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ビジョン

 先週は広西省の中国企業を訪問した.
事業拡大に向けた事業戦略作りと,工場改革のプロジェクトを起こしたいと言う相談に呼ばれ出向いた.

董事長は「15年以内に世界500強企業になる」というビジョンを持っていた.
期限を入れることにより,単なる夢ではなくビジョンとなる.
そしてそのビジョンを実際の行動計画に落とし込み,実行に移すサポートが我々の仕事だ.

2010年のフォーチュン500強のボーダーラインに入っている日本企業は,
452位:コマツ
456位:三菱自動車
465位:キリン
498位:昭和シェル

同業の自動車部品業界で言えば
119位:ボッシュ(独)
249位:KOC(トルコ)
238位:デンソー
264位:コンチネンタル
367位:アイシン
401位:マグナ(加)
の6社しかランクインしていない.中国企業はない.

現在は従業員100名程度の会社が,15年以内にこれらの企業を肩を並べようと言うのだ.無謀な目標のように思えるかもしれないが,私には達成可能と思える理由がある.

現場リーダを含む管理職20人と話をした.
彼らが考えているこの会社の強みは,董事長の夢だと言う.
董事長の頭の中には,15年後の会社の姿が明確にイメージできているようだ.
そして建屋が完成し,内装工事が始まった新工場は,現在の2倍強の面積がある.その横には更に大きな工場の基礎が出来上がっている.従業員にも夢の第一歩が見えている.

何のために500強に入るのか,それが企業の目的となるはずだ.使命・経営理念に共感し,ビジョンを共有した組織は,きっとビジョンを達成するだろう.

このような組織の成長をお手伝いすることが出来るのは,私にとって大変幸せなことだ.


このコラムは、2011年11月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第232号に掲載した記事に加筆修正しました。

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盗難事件

 先週末のセミナーで受講者から,社内での材料,製品の盗難事件で困っているという話を伺った.
残念ながら,こういう事例は中国工場では,豊富にある(苦笑)

銅線や半田など素材として簡単に売却可能なモノなどは,狙われやすい.
酸化した半田カスも,盗難に遭わないように施錠された倉庫にしまっておくという工場すらある.半田カスを還元することにより,半田が再生できるので,買い取る業者がいる.

携帯電話の液晶表示パネルなど,どういうルートで売りさばくのか想像も付かないが,現実に深センの電子城には,その工場の工程内で使用しているパレットに入れて,堂々と並んでいる.

工場の材料倉庫は施錠されており,工場の出入りには保安係の目が光っている.
それでも材料,製品が消えてなくなる.

私の知る事例では,トランス巻線用の細い銅線をボビンごと盗み出すのではなく2階倉庫の窓にはめられた鉄格子の隙間から銅線をたらし,外で待ち受ける仲間が,空ボビンに巻き取っていた.この事件はたまたま巡回中の保安係が見つけ未遂に終わったが,気が付かねば,密室の倉庫から銅線だけ盗まれた空ボビンが見つかると言う,不可思議な事件になったはずだ.

ある工場では,廃棄ダンボールにICなどの高価な材料を隠して製造フロアの廃棄シュートから1階の廃棄物集積所に投棄.廃棄物整理係の人間が別に仕分けておき,廃棄業者に外に持ち出させるという,チームプレーで盗難が行われていた.
これを防止するため,廃棄シュート口は鍵が掛けられ,フロアごとに時間を決めて保安係立会いで廃棄をするという,馬鹿げた管理を導入せざるを得なくなった.

保安係が加担すると,盗難は容易になる.そのため保安係を第三者に業務委託する工場もある.

「食い逃げされてもバイトを雇うな」と言う本には,食い逃げによる損失と,バイトを雇う経費をきちんと比較評価するべきだと書かれている.その他にも「数字」からモノ事を見る面白い例がたくさん載っている.

しかし工場における内部盗難事例に関しては,「食い逃げ損失」として考えるべきではない.社内の不正を許す文化が増長すると最悪だ.社内の不正に対しては,厳しく対処しなければならない.

