品質保証」カテゴリーアーカイブ

「うっかりミス」の再発防止

 先週のメルマガで、うっかり免許証の携帯を忘れたパイロットのニュースを紹介した。この様な「うっかりミス」にはどのような再発防止対策を考えたらよいのであろうか。

「うっかりミス」というのは意外に厄介である。
ルールを知らなかったわけではないので、ルールの再徹底とか再教育は有効ではない。
難しい、やりにくい場合は方法を改善すればよいが、ただ免許証をポケットかカバンに入れるだけである。改善の余地はないだろう。

普通こうしたうっかりミスには「ポカよけ」と「ダブルチェック」と相場が決まっている。

ポカ除けというのは、うっかりミスがあれば仕事が継続できないようにしておくことだ。
例えば今回の事例では、パイロットが出発前にフライト資料を受け取るときに、免許証を掲示しないと、資料をもらえないようにする。免許証にRFIDを入れておき、ゲートを通るときに自動的に免許の携帯をチェックする。

こういうポカよけをしておけば免許証なしでは飛行機に乗務できなくなる。

よく考えると、これだけでは不十分だ。自宅を出るときに忘れていれば、無免許で乗務することはなくなるだろうが、取りに帰る時間が無ければスタンバイのパイロットを出さねばならなくなる。
更に対策を考えなければならない。

免許証を持って帰るから忘れる。ならば持って帰らなければ良いわけだ。
免許証は空港で預かることにし、フライト資料と一緒に受け取り乗務をすればよい。

ダブルチェックのほうは、文字通り二度チェックすること。
この時の二度チェックは、人を変える、時間を変える、場所を変えるなどして二度やらねば意味が無い。

例えば、自宅を出るときに家族に免許携帯の有無を尋ねてもらう、というように人を変える。独り者の場合は、部屋を出たところでもう一度確認する。これで場所と時間を変えて二度チェックしたことになる。

もっとも免許証を自宅に持って帰らないようにすれば、ダブルチェックの余分なコストをかけることもなくなるだろう。


このコラムは、2010年3月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第141号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

全日空操縦士、免許置き忘れた 国際便4時間半遅れ

 12日朝に羽田を出発して金浦(韓国)に向かった全日空便(乗員・乗客254人)の副操縦士(40)が、航空法で携行が義務づけられているライセンス書類を持たないまま乗務していたことがわかった。出発後に羽田の同社スタッフが、事務所に一式を置き忘れているのを発見した。

 この便は予定通り金浦空港に着陸。副操縦士は予定していた折り返し便には乗務できないため、全日空は東京から他社の便で代替の操縦士を金浦に派遣した。この影響で折り返し便の出発が4時間半遅れたほか、その後の往復2便にも2時間前後の遅れが生じた。予約客計913人に影響した。全日空は「迷惑をかけて申し訳ない」としている。

 国土交通省は全日空に再発防止を指示した。

(asahi.comより)

以前免許証を持たずに車を運転していて、交通警察官に見つかったことがある。
この時は、警察官がどこかに問い合わせて、私の氏名が免許証データベースにあることを確認した上で、家まで運転して戻ることを許してもらえた。

旅客機を操縦するパイロットと、自家用車を運転するドライバーを比較すること自体ナンセンスかもしれないが、高々運転免許を携帯していなかっただけで乗務できないというのは行き過ぎではないだろうか。既に韓国までの往路は免許不携帯で操縦済みだ。しかも主操縦士も同乗しているのだ。

多少の柔軟性があってもよさそうな気がする。日本まで戻る途中で、「白バイ」に捕まることも無いわけだから(笑)

とはいえ、規則は規則なのだから従うしかないだろう。
それよりも国土交通省の要求に対し、全日空はどのような再発防止対策を提出するのだろうか?こちらは大変興味がある。

皆さんなら、この様な「うっかりミス」の再発防止にどのような対策を
導入されるだろうか?
久しぶりに皆さんのアイディアをお寄せいただきたい。


このコラムは、2010年3月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第141号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

