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不可能がチャンス

 改善の指導をしていると,先方のリーダから「それはムリだ」「これこれの理由で出来ない」と言う反対意見が散々出る.

考えて欲しい,昔人類は馬のように早く走ることは不可能だと思っていた.しかし馬を飼いならし,馬に乗ることを覚えた.そして馬より早く走ることは不可能だと思った.しかし蒸気機関を発明し,自動車を発明した.
今道がなければ,自動車は走れないと思っている.しかしその内道がなくても自由に移動することが出来るモノを発明するだろう.

つまり人類の歴史は,不可能を可能にしてきた歴史だ.

「不可能な事」などこの世の中にはない.ただ「不可能だと思っている事」があるだけだ.

皆が不可能だと思っていることを可能にすれば,革命になる.
そんなに難しいことではない.不可能だと思っていることも,業界が変われば常識だったりする.

作業員が集まらない,生産が出来ないと嘆くことはない.少ない人数で生産する方法を考えれば良いのだ.設備投資をする余裕が無い,工場が狭いなど制約条件が多ければ多いほど,チャンスが大きい.

絶対に不可能だと思っていることは,今までの方法で出来ないだけだ.
ならば方法を変えれば良いだけだ.失敗を恐れることはない,失敗を繰り返せばそれだけ成功は近づく.
不可能を可能にする信念と,失敗を恐れない心があれば必ずうまく行く.


このコラムは、2011年1月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第第189号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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千丈の堤も蟻の一穴から

「鉄パイプ落下の現場、業者変え作業再開 新たな防止策も」

 和歌山市の12階建てビル屋上の工事用足場(地上約45メートル)から鉄パイプ(重さ約5キロ)が落下し、直撃を受けた通行人の男性(26)が死亡した事故で、中断されていた足場の解体作業が23日朝、再開された。発注元の会社によると、安全確保徹底のために業者を変更し、新たな業者が決まるまで作業を中断していたという。

(朝日新聞より)

 NHKの報道によると、落下物が通行人や作業員に当たる事故はこの10年間で少なくとも44件発生、14人が死亡している。

本件死亡事故現場では、四日前に鉄パイプの落下事故が発生している。死傷者はなかったが「ヒヤリ・ハット事故」だ。

足場解体業者は鉄パイプを固定する金具が緩んでいたことが事故原因とし、以下の再発防止策を提示した。

  • 金具がゆるんでいないかすべて確認
  • 落下物を防ぐための防護ネットを設置する
  • 鉄パイプに落下防止のロープを取り付ける

しかし工事再開後翌日、再び鉄パイプが落下し死亡事故となった。

上記の再発防止が行われていれば、事故は発生しなかったはずだ。
業者が再発防止を遵守しなかったと考えるのが妥当だろう。
しかし上記の再発防止は全て行ったのだろう。ただし再発防止に以下のような問題があったのではなかろうか。

  • パイプ固定金具の緩みは全て確認した。しかし解体作業のために固定金具は緩める必要がある。
  • 防護ネットは設置した。しかし足場全て解体撤去前に防護ネットを外してしまった。
  • 鉄パイプ落下防止ロープは取り付けた。しかしロープの固定方法が悪く、パイプが傾いたときに落下した。

こんな状況が容易に推測できる。
つまり以下のようは状況だったと思われる。

  • まとめ作業で固定金具を先に全部緩めてしまった。
  • 全ての作業終了前に防護ネットを外してしまった。
  • 落下防止ロープの掛け方が不適切だった。

今回の事故の真因は、再発防止策を安易に検討・実行したことだろう。

  • 対策検討時のリスク検討が不足していた。
  • 対策実施時の作業手順が現場作業員に明確に指示されていなかった。

せっかく「ヒヤリ・ハット」の時点で事故防止のチャンスがあったのに残念だ。
「千丈の堤も蟻の一穴から」のたとえ通り安全事故の防止対策は細心の注意力を以てせねばならない。


このコラムは、2019年11月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第907号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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ハードパワーとソフトパワー

 中国の拡大政策が止まらない。『一路一帯』と称してアジアから欧州まで、アフリカ大陸、ニュージーランド、北極圏まで手を伸ばしている。それらの国々は中国からの資金に期待しているように見える。しかし借入金を返済できなければ、領土を取られる。チベット、香港の人々は相当抑圧されているように見える。

一方で、日本は米国に原子力爆弾を投下され国中を焦土にされ占領された。
しかし現代の日本国民の大方は「鬼畜米英」などとはいわない。むしろ米英に親近感さえ抱いている。この違いはどこから来るのだろうか。

