品質保証」カテゴリーアーカイブ

デミング博士の統計的品質管理

製造業に携わる人でデミング博士の名前を知らない人はまずないだろう.
戦後の日本復興の原動力となった製造業にとっては,デミング博士は恩人とも言える.1950年デミング博士が日本の経営者に教えた「統計的品質管理」は,その後TQM(Total Quality Management)へと発展してゆく.
デミング博士の教えに基づき,品質経営に取り組み「品質第一」のモノ造りによって「モノ造り日本」の発展と名誉を得た.しかしデミング博士自身は自国・米国では無名の統計学者としてニューヨーク大学で教鞭をとっていた.
1970年代から,日本のモノ造りに押され続けてきた米国は,日本の強さの秘密を研究した.そしてデミング博士が日本のモノ造りに与えた影響を再発見したのだ.1980年米国のTV局・NBCが放送した“If Japan Can, Why Can’t We”でデミング博士が再評価されることになる.
その後フォードがデミング博士を顧問として招き,業績回復を図り過去50年間勝てなかったGMの利益を上回ることになる.米国ではその後製造業だけにとどまらず,あらゆる業界がデミング博士の教えを受け業績を伸ばしている.
デミング博士のセミナーは,1993年12月20日に亡くなる10日前まで続けられ,参加者が20万人を越えたと言われている.
デミング博士の教えによって米国産業界は再び力をつけた.
一方,皮肉なことに日本はバブルの崩壊でどん底に落ちてゆく.自信を失った日本の経営者たちは,そのころ力を盛り返した米国の経営スタイルの表面だけを真似したのだ.しかし米国の復興は経営手法にあったのではなく,米国流にアレンジした日本の経営哲学だ.
以下はデミング博士の経営14原則である.これは1950年から日本の企業が成長してゆく様子を観察した中から生まれている.もう一度,日本が本来持っていた強みの源泉に着目したい.

デミング博士の経営14原則

  1. 競争力を保つため、製品やサービスの向上を常に心がける環境を作る。最高経営者がその責任者を決める。
  2. 新しい哲学を採用する。我々は新たな経済時代にいる。遅延、間違い、材料の欠陥、作業の欠陥などの一般常識となっている水準には満足できない。
  3. 全品検査への依存を止める。品質は統計的手法で向上させる(完成後に欠陥を見つけるのではなく、欠陥を防止せよ)。
  4. 価格だけに基づいて業者を選定することを止める。価格と品質によって選定する。統計的手法に基づく品質保証のできない業者は排除していく。
  5. 問題を見逃さない。全体(設計、受け入れ材料、製造、保守、改良、トレーニング、監視、再教育)を継続的に向上させるのがマネジメントの役割である。
  6. OJTの手法を導入する。
  7. 職場のリーダーは単に数値ではなく品質で評価せよ。それによって自動的に生産性も向上する。マネジメントは、職場のリーダーから様々な障害(固有の欠陥、保守不足の機械、貧弱なツール、あいまいな作業定義など)について報告を受けたら、迅速に対応できるよう準備しておかなければならない。
  8. 社員全員が会社のために効果的に作業できるよう、不安を取り除く。
  9. 部門間の障壁を取り除く。研究、設計、販売、製造の各部門の人々は様々な問題に一丸となって対応しなければならない。
  10. 数値目標を排除する。新たな手法も提供せずに生産性の向上だけをノルマとしない。
  11. 数値割り当てを規定する作業標準を排除する。
  12. 時間給作業員から技量のプライドを奪わない。
  13. 強健な教育プログラムを実施する。
  14. 最高経営陣の中で、上記13ポイントを徹底させる構造を構築する。

デミング博士の助手として全米でのセミナーに同行した日本人がいる.
吉田耕作氏である.更に詳しくは吉田耕作の著作をご一読いただきたい.
「国際競争力の再生―Joy of Workから始まるTQMのすすめ」

経営者のコミットメント

ISO9001の第5章「経営者の責任」5.1「経営者のコミットメント」には,以下の要求事項が書かれている.

トップマネジメントは,品質マネジメントシステムの構築及び実施,ならびにその有効性を継続的に改善することに対するコミットメントの証拠を,次の事項によって示さなければならない.

