コラム」カテゴリーアーカイブ

成長プラットホーム

 先週末は、東莞和僑会方針管理・目標管理勉強会を開催した。
この勉強会は、1年間かけて会員企業の経営者、中国人幹部が方針管理・目標管理を実践する勉強会だ。三回目となる今年は6社が参加している。毎回幹事会社に集まり、勉強会・工場見学をしている。

今回会場となった幹事会社は電子部品を生産するT社だ。
プラスチック部品、金属部品の加工から最終電子部品の組み立てまで原材料から一貫生産出来る工場だ。

昨年、引っ越し直後のT社で勉強会を開催した。当時は新人作業員が多く苦労しておられた。あれから半年あまり、生産ラインの見かけは大きくは変わっていないが、内容は改善が大きく進んでいた。生産性が約1.7倍、直行率は劇的改善が続いており、直近の1ヶ月だけでも20%改善されている。

T社の中国人メンバーは、改善の原動力を以下のように語ってくれた。

  • 作業者の多能工化が進んだ。
  • 作業者に日報を書かせ、毎日達成感や反省を感じてもらっている。
  • 他のラインと比較することにより、競争心を持たせた。

そしてメンバー自身は、方針管理・目標管理勉強会に参加し自分たちで目標を設定したことでモチベーションが上がった。

一緒に参加している企業の良いところを学び、他社からコメントをもらう。そんな活動を通して、現場力を上げてきた。その原動力が参加メンバー自身の成長だと語ってくれた。

参加企業のメンバーの成長プラットホームとして、方針管理・目標管理勉強会を始め、微力ながら裏方として勉強会を支えてきた。彼らの話を聞いて私自身のモチベーションも上がった。


このコラムは、2018年7月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第796号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

上手くできた事は忘れる

「30年前に上手く行った事を今やってみても上手くは行かない。」
臨済宗妙心寺退蔵院副住職・松山大耕禅師の言葉だ。

成功体験は、成功する要因があって得られる。要因の内には成功した時代背景、社会背景、タイミングなど制御できない要因が含まれている。したがって成功事例をそのままやってみても上手くいかない事が多い。

会社の役員などをみていれば良くわかる。昔の成功体験により高い地位を得ている。30年前に上手く行った事業が、今うまくいくはずはない。顧客の嗜好も社会そのものも変わってしまっている。
例えばコンパクトカメラの商品企画で、会社に大きな利益をもたらした重役がいまだに商品企画に関わっている様では、その会社の繁栄は怪しい。コンパクトカメラの役割がスマホに奪われて久しい。過去の成功体験が邪魔をして、今売れる商品を見極める目が曇る。

しかしダメな事をやれば必ず失敗する。
たまたま何事もなくても、いつかは失敗することになる。

従って上手くできた事は忘れてしまう。失敗した事はしっかり覚えておく。

精神衛生上あまり好ましくはないかもしれない。
人は上手くできた事はいつまでも覚えておきたいだろうし、失敗した事は他人に知られるのも嫌だ。早く忘れてしまいたいものだ。

上手く行った事は、皆で賞賛して忘れてしまう。
失敗した事は、失敗したことで進歩できたと皆で感謝し時々に思い出す。時々にとは月に一回とか二回という意味ではない。折に触れてという意味だ。そんな組織文化を持てば、失敗から学ぶ事ができる組織になる。


このコラムは、2019年1月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第772号に掲載した記事です。

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人材の活用

 私が住んでいる辺りは,東莞政府庁舎があり,オフィス街,商業地区だが,一歩路地を入ると,昔からの零細製靴工場が密集している地域がある.

しばしば通りかかるこれらの零細工場の門口には,工員募集の赤紙が貼り出されている.その貼紙を見ると細分化された工員の募集になっている.

開料,車面,介面,折面,界皮など靴製造の一工程と思われる単位で工員の募集をしている.
全部で2,30人の工員がいればこの辺りでは,大手工場という規模だ.零細工場が工程を細分化して,職人を募集する.非常に非効率なことに思えて仕方がない.

