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「『うちは派遣を切りません』と言え」と怒るあるメーカーOB

 「バカ野郎! なんで派遣社員を切るんだ」。
あるメーカーA社で長年技術者を務めたOBの方が、取材の冒頭で怒り始めた。
取材のテーマは派遣社員に関するものではなかったのだが、たまたまそうした話に及んだのだ。

というのも、A社は2008年後半に派遣社員の雇い止めをすると発表したからだ。
その決定について、このOBの方は非常に不満に感じていたからである。
「X社長は分かっていない」と強い口調だ。
  

(日経ものづくりのコラムより)

こういう時期に痛快なコメントだ。しかもA社は消費者向けの製品を生産している。派遣社員も顧客の一人だ。派遣社員の雇用を守りロイヤリティの高い顧客を確保すると言う考え方もあるだろう。

しかし経営者は別の考え方をしているに違いない。
90年代のバブル崩壊後、経営者はこぞって従来の経営方針に自信をなくし、米国流の経営手法を取り入れていった。
成果主義。株主優先の短期利益主義。そのため現場の固定経費を変動経費化するために正社員を契約社員、派遣社員に置き換えていった。
その結果、現場の力が衰えなかなか立ち直れなかったところへ米国発の金融危機である。

米国流経営手法の表面だけを真似た結果だ。

米国は70年代から日本の追い上げを受け次々と力を落とし始めた。実はこの時米国は、戦後急速に力をつけモノ造り日本の経営手法を研究したのだ。その際に日本に品質管理を伝えたデミング博士の存在が再評価されている。
米国の多くの経営者は、日本に品質管理を導入し日本式経営を熟知したデミング博士の教えを受けたのだ。

米国は製造業のみならず、政府、行政、教育、サービス業などあらゆる業界がデミング博士の教えを受けて国力を回復した。

バブル崩壊後90年代に日本が見た強い米国は、実は日本式の「競争と調和」を取り入れた企業だったはずだ。
そのもっとも日本的な「調和」の部分には目が行かず「競争」の部分のみを取り入れてしまったのではないだろうか。

日本の経営者はもっと自信を持ってよいのだと思っている。


このコラムは、2009年2月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第82号に掲載した記事です。

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ココロの授業

 久々に日本に戻ってきている。
中国工場で生産をされている会社に連日出かけ打ち合わせをしている。
移動の時間は読書時間だ。2日間で3冊の本を読んだ。

その中の1冊
「私が一番受けたいココロの授業」を紹介したい。
上田情報ビジネス専門学校で教鞭をとる比田井和孝、比田井美恵夫妻による新刊だ。

比田井氏は上田情報ビジネス専門学校で就職指導の授業を持っておられる。
この授業は学生に就職合格させるための授業ではない。学生たちが仕事を通じ成長し幸せな人生が送れる様にするためにどういうココロのあり方を持たねばならないかを教えているのだ。

職業人としてのココロのあり方をきちんと教えることにより仕事へのモチベーションを高める事が出来る。これは日本も中国も同じである。

授業の内容を再現する体裁になっているが、教え子との交流など思わず落涙するくらい感動をした。
この本を読む方は電車の中で読まないことをお勧めする。


このコラムは、2008年9月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第52号に掲載した記事です。

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顧客満足

「顧客満足」という言葉が当たり前になっている。顧客とは次工程であり、その顧客の顧客も顧客だ。最終的には市場で製品を購入していただいた消費者も顧客である。次々と顧客満足を鎖の輪のように繋いでいくことで顧客満足のリンクが完成する。その顧客満足チェーンの一つのリンクが壊れても顧客満足は達成できなくなる。

今更当たり前のことを書いたが、実は信じられない最悪の事例を体験した。

顧客満足の反対は顧客不満足である。顧客満足は顧客満足チェーンの一つ一つの努力の上に成り立っている。しかし顧客不満足はそのチェーンの一つでも機能しなければ、すべてのチェーンの努力は水泡に帰す。

日本で購入したブルートゥース・イヤホンが故障したため近所の電気店でブルートゥース・イヤホンを購入した。有名ブランドの製品だが割引で格安になっていた。通勤時にオーディオブックやPodcast、ランニング中に音楽を聴くために使っている。音質に対する要求は高くない。要求はただ耐久性のみ。