少年期を「ALWAYS三丁目の夕日」の時代で過ごし、高度成長とともに成長した世代の私にとって、アメリカは憧れだった。「名犬リンチンチン」「名犬ラッシー」「ライフルマン」「ザ・ルーシー・ショウ」「パパは何でも知っている」などのテレビドラマが世界に開いた窓だった。

今思えば占領国である米国は、それらTVドラマのソフトパワーで戦後の新世代を「洗脳」し親米国家を育て上げた。さらに占領軍が派遣したデミング博士の教えにより、日本は米国と比肩しうる工業国家に成長した。

その後もロカビリー、ポップス、映画などのソフトパワーで親米日本人を育成し続けている。

70年安保の頃、毛沢東語録を胸のポケットに持った学生が多くいた。しかし中共も毛沢東も日本人に何ら夢を与えなかった。夢を失った革命闘士は内ゲバに走り、自ら消滅していった。

第二次世界大戦後の覇権国家・米国はソフトパワーで世界を制し、その後中国が、金と軍事力のハードパワーで世界覇権を狙っているように思える。

2500年前中国は老子、孔子などの偉大な思想家を持つソフトパワー国家だった。
残念ながらそのソフトパワーは引き継がれていないようだ。
孔子は政治家を「ああそうひとなんかぞうるにらんや。」と嘆いている。(《論語》子路編第十三-20

孔子には現在の中国が見えていたのだろうか。


このコラムは、2019年11月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第906号に掲載した記事を改題・加筆しました。

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大型タイヤ脱落

大型トラック、バスからタイヤが脱落する事故に関して興味深い記事が出ていた。
「大型タイヤ脱落、4~6年目注意 部品交換直前、ハブ・ボルト劣化 事故、7年間で7倍」

(朝日新聞)

記事を要約すると、2002年に発生したトレーラーのタイヤが外れ、母娘三人が死傷する事故が発生以来、国土交通省は8トン以上のトラックや定員30人以上のバスで起きたタイヤの脱落事故を集計している。
その統計によると、2004年度87件から2011年度11件まで減少したが、近年増加傾向にあるという。2018年度は前年比14件増の81件発生している。

この事故の発生時期を分析すると、11~2月が54件(全体の67%)、タイヤを取り付けてから3カ月以内に起きた事故が70件(全体の86%)、積雪の多い地域での発生46件(全体の57%)、であることが判明。

以上の分析から、夏タイヤから冬タイヤに交換した際にタイヤホイールを固定するナットの締め付けに問題があると推定。
国土交通省は以下の対策を呼びかけた。

  • タイヤを交換する際に適切な力でナットを締める。
  • タイヤを交換して50~100kmを走った後にナットを締め直す。
  • 運行前にハンマーを使って点検。
  • タイヤを交換する冬場に特に注意する。

しかし対策を実施しても事故は増加傾向にあった。

さらに事故発生車両について過去4年間に事故を起こした車両を調査した結果車両の登録後の使用期間で以下のことがわかった。

  • 登録後4~6年目の車両の事故が95件(全体の約4割)
  • 登録後7年以降の車両は事故が大幅に減少。

単純にタイヤ交換時のナットの締め付けの問題とは言えなくなった。
車両メーカによるとタイヤのハブやボルトは7~8年で交換することが多い。

以上の結果、タイヤ交換が頻繁にある雪国で使用する車両で且つハブやボルトが交換してない車両を重点的に点検すれば良いことがわかった。

事故車の破断したボルトの破断面を調査しても、疲労破断とナットの締め付け不良による破断の区別がつかなかったのだろう。
この事例では、原因不明の事故の統計データを発生時期(季節・使用期間)に着目して見直したことで原因が特定できた。

同様なことは製造業でもある。
不良率の変動を月ごとに見直すことで乾燥(静電気)が原因とわかった。
不良が発生する時間を調べるたら近隣を列車が通過する時刻と一致した。

原因がなかなか特定できない事故や不良を調査する時に「統計データの切り口を変えてみる」というのは、業界が違っても役に立ちそうだ。


このコラムは、2019年12月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第910号に掲載した記事です。

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行政文書流出

 神奈川県庁のサーバーから取り外されたハードディスク(HDD)がネットオークションを通じて転売され、大量の行政文書が流出した問題で、神奈川県は6日、「データ消去やHDDの廃棄を請け負った企業の社員が18個転売していた」と明らかにした。うち9個は回収済みだが、9個は行方がわからず回収できていない。

(朝日新聞より)