私は靴製造業界には詳しくないが,想像するに,日本の小さな靴工場は親方を中心に弟子何人かと靴を造っている.弟子は初めは下働きかもしれないが,そのうち靴造りの全工程を任され,一人前の靴職人になる.

しかしここいらの靴工場では,「車面」(たぶん靴製造工程中のミシン作業)という職人が存在し,その職位を極めることになる.従ってどんなに小規模であっても靴を造るためには数人の職人を雇う必要がある.

こういう工場を経営するには,運転資金を確保するため「量」を追求せねばならない.「質」より「量」,「品質」より「低価格」を追求するモノ造りは,未来はない.

弟子を育てるには時間がかかる.しかし弟子と二人でモノ造りをしていれば,「量」ではなく「質」,「低価格」ではなく「高付加価値」を追求できる.生産量の増加には,弟子を増やしてゆけばよい.一度に何人もの作業員を雇う必要はない.

既に中国でも単機能の職員や作業員をたくさん集めて,モノ造りをする時代は終わった.多能工を育て,少人数でフレキシブルなモノ造りを目指すべきだ.


このコラムは、2010年9月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第171号に掲載した記事です。

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人材の活用

 人,モノ,設備,方法がばらつくと品質がばらつく.
人のバラツキは,直接作業のバラツキとなる.モノ,設備,方法のバラツキをコントロール出来るのは人だ.従って直接・間接的に人が全てのバラツキの源と言ってよいだろう.

人は一人ずつ個性があり,ばらついている.
一人の人も体調や感情により,ばらつく.

これらのバラツキをコントロールする事で,品質のバラツキをコントロールできる.

人のバラツキをコントロールする方法として,人を仕事に対して固定化する,という手法が昔から日本の企業で行われていた.
仕事に関する暗黙智は,個人に蓄積され効率よく仕事を遂行することができる.この仕事に関しては,○○さんに聞け,という余人を持ってして替え難いマイスターが各職場に何人もいたモノだ.

こういう仕組みがうまく機能していたのは,長期雇用が前提としてあったからだ.
団塊世代の引退,契約社員・派遣社員など雇用形態の変化で,現場から多くのマイスターと暗黙智が失われる事となった.

バブル崩壊後,多くの経営者が飛びついた米国式経営は「仕事に人を付ける」形となっている.従って各職位の職務分掌や,マニュアルが充実している.
一方日本式経営は,上述の様に「人に仕事を付ける」形となっている.この大元のところを変えないで,表面的に米国式経営をまねたため,多くの日本企業が現場力を失ってしまった.

「人に仕事を付ける」方式が万能であると言っている訳ではない.
この方式は長期雇用が前提でなければ,暗黙智は蓄積されない.世代交代時の難しさも内在している.
日本の長期雇用は既に崩壊している.中国の労働市場では,初めから長期雇用は望めない.この前提に立てば,「人に仕事を付ける」方式はもはやうまくはゆかないだろう.

では,米国式に職務分掌・マニュアルを充実させればうまく行くだろうか?
短期的には,人材の入れ替わりに強い組織となるだろう.マクドナルドなどの業務マニュアルは,アルバイト職員がいつ入れ替わっても良い様に作られている.

しかしこの方法だけでは,日々蓄積される暗黙智を取り込んで行くことができない.日々成長する組織にはなり難い.

個人に蓄積された暗黙智を組織の形式智に変換する方法.
業務と業務の間の落ちてしまう様な仕事をお互いにフォローし合う方法.これらをインストールした,新しい人材活用方式に変えて行かなければならない.

新しい人材活用方式構築のキーワードは「意欲」だと考えている.


