経営」カテゴリーアーカイブ

不便を楽しむ

 今若者の間で銀塩フィルムを使ったカメラが流行っているそうだ。富士フィルムの「写ルンです」が30周年記念モデルを販売していると聞く。

ディジタルカメラやスマホで撮影した写真で交流するインスタグラムで、「#写ルンです」と検索してみたら36,390件の投稿がヒットした。写ルンですそのものの写真も有るが、写ルンですで撮影した画像をディジタル化して投稿しているようだ。

80年代初めの頃、銀塩写真を大量に撮影していた。しかし重たい一眼レフや交換レンズを持ち歩くのが辛くなり、コンパクトカメラをサブカメラとして買ってみた。その後コンパクトカメラしか持ち歩かなくなった(笑)

ディジタルカメラが出た時は,画質が悪くて使い物にならないと感じたが、カシオのQV10を購入してみた。現像する手間がいらない。撮った写真をすぐに見る事が出来る、とうい利便性が気に入り、銀塩カメラからはなれてしまった。

その後コンパクトディジカメを使っているが、今ではiPhoneで撮影する事がほとんどだ。

考えてみれば、バブル経済期に利便性を追求し、一眼レフ→コンパクトカメラ→ディジカメ→スマホと推移して来た。

そして最近は銀塩カメラへの回帰が起きている。
写真の楽しみ方は、個人や家族と言う小単位から、SNSで広く拡散している。従って銀塩カメラは、現像の手間のみならず、銀塩フィルムをスキャンしてディジタルデータに変換する作業も必要となる。

どうも時代は、利便性や効率を重視した時代を経て「不便を楽しむ時代」に変化しているようだ。今考えれば不便だった時代に、わざわざ手間とお金をかけて回帰している。

モノへの渇望から自由になった人々は、わざわざ不便を楽しむ様になるのかも知れない。
手っ取り早く食事を済ます食生活から、ゆっくり食事を楽しむ生活に。
一つの店舗で買い物が済ませられるスーパーマーケットから、買い物そのものを楽しむ専門店に。
アマゾンが書籍を販売するリアル書店を作ったのもこの流れなのかも知れない。

「不便を楽しむ」がビジネスチャンスのキーワードになるかも知れない。


このコラムは、22016年5月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第475号に掲載した記事に加筆しました。

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孤高社員

 以前のコラムで「支持待ち社員」に対する対処法について検討した。
「指示待ち社員」

今回は「孤高社員」について考えてみたい。
「孤高社員」というのは、自分の得意分野や、自分の仕事だと思っている仕事に対しては、情熱を持って率先して取り組み、力を発揮する社員だ。
こういう社員ならば理想的な社員に見えるが、困った事に興味が無い仕事には取り組まない。他人の仕事には、批判はするが協力はしない。従って組織の中では孤立してしまい「孤高社員」となる。

特に日本企業の様に「和」を重んじ、組織内、組織間の協調で仕事を進める組織には、困った社員となる。

中国人幹部に研修をする機会が多く、たまにこういう人にであう。
講師に向って「こういう研修は自分には不要だ」と平気で言うタイプだ。経営者は当人に不足している技量や、心構えを改善したくて研修に派遣しておられる。「職場に戻って仕事をしていろ」と叱り飛ばす事は出来ない(笑)

こういうタイプの人間は、日本人にもいる。若い頃に同僚にこういうタイプがいた。天才的なアイディアを閃き、仕事もできる。しかし仲間と協調するのは苦手だった。私も彼とは一緒に仕事をしたくないと思っていた。案の定、彼は組織の中で遊離してしまい、重要な仕事は回って来ない。
彼とは別の職場になってしまったが、ある時担当している仕事で行き詰まり、彼ならどんなアイディアを思いつくだろうかと、ふと思ったことがある。出来る事ならば、彼をプロジェクトに参加させたいとさえ思った。

