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神戸製鋼所データ改ざん

 一年近く前に発覚した神戸製鋼所の検査データ改ざん問題で、検察は企業に対し虚偽表示で起訴、検査責任者の品質部門長は不起訴処分となった。と毎日新聞が7月20日付で報道している。

東京地検特捜部と警視庁による捜索から1カ月余りで起訴するというスピード捜査となった。その背景は、欧米の司法が調査に乗り出そうとしているため、神戸製鋼所が社内データの海外流出を恐れ、早期決着のため地検・警視庁の捜査に全面協力したと毎日新聞は解説している。

昨年10月頃に神戸製鋼所、日産自動車で立て続けに発覚した検査データ捏造・改ざん問題をコラムに書いた。この事件により神戸製鋼所が顧客から信頼を失い、最悪倒産するという私の予測は外れたようだ。

神戸製鋼所データ改ざん問題

ちなみに株価総額は、問題発覚直後に2,900億円を割り込んでいたが、先週末現在3,700億円を超えている。

この事件の深層には「川上産業の傲慢」があるのではないかと感じている。顧客は不正があったとしても、他から調達ができなければ転注はできない。

深々と腰を曲げお詫びしながら、心の中では仕様通り生産するには値上げを顧客に呑ませねば、などと考えているのではなかろうかと邪推してしまう。

我々がこの事例から学べることがあるとすれば、神戸製鋼所を反面教師として

  • 工程能力指数を上げる努力をする。
  • 顧客との仕様取り決めを真摯に行う。

チェック機能として、受注判定会議の議事内容に「仕様の妥当性確認」を追加。ということになるだろうか。
(以上の検討は、事実関係に基づいたものではなく私個人の私見です)


このコラムは、2018年7月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第697号に掲載した記事に加筆しました。

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鉄道の安全対策

 先週配信のメールマガジンで、JR西日本の車両点検職員に対する安全意識向上研修について取り上げた。

恐怖の風圧体験研修

トンネル内を疾走する新幹線の風圧を体感することにより、本当に事故防止が可能とは思えない。属人的な要因に左右されない作業方法による事故防止対策を検討すべきという意見を書かせていただいた。

そんな折にTV東京「カンブリア宮殿」でJR東日本の冨田会長を取り上げているのを見た。番組の中で冨田会長は「安全は守るものではなく、作るものだ」と語っていた。

国鉄民営化直後1988年に中央線の追突事故が発生している。
JR東日本は、この時の事故車両を展示する施設を作っている。職員の安全意識を高めるという点ではJR西日本の風圧体験研修と同じかもしれない。しかしこの後が違う。事故後の5年間で1兆円の安全投資をしている。事故防止には職員全員の安全意識が必要であるが、それ以上に経営者の本気度が重要だ。

「安全は守るものではなく、作るものだ」という言葉が経営者の本気度を象徴しているように思える。


このコラムは、2018年10月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第739号に掲載した記事に加筆修正しました。

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中国華南地区の景気

 今日家賃の集金に来た大家さんが部屋に入ってきて開口一番「景気が悪い」彼は海運業の会社に勤めており,華南地区の製造業が軒並み景気が悪く,彼の会社にも影響が出ているとのことだ.

最近このあたりで工場の倒産,台湾,韓国系工場の夜逃げの話を良く耳にする.

しかし一方で注文が増えている工場もある.競争相手がつぶれてしまい仕事が回ってくるというのである.

こういう時期にしっかり力を蓄えておけば,景気が回復した時に一気に波に乗る事が出来るはずである.ピンチをチャンスに変える.今のうちに贅肉のない筋肉質の体に鍛え上げておきたい.

ところで以前指導していた会社にいた中国人の若者は,独立してネジの工場を経営している.4年近く前に電話で独立した事を知らせてくれた.
一度工場を見に行ってやると言ってあったのだが,彼は遠慮してなかなか迎えには来なかった.ところが最近良く電話をしてくるようになった.

彼も電話のたびに景気が悪い,どこかネジを必要としている会社を紹介してくれというのだ.
しかし工場も見ていないのにうかつには紹介できない.たかがネジとは言え品質問題が出れば厄介なことになる.