     

  • 法令・規制要求事項を満たすことは当然のこととして,顧客要求事項を満たすことの重要性を組織内に周知する.
  • (以下略)

このコミットメントをどう解釈されているだろうか.
ISO規格をJIS化する際に「Commitment」という単語を適切に日本語化することができず,そのまま「コミットメント」と訳したのであろう.
英和辞典には「Commitment」以下のように説明されている.

委任,委託,約束,責任;収容(令状);傾倒,献身,コミットメント

グランドコンサイス英和辞典

しかし,何となくしっくり来ない.「Commitment」という概念は日本語にぴったり来る言葉はなさそうだ.
そこで「Commitment」を示す言葉として「命がけの献身」を提案したい.
この言葉を思いついたいきさつがある.こんな故事を読んで思いついた.

「鬼塚車掌、勇気の物語」
長崎県時津町元村郷──。
国道206号線で大村湾から長崎市に入る少し手前の打坂峠に一体のお地蔵様が建っています。
この坂は、今日でこそ切り通されてなだらかな四車線の国道になっていますが、以前は「地獄坂」と呼ばれるくねくねと曲がった急勾配の道で、街道最大の難所でした。
今から60年前の戦後間もない頃、この道を長崎自動車の木炭バス(木炭を燃料に動くバス)が走っていました。
車に馬力はなく、よく故障し、坂道では客が後押しをしていたようです。
そんな昭和22年(1947)9月1日のこと。
鬼塚道夫青年(21歳)は長崎行きの木炭バスの車掌として、その日もいつものように朝6時に起きて木炭をおこし、火の調子を整えて出発したのでした。
乗客は30人ほどで満員でした。
ところが、峠の頂上までもう少しのところで、バスは突然ストップしてしまいました。
ギアシャフトが外れたのです。
エンジンも止まり、ブレーキもききません。
車体はずるずると後退を始めます。
「石をかませ!」。
運転手の絶叫が早いか、バスを飛び降りた鬼塚車掌は手近な石をかませたものの、加速のついたバスは石を粉々に砕き、深さ20メートルの断崖まであと数メートルと迫りました。
そのとき急にバスが止まりました。
ほっと胸をなで下ろす乗客。
降りてみると鬼塚車掌が左後輪に頭から突っ込み、タイヤとボディーとの間に体を挟んでバスを止めていたのです。
鬼塚車掌は駆けつけた同僚の手で病院に運ばれましたが、直後、息を引き取りました。
普段はおとなしかった鬼塚青年を知る人たちは、その芯の強さに心を打たれました。

(心を育てる月刊誌「ニューモラル」(モラロジー研究所)
No.441(2006年5月発行)より引用)

いささか長文の引用で恐縮であるが,鬼塚青年の命を懸けた献身的行為が「乗客の安全をコミットメント」することそのものだと思う.
経営者のコミットメントは,約束をすることではない.
持てるリソースを全てつぎ込んでも果たすべき「命がけの献身」である.

経営理念

千葉県の公務員による不正経理事件が報道されている.
納品書なしで検収をあげるなど一般の企業では考えられないことだ.
仕事の手順,仕組みに問題があるといわざるを得ないが,それ以前に職員の仕事に対する誇りがまったく感じられない.
往々にして公務員の尊大な接客態度を目にする.
市役所に行って受付の段階でたらいまわしにされる.
最後にたどり着いたところは最初に尋ねた窓口だったという経験がある.
職員のデスクが職場の役職者を中心に配置されており,顧客と対面すべきカウンターの方を向いてない.自分たちの都合で仕事をしている.
銀行では職員はみな顧客と対面する方向に座っている.
行政サービス機関の改革にはまず,自分たちの目的・目標を明確にすることが重要だろう.
自分たちの顧客は誰で,その顧客のためにどんな仕事をするのか,これを明確にし職員一人ひとりが誇りを持って仕事ができるように行動規範を決める.
いわゆる経営理念を従業員に明確にし,共有するということだ.
一般企業では,経営理念を従業員,顧客,納入業者などのパートナー,株主,社会に対し告知しているところが少なからずある.
行政サービス機関でも同じような取り組みができるはずだ.
実際に滝沢村役場では「行政経営理念 」を策定し公開している.
滝沢村というのは岩手県の小さな村で人口53,351人( 20,164世帯)という過疎村だ.
■経営理念
「幸せ地域社会」の実現をめざします
私たちは、
地球的視野から地域を見つめ、
顧客一人ひとりが求める
「幸せ地域社会」の実現をめざし、
人々と協働して地域価値の創造に挑戦します。
そして職員,組織の行動規範として「経営の姿勢」「職場のあり方」「行動指針」を定義している.
■経営の姿勢
確たる経営志心を持って「地域価値」創造に取り組みます