 3TBのHDD18個で1800万件の納税情報になるという。9個のHDDは回収済みなので、900万件の納税情報が行方不明となっている。

報道によると、神奈川県庁のサーバーをリース会社に返却。県庁はリース会社にHDDのデータを復元不可能な状態とすることを契約条項に入れていた。リース会社は、廃棄処理会社にHDDのデータ完全消去(データを完全消去するか、HDDを物理的に破壊)するよう指示。廃棄処理会社の従業員が、HDD18個をネットオークションで転売。

実行犯である従業員はHDD内のデータが何であるか、完全消去が契約条件であることを知らなければ、横領の罪にしかならないだろう。

廃棄処理会社は、HDDを完全消去しなければならないこと、消去作業の完了・未完了を現物に表示しておかねば「事故」が起こることを予測できたはずだ。当然データ流出の責任を問われるだろう。

しかしデータの守秘義務は県庁にあるはずだ。サーバ返却時にリース会社との契約にデータを復元不可能な状態とすることを入れておいても免責となるわけではないと思う。

HDDの再フォーマットは時間はかかるが、手間はかからない。
県庁はHDD再フォーマット後にリース会社に返却すべきだったのではないだろうか。


このコラムは、2019年12月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第913号に掲載した記事に加筆修正しました。

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心理学実験

「心理学実験、再現できず信頼揺らぐ 学界に見直す動き」

「つまみ食いを我慢できる子は将来成功する」「目を描いた看板を立てると犯罪が減る」――。有名な心理学の実験を検証してみると、再現できない事態が相次いでいる。望む結果が出るまで実験を繰り返したり、結果が出た後に仮説を作り替えたりする操作が容認されていた背景があるようだ。信頼を失う恐れがあり、改めようとする動きが出ている。

(中略)

 最も典型的な例とされるのは米スタンフォード大学で60~70年代にまとめられた「マシュマロ実験」だ。研究者は幼い子どもの前にマシュマロを置いてしばらく席を離れる。その間にマシュマロのつまみ食いを我慢できた子は「その後、高い学力などを身につけ社会的に成功する」という内容だ。

 全文はこちら

(日本経済新聞 電子版より)

 マシュマロ実験

マシュマロ実験とはタンフォード大学の心理学者・ウォルター・ミシェルが1970年に行った実験だ。
実験の対象は、大学職員の子どもたちが通う、学内の付属幼稚園の4歳の子供186人。子供たちを机と椅子だけの部屋に入れ、椅子に座らせる。机の上には皿があり、マシュマロが一個載っている。
実験者は「私はちょっと用がある。それはキミにあげるけど、私が戻ってくるまで15分の間食べるのを我慢してたら、マシュマロをもうひとつあげる。私がいない間にそれを食べたら、ふたつ目はなしだよ」と言い部屋を出ていく。

この実験でマシュマロ(目の前の欲望)を我慢しもう一つのマシュマロ(将来の価値)を手に入れたのは1/3ほどだった。

実験当初は、どういう行動をする子供が食べるのを我慢できるのかを観察するのが目的だったようだ。しかしその後、ウォルター・ミシェルは実験結果と子供の成長後の社会的成功に相関があるのではないかと気がつき、追跡調査をする。

1988年に実施した追跡調査では、22歳に成長した被験者を目の前のマシュマロを我慢出来たグループと我慢出来なかったグループに分けると、大学進学適性試験(SAT)の点数には、トータル・スコアで平均210ポイントの相違が認められ、我慢出来たグループの方が成績が優秀だったと結論づけた。

この実験結果により、「我慢強い子どもは成績も良くなる」というもっともな定説が出来上がった。

しかし2018年に別の研究者たち(ニューヨーク大学のテイラー・ワッツ、カリフォルニア大学のグレッグ・ダンカンとホアナン・カーン)の再実験によりこの定説が覆る。こちらの実験では対象者を900人以上とし、いろいろな階層の子供を調べた。

その結果分かったことは、「二個目のマシュマロを食べるのは家庭の経済的な背景に影響を受けている」ということだった。ウォルター・ミシェルらの実験は対象が大学職員の子供であり、経済的背景はほぼ同等だったと推測される。

現代の成功する若者が「我慢強い」という性格を武器としているとは思えない。
むしろ目の前にある「マシュマロ」に対して旺盛な好奇心を持っており、まずは手をだし、触り、匂いを嗅ぎ、食べてしまうだろう(笑)その上で色々な事を思いつき、全く新しいビジネスをローンチするのではなかろうか?