以前勤務していた会社のインドネシア工場で,信頼していたリーダがICを盗み出したことがあった.
本人から事情を聞くと,母親が病気で金に困っているということだった.大目に見てやろうとの意見もあったが,泣いて馬謖を切ることにした.解雇し,警察に引き渡した.
彼の母親には見舞金を送ったが,これに異を唱える従業員は一人もいなかった.

ICは彼の宿舎から回収済みだったし,母親に送った見舞金も彼が正式に退職した場合の退職金に少しプラスした程度だ.我々としては,金銭的には何も損失はない.一番痛かったのは,優秀なリーダを失ったことだ.
しかし不正を許すことにより社内の秩序の乱れが発生することの方が深刻だ.


このコラムは、2011年11月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第232号に掲載した記事に加筆修正しました。

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知行一致

 先週日本で録画のまとめ見をしたNHKテレビ「仕事学のすすめ」から気付きをシェアしたい.

建設機械のコマツ会長・坂根正弘氏のダントツ経営

坂根氏は,人材育成のポイントは以下の4点だと,指摘している.

  1. 基本から学ぶ
    コマツの加工機は全てNCマシンになっているが,新人の技能研修には敢えて手動式の旋盤を使用している.手動操作をした方が,旋盤という加工機械の
    原理が理解しやすいからだ.NC機では機械が勝手に動いてしまう.手で加工することにより,頭だけでなく体に切削を覚えこませる.
  2. 学びの場を与え,モチベーションを与える
    坂根氏は,コマツの教育機関・小松高専を復活させている.
    在職中の従業員も,ここで勉強しなおすことが出来る.「自己成長機会」は,モチベーション向上の大きな動機付け要因となる.
    その他にも,ここで学んだ同級生は,社内に,横・斜め方向のネットワークを持つことになる.上下方向の関係しか持たない組織と比べ,縦・横・斜めの
    関係を持つ組織の優位性はいうまでもないだろう.大きな企業ほど,このような非公式組織の存在が必要となる.
  3. 競争力を高める教育
    坂根氏は,コマツの競争源泉はアフターサービス力にあると考えている.
    そのため社内研修もアフターサービスに重点が置かれている.教育は,予算が決まっているから,ISOの年度品質目標に入っているからやるのではない.
    企業の事業戦略にフォーカスした,教育研修をしなければならない.
    市場の景気が悪くなり,売り上げが減ると真っ先に教育予算を削るような会社は,これが理解できていない.このような会社は,活況時にも忙しい事を理由に教育研修の時間を削る.
  4. 後継の育成を意識する
    コマツでは,課長職からトップリーダとしての選抜教育をしている.
    当然各部署から優秀な人材が集まってくる.しかし毎月丸一週間,50日間に及ぶ研修に,ナンバーワンの部下を出すのをためらう上司もいる.
    こういうところから,後継者育成の仕組みが崩れてくる.
    研修対象者の選抜方法を工夫する.研修対象者の人事権を所属上司から取り上げる.などの仕掛けを用意し,仕組みがうまく機能するようにしている.

これらのポイントは「知行一致」に収斂する.
つまり,単に知識を教え込んだだけではだめ,その知識に基づいて,行動するところまで育てなければだめだ,という意味だ.

上述のトップリーダ選抜研修の最後は,現場で行った研修発表をすることになっている.

  • 学びにより知識を得る.
  • 知識を行動に移す能力を得て自信を持つ.
  • 行動により成果を得る.
  • 成果と過程に対し誇りを持つ.

というステップで人は成長する.

誇りを持たせることで成長が血肉となる.
競争力源泉に集中することにより,業績に直結させる.これが「戦略的人財育成」だと考えている.

坂根正弘氏のダントツ経営については,この本↓をご参照いただきたい.
『ダントツ経営─コマツが目指す「日本国籍グローバル企業」』


このコラムは、2011年10月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第226号に掲載した記事です。

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閾値

 仕事関数という言葉をご存知だろうか?
学生の時,物理学の授業で習ったが,なぜかこの言葉はよく覚えている.