「あいつとは仕事をしたくない」と言うのは私の利己的な感情であり、彼の能力を引き出す事がリーダシップなのだと気が付いた。

上記の孤高中国人社員の日本人上司も、どういう職位を与えたら彼が力を発揮するかと考えておられた。

人にはそれぞれ、ネガティブな側面とポジティブな側面がある。
普通の人はネガティブな側面を押し込み、ポジティブな側面を大きくしようとする。しかしネガティブな側面もポジティブな側面も自分自身であり、ムリにネガティブな側面を押し殺そうとすれば、自己否定に陥りがちだ。そうなれば人のパフォーマンスは十分に発揮されない。

天才肌の人にありがちだが、すごい能力があるのに、コミュニケーションが下手だったり、他人と協調することができなかったり、計画通りに仕事を進める事が苦手だったりすることがある。こういう人の苦手を無理やり克服させると、平凡な人になってしまう。

とんがった社員は、もっと尖らせれば良いのではないかと思っている。苦手な側面は、組織でカバー出来るだろう。

天才的な経営者には、女房役の経営幹部が参謀としてついている事例がよくある。苦手を意識するのではなく、天才性を磨く。そういう「孤高社員」の存在を認めることができる組織が成長することができると考えている。


このコラムは、2015年6月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第426号に掲載した記事に加筆しました。

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韓非子

 韓非子は性悪説という先入観念があり,今までまったく興味を持たなかった.しかし日本に帰国した折に,何も考えずに韓非子に関する文庫本を買った.長らく放って置いたが,最近ぺらぺらと眺めている.

韓非子の言葉にこんな説があった.

下君は己の能を尽くし
中君は人の力を尽くし
上君は人の智を尽くす.

自分の能力に頼るのは,下級のリーダ
人の力を活用するのは,中級のリーダ
人の智恵を活用するのが,上級のリーダ
ということだろう.

自分で何でもやってしまえば,部下が育たない.いくら高い能力を持っていたとしても,部下10人分の力を発揮できるリーダはいないだろう.従っていくら能力が高くても,それに頼っているうちは本当のリーダとは言えない.

部下の力を活用して,成果を挙げて初めてリーダと言えるだろう.
しかし韓非子はこのレベルでは中級のリーダだと言っている.
つまり部下にいくら力があっても,リーダの指示に従わせるだけでは,たいした働きはしない.命令・指示に従う部下のモチベーションは高くはない.部下の能力を,いかにしたら100%引き出せるかと,悩むことになる.

上級のリーダは,部下に自ら考えさせる.
自ら考えることにより,部下は成長する.そして命令・指示で動くよりは,自らの考えで動いた方がモチベーションは高くなる.この場合は,いかにすれば100%以上の能力を部下が発揮するかを,考えることになる.

この話をクライアントの中国人幹部たちに話してみた.
一人がこの話に異を唱えた.彼曰く;
100しか仕事が出来ない人に150の仕事を与えたら,仕事の質が落ちる,本人は疲弊する.良いことはない,と言う主張だ.

もっともに聞こえる主張だが,仕事に対する能力は仕事を与えることによってしか成長しない,と言うことを忘れているようだ.

100の能力の者に200も300も仕事を与えたらば,彼の指摘のようになるだろう.しかし少しがんばれば達成出来そうな目標を与える,そしてそれを達成することにより,部下は成長するはずだ.
その時に150の仕事をこなすための方法をこと細かく教えてしまうと,中級リーダと同じことをしていることになる.


このコラムは、2010年8月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第168号に掲載した記事に加筆しました。

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ベンチャー・中小企業支援

 ネットのニュースで,郵便事業会社(JP日本郵便)が,集配に使う電気自動車1030台を岐阜県のベンチャー企業から購入する,と言う記事を見た.

こういう記事を見るとうれしくなる.

