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比喩力


 リーダに必要な能力として「説得力」「感動力」を前々回,前回のメルマガで考えてみた.部下を説得と納得で動かす力「説得力」は「感動力」によってパワーアップする.
今週は同じく「説得力」をパワーアップする力「比喩力」を考えてみたい.

相手を説得・納得で指導する場合,「相手目線」で話をすることが必要だ.
相手が理解可能なレベル,または少しの努力で理解可能なレベルで話をする.

以前生産現場の班長たちに5Sの意義を教えたことがある.班長たちには,朝礼で作業員たちに分かりやすく教えるように指示をした.翌朝朝礼の様子を横から観察してみると,作業員に「5Sをしっかりしなさい」と言っている.これでは駄目だ.

中学を卒業して,農村から出稼ぎに来た作業員たちにいきなり5Sと言っても,通じない.彼らが理解できる比喩で説明しなければならない.

例えば「整理」の説明をする時.
整理とは使わないものを捨てるということだ.これは誰しも「もったいない」という気持ちが有り,なかなか捨てられない.

こんな比喩で説明する.
畑の作物を収穫した後,すぐに残っている作物を捨て次の作付けをする.ウラナリの実があっても,次の作付け時期を逃してしまえば,収穫ができなくなる.ウラナリの実をもったいないと感じて残しては駄目だということは,彼らにもよく理解できるだろう.

農村では収穫した芋を穴を掘って埋めておく.しかし都会には穴を掘る土地が無い.だから使わない在庫は整理しなければならない.

こんな比喩で説明すれば,理解しやすいだろう.

難しいことを難しいまま説明をすると,自分が難しいことを分かっている様な気がする.しかし,相手が理解できて初めて説明の意味がある.難しいことを相手に合わせ簡単に説明できる能力が必要だ.

これがリーダに必要な比喩力だ.


このコラムは、2010年3月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第145号に掲載した記事に加筆したものです。

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感動力


 先週のメルマガではリーダに必要な能力として「説得力」を考えてみた.
今週はリーダに必要な能力として「感動力」を考えてみたい.

感動力というのは、部下を説得・納得させる時や,部下のココロをつかみ引っ張って行く時に重要な力だ.同じ話をするのでも,聞く人に感動を与える話が出来れば,相手のココロに伝わる力が増す.

まず話のツカミとして,感動のエピソードを話す.そしてその後にこちらが伝えたいことをそのエピソードから抽出すれば良いのだ.

例えば人を助ける,という話をする時にこんなエピソードを枕にする.

妊娠している奥さんが定期健診に行く日に,勤務があり付き添ってやれない警察官がいた.彼はその日の朝出勤する時に「今日一日いいことがあるように,おまじないをかけてやる」といって奥さんを抱きしめてやる.

奥さんは病院に行くために外出するが,その日一日本当に良いことばかりが起こる.バスに乗ったら,車掌が座っている乗客を立たせて座らせてくれた.一人で診察の順番待ちをしていたら,通りかかった看護婦が順番待ちの列の先頭に並ばせてくれた.そして席を譲った人も,順番待ちをしていた人たちも,笑顔で快く譲ってくれたのだ.

仕事が終わって帰宅したご主人に,一日の出来事を話すと彼は笑顔で「おまじないが効いた様だね」といって彼女の背中から,朝抱きしめた時にそっと貼った紙をとって見せた.その貼り紙にはこう書かれていた.
「私は警察官をしており仕事で妻に付き添ってやれません.どうか妻を助けてやってください」

こういうエピソードで感動したココロには,素直に相手の言うことが染込んで来るだろう.

感動力を磨くのは簡単だ.たくさん本を読んで感動する話をメモすれば良いだけだ.

若い中国人に仕事をする意味と意義を教えたい時には,こんな本が役に立つ.
「私が一番受けたいココロの授業 人生が変わる奇跡の60分」

著者の比田井和孝先生は,地方都市の専門学校で就職指導をしておられる.彼もまた感動力の持ち主であり,感動力で若い学生さんに働く意義と喜びを教えておられる.

