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経営者育成塾

 先週末は東莞和僑会の定例会で、社内で独自の経営者育成塾を開催して中国人経営幹部の育成をしておられる経営者からお話を聞かせていただいた。経営者育成塾を受講した中国人経営幹部も2名参加いただき、受講の感想、自分自身の変化、社内の変化などに付いて語っていただいた。

定例会には、30名ほどの方にご参加いただいた。経営者育成塾の開催ばかりではなく、中国で企業経営するための多くの気付きを得られたと思っている。

本日は、今回の定例会で深く啓発を受けた点に付いてメルマガ読者様とシェアしたい。

経営者育成塾の目的は、ただマネジメント知識を教える事ではない、部課長の目線から経営者目線に上げ、行動変容させる事だ。

例えば、「管理会計」の知識を講義形式で教えても、管理会計を理解する事が出来るだけだ。それだけでは社内に管理会計が定着するとは思えない。経営者育成塾を受講した管理本部長は、受講当時経理部長だった自分は、経営者育成塾の受講により他部門の業務の理解が深まり、業績評価の精度が上がりました、と発言しておられる。

日系企業と言えど財務会計が主体で、管理会計を取り入れておられる企業は少数派だと思う。管理会計を取り入れていても、与えられた計算式で社内組織の業績評価をするだけだろう。しかしこの管理本部長は、業績評価をどのようにすれば経営判断に貢献できるかを考え、実践しておられる。

このようなマネジメントが出来る様になるのは、知識を教えただけでは無理だろうと思う。財務部長から管理本部長への成長は、適切なフォローがあったからだと考えた。
毎月経営会議にあげる資料造りをルーチンワークと考えれば、このような成長はあり得ない。多分毎月の経営会議の議論がフォローとなり、経営者視点の気付きを得たのだと考えている。

経営者育成塾には、知識の教育以外にこのような気付きを促進する仕掛けが組み込まれていたのだろう。その仕組みの一つが「事前宿題」だと思う。経営者育成塾では、翌月の研修内容をあらかじめ勉強しておく様に課題が出される。経営者養成塾に参加した品質保証本部長は「一日の講義よりも29日の自主学習に効果があった」と言っている。


このコラムは、2015年12月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第454号に掲載した記事に加筆したものです。

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百年の計

 先週のコラムで、「チーム型コミュニティ」について書かせていただいた。

「チーム型コミュニティ」

弊社のサポート企業様を中心にコミュニティを作り、コミュニティで切磋琢磨することにより、更なる成長を目指すことが目的だ。

私が理想としているサポートは、お客様での改善活動などを通して、お客様のリーダを育成する。契約期間が終わった後も、育成したリーだが中心となり、改善が継続するのが理想状態だ。

そしてこの理想状態を、コミュニティでの交流を通じてさらに強化する。
それがチーム型コミュニティの目的だ。

こうすることで、私がいなくても、お客様での改善が継続するという状況を作り出せると思っている。「百年の計」とは少し大げさかもしれないが、このようなコミュニティを作ることができれば、私が引退した後も継続可能になるはずだと考えている。

実はこのような考えに至ったのは、現役会社員時代の反省からだ。
当時は「プレーイングマネジャ」として、自分自身も業務に関わりながら組織のマネジメントをしていた。もちろん業務もマネジメントも両方全力で取り組んだ。
しかし「業務能力」を磨くことに意識が集中し、部下の育成が不十分だった。
部下の育成のために、年間教育計画も作り実施していたし、自分のノウハウを部下に伝えるために、チェックリストを作ったりもした。しかし正直に言えば心の底で、チェックリストでは自分のノウハウを伝えきれない、と思っていた。

圧倒的な業務能力を持ち、品証の仕事は「林をおいて余人に替えられない」と評価されていた。当時はこの評価が賞賛だと勘違いしていた。
今思い返せば、この評価のために役員になるチャンスを2度失った。

自分がいなくても、部下が立派にやり遂げる状況を作り出せていなかった。
さらに言えば、自分がいなくても部下が成長し成果があがる仕組みを作ることが出来なかった。

経営者は、自分が引退した後も会社が発展することを念頭に経営をしているはずだ。中堅幹部、経営層幹部も同様に、自分がいなくなっても(別の部門に異動する、昇格する)組織が成果を出し続けることを目指すべきだろう。