民営化されたとは言え,JP日本郵便は元々国営企業で頭が固い人たちばかりそろっていると思っていた.そういう会社が,大手の企業ではなくベンチャー企業から,資材を購入する,と言うのがうれしい.

過去の実績を頼りに,資材の調達をしていれば,何かあっても調達担当者の責任になることはないだろう.しかしベンチャー企業に発注し,何か問題があれば担当者の責任となる.

こんな雰囲気が公官庁にはあると思っていた.

日本の産業を元気にするためには,中小企業企業やベンチャー企業が元気にならなければならない.戦後日本の成長を支えたのは,中小企業の存在だ.

国は中小企業やベンチャー企業の育成を狙った政策を出しているようだが,一番効果があるのは,注文が中小企業・ベンチャー企業に入ることだ.

活力のある組織は,過去の実績だけで調達先を決めない.現在持っている技術,商品で調達先を決めている.米国のNASAが日本の町工場から部品を調達するなどということが起こる.

税制の改定や,中小企業・ベンチャー企業向けの融資も重要だが,頭の固い公官庁に調達の一定比率を中小企業に出すように義務付けてしまってはどうだろうか.


このコラムは、2010年8月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第167号に掲載した記事に加筆しました。

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続・異常感度を上げる

 先週のメルマガ記事「異常感度を上げる」では,中国工場での正常と異常の閾値が我々が期待するレベルと大いに異なっている、という事例をご紹介した。この記事にたくさんの方に共感していただけたようで,コメントのメッセージを7件頂いた.
異常を異常と感じない事例を紹介いただいた方もあり,なるほどと,一人で頷いていた.事例を他の読者様とも共有したいと思う.

  • 3本並んだ蛍光灯が「チカチカ」していても、誰も取り換えようとも取り換え依頼をお願しようともしない。
  • 食堂に並んだ蛇口が壊れても、他が使えるので、問題ない。
  • 日本でギァから異音がすれば、大騒ぎになるが中国では、機械が動いている限り問題にならない。
  • 中国の露天でマグカップを買う、自宅に帰ってよく洗うとヒビがある。今のところ中身も漏れず、使用上なんら問題なければ、没問題となる。執拗に交換を迫れば応じてくれるが、交換したヒビのあるマグカップは、再び店頭に陳列される。

私が一番驚いたのは,中国工場で見たトイレのロック.
扉の取っ手の下にくるりと回すレバーがついており,固定部分に引っ掛けて外から扉を引いても開かないタイプのロックだ.
しかし扉は外から押して開くようになっており,ロックは機能しない.この扉が出来てすでに,何年もたっているようだが,そのまま使っていた.

このような代替のない機能不全まで,放置されているのに驚いた.

このような状況を打破するために,TPM(Total Productive Maintenance)の自主保全活動を,導入すると良いだろうと思っている.

I様からはこんなコメントを頂いた.

 小生、中国深せんに赴任中です。小生の専門はTPMです。中国でまさかTPMをやる事になるとは夢にも思いませんでした。日本の仲間は、TPMは中国人にはムリだと言っていましたし、小生もそうだと思っていました。が、違っていました。日本よりすんなり受け入れられたのです。苦労はしましたが、根付きつつあります。

大変心強いメッセージを頂き,私もTPMの導入推進に自信が持てた.


このコラムは、2010年8月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第167号に掲載した記事に加筆しました。

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競争より協調

 他人と競争する事で、人のパフォーマンスは上がる。スポーツ競技は、練習中に世界記録が出る事は無いそうだ。(公認記録が練習中にでる事が無いのは当たり前だが、一人で練習している時に世界記録越える事は無い)試合中にライバルと競争する事により、より高い記録を達成する事が出来る。
格闘競技でも同じだろう。自分より格下の相手と戦って最高の試合が出来た、と言う事は無いはずだ。実力が拮抗する相手、自分よりわずかに強い相手と戦った時に最高の試合が出来るはずだ。

