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トヨタ、中国で乗用車68万台をリコール 窓の開閉装置に不具合

 トヨタ自動車は24日、中国で乗用車約68万8000台をリコールしたことを明らかにした。窓の開閉スイッチに不具合があり、熱が発生して部品が損傷する可能性があるという。リコールは現地時間23日の11時に発表した。

 リコールの対象となったのはカムリ、ヤリス、カローラ、ビオスの一部。同社広報によると、窓ガラスの開閉スイッチ設定部にグリースが多く塗布されたことが原因。

(NIKKEI NETより)

 東莞市ローカルタブロイド紙の25日付記事でリコールを知った.68.8万台のリコールというのは中国でも最大規模の回収となった.

スイッチ部分にグリースを塗布するというのが理解できない.
グリース類はスイッチハウジング,ノブなどのプラスチックに悪影響を与え,比較的短期間でプラスチック部品がクレージング破壊を起こす.プラスチック部品やその近くに潤滑油などの油脂を塗布することはまれだ.どうしても必要な場合は,耐クレージング性の高いPOMなどの材料を使用する.
中国ではパワーウインドウの開閉ができなくなっているタクシーにしばしば乗り合わせる.窓の開閉不良など致命故障ではないという考え方だろうか.
後部座席の左側扉が内部から開閉できず,運転手に右から下りろと言われたこともある.

中国の国産車がこの程度の品質なので,故障に対しては比較的寛大な受け止め方をしているように感じる.

日本車は販売価格が高くても,故障が少ないので維持費を含めた総コストは日本車のほうが安くなる.と多くの人が信じているようだ.

今回のリコールに対する地元紙の論調は,「サービスセンターに持ち込めば15分もあればただで修理してくれる」と友好的な記事になっている.今のところ一時期の日本製品バッシングのような動きはなさそうだ.

下手に隠し立てなどするとこうは行かないだろう.
品質保証は「正直が一番」というのが私の信条だ.


このコラムは、2009年8月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第114号に掲載した記事に加筆したものです。

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三菱重工製エアコン6機種に発火などの恐れ

 経済産業省は21日、三菱重工業製のエアコン室外機が焼ける火災が6月に鳥取県と愛知県で起きたと発表した。同社は経年劣化による発煙・発火の恐れがあるとして、76~81年に製造された一部機種について使用を中止するよう呼び掛けている。

(asahi.comより)

 この記事だけでは,原因が何かまったく分からない.
一般の消費者に対しては,事故の可能性があることを知らせ注意を喚起すれば十分だろう.しかし「当事者」になってしまう可能性があるものづくりに関連している人たちには,不十分だ.事故の原因を知らせ,水平展開を図る情報提供があってもよいだろう.

ということで製品評価技術基盤機構(NITE)のホームページで類似の事故を調べてみた.以下の事故情報がヒットした.

  • 事故内容:エアコンを使用中、突然ブレーカーが落ちた。
  • 事故原因:室外機の内部配線が、冷媒配管と防音材に挟まれていたため、運転中の振動により配線の被覆が摩耗し、露出した芯線が配管に触れて漏電したものと推定される。

ここまで書いてあると,この情報から「未然防止対策」を考えることができる.
具体的には内部配線の経路や固定方法を検討する際の「べからず集」を作ることができる.

さらにこの事故を抽象化して適用範囲を広げる.

「出荷後の動作環境で発生する絶縁不良」という抽象化をすれば,ケーブルによる配線だけではなくプリント基板の配線パターンとプリント基板上に実装された金属部品間の接触も考慮の範囲になる.

また「出荷後の動作環境」は振動による機械的磨耗だけではなく,経年変化による絶縁材料の劣化も対象になる.

高い勉強代(不具合損失)を支払う前に,他山の石を徹底的に学習するのがよいだろう.


