コラム」カテゴリーアーカイブ

市場不良対応

 指導先の工場で、QA会議に出席した。

客先で発生した不具合に対し、サービスエンジニアがすぐに駆けつけ処置をして来たと報告があった。これだけを聞くと、迅速な顧客対応が出来ており何も問題がない様に聞こえる。
しかし客先で発生した不具合は、一つ間違えると「重不適合」となる可能性が十分ある不具合だった。

サービスエンジニアから上がって来た報告書には、コネクタの接触不良による電気系統の不具合。コネクタの挿抜により正常復帰。とある。
現場で修理処置をしてしまったため、品証部門は不良現品を見ていない。

これではいけない。
コネクタの接触不良は、不具合原因ではない。
コネクタを抜き差ししたら、正常復帰したため不具合原因だったかもしれないと推定しただけだ。
この推定が正しかったとしても、コネクタが接触不良となった原因は分かっていない。この原因が分かって初めて再発防止対策が出来るはずだ。

全ての市場不具合に対し、ここまでの対応をすべきとは考えないが、重不適合、又は重不適合となる可能性のある不良に対しては、現場修復だけでは不十分だ。

きちんと原因究明、再発防止のプロセスを踏まなければならない。
折角の改善のチャンスをムダにすることになる。


このコラムは、2013年月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第307号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

福島第1の原子炉調査ロボ停止 回収の見込み立たず

 東京電力は10日、福島第1原子力発電所1号機の原子炉の調査のために同日、原子炉の格納容器内に投入したロボットが、何らかのトラブルにより途中で停止したと発表した。停止前に得られたデータは取得できるが、ロボット本体の回収の見込みは立っていないという。

 東電によると、10日午前9時すぎにロボットによる調査の作業を開始。格納容器内への投入に成功し、内部の金網製の踊り場で調査していたところ、午後2時すぎに走行不能になった。操作用のケーブルが障害物に引っかかったことなどが原因とみられるが、詳細は不明という。

 格納容器内の画像や温度、放射線量などの情報について、東電は当初予定の3分の2程度は収集できたと説明している。溶けた核燃料があるとみられる地下階につながる入り口などが観察できたもよう。これらのデータはロボットからの通信により取得できる見込みで、週明けにも公開する。

 東電は13日にも格納容器内の違う場所の調査を計画していた。ロボットはもう1台あるが、予定通り作業を実施するかどうかは改めて検討するとしている。

(日本経済新聞電子版より)

 記事にあった調査ロボットの写真を見ると、研究開発のエンジニアが実験室で手造りした様なシロモノだった。これではミッション開始後僅か5時間で動作停止してしまうのもムリは無い。
勿論、調査ロボットは量産の工業製品ではない。1台、2台しか生産しない極微量製品を機械化生産ラインで生産することは不可能だ。手造りとなるのは当然だ。しかし実験室だけできちんと動作しても意味は無い。

研究開発者と生産設計者の役割は違っている。
極端な言い方をすれば、研究開発者は極力制約を取り払って、自由な発想で新機能を作り込む。生産設計者は、現状の制約条件の中で、不良無く効率よく生産出来る様に設計する。

大企業の場合は、これらの役割が分業化されていることが多い。
つまり研究開発者は、出来るだけ制約条件を取り払った状態で、機能・性能の実現を目指す。それを受けて、製造部門の生産設備などの生産能力に合わせて生産可能にするのが生産設計だ。通常研究開発者と生産設計者との間で擦り合わせをすることにより、製品としての完成度が上がる。

しかし、中堅・中小企業の場合は往々にして、一人のエンジニアが開発と生産設計の任務を担うことになる。更に工程設計もこなす、スーパーエンジニアであることが期待される事が多いはずだ。
大企業と言えども、今回取り上げた事例の様に、極微量生産の場合は一人のエンジニアが二つの任務を担うことはままある。

