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社内研修

 私の本来の仕事は、現場の改善だ。現場の改善を通してお客様の生産性、品質を向上させ、業績に貢献する。そしてその活動を通してお客様の改善リーダを育成する。
そういう仕事を中心としているが、研修室での社内研修もしばしばお手伝いすることがある。現場での経験はできないが、演習を疑似体験とすることにより、知識だけではなく、能力が付くように工夫している。

そういう仕事を通して、お客様の教育担当者と話し合うことがある。

あるお客様では、社外講師による研修テーマを、受講生のアンケートで決めているた。これには非常に驚いた。
確かに、受講生に興味があることを教えれば、効果は高いだろう。
しかし経営者が、どういうことを勉強して欲しいと願っているかが、優先するはずだ。研修を通して、経営者が必要と考えている知識を従業員が得る。その結果従業員の行動が変わり、業績に貢献できるようになる。

社内研修をすることが目的ではない。
社内研修は手段であり、目的は業績への貢献だ。

研修の効果を直接業績数字で評価することは、困難だ。
往々にして、研修の目標を、年間○回開催、研修参加率○○%以上などと置いてしまう。要は研修が○○人・回以上行われた、ということが目的となってしまっている。ここが間違いのスタートではないかと考える。

こういう目標を持つと、研修参加者をたくさん詰め込むことになる。○○人・回という目標に対し、コストパフォーマンスを高めたいという意向だ。演習を中心とした研修では、参加人数が多すぎると教育効果は落ちる。

業績に無関係の目標を置いているから、売り上げが落ちたら研修を取り止める。生産が忙しい時にも研修を取り止めることになる。売り上げが落ちて、定常業務が暇になっている時などは研修の絶好のチャンスのはずだ。

直接業績数字に結びつかなくとも、研修の効果を測定する方法はあるはずだ。
例えば研修後に、どんな行動が取れるようになったか観察すればよい。研修の結果期待すべき行動があるはずだ。その行動が開発もしくは強化されるように、研修を設計する。
そして研修後行動が強化されていることを、フォロー観察する。

ものすごく大変な作業に思われるだろうが、それが本来の仕事のはずだ。
能力は一人ひとり違う。研修の効果も一人ひとり違う。それをきちんと計測しなければ、研修の効果は分からないはずだ。

研修テーマを受講生のアンケートで決めてしまうのではなく、必要な研修テーマを決め、研修内容を設計し、効果測定・フォローの方法を考える。こういうことを一緒にお手伝いさせていただくのが、我々の仕事だと考えている。


このコラムは、2011年10月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第227号に掲載したコラムです。

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社員研修にタグラグビーいかが?

 社員研修に「タグラグビー」を採り入れる企業が増えている。個性を浮かび上がらせたり、チームワークを醸成させたりするのに効果があるとみられている。

 イングランド発祥のタグラグビーは、1990年代後半から日本で普及した。腰の左右にひもをつけ、それを相手に取られたら球を放す。激しい接触がないので、初心者や女性でも安心して楽しめる。

 1953年にラグビー部が創部され、現在はトップリーグに所属する古豪リコーは昨年から新入社員研修に採用した。指導役は、先輩社員で元日本代表FWの田沼広之さん。研修では「ラグビーは後ろにしかパスできないのに、前へ進む。チャレンジする勇気がないとトライできない」と新人たちに語りかけた。

(asahi.conより)

 ラグビーに限らず、チームで試合をするスポーツはグラウンドに出ている選手が全員ひとつの目標に向かって、全力を出していなければならない。いやグラウンドにいる選手だけではない。控えとしてベンチに入っている選手、補欠で観客席から声援を送っている選手までが、全員同じ目標に向かっているチームが強い。

一人でもモチベーションが上がらない選手がいれば、勝てないだろう。
ラグビーなら15人、サッカーならば9人の内一人でも戦力にならなければ、その損失は大きなパーセンテージを締める。

一方、普段仕事をしている組織を考えると、モチベーションが高い層が20%、モチベーションが低い、または不満を持っている層が20%、その中間が60%といわれている。

この様な組織で、試合をしたらゲームにはならないだろう。

その違いは、チーム全員が戦略・戦術を共有して戦えるかどうかだ。直接部門、間接部門の間に組織の壁があるようでは、試合に勝てるはずはない。補欠の選手は前線で戦っている選手を、試合の勝利のために支える。これが間接部門が試合に参加する方法だろう。