しかし、一週間もしないうちに大音量の雑音を発して壊れた。
当然このような顧客不満足を解消するために初期不良品の無償交換を保証している。しかしこれは「顧客満足」ではなく「顧客不満の解消」でしかない。
もしアフターサービスを顧客満足に繋げようとするならば、顧客の使用状況を尋ね、故障原因を特定し、製品設計・製造方法の改善をしなければならない。

しかし不良品を工場に返却し代替え品を受け取っても、故障原因の報告はない。
まぁ、通常の消費者がそのようなことに興味を持っているとは思えないので、そこは許容範囲としなけらばならないだろう。しかし送られてきた交換品は充電もできないし、最初のペアリングもできない不良品だった。

返却の際に取扱説明書を同梱するのを忘れたら、代替え品には、丁寧にも、取扱説明書は添付されていなかった。わざわざ取説を取り除き代替え品を発送したとしか思えない。

今回の事例で「顧客不満の解消」どころか「顧客不満の増長」となり、結果として「ブランド不信」という最悪の結果となった。

正しいクレーム対応で「顧客不満の解消」だけでなく「顧客支持」が得られた事例もある。

相次ぐ異物混入、マック謝罪 経営不振に追い打ち

消えたペヤング 虫1匹に払う数十億円の代償

少なくとも今回の事例で、私は今回購入したブルートゥース・イヤホンメーカの製品は二度と買うことはないだろう。


このコラムは、2021年8月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1176号に掲載した記事です。

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独立系自動車部品各社、中国メーカー向け拡大

 自動車部品各社が中国の現地自動車メーカー向けの部品生産を拡大する。
タカタが現地メーカーからエアバッグシステムを受注、ミクニは上海でエンジン部品を量産する。中国メーカーは輸出拡大を目指しており、品質確保のため日系部品の購入を増やす。日本の自動車メーカーの現地生産拡大に伴い成長し
てきた部品各社の中国事業は、現地資本メーカーの需要を取り込む新段階に入る。

(NIKKEI NETより)

日系の自動車メーカの品質要求はただ事ではない。

ステアリング関連の部品を生産している日系会社の社長さんは、「うちには出荷不良率という概念はない。出荷品はゼロディフェクトでなければならない」とおっしゃっていた。

又自動車向けのボルトを生産している日系工場では、自動光学検査装置による全数検査を導入しようとしている。これでボルトの頭に有るミリねじとインチねじを識別するためのドットを検査する。自動車メーカの組み立てラインは万が一ドットのないねじが見つかるとラインが止まってしまうそうだ。人による目視検査では漏れが発生するため、自動検査装置を導入することになった。

日系の自動車メーカの品質要求に鍛えられた日系の部品メーカの品質レベルもただ事ではない。

一方最近中国では、街中にたくさん自動車の修理工場ができている。
土間に穴を掘って下から修理ができるようになっている小さな町工場から、何台もリフトを持った近代的な修理工場まで各種各様の修理工場が見られるようになってきた。

この様な自動車修理業界の発展はとりもなおさず中国製の自動車の故障が多いためだ。

大雨で冠水すると、そこいらじゅうに車がエンコして止まっている。これは中国製の点火プラグ配線コードが水にぬれるとすぐに絶縁不良を起こしてしまうためだそうだ。

日系の自動車は中国製の自動車と比較して値段が高い。しかし中国製の車は2年3年使うと修理代がその差額を越えてしまう。

コスト競争に巻き込まれることのない圧倒的な品質優位でまだまだ日系企業が戦えるはずだ。

ガンバレ!ニッポン!


このコラムは、2008年1月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第17号に掲載した記事です。

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心のスイッチ

 第34号のメルマガ「四川省大地震」にも書いたが、四川地震以来の中国人の被災者を思いやる心、貢献心に大変感動をしている。

しかし通常の生活では相変わらずである。
先週はバスに乗って出張したが、バスの入り口は我先に乗り込もうとする。並んでいる私は一番最後の乗車になった。

バスの中では本を読んでいる私の耳元で大声で話をするカップル。みよがしに耳栓をしてみたが、まったく気にするフシもない。
携帯電話で自分の好きな音楽を鳴らしている若者。日本ではイヤホーンから漏れる音でさえ道徳違反だと騒がれるのに、彼は携帯電話のスピーカから音楽を流している。

思いやりのかけらもない。
こういう人たちがどうして被災者を思いやり貢献心を発揮するのだろうか。

今私がたどり着いた仮説は「共通目的」である。
地震災害により中国国民が一斉に「被災者救助」「被災地の復興」という共通目的を持った。この共通目標が彼らの心のスイッチを入れ「他人を思いやる心」「貢献心」を発揮しだしたのだと考えている。

この仮説は検証してみる価値が高いと思う。
あなたの工場には従業員の心のスイッチを入れる共通目的がありますか?