私は前職時代、世間的には大企業と言われる会社に勤務していた。しかし私が所属していた部門は、ビジネス規模が小さく、小規模の弱小事業部だった。
その結果、我々の組織には開発設計と生産設計の区別は無く、エンジニアは全員両方の役割をになっていた。

しかも、量産投入後垂直立ち上げを要求される製品だったため、短期間で生産を安定化させなければならない。製造部門(外注生産委託先工場)に引き渡した後は、ただただ生産すれば良いレベルにしておかねばならない。

そのために私たちがやっていたことは、設計レビューの徹底とノウハウの蓄積だ。これらを運用すると相乗的にレベルが上がって来る。つまり設計レビューのレベルを上げると、ノウハウの蓄積が加速する。ノウハウが蓄積されると設計レビューのレベルが上がる。

その結果、受注してから量産第一ロット出荷まで1ヶ月で終えて、お客様に感謝していただいたこともある。既存機種のモデルチェンジではない。顧客の新規製品に合わせて設計した専用製品だ。

設計部門は無く、日本本社やお客様から設計図面を受け取って生産をする工場も、この発想を持つことが重要だと思っている。試作段階から設計に関与し、量産までに生産や設計の問題を潰しておく。製品ライフサイクルがどんどん短縮されている。生産工場も製品投入リードタイムの短縮に貢献しなければならない。

私たちの設計部門では、直系生産子会社の生産技術者が常時1、2名一緒に仕事をしていた。設計業務が出来る訳ではないが、設計補助作業をやりながら、新製品の製造上の問題点や開発の進捗などを把握することができる。子会社の経営者からすれば、ムダなコストをかけていることになるが、若手生産技術者の育成効果や、開発状況の把握に利点があると考えていたのだろう。


このコラムは、2015年4月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第419号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

18年前に電源喪失対策検討 「重大性低い」安全委結論

 東京電力福島第一原子力発電所が東日本大震災時に全ての電源を失い炉心溶融を起こした問題で、国の原子力安全委員会の作業部会が1993年に、全電源喪失対策を検討しながらも「重大な事態に至る可能性は低い」と結論づけていたことがわかった。安全委は13日、当時の報告書をウェブで初めて公開した。今後詳しい経緯を調べるという。

 報告書は安全委の「全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループ」が作った。専門家5人のほか東電や関西電力の社員も参加。安全委の作業部会はどれも当時は非公開で、今回は情報公開請求されたため、公表した。

 米国で発生した全電源喪失の例や規制内容を調査した。その結果、国内では例がなく、米国と比較して外部電源の復旧が30分と短いことや、非常用ディーゼル発電機の起動が失敗する確率が低いなどとした。「全交流電源喪失の発生確率は小さい」「短時間で外部電源等の復旧が期待できるので原子炉が重大な事態に至る可能性は低い」と結論づけていた。ただし明確な根拠は示されていない。

(asahi.conより)

 FMEA(故障モード影響分析)についてはこのメルマガでも何度も紹介した。

FMEA

原子力発電所の設備用交流電源が失われるという、潜在故障に関して18年前に対策を検討したという。これがFMEAだ。

FMEAでは、潜在故障を、故障の発見容易度、故障の発生頻度、故障の影響度を評価する。
18年前の検討では、

  • 発見容易度:
    これは記事には書かれていないが、電源が失われればすぐに分かるはずだ。これはリスク点数は低いと判断しただろう。
  • 発生頻度:
    非常用のディーゼル発電機の起動が失敗する確率は低い、と判断している。
  • 影響度:
    外部電源の復旧が早いので影響は少ない、と判断している。

18年前の検討が不十分だったため、大事に至っている。
その内容を再検討してみたい。

発見容易度に関しては、異論はない。

  • 発生頻度に関して:
    故障モードを発電機の起動失敗だけ上げているところに問題がある。
    非常用発電機の故障、非常用発電機の水没、発電機燃料の喪失、電源配線系統の故障などもっと想定しなければならない潜在故障があったはずだ。
  • 影響度に関して:
    外部電源の復旧にかかる時間の絶対値が記載されていないが、外部電源が復帰するまでには、原子炉が危機的な状況(炉心溶融)には至らないと判断したのだろう。
    これも外部電源喪失の潜在故障検討が不十分といわざるを得ない。