随分昔になるが,北欧のメーカから周辺装置を購入していた事がある.
特に品質問題もなく安心していた.北欧のメーカにしばしば品質問題を出されてはたまったものではない.そのたびに工場に出かけて原因や対策の確認をするのでは,少ない出張予算があっという間になくなってしまう.

ところが突然メーカの品証から,今回納入したロットは使わないで返却してくれという連絡が入った.
報告によると製品に使用したネジの製造工程に問題があり,暫くするとネジの頭がポロリと取れてしまう事があるというのだ.

ネジを作った後にメッキをするが,メッキ後のアニール(熱処理)工程を飛ばしてしまったというのだ.
メッキ処理中に発生した水素原子が鉄ネジの中に入り込む.通常はアニール工程でこの水素をたたき出してしまうので問題がないが,水素が残留していると「水素脆性破壊」が発生する.応力がかかっている部分
が脆化してポロリと破断してしまうのだ.

メッキ工程は,水洗処理,薬剤による前処理・後処理,メッキ処理など幾つもの工程をバッチごとに持ちまわって処理をしている場合が多い.一種類のメッキ処理だけをやっていれば,工程順に処理槽を並べれば
間違いなく工程を進める事が出来る.何種類も同時生産をしていると,この製品にはこの処理は必要ないが
別の製品にはこの処理が必要という事が出てきてしまう.

メッキだけではなくこのような工程になっている製品はあるだろう.特に設備で加工する場合,バッチで設備間を持ちまわって生産するような製品は「工程飛ばし」「工程間違い」に対する予防策をとっておかないと必ずミスが発生する.

例えばある製品はA工程→B工程→C工程の順に生産するが,別の製品はA工程→D工程→C工程の順に生産する.

このような場合にどうすれば間違いなく工程順が守られ,工程を飛ばすことなく生産できるだろうか?
皆さんはどんな工夫があるだろうか?
またご一緒に検討してみたい.

今回の制約は,
・工場の中は機械化が進んでおらずバッチ単位で人間が持ち回り生産する.
・設備は簡単には移動できない.
という条件にしよう.

(次号に続く)


このコラムは、2008年11月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第61号に掲載した記事に加筆修正しました。

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自粛を自粛

 東日本大震災で広がっている花見やイベントなどの「自粛ムード」について,内閣閣僚からも,行きすぎると経済に悪影響が出かねないとの懸念が出始めた.復興構想会議に任命された村井宮城県知事は「過度な自粛をしないで消費を促してほしい」と菅首相に要望している.

隅田川の屋形船は,9割がた売り上げが落ちているそうだ.
被災して辛い避難生活を強いられている人たちのことを思うと,花見などと浮かれる気持ちにはなれないのは分かる.しかし政府や自治体の指導者が,花見を自粛せよというべきではない.

被災していない我々こそ,消費をして国の経済を支えるべきだ.復興にかかる費用を,消費税や事業税として負担しなければならない.

復興には15兆円ほどかかると言われている.気の遠くなるような金額だ.国民一人ひとりが,税金で負担しようとすれば一人当たり,12万5千円.一家族を4人とすれば,各家庭の税負担は50万円増えることになる.やはり企業が利益を出して,たくさん事業税を納めてもらわなければならない.

景気を冷え込ませてはいけない.
個人消費が伸びれば,企業の収入が上がり,納税額も上がる.被災地への義捐金と同じように,個人の消費も被災者を支え,被災地の復興に貢献することになるはずだ.

中国の航空会社が,被曝を恐れ帰国する中国人に対して航空券の売値を1万元に上げたと聞いた.通常ならば5000元で往復航空券が買える.しかし日本の企業がそのようなさもしい商売をするはずはない.

思い切って大型の液晶TVを買う.そして製品の裏側隅に「東日本大震災復興のため購入」と書いておく.きっとその製品を買ったことを永く誇りに思えるはずだ.家族は皆それを大事に使うだろう.

私達の様に海外で働いている者は,必死で働いて家族に少しでもたくさん仕送りをする.工場の経営者も,利益を出し日本の本社に還元する.

震災の影響で生産量が落ちている工場は,生産が落ちている間に生産改革を実施して,高利益体質に生まれ変わる.