製造現場でも、この事例から学べることは大きいと思う。
現象から推定した因果を間違わないようにするにはどうすべきか、という命題が与えられたということだ。

結果の統計的な解釈も必要だろう。
SATテスト(当時は2400点満点)62人と124人の平均点の差が210点というのが統計的に有意であると言えるだろうか。


例えば「完成品倉庫が狭い」という課題は、本当に倉庫が狭いのではなく、「注文よりたくさん作るから」が原因である。というのがマシュマロ問題からの教訓だ。これを間違えると、「倉庫を増築する」という間違った課題解決に向かう。


このコラムは、2019年12月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第916号に掲載した記事です。

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不安パッと消えます

 布マスクで「不安パッと消えます」 官僚案に乗って炎上

 新型コロナウイルスの感染拡大防止をめざし、安倍晋三首相が表明した全世帯に布マスク2枚を配布する施策に疑問の声が上がっている。市販マスクの品薄解消のための、1カ月以上前からの「腹案」だったが、予算規模や確実に行き渡るかなど不明な点が多い。

(全文)

(朝日新聞より)

4月3日付の朝日新聞の記事だ。

武漢市封鎖中の中国から日本に戻ってきて、コロナウィルス感染に対する国民の危機意識の低さに呆れている。

国や自治体の対応の緩さも、中国と比較すると大きな差を感じる。
民主主義と一党独裁の政治体制の違いがあり、やむを得ないのかとは思う。

しかし日本の政治は「批判を避ける」政治になってはいないだろうか?
某新聞社は、政府のすることには全て批判する姿勢を貫いて報道をしている。
政治家や官僚はマスコミ・世間の顔色を伺いながら政策を決めているように思えてならない。

今回の報道では、コロナウィルス感染が始まった頃から効果が薄いとされていた布製マスクを一世帯二枚無償配布すると言う。ウィルスにとってスカスカの布製マスクをしても効果があるとは思えない。三人以上の家庭も多くあるはずだ。洗って使えるとはいえ、乾くまではマスクは使用できない。

問題は、マスクが不足しており購入できないことだ。
効果が期待できないマスクを各家庭に二枚配布して意味があるのか?
マスク不足を解消するには、マスクの供給を増やすしかない。こんな単純なことにどうして気がつかないのだろう。

各家庭に配布するマスクのコストが200億円だと言う。さらにそれを配達するコストが必要となる。郵便で送れば80×5000万世帯=40億円だ。
240億円もあれば、不織布を作る設備、マスクを作る設備を買うことができるだろう。この設備をコロナショックで倒産しかけている中小企業に無償供与。売上減少で解雇した従業員を再雇用して、マスクを全力生産。240億もあれば設備は何台も買えるだろう。地方に分散してマスクを生産すれば、地方経済も活性化する。危機脱出後は、通常の国内需要が確保できる設備だけ残し、他は経済援助として開発途上諸国に供与してしまえば良い。

【閑話休題】
シャープは政府の要請に従って、マスクの生産を開始した。TVニュースで生産工程の映像が映っていた。映像を見ると最終工程に検針装置らしきものが見えた。衣料品生産の工場では、折れた針が製品に混入していないことを保証するために、最終工程絵で検針装置を使うことが常識となっている。

玩具を生産している人に確認すると、不織布にホッチキスの針などが混入していることがあるので、検針装置を使うそうだ。
中国のマスク工場を見ると「オトメーション」(女工さんの手作業で生産)だ。台湾企業となってしまったシャープだが、現場の品質力はいまだ日本企業だ。


このコラムは、2020年4月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第963号に掲載した記事です。

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データの活用

 先週はダイキャスト製品を生産する中国民営企業を訪問した。
金型の設計から、成形、表面研磨、表面処理、塗装までワンストップで生産できる工場だ。創業以来優良な顧客があり、受注・売り上げを順調に伸ばしているが、利益が出ないと相談を受けた。

生産現場を一回りして、利益が出ない理由が想像できた。工程内不良が多いため利益が出ていないようだ。

総経理の話を聞くと、生産の歩留まりや直行率などのデータを活用していないようだ。ダイキャスト製品は、工程内不良が発生しても不良品を鋳潰して再度成形することができる。直行率が低くても材料コストは増えない。しかしやり直しのための労務費をはじめとする様々なコストが発生しているはずだ。

まずはこれらの損失コストを機種ごとに把握しなければならない。
そして工程内で手直し(例えば反りなどの変形の手直し)の損失コストを機種ごとに把握する。そして機種ごとに損失コストを集計し、損失コストの大きい機種から改善をしていけば良いはずだ。