聴く心を持つ人間

学ぶ姿勢を持つ職員

変革へ勇気をもつ組織

人々と共に誇れる気持ちを持つ経営体
■職場のあり方
私たちは、
人々に学び、一人ひとりが「輝き」を持ち、
創造する職場をめざします
相互のふれあいと対話の場

学ぶ心を大切にする学習の場

創造性あふれる場

継続的改善に挑戦する場
■行動指針
-日本一顧客に近い行政活動への挑戦-
『私たちは、か・わ・り・ま・す』
私たち一人ひとりは、
常に社会的環境の変革に俊敏に対応し、
「幸せ地域社会」をめざし、
「かわります」をキーワードとして
自ら変革と向上に努めます。

「か」 改革します

「わ」 分かり易く伝えます

「り」 理解し合います

「ま」 真心で接します

「す」 すばやく行動します
私たちは、的確に判断し、迅速に行動します。

エックスバー・アール管理図の判定方法

エックスバーアール管理図(xbar-R管理図)で管理限界を外れれば異常が発生していると判断する.それ以外にも異常と判断すべき場合がある.以下にその例を示す.

  • 管理値を外れている場合
    工程管理図:管理値外れ
    管理上限または管理下限を外れた場合.
  • 片側に偏っている場合
    工程管理図:偏り
    連続して7つの点が片側に偏っている場合.

    工程管理図:片寄り
    連続した14点のうち12点が片側に偏っている場合.
    連続した17点のうち14点が片側に偏っている場合.
    連続した20点のうち16点が片側に偏っている場合.
  • 周期性がある場合
    工程管理図:周期性
    周期的に変動している場合
  • 単調増加(減少)
    工程管理図:単調増減
    7点連続で増加または減少した場合
  • 周辺に集中している場合
    工程管理図:周辺に集中
    3点中2点が2σと3σの間にある場合
    7点中3点が2σと3σの間にある場合

以下の場合は,サンプルのとり方を再検討する必要がある.

  • 全ての点が1.5σの内側にある場合
    工程管理図:中心に集中

    工程能力が異なる工程(例えばA,Bの加工機)を一つのロットとしてサンプルをとった場合中心に偏る.

  • 中心線の周りの点が少ない場合
    工程管理図:周辺に集中

    工程能力の異なる工程(例えばA,Bの加工機)別に一つのロットとしてサンプルを取り,両方を一つの工程図に書くと中心線の周りの点が少なくなる.

以上の場合は工程別にサンプルを取り,工程別に工程図を書く必要がある.

工程能力指数

工程能力指数Cp,Cpkについて紹介します.
長さ,重さ,体積,電圧,電流など数量で計測できる値を計量値と言います.
回数,不良個数など数値で数えるものは計数値と言います.
それぞれ計量値は正規分布,計数値は二項分布という統計分布にしたがいます.
正規分布というのは,同じ条件で加工した物の出来上がりのばらつきを表現するものです.
平均値と標準偏差・σ(分散)によって一様に決まる確率分布です.
例えば同じ条件で加工したものの寸法は
平均値±σの中に入る確率が68.3%
平均値±2σの中に入る確率が95.4%
平均値±3σの中に入る確率が99.7%
平均値±4σの中に入る確率が99.994%
という確率に入るというのが正規分布です.

  • ±1σの時
    正規分布±1σ
  • ±2σの時
    正規分布±2σ
  • ±3σの時
    正規分布±3σ

計量値が正規分布に従うという性質を利用して,工程能力を表現するのが工程能力指数です.
つまり加工工程の能力を表す時に製品の規格に対する出来上がりのばらつきの比率で表現します.