それぞれが,それぞれの立場で今しなければならないことを,精一杯する.それが,日本の社会を明るくし,被災者を支え,被災地を復興させることになるはずだ.

今回の震災が,人類が未だ受けたことのない規模の災害ならば,人類が未だ達成したことがない復興を,我々日本人が果たそうではないか.


このコラムは、2011年4月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第200号に掲載した記事に加筆修正しました。

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利他の力

 東日本大地震,福島原発事故に関するニュースや,ツィッターのつぶやきを拾ってみた.

事故後、福島第1、第2原発に入った東芝の技術者は100人以上。日立製作所から来ている120人とともにケーブル敷設など重要な業務を担当している。前線を支える後方部隊は約600人。20キロメートル圏外に複数設置した仮設の待機所には常時、交代要員が詰めている。

ぜんぜん眠っていないであろう旦那に、「大丈夫?無理しないで。」とメールしたら、「自衛隊なめんなよ。今無理しないでいつ無理するんだ?言葉に気をつけろ。」と返事が。彼らはタフだ。肉体も、精神も。

父が明日、福島原発の応援に派遣されます。半年後定年を迎える父が自ら志願したと聞き、涙が出そうになりました。「今の対応次第で原発の未来が変わる。使命感を持って行く。」家では頼りなく感じる父ですが、私は今日ほど父を誇りに思ったことはありません。無事の帰宅を祈ります。

宮城県石巻市にある「イトーヨーカドー石巻あけぼの店」は11日の地震で建物が一部損壊した。電気、ガス、水道が止まり、店員は来店客200人を店外に誘導して営業を中止した。
その後午後6時、被災を免れた飲料水やカップ麺、乾電池など数十種類の商品が店頭ワゴンに並んだ。営業を止めたのはわずか3時間だった。

駅員さんに「昨日一日一生懸命電車を走らせてくれてありがとう」って言ってる小さい子供たちを見た。駅員さんは泣いていた。俺は号泣した。

お菓子の袋を持ってレジに並んでいた子供が、レジ横の募金箱にお金を入れて、お菓子を棚に戻して出て行った。店員さんの「ありがとうございます」という声が震えていた。

 これらのニュースやつぶやきに触れるたびに落涙していた.今もこのコラムを書きながら,流れる涙を止めることが出来ない.いつまでも感動しているだけではいけない.この出来事をしっかり考えて見たいと思う.

原発事故現場では,被曝を恐れず自らの命を賭けて戦っている人たちがいる.
被災地で救援活動をしている人たちも,疲労の限界を超えて働いている.
被災地では,自宅や家族の安否も確認できないまま,緊急必需品の販売をする人たちがいる.

こういう人々は,自らを省みず他人のために働くことが出来る人だ.
利己を排し利他を求める行動に,多くの人は感動と感謝と尊敬の念を持つ.
利他の力を持つ人間が多くいる組織は強い.

「滅私奉公」「国のため」「会社のため」という道徳観が,戦後の経済復興を支えた.焦土となった日本の都市を見て,今の繁栄を想像できた人がいただろうか?国民全員が「豊かになりたい」という渇望とも言える目標を,共通の道徳観の元に共有し,一歩一歩努力をしてきた結果だ.

「滅私奉公」「国のため」「会社のため」という道徳観は,今の日本では薄れている.国を代表するスポーツ選手も「日本のために」と発言する人は少なくなった.
「ゲームを楽しみたい」「(自分の)目標に向けてよい結果を出したい」という発言が普通になってきており,世間もそれを受け入れ始めている.

しかし有事ともなれば,利他の力を大いに発揮する.
阪神・淡路大震災での復興や,今回の災害での復興活動がそれを証明している.

では,中国で経営している工場はどうであろうか.
残念ながら,中国人労働者に「会社のため」という「滅私奉公」の精神を要求しても意味は無い.

しかし彼らに利他の力が無いわけではない.
2008年の四川大地震の時に,多くの中国人が利他の力を発揮した.
彼らに利他の力が無いわけではなく,その力を発揮する対象が家族・縁者に限定されているだけだ.

四川大地震の時には,「被災者を救おう」「被災地を復興しよう」という共通の目的・目標が出来たために,利他の力を発揮する対象が広がったのである.