このコラムは、2009年8月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第113号に掲載した記事に加筆したものです。

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LG洗濯乾燥機から出火、さらに2件 リコール公表後

 LGエレクトロニクス社製のドラム式洗濯乾燥機から出火する火災が、7月に東京都内で2件発生したことが、東京消防庁の調査でわかった。同型機は3件の火災が起きたとしてリコール(無償交換)されたが、今回の2件はいずれもその後に起きた。これまで回収できたのは販売台数の4分の1にとどまる。同庁は「重大な火災につながるおそれがあり、使用をやめて早く交換を」と呼びかけている。

 同庁によると、7月28日午前10時ごろ、豊島区のマンション1階の部屋で、同型機やブレーカーが焼け、周囲の壁も焦げた。29日午前11時ごろには、台東区のビル1階の診療所で、同型機が焼けた。いずれも接続不良から過大な電気抵抗が生じて発火したという。

(asahi.comより)

 事故写真を見ると洗濯機の操作パネルの部分が激しく焼損している.記事では「接続不良」としか書いていないが,コネクタ部分の接触不良,ケーブルとコネクタのカシメ部分の接触不良,半田クリープによる半田接合点の接触不良などが考えられる.

いずれも工場の製品検査では発見できない厄介な不良である.

接続部分に接触不良が発生すると,接触抵抗(r)が大きくなる.接触抵抗が大きくなるとそこに流れる電流(I)によってr×I^2の電力損失が発生する.この電力損失はほとんどが熱になる.

この場合動作電圧が低ければ接続部分に流れる電流は大きくなり,接続不良による電力損失=発熱も大きくなってしまう.したがって5Vとか3Vの低圧回路のほうが危険な場合が多い.回路電圧が低くても危険な場合もある。

難燃材料を使っていても安心はできない.
空気を遮断した状態で加熱が続くとプラスチックは徐々に炭化して行き,最終的には発煙・発火時を起こす.
火災につながる重大不良である.
製品検査で発見しにくくとも,製品保証をする必要がある.
設計による保証.製造方法による保証が必要だ.


このコラムは、2009年8月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第112号に掲載した記事に加筆したものです。

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続・ノウハウとノウホワイ

 先週は作業標準を現場の判断で改変して核臨界事故を発生させた事例を紹介した。
「ノウハウとノウホワイ」
今週も同様に作業標準の改変で発生した事故を紹介したい。

城島後楽園遊園地で発生した「スカイショット」(ゴムによって座席を上方に打ち上げる逆バンジー遊具)の事故だ。座席を吊るすワイヤーとゴムの連結部はねじ止めされており、ねじのゆるみを防ぐために割りピンが使われていた。割りピンは、ねじ軸のピン穴に通し折り返して固定する。割りピンは折り返すため、交換すると再利用出来なくなる。メンテナンス作業を効率化するために、割りピンをスナップピンに変更した。スナップピンとはピン材料の弾性を利用し、脱着が可能となっている。一般的には「β」の形をした形状になっており、ベータピンと呼ばれている。

参考:ベータピン(事故事例の物ではありません)

何度も使用している間に、ピンの弾性が弱くなり抜けてしまったのだろう。
当然メンテナンス要員は、安全が第一であり、安全と効率をトレードオフするべきではない事は知っていたと思われる。しかしベータピンが緩んでしまう事を想定出来なかったのであろう。(判断のミス)

「ゆるみ止めピンを交換する」と言うノウハウは分かっていても、ノウホワイが作業者に伝わっていなかった。

設計者は設計FMEAなどにより緩み止めピンの脱落と言う潜在リスクを把握しており、割りピンを使用し定期交換対象としていたはずだ。メンテナンスマニュアルにノウハウ(方法)だけではなくノウホワイ(理由)が記述されていれば、この事故は防げたはずだ。

設計FMEAは設計者だけのモノではない、メンテナンス作業にも展開すべきだ。設計FMEAで検出した潜在故障を、工程FMEAやメンテナンス作業にも展開する仕組みを作り、製造時、メンテナンス時にリスク管理が出来ているかどうかレビューするとよい。APQP(先行品質保証計画)のCP(コントロールプラン)にここまで記述してある例を見た事はないが、APQPをここまで深めておけばベストプラクティス事例になるだろう。

今回の失敗事例は「失敗百選」中尾政之著を参考にさせていただいた。


このコラムは、2017年5月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第529号に掲載した記事に加筆修正しました。

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ノウハウとノウホワイ

 先週は「悪意」による事故について検討した。今週は「悪意」ではないが、標準作業手順を遵守せずに発生した事故について検討してみたい。

日本で初めて原子力事故で死亡者を出した事例、東海村JCO臨界事故だ。
高速増殖炉の燃料製造工程で、標準作業手順が遵守されずに核燃料が臨界状態となり、多量の中性子線が発生。作業者3名が重篤な被爆を受けた。内2名は治療のかいなく死亡している。