競争をする事により、実力以上の結果を出す事が出来る。そしてその結果が自信となり、自分の実力となる。競争環境が無い所で成長する為には、昨日の自分との競争を常に継続する事で成長が可能になる。

企業内での仕事も同様だろう。競争が有れば、個人は努力し能力を高める。
確かにそのようなメカニズムは働いているだろう。しかしこのメカニズムが機能する為には条件が必要だ。受注量が無限に有れば、純粋な競争で生産能力を上げれば、その分個人に成果が分配されるだろう。
しかし受注量は有限であり、競争はゼロサムの競争となる。

上位ポストを目指して競争すれば、それぞれが自分の能力を高める努力をするだろう。しかしポストは一つしか無い。

良い競争が続いていれば良いが、組織内の競争は間違った方向に行きやすい。
良い競争とは、各自が自分の能力を高める競争だ。間違った競争は、相手の能力を下げる(能力が低く見える様にする)競争だ。
間違った競争の事例は数限りなくある。あなたも組織内で働いていれば、1度や2度は不愉快な思いをした事が有るだろう。

競争は有るべきだと思うが、チームや組織での協力・協調が有る事が前提だ。
組織の能力を伸ばす事を前提に個人の競争が無ければ、組織の能力はゼロサムになりかねない。


このコラムは、2016年5月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第475号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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自動運転、異業種とタッグ 車大手グーグル参入に危機感

 クルマに革命をもたらすといわれる自動運転の分野で、世界の自動車大手が競うように異業種との提携を加速させている。背景には、「頭脳」に当たる制御ソフトで米グーグルに主導権を握られれば、車体を提供するだけの「下請け」になりかねない、との危機感がある。

(朝日新聞デジタルより)

 記事は米国ラスベガスで開催中の家電見本市(CES)の現地レポートだ。トヨタが、CESに自動運転のデモで出展している。家電もITも車もどんどん境界が曖昧になり、業界が融合し始めているようだ。

記事の中に自動運転関連で自動車メーカが異業種と提携した例が出ていた。

  • BMW:百度と提携。
  • アウディ、BMW、ダイムラー:ディジタル地図会社を買収。
    これらの買収、提携は地図データの入手を目的としているのだろう。
  • トヨタ:ITベンチャーに出資。
  • GM:配車サービスドフト会社に出資。
    自動運転アルゴリズムの開発を目的に出資。
  • 日産:NASAと共同研究。
    詳細は記事になかったが、衛星写真を解析して自動運転ルートの探索を開発するつもりだろうか?

航空宇宙産業と自動車業界、ベンチャー企業のAI技術と自動車業界などの異なる分野の協業により新しい価値の創造が生まれる。

これは自動車業界に限った事ではない。
コンビニ大手はPOSデータと言うビッグデータを持っている。これを解析し広告業界に販売する事も可能だろう。例えば屋外の電光掲示板に、今コンビニで売れている商品の広告をリアルタイムで流す。多分普通の広告の何倍もの宣伝効果があるはずだ。広告主の商品が売れる。しかもその店舗が、自社のコンビニであれば広告費をいただいて自社の売り上げ増になる。

部品の生産や加工の請負をしている企業は、単独では下請けの域を脱する事が難しいかも知れない。
絶対緩まないナットを生産し、点検・まし締めのコストダウンを提供する。
片手で簡単に回せるナットで金型交換の段取り時間短縮を提供する。
このようなアイディアで、顧客に新しい価値を提供する事が出来るのは限られた企業だけだろうか?