この力を引き出せば,強い組織になる.
そのために「滅私奉公」を強要するのではない.「活私奉公」を説くのだ.
つまり利他の力を発揮すれば,すなわちそれが利己となる,という道理が,原理・原則となる仕組みと仕掛けを用意して置けばよいのだ.

他人に利益をもたらす行動が評価され,処遇が決まる.そういう評価制度を作る.
つまり多くの部下を育てた上司が評価され,昇給・昇格する.顧客や同僚から多くの感謝を集めた従業員が,多くの給与を手にする.

そして企業は,仕事を通して従業員の成長と幸福を追求する場所である,という共通の目的・目標を,理念として伝える.

企業そのものが,利益追求の利己主義から,顧客満足,従業員満足の利他主義に切り替わらねばならない.

そして顧客,従業員がその利他の力が自分に及ぶのを実感すれば,感動,感謝とともに,自らも利他の力を企業に対して発揮するだろう.


このコラムは、2011年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第198号に掲載した記事に加筆修正しました。

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ピンチはチャンス

 東日本大震災の影響で,納入がストップ,生産が停止しそうだと予測しておられる中国工場がある.納入先が被災して生産が止まっている.納入先のベンダーが被災しており,生産が継続できない.さまざまな理由で,生産を止めざるを得ない工場も多いのではないだろうか.

198号のメルマガで,生産が止まる時こそチャンスだと書いた.生産が止まっている時に,徹底的に生産改革をするのだ.ライン稼働中には出来ないレイアウト変更.人海戦術を脱皮して,セル生産方式を導入する.ピンチをチャンスに逆転する発想が必要だ.

随分昔のことだが,自社の生産工場をインドネシアに立ち上げたとたんに,予定していた受注がストップしてしまったことがある.立ち上げたばかりの工場に生産を回せない.来る日も来る日も採用したばかりの作業員の訓練をした.その結果,一期生の作業員は生産を始める前から,多能工になっていた.そして量産を始めた時から,すばらしい工場になった.一期生の作業員は皆優秀な現場監督者になった.意図したわけではなかったが,受注ゼロのピンチがチャンスに変ったのだ.

別のチャンスが訪れている工場もある.

細々と板金プレス加工をしている日本の工場がある.東日本大震災の被災地に建設する仮設住宅用の蛍光灯照明器具の反射板の受注が一気に来たそうだ.元々生産量が少ないので手加工で生産していた.そこに一気に大量注文が舞い込んだ.生産が追いつかない.しかし金型を新規に製作しても,投資を回収できそうもないと悩んでおられるそうだ.

これは中国でモノ造りをしている我々にもチャンスだ.中国で安価な金型を作り,輸出してあげれば日本を救うことが出来る.

こういうチャンスが,他にいくらもあるような気がする.
震災による景気の行方を心配したところで,どうにか出来る訳ではない.心配するより,行動することが重要だ.

この大ピンチをチャンスに変える方法を考えよう.
ピンチを変えれば(Change)チャンス(Chance)となる。


このコラムは、2011年4月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第200号に掲載した記事に加筆修正しました。

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東日本大地震の中国経済への影響

 昔はアメリカがくしゃみをすれば,日本が風邪を引くといわれたものだ.しかしその逆はあまり聞かなかった.当時は日本がくしゃみをした位では,アメリカはびくともしなかったのだろう.

しかし今回の地震(くしゃみどころではないが)で,世界中に流行性感冒をばら撒いてしまったようだ.世界中に流通する製品のキーコンポーネントに,日本製の部品が使用されているからだ.

当然その生産拠点の中国にも影響を与える.
被災してラインストップした日本企業からの部品供給が止まる.または,直接被災していなくても,被災地の工場から部品を仕入れていれば,遅からぬ時期に部品供給が止まる.

またメルマガ読者のC様からご指摘をいただいたが,日本からの出荷が放射性物質汚染の影響で,一律止まってしまう可能性もある.

その結果,中国でモノ造りをしている工場のラインが止まってしまう.日本から部品を購入していない工場でも,納入先の工場が止まってしまえば,連鎖的に操業停止となる.

