変動に合わせられない.

言うことは立派だが,偉そうなことを言う前に製品の品質と作業員の生産性を均一にしなさいと言いたい.

この工場では,製品は班長さんの「暗黙智」で生産されているといって良いだろう.暗黙智は他の班長さんや作業員と共有する事が出来ない.暗黙智は「形式智」に変換することによって始めて他者と共有する事が出来る.暗黙智を形式智に変換したものが標準作業手順だ.

全く標準作業手順書を作った事がない人たちに指導をするのは易しい.教えれば良いだけだ.
しかしこの工場のように一度挫折した人たちに,標準作業手順の重要性を説いて再度作業手順書を作らせるのは骨が折れる.

まずは品質と生産性に重要なインパクトを与えるところから,簡単に作業手順書もどきを作って教えてゆこうと考えている.


このコラムは、2009年1月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第77号に掲載した記事です。

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完結編・不況の処方箋・高品質

【今週のお題】不況の処方箋
不況に打ち勝つため,高付加価値にするための工夫やアイディア

【私のアイディア】
本編では

  • 高品質にこだわることにより,顧客での受け入れ検査省略などの付加価値を付ける.
  • 顧客が部品を生産現場に投入する時の利便性を考えて梱包形態を変更する
  • 次世代売れ筋商品(高付加価値商品)の生産技術開発
  • 顧客心理を捉えた接客

などのアイディアと書いた.

別の切り口から考えてみよう.

「オーラを造りこむ」
モノにはモノそのものが持つ機能や価値以外にモノから発せられるオーラがある.造り手のモノづくりの思いを込めてオーラ造りこむ.モノづくりのストーリィそのものが,広告になる.
例えば岡本雅行さんの「痛くない注射針」はそのモノづくりの技術もすごいが,その完成ストーリィを聞くと,思わずその注射針で注射してほしくなる(笑)

これも「付加価値」になると思うがいかがだろうか.

【S様のご意見】
違う視点で考えることができ、ためになっています。
品質管理畑を長年やっていたため、中々アイデアがありません。
QCD以外の観点がないか?もう少し考えてみたいと思います。

S様いつもご投稿ありがとうございます.
品質管理屋だから思いつく付加価値もあると思う.
Qに関して言えば,顧客が受入検査を省略できる製品というのは「高付加価値」と言ってよいだろう.
Cに関してはメーカ側の都合なので,顧客にコストで「高付加価値」を提供するのはちょっと難しいかもしれない.むしろ「高付加価値」によりコストにかかわらず高値で売れる製品・サービスを考えたい.
Dは業界の常識を超える短納期を提供できればそれが「高付加価値」になる.

【K様のご意見】
自社製品やサービスの付加価値を上げるための工夫ですが、私の工場では全ての客先に対して同じ品質管理をしています。日本の本社以外の独自の仕事もしているのですが、ヨーロッパ系の客先からの品質要求は厳しくありません。
しかし、日本の客先と同じ品質管理で生産をしています。工数はアップしますが、製品の付加価値を上げる為に、厳しい基準での生産を行なっています。
このおかげでこの客先からのクレームは全然発生していませんし、新たな受注にも繋がっています。以上、ありきたりな内容ですが、投稿させて頂きます。

 ありきたりと謙遜されているが,普遍的な考え方だと思う.
中国で車を買う場合,購入費用が高くても国産車より日本車を選ぶと言う人は増えている.メンテナンスなどの生涯コストを考えると,日本品質の車を買ったほうが 安くなるからである.
日本品質が世界品質だと思われる時代が来るに違いないと思っている.
日本の自動車メーカは更にその上で,ヨーロッパ車のような「高くても乗りたい」というオーラを持った車を開発できれば,鬼に金棒だ.


このコラムは、2008年12月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第71号に掲載した記事です。

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完結編・現場の工夫を引き出す

今週のメルマガでは,現場の工夫を引き出す方法について書かせて頂いた.

【私のアイディア】
工夫に考案者の名前をつけることにより,「名誉」を感じさせる.

ポイントは
・楽しくやること
・即実行して効果を感じさせること
・ただで出来る(笑)
だと考えている.

【Y.H様のご意見】
古くからある方法ですが、やはり改善提案です。
そして、職長がいいと思った内容はすぐに導入してみる(テスト的でもOK)。
そのあとの水平展開については職長以上の人間の責務。

おおげさに改善提案大会とかして、賞金どうこうというよりも、提案したことがいい内容ならば、すぐにテスト的にでも実施してもらえることの方が、賞金とかなくても、パートさんとか工員さんのモチベーションはあがると思います。

改善提案制度を利用するのはよい手だと思う.
すぐ導入することにより提案者の工夫が認められた事を感じてもらう.
賞金よりも自分の工夫が認められることによるモチベーションのアップ.
中国ではお金がまず第一だというご意見も多いが,人から認められるという喜びを理解させると,改善のモチベーションが上がるはずだ.

【H様のご意見】
改善提案制度を導入する.
あらかじめ改善効果の○○%を賞金とする事をきめておく.

H様のご意見は中国人スタッフのやる気を金銭で引き出そうという考えだ.
こういう考えも有効だと思うが,しかしお金は「麻薬」と同じで続けているうちに効果が落ちてくる.そして更に強いドラッグが必要になってくる.という点にも気を使っておいたほうが良いだろう.