多民族国家と単一民族国家

先週も読者様からコメントをいただいた。

S様のコメント
私は中国の企業の方と仕事上のつきあいがありますが、個人主張(私は悪くない)という反応が多々あります。
ご迷惑をかけて、申し訳ないというような回答はなかなか引き出せません。
これは、どこも同じでしょうか?

中国の工場で仕事をしたことがある方や、中国人と一緒に仕事をした事がある方は、S様のご意見に今深くうなずいておられるのではないだろうか(笑)
このメルマガでも「言い訳」について取り上げた事がある
「言い訳」

まずは自分が悪くないということを主張する、というのが中国人たちの習性のようである。

ところで翻って「ご迷惑をおかけして、申し訳ない」というメンタリティについて考えてみよう。こういう気持ちがすっと自然に出てしまうのは、日本人特有のモノではなかろうか?
単一民族の国であるからこそ、相互の信頼関係が前提としてあり、先に申し訳ないといってしまうメンタリティが出来上がっているのだろう。

米国では「I’m Sorry」というと自分に責任があると認めたことになるので、あまり謝らないと聞いた事がある。多民族の国家であるがゆえに、まずは良い悪い、どこに責任があるのかということを明確にする必要があるのであろう。
他民族社会ではまずは「ルール」が優先する。

中国も同様に多民族国家である。同じ漢族同士でも出身の省が違うとまるで違うと思ったほうが良い。更に優先すべき「ルール(法律)」が未整備であったり、未成熟なのでなおさら「自分は悪くない」ということを主張しなければならなくなる。

日本では先に良い悪いを議論してしまうと角が立つ、均一な社会なのでまずは調和を重んずる。

こんな考察をしてみると、日本人のメンタリティの方が特殊なのかもしれない。


このコラムは、2008年4月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第30号に掲載した記事です。

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アクセル踏み間違い

 ブレーキペダルとアクセルペダルを踏み間違えて事故が発生した、というニュースを頻繁に見る。そんな中で埼玉県の中小企業ナンキ工業の南平次社長がアクセル踏み間違い防止装置を考案したというニュースを見た。
「川口のナンキ工業」

後付けの装置を取り付け、強くアクセルペダルを踏むとブレーキがかかる仕組のようだ。仕組みの詳細はわからないが、言われてみれば簡単な仕掛けで実現出来そうに思える。

病院の待合室にタクシーが突っ込む、コンビニ、通学中の子供達に高齢者が運転する車が突っ込む。連日悲惨な事故が報道されていたのに、問題解決に対する熱意が足りなかったのか(苦笑)この記事を見るまで考えつかなかった。

我々の身近にある問題も、こういう状況になってないだろうか?
「〇〇だから」「□□できないから」などとハナから制約条件をつけて諦めていないだろうか?

「〇〇だから出来ない」のであれば、〇〇でなくせば出来るはずだ。制約条件は課題に過ぎない。

以前金型交換の時間短縮に現場のリーダたちと取り組んだことがある。
金型の固定ネジを締め付ける、緩める時間を短縮するためにラチェットレンチを使うというアイディアを思いついたメンバーがいた。別のメンバーの「以前試してみたがダメだった」という一言で一緒に考えていたメンバーの気持ちが折れた。

「どうしてダメだったの?」と質問。
「ラチェットレンチはすぐ壊れる」
「どんなラチェットレンチで試したの?」
「30元のラチェットレンチ」
「じゃぁ300元のラチェットレンチで試してみよう!」

「すぐに壊れてしまう」という問題を、次に解決すべき課題だと思えば、上記のような質問で解決の道が見える。

ブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故も「年寄りに運転させるな」という安直なアイディアで解決しようと考えている人が多いのではないだろうか?都会であれば車を運転しなくても生活が可能だろうが、地方の高齢化集落では高齢者も車を運転しなくては生活できない。