作業標準を守る

 先週のメールマガジンで作業標準について記事を書いた。

せっかく作業標準を決めても守られない。こんな事が往々にしてある。
守られないのには必ず理由がある。「品質意識が低い」の一言で片付けてしまっている例をよく見る。これでは対策の立てようがない。理由を明らかにしてきちんと対策を打つべきだ。

  • 作業標準があるのを知らない
     作業標準どおりに作業をしなければならない事をきちんと指示をするのが大前提である。作業手順書などにきちんと明示して文書化しておく必要がある。
  • 作業標準があるのを知っているが守れない
     知っていて守らないのはちょっと深刻だ。この場合にも理由はあるはずだ。やむを得ず守らない。つまり作業標準を守るのが困難な場合だ。ついうっかり守らなかった。これは作業標準を守る必然性がきちんと理解できていないと考えるべきだ。
  • 作業標準を守るのが困難
     作業標準にムダ・ムラ・ムリがある場合はしばらくの間守れてもいつかは守られなくなる。
    例えば不具合対策として重点目視項目を追加する。しかしタクトタイム以内で他の重点目視項目を検査する事が出来なくなってしまうことは往々にしてありうる。ムダ・ムラ。ムリを徹底的に排除して作業標準を作るべきだ。
    または作業者の技能が不十分で守れない場合もありうる。
    作業者の技能訓練をきちんとする。作業を簡素化する。治具や設備を工夫して誰でも作業できるようにすべきだ。
  • 作業標準を守る必然性が分からない
     作業標準が守られないと、どうなってしまうのかきちんと教えておく必要がある。どう作業すべきか(How)だけではなく、どうしてそうしなければならないのか(Why)をきちんと教えておく。
    それでも人間がする作業であれば、「ついうっかり」というのは発生する。
    作業標準どおりに作業をしなければ次の作業に移れないようにしておくなどの工夫が必要だ。
    例えば4箇所ネジ締めをする作業では、作業前に4本ネジを小皿に取り置き、作業終了時に小皿のネジの過不足がない事を確認する。ちょっとした作業追加で「ついうっかり」を防ぐことは出来る。
  • 故意に作業標準を守らない
     残念ながらこういうこともありうる。
    罰金・減給制度などの手を打っておられるところもあるだろう。しかしそれ以前に自分たちの仕事に対する「誇り」を持たせるところから始める必要があると考えている。
    牛乳を水で薄めメラミンを添加してタンパク質量のつじつまを合わせる、などという行為はこの例に当てはまるだろう。自分たちの仕事は国民の健康生活に貢献しているのだという「誇り」があればこんなことにはならないはずだ。

更に作業標準が守られている事を確実にするための工夫も必要だ。
例えばチェックリストなどは、きちんと作業標準が守られている事をダブルチェックする事が出来る。


このコラムは、2008年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第54号に掲載した記事に一部加筆修正しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

4M+1M変動管理

4M変動管理というのは皆さんご存知だと思う。
4Mというのは人(Man)モノ(Material)設備(Machine)方法(Method)のことである。この4Mの変動を管理しようという考え方である。

人、モノ、設備、方法の変動が品質や生産性に大きく影響を与える。
変動には予期しない変動(ばらつき)と計画的な変動(改善、新製品立ち上げなど)がある。これをきちんと管理しておこうという考え方である。

例えば

  • 初物チェック:
    毎日初めて作る製品をチェックして予期しない変動がないことを確かめる。
  • 初品チェック:
    新製品や新規工程の立ち上げ時に最初の製品をチェックして変動が予定通り行われたことを確かめる。

というのも4M変動管理の一つである。

ところでもうひとつのM(+1M)というのは何だかお分かりになるだろうか。
計測(Measurement)のMである。
計測がきちんとできていなければ、変動が許容範囲内にあるのか、目標に到達しているのか判断する事ができない。

品質管理というのは維持+改善をすることである。
維持は管理幅の中にあることを確かにすること。
改善は目標を達成していることを確かにすることである。
そのためには計測がきちんとできなければならない。

計測は品質管理だけではなくあらゆることに応用可能である。

例えばこの本↓の著者は計測と記録だけでダイエットしてしまったそうだ。
「いつまでもデブと思うなよ」岡田 斗司夫、新潮社


このコラムは、2008年6月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第36号に掲載した記事に一部加筆修正しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

