月別アーカイブ: 2020年10月

鉄道輸出の誤算

“日本の技術の粋を集めた鉄道車両。国内需要は鈍り、車両メーカーは海外展開に力を入れる。だが最近は苦戦が目立つ。”

朝日新聞「経済+」の記事だ。
鉄道輸出の誤算:上 「あうんの呼吸」日本流通用せず
鉄道輸出の誤算:下 車両も保守も、総合力に課題

世界の列車メーカのシェアは以下のようになっている。
1位:中国中車(中国)
2位:シーメンス(ドイツ)
3位:ボンバルディア(カナダ)
4位:アルストム(フランス)
5位:ゼネラル・エレクトリック(アメリカ)
6位:日立製作所(日本)
7位:現代ロテム(韓国)
8位:シュタッドラー・レール(スイス)
9位:トランスマッシュ(ロシア)
10位:CAF(スペイン)
11位:川崎重工業(日本)

中国は中国国内のシェアが大きく、輸出は10%程度のようだ。

日本は国内市場が限られており、事業を維持・拡大するためには海外市場に出なければならないが、苦戦が続いているようだ。

川崎重工業は採算悪化に苦しんでおり、今後米国で取引の経験のある顧客向けに集中する。
日本車両製造は昨年、米国工場を閉鎖した。赤字の要因となっていた米国案件は独大手シーメンスが引き継いだ。
日立製作所は欧州での受注を広げてきた。今後は米国事業も強化する。

日本勢が振るわないのは、海外顧客との仕様の取り決めに遺漏がある。海外の仕入先、工事業者との意思疎通が不十分。などが大きな原因のようだ。

日本の製造業の強みは「すり合わせ」であると言われてきた。設計と製造、製造部門内あるいは顧客、仕入先、工事業者などとの協業が相互の溝を埋めるように出来ていた。ところが海外に出ると、言語的な障壁以上に「阿吽の呼吸」とも言える「すり合わせ」がうまくゆかず、手戻りによるコストロスや納期の遅延が発生し収益性が悪化しているようだ。

日本という国は「均一性」で調和するように出来ている。
「アレをいつもの様に」というだけで話がついてしまう。

しかし世界は「多様性」の中で調和しなければならない。
何ページもの詳細な仕様書で顧客の要求を確認しなければならない。
詳細な作業指示書がなければ、製造品質は保証できない。

残念ながら世界のやり方が標準であり、日本だけが特殊だ。
日本国内の市場は、どんどん小さくなっていく。その環境で成長するためには世界に出るしかない。日本の「特殊能力」を捨てることはないと思うが、世界標準で戦えるようにならなければならない。


このコラムは、2019年7月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第856号に掲載した記事です。

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相関関係と因果関係

 先週は散布図と相関係数を解説する動画をyoutubeに投稿した。

QC七つ道具:散布図 相関係数

散布図の書き方と相関係数の計算方法を解説した。
動画投稿後に大切なことを言い忘れていることに気がついた(苦笑)
因果関係にある事象は相関があるが、相関関係にある事象は因果関係がある訳ではないと言うことだ。

相関関係:二つの事象の増減の関係
因果関係:原因と結果の関係

因果関係があれば相関関係がある。
しかし相関関係があっても因果関係があるとは限らない。

相関関係があるが因果関係がない場合は次の例が有名だ。

統計データでは、アイスクリームの売り上げと森林火災件数に相関関係がある。すなわちアイスクリームの売り上げが上がると森林火災の件数も増える。アイスクリームの売り上げと森林火災を因果関係の文脈で言い換えると以下の様になる。
「アイスクリームの売り上げが上がったから森林火災が増えた」
「森林火災が増えたからアイスクリームの売り上げが上がった」
明らかにおかしい。

この事例ではそれぞれ別の因果関係があり、相関関係が発生している。

  • 気温が高いとアイスクリームの売り上げが上がる。
  • 夏季は気温が高く、乾燥しているので森林火災が発生しやすい。

例えば、国ごとのスマホ決済の普及率と財布の売り上げは相関がありそうだ。
スマホ決済が普及したので、現金が不要となり財布の売り上げが下がる。因果関係もありそうだ。

中国では鉄道、タクシーなどの交通機関、町の定食屋、屋台の果物売りまでスマホ決済が可能だ。そして財布を持っている人もほとんどいない。
相関関係も因果関係もありそうだ。
しかし中国では、スマホ決済が一般的になる前から財布を持っている人は殆どいなかった。


このコラムは、2020年7月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1004号に掲載した記事です。

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続・那覇空港ヒヤリハット事故

 2015年6月3日那覇空港で発生した自衛隊ヘリコプター、ANA、JTAの旅客機の重大インシデントを2015年6月15日配信のメルマガ第428号で取り上げた。

那覇空狐ヒヤリハット事故

離陸のため滑走路をタクシング中だったANA機の前方を、自衛隊ヘリコプダーが横切り、ANA機が緊急停止。ANA機離陸後に着陸予定だったJTA旅客機が、ANA機の前方に着陸した重大インシデントだ。一歩間違えればJTA機、ANA機が激突という大惨事となるところだった。