潜在故障をきちんと列挙していれば、過去のデータ(米国と比較して外部電源の復旧が30分早い)が役に立たないのは明白だったはずだ。

FMEAではこれらの三つの指標を掛け算し、PRN(危険優先指数)を求める。PRN値が高いものから優先的に事前対策を講じておくというのが、FMEA手法だ。

しかし自動車業界などではPRN値が低くても、影響度の高い潜在故障モードには事前対策を施すようにしている。
「非常用電力の喪失」という潜在故障モードは、炉心溶融という最高レベルの故障影響度を持っていたはずだ。

最大の問題点は「米国で発生した全電源喪失の例や規制内容を調査した」というアプローチの間違いだと考える。米国の原子力発電と日本の原子力発電はその方式も、立地条件も異なる。安易に他の事例を、そのまま取り入れてOKとするべきではないだろう。

米国と比較して外部電力の復旧が(平均?)30分早いなどという過去のデータが論拠となるはずがない。

事故には莫大な授業料がかかる。
今回の東日本震災でも、かけがえのない人命を含む莫大な授業料を払っている。この中から、教訓を得ることが必要だ。

潜在故障モードとして不足しているところはないか、潜在故障モード発生原因の推定に不足はないか、総点検をしなければならない。

我々は常に進化している。
18年前の結論をどれだけ高く超えられるかが、次世代に継ぐ我々の責任だろう。

あなたの会社ではFMEAは常に進化していますか?


このコラムは、2011年7月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第214号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

八木澤商店

 TV東京の番組「カンブリア宮殿」で、八木澤商店を知った。陸前高田にある創業100年を越える味噌・醤油を造る老舗だ。東日本大震災で、壊滅的な被害を受けている。

震災時に河野通洋社長(当時は専務)は、従業員と共に裏山の神社に非難した。
目の前に津波の濁流により社屋が流されるのを見ながら、今ある現預金で、従業員に何ヶ月給与を払い続けられるか考えたそうだ。被災時のパニック状態の中で、良く冷静にそこまで考えられたと感心する。非現実的な状況を目の前にしても、心をフロー状態に保つことができたのだろう。

震災後先代から社長を引継ぎ、パートを含む全従業員の雇用を継続すると宣言し、その場で給与を支払っている。工場も商品も皆流されている。売り上げの目処もない。ナミの経営者では出来ない事だ。
そういう志しの高さが有るから、被災を免れた経営者から、当分の生産場所を提供してもらえたのだろう。

番組中で河野社長が語った事を紹介しよう。

  • 強い者が生き残る世の中を作るよりは、皆が安心して暮らせる世の中を作る方がよほど難しい。それをやる人達は「青臭い」と言われ指をさされて笑われるだろう。でもそれが出来るのが日本の中小企業だ。
  • 日本の中小企業は、地域の中で思いの長い持続可能な社会を作り続けて来た。
  • 10年間同じことをやっていたら、皆消えてなくなる。だから皆が集まって学んで、磨き合って、新しい価値を作る。
  • 普通は衣食足りて礼節を知ると言う。震災時には衣食が足りていなくても、日本人は義で活きて行ける。
  • 人のためになんとかするから、自分自身が活きられる。
    人のために役立っていると言う自覚が有るから活きられた。自分が食えなくても、自分の服が無くても、そういう話しが一杯あった。人のために動くから自分が強くなれる。
  • 人を助けようと思った人が亡くなってしまった。
    水門を閉めに行くと言う社員を止められなかった河野社長がそう語ったとき、彼の目に涙があふれているのが、私のかすむ目にも見えた。
  • 震災と言う困難を乗り越えた河野社長の奮闘は、称賛に値する。しかしこの番組の本当の価値はそこではない。同じ様に被災した中小企業同士が、お互いに励まし合い、工夫をして新しい価値を作り出している事に注目したい。

一つ一つの中小企業は、力が無いかもしれない。しかし皆で協力すれば強くなれる。常に心に留めておくべき教訓を得た。


このコラムは、2015年3月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第415号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

中国で福島原発風評被害?