しかし恐れることは無い.
このメルマガでは再三申し上げているが,ピンチはチャンスだ.
2008年末の世界金融危機の時も同じことを申し上げた.
景気低迷で生産が落ちている時こそ,生産革新のチャンスだ.フル生産している時には,思い切ったレイアウト変更や,将来に向けた生産方式革新には取り組みにくい.生産量が落ちている時に,そうした10年先を見込んだ生産改革をすべきだ.

今のまま生産を継続していては,早晩行き詰まるはずだ.最低賃金が毎年20%程度上昇している.このまま10年間同じ比率で上昇したとすれば,10年後の最低賃金は6倍以上になる.その時今と同じモノ造りをしていて,利益が出せるだろうか?

金融危機の時に,10年後のモノ造りを目指したクライアント様は,バッチ生産方式だったのを一気通貫生産に切り替えた.今では他の部品も同じ工場に集約している.

別のクライアント様は,大口ジョブの失注を機会に生産革新に着手した.創業以来続けてきた生産方式を変え,スペース半分・生産効率1.5倍を手に入れられた.

ピンチをチャンスに変えるのは,経営者の仕事だ.
最悪の災害に暗い顔をしていても始まらない.
世界最悪の災害を,最高のチャンスに換えよう!
我々が業績を伸ばして,日本の復興資金を稼ごう!


このコラムは、2011年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第198号に掲載した記事に加筆修正しました。

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相互学習支援

 私は、生産現場の改善を生業としている。前職時代から同様の仕事を永らくしている。独立後仕事のやり方が変わった。独立後暫くの間は、自分で改善案を考え、顧客のメンバーが現場に展開すると言う方法だった。

例えば、ベルトコンベアラインで作業している工員さんの座る向きを変えれば、ワークの取り置きは左手で出来る。従って右手に持った工具を取り置きする必要が無くなる。と言う具合に現場で顧客の改善リーダに教えていた。
このやり方でどんどん成果が出る。自分も充実感を感じていた。

しかし暫くして、このやり方ではダメだと気が付いた。このやり方で成長するリーダが限られている事に気がついたのだ。優秀なリーダは、教えられた事を水平展開する意欲を発揮し、自分で工夫し出す。私はリーダがこのレベルに到達する事を目指しているのだが、大半は次は何をしましょうか?と受け身のままだ。

そこで教え方を変えてみた。先ほどの事例で言えば、右手でコンベアのワークを取り置きするたびに、工具を一度置くのがムダだ。どうすれば改善出来る?と質問する事にした。

以前は、改善方法を教えて、その理由を説明していた。
それを、問題点を指摘して、改善方法を考える様に質問することにした。

このやり方で、自分なりに指導方法が改善出来たと考えていた。しかしまだまだだと、後に気がつく(笑)

きっかけは吉田新一郎氏の書籍を読んだ事だ。

「効果10倍の教える技術」

「『学び』で組織は成長する」

吉田氏は大人への教授法について、色々な手法を紹介してくれている。その後吉田氏の著作は翻訳も含めて何冊か読んでみた。

そして今キーワードになっているのが「相互学習支援」だ。「講師から学習者への1対1もしくは1対nの一方向の教授法」から「講師と学習者間の1対1もしくは1対nの双方向教授法」と自分なりに進化したが、更に「講師と学習者および学習者対学習者のn対n双方向学習支援」という考え方に至った。

例えば、研修中の演習成果発表を講師が評価するのではなく、学習者全員で評価する、こういうやり方が相互学習支援のひとつだ。

相互学習支援により、

  • 学習者間の信頼関係が深くなる。
  • 学んだ事をアウトプットする事により、より学習効果が高まる。

等の効果があると考えている。

私の様に期間限定で外部から改善指導をする様な場合、特にこの考え方が有効だと考えている。

例えばQCC活動の様に、指導者がいない場面でもサークルメンバーだけで活動を推進して行く場合に「相互学習支援」は普通に発生しているはずだ。


このコラムは、2017年7月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第543号に掲載した記事に加筆修正しました。

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続・コミットメント

「愛しています」、驚いた早実・清宮の選手宣誓

 暑い夏の季節になりつつある。高校野球球児にとっても熱い夏が始まった。
日経ビジネスOn Lineに夏の高校野球東京大会開会式での選手宣誓の記事が出て
いた。

(全文)