野球の場合は、一球ごとにベンチの指導者から戦術の指示が出せる。しかし、ラグビーやサッカーはそうは行かない。前線で戦っている選手が、一瞬の判断で、戦術を決定しパスを出さねばならない。

企業も同様だ。
いくらカリスマ経営者がいたとしても、現場一人ひとりに指示を出せるほど、企業経営のスピードは遅くはない。
カリスマ経営者がカリスマたるゆえんは、一人ひとりのメンバーの資質を高め、戦略・戦術を共有できるからだ。

チームワークだけが良くても試合には勝てないのは自明だろう。
チームワークが良い草野球チームと、プロチームから寄せ集めのオールスターチームが戦った時、どちらが勝つかは目に見えている。

チームワークとは、強いメンバーが勝つために発揮してこそ意味がある。
チームワークだけあっても勝つことは出来ない。

勝てる組織を作るためには、メンバーの能力を高め、チームワークを発揮するモチベーションを高めなければならない。

では、モチベーションを高める方法は?
それは、報酬でも、福利厚生でもない、というのが私の見解だ。


このコラムは、2011年7月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第215号に掲載したコラムです。

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姥捨思想

 【ロンドン時事】新型コロナウイルスの感染が深刻化し、多くの国がロックダウン(都市封鎖)状態にある欧州で、封鎖をしない北欧スウェーデンの
「独自路線」が注目を浴びている。ソフト対策の背景には、強制より個人の自主性を尊重する伝統が根強いほか、医療制度が充実し医療崩壊の懸念が少な
いことなどがある。さらに多数が自然感染して免疫を持つことでウイルスを抑制する「集団免疫」の形成も念頭にあるとされる。

jiji.comより

 このニュースを見て驚愕した。現代にこのような考え方をする国が有るとは信じられない思いだ。確かに新型コロナウィルスに感染しても発症しない人はいる。発症しても治癒する人もいる。新型コロナウィルスに感染し死亡する人より、新型コロナウィルスに感染しても発症しない人、発症後治癒する人の方が多分多いだろう。それらの人々は新型コロナウィルスに対する免疫ができている。
であれば、無理やり都市封鎖をして国民に不便を強い、経済活動を停滞させるより、普通の生活を継続し免疫を持つ人を増やした方がいい。合理的な発想であるように思える。

しかしよく考えて見たい。
この政策で命を落とす者は、高齢者、病弱な者だ。弱者を切り捨て全体を守る「姥捨思想」だ。

村落を守るために、足手まといとなった老人を切り捨てる。
神の怒り(天災)を鎮めるために、少女を生贄とする。

しかし今、新型コロナウィルス禍との我々の戦いは「ホモサピエンスの保護」ではない。
我々が守らなくてはならないのは、種の存続ではなく、感情を持った家族、隣人だ。


このコラムは、2020年4月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第973号に掲載したコラムです。

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現場型研修

 私は自分自身を「現場型コンサル」と定義している。
会議室で経営戦略を考えるのではなく、現場で知恵と汗を絞る。
研修室で知識を教えるのではなく、現場で能力を鍛える。
というのが自分の心情である。

あるお客様で、生産が止まってしまうので、その間に2000人の作業員に研修をしたい。というお話をいただいた事がある。こういう考え方で研修をしても、あまり効果は上がらないと思う。

研修をされるお客様の目的は、受講生の知識アップではなく、能力アップのはずだ。2000人の受講生相手に、大研修室で何かを教えたとしても、明日には半分以上忘れているだろう。この様な形式で研修をして、能力が身に付くと言うことはまずありえない。こういう形式の集合教育では、研修をきっかけとして各自が自分で、能力を鍛え始める様な工夫を盛り込んで置かねばならない。

マナー、ホウレンソウ、5Sなど新人教育は、毎年外部講師に頼んで実施してはいけない。こういう研修をリーダに受講させ、次の年から内部講師が自分達の工夫で教えるようにした方が効果が出るはずだ。

毎年研修の受注が出来れば、私の収入は安定するかもしれないが、お客様にとってハッピーな事ではないだろう。それよりは来年から自分たちで新人教育をするための、システムや教材を一緒に開発してあげたほうが、よほど効果は高くなるはずだ。