レーザープリンタに発火の恐れで無償部品交換を実施

NEC、レーザープリンタ「MultiWriter2800/2800N」に発火の恐れで無償部品交換を実施

NEC は、2008年6月19日、ビジネス向けモノクロレーザープリンタ「MultiWriter2800/2800N」において、発火の恐れがある不具合が判明し、無償にて部品交換を行う、と発表した。

これら製品において、製造元である富士ゼロックスが2007年12月までに回収した使用済定着器(トナーを紙に定着させる部品)のうち3件にベアリングの破損を確認。

富士ゼロックスがさらに調査を進めたところ、ベアリング破損に起因し、まれにランプが連続通電状態となり発火に至る可能性があることが判明した。

(japan.internet.comより)

 この記事からでは故障のメカニズムが分からないが、例えばベアリングが破損し紙送りがうまく行かなくなった状態で、定着ランプが点灯しっぱなしになると、印刷中の紙が加熱して発火の可能性があるのかもしれない。

市場から戻ってきた使用済み交換部品をきちんと解体調査をしている。そこで見つかった不良から、市場不良発生の可能性を察知。躊躇せず無償の部品交換を告知。

大変すばらしい対応だと思う。
無償交換の対応に躊躇して、万が一市場で発火事故でも発生してしまえば、もっと莫大な費用が発生したはずだ。「安全」に影響のある故障については、第一優先で対応しないといけない。万が一の場合、一発で市場から退場宣言を受けるくらいのダメージがある。

以前にも書いたが、市場サービス部門を持っている会社は自社製品の市場での稼動状態を比較的正確に把握する事が出来る。

「金属疲労と溶接不足が原因 名古屋・エスカレーター事故」

今回のように使用済み交換部品をただ捨てる(または再生する)だけではなく、きちんと解体検査をすることにより、市場不良を事前に察知する、設計寿命の検証など多くの情報が得られるものだ。


このコラムは、2008年6月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第39号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

営業力

 営業力というと営業部門の力と考えがちだが、全ての部門で営業力、営業センスが必要だと考えている。

営業力を「物を売る力」と単純化し、更にこの「物を売る力」を要素分解してゆくと、PR力、顧客とのコミュニケーション力など基本要素に分解できるだろう。

こう考えると会社の中のどの部門も営業力が必要だといえないだろうか。例えば各部門の長は自部門の仕事を簡単にPRできるだろうか?
もちろんこのPRは他部門に対しても必要であろうが、自部門のメンバーに対して正しくPRできるということが、メンバーの結束力を高める基本となるだろう。

私は以前お付き合いのあったS社のプロキュアメント品質保証部の統括課長Tさんから「営業力」を教わった。昔S社向けの製品で一台だけ不良が見つかった。台湾で生産している部品の不良であった。即台湾の生産工場に飛び、原因究明と対策をして報告にうかがった。

Tさんからはまだ詰めが甘いとお叱りを受け、Tさんと一緒に再度台湾に出張することとなった。3日間朝から晩までご一緒し、仕事のことから趣味、家族のことまで色々語り合った。

Tさんの自部署の運営はこんな感じである。
自部署のパートさんにPC教育をして「商品価値」をあげる。
よその事業部へ出かけて行き新製品の立ち上げのため部材ベンダーの指導をする。この時の予算はきちんと当該事業部にお支払いいただく。

Tさんの自部門運営が営業センスがあると大変感心した。
それ以来私なりに自部門の運営に営業センスを入れてきたつもりだ。例えば品質目標として損失コスト(直接・間接を含め)を売り上げの0.2%以下とした。
協力工場、部材ベンダーに品質指導に行くときは「お金を払ってでもまた指導に来てほしい」といわれるレベルになるよう部下の育成努力をした。

品質保証部だけではなく全ての部署でも同様に、営業力を磨く必要があると考えている。特に間接部門は目標設定に営業センスが有るか無いかで、営業力が見えてくる。


このコラムは、2008年5月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第32号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