このコラムは、2012年8月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第272号に掲載した記事です。

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品質管理の形骸化

 少し古いが日経テクノロジーに「不良品が減らないのは、品質管理が形骸化しているから」と題するコラムがあった。

リーマンショック以降、日本の国内市場が縮小し、工場が海外シフトした事により「現場力」が低下したことで品質管理が形骸化し、不良が減らない、と言うのがコラム筆者の主張だ。彼が取り組んだ改善事例が二件紹介してあった。

一つはISO9001対応に成り下がり、形骸化したQC工程図の運用を元に戻した。
もう一つの事例は、5Sを徹底することにより現場の問題を見える化した。

確かにこれで一定の効果はあるだろう。しかし本当にこれだけで良いのだろうか?と言う違和感を持った。

ほとんどの日系工場にはQC工程図は有るだろう。
しかし新規工程を作らなければ、QC工程図にはほとんど変化はない。新機種を生産投入しても、QC工程図の改訂は無く、以前のQC工程図をコピペして新機種のQC工程図を作成する場合がほとんどだろう。
リーマンショック以前から、この様な対応で済ませていた工場が大半だろう。
リーマンショック以前から、ある意味ではQC工程図は形骸化していたと思う。

誤解を恐れずに言えば、元々QC工程図はレベルの低い工場を一定の品質レベルに揃えるための手法でしかない。QC工程図の運用を変えた所で、最低基準の品質レベルにしか到達しない。

日本製品の品質に定評が有ったのは、QC工程図の運用ではなく「現場力」の強さに有った、と考えた方が良いだろう。具体的に言えば、QC工程図には工程内検査を実施すると言う事は書いてあるが、検査規格をどう設定するかは書いてない。

例えば、電源装置の仕様に電圧保持時間の規定が有る。電圧保持時間とは、入力電源が切れてから出力電圧が保証される時間の規定だ。通常製品仕様は電源OFF後○○msは出力電圧を保証するとなっている。従って設計者は、電源保持時間が○○ms以上となる様に設計している。そのため生産技術者は工程検査の仕様を○○+αms以上と規定し、検査装置をプログラミングする。ここのαは、実使用環境と検査環境の差異を吸収するためのマージンだ。

しかしこの様な検査仕様を作成すると、ベテランの技術者から指導を受ける事になる。正しくは△△±□msと検査仕様を設定する。なぜならば、製品仕様が○○ms以上であっても、設計仕様は△△±□msにしかならないからだ。電圧保持時間に影響を与えるのはコンデンサーの容量であり、コンデンサー容量の仕様は±□%で規定されている。そのため設計者は△△ー□msが製品仕様の○○ms以上となる様に設計している。
製造が設計通りに作っているかどうかを確認するために上限も検査しなければならない、と言う理屈だ。
こういう「感性」が現場力であり、これを新人の生産技術者に教えて行く事が、現場力を維持することになる。QC工程図だけでは、現場力は取り戻せない。

5Sを維持改善するのも現場力だ。

現場力が低下してしまった原因は、リーマンショックでも国内市場の縮小でもない。バブル崩壊後、日本的経営に自信を持てなくなった経営者が、米国流の短期成果主義経営を盲目的に取り入れたのが原因だと考えている。つまり生産現場を要員化し、人的コストを変動比化した事で現場力が下がった、と考えるのが妥当だと思う。

景気の後退や国内市場の縮小が問題であれば、一経営者には解決方法はない。
人的資源を「リソース」と考えればコストになる。人的資源を「キャピタル」と考えれば、人財育成は必須の投資だ。

以前、バブル崩壊後の日本工場を訪問して驚いたことがある。
変種変量生産が可能な先進的な工場だ。しかしその工程で働いていたポニーテールの男性作業員は、手待ち時間に扇子を使って涼んでいた。その工程の責任者に問うと、派遣作業員なので直接指導が出来ないとの答えだった。私には言い訳にしか聞こえなかったが、この様な状況では、現場力を上げる事は出来ない。

不良を減らし、生産性を改善するためには、QC工程図の運用や5Sの取り組みを小手先で考えても効果は限定的だろう。自ら考え改善を継続する現場力を育成するのが本道だと考えている。