核燃料の製造において、原料であるウラン化合物の粉末を溶解する工程では、標準作業手順では「溶解塔」という装置を使用すると定められていたが、現場ではステンレス製のバケツを用いるという裏マニュアルが存在した。しかも事故前日からは、更に作業の効率化をはかるため、裏マニュアルとも異なる手順で作業がなされていた。具体的には、濃度の異なる硝酸ウラニル溶液を混合して均一濃度の製品に仕上げる均質化工程において、「貯塔」という容器を使用するべきところを「沈殿槽」という別の容器を使用していた。

「貯塔」は臨界が発生しにくい構造に設計されていたが、用途が違う「沈殿槽」は容易に臨界が発生する構造であった。

その結果沈殿槽周辺の冷却水が中性子線の反射材となり、ウラニウム溶液が臨界状態となり大量の中性子線が放射された。

この事故は、現場で作業標準通りに作業がされず、裏マニュアルにより作業が行われていた事に原因がある。現場の監督職や作業員に「悪意」があったわけではなかろう。むしろ現場での作業改善により考えられた「ノウハウ」として裏マニュアルが存在したのだと推測する。

作業標準を定めると言う事は、改善の進歩を止める事になる。従って標準作業は改訂されなければならない。JOCの事例は作業標準の改訂方法に問題がある。製造現場が勝手に改訂をし、裏マニュアルが存在する事が、本事故の管理上の問題点だ。本来作業標準の改訂は、しかるべき組織の審査承認を経なければならない。

しかし現実問題として、なぜそのような作業手順が定められているのか判然としない事例もあるだろう。JOCではそのような事はないと信じたいが、普通の工場では、作業手順を定めた生産技術や設計の担当者が退職し、なぜその手順が定められているのか分からなくなっていると言う事もあるだろう。

作業標準は、作業をどのようにやるのかと言うノウハウが記述されている。更になぜその手順でやるのかと言うノウホワイも記述しておくべきと考えている。

以前生産委託先で、製品に貼付ける小さな表示シールの貼り忘れが発生した事がある。対策として梱包数量単位に表示シールの台紙を分け、表示シールを使い終わったら、製品と一緒に台紙をコンベアに乗せ梱包工程に送る事にした。梱包作業者は、台紙が来たら梱包箱が満杯になっている事を確認する。いわゆる「十点法」と言う定量管理によるシール貼り忘れの再発防止対策だ。

作業者から見れば、余分な作業が発生する。ノウハウと一緒になぜこの作業をやらねばならないのかと言うノウホワイをきちんと作業標準に入れておかねば、この対策はその内遵守されなくなる。

あなたの現場には、裏マニュアルや裏標準作業はないだろうか?
ノウハウとノウホワイが伝わる様になっているだろうか?

JCO臨界事故に関してはウィキペディアを参照させていただいた。


このコラムは、2017年5月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第528号に掲載した記事に加筆修正しました。

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横浜市大口病院点滴殺人事件

 昨年9月に入院患者2人が連続して死亡する事件が発生。捜査の結果点滴に消毒用の界面活性剤が入っており、界面活性剤による中毒死と断定。この事件は既に半年以上経過しているが、いまだに犯人が分かっていない。

点滴に使用しない消毒液が死因である事から、過誤による死亡事件ではなく、意図を持った殺人事件と判断されている。

犯人は誰かを考えるのは、このコラムの趣旨と反する。
失敗から学び自社で同様な失敗の発生を未然に防ぐ、という立場でこの事件を考えてみよう。

当然製造業で同様な事故が発生する事はない。
しかし悪意を持った者によって発生する事故はあり得る。
会社に不満を持った作業員が、不良品を出荷品に混ぜる。
設備の設定を変更し、大量の不良損失、又は設備の故障を発生させる。

この様な悪意による事故は、残念ながらあり得る。
こういう事故が発生する組織に共通するのは、従業員の職場に対する満足度が低いことだ。

過去に指導した工場で経験した事例は、春節前に退職を願い出たが、繁忙期のために退職を却下した事例だ。退職が認められればその月の給与は支払われる。しかし故郷に戻らねばならない事情がある者は、1ヶ月分の給与を諦め自主退社する事になる。そのような従業員が故意に不良品を出荷品に混入させた事がある。検査が終わった後で不良品を混入させれば、FQCの抜き取り検査で偶然サンプリングされなければ、そのまま出荷してしまう。