比田井先生の新著も要チェックだ.
「私が一番受けたいココロの授業 講演編 与える者は、与えられる」


このコラムは、2010年3月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第144号に掲載した記事に加筆したものです。

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説得力


 先週のメルマガではリーダに必要な能力として「予知能力」を考えてみた.
今週はリーダに必要な能力として「説得力」を考えてみたい.
ちなみに説得力は中国語では『说服力(shuo1 fu2 li4)』という.

部下に仕事をしてもらう時に仕事の指示を与えなくてはならない.
指示に従って部下に仕事をさせるためには,指導者・リーダの説得力が必要だ.
命令を与え,それに従わなければ罰則を与える.いわゆる「命令・服従型」の組織を作り上げれば,説得力は特に必要ではないかも知れない.

しかしこの様な「命令・服従型」の組織では,個人がやる気を出して働く,働く喜びを知る,ということは難しいだろう.

個人がやる気を出す,働く喜びを知るためには「説得・納得型」の組織でなくてはならない.そのためには指導者・リーダが説得力を持ち,部下を納得させる力を持っている必要がある.

もちろん時には「命令・服従型」を使わなければならない局面もある.
例えば火災が発生している現場で,消火活動の意義を納得させたり,人命や財産の尊さを説いていたのでは間に合わない.「火を消せ!」と命令し従ってもらわなければならない.

しかしここで賢明な読者はすでにお気づきと思うが,火災という非常事態で危険に直面しながら,「火を消せ!」という命令に従うことが出来るのは,普段から説得と納得が出来ているからだろう.

ではどのようにして説得力を磨くか?
まずはコミュニケーションを通して信頼関係を築き上げる.
そのために普段から「褒める」「叱る」をきちっとしておく必要がある.「褒める」「叱る」というのは「怒る」のとはまったく違う.「怒り」は合意されない期待から発生する不満の感情発露である.

部下が,こちらが期待する仕事の質に応えられない時に,不満が怒りとして発露する.この感情を部下にぶつけてみても,部下からは反発若しくは萎縮の反応しか帰ってこない.これでは反省・成長に結びつかない.

それに対して「褒める」「叱る」は相手の成長を願ってやることである.
「褒める」「叱る」はルールがあり,コツがある.
手元にある谷口祥子氏の「ほめ方のルール」という本から紹介してみよう.

  • 叱る」と「怒る」の違いを知ろう
    谷口さんは昔和菓子店でアルバイトをしていたことがある.このとき包装が上手に出来ず,お客さんから「ごめんね.これは大切な人に贈る物だから,もう一度包み直してくれる?」といわれたそうだ.
    この様に叱られたのならば,アルバイト店員の心にストンと落ちる.
    これが「包みかただへただ!」と怒られたらば,反発心が発生するだけで,反省心は発生しない.
  • 「Iメッセージ」で叱ろう
    「Iメッセージ」というのは自分の感想,思いを伝えるということだ.一方 「Youメッセージ」はお前は××だ,と決め付けること.
    叱る時は「お前の態度はなっていない」と言うのではなく「私はお前の態度を不愉快に感じた」と叱ろう,と言うルールだ.

「褒める」「叱る」を通して部下との信頼関係を築く.
そうすれば説得力も上がるはずだ.


このコラムは、2010年3月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第143号に掲載した記事に加筆したものです。

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予知能力

 リーダーの資質として「予知能力」をあげたい.
予知能力といっても,オカルトチックな能力ではなく,ロジカルな推論による能力だ.

例えば生産現場のリーダが,作業台の上にネジが一本落ちているのを見て,どう考えるかという能力だ.このケースを例として考えてみよう.

何も感じないのは論外だ.

すぐさまネジを拾い上げ,作業現場の5Sを保つ.
これではリーダーとはいえない.初歩の作業員レベルだ.

ネジの種類を調べ,どこから来たネジなのかを考える.そしてそのリスクに対し適切な予防処置を取る.これができて初めて現場リーダーといえる.

つまりネジが製品に組み込むためのものであれば,閉め忘れや脱落の可能性を予知し,完成済み品に影響が無いことを確認する.

またはネジが設備から脱落したものであれば,ネジが脱落した設備で生産した場合の製品品質への影響を予知し,適切な処置を取る.