 『南方都市報』という地元紙に、広州花都地区の野菜農家が畑で泣いている写真が掲載されていた。

福島原発の放射能漏れの影響で野菜の価格が暴落し、出荷もままならなくなっているという。記事には出ていなかったが、花都地区で生産される生鮮野菜から微量のヨウ素-131が検出されたという風評が広がっているようだ。

大変申し訳ないことだ。福島原発の事故が、海を汚染し、この様な風評による二次被害まで引き起こしている。

力にはなれないかもしれないが、せめて生菜(レタス)上海青(チンゲン菜)油麦菜など風評被害に遭っている野菜をたくさん食べようと思う。

半減期が何万年もあるような、核廃棄物を未来に繰り延べにする様なやり方に問題があったとしか思えない。

ヤマタノオロチとうすうす気が付きながら、これは蛇だと自らを欺瞞してきた。そのヤマタノオロチが本性を現し、暴れ始めた。私たちは恐れおののいているだけでは、飲み込まれてしまう。戦ってこそはじめて「天叢雲剣」が手に入る。

クリーンエネルギーなどという聞こえのよい隠れ蓑を用意するのではなく、省エネ技術を更に磨き上げ、代替エネルギーの実用化を推し進めるのが私たち日本人の責任だと考える。


このコラムは、2011年4月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第202号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

ソニー、夏休み2週間に 25%節電、他企業に波及も

 ソニーは13日、今夏の節電対策として、社員全員を休ませる夏休みを2週間設ける方針を固めた。勤務日も冷房を節約、勤務体系を工夫して節電する。政府は今夏のピーク時の電力使用を前年より25%以上減らすよう企業に求めており、これを達成する。経済界に同様の動きが広がりそうだ。

 ソニーは例年、一斉の夏休みを2日間とっている。今年は大幅に長くして7、8月に設定し、そもそも電力需給がひっぱくする時期を休んでしまう。その間は本社ビルや研究所などを閉める一斉休業日とする。代わりに年内の祝日計7日間は勤務日に変える。

 また、7~9月は、電力需要が多い平日を事業所ごとに1日休日にする。全体の使用電力を抑え、代わりに土曜日か日曜日を勤務日に変える。始業時間も、通常の午前9時を前倒しして、電力需要のピーク時に重なる時間を減らす。

 電機大手で、具体的な節電対策を固めたのは初めて。日本経団連では、こうした自主的な節電計画を業界ごとに4月中に取りまとめる。大手各社は現在、自主計画を検討し始めており、ソニーの対策を参考にする企業も出てきそうだ。

(asahi.comより)

 業界に影響力がある企業から、具体的な節電対策が出てきた。こういう動きがもっと広がると、電力供給バランスにめどが立ってくるだろう。

中国広東省では、慢性的に電力が不足している。夏季に一週間のうち1日は給電がない、というのは当たり前だ。一週間の内3日給電がないという事例も聞いたことがある。
それぞれの工場が、休日を振り替えて対応している。
休日返上してフル生産している工場でも、1日の操業停止は、14%程度の稼働率ロスに過ぎない。生産効率を改善すれば、この程度のロスは十分穴埋め出来るはずだ。

岐阜県にある電設資材メーカ・未来工業などは、有給休暇が年間140日もある。それでも775名の従業員で、年間売り上げ255億、17億の経常利益を出している。しかも残業は禁止だそうだ。

初めから、それだけの稼動日しかないと考えれば、必死で生産効率を上げる工夫をする。そういう工夫が、現場力を上げ、収益体質を作ることになる。


このコラムは、2011年4月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第201号に掲載した記事です。この記事を書いた当時は、東日本大震災の直後です。当時は企業も家庭も電力消費を減らすことが課題でした。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