このコラムは、2015年9月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第443号に掲載した記事に加筆したものです。

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知識より経験

 10年ほど前までは、日系企業と言えども中国人従業員に教育訓練を施すのはムダだと考えている経営者がいた。せっかく教えても転職してしまう。そんな徒労感から、ムダだと考える経営者がいたのだろう。

台湾企業は、初めから割り切っている様に感じていた。朝採用試験に合格した作業者は、午後には生産現場に上がって来る。導入教育をしていると言っているが、2時間ほどでは社内や寮生活の決まりを説明しただけで終わりだろう。
工程を細分して作業を単純にしているので、生産現場でも短期間の訓練で作業が出来る様になる。一見問題は無い様に思えるが、仕事に対する意欲や、問題発生時に対応する能力はおぼつかない。問題が発生すれば班長が対応するが、班長も作業者として雇用され、ろくな教育訓練も受けずに昇格しているので、同じ事だ。

さすがに最近は、教育訓練がムダだと言う経営者に会う事は無くなった。
しかし教育訓練の成果が見えないと嘆いている経営者は相変わらず多い。

私なりに分析してみると、「知識偏重の研修」に問題が有りそうだ。
教育訓練の目的は、対象者の好ましい行動の強化だ。
知識を与えても行動には結びつかない。
知識を能力に変換し、行動を促す。そして行動が習慣になればゴールだ。

このプロセスで重要なのは、知識の習得ではない。知識の習得は初めの一歩だ。その後の能力、行動、習慣のプロセスは「経験」により達成される。

稲盛和夫氏は「知識より体得を重視する」と言っておられる。

「京セラフィロソフィ」

私の仮説だが、中国人はこの「体得」が苦手なのではなかろうか?
仮説というより、妄想といったほうがいいかもしれないが、「漢字」が学校教育を記憶偏重型にしているように思う。日本も同じように漢字を使うが、日本の子供たちは最初に「さいた、さいた、さくらがさいた」とひらがなで習う。しかし中国の子供はいきなり漢字だ。しかも覚える数は、日本の当用漢字の数を、はるかに上回っている。

記憶偏重の学校教育を受けた人達が、教育訓練をすれば知識偏重にならざるを得ないだろう。教育訓練を受ける側も、記憶偏重型の学校教育で育っている。
その結果、以下のような課題を持ったリーダが多くなる。

教えた事は出来るが、応用が出来ない。
知識はあり評論できるが、自ら課題解決が出来ない。
自ら問題を発見し、解決課題を設定出来ない。

そんな課題を抱えたリーダも、経験を通して体得させることにより、成長するはずだ。


このコラムは、2014年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第382号に掲載した記事に加筆したものです。

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ローパー

 ローパーと言う言葉を聞き、意味が分からないのでネットで検索してみた。出るわ出るわ(笑)26万余件ヒットした。

ネットの情報によると、ローパフォーマンス社員を省略してローパーと言う。
ローパー社員を辞めさせるアドバイスをする人材会社が有る。
故意にローパーを装って、会社から解雇させ裁判沙汰にし和解金をせしめる「悪質ローパー」それを見習う「模倣ローパー」などもいる。
フリーランスで働いている人から見れば、パフォーマンスを発揮出来なければ淘汰されるのが当たり前。会社員だからパフォーマンスを発揮しなくても給料が保証されるのはおかしい。と言う事になるだろう。

しかしあえてローパーと言う言葉や扱いに疑義を呈してみたい。

パフォーマンスを発揮出来ない社員に対する雇用側の責任はないのだろうか?
社員の意欲を高め、教育訓練をするのを企業の「責任」とは言わないが、企業活動として当然の事だろう。この点に関して何も語らず、ローパー社員を非難するのは天につばをする様なものだと思える。

悪質ローパーを採用してしまった責任はないのだろうか?前職でも同じ手口で和解金をせしめていたと、後から分かったのならば、採用時に確認する手だても有ったはずだ。

本来良質な人材を提供する事が業務であるはずの人材会社は「悪質ローパーの見分け方」や「人材のパフォーマンスアップ」をコンサルするのが,本来の仕事だろう。勝手な基準でローパ社員の線引きをし、解雇の指南をするのは本末転倒だ。