こういうことが予知能力だと考えている.

同じものを見ても,どこまで予知が出来るかでその人の能力が決まる.
例えば他社のリコールのニュースを見たときに,自分たちの仕事に引き寄せて予知が出来るかどうかということだ.リコールなどの事件ばかりだけではなく,日ごろの出来事の中から多くのことを予知できるようにならなければならない.

これはモノ造りの現場だけでの能力ではない.
例えば,若者の離婚率上昇の新聞記事を読み,作業者の採用難を予知する,というのは人事部職員に要求される能力だろう.

こういう能力は,本を読んでも身に付く能力ではない.
日々目の前にある現象やモノから何が予測できるのか,鍛錬をする必要がある.
私は部下とこういう問答をしょっちゅうやっていた.
なんでもない物事を見聞きしたときに,それをいかに深く考察・洞察してその影響を予知するという,問答をするのだ.

部下の予知能力がシャープになるだけではなく,自分の訓練にもなる.実はこういうことをやるのが結構面白いのだ.


このコラムは、2010年3月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第141号に掲載した記事に加筆したものです。

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続・教育・訓練はムダか?

 先週のコラム「教育・訓練はムダか?」について、読者様からメッセージをいただいた。

※YY様のコメント

いつも楽しみに拝読させて頂いております。

教育についての考え方、大きく共感致します。
自身が描いている教育体制とビンゴで一致しちゃっています。

但し、なかなか推し進められないのですが。
どうしても、トップの教育に対する考え方がそちらに向いてないと、自身がどれだけ頑張っても、半分空回りとなってしまうのです。

まぁ、それでも半分は実績としてあがるので何とか頑張れるわけで、それがなければ、とっくの昔に投げ出していたのだと思います。
従いまして、この教育に対する考え方は、素晴らしいと思ってます。

今後とも、素晴らしい内容を楽しみにしております。

大変ありがたいコメントいただき、私のモチベーションはグンと上がりました。
おだてられて木に登っている河童を想像していただければ良いと思います。

会社の業績を上げるために、従業員の育成をする。と言う考え方は、まだ「私利私欲」の域を抜け切れていないと思う。会社を「公利公益」で経営している経営者であったも、それを理解できない従業員もいる。

従業員の成長のために会社を経営する。
その結果会社は業績を上げ、社会に貢献することが出来る。
とホンキで考えている経営者の姿勢は、成長意欲の高い従業員の求心力を強めることが出来るだろう。

そういう意味でYY様がおっしゃる
“トップの教育に対する考え方がそちらに向いてないと、自身がどれだけ頑張っても、半分空回りとなってしまうのです”と言うことが発生する。

経営者の言動だけではなく、会社の評価制度、処遇などの仕組みや仕掛けが、その考えを具現化したモノになっていなければならない。

こちらの経営者は、従業員の幸せのためには会社は急激に成長すべきではないと考えておられる。
リストラなしの「年輪経営」:塚越寛著

この会社は「会社は従業員を幸せにするためにある」と言う考え方で48年間増収増益を続けている。


このコラムは、2012年3月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第247号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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教育・訓練はムダか?

 新入社員に教育・訓練をする。職場異動者に教育・訓練をする。昇格者に教育・訓練をする。経営者にとって従業員への教育・訓練は必須のモノだ。
しかし同時に、せっかく教えても辞めてしまう、と言う悩みを持っている経営者も多いと思う。

教育・訓練がムダだと思っている経営者はいないだろう。しかし教育・訓練を諦めている経営者はいる。

諦める前に方法を考えよう。
教育・訓練が効率よく行われる方法を考える。
従業員が簡単に辞めない方法を考える。

例えば仕事でExcelを使う職員がいる。
(Excelが使えるかどうか、採用時に確認していると思うが、例として考えていただきたい)

この職員にExcelのマニュアルを渡して、勉強して置けといっても、いつまで経っても仕事が出来るようにはならないだろう。普通は仕事をさせながら上司や先輩が手取り足取り教える。したがって新人が仕事に慣れるまでは、一人当たりの作業効率は半減する。
ここが経営者も上司も、教育・訓練に熱心になれないところだろう。