このコラムは、2015年5月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第424号に掲載した記事です。

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HVソフト品質管理に課題 プリウスのリコール

 トヨタ自動車は12日、ハイブリッド車(HV)「プリウス」のリコール(回収・無償修理)を発表した。HVシステムの制御ソフトの不具合が原因。トヨタは既にソフトを修正したうえで生産を始めており、現在受注済みの車両の納車に影響はないもようだ。

 今回リコールの対象は2009年3月から今月5日までに生産した車両で、輸出分も含めて約190万台。このうち国内で販売した99万7千台については、販売店で制御ソフトの修正や部品交換に応じる。顧客にはダイレクトメールなどを通じてリコールを知らせる。「プリウスα」や「プリウスPHV」「アクア」などその他のHVはリコールの対象外。

 問題となったシステムはサプライヤーからの供給品。サプライヤーの名前やリコール費用の補償については明らかにしていない。品質の最終責任はトヨタが持つが、同社はリコールなどに対応するために引当金として年間5千億円以上を確保している。

 今回の制御異常は車の発売から時間を経てから見つかっており、出荷時にはチェックしにくい種類の不具合の可能性もある。HV化が進み電子部品の重要度が増すなか、ノウハウの蓄積が比較的浅いソフト関連の品質管理が自動車各社の課題になりそうだ。

(日本経済新聞電子版より)

 トヨタのホームページのリコール情報は以下の様になっていた。

  1. 不具合の状況
    ハイブリッドシステムにおいて、制御ソフトが不適切なため、加速時などの高負荷走行時に、昇圧回路の素子に想定外の熱応力が加わることがあります。そのため、使用過程で当該素子が損傷し、警告灯が点灯して、フェールセーフのモータ走行となります。また、素子損傷時に電気ノイズが発生した場合、ハイブリッドシステムが停止し、走行不能となるおそれがあります。
  2. 改善の内容
    全車両、制御ソフトを対策仕様に修正します。
    制御ソフト修正後に素子が損傷して警告灯が点灯した場合は、電力変換器(DC-ACインバータ)のモジュールを無償交換します。

これだけでは詳細は理解出来ないが、ハイブリッド制御モジュールの組み込みソフトにバグがあり、加速時にモータの駆動用ドライバー素子に定格以上のパワーロスを与えてしまい、熱破壊してしまう、と言う故障モードの様だ。

この手の組み込みソフトのバグによる不具合は、設計検証で洗い出し、実車により妥当性を確認しなければならない。しかしこの検証や確認が困難であり、「永遠にバグはもう一つある」などと揶揄される事がままある。

設計検証時にどこ迄「非定常条件」を想定出来るかが、検証試験の鍵となる。また単体だけの検証ではなく、周辺を組み合わせた結合試験も実施する。ハイブリッド制御モジュール、駆動モジュール、モータを組み合わせて検証評価をすることになる。

「追い越し加速」と言う条件の検証項目は、あったはずだ。
この検証時に実機で検証していれば、駆動モジュールのドライバー素子は壊れたはずだ。ソフトウェアの設計担当者だけで検証していると、ハードウェアの故障を見逃す事もあり得る。ドライバー素子の破損をソフトが原因と特定せずに、ハードの問題としてスルーしてしまうと言う事だ。

メカトロニクスの設計・設計検証には、ハード・ソフトに精通したエンジニアがあたるべきだ。

今回のハイブリッド制御モジュールは、サプライヤーからの調達品だ。
しかし完成車の品質保証は、トヨタが最終責任を持っている。
従ってハイブリッド制御モジュールが、どのような手順で設計検証されたか、
確認する責任はトヨタにもあるはずだ。

最近の製品は、組み込みソフトの力を借りて機能を実現する製品が多い。
ハード・ソフト、内製・外製を問わず、量産前にバグを洗い出す品質保証の手順を確立しておく必要がある。