「高齢者は運転免許を返納せよ」というキャンペーンが盛んだが、運転免許を返納してしまうと、身分を証明する手段がなくなる。運転免許を返納せずとも車を運転しなければ事故は起きない。

自動運転が現実化した時点で運転免許を返納していたら、もう一度運転免許を取り直すことになるのではなかろうか。


このコラムは、2019年7月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第843号に掲載した記事です。

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太陽の役割、月の役割

 「太陽と月はどちらが偉いか」
 「太陽は明るい昼間しか照らさないが、月は真っ暗な夜を照らしてくれる」

なるほどと感心する。明るい昼間を照らしても無駄だ。ならば暗い夜を照らしている月の方が価値がある。
下村湖人の書籍に出てきた言葉だ。
「青年の思索のために」下村湖人著

しかし御巣鷹山日航機墜落事故を題材にした推理小説「クライマーズ・ハイ」にはこうある。
「月は太陽がなければ輝かない。月を輝かせるのが太陽の役割」
「クライマーズ・ハイ」横山秀夫著

太陽が明るい昼間を照らしているのが無駄である、という論は、太陽が明るい昼間を作っているのを忘れている。しかも暗い夜を照らしている月は太陽に照らされて輝いている。

目に見える活躍だけに着目し、本来の役割を見失うと同じような過ちが発生する。

昼行灯のような職員が休暇でいなくなると、急に職場が暗くなる。
老害と思っていた年寄りが定年退職すると、仕事が回らなくなった。
何の役に立っているかわからない部品をコストダウンで外したら不良が増えた。
訳の分からないコードを削除したら、プログラムが動かなくなった。

あなたの周囲にも太陽と月問題が潜んでいないだろうか(笑)


■■ 編集後記 ■■

最後まで読んでいただきありがとうございます。

消費税を上げれば経済は停滞する。太陽と月問題よりもずっと明確な因果関係
があるのに、粛々と増税に向かっているようです。


このコラムは、2019年7月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第851号に掲載した記事です。

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ホームラン打者

 伝説の営業マンと言われるフランク・ベドガーの本を読んだ。
「頑張れ社長!」のyoutubeチャンネルで紹介されているのを見て、即近所の古本屋に探しに行った。

「私はどうして販売外交に成功したか」フランク・ベドガー著

大リーグの選手だったベドガーは緩慢なプレーで解雇される。その後移籍先のマイナーリーグで、重要なのは野球の技術ではなく情熱だと気がつき大変身。しかし試合中に骨折で引退。保険外交員となるが鳴かず飛ばず。そんな不幸のどん底から伝説の営業マンになる。2日で読了した。

書籍中に「ベーブルースの偉大な記録714本のホームランは1,330回の三振に支えられている。」という記述があった。
では我らが王貞治は?という思いで調べて見た(笑)

【王貞治】
通算打数:9,250
本塁打数:868
三振数:1,319
四球:2,390

【ベーブルース】
通算打数:10,617
本塁打数:714
三振数:1,330
四球:2,062

王貞治の868本のホームランは1,319回の三振に支えられている。ベーブルースも王貞治も三振の悔しさをバネにホームランを打ちまくったのだろう。更に王貞治は2,390本の四球、ベーブルースは2,062本の四球を選んでいる。多分強打者に打たれるより四球を与える方が試合を組み立てる上で有利だ、という相手チームの判断だろう。一塁が空いていれば王貞治は敬遠され歩かさせる。四球はバットを振らせてもらえない。悔しいに違いない。

更に王貞治には「王シフト」という試練もあった。守備は全て右寄りに守る。外野に4人配置するチームもあった。
サード側に転がせば必ずヒットになる。
しかし王貞治はそれをやらなかった。どんな守備をされてもフェンスを超える打球を打ち返すことだけを考えていた。

私たちも今、悔しい、辛い状況にある。膝を屈することなく前を見よう。
明けない夜はなく、やまない雨もない。

■■ 編集後記 ■■

最後まで読んでいただきありがとうございます。

本日ご紹介した書籍「私はどうして販売外交に成功したか」は1964年初版です。
この年には東京オリンピックが開催され、王貞治は本塁打55本の記録達成。
2020年東京オリンピックは延期になったが、この書籍のメッセージを56年の時間を経て今受け取ったことに何らかの因縁を感じます。