50歳を超えて役職もないダメ社員などと言っているが、50歳を超えても安い給与で働いてくれる社員だと考えるべきだろう。パフォーマンス以上の給与を支払っているとすれば、会社側の給与規定がおかしいだけだ。

私には、自らの責任を放棄して、相手方を一方的にローパーなどと決めつけて、自己正当化をしているだけの様に見える。


このコラムは、2016年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第469号に掲載した記事です。

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脱・下請け

 先週は、UHT株式会社・松本芙未晃社長の講演を聞いた。
UHT株式会社は、顧客からいただいた図面により金型を作る下請け企業だった。
今は自社製品を持つメーカだ。しかも製品は40年間世界トップシェアという。

松本社長の著書:「価値の金型屋、世界へ 脱・下請けのストーリー」

 自分で自分の仕事の値段を決められる会社にしたい、という創業者の思いがスタートだったそうだ。最初に商品化を目指したのが、家庭用かき氷器。昭和30年代、戦後の貧困から脱し、高度成長の前夜といっても良い時代、家庭に電気冷蔵庫が普及し始めた頃。何度か試作を繰り返し、納得のゆく試作品が出来上がった。

試作品を持って問屋を回るが全て門前払い。

下請けならば、作ったモノは必ず売れる。しかしメーカとして生産した商品が売れることは何の保証もない。夏場商品は春先にはすでに注文が確定しているという「常識」も知らなかった。

しかしたまたま居合わせたバイヤーが、試しに百貨店の即売で試してみようと声をかけてくれる。そこで500台の注文をもらう。500台は即完売。翌年の受注が確定した。翌年は爆発的に売れるが、他社から実用新案抵触で訴えられる。

そんな失敗から学び、自分たちの仕事で使うモノ、仕事を改善するモノに焦点を絞ることになる。圧縮空気を使った掃除機、手持ちグラインダー工具などを商品化しヒットさせる。

松本社長の講演から学ぶことは多い。

いきなり知らない市場をターゲットにしない。
まずは自分たちに近い市場を土俵とし、自分たちが困っていることを解決する商品を作る。

常にアイディアを出し続ける環境を社内に作る。
思いついたことをすぐに形にできる環境を準備する。

一番重要なことは、「メーカになる」という強い思いを全社員と共有することだ。

先週ご紹介したシステム・インスツルメンツの濱田社長は社外との協業で製品開発をしておられるが、松本社長は自社で開発している。しかし販売など他社の力を借りていることは変わりはない。社員を巻き込むのと同様に、他社を巻き込む力も重要だ。

メーカになることのメリットは多い。中でもユーザとのコミュニケーションが得られることのメリットが大きい。故障修理など間接的コミュニケーションで製品改善点や、新たな用途を知ることができる。


このコラムは、2017年2月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第514号に掲載した記事に加筆したものです。

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西尾硝子鏡工業所・西尾智之社長

 先週は、大田区で硝子や鏡を加工しておられる西尾硝子鏡工業所を訪問した。
西尾社長の人づくりの取り組みをセミナーでお聞きし、大変興味を持ち工場にまでお邪魔した。

西尾硝子鏡工業所は従業員25名ほどの中小企業だ。
先代の後を受け、若くして後継者となった西尾社長は「価格競争」から「価値競争」にパラダイムシフトするためには、従業員全員が「西尾ブランド」となる事が重要と気付かれ、人づくりに取り組んでこられた。

西尾社長は毎年経営計画発表時に、全社員に感謝状を書いている。表彰状ではない。感謝状なので、何に感謝しているのか具体的に書く必要がある。このようにして社員一人ひとりに心を配っている事が伝わる。しかも全社員一人ごとに期待する姿を、1年ずつ5年後まで考え、リストにしてある。このリストに従って人財育成計画を立てている訳だ。

西尾硝子鏡の工場は住宅街の中にポツッとある。当然工場の騒音は近隣の住民からの苦情になるだろう。以前は周辺住民とのトラブルもあったという。先に工場を開いたのはこちらであり、住民は後から来たはずだ、と他人事ながら私が憤慨した(笑)