このコラムは、2014年2月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第349号に掲載した記事です。

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日産、米消費者情報誌の元幹部を採用 品質管理担当に

 日産自動車は22日、米国の有力な消費者団体専門誌「コンシューマー・リポート」の自動車試験センター幹部だったデイビッド・チャンピオン氏を、品質の管理や評価などを担当する部門の幹部に採用すると発表した。「コンシューマー(消費者)目線」を重視し、品質向上につなげる狙いだ。

 米コンシューマー・リポート誌は、自動車や家電製品などの安全性チェックなどで信頼が厚く、米国の消費者に大きな影響力を持つことで知られる。チャンピオン氏は、同誌で自動車メーカーが売り出した車の安全性などをテストして論評してきた経験がある。1994年から97年まで日産で品質向上関連の技術者として働いていたといい、今回は「古巣復帰」となる。

 米国日産は「彼の経験は、我々の自動車に対する顧客の満足度を高めるのに役立つ」とコメントした。(ニューヨーク=畑中徹)

(asahi.comより)

 コンシューマー・リポート誌は,独自の評価を消費者の立場で提供する専門誌として,1936年から発行されている月刊誌だ.メーカから評価サンプルの提供を受けず,第三者として評価する姿勢が,消費者の信頼を得ている.

実は私は,学生時代から「暮しの手帖」を愛読していた.主婦向けの雑誌ではあるが,製品評価記事が好きで読んでいた.大学の指導教官だった恩師の影響で読む様になった.
いずれの記事も一貫して商業主義に左右されない生活者本位の視点が貫かれ,家庭電化製品や日用品を中心とした商品テストは,その条件の厳格さで製品のメーカーに大きな影響力を持っていた.

社会人となり,メーカで開発のエンジニアになった時も,その評価手法を勉強した.同誌は家庭用品,私は工業用製品と製品のジャンルが違っていたが,使う人の立場となって評価する姿勢は大いに参考になった.

コンシューマー・リポート誌は読んだ事はないが,暮しの手帖と同様の匂いがする.その雑誌社から自動車評価の専門家をヘッドハンティングした日産の姿勢にも大いに共感する.
少し気になるのは,コンシューマ・リポート誌がどちらかというと日産に好意的な評価をしている様に思える事だ(笑)自社に批判的な記事を書くテスターを採用していたら,もっとすごいと思っただろう.

新製品開発をする場合,設計が設計仕様通りに出来ている事を評価する事を,設計検証という.新製品評価は設計検証だけではなく,より消費者の立場に立った「妥当性評価」をする.この妥当性評価は,設計担当者部署ではなく,品質保証部が中心となって実施する事が多い.

私は開発エンジニア,品質保証部門の責任者として仕事をしていた時に,若い頃暮しの手帖を愛読した経験が役に立ったと実感している.

妥当性評価の結果,設計変更を要求した事もある.しかし残念な事に,この仕事は社内ではあまり評価されない(苦笑)
なぜならば,消費者からのクレームを未然に防ぐ仕事だから,その成果が見え難い.具体的にユーザクレームが発生していれば,その損失金額は明確となる.しかし製品をリリースする前に,クレームの芽を摘んでしまうので,損失金額は見えない.

新製品のクレーム損失金額が,売り上げに対する割合をいくら以下に抑える,という目標を立てることにより,成果を経営陣にアピールする様にしていた.

しかしどちらかと言えば,縁の下の力持ち的な仕事である.
今回の様に,評価のプロを外部からヘッドハンティングして来る,という経営判断は,縁の下の力持ちたちに,自分の仕事に誇りが持てる様再認識を与える事が出来たのではないだろうか.

日本の企業は「自前主義」が根っこのところにあるが,外国人社長を迎えた日産ならではの判断だろう.

実は私も自社の海外工場の品質保証責任者としてマレーシア人を採用する様,事業部長に進言したことがある.彼はお客様のQE(品質保証エンジニア)として,インドネシアの工場に監査・指導にたびたび来ていた.その度に私が日本から出張し,顧客監査の対応をしていた.立場が違うが,お互いの力量を認め合う仲となった.