どんな作業でもExcelの全機能を使うわけではない。
限られた機能しか使わない。その限られた機能を効率よく覚える仕掛けを作ればよいのだ。

例えば報告レポート作成作業を分析する。
製造作業員の作業分析と同じだ。
分解した作業ごとに、必要な操作知識をピックアップする。
これを作業マニュアルとして作成すれば良い。

PC作業の場合、作業マニュアルを作成するのは簡単だ。作業のステップごとに、スクリーンショットで操作画面をコピーしてゆけばよいのだ。

製造作業者には作業マニュアルがあるだから、オフィス作業者にも作業マニュアルを準備してやればよい。これでいちいち手取り足取り教えることはなくなる。

しかしこれだけでは、足りない。
たぶんこうして仕事を教えても、すぐ辞めてしまうだろう。マニュアル仕事だけではつまらないからだ。ここに「せっかく教えても、仕事が出来るようになると辞めてしまう」という経営者の悩みがある。

仕事の全体像(任務)が分かるようにしておく。
その任務を果たすための仕事がどうなっていて、その仕事をするための作業はそれぞれどうすればよいかを明確にしておく。こうしておくことにより、新人作業者が自分で能力を上げて行く様にする。これが出来ない人(向上心がない人)は辞めていってもまったく問題はない。

そしてその先に自分で仕事を定義できるようになれば、もう一段上のステップに上れるはずだ。その第一歩が上述のマニュアル作成だ。

マニュアル作成は上司やリーダの仕事だと思うと、すぐに時間が足りないなど「諦めモード」になる。マニュアルを作るのは作業している本人にやらせる。

人の成長モチベーションは、「仕事に必要な能力>現有能力」の状況で向上する。

「仕事に必要な能力>>現有能力」ではモチベーションが萎える。
「仕事に必要な能力≒現有能力」の時はモチベーションはなかなか上がらない。
「仕事に必要な能力<現有能力」の時はモチベーションの維持が困難。

上司やリーダにマニュアル作成の仕事ばかりをさせるのは、「仕事に必要な能力<現有能力」の仕事ばかりを与えると言うことだ。

一方作業員にとってマニュアル作成の仕事は、「仕事に必要な能力>現有能力」となるはずだ。自分の現有能力より少しだけ高い仕事を与え続ける。それが従業員の成長実感となれば、簡単には辞めないだろう。

経営者や上司が、教育・訓練のためにすべき仕事は、マニュアルを作ることではなく、どうすれば従業員を育成できるか考え、仕組みに落とし込むことだ。

我が師・原田則夫氏は、農村からの出稼ぎ作業員に、コストは固定費と変動費に分かれていることを教え、損益分岐点を教えた。これで彼女が退職後も食堂の経営が出来るようにしてやる。自分の日本語通訳に、秘書業務や会計学を教え、転職させて会社経営者とした。

上司は部下・従業員の生涯の幸せのために、育成をする。
部下・従業員は自分の成長のために仕事をする。
この二つがかみ合えば、強い求心力となるはずだ。


このコラムは、2012年2月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第246号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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即戦力なんて存在しない

 「即戦力なんて存在しない。だから育てるんだ」スティーブ・ジョブズの言葉だ。

スティーブが創業したピクサーは、ハリウッドでは特異な存在だった様だ。

普通のハリウッド企業は、脚本などのアイディアはお金を出して買う。
必要な人材は、フリーランスで雇用する。
人材は必要な時に、即戦力を買って来ると言う訳だ。
仕事がある時だけに、人材を調達すれば、経営は楽になる。

しかしピクサーは持ち込みのアイディアは使わない。人材は社員として雇用する。
つまり、外のアイディアには金を払わない。その代わり、人財を育てるのに金を使い、内部からアイディアが生まれる様にする。

こういう考え方は、昔の日本企業が持っていた考え方だ。
「家族主義」「人は育てて使う」こういう考え方が、効率優先の短期業績主義経営によって忘れられている。

短期業績主義以外に、従業員の流動性も、中国に於いて日本的経営を難しくする要因となるだろう。折角育てても、すぐに辞めてしまうのでムダだ。人材育成は諦めた、と言う日本人経営者に会った事もある。