仕事関数というのは,物質表面において,表面から1個の電子を無限遠まで取り出すのに必要な最小エネルギーのことである.

物質にエネルギーを与えても,ある一定のエネルギーを越えないと何も変化がないということだ.熱,光,原子の衝突などのエネルギーが仕事関数を超えると,物質の表面から電子が飛び出してくる.その仕事関数は物質のフェルミ順位に依存している.

物理学の法則というのは,人間や組織,社会にも当てはまるというのが私の持論だ.

部下に対する上司の働きかけは,仕事関数の閾値を越えなければなんら変化は起こらない.上司の働きかけが閾値を越えたとたんに,部下の行動が変わる.そして部下の変化を引き出すためのエネルギーは,部下ごとに違っている.

昨夜,中国江蘇省で工場を経営している友人からメールが久々にあった.

さて、台風9号が真っ直ぐこちらへ向かって来ます。
97年の11号台風以来経験が無いそうです。
月曜日納品の品物は、お客さんへ連絡して今日明日のうちに収めさせて頂くぐらいの先見的な危機意識を持つべき、と朝礼で話しました。

すばらしい訓話だと感心した.
友人は,従業員が気を利かせて率先して仕事をするよう仕向けているが,なかなかうまくゆかないと,時々こぼしている.

しかしこのような訓話の積み重ねが,ある一定の閾値を越えた時に,雪崩のごとく,変化が起こるのではないかと思っている.


このコラムは、2011年8月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第217号に掲載した記事です。

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こちらの記事もどうぞ「なぜなぜ5回」

なぜなぜ5回

 原部長は工場の喫煙室で,いらいらしながらタバコを吸っていた.
もう3時になるというのに,今朝行われたミーティング記事録が届いていない.中国生産工場の品質部長として赴任している原部長は,週に一回ローカル
スタッフに,品質会議を開催させている.朝開かれる品質会議の議事録を当日の昼までに提出するのが決まりだ.その議事録がまだ届いていないのだ.

二本目のタバコに火を点けた時に,品質部の陳課長が喫煙室に入って来た.ちょうど良いところだ.
原「陳さん.今朝の議事録がまだ来ていないけど,どうした?」
陳「実は今朝会議が開けませんでした」

なぜ早く報告しないのだ,と言う怒りをぐっとこらえ.
原「なぜ会議が開けなかったの?」
陳「周さんが遅刻して,お昼に出社しました」
周君は,上司の指示にいやな顔ひとつせず,しっかり仕事をする優秀な部下だ.昨日も定時過ぎに急ぎの仕事を頼み,二つ返事で引き受けてくれた.

原「なぜ周君は遅刻しなの?」
陳「寝坊しました」

周君を呼びつけて,しっかりと叱らなければならんと思った原部長だが,日ごろなぜなぜを5回繰り返さねばならないと,部下を指導している手前更に質問を重ねた.
原「なぜ寝坊したの?」
陳「昨日帰るのが遅くなり,寝るのが遅くなったそうです」
原「なぜ遅くなったの?」
陳「仕事が終わらなかったそうです」

よしこれで4回なぜを繰り返したぞ.後1回だ.
原「なぜ仕事が終わらなかった?」
陳「原部長に頼まれた仕事が多すぎました」
原「あっ」
原部長は,今朝デスクの上に昨夜周君に頼んだ資料が置いてあったのを思い出した.

原部長は,なぜなぜ5回を実践して,本当は自分に非があったことを発見してしまった.もしなぜなぜを2回で終わってしまったら,「周君に目覚まし時計を買ってやる」と言う再発防止対策になったはずだ.これでは問題の表面に対策を打っただけになる.

しかし何か釈然としない.では,この場合どのような再発防止対策を打てば良いのだろう?