彼がインドネシア工場の品質責任者になれば,顧客監査は全て彼が対応することができる.顧客の内部事情を良く知っているので,一石二鳥だ.しかもマレーシア出身の彼ならば,インドネシア語が理解出来,現場のリーダ,作業者を直接指導出来る.

一石三鳥くらいの効果があると,事業部長を説得したのだが,残念ながら本人から断られてしまった(笑)


このコラムは、2012年8月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第272号に掲載した記事です。

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カレー鍋スープ、6万パック自主回収

 調味料の〇〇(東京)は21日、「カレー鍋スープ」の約6万パックを自主回収すると発表した。工場での殺菌処理の工程でトラブルが見つかり、雑菌が混入している恐れがあるという。

 自主回収するのは関東工場で8月1日に生産し、賞味期限が2012年7月31日の6万540パック。カレーチェーンを運営する会社と共同開発した商品で、全国のスーパーなどで販売している。

 購入者から「すっぱい味がする」との指摘を受けて調べたところ、同日の生産分のうち1344パックの殺菌処理が不十分だった。同社によると、腹痛などをおこす恐れがあるという。

(asahi.conより)

※社名等を特定する必要がないので、伏字としました。

 この記事だけでは,どの工程でどんなトラブルが発生したのか具体的には分からない.全て仮定になるが,今回の回収事故から教訓を探してみたい.

殺菌処理の工程でトラブルが見つかったとある.
殺菌処理工程には,調理に使う設備の殺菌,食品そのものの殺菌,包装パックの殺菌が推定される.記事だけではどの殺菌工程かは分からない.

また殺菌工程のトラブルの波及範囲が,1344パックと特定できているということは,1バッチ分(または数バッチ分)の生産だったということであろう.そしてそのトラブルは,認知されており,記録にも残っているはずだ.

さすがに,食品そのものの殺菌工程にトラブルが発生していたのならば,出荷は止められたはずだ.

恐らくバッチごとの,設備洗浄殺菌とか,包装パック殺菌などの補助的な工程でのトラブルなのだろう.

消費者からのクレームに基づいて,生産記録を調べても異常が見つからない.しかし設備などのメンテナンス記録を調べることにより,異常が見つかったという経緯だろう.
例えば,殺菌温度が不足していることに気が付き,殺菌設備の調整・修理が行われたという記録が見つかったのではないだろうか.

その不具合が製品に与える影響を推定しきれなかった(認識ミス).
またはその後にも殺菌工程があるので問題ないと判断した(判断ミス).
のようなミスがあったのではないだろうか.

このような人為ミスを防ぐためには,製品の品質に影響がある工程で不具合が発生したら,強制的に主ラインが止まってしまう仕組みを作ればよいだろう.原因の追究と波及範囲の特定・処理を決めた後,ライン停止解除できる仕組みにしておく.このようにしておけば,一人の作業員の認識ミス・判断ミスで不具合が拡散する可能性を低くすることが出来る.

以前半導体部品のロット不良に遭遇したことがある.
トランジスタのVbe電圧(トランジスタがONになる電圧)が,仕様を外れていた.製造元の出荷検査では,一瞬で検査が終わってしまうため不良を発見できない.しかし通常の使用状態では,トランジスタが自己発熱する為に,Vbe電圧不良が顕在化する.

製造元の調査によると,トランジスタチップをリードフレームにボンディングする設備に異常があり,調整をしたという記録が見つかった.不良の原因はトランジスタチップとリードフレームが密着していなかったため,トランジスタの自己発熱がリードフレームを通して散熱出来ずに,Vbeの温度特性により,ON電圧が仕様を外れてしまった.