斬新なアイディアが思い浮かばなくても、異業種との協業により新たな価値が生まれるかもしれない。往々にして自業種では当たり前の事が、他業種では新しいアイディアで有ったりする。又は業界が変われば、同じアイディアでも提供する価値が変わる事もあり得る。
例えば、航空会社は旅客機により「移動」と言う価値を提供する。
同じ旅客機でも、旅行会社は旅により「体験」と言う価値を提供する。
同じ旅行でも、研修会社は研修旅行により「学び」と言う価値を提供する。

異業種との交流で新しい価値を生む。
買収や出資は難しくても、志と夢が共有できれば協業は出来るはずだ。
志や夢が有る方は、是非自社技術やアイディアの棚卸しをしていただきたい。準備ができていなければ、チャンスが来た時に乗り遅れてしまう。

今年のテーマ「交流」は、生産現場や経営管理のベストプラクティスばかりではなく、このような新規ビジネスの創造も含んでいる。一人で考えても実現不可能な事を、交流の力で実現可能にしたいと考えている。


このコラムは、2016年1月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第458号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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職人の技、機械に伝承 44年の「勘」をデジタル化

 レーザーが当たると、金属の粉末がいくつもの四角形を描いて積み重なり、凹凸のある部品ができあがる。新潟県刈羽村にある従業員約170人のバルブメーカー、日本ドレッサーの工場では、大型の3Dプリンターが昼夜を問わず動き続けている。

 「熱を加えると、どう変形しますか?」。図面を手にした設計担当の三橋栄治さん(39)が尋ねると、顧問の田代為常さん(67)は「この材料は縮むので、少し大きめにつくろう」と応じた。田代さんはバルブづくり一筋44年。この会社の競争力を支えてきた「職人」の一人だ。

 その田代さんの職人技を、三橋さんがつくる設計図を介して3Dプリンターに学ばせている。親会社の米ゼネラル・エレクトリック(GE)から1年前に導入されたものだ。国内の製造業の働き手は減る一方。高齢化する職人たちの技術をどう伝承していくかが課題のひとつだった。

(朝日新聞デジタルより)

 日本のモノ造りを支えて来た職人の技を伝承しなければならない。私も同じ危機感を持っている。しかし職人の勘を3Dプリンターに学ばせると言うのは、違和感を持つ。

「熱を加えると、どう変形しますか?」
「この材料は縮むので、少し大きめにつくろう」
この会話は、多分非専門家の記者の理解だろう。熱を加えて縮む材料をバルブに使用しているとは思えない。例えば、加工中に熱が発生するので穴径は加工後縮む、と言う意味だろう。
確かにこれも職人の勘には違いない。しかしこのような問題はコンピュータでシミュレーション可能だ。職人は経験により一瞬の判断で収縮後の穴径が図面通りとなる様にドリル径を選択できる。コンピュータは時間はかかるがより正確にそれを計算できる。従ってコンピュータシミュレーションの結果を使い完成図面を加工図面に置き換えれば良いはずだ。

職人の真価は他にあると思っている。

同じくバルブを生産している佃製作所(池井戸潤「下町ロケット」・笑)は、手で加工する技術が高く、高性能なバルブを作る事が出来る。こういう技術は長年の積み重ねが必要だ。
長年の鍛錬によって磨かれた「巧みの技」がなければ、ディジタル化した「勘」も実際に加工が出来ない。こういう「巧みの技」を残せるのは日本しかないと思っている。

巧みの技を持っている中小零細企業が後継者難により、廃業せざるを得ないと言う事例があると聞く。日本の産業の財産が失われていく様な焦燥感を感じる。


このコラムは、2016年1月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第457号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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不況の処方箋・高品質

 北京オリンピックが終わって一気に世の中の景気が冷え込んでしまった.
米国ビッグ3は経営難に陥り,政府の援助を要請している.
日本の自動車業界も押しなべて減産計画を打ち出している.
電子産業界も数千人単位の人員削減を発表した.

右を見ても左を見ても景気の悪い話ばかりである.
しかし景気が悪いと嘆いてはいられない.世界経済はいくら経営努力をしても自分達の力ではどうにも改善はできない.どの会社にも同じ条件だ.自分達でコントロールのできる条件で改善する事が出来れば,一気に競合の中で優位を占める事が出来る.