原部長は,三本目のタバコに火を点けて考え込んでしまった……

これは架空のなぜなぜ5回問答だ.
ここで原部長が,考え込んでしまった原因を考えたい.
これを放置しておけば,原部長の喫煙量が増えてしまう(笑)

なぜなぜ5回をする目的は,真の原因を見つけ,それに対策を打つことにある.不具合現象の表層を見て対策をしても,必ず不具合現象は再発する.

この例では,なぜなぜを5回しても,有効な対策は見つからない.なぜなら,なぜなぜの答えを「他責」にしているからだ.
「原部長が定時後に仕事を与えた」と言う原因は「他責」だ.これでは「上司は定時後に部下に仕事を与えない」などと言う,自分で解決不可能な対策しか出てこない.

なぜなぜの答えを「自責」にすると,「なぜ仕事が終わらなかったか?」と言う質問に対する答えは「仕事量の見積もりを誤った」となる.
仕事の見積もりが正しくできていたとすれば「深夜まで残業になりそうな事を,上司に連絡しなかった」となるはずだ.

対策を,「仕事を頼まれたら仕事量を見積もって報告する」とすれば,上司は,翌日のスケジュールを変更する.人手を更に投入する.
など問題が起きないように事前に手を打てるようなる.


このコラムは、2011年2月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第193号に掲載した記事に加筆したものです。

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こちらの記事もどうぞ「なぜなぜ5回」

職位が人を育てる

 よく職位が人を育てるという言い方をすることがある.まだ能力不足と思いながらも一つ上の職位につけると,本人のモチベーションも上がるが,それ以上にその職位に見合った自覚が生まれる.このモチベーションと自覚が成長の助けをしているはずだ.

以前お手伝いしていた工場に若い班長さんがいた.彼は人柄はよさそうだが,あまりぱっとしない人物だった.ミーティングに出席しても何も発言しない.
ある時などは筆記用具を持たずに会議に参加して日本人上司にこっぴどく叱られていた.そして何よりも話をするときの声の小ささが,リーダとして致命的な欠点だと思っていた.

しかしここの経営者はその彼を課長に抜擢した.
他になり手がいなくて苦汁の選択だったのかも知れないが,私には能力不足に思えた.作業員を集めたミーティングでも,声が小さくて何を言っているのかわからない.かなり心配をした.

しかし1ヵ月後に訪問したときにはすっかり変わっていた.
朝礼をしているのを横で聞いたが,しっかりと声が出るようになっていた.

職位を与えられたことにより自覚が出たのと,毎朝の朝礼で訓練されたのだろう.「職位が人を育てる」「仕事が人を育てる」の好例だ.

これを人材育成の仕掛けにしてしまってはどうだろうか.
職位を同じままにして一クラス上の職位の仕事を一定期間代行させる.この期間に能力やモチベーションのアップが見られれば本当に昇進させる.今までと変わらなければ,昇進は取り止めで次の人にチャンスを回す.

昇進をさせていないので「職位が人を育てる」という効果が少し薄いが,うまく能力が発揮できなかったときの「降格」によるマイナス効果を考慮してみた.

組織の中で「降格」がマイナスに受け取られない,敗者復活の道がきちんと用意されている,という組織文化があれば職位も上げてしまった方が効果が高いだろう.
定期的にこのような「役割の変更」が行われていれば,「昇進」も「降格」も単なる役割の変更という組織文化も生まれてくると思うがいかがだろうか.

「昇進」をすると自分が偉くなったと勘違いする人間が多くいる.昇進はただ単にそういう職務を与えられたというだけだ.


このコラムは、2009年11月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第127号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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ナゼ・ナゼ中国(その2)

 中国の病院はヘンだ.

まず料金を払って『門診病人自帯病歴』を買う.これはカルテのようなもので診察,治療の記録を書き込むようになっている.
中国の病院ではカルテを保管しない.患者が保管することになっている.

カルテを持って各科の診察室に行くわけだが,診察室の前で待っていてもいつまでたっても呼ばれない.診察室の中に入り,医師に直接『門診病歴』を
渡さなければならない.従って他の患者が診察中であろうとなかろうとどんどん患者が診察室に入って来て,問診中の患者と医師を取り囲んでいる.
中国の病院では患者のプライバシーは尊重されない.