工程能力指数Cp

という定義になります.
すなわち,規格が加工のばらつき(±3σ=6σ)の何倍になっているかという指数です.
Cp=0.67の場合は,規格が加工のばらつき(±2σ=4σ)と同じということです.
Cp=0.67の工程では不良品が4.6%発生します.
Cp=1の場合は,規格が加工のばらつき(±3σ)と同じということです.
Cp=1の工程では不良品が0.3%発生するということです.
Cp=1.33の場合は,規格が加工のばらつき(±4σ=8σ)と同じということなので,
不良の発生は0.006%になります.
従って工程能力指数Cpkを評価する場合は,

  • Cp<1 量産不可能
  • 1<Cp<1.33 改善必要
  • 1.33<Cp<1.67 量産可能
  • 1.67<Cp 検査規格の変更

Cpが1.67以上あるということは製品のばらつきが(±5σ=10σ)検査規格の中に入ってしまうということです.
このような検査規格だと,中心値がずれる,ばらつきが少し大きくなるなどの異常が発生しても製品は全て合格してしまうので異常に気がつきません.従って検査規格を変更して1.33から1.67の間に入るようにしておくのが良いでしょう.
工程能力指数Cpku,Cpklは平均を中心として片側ずつ表現する方法です.

工程能力指数Cpk

それぞれ上側Cpk,下側Cpkといいます.
平均値が規格の中心から外れている場合,または規格が上下対象ではない場合はこちらのCpkを使うほうが良いでしょう.
例えば,規格が「○○秒以上」となっている場合はCpが計算でません.
この場合下側Cpkだけを計算します.
理屈上はこれで良いが,製造の検査という立場から言うとこれではいけません.
製品の規格は「○○秒以上」であっても設計的には「○○秒±○秒」になっているはずです.
設計ばらつきを超えて長い時間になった場合,製品仕様としては合格だが,製造的には不良品です.
従って製造の検査には,上限以下になっている事が保証されない限り必ず検査上限も設けるべきです.

不良解析

以前中国で生産委託をしていたのは台湾企業の中国工場が殆どだったが,不良解析&再発防止レポートでまともなモノを受け取った記憶がない.
独立してそういう工場の指導をして初めて分かったが,CE(カスタマーサポートエンジニア)と呼ばれる苦情処理係がいて彼らが顧客に対するレポートを書いてる.
驚くことに彼らは自社製品の技術的なことは全く理解してない.
ただ少しだけ英語ができるので,別にいる解析エンジニアのレポートを英文に直しているだけなのだ.
台湾人経営者の人事政策で,比較的給与の高い電気回路エンジニアは一人だけ雇い,レポート作成専門の英語が少しだけできる人間でエンジニアの効率を上げようという考えだろう.
しかし英語ができるといっても電子・電気工学の知識は乏しい.
ある日レポートをチェックしていて「Solder Silk」という単語が出てきて驚いた事がある.
何のことかさっぱり分からない.暫く考え込み,それが『锡丝』(Solder wire)のことだと気が付いた.漢字に一文字ずつ英単語を当てるのでこんな珍訳が発生する.
しかも現物も現場も見ずに解析から再発防止対策まで一人で作文しているだけ.
だから再発防止は,作業者に注意した,作業者を教育した,作業者を罰した,という役に立たない報告しかできない.
当然まともな顧客からはクレームが来て,レポートを再提出することになる.
こういう事を何度か繰り返していると,経営者にクレームが入り現場に雷が落ちることになる.
まともなリソースをきちんと割り当てていない経営者自身の責任なのだが,現場に対して何とかしろとしか言わない.
この工場では,まずレポートの構成から教育した.
解析の仕方とか,再発防止の考え方などを教え,デスクに座っている連中の尻を叩いて現場に追い出していた(笑)
彼らが書いてきたレポーはも何度もダメ出しをして書き直させる.
営業からはレポート提出期限の督促がしつこく来る.やむを得ず自分で書いて提出することも何度かあった.
それでもCEたちは嫌がらず夜遅くまで,時に休日でも出てきてレポートの書き直しをする姿勢には感心する.
中には殆ど指導をしなくても書ける様になった子もいた.彼女は文科系の学校しか出ていない.
彼らはやり方をきちんと指導をされていないだけなのだ.
辛抱強く指導してやればすこしずつでも良くなるものだ.

xbar-R(エックスバーアール)管理図

計量値(重さ,長さ,電圧,電流など量として測定できるモノ)の平均値(xbar・エックスバー)範囲(R・アール)が「偶然要因」によるばらつきの範囲内に入っているかどうかを確認するための管理図である.
ロットからサンプルを取り,サンプルの平均値をロット全体の平均値の推定値,範囲(サンプルの最大値-最小値)をロット全体のばらつきの推定値として考える.
この平均値と範囲が工程能力のばらつき(±3σ)の範囲内にあれば管理状態にあると考える.従って管理図の上下限の管理限界に引かれる線は,検査仕様の上下限ではない.1000個モノを作ったら997個まではこの範囲に入るだろうと言う実力値の上下限線である.
通常は検査仕様のほうが工程能力のばらつきより幅が広いので,製品が不合格になる前に「異常要因」が発生していることに気が付く事が出来るわけである.
では具体的にxbar-R(エックスバーアール)管理図の作り方を解説しよう.