研修のリピートオーダをいただくよりは、お客様に満足していただき、新規顧客を紹介していただいた方が嬉しい。

現場型コンサルとして、お客様の工程に入る時も、自分だけで現場改善をしてしまってはだめだ。一緒に改善活動をするメンバーに、改善に対する情熱を持たせ、方法論を教え、改善力を鍛えておかねばならない。これをしておかねば、コンサル契約が切れた後、改善が継続しない。

言ってみれば、お客様に釣った魚を差し上げるのではなく、魚の釣り方を教え、うまく釣れる様になるまで練習してもらう。更に釣りの道具が作れるようになってもらう。というのが「現場型コンサル」の仕事だと思っている。


このコラムは、2011年5月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第206号に掲載したコラムです。

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続・研修の目的

 先週のメルマガで「研修の目的」について考えてみた。偶然と思われるが直後に研修の引き合いを連続していただいた。現在QCC道場を二組(全10チーム)指導している。コロナ禍で昨年は研修できなかったのを取り戻そうとお考えの経営者様が多いのかもしれない。

某国の政変で生産ができなくなっている工場を助けるために、研修延期の決断をされた経営者様もある。

しかし研修の目的を考えれば、忙しい時にこそ解決しなければならない課題が明確になっているのではなかろうか?忙しいから残業してもらい、研修の時間も削る。竹槍しかなく「がんばれ」と激励しても成果は期待できない。現場に新しい「武器」を導入することで、忙しさが解消できるはずだ。

忙しい原因は、他の工場の応援生産ではない。こう考えてしまうと、自力では改善できない。政変で生産が止まるのを工場経営者が阻止するのは不可能だ。

忙しい原因は、他の工場を応援する余力がない、と自責で考えれば生産能力向上の課題となる。作業員の多能工化、自動化生産などの課題が見つかる。


このコラムは、2021年5月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1140号に掲載したコラムです。

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研修の目的

 改善手法、QC手法、統計手法、品質管理などなど社内研修の仕事をいただくことがある。

以前あるお客様で統計手法の研修をさせていただいたことがある。会議室には本年の品質目標の項目に「統計手法の活用」が入っていた。年度品質目標を
設定し、研修計画も作られたのだろう。

別のお客様も、同様に会議室に年度品質目標が掲げてあった。しかしこちらは「従業員研修年2回開催」が目標となっていた。従業員研修を開催することを目標にするというのはちょっと違和感を感じる。本来研修はなんらかの目的を達成するために実施するものだと思う。
例えば、営業部門の新人に対して「接客マナー」の研修を行う目的は営業成績の向上が目的だろう。

品質部門で統計手法の研修を行うのは、統計手法の活用で品質改善に貢献するのが目的と思われる。

研修をする側は、目的を達成するために知識、能力を向上し、行動する意欲を高めることが仕事だと考えている。

ずいぶん昔のことだが、研修を専門にしている友人から研修の仕事を回してもらったことがある。研修テーマの他に、研修効果を図るために試験をする事
が条件となっていた。試験をしても得た知識の確認ができるだけだ。本当の目的は研修で得た知識を活用して、行動を起こす事だ。と説得したが、試験の
条件は緩和されなかった。

研修の目的が年2回開催のはずはない。本来の目的を忘れて数値目標を書いてしまったのだろう。数値目標の方が達成度は評価しやすいだろうが、本来の
目的で目標を設定すべきだ。知識を能力とし、行動しなければ本来の目的は達成されない。試験ならば数値で比較はできる。しかし研修前の点数は未知だ。

外部から研修に呼ばれただけで、研修目的の成果にコミットするのは困難だがそこに貢献する努力は必要だと思う。
今開催しているQCC道場は研修目的(QCC活動の目標達成)に向けて直接働きかけができる。


このコラムは、2021年5月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1137号に掲載したコラムです。

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困難

 先週の雑感で、非常識を常識に変える事でブレークスルーが生まれる、と書いた。本日は「困難」について考えてみたい。

困難とは「障害物」ではなく「跳躍台」である。
「全ての逆境にはそれと同等かそれ以上に大きな恩恵の種子が含まれている」ナポレオン・ヒルの言葉だそうだ。

トマス・エジソンは白熱電球の改良のために1年間で5,000回失敗した後に竹をフィラメントの材料にする事で、45時間連続点灯に成功している。1年間休み無しで1日十数回実験を続けた事になる。多分誇張も有るのだろうがエジソンは、5,000回失敗したのではなく「5,000通りの上手く行かない方法を発見するのに成功した」と言っている。