作業による不良要因が少ないので、金型の設計を改善すれば損失コストは低減できるはずだ。

そして次のステップは、設計完了後試作段階で設計の完成度をデータで評価し、一定以上の直行率が確保できていることを確認したのちに量産を開始する。データを活用して製品実現プロセスに関門を作る。こうしておけば、私の手を離れた後も安定した品質が得られ、利益が出るはずだ。


このコラムは、2019年12月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第921号に掲載した記事です。

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タイミングイズマネー

 通常は、タイムイズマネー(時は金なり)という。
製造業の立場から言えば、従来の半分の時間で生産できるようになれば、売り上げは倍になる。しかしこの方程式は成り立つだろうか?

市場の需要が大きく、生産能力が足りていなければ、上記の方程式は成立するだろう。しかし自社に需要>供給という関係が成り立つ製品があるだろうか?
市場での評判がすこぶる良く、しかも他社には生産できない製品。このような理想的な製品があれば、経営は左うちわになる。

しかしそんな幸運な企業はそうはないだろう。
需要がない製品を一生懸命生産する企業はない。しかし需要があっても他社も生産することが出来る製品であれば、価格競争により利益は少なくなる。
「忙しくても利益は上がらない」「作れば作るほど貧乏になる」という不幸な状態となる。

こういう状況で生き残るためには、顧客のメリットとなる「強み」が必要となる。このような強みがあれば、顧客にとってオンリーワンの企業となるはずだ。

先日、お手伝いしている工場の幹部からご相談を受けた。顧客から在庫を持つよう要求を受けているという。日本向けに40ftコンテナで出荷する製品を工場側で在庫を持てと言われたそうだ。倉庫代は当然上乗せしていただけない。
発注者・供給者のパワーバランスを背景にした不公平な申し入れだ。(私は工場サイドの人間なので、こう感じてしまう)

しかし「倉庫を借りれば賃料が必要になる」という常識にチャレンジすれば顧客にとってオンリーワンの工場になる。

生産リードタイムを短くできれば、顧客からの出荷指示で生産を開始。通関手続きが終わり通関検査が始まるまでに出荷することができれば、倉庫は必要なくなる。
製品仕様が工程の後ろの方で決定される同類の製品であれば、共通中間在庫を持つことにより、見かけ上のリードタイムを短縮できるだろう。

残念ながらご相談を受けた工場の製品は、一番最初の工程で製品仕様が決定してしまう。中間在庫方式では対処できない。しかしここで諦めてはいけない。知恵を絞ってリードタイム短縮にチャレンジしたい。
これからの時代は「タイムイズマネー」を越えて「タイミングイズマネー」になるだろう。


このコラムは、2020年1月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第930号に掲載した記事です。

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賢者は他人の失敗から学ぶ

 「賢者は他人の失敗から学ぶ」ベンジャミン・フランクリンの名言らしい。
そしてこう続く「愚者は自分の失敗にも学ぼうとしない」。

失敗から学ぶ3ランクは、他人の失敗から学ぶ、自分の失敗から学ぶ、自分の
失敗からも学ばない、となる。
ベンジャミンの言い方を借りれば、
◯賢者:他人の失敗から学ぶ
△並の人:自分の失敗から学ぶ
×愚者:自分の失敗からも学ばない
というランク付けになる。

例えば、1月14日付のブルームバーグのニュースに以下のリコールニュースがあった。

トヨタ自動車は、米国で「レクサス」および「トヨタ」ブランドの一部車種約69万6000台を対象にセーフティーリコール(無料の回収・修理)を実施すると発表した。燃料ポンプが作動しなくなる恐れがあるという。

どのような故障なのか、その原因は何か、まだ何も発表されていない。
この時点で「他人の失敗」から学ぶことは、賢者といえどもほぼ不可能だろう。

しかしこの事故を抽象化し、「動力源が断たれた時に発生する事故」としたならば、

  • ガスストーブのガス開閉スイッチの故障の挙動。
  • ノンストップシステムの停電時の挙動。
  • フォールトレラントシステムの待機システム替え装置故障時の挙動。

など、抽象化した内容を自社製品に当てはめて考えることが出来るのが、本物の賢人と言えるのではないだろうか。

以上に挙げたような例は、当然製品設計時に考慮されているはずだ。
「設計時に考慮しているから大丈夫」と安心するのではなく「本当に大丈夫?」と考え検証するのが品質保証の立場だ。


このコラムは、2020年1月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第931号に掲載した記事です。

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