【T様のご意見】
工夫による改善を「改善前」と「改善後」の写真と一緒に,目立つところに
張り出すというのはどうでしょうか.

写真により改善の効果が良く見える.その事例を見た人たちも自分のラインに応用する事が出来る.という効果が期待できるだろう.
改善の水平展開を図るときには他の人間が成果を出して評価されているのを見せれば,皆それを取り入れるようになるだろう.


このコラムは、2008年12月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第69号に掲載した記事に加筆しました。

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現場の工夫を引き出す

 モノ造りにおいて,与えられた道具をそのまま使わない,何らかの工夫を入れて道具を使うという姿勢が重要だ.匠と呼ばれる職人さんたちの道具には全て工夫がある.工夫を道具に与えて初めて道具を使いこなしているといえるのではないだろうか.

中華系工場の生産現場を見ていて感じるのは,設備・道具をきちんと使いこなせているところが少ない.与えられた設備・道具の本来の機能を維持することすら難しい.いい加減な日常点検やメンテナンスでは高価な日本製の設備を導入してもすぐに使えなくなってしまう.

日系の工場に行くと,旧式の設備をきちんとメンテナンスをして使いこなしているところが多い.中には設備の年式の古さを自慢げに大きく表示している工場もあった.
同じ中国人が作業をしていても,きちんとした指導で設備の可動率はぜんぜん変わってしまう.

この日常点検・メンテナンスで設備・道具の機能をきちんと維持するのは基本だ.更に設備・道具に現場の工夫を入れてゆかねばならない.

中国人のメンタリティでは,設備を保守する人,設備を工夫・改善する人,設備を使って作業する人は全然別の人種であり,相互に干渉しないことが「善」と考えているフシがある.

これを打開するために,こんな工夫をしている.
難しいことはあまり期待できないが,治具を使って生産する方法を思いついたり,治具の改善を思いついたりしたらすぐ褒めることにしている.そしてそれをすぐに実行に移す.その治具には「○○式治具」など考えた人間の名前をつける.「○○式治具」のすばらしさを他のラインなど全社に吹聴する.
こんなちょっと幼稚とも思える方法で現場の人間が自分も工夫してみようという気になる.

こういう仕事上の工夫は製造現場だけではない.
以前日本で仕事をしていた時も同じ事をやっていた.品証部の部下が面白い評価方法を考え付く
「〇〇マトリックス評価法」などと考えた人間の名前入りで名称をつけてやる.
この名称をことあるごとに使うわけだ.これで考えた本人もその気になるし,他の人間も工夫をしだす.

私はこんな一見幼稚な方法でもある程度成果が出せた.
皆さんは現場の工夫を引き出すためにどんな工夫をしておられるだろうか?


このコラムは、2008年12月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第68号に掲載した記事に加筆しました。

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ものづくり川柳

 生産管理システムを販売している会社が、モノ造りに関する川柳を毎年募集している。昨年優秀賞を受賞した一句に

「ドラマ見た 次の日みんな 阿部寛」

という川柳があった。
池井戸潤の「下町ロケット」のTVドラマを言っているのだろう。

【大田区の零細企業・佃製作所の下町ロケットシリーズ】
「下町ロケット」帝国重工のロケットエンジンに搭載されるバルブの開発
「下町ロケット・ガウディ計画」人工心臓弁の開発
「下町ロケット・ゴースト」自動変速装置の開発
「下町ロケット・ヤタガラス」農業用トラクターの変速機開発

下町零細下請け企業の開発をテーマに池井戸潤が書いた小説だ。
零細企業でありながら、その技術力によって大企業のエゴや悪事をはねのける。そんなストーリィに、読者(視聴者)は佃製作所の社長・佃航平(阿部寛)に感情移入するのだろう。

設計技術が優れている。製造技術が優れている。市場規模が小さい。
この三つが重なったエリアで、零細企業は戦いを挑む。

零細企業と言えど、範囲を限定すれば設計技術・製造技術で他社に負けない分野があるはずだ。そして市場規模が小さければ、大企業は参入してこない。

逆説的な言い方になるが「弱者の強み」が「佃品質」「佃プライド」なのだと思う。

余談だが「下町ロケット」シリーズは朗読サービス(Audible)で聞いた。
朗読サービスのメリットは、移動時間にも読書(聴書?)ができることだ。


このコラムは、2019年5月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第828号に掲載した記事に加筆しました。

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いろれいにしてうちじん

yuē(1)(2)érnèi(3)rěn(4)zhūxiǎorényóu穿chuānzhīdào(5)

《论语》阳货第十七-12

(1)色:うわべ
(2)厲(厉):威厳がある
(3)内:内心
(4)荏:意志が弱い
(5)穿窬之盜:壁に穴を開け、塀を登る盗賊

素読文:
わく、いろはげしくしてうちやわらかなるは、これしょうじんたとうれば、それ穿せんとうのごときか。

解釈:
見かけは威厳があっても内心軟弱な人間は、小人に例えればコソ泥のようなものだ。

小人の反対が君子だとすれば、君子はいろじんにしてうちれい「人当たりは良くても、心の中では自己の理想を貫く人」となるでしょうか。