この様な悪意による事故を防止するには、職場の人間関係を改善するのが根本対策だと考えている。しかしそれだけでは不十分だ。人には弱い心を持った者もいれば、正しい心を見失う状況もあり得る。

悪い事が出来ない状態を作っておく事が大切だ。
作業の見える化とトレーサビリティが対策のキーワードとなる。

不良品混入の事例で言えば、検査合格品が工程内に滞留している状況をなくす。
不良品の員数管理、識別・隔離管理を徹底すれば、不良品を混入させる事が困難になるはずだ。

点滴事故の場合は、作業記録として録画をしておけば「抑止力」となる。
事故が発生した病院では、消毒液を有色のモノに変更したそうだが、これでは消毒液の混入は防げても、他の薬剤の混入は防げない。真の再発防止対策とはいえない。
薬局からの出庫記録、ナースセンターでの受け入れ記録および作業記録が、トレーサビリティの記録となる。

薬剤の発注、受け入れ、出庫、ナースセンターでの受け入れ、調合作業、患者への処置と工程を分割し、それぞれの工程で発生しうる不適合(潜在不良)を列挙し、それを防止する方法を検討する。
製造業の我々は、工程FMEAとして活用している手法だ。

こういう検討を事前にしておけば、「点滴の調合中にナースコールが発生する」ことにより作業を中断、作業再開時に間違える、という潜在問題が見つかる。このようは潜在問題に対して、事前に対応策を検討しておくことが可能となる。


このコラムは、2017年5月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第527号に掲載した記事に加筆修正しました。

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失敗ノウハウの蓄積

 メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】の「ニュースから」のコーナーは、ニュースの中から教訓となる不適合事例をピックアップして、その再発防止を考えるコラムとしてスタートした。
事例として取り上げた不適合事例・再発防止を抽象化することにより、自社に適用すれば同類の不適合事故を未然に防止することが出来るだろう。そんな思いで、市場回収事案、鉄道事故、不祥事事案などを取り上げ、原因を推定し再発防止対策を考えて来た。実際には当事者ではない私には真の原因を知る機会はなく、原因がこうならばこんな再発防止対策が有効になるのでは?と言うシミュレーションだ。こういう訓練を繰り返すことにより、現実に発生した不適合に対応する能力も高まると考えている。

自分自身の訓練になるとともに、読者様にも気付きの機会を提供出来たのではと自己肯定している(笑)

しかし問題も有る。
ニュースからそのような事例を探すのに非常に時間がかかる。メルマガのネタを探しているはずが、途中からネットサーフィンになってしまったりする(笑)

そこで次週から「ニュースから」のコーナーを「失敗から学ぶ」とタイトルを変え、ニュースにこだわらず、広く失敗事例から題材を選んで、記事を書こうと考えている。

もちろん読者様から事例をご提供いただくのも大歓迎だ。

痛い目に遭って学ぶ、と言うのは効果がある。人の行動モチベーションは痛みを避ける、快楽を求める、の二通りが有ると言う。当然痛い目にあった経験は二度と繰り返さない様に再発防止の努力する。こういう経験が失敗ノウハウの蓄積となる。

しかしこの学びには失敗によるコストがかかっている。他人が経験した失敗から学ぶことが出来れば、コストをかけずに未然防止が出来る。人の痛みから学ぶと言うことは、不謹慎だが快楽と言っても良かろう(笑)

しかし痛みの経験がない分、身にしみない。
他人の失敗から学んだ失敗ノウハウを蓄積する方法を持たねばならない。

私は自ら経験した失敗、他人の失敗から学んだことをFMEAの潜在不良の項目に追加すると言う方法をとっている。設計FMEAでも工程FMEAでもこの方法は活用できる。

FMEAを単なる飾りにしない様に、ノウハウをどんどん蓄積する器にしたら良いと考えている。このコラムが、読者様の失敗ノウハウ蓄積のヒントになれば本望だ。


このコラムは、2016年3月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第467号に掲載した記事に加筆修正しました。

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衛星「ひとみ」運用を断念 太陽電池パネルが分解か

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は28日、通信が途絶えていたX線天文衛星「ひとみ」の運用を断念したと発表した。電源の太陽電池パネルが根元から分解した可能性が高く、回復は見込めないと判断した。X線を観測してブラックホールなどの詳しい様子を調べる計画だったが、研究も停滞することになる。