カーネル・サンダースは経営していたガソリンスタンドを倒産させた後、65才でフランチャイズビジネスを思いつき、1,009回断られた後にKFCを起業したと言われている。

トヨタ自動車始祖・豊田佐吉は「百忍千鍛事遂に全うす」と言っている。

困難を乗り越えるには、どうも千回以上の失敗が必要のようである(笑)
困難を「危機」から「機会」に変換し千回の試練に耐える。
地球誕生以来これが出来たのは人類だけだ。
数十億年存在し続ける鉱物は「危機」に耐え続ける事は出来たが、「機会」として活用する事は出来なかった。

ほんの数万年前からの新参者である人類だけが「困難」を「機会」に変えた。
他の動植物と人類の違いは「夢」だ。人類だけが夢を持ち夢に挑戦し、実現し続けて来た。

困難を克服する力は「夢に挑む」力だと考えるがいかがだろう?

参考:「小さな修養論2」藤尾秀昭著


このコラムは、2018年2月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第623号に掲載したコラムです。

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技術の力で障がいという言葉のない社会に

 先週は義足を研究している遠藤謙さんの話を聞いた。彼はXiborg社のCEOとして、主に陸上競技用義足の開発をしている。

遠藤謙さんのTEDスピーチ

歩く、走るという動作を解析し、どのようなメカニズムを義足にインストールするか考える。技術的に大変興味深い研究分野だと感じた。それにも増して、「競技」という要素が研究者たちのモチベーションを高めているように思えた。

足を失ったバスケット部の後輩のために、ロボット研究者だった遠藤さんは、義足研究のために米国に留学している。

後進国の障がい者が使える義足は30$以下にしなければならないそうだ。
ある意味、競技用の義足とは対極にあるような義足開発だろう。インドの少女に義足をプレゼントした動画では、満面の笑みを浮かべ歩いている少女の姿、父親の感謝に満ちた涙目が映し出されていた。

純粋な技術的興味、技術を通した切磋琢磨、他者への貢献、人からの感謝などが技術者のモチベーションを高める要素なのだろう。

競技用の義足は、健常者の記録を超えてしまうこともありうるだろう。
健常者と障がい者の境目が曖昧となり、逆転現象も起こりうる。パラリンピックが障がい者の競技会ではなく、サイボーグの競技会になる日が来るのかもしれない。

彼の研究を支援することは無理かもしれないが、アセアン地域には内戦のため足を失った人が多いと聞いたことがある。アセアン方面の友人に声をかけてみようと思っている。


このコラムは、2017年2月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第514号に掲載した記事です。

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遠藤謙さん さまざまな義足の開発に取り組む

 骨肉腫で足を切断した高校のバスケット部の後輩に、自由に走れる足を取り戻したい――。そんな思いを抱き、慶応大学、大学院と続けてきたヒト型ロボットの研究から、義足の開発に転じた。

 「体に障害がある人はいない。技術に障害があるだけだ」。登山事故で両足を切断したのを機に、義足開発に取り組む米マサチューセッツ工科大教授の言葉に共感して留学。モーターとバネを足首に使うロボット義足に挑戦した。

 慣れない分野の勉強で突発性難聴になったが、病気と闘う後輩のブログを研究室に貼り、自らを奮い立たせた。3年前に帰国、ソニー系の研究所で開発を続ける。実用化にはしばらく時間がかかりそうだが、後輩に試作品を装着してもらいながら改良を重ねる。

 一方で、NGOと途上国向けの安価な義足も手がけ、年内にもインドで生産を始める。留学中に訪れ、「高価な義足を使える人は限られる」と強く思ったからだ。

 昨年5月、競技用義足を開発する会社も立ち上げた。元陸上選手の為末大さんとの出会いがきっかけだ。現在、五輪とパラリンピックの男子100メートル走の世界記録の差は約1秒。「義足の選手が記録を上回れば、障害者ではなくヒーローとして見てもらえるはず」

 障害者と健常者の境目をなくしたい。その思いは、2020年の東京でかなうかもしれない。

(朝日新聞電子版より)