たまたま過去の記事を見ていて、本件に対し運輸省事故調査委員会はどの様に事故原因を特定したのか興味を持ち事故調査委員会の報告書を探して見た。2017年4月27日発行の「航空重大インシデント調査報告書」(AI2017-1)が見つかった。

重大インシデント発生の直接原因となったのは、

  • 自衛隊機はANA機への離陸許可を自機への許可と取り違えた。
  • 管制塔と航空機間のVHS無線通信のAGC(自動倍率制御)機能により自衛隊機の復唱が管制官に聞こえなかった。
  • 自衛隊機がタクシング中のANA機を発見するのが遅れた。
  • 管制官のJTA着陸機へのやり直し指示が遅れた。

その背景に、新人管制官の指導中だった管制官がギリギリの管制を新人に体験させたいと考えていたことを挙げている。またJTAでは着陸やり直しのシミュレーション訓練が行われていなかったことも機長が着陸復行ができなかった要因として挙げている。
根本的な原因として那覇空港が、民間航空会社と自衛隊の共用であるるため、離着陸の頻度が高いことが挙げられるだろう。

私たちがこの事例から学ぶことは

  • 安全が最優先されるべき。
  • 指示復唱の徹底。

復唱は「了解」「わかりました」の類では不十分だ。指示の内容を理解していること(重要度、緊急性、方法など)を確認しなければならない。したがって指示を出す側も、上記の点を明確に指示しなければならない。


このコラムは、2020年8月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1015号に掲載した記事です。

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続・京急脱線事故

 昨年9月5日、横浜市神奈川区の踏切内で京急電鉄の電車とトラックが衝突。電車は脱線横転。死者1名、重軽傷者30名の大事故が発生した。

京急脱線事故

本件に関して、運輸安全委員会は調査継続中であり2020年10月4日現在まだ事故原因報告書は公開されていない。

事故発生経緯は以下の通り。
道に迷った大型トラックが狭い道から右折して踏切に進入。曲がりきれずに、踏切から脱出するため切り返しを繰り返しているうちに列車と衝突した。列車は前方3両目まで脱線横転した。

この事例の根本原因は大型トラックが線路脇の細い道に迷い込んだ、という事だ。運輸安全委員会は調査で、トラック運転手から聞き取りをしているはずだ。非常に興味があり、いろいろ調べてみた。ネットを検索してわかったことは、横浜の人たちは道路名を次のように略称で呼ぶそうだ。
「イチコク」:国道15号線(第一京浜道路)
「ニコク」 :国道1号線
トラック運転手は、積み荷を受け取った(または降ろした)後次の目的地に行くために、倉庫の人に道を聞いたのではなかろうか?そこで「イチコク」に出て〇〇方面に……と教えらる。本来国道15号線に向かわなくてなならないところを国道1号線方面に行ってしまった。ということではなかろうか?

運輸安全委員会の報告書が出れば、仔細は判明するだろう。
しかしこのミスは我々にも無関係ではない。聞き間違いや部署内の符牒が原因となり思わぬミスが発生する可能性はある。

以前イチョウの実(銀杏に果肉がまだついている状態)を拾った人に「かぶれますよ」と注意したら、イチョウの実をかぶりついたことがある。関西弁では「かぶる」は「かじる」の意味だとその事件で知った。
落語にも、客と見習い古物商のやりとりで「その股引ちょっと見せてくれ」という客に対して「これはションベンできないよ」と答えるくだりがある。
ものづくりの現場でも色々な符牒、隠語がある。「ネジの頭なめちゃった」「ネジをかじった」などと言われて驚く人もいるだろう。

【注】
落語の「ションベン」は返品の意味です。
「最後はちょっとケツをまくっといてくれ」と女性に言ったら気分を害されるに違いありません。


このコラムは、2020年7月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1012号に掲載した記事です。

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無能を憂い無名を憂えず

yuē:“jūnbìng(1)néngyānbìngrénzhīzhī。”

《论语》卫灵公第十五-19

(1)病:気に病む、心配する。

素読文:
いわく、くんのうきをうれう。ひとおのれらざるをうれえざるなり。

解釈:
君子たるものは自らが無能であることを憂う。しかし人から認めてもらえないことには憂えない。

バスケットシューズ

 スポーツ用品大手ナイキの「大失態」が米メディアをにぎわせている。米大学バスケットボール界のスーパースターが20日の試合で、履いていた同社製シューズが壊れたため膝を痛めて負傷退場。全米に衝撃を与えた影響で同社の株価が急落し、ロイター通信は21日の時価総額への影響を約14億6千万ドル(約1621億円)とまで算出した。

 負傷したのは男子の全米大学体育協会(NCAA)1部デューク大のエースで、プロのNBAで抜群の人気を誇るレブロン・ジェームズ選手の再来との呼び声も高いザイオン・ウィリアムソン選手。有名校との黄金カードで、靴底がはがれたために足を滑らせて転倒した。

(共同通信)

 バスケットの試合中にシューズの靴底が剥がれ、転倒。選手が怪我をした、というニュースだ。記事ではナイキの株価が急落したとあるが、2月27日には終値で86.17USDを付け2月の高値を更新している。