 衛星は2月17日に種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられ、3月26日午後4時40分ごろから地上と通信ができなくなった。機体が複数に分解、回転していることが観測で判明していた。

 JAXAが原因を調べたところ、衛星の姿勢制御のプログラムが不十分で機体が回転。衛星は自動的に噴射で立て直そうとしたが、事前に送った信号に設定ミスがあり、逆に回転が加速した。このため、太陽電池パネルや長く伸びた観測用の台の根元に遠心力がかかり壊れたとみられるという。

 JAXAは当初、通信が途絶えた後も3月28日までは衛星からの電波を短時間確認できたとし、パネルが太陽の方向を向くようになれば復旧の可能性があるとしていた。しかし、電波は別の衛星のものだと判明したという。

 JAXAの常田佐久・宇宙科学研究所長は会見で謝罪し、「人間が作業する部分に誤りがあった。それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」と述べた。

 X線を観測して宇宙の成り立ちを探るX線天文学は日本のお家芸とされ、ひとみは6代目の衛星。米国などとの共同開発で、日本は打ち上げ費を含め約310億円を負担していた。

(朝日新聞電子版より)

 初代X線天文衛星「はくちょう」以来3代目「ぎんが」の活躍で日本はX線天文学の中心的役割を果たして来た。しかし、4代目「あすか」は制御不能。後継機は打ち上げ失敗。5代目「すざく」も故障。と言うていたらくだ。
しかも問題は「はやぶさ」の様に遥か彼方での探索ではなく、地球周回軌道でオペレーションが出来なかったことにある。今まで多くの技術蓄積が有る分野での失敗だと言うことを重く捉えなければならない。

記事によると、姿勢制御プログラム(もしくはパラメータ?)のミスと、姿勢制御の遠隔操作ミスが重なった為に衛星の回転が加速したようだ。プログラムのバグも操作ミスも、一括りにしてしまえば「人為ミス」だ。

二流の企業であれば対策として「人員の再教育」などいうだろう。
JAXA研究所長は「人間が作業する部分に誤りがあった。それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」といっている。

私には、この姿勢は正しいと思える。人のミスが原因としてしまえば、対策は困難だ。人のミスを発生しにくくする、ミスを事前に検出すると言う「全体のシステム」を改善しなければならない。

プログラムにはバグが有るのが前提だ。
いかにバグを事前に検出するか、バグが有っても致命故障にならない様に冗長性を持たせるか、と考えるべきだろう。
操作ミスも同様だ。操作ミスが起きる要因(間違えやすい、操作しにくいなど)を極力排除し、ミスが致命傷にならない冗長性を持たせる。

衛星と言う限られた資源の中で冗長性を持たせるのは困難かも知れない。しかしコントロールセンターにシミュレータを置き、操作結果がどうなるか検証してから、遠隔操作のコマンドが送られる様にする事は可能だろう。


このコラムは、2016年5月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第474号に掲載した記事に加筆修正しました。

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スピード出すぎる滑り台

スピード出すぎる滑り台、15人がけが…オープン前に使用禁止

 生駒山上遊園地(奈良県生駒市)にある滑り台で6、7両日、子ども約15人が頭に軽いけがを負っていたことがわかった。滑り台は、13日にオープン予定の有料ゾーンに新設され、子どもらはプレオープンに招かれていた。遊園地の運営を手掛ける近鉄は、当面は使用中止にするとしている。

読売新聞オンラインより

 記事によると、滑り台はチューブ形で長さ25メートル、高低差10メートル。負傷した子供達は滑走中に上部に頭をぶつけ、たんこぶや擦り傷ができた。スピードが出すぎて、体が浮き上がるなどしたことが原因と考えている様だ。

更に近くにある別のチューブ形の滑り台では、8日に女性従業員が試験的に滑った際、右足が引っかかるなどして骨折している。

遊具業界での評価手法に関して無知だが、今回の事故を「妥当性評価」で発覚した不適合と考えて見た。

まず安全性を考慮に入れて設計する。体格、体重などにより滑り台の諸元を決定るす。設計結果はシミュレーションや過去の知見などにより問題ない事を設計検証する。
完成した滑り台現物が設計諸元と一致している事を確認するのが、検証評価だ。
そのあと実際に使用して見て、設計時に想定できなかった使用法がないことを確認するのを妥当性評価という。
妥当性評価の最終段階では、実際に子供が滑って想定外の滑り方がないことを確認する。

記事だけでは判然としないが、安全性の検証評価が完了する前に妥当性評価を行ってしまった様に見受ける。

6、7日の事故が発生した時点で安全性検証をやり直すべきだった。しかし8日には女性職員が骨折する事故を発生させている。「骨折」と記事に書いてあるが「全治◯ヶ月の重傷」と表現すべき負傷なのではなかろうか?