【手順1】同一の条件で生産した場合のデータを集める.
例えば同じ加工機械で加工した製品の仕上がり寸法を2時間おきに抜き取り検査をした値などが利用できる.すなわち時系列に抜き取りサンプル数だけのデータの群ができる.
データは100個以上ある事が望ましい.
群の大きさ(ロットごとの抜き取りサンプル数)は大きければ精度が上がるが検査工数がかかる,小さければ検査工数は小さいが精度が落ちると言うことになる.通常はn=2~5程度で考えれば良い.
(私はn=5,6程度でサンプリングする事が多い)
このデータがこの工程の工程能力をあらわしていると考える.
【手順2】得られたサンプルを群ごとに,平均値(xbar・エックスバー)と範囲(R・アール)を求める.
xbar
【手順3】計算した群の数だけの平均値を平均する.
xbarbar
総平均(平均値の平均値)が平均値の中心値となる.
xbar(エックスバー)管理図中心線
xbar-CL
【手順4】計算した群の数だけの範囲を平均する.
Rbar
範囲の平均値が範囲の中心値になる.
R(アール)管理図中心線
R中心線
【手順5】管理図の数表からサンプル数nに対応する係数を求め,管理限界線を計算する.
xbar(エックスバー)管理図上限・下限管理限界
xbar上限管理線
xbar下限管理線


R(アール)管理図上限・下限管理限界
R-上限管理線
R-下限管理線


それぞれの係数A2,D3,D4は管理図用係数表による.D3が空欄の場合は,下限管理線を設定しない.control_chart_index

【手順6】グラフ用紙にxbar(エックスバー)管理図とR(アール)管理図を描く.
中心線(実践)と上下の管理限界線(点線)を入れる.(図には管理限界線を赤色線,中心線を黄色線で示した)
Xbar-R管理図
【手順7】ロットごとに得られるn個のデータから平均値(xbar)と範囲(R)を計算し管理図にプロットする.

このような手順で作成したxbar-R(エックスバーアール)管理図でロットごとにサンプルを5個程度抜き取り,平均値と範囲を計算して管理図にプロットを続ける.
この管理図により,工程で予期しない「異常要因」が発生したときにアラームが出るようになる.
異常と判断するのは工程能力のばらつき(±3σ)を外れたときなので,工程内検査で不良が発生する(検査規格を外れる)前に異常を検出できることになる.