逆境はチャンスである.

こういう時期に体質改善を図り基礎体力を付けたい.
今までのような低コスト・大量生産から,高品質・高付加価値・高フレキシビリティ生産に切り替える事が重要だと考えている.

高品質:
今までのように不良率の低さを話題にするのではなく,不良がないのが当たり前にする.日本の企業の優れたところは,偏執狂ともいえるほどの不良低減活動を継続することである.
オペレーションリサーチ(OR)の教科書には品質とコストの曲線の最低地点(サドル点)が最適の品質だと書いてある.しかし世の中はそう単純ではない.品質とコストの2軸だけで世の中は説明できない.

顧客の安全・安心を徹底的に極めれば,コストと品質は相互にコンフリクトする要因にはならないはずだ.

以前指導をしていた工場でこんな事があった.
トランスを納入していた工場から,品質要求が厳しすぎるから値上げを認めなければ納入しないと申し入れがあった.トランスに付着している半田ボールの規格が厳しすぎるというのだ.

トランス工場に出かけて見入ると,コイル線をリード端子に半田付けする工程で発生した半田ボールを最終検査工程で拡大鏡を使って除去していた.女工さんを大勢投入しており,確かにコストがかかっている.

この工場には,半田付け工程で半田ボールが発生しないように工夫する事を教えた.
ちょっとした工夫で,半田ボール除去のための工数が大幅に削減できた.
こういう工夫をしなければ,この工場は永遠に顧客のクレームを受け,品質とコストのトレードオフに苦しんでいたはずである.

高品質にすることにより,顧客の信用が得られより良い条件で取引ができるようになる.コストをかけずに高品質にする事が出来た.高品質にすることにより,不良損失コストが抑えられる.

そんな事例があなたの工場にもないだろうか.
まだ成功事例がなくともアイディアを実行に移せば,必ず成果はあるはずだ.


このコラムは、2008年12月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第70号に掲載した記事です。

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5Sは経営決断

 5S活動は何のためにやっているのだろうか?
お客様の監査があるから?
日本本社の要求?
となりの工場もやっているから?

こういう動機で5Sに取り組んでいても、あまり効果はないだろう。
こういう工場の経営者は、常に「明日はお客様の工場監査があるから5Sをしっかりする様に」とか「ウチの従業員は整理整頓が出来ていない」と言っている。

整理整頓とは、必要なモノだけが現場にあり、いつでもすぐ手に取れる状態になっている事だ。こうなっていれば、生産性が上がらないわけがない。部材や工具を取りに行く、探す、と言う行為は生産活動に対して付加価値を与えていない。実はこういう付加価値のない作業(付帯作業)は想定以上に多い。整理整頓によりこういう時間を短縮するわけだから、必ず生産性は向上する。

しかし整理整頓は現場従業員の責任だろうか?
部材や工具を使いやすい場所に必要な数だけ準備する。これが整頓だ。これは現場従業員がやらねばならない。しかし整頓がきちんと出来ていない最大の要因は、不要なモノが沢山あるからだ。

調達コストを下げるために大量発注した部材、見込みで生産した中間在庫、出荷の当てがない完成品在庫、全く使われていない設備などが生産現場を圧迫している。整頓をするためには、モノをあちこちに移動すると言うムダな作業が必要になる。

これらの「使えないモノ」「使わないモノ」「今使わないモノ」を整理するのは現場従業員の仕事ではない。一般従業員がB/S上の資産を勝手に消却出来るとは思えない。
これは経営者の経営決断だ。受注量以上に部材購入する、生産をするのと同様に、経営判断した上で経営決断をしなければならない。

5Sとは、企業の業績を上げるために経営者が行う経営決断だと考えている。一般従業員の「草の根活動」ではない。全ての従業員が同じ方向を向いて生産活動するために「躾」をするのも経営者、経営幹部の責任であるはずだ。


このコラムは、2016年8月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第489号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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