事故の翌日の終値は83.95USD前日の終値84.84USDから1.1%下落したが、27日の終値で2.6%上げている。市場は報道より冷静の様だ。

ナイキは過去にタイ工場で若年労働者を雇用し不祥事を起こしている。
おかげで当時顧客から中国工場の安全衛生管理監査を受ける事となった(苦笑)
その監査で工場玄関に掲げた「女工募集」の横断幕が、男女雇用均等の精神に反していると指摘を受けた(苦笑)

すでに10年ほど前になるが、スポーツシューズはナイキだろうがNBだろうが1足60元程度だった。もちろん中国製の偽物だ(笑)
エアークッションがついたナイキもどきのランニングシューズを使っていた。エアークッションに穴があきエアーが抜けた。そして程なく靴底がパックリと剥がれた。ランニングマシンで躓いた程度で怪我などしなかったが、相当恥ずかしかった(笑)

スポーツシューズメーカの大方は、すでに中国での生産を撤退しているだろう。ニュースの当該シューズはベトナム生産ということだ。

ネットの情報を見ると、怪我をした選手よりナイキに同情的な論調だ。

  • トップ選手なのに1万5千円程度のシューズを履いていた。
  • 身長、体重ともに大きな選手なので靴に負荷がかかりすぎた。
  • 三週間も同じ靴を履くなんて非常識。

どうも私の常識とは別世界の様だ。バスケットシューズを履く選手の体格が大きいことは想定範囲だろう。もしプロユースに使って欲しくないのならば、それなりに機能・性能を加減して設計し、その様に宣伝すべきではなかろうか。もちろん「アマチュア仕様」などとうたって宣伝することはない。逆に高機能モデルに「プロ仕様」と宣伝すれば良いだけだ。
こうしておけば、プロ選手がヤワな靴を選ばなくなるし、マニアがプロ仕様を喜んで買うのではなかろうか?


このコラムは、2019年3月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第793号に掲載した記事です。

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地下鉄脱線事故

 6月1日夜に発生した横浜市シーサイドライン自動運転列車逆走事故を先週配信のメールマガジン835号「列車逆走事故」で取り上げた。

「列車逆走事故」

6月6日早朝に横浜市地下鉄ブルーラインで脱線事故が発生した。
新聞記事に事故原因が公表されている

「点検作業、手順書なし ブルーライン脱線事故」
  横浜市営地下鉄ブルーラインの脱線事故で、横浜市交通局は近く事故調査委員会を局内に立ち上げる。保守作業員が「横取り装置」と呼ばれる器具を点検した後、線路上に置き忘れた初歩的ミスが原因とみられるが、現場ではこの器具の点検に関する手順書がなく、作業時の役割分担があいまいなことも判明。組織や職員の意識の問題点を洗い出し、再発防止につなげる。
 (以下略)
全文

朝日新聞ディジタルより

記事によると、夜間保線作業に使った「横取り装置」を本線上に置き忘れた。そのため、始発列車が横取り装置に乗り上げ脱線した。という経緯の様だ。

横取り装置とは、工事用車両が側線から本線に乗り入れるための分岐装置だ。レール脇に設置されており、使用時には固定ピンを外し本線側に接続する。固定ピンを外すと回転灯とブザーが警報を発生する仕組みになっている。

本来横取り装置が本線につながっている間は、固定ピンを外したままにする様設計されていたのであろう。しかしこの作業時には固定ピンを戻し警報を止め、作業終了後も横取り装置の撤去を忘れてしまった。

固定ピンは、横取り装置の外し忘れ防止の「ポカ避け」として設計したのだと思われる。しかしその設計意図が現場に伝わっていなかった。もしくは警報音がうるさいので故意に固定ピンを戻した。といういわゆる「人為ミス」だ。

新聞記事には保守管理所は3ヶ所あり、事故を起こした保守管理所だけが作業手順書を作っていなかった、と書いてある。しかし「作業手順書」がないのが原因ではなく「標準作業」を決めてないのが原因と考えるべきだろう。

通常生産現場では、設備治具の設計者が標準作業を決めているだろう。従ってポカ避けの設計思想がきちんと現場に反映される。さらに標準作業が遵守され、それを確認する作業を織り込んで作業手順書を作成する。作業手順書は実際に作業をする側で作成するのが通常だろう。

今回の事例では横取り装置の標準作業は装置の設計部門で作成。その手順書は保守作業部門で作成する。とするのが合理的の様に思う。標準作業には固定ピンの役割(ポカよけ)が明示してあり、固定ピン脱着のタイミングが明確に規定してある。
手順書には、標準作業に従った作業の手順と確認方法が規定してある。

生産現場でも、生産技術が開発した設備・治具に関する標準作業は生産技術が作成。その作業手順書は製造部門が作成。標準作業と作業手順書に矛盾がない事を品質保証部門が確認。

煩雑な役割分担の様に見えるが、設計思想をきちんと現場に伝え、現場は自分たちがやりやすい作業手順を決めることができる。


このコラムは、2019年6月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第838号に掲載した記事です。

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