工程管理図を書いて上限,下限を超えれば工程に異常が発生していると考えてよい.
上下限を超えていなくても異常と判断すべき場合がある.
詳しくはこちらの記事へ

工程管理図

以前このコラムにて工程管理図について取り上げた事がある.
 ・統計的工程管理 p管理図・c管理図
 ・統計的工程管理 xbar-R管理図
コラム的な内容であり,理論的な裏づけなどは解説していない.工程管理図の活用は統計確率理論に裏付けられており,それを分かりやすく説明する自信がなかったと言うのが正直なところである(笑)
今回は意を決して工程管理図の活用に関して説明を試みることにする.
モノを造る場合必ずその品質(特性,性能)にばらつきが発生する.
全く同じモノを造り続けると言うことは不可能である.そのばらつきが使用上問題がない範囲に押さえ込まれていると言うだけである.
例えば食品が100g入った袋を考えよう.袋詰めの機械設備の精度が±10gしかなかった場合,100g±10gの範囲で商品が出来上がる.110g入りの商品を購入した人は問題がないが,90gしか入っていない商品を購入した人は不満になる.
不満を解消するには110g±10gだけ袋に詰めなければならない.これでは造る側の不満が大きくなる.
そこで袋詰め機械設備の精度を改善し±1gで包装できるようにする.101g±1gで袋に詰めれば生産者側も消費者側も不満にはならない.
このようにモノを造るうえで必ず発生する,機械設備のばらつき,原材料によるばらつき,作業によるばらつきなどを「偶然要因」によるばらつきと言っている.
一方上述の例で,機械設備の設定を間違えていつもより多く(少なく)袋詰めしてしまう.機械設備が故障しており,期待通りの精度で袋詰めができない.などの理由によるばらつきを「異常原因」によるばらつきと呼んでいる.
品質管理の立場から言うと,ばらつきがきちんと「偶然要因」による範囲内に入っているか,「異常要因」によるばらつきが紛れ込んでいないかを管理することになる.
この目的で使用されるのが工程管理図である.
平均値もばらつきも「偶然要因」によるばらつきによって,ある一定の範囲内に入ると言う統計確率理論により,工程が正常であるかどうかを管理する手法である.
上述の例では,袋詰めされた製品の重さは,中心値を中心として一定のばらつき(σ:標準偏差)で決まる正規分布であらわされる.
中心値±σの範囲に入る確率は 68.3%
中心値±2σの範囲に入る確率は95.5%
中心値±3σの範囲に入る確率は99.7%
中心値±4σの範囲に入る確率は99.997%
という分布関数である.
重さに限らず,長さ,容量,電圧,電流など数値で測定可能な値(計量値)はすべて正規分布に従ってばらついていると考えて良い.
この性質を利用して,工程の能力(加工したときの中心値とばらつき(σ))が「偶然要因」によるばらつきの範囲にあるかどうかを,中心値±3σの範囲に入っているかどうかで判定するのがエックスバーアール(xbar-R)工程管理図である.
一方不良の個数や不良率のような計数値は二項分布とかポアソン分布となるが,一定の条件が成立すれば正規分布に近似する事が出来る.
従って工程の能力(不良率が一定以下)が「偶然要因」によるばらつきの範囲にあるかどうかを同様の範囲で判定が可能である.これらの管理図がp管理図(pn管理図),u管理図(c管理図)である.
xbar-R(エックスバーアール)管理図

心のスイッチ

 5月12日に発生した中国四川大地震以来,四川放送局のTVを2週間ほど毎日見続けていた.
四川地震以来の中国人の被災者を思いやる心,貢献心に大変感動をしている.
以前は中国人は,他人を思いやる心があまりない,自分の利益を第一優先にする人々だと考えていた.
地震以降の報道で,私の考え方が随分変わった.
しかし通常の生活では相変わらずである.
先週はバスに乗って出張したが,バスの入り口は我先に乗り込もうとする.
並んでいる私は一番最後の乗車になった.
バスの中では本を読んでいる私の耳元で大声で話をするカップル.
みよがしに耳栓をしてみたが,まったく気にするフシもない.
携帯電話で自分の好きな音楽を鳴らしている若者.
日本ではイヤホーンから漏れる音でさえ道徳違反だと騒がれるのに,彼は携帯電話のスピーカから音楽を流している.
思いやりのかけらもない.
こういう人たちがどうして被災者を思いやり貢献心を発揮するのだろうか.
今私がたどり着いた仮説は「共通目的」である.
地震災害により中国国民が一斉に「被災者救助」「被災地の復興」という共通目的を持った.この共通目標が彼らの心のスイッチを入れ「他人を思いやる心」「貢献心」を発揮しだしたのだと考えている.
この仮説は検証してみる価値が高いと思う.
あなたの工場には従業員の心のスイッチを入れる共通目的がありますか?

5S再考

2年ほど前に5Sに関するコラムを書いた.
今回また5Sについて考えてみた.
5S活動はトップが指導して始めると,最初の頃は成果が出始めるのだが,なかなか定着しない.
特に5S活動のように継続そのものに意味があるような活動では,尻すぼみ現象は痛い.
ではなぜ活動が継続しないのであろうか?
それは活動の「目的」と「目標」をきちんと明示していないからだと考えている.
例えば「清掃」の目的,目標はきちんと従業員が理解しているだろうか.
どのくらい綺麗になるまで清掃をしなければならないか基準は明確だろうか?
何をしなければならないか(What)だけを伝えても不十分だ.
何故しなければならないか(Why)と何処までしなければならないか(Goal)
を同時に伝えなければならない.
「Why」と「Goal」を共有することにより,メンバーの取り組む意欲がわいてくる.何事もメンバーを「その気」にさせないとうまくは行かない.