福島原子力発電所

 東日本大地震による大津波の影響で、福島原子力発電所の制御システムが壊滅的なダメージを受け、今もまだ危機的な状況にある。自衛隊、消防庁、電力会社などの人々の、被爆をも恐れぬ献身的な活動に、目頭が熱くなる。

われわれ日本民族の未来を懸けた戦いはまだまだ終わりではないが、福島原子力発電所の事故に関して、自分が受け取った教訓について書きたい。

原子力発電所の事故につながる地震・津波の天災を「最も準備ができている日本と日本国民に与えた、神の試練」とする海外のコメントがあった。災害時に略奪、暴動が発生する国の人々にとって、地震で棚から散乱した商品を拾い上げてレジに並ぶ人々を見るのは、奇跡に思えるだろう。

災害時といえど、人としての誇りと他人を思いやる気持ちを保ち続けることが出来る日本人の民族性を、誇りに思っている。

そして今回の原子力発電所の事故は、非常事態用の安全装置、緊急冷却装置や緊急用発電施設が、すべて機能を失ってもまだチェルノブイリの様な本格的危機の発生を抑えている。しかも福島原子力発電所は、チェルノブイリ事故の発生以前にすでに運転を開始している。

40年近く前に設計された原子力発電所のフォールトレラント性(事故許容性)が非常に高かったため、想定外の地震、津波が発生してもまだ危機的な状況に至っていない。

非常用のバックアップ設備が津波により一気に機能しなくなった、しかも制御システムも瞬時に重大な機能不全に陥ったはずだ。
このような状況下で、チェルノブイリのような危機的状況の発生を抑えられているというのは、日本の原子力発電所のフォールトレラント設計の高さを証明している。

全ての制御機能を失うという事は、全ての窓にカーテンがかけられ、全ての計器が正しい値を示さない自動車を運転することと同じだ。しかも車をその場で停止するだけではない。路肩の安全な場所に移動して停止する必要がある。高度な危機対応能力がなければ、出来ることではない。

これらのフォールトレラント性、危機対応能力が海外のメディアから高く評価されている。中国のTV報道によると、中国本土、台湾ともに日本の事例を元に国内の総点検を開始している。中国では、今申請中、建設中の原子力発電所は全て凍結されたようだ。

高い評価を受けたとしても、まだ危険な状態を脱しきれていない。
M9級の大地震、20m級の津波が同時に発生したのだから、止むを得ないとは当事者ならば誰も考えないだろう。人の命が懸かっている、諦められるはずはない。

このような状況は、工場経営にも起こりうる。
天災だけではない。生産フル稼働中に生産設備が故障。停電時に自家発電機が故障。PCのデータをバックアップ中にPCがフリーズ。つまり期待していたバックアップ機能がうまく作動しない事故。

従業員のストライキ中に火災が発生。部材の調達遅延と、在庫部材のロット性不良が同時発生。生産が遅れ、出荷を航空便に切り替えようとしたら航空会社がストライキ中。つまり単一の事故は想定していたが、二重に事故が発生する場合。

今回の福島原発事故を教訓に、事前に対応を検討することは可能だ。
しかし全てのケースを予め想定しておくことは困難であろう。予想不可能の事故が発生した場合の対応優先順位を予め決めておく必要がある。

人命・人身への影響は第一優先とする。
次に顧客への製品供給を守る。つまり代替が利かない設備や材料の確保を優先。(たぶんこの優先順位は、業界を超えた共通の原則だと思う)

この様に決めておいた優先順位に従って、対応を決定してゆけば、大きな間違いは発生しないだろう。

最悪の事態は、トップリーダが冷静な判断力を失うことだ。
これを防ぐためには、平常時より部下に緊急時の心得を指導し、模擬演習をしておくことだ。実はこの模擬演習は部下の緊急時対応能力を育成するためだけではなく、緊急時に自分自身が冷静を保つ訓練の意味もある。

【この記事を書いた時には、まだ原子力発電所が危機的状況にあることは報道されていませんでした】


このコラムは、2011年3月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第197号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