診察が終わると医師が処方を伝票に書き込む.患者は伝票を持って収銀台(支払いカウンター)に行き料金を支払う.薬局に行って点滴のボトルをもらう.処置室に行って点滴を打ってもらう.という手続きになっている.
中国の病院では完全前払い制である.

大きな病院の前には,子供向けの風船やおもちゃ,焼き芋などの露天商が集まり,まるでお祭りだ.また新聞によると大きな病院にはスリ・置き引きなどの犯罪者が獲物を狙っている.
中国の病院では関連周辺ビジネスが盛んだ.

いずれにせよ,中国に赴任されている方,起業された方は病気になると大変な苦労をすることになる.日ごろの健康管理が重要だ.

先週配信の「ナゼ・ナゼ中国」に沢山反響をいただいたので、今週は第二弾をお届けした。


このコラムは、2009年11月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第127号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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ナゼ・ナゼ中国

 本日のテーマ「特殊工程の品質評価」で「ナゼ・ナゼ5回」を少しお話したが,中国にいるとナゼを連発することが多い.分からないことだらけだ.

私が住んでいる近所には夜になると露天商がたくさん集まってくるエリアがある.洋服,靴,靴下,巨大なぬいぐるみ,ボールペン,財布,髭剃りの刃などありとあらゆるものを売っている.

当然これらのものを売っている人たちは営業許可を持たず,もぐりの営業だ.しばしば公安が来て取り締まっている.

時々露天商の人たちが,商品を袋やダンボールに入れたままずらりと腰を下ろして並んでいるのを見かける.まるで田舎に帰る人が大きな荷物を持ってバスターミナルでバスを待っているようだ.周りを見渡すと,案の定公安の係官が数人いる.

露天商たちは公安に見つかり,身分証明書を取り上げられしょっ引かれるため公安の収容車を待っている,と思っていた.

しかしどうも様子がおかしい.実は露天商たちは公安が引き上げるのを待っているのだ.公安がいなくなると,露天商たちは一斉に商品を並べ始める.多分公安係官は、彼らが露天商であることはわかっているのだろう。

まだナゼがある.
このようにして公安と一緒に露天商が所在無げに腰を下ろしているエリアからほんの数十メートルはなれたところでは,堂々と店開きしている露天商がいる.

公安の係官は,決められた勤務時間中に決まられた範囲で違法露天商が営業をしていなければそれで仕事を達成したと言うわけなのだろうか?

中国には「上に政策あれば,下に対策あり」とよく言うが,「上」も「下」の事情をよく理解し,政策を柔軟に運用していると言うことなのだろうか?
中国のナゼは奥が深い.

このメールマガジン配信後に、読者様からコメントをいただいた。

  • T様のコメント
    露天商の営業許可証取り締まりは、普通には「工商行政管理局」(通称、工商局)です。
  • I様のコメント
    露天商がいる場所はどこか、その場所の管理者は誰か、その場所における中国人民と管理者との関係、そして法律と一般人民との関係はどういうものか等を考えれば、この謎の現象の答えがでると思います。

公安と工商局を間違えていたようです.係官の制服は似ていますが,胸のマークが違っています.T様ご指摘ありがとうございます.
I様は中国人のモノの考え方を,内関係と外関係に分けて説明するユニークな視点を持っておられます.


このコラムは、2009年11月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第126号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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駅員が施錠し帰宅、乗客30人駅から出られず

駅員が施錠し帰宅、乗客30人駅から出られず

 福島県石川町のJR水郡線磐城石川駅で6日午後8時半ごろ、駅員(53)が過って駅舎出入り口のドアを施錠し帰宅したため、
乗客約30人が15分間、駅構内から出られなくなるトラブルがあった。

 JR東日本によると、郡山発磐城石川行き上り普通列車が終点の同駅に到着し、乗客が駅から出ようとした際、2カ所のドアが閉まっていたという。
乗客が運転士に「駅から出られない」と状況を説明し、運転士が案内した関係者出入り口から外に出た。

 同駅は駅員1人が日勤のみの勤務となっており、午後7時半に帰宅する際にはドアの施錠はしないことになっている。JRによると、駅員は考え事を
していて鍵をかけてしまったと話しているという。

(asahi.comより)

 当事者の方には申し訳ないが,なんとも間抜けなトラブルである.
しかしこの手の「うっかりミス」に再発防止対策を実施しようとすると結構難しいものだ.