しかし今はそのようなクレームはほとんど来ないという。周辺住民との関係が変わったのは、朝一番の掃除が始まりだったそうだ。工場の中ばかりではなく周辺の通りも、全従業員で清掃活動をしている。この際に周辺住民と挨拶を交わす事が増え、クレームを言ってくる人が激減したそうだ。

2011年の3.11の時は、地震により部材の供給に遅延が発生する可能性がある、という「お詫び」のFAXが仕入先から大量に来た。「お詫び」と言っているが、一方的な通告だ。地震によりガラスが壊れてしまい困っている顧客に対して、そのまま伝えることはできない。そこで徹底的にシミュレーションし、○月○日には正常復帰できます、という告知をしたそうだ。困っていた顧客からは注文が殺到したそうだ。災い転じて福となす、とは正にこのようなことを言うのだろう。ただ災いを嘆いていても何も起こらない。顧客の困り事をどう解決するかと言う視点で考えた事で「震災特需」を得る事が来た。

この出来事には伏線がある。震災が発生する数ヶ月前に、BCP(事業継続計画)に取り組んでおられたそうだ。実は「そんなの何の役に立つのですか」と言う社員の反対に遭い、社長一人で取り組んでいたそうだ(苦笑)

初めて作るBCPだ。的確な計画ができていた訳ではない。しかし一度取り組んでいたので、実際に問題が発生したときにすぐに実践できたのだろう。「納期が遅れる事があります」と言うのは自己都合の連絡だ。「○月○日までに正常復帰します」と言う連絡を受ければ、顧客は計画を立てる事ができる。さらにもっと早くできないかと応援してくれる顧客も出て来たのではないだろうか。

準備ができていれば、災難をもチャンスに変える事ができる。


このコラムは、2017年2月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第515号に掲載した記事に加筆したものです。

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“出来ない”を叱らない

 赤字企業再生師・長谷川 和廣氏の「社長のノート」という本を読んだ。

この本の中に「出来る/出来ないを叱らない、やる/やらないを叱る」という言葉が出てきた。

部下に対して「出来る/出来ない」を叱ってはならないということだ。部下が仕事を出来ない、ということは上司に責任がある。上司がきちんと方法を教えていない場合がほとんどだ。

仕事の目的と意義をきちんと教え、作業方法を指導する。初めに手間はかかっても、ここをきちんとやれば、後が楽になるはずだ。

部下の仕事がうまく行っていないときに「頑張れ」と励ましても意味がない。部下は頑張れと励まされても、何をどうしたらいいのか分からなければ、頑張りようがない。ナゼうまく行っていないのかをきちんと分析し、足りない部分を補ってやる。これがOJT(On Job Training)だ。

現場に放り込んで、「頑張れ」と励ましただけではOJTにはならない。放っておいて「仕事が出来ない」と叱るのは、おかしい。

特に中国で仕事をしている場合、あなたの部下はあなたが想定している以上に分かっていないことが多い。

農村から出てきた作業者が、コンピュータのキーボードを水が滴る雑巾で拭き掃除をしても、叱ってはならない。コンピュータを初めて見る人間に、「掃除をしておけ」と作業指示だけした上司の方が間違いだ。掃除の仕方から教えないといけない。

学歴や経験のある職員でも、同様なことはある。例えば「QC七つ道具を知っている」という職員を集めて、何かやらせてみてもうまくは行かない。「知っている」と「使える」は全然別の事だ。
「生産が間に合わない」という問題の原因として「注文が多すぎる」という分析をしたりする。
※これは実は日本人でもしばしば間違う。本当の原因は「注文が多すぎる」ではなく「生産能力が足りない」だ。

日本でもQCC活動が下火になり、工場勤務の日本人若者にもQC七つ道具が使えない人が多くなっていると聞いている。そういう人たちに「出来る」を一方的に期待するから、失望と不満が発生する。これが往々にして怒りとなり、部下を叱ることになる。

出来ないことがあれば、教えることにより成長する。チャンスだと思えば失望や不満は発生しない。もちろん出来るのにやらない場合は、きちっと叱らねばならない。叱るという行為は相手の成長を願ってするものだ。


このコラムは、2010年8月に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第165号に掲載した記事です。

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