しかし、使い捨ての企業に労働者が魅力を感じる事はない。本当の所は、人財育成をしないから人は辞めて行く。即戦力だと思って金で買って来た人材は、すぐに金でよそに買われて行く。

従業員を「人材」(ヒューマンリソース)と考えれば、必要なリソースを金を使って準備をすれば良いと言う考えになるだろう。
しかし本当に使える「人財」はヒューマンキャピタルだ。
人を財産に変えるには、自分たちで磨き上げるしかない。


このコラムは、2013年3月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第301号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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従業員の成長

 一昔前は、中国人従業員に教育をしてもすぐ辞めてしまうからムダだ、という徒労感を訴える日本人経営者・経営幹部がおられた。中国ばかりではなく東南アジア諸国でも、ローカルスタッフの転職に頭を悩ませていた経営者が多かった。彼らはローカルスタッフを「バナナ」に例えていた。外から見ると黄色をしており我々日本人と同じだ。しかし皮を剥くと中は白色で、欧米人と同様にドライな考え方をしている、と言う意味だ。

今はそういう考えの方は少ないだろう。
昔から、従業員の教育に真剣に取り組んでおられる方も少なからず存知上げている。そういう方々は、「教えても辞めるからムダ?教えないから辞めるんだ」と言われる。

中国工場の責任者となり、従業員の育成が重要との信念で頑張って来られた経営者がおられる。初めの5年間は、見る見る成長して行った。これは教える側にも大いなる達成感がありモチベーションが上がる。しかしここ2,3年は従業員の成長速度が落ちて来ている様に感じる、とおっしゃっている。

この経営者の話を聞いて、自分なりに考えてみた。

最初の5年間は、真っ白な紙に絵を描いた期間だと思う。紙の上は、美しい絵で埋まって行く。この期間の成長は、一目で分かる。しかし、ある程度成長が進むと成長は停まる。いわゆる「S字カーブ」と言う現象だ。次の成長の前に踊り場が来る。

最初の5年間は、比較的簡単な生産上のオペレーションを教えたはずだ。それに習熟して来ると、そのオペレーションを如何に改善するか?と言う段階に入る。学ぶ難易度も上がっている。当然成長速度が落ちたり、教えた事が実践出来ない者も出て来る。

ではこの「踊り場」を越えるまでじっと我慢すれば良いのか?
ほとんどの経営者は、そんな余裕は無いはずだ。一刻も早く従業員を成長させ、更に上の経営を目指したいはずだ。

私はS字カーブの停滞は「知識を能力に変換する時間の停滞」だと考えている。つまり急速に成長した時期の知識は、即応用する事で知識→行動の過程で能力に変換される。しかし与えられた知識を応用するチャンスが無ければ、能力にならないばかりか、早晩忘れてしまう。

例えば我が師匠・原田師は、出稼ぎ作業者出身の文員さんに、コストは固定費と変動費に分かれることを教え、損益分岐点の概念まで教えている。教えただけでは多分彼女は、忘れてしまうだろう。原田師の「会社を辞して故郷に帰った時に食堂の経営くらい出来る様にしてやろう」と言う思いはムダとなる。しかし原田師は、この文員さんに社内の喫茶部の経営を任せて、毎月の損益をグラフに描かせていた。

つまり教えた知識を、仕事上で発揮する機会を作る事が重要だ。
上記の例で言えば、損益を黒字化しようと思えば、売り上げを損益分岐点以上にする。損益分岐点を下げるには固定経費を少なくする。などを仕事を通して体験することにより腑に落ちる。この過程で知識は能力に昇華する。

「従業員の成長が鈍化している」と言う問題に対する私なりの対策は、仕事を通して成長する様に仕向ける事だ。
日常のオペレーションの中には、その様なチャンスは少ないかも知れない。しかし「改善」を課題とすれば、チャンスはいくらでも作れる。QCC活動などがもっとも分かり易い例だろう。