 遠藤謙さん(36)自身は健常者だ。彼の後輩が、病気で脚を失う。後輩のために義足を作る事が、彼の夢となる。人型ロボットの研究から、義足の研究のためにMITに留学する。彼が師事したのは、凍傷で両足を失いながらも自分で研究開発した義足でロッククライミングをしているヒュー・ハー教授だ。
ヒュー・ハー教授は「「身体に障害をもつ人なんていない。テクノロジーに障害があるだけだ」といっている。つまり視力が弱ければ、眼鏡をかける。脚が悪ければ、義足を付けるだけ。不自由無く使える義足の技術がまだ足りていないだけだ、と言う考え方だ。失った脚は、新たな可能性を持った余白だ。その余白を何で埋めるか、と考えれば、健常者と障がい者の境界線は変わってしまうだろう。

彼の夢は、後輩に何不自由無く歩ける義足を作る事だが、そのためにロボット開発を諦めた訳ではない。ロボット技術を活かす事によって、より良い義足を作ることができるはずだ、と言う確信を持って進路を変えただけだ。

そして低開発国の人々に、安い義足を提供したいと事業を興している。
アジアの国々には、紛争時に仕掛けられた地雷が放置されており、今でも多くの人達が脚を失う事故に遭っている。そういう人々を救いたい、と言うのが動機だ。

彼が目指すのは、義足をつくるプロセスの中で派生する技術でより多くの人に役立つもの、より多くの人が楽しめるものを生み出すこだ。そしてそのプロセスそのものが、ワクワクする程楽しいと言っている。
例えば、短距離走用の義足の性能を上げれば健常者より早く走る事が出来るかも知れない。現にパラリンピックの100mの記録は、オリンピックの記録より1秒遅いだけだ。そんなアスリートが活躍出来る義足を作る事そのものが楽しいのだろう。

彼の夢は「利他」だが、他人を応援する事に喜びを見出し、自分の技術や事業を高めようとしている。こういう人はきっと成功するだろう。

彼はTEDにも出ている。(映像は既に削除されたようだ)
お金のある人は、彼に投資るといいだろう。10年後にはきっと大きなリターンがあるはずだ。

高齢者が、上着を羽織る様にひょいとモビルスーツを着て、散歩に出かける。
彼の技術の延長にはこんな光景が見える。
高齢者の医療費を減らしたい政府は、高齢者医療の研究に相当な資金を提供する計画が有る様だ。この分野は「買い」だと思うがいかがだろうか。


このコラムは、2015年2月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第第410号に掲載した記事です。

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中国人青年経営者

 先週末は、第四回東莞和僑会で中国ローカル企業を訪問した。

訪問した会社は、9年前にプラスチック金型エンジニアの若者が、3人の仲間と一緒に起業した会社だ。たった9年の間に、金型設計・生産からプラスチック成型、光ファイバー、衛星通信機器、超小型プロジェクターの開発にまで手を広げている。更にこの年末には、故郷の四川省に工業団地が完成する。

もっと驚くのは、この創業者は今年まだ32歳だと言うことだ。

3人の創業者は皆エンジニアであり、営業は苦手だと言っていたが、顧客の紹介でどんどん仕事が増えた。また政府の研究機関や、大学との協業で新規分野の製品開発も進めている。

人と人とのつながりで、急激に事業を大きくしてゆくチャイナ・ドリームを目の当たりにした思いだ。

一般的に、中国私営企業のオーナー経営者は、事業は自分に富をもたらす道具、従業員は自分に富をもたらすために働く使用人、と考えている人が多いように思う。

しかし彼は、言葉の端々に「会社は自分個人のものではない」「会社の成長は仲間のおかげ」という。上述の中国的経営者と一線を画す、新世代経営者と言って良いだろう。

彼の人柄により、独立前に働いていた日系企業が独立後も仕事をくれた。創業時から、この会社を育てようとずっと付き合っている日系メーカもある。

彼の成功は、仲間を信じ、仲間と夢を共有することにより実現したものだと思う。
更に彼が、従業員全員に夢を与え、従業員の成長を願えば、全従業員が仲間になる。幹部だけではなく、従業員全員に彼の夢が浸透すれば、彼の会社は志を持った集団になるはずだ。

彼がその境地に至った時、彼の会社は利益を追求する道具ではなく、従業員の夢を実現する道具となるはずだ。
出来ることならば、彼のそばで彼の成長を見届けたいと思っている。


このコラムは、2011年11月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第230号に掲載した記事です。

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