日経ビジネスオンライン

記事は、早稲田実業高校キャプテン・清宮選手の選手宣誓を取り上げている。

 宣誓。
私たちは野球を愛しています。
私たちは野球に出会い、
野球に魅せられ、
野球によってさまざまな経験を重ねて、
この場所に立っています。
(中略)
青春のすべてをかけて戦うことができる幸せと喜びを、
支えてくれるすべての皆様に感謝しながら、
野球の素晴らしさが伝わるよう、
野球の神様に愛されるように、
全力で戦うことをここに誓います。

この記事を読んで「コミットメント」と言う言葉を思い出した。
2014年6月9日配信のメールマガジン第365号で、以下のように書いた。
コミットメントは「覚悟」だ。つまり「あり方」とか「立場」を表明する宣言だ。

清宮選手の宣誓は、野球に対する「覚悟」でありコミットメントだ。

日経ビジネスのコラム執筆者は以下の言葉でコラムを結んでいる。

 高校野球は残酷だ。優勝する1校を除いてすべてのチームが負けを経験する。
しかし、その高校野球を「愛している」という思いで終えられる選手は幸せだ。それは試合に勝った負けたの話ではなく、最後に「愛している」と思えたことで、3年間の高校野球に見事に「勝った」と言えるのだろう。

私たちも自身の仕事に対してどのようなコミットメントを持っているのか、考えてみたい。

こちら↓もご参考に
「経営者のコミットメント」


このコラムは、2017年7月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第538号に掲載した記事に加筆修正しました。

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コミットメント

 「コミットメント」と言う言葉を国語辞典で調べてみると、

責任を持って関与する事、責任を持って関与すると言う約束

(新明解)

かかわり合い、肩入れ。委託、委任。公約、責任

(スーパー大辞林)

とある。「コミットメント」は、日本語にぴったりとした言葉が無い様だ。
ISO9001の「経営者のコミットメント」と言う章も、「Commitment」をそのままカタカナ表記している。

ISO9001
5.1 経営者のコミットメント

トップマネジメントは、品質マネジメントシステムの構築および実施、並びにその有効性を継続的に改善することに対するコミットメントの証拠を、次の事項によって示す。

  • 法令・規制要求事項を満たすことは当然のこととして、顧客要求事項を満たすことの重要性を、組織内に周知する。
  • 品質方針を設定する。
  • 品質目標が設定されることを確実にする。
  • マネジメントレビューを実施する。
  • 資源が使用できることを確実にする。

新明解の“責任を持って関与する事、責任を持って関与すると言う約束”と言う解釈が一番近い様に思うが、今イチピンと来ない。

以前、大橋禅太郎さんはコミットメントを「シャツ一枚の覚悟」と説明してくれた。

「すごい会議」大橋禅太郎著

好きな彼女に告白する時に、銀座の歩行者天国でシャツ一枚になって、大声で「好きだー!」と叫ぶ事がコミットメントだとおっしゃった。
分けの分からない定義だが、当時私の心に響いた。コミットメントは「シャツ一枚の覚悟」と説明していた時期がある。

この説明ではなかなか伝わり難いので、最近は「命をかけて成し遂げる約束」又は「命をかけて約束を成し遂げる覚悟」と言っている。

ただの「約束」とは重みが違う。「方向」も違っている様に思う。

例えば「ノルマ」は、必ず達成すると言う「約束」と考えてもよかろう。
ノルマが達成出来なければ、何らかの罰が与えられることになる。この罰が命に関わる事もあり得るだろう。その場合はノルマは「命がかかった約束」となる。しかし「コミットメント」とは言えない。「方向」が違っている。

ノルマは達成しなければならない「義務」である。
一方コミットメントは「覚悟」だ。つまり「あり方」とか「立場」を表明する宣言だ。

ノルマが未達の場合は「罰」が与えられる。
コミットメント未達の場合は「気付き」とか「成長」が得られる。

ノルマで業績を管理する。人不在のマネジメントだ。
コミットメントで成長をマネジメントし、その結果業績が管理状態となる。
どちらのマネジメントスタイルが優れているか、議論する必要もないだろう。


このコラムは、2014年6月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第365号に掲載した記事に加筆修正しました。

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