このロット不良も,ボンディング設備の調整メンテナンスをした時点でその影響と波及範囲を特定する仕組みがあれば,少なくとも不良ロットを出荷しなくても済んだはずだ.またはボンディング設備の品質をモニターできるようにしておけば,不良の発生もなかったはずだ.

まずは,各工程の潜在故障が製品品質に与える影響を特定する.
製品品質に影響を与える潜在故障の発生をモニターする仕組みを工夫する.
少なくとも,故障発生時に主ラインが止まるようにすれば,回収事故にはならないはずだ.


このコラムは、2011年9月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第224号に掲載した記事です。

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JR運転士を書類送検へ 三重・名松線の無人走行事故

 津市白山町のJR名松線家城(いえき)駅で4月、車両の入れ替え準備中だった回送列車(1両編成)が無人で約8キロ自走した事故で、三重県警は、ブレーキをかけずに列車を離れた男性運転士(25)を業務上過失往来危険の疑いで、近く書類送検する方針を固めた。

 県警などによると、男性運転士は4月19日午後10時ごろ、JR名松線家城駅で車両の入れ替え準備中に列車のエンジンを始動させたまま、ブレーキをかけずに運転台を離れ、列車を同市一志町の井関─伊勢大井駅間の踏切付近まで8.5キロ自走させ、衝突などの危険を生じさせた疑いが持たれている。

 名松線では06年8月、今回と同様に家城駅に止めてあった無人の列車が車輪止めの付け忘れなどが原因で自然に走り出す事故があり、男性運転士が業務上過失往来危険の容疑で書類送検され、起訴猶予となった。

 捜査関係者は、今回も運転士のみを送検する理由について「JR側の再発防止策が不十分だったわけではなく、運転士の過失が大きいと判断した」としている。

(asahi.comより)

 記事にある06年8月の事故は,車輪止めのつけ忘れに加え,エンジンの停止時に空気圧が抜けてブレーキが緩む構造だったことが分かり,JR東海はエンジンを切った場合も制動の機能が落ちないようブレーキの機構を改良していた.

つまり,車輪止め忘れと言う人為ミスが発生しても,ブレーキの欠陥を改善することにより問題が発生しないようにしている.言ってみればポカ除けをしてあったわけだ.

今回の事故では車輪止めをはずした後にブレーキをかけ忘れている.
ポカ除けがしてあっても人為ミスを起こしたのだから,今回は書類送検となったようだ.

もちろん人の命を預かる業務をしている者が「ついウッカリ」でも良いというわけでは無い.
しかし人の命にかかわる作業であるからこそ,人の注意力に頼らない徹底的なポカ除けを考えるべきだろう.

工場の不具合発生にも同様の人為ミスはある.その不具合に対し「作業員に注意し,再教育した」「作業員を罰して,担当業務からはずした」などというレベルの低い対策を良く見かける.

今回のニュースをポカ除けの観点で見直してみよう.

06年の不具合は車輪止めを付け忘れている.
そのためブレーキの性能を上げて(エンジン停止後にブレーキが緩むという欠陥を改善して)対策とした.

今回の事故ではブレーキをかけ忘れている.人為ミスとしては同じレベルのミスだ.エンジンをかけた状態では車輪止めをつけないわけだから,ブレーキのかけ忘れが直接事故につながる場面は多いはずだ.

例えば駅に停車した際に運転席からプラットホームに降りるという状況はいくらでもあるだろう.

従って車輪止めの付け忘れと言う人為ミスよりもブレーキのかけ忘れと言うミスの方がリスクは高いだろう.
リスク=影響×発生確率と考えた時,上記のミスはどちらも同じ影響度であり,ブレーキのかけ忘れのほうが発生確率が高そうだ.

車輪止め忘れよりもブレーキかけ忘れに対するポカ除けをする方が優先度が高いはずだ.
列車の運転手は指差し点呼で人為ミス防止をしているが,これは自己チェックの機能しかなくポカ除けとはいえない.

例えばブレーキレバーを引かなければ運転席の扉が開かない構造にするなどは比較的簡単に出来るのではないだろうか.こういうのがポカ除けだ.