この場合あなたならば,どのような再発防止対策を実施されるだろうか.

作業員の「うっかりミス」を流出させてしまった部品メーカから,「作業員に注意しました」「作業員に再教育をしました」こんな再発対策書を受け取ったことはないだろうか?
私は「作業員を配置換えしました」「作業員を解雇しました」などという対策まで見たことがある.
「ついうっかり」が発生しなくする,または流出しないようにする対策が必要だ.

例えば,駅員の帰宅を最終列車が到着した後にする,という対策は道理にかなっているように思える.しかしこれでは再発防止対策にコストがかかってしまう.

このトラブルに対しあなたはどのような再発防止対策を検討されるだろうか.
こんな対策はいかがだろう.

  1. 駅員は関係者出入り口に施錠し退勤する.駅舎出入り口には施錠をしない.
  2. 駅員は施錠をしないで退勤する.最終列車の運転手または車掌が駅舎出入り口を施錠する.

対策1と2の組み合わせもありだ.

今回のトラブルは間違って施錠をしてしまったという「うっかりミス」だが,施錠を忘れるという「うっかりミス」もありえる.
こちらにもきちんと対策を打っておくのが,「水平展開」または「未然防止」となる.


このコラムは、2009年11月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第126号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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特殊工程の品質評価

 作業品質を妥当なコストで検査できない工程を「特殊工程」と呼んでいる.

例えば,半田付け作業はその品質を保証しようとすると半田結合点の結合強度を検査しなくてはいけない.これでは破壊検査になってしまい,生産したものが出荷できなくなってしまう.そのため通常は目視検査で半田フィレットの形状,表面光沢などの「代用特性」で検査している.

このような工程が「特殊工程」だ.
では特殊工程の品質保証をどうすれば良いのか.

作業者の技能で品質を保証する.そのため特殊工程作業に従事する作業者は技能訓練を受けた有資格者であることで作業品質を保証している.
その品質保証の記録が,教育訓練記録となる.また使用した治工具の条件・点検記録も品質保証の記録である.

ある工場で部品Aと部品Bを貼り合せる作業があった.
貼り合わせが正しく行われたかどうかは、引き剥がし強度を測定しなければならない。従って、この作業も「特殊工程」に該当する.貼り合せ作業品質の代用特性として部品A,Bのギャップを外観検査で目視検査していた.
貼り合せ作業は治具化をして,作業者は操作スイッチを押すだけ.
従って作業者のばらつきは作業品質には影響しないと考えてよい.
この場合作業者に特殊工程作業者としての教育訓練,資格認定は必要ない.(目視検査の検査員資格は必要だが)

重要となるのは治具の加工精度・能力だ.
この工場では,始業点検で加工治具の貼り合せ押し圧と,押し付けの均一性を感圧紙により検査・記録していた.
品質保証ストーリィとしては問題はないのだが,目視検査で貼り付け不良が多発している.

そこで貼り合せ治具の始業点検記録を見せてもらうと,感圧紙検査の結果が均一になっていない.
始業点検で押しつけの不均一を発見すると、その都度テープを貼って調整していた,と言うことが分かった.しかし均一に押せていない不具合に対して原因対策がされていない。押し付け不均一を発見すると、テープを貼り付けると言う「対処」が行われているだけだ。

「ナゼ・ナゼ5回」とよく言うが,ここでは「ナゼ」を発する前に始業点検を合格させることに集中してしまっていた.
現場のエンジニアに,作業方法と共に作業の目的・意義をきちんと指導しておくことが重要だ.


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