在庫の削減

 例えば、完成品倉庫が狭くなったので何とかしたい、という課題を持ったお客様に、自動倉庫やMRPシステムを提案してはいけない。

それはなぜ完成品倉庫が狭くなっているのか、という本質問題を解決していないからだ。本質問題を解決せずに、システムや自動倉庫を導入してもムダを機械化してしまうだけだ。

いきなり自動倉庫を導入しなくても、今まで2段だった棚を3段、4段に増やす。その結果フォークリフトが必要になる。不必要な管理が増える。その実問題は何も解決されておらず、遠からぬ将来また倉庫が足りないという問題が浮上するはずだ。ただ問題を先送りしただけとなる。

完成品倉庫が狭いという問題の本質的原因に対策を打たねばならない。

なぜ完成品倉庫が狭いのか?
完成品が多いから。なぜ完成品が多い?
出荷量以上に作りすぎるから。なぜ出荷量以上に作る?
まとめて作ったほうが効率が良いから。なぜまとめ造りが効率が良い?
段取り換えに時間がかかるから。なぜ段取り換えに時間がかかる?
……

という具合に完成品倉庫が狭くなってしまった原因を調査し改善しなければならない。

上述のお客様は、段取り換えに時間がかかる、不良率が変動し歩留まりが読めない、などの理由により出荷量に大きな安全係数をかけて生産投入している。これが完成品倉庫が手狭になる根本の原因だ。

この問題を解決しなければ、どんなに良いMRPを導入しても、自動倉庫に投資をしても問題は解決しない。


このコラムは、2011年6月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第210号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

全てにYESという

 ポジティブな発言が、ココロをポジティブにし、行動をポジティブにする。そして成果がポジティブになる。単純なことだが、これを意識しなくても自然と出来ているかというと、少々自信がない。

少し前に“YESMAN”という映画をDVDで見た。

銀行の融資係に勤めるカール・アレンは、仕事にもプライベートにも「ノー」「嫌だ」「パス」と答える極めて後ろ向きの男だった。だから友達もいなく、夜は一人でレンタルビデオを見る生活だ。唯一の友人も失いそうになったのがきっかけで、怪しいセミナーに参加する。
それ以降何事にも「Yes」としか言わないと決めた。たったそれだけのことで、自分の行動が変わり、周りが変ってゆく。

「自分が変わると、自分の周辺まで変わる」そのメカニズムを考えてみた。
自分の周りで発生していることは、「相対的」なものだ。つまり自分の周りで発生している事象を評価・認識するのは自分の心だ。従って自分の心が変われば、周辺も変わる。このメカニズムを「相対性理論」と名付けてみた(笑)

一見何の変哲もない、アメリカのコメディドラマだが、私に「相対性理論」を思いつくきっかけを与えてくれた。

実はこの映画、イギリスのBBSラジオディレクターの実体験が原作だそうだ。
“イエスマン-”Yes”は人生のパスワード”
原作:ダニーウォレス 翻訳:寺西のぶ子


このコラムは、2010年9月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第170号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

品質改善

 先月の定例セミナーにご参加いただいた方に、生産委託先の品質改善をどうしたら良いかという相談を受けた。

例えばネジを4点締めなければならないところを3点しか締めてない物が見つかり、日本で全数再検査したと言う。大変な品質損失コストである。

工場で検査をさせても無駄なコストが発生する。
品質とコストがトレードオフ関係になる対策はうまく行かない事が多い。工程できちんとネジ4本が締めてある事を保証するようにしなければならない。

作業前にネジを4本取り置き、作業後過不足なくネジが使われている事を確認する。もしあまっていれば締め忘れ、足りなければ製品の中に落ちている可能性がある、ということだ。

問題がおきてから考えるのではなく、事前に問題が起きそうな工程でこういう品質作りこみの仕掛けを用意する。
このような不良未然防止活動で品質損失コストは大幅に減らす事が出来る。


このコラムは、2008年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第43号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】