このコラムは、2009年7月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第107号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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完結編・灯油誤販売の対策

 今週のメルマガで,灯油とガソリンを間違えて販売してしまったという事故に対する現実的な対策を募集した.
「灯油と間違えてガソリン販売 福岡の石油店」

ヒューマンエラーをなくすためには,まずミスを防ぐ事が出来るようにはっきりと識別できるようにしておくことが重要だ.
更に一歩突っ込んでミスをしたら作業ができないようにする「ポカよけ(フールプルーフ)」まで対策ができると良い.

私が考えた「ポカよけ」は

※灯油とガソリンの給油口のネジ径を変えてしまう.

タンクローリィのホースを接続する地下タンクの給油口のネジ径を灯油だけ変えてしまう.こうすることによりガソリンを持ってきたタンクローリィのホースは灯油の給油口には接続できなくなる.

しかしタンクローリィのホースの接続口と地下タンクの給油口は規格化されており,これを変更するとなると,販売店ばかりか輸送業者にも影響がありうまく行かない.

この方法はタンクローリィのホースの接続口と給油口の間にアタッチメントを付けるようにする.

販売店は灯油のタンクローリィが来た時には,伝票を受け取るときに灯油用給油口に接続するアタッチメントをタンクローリィの運転手に渡す,アタッチメントの反対側はタンクローリィのホースが接続できる様になっている.給油後運転手は納品書と引き換えにアタッチメントを返却する.
という仕組みだ.

これでガソリンスタンド,タンクローリィともに最小限の変更で誤給油をポカよけできる.

以下ご投稿いただいたアイディアを紹介する.

※作業する上ですぐに判別出来る方法として

  • 形を変える=>給油口の変更=>費用がかかる(今回はそぐわない)
  • 給油口の色と表示を変える=>作業する人が間違わない

というのは、どうでしょうか?赤と黄色とか。

 色と表示による識別で徹底する方法ですね.
 「形を変える」というのはポカよけになります.

※設備改善等ハード面は変更できないという前提で考えました。

  • ガソリンと灯油の給油口に違う色を塗る(例えば、ガソリンは黄色・灯油は赤色)。
    灯油を販売するときに入れる容器の色をこの給油口の色と同一にする。
    表示の文字も同様に給油口の色と同一にする。
  • 給油時に、運転手や伝票とのダブルチェック
    「灯油の給油ですね。ここが灯油の給油口です。間違いないですね?」等の確認。
    納品予定との確認。

 このアイディアも色と文字による識別の徹底です.
 更にダブルチェックを追加されているところが良いですね.

※ガソリンスタンドの問題について考えてみました。
一番良いのは、物理的な対策かと思いますが、なかなか良い案が思い浮かびません。(色分け、表示、記録では弱い為)

  • 給油口の形状と給油ホースの形状を変え、間違った場合は給油(接続)出来ない様にする
     →しかし、相手側(タンクローリー給油ホース)の変更が必要なので、非現実的
  • 給油口に比重計?を付け、間違った比重のものを給油しようとしても、給油口が開かない
     →どれ位の設備投資が必要か不明

以上の通り、私の頭では良い案が思い浮かびませんでした。林さんや他の皆さんのアイディアを期待しています!

 こちらは初めから「ポカよけ」に絞って検討されたようです.
 「比重が違う物は給油できない仕掛け」というのは案外簡単な方法で実現できるかもしれません.
 例えばフロートが弁になっているような物をつけておけばできそうですね.
 ひょっとして実用新案が取れるかもしれません.

今回もすばらしいアイディアをありがとうございます.
私の設問で給油口の位置変更を非現実的なアイディアとして評価してしまったので,ちょっと「引っかけ」のようになったかもしれない.
その制約を一歩踏み込んで現実的な解決方法を考えるというのが良いだろう.


このコラムは、2008年11月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第60号に掲載した記事に加筆修正しました。

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