QC七つ道具や統計的手法を教えただけでは活用出来る様にはならない。
定例で開催している品質道場では、演習や宿題により知識が能力となる様に工夫している。しかし日々の仕事の中でそれらを活用する機会を作れば、更に効果は上がる。QCC活動は、その機会を意図的に作る事が出来ると考えている。

今QCCを指導しているお客様では、生産性革新のために加工方法の見直しに取り組んでいるチームがある。彼らには実験計画法を活用してもらう。


このコラムは、2015年5月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第422号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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現場監督者

 前職時代に、生産依託先工場で生産指導をしていた。中国東莞市に3社生産依托工場があり、新製品の立ち上げや、お客様工場監査のために月1社程度の頻度で出張していた。

直接作業現場に入って指導するので、組長、班長などの現場監督職との交流も沢山あった。そんな中で今でも印象に残っている組長さんがいる。この組長さんの生産ラインで、コピー機用の大型電源の生産することになった。量産試作時に、組長さんと一緒に生産ラインを1工程ずつ見て回った。

ねじ締め作業工程で組長さんに「ねじを一本締め忘れたらどうする?」と質問。彼女は質問には答えず、すぐに小皿を準備して,作業前に必要なねじを小皿に入れ、作業が終わったら小皿のねじに過不足がない事を確認する様に作業員に指導した。

また最終の外観検査の方法が時間がかかり過ぎ,タクト内に終わらず完成品が滞留していた。このまま放置すると、検査漏れが発生し、最悪不良品の流出が起きる。その場で作業手順を変更し、作業員に作業指導してもらった。しかし班長さんの教え方がまずいせいか、中々作業員が理解出来ない。しまいには作業員が泣き出した(苦笑)組長さんに指導を替わってもらい、事なきを得た。

打てば響く、という表現がぴったりの組長さんだった。
彼女がいる限り、我々の生産は大丈夫だと実感した。

しかしここで安心してはいけない。
この優秀な組長さんのクローンをいかに増やすかが、工場にとっての課題だ。

実は東莞の生産委託工場(3社ともに台湾資本)は、私たちが指導した生産ラインにいた監督職、生産技エンジニアは無条件で採用となっていた(笑)
しかしこのような安易な方法ではいけない。自ら現場監督職を鍛える方法を持つべきだ。


このコラムは、2017年4月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第525号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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スラム街の奇跡

 先週は移動時間に「心のチキンスープ」という本を読んだ。

感動で涙が出るので、涙腺の弱い方は人目のある所で読まない事をお勧めする。

いくつものストーリィがあるが、その内の「スラム街の奇跡」を紹介したい。

米国で社会学の学生がスラム街に暮らす200人の子供たちを調査した。子供たちは皆金銭的にも、家庭環境にも恵まれず、客観的に見て幸せな未来は期待できないという調査結果だった。

25年後にその子供たちの追跡調査を行った。
200人のうち20人は行方が分からず再調査できたのは180人だったが、なんと180人のうち、176人は医師、弁護士など人並み以上の成功を手に入れていた。

不思議に思った社会学者が更に調査をすると、176人はみな子供の頃に同じ教師の教えを受けていた。この教師を捜し出し、どういう指導をしたのか聞いてみた。

その教師は「私は何もしていません。ただあの子たちを愛しただけです」と答えたそうだ。

子供たちが幸せになる事を信じ、愛情を持って指導したのだろう。
子供たちが成功して幸せになると信じて指導をすれば、子供たちはそのとおりに幸せになる。
スラム街に暮らす子供たちだから、努力しても底辺から這い上がれないだろうと思って指導をすれば、子供たちはそのとおりになる。

これをピグマリオン効果という。

教師の期待が、子供たちに伝わり彼らの潜在意識を変える。彼らの潜在意識が彼らの未来を変えたのだろう。彼らの潜在意識が、スラム街に暮らす親の影響を受けていれば、一生スラム街で暮らすことになっていたはずだ。

従業員が悪い事をする、と思っていればそのとおりになる。どうせここまでしか出来ない、と思っていればそのとおりになる。可能性を信じていれば、従業員は成長する。

従業員は経営者の鏡なのだ。


このコラムは、2012年7月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第264号に掲載した記事に加筆したものです。

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