久しぶりにYoutubeに動画を投稿しました。
よろしければご笑覧ください。


このコラムは、コロナ禍で日本待機中の2020年6月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第990号に掲載した記事です。

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新常用漢字

新常用漢字、12年度から指導=中学で読み、高校で書き―文科省

 文化審議会が常用漢字表に追加を答申した196字について、文部科学省の専門家会議は29日、2012年度から中学で読み、高校で書きの指導を始めることを決めた。196字が追加された漢字表は11月にも告示される
見通しで、同省は学習指導要領の一部改定作業に入る。

 同省によると、小学校では当面、196字の指導はしない。読みは中学の各学年に割り振り、高校では主な漢字を書けるように指導する。

 文化審議会は6月、文科相への答申で196字のうち「鬱(うつ)」など画数の多い字を念頭に「すべてを手書きする必要はない」としていた。

 専門家会議はこれを受け、書きの指導を必要としない字を明示することも検討したが、すべての高校に一律の基準を示すのは適当でないとして見送った。

 高校、大学入試では、新常用漢字を中学、高校の1年生時から学んだ生徒が受験する15年度試験から出題できることにした。また、大学入試で手書きが難しい漢字を書かせる問題が出されることがないよう、配慮を求めた。 

 

(asahi.comより)

 日本の常用漢字が1945文字から2136文字に改定したのを受け、文部科学省が指導方針を出した。

調査によると、10代の若者は「俺(おれ)」や「鬱(うつ)」の追加で話題の文字を7割以上の人が知らない。常用漢字表の存在を知らない者が6割もあるという。

文部科学省の指導方針は、えらく甘いように思えるがいかだろうか。
手書きでかけなくても読めればOKという方針は、PCの普及により文書作成をPCに頼っていることを背景としているのであろう。

しかし子供たちが、漢字を覚える負担から開放される時間で、何を習得すべきか、明確にしておく必要がある。「ゆとり教育」の時のように、その背景にある意図が明確に現場に伝わっていなければ、施策は有効に機能しない。

私なりに「ゆとり教育」まで遡って考えて見た。記憶偏重だった教育による画一な人材よりは、豊かな感性、思考能力を持った人材を多く育てたい、という意向だと理解している。

日本の戦後教育は、画一的でそこそこ優秀な人材が製造現場で「和」を持って仕事をするのに、有効だったのだろう。しかし時代は変わり規格量産品の生産では、国の経済を支え、国民の生活を豊かにすることができなくなった。
多様性、変化の時代には、一人ひとりがより創造的な仕事が出来なければならない。
そんな時代的要請が「ゆとり教育」の背景にあると理解している。

しかし「ゆとり教育」は、学力の低下しか生まなかったのではないだろうか。その反省の一部として今回の196文字の追加があるのかもしれない。

ところで、中国を考えてみると、漢字は8000文字あるといわれ、4、5000位の漢字を覚えていないと生活にも支障をきたすだろう。ひらがな・カタカナがある日本と違い、小学一年生でもいきなり教科書は漢字だけだ。

50文字を覚えれば、教科書を読める日本の小学生一年生と比較すれば大いなるハンディだ。まずは漢字を覚えてしまわなければ、次がない。

「おねえさんは、りんごをひとつもっていました。おとうとは、りんごふたつもっています。ぜんぶでいくつあるでしょう」という足し算の問題は、中国の教科書では「姐姐有一個苹果。弟弟有二個苹果。一共多少?」となる。
漢字が読めなければ算数も勉強できない。

そのため中国の教育は、記憶能力に大きく偏っているように思う。
中国人の若者を見ていて感心するのは、その記憶力の良さだ。
11桁の電話番号も難なく暗記している。日本人の様に3桁とか4桁に区切って覚えるようなこともしない。

しかし残念ながら、全体的に物事を把握したり、論理的に分析、説明する力は見劣りがする。創造的な文章を作るよりは、記憶の中から成語を選び出す方が得意だ。もちろん13億人もいるので、優れた人もいるが、平均的に考えると記憶力偏重といえるだろう。

だから駄目なんだ、と嘆いている場合ではない。
足りないところは、鍛えればよいだけだ。


このコラムは、2010年10月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第174号に掲載した記事です。

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