13日の営業開始に合わせて、本来行わなければならない確認ステップを省略してスケジュールの遅れを挽回しようとしたのではなかろうかと疑念を感じる。

安全より優先すべきスケジュールなどない。


このコラムは、2019年7月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第850号に掲載した記事に加筆しました。

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粉じん引火か、幹部ら拘束 中国工場爆発、死者69人に

 中国江蘇省昆山市の経済開発区にある「中栄金属製品」の工場で2日朝に起きた爆発による死者は69人にのぼり、約190人が負傷した。工場で、これだけ大規模な惨事が起きることは中国でも珍しく、事態を重くみた習近平(シーチンピン)指導部は陣頭指揮のため、王勇・国務委員を現地に派遣した。

 国営新華社通信などによると、爆発は自動車のホイールの研磨をする作業場で起きた。工場内の粉じんに引火したのが原因とみられる。当局は同社の幹部ら5人の身柄を拘束し、安全管理などに問題がなかったか事情を聴いている。

 爆発があった工場に通じる道路は2日、警察官らが封鎖した。出入りができなくなったものの、多くの人たちが集まっていた。

 隣の工場の男性工員(24)は「大砲のような、ものすごく大きな音がした。働いている工場のガラスが割れた」。近くの工場に勤務する趙東舟さん(28)は、けが人を運ぶなど救援活動に参加。「全身がやけどで真っ黒になった人たちが次々と出てきた。焼けてしまって、服も身につけていなかった」と興奮気味に話した。

 姉が爆発のあった工場で働いているという許雨朋さん(32)はネットで事故を知って駆けつけた。「何が起きたのか、まったくわからない。姉の携帯電話もつながらない。心配でたまらない」と顔をゆがめた。

 ホームページなどによると、同社は1998年に設立された台湾企業。従業員は約450人で、アルミニウムのめっき加工などを手がけている。中国メディアは、同社が米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)に部品を供給していると伝えた。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、同開発区には昨年7月時点で、200社以上の日本企業のほか、約2千社の台湾企業などが入居している。

 日本企業の駐在員らでつくる昆山市日本人同郷会は、日本企業への被害は確認していないという。

(朝日新聞電子版より)

 爆発と言うと、引火性の高い物質が原因と考えがちだが、引火性の無い物質が爆発を起こすことがある。それが「粉塵爆発」だ。

引火性が全くない綿や小麦粉でも爆発は発生する。粉塵爆発の条件は、

  1. 空気中に一定の割合で微粒子粉塵が存在する。
  2. 発火エネルギー
  3. 酸素

この3点が揃うと粉塵爆発を起こす。

アルミニウムは引火性も燃焼性も無い。しかしアルミニウムの微粒子が空気中に一定の割合で存在すると、爆発を起こすことがある。

爆発の引き金となる発火エネルギーは、開閉器や電動機からのスパーク、稼働部分の摩擦熱が原因となる。また静電気放電によるスパークですら原因となる。

小さな発火エネルギーでも、局所的に空気中の浮遊微粒子が加熱され、そのエネルギーが近隣の浮遊微粒子に一気に連鎖し、爆発が起きる。

アルミ粉は、水と激しく反応し水素を放出する。放水消化をすると、二次爆発が発生する可能性もある。作業現場に消化スプリンクラーが設置されていると更に被害を拡大することになる。

綿や小麦粉の粉塵で爆発が起きた事例もある。粉塵が発生する現場は注意が必要だ。

対策は、
清掃、排気により空気中の粉塵を減らす。
粉塵環境の電設設備は、防爆対応品とする。
静電気の発生を抑える。(アイオナイザーはコロナ放電によりイオンを作っているので、逆に発火エネルギーを与えることになるかもしれない)

あなたの工場は大丈夫だろうか?
アルミニウムと言うキーワードではなく、粉塵と言うキーワドに着目すれば、金属加工だけではなく、木工、紙、粉体製品にも、適用範囲が広がる。


このコラムは、2014年8月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第373号に掲載した記事に加筆しました。

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