免震装置不正 徹底的な解明を急げ

 安全を守るための装置の品質に、長年にわたる不正があった。衝撃は大きい。

 油圧機器大手のKYBが免震・制振装置の検査データを改ざんしていたと公表した。免震装置では大臣認定の基準を満たさない製品が499本、顧客に約束した基準を外れたものが1914本、調査中のものが5137本あり、合わせれば出荷総数の7割を超えるという。

 不正もしくは疑いのある製品を使っている建物は1千カ所近い。病院、役所、大規模な商業施設など、不特定多数の人が日頃出入りする建物も多い。なかには「地域の減災・防災機能の拠点」とされる施設もある。

 会社の説明によれば、記録に残っているもので2003年から不正があり、少なくとも8人の検査員が口頭で引き継いできたという。本来は、基準から外れた製品は分解・調整し、再度検査するのが適正な対応だが、それには約5時間かかるため、検査データを書き換えていたとされる。

(以下略)全文

(朝日新聞社説より)

以前メールマガジンで東洋ゴムの免震データ改竄問題を取り上げた。
免震データ改ざん問題↓

免震データ改ざん問題

担当者は製造部からの納期の催促にプレッシャーを感じて改ざんに関わってしまったと言っている。

KYBの事例も同様に、生産を優先させるため検査データを書き換えた。

今回の事例を考えると、製造部門や検査部門の責任ではない様な気がする。
新聞記事によると、出荷総数の70%以上が検査不適合だ。製品設計、工程設計が未完成のまま生産を続けていた、と考えるのが妥当だ。

量産に移行すべきではない製品を販売開始してしまったKYBの品質保証システムに問題がある。そして現場の状況(直行率30%未満という驚くべき状況)を放置したまま、生産を継続させた経営判断に問題がある。

最近色々な業種で同様な不正が噴出している。
中には測定方法に問題がある、基準が厳しすぎる、などの理由があるのかも知れないが、それならそれで正々堂々製品規格を変更すべきだろう。

朝日新聞の社説は、かつて日本の品質は「過剰品質」と言われていたが、実態は「架空品質」だったのではないかと結ばれている。この言葉は我々製造業にとって重い警句と受け取るべきだろう。


このコラムは、2016年5月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第475号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

データ改竄

 素材企業のデータ改竄問題が次々と明るみに出て来た。自動車業界の完成車検査問題が発端の様に思うが、こちらは別問題だ。法規に違反する事は問題だが、問題の本質は無意味な検査を継続させている監督官庁の既得権保護に有る様に思える。

データ改竄問題は素材メーカの「おごり」と言ってしまうと言い過ぎかも知れないが、顧客企業に対する欺瞞・不遜と言うそしりは免れないだろう。

顧客設計者は、材料メーカから提示された仕様に基づき一定の余裕度を加味し、設計する。それが顧客要求仕様として購入契約が成立する。メーカの都合で顧客要求仕様を満足出来ない場合「特採願い」を提出し、顧客設計者の検証を経て、合意の上で出荷するのが常道であるべきだ。
通常「特採」は一度だけ許される。「特採」出来るのであれば設計変更せよ、と言う考え方が一般的だと思う。

データ改竄が恒常化していたのは、材料メーカ側の質的生産能力が不足していたためと考えられる。その場合は特採ではなく「仕様変更願い」を提出し、顧客設計者の設計再検証を経て、仕様変更を合意するのが手順だ。

川中産業である加工メーカは、材料メーカの一方的な値上げ、仕様変更要求に対して唯々諾々と従うしかない。そのような力関係を利用して、データ改竄が横行している様に思えてならない。

日本の素材メーカの力は、世界的に一定の地位を得ていると考えている。それは新素材の開発、素材の高品質に支えられている。日本のモノ造りが労務費の高騰で競争力を失っている中で、設備集約型の素材産業が日本のモノ造りを支えて行かなければならない。大手の日本素材メーカが世界市場から信頼を失う事になると、日本の製造業全体の問題になりかねない。

仕様逸脱を誤摩化すのではなく、仕様に適合する様生産能力を改善する事が本来の姿だ。


このコラムは、2017年12月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第598号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

羽田滑走路、データ改ざん 東亜建設工業液状化対策で施工不良か

 国土交通省は6日、大地震時の液状化を防ぐ羽田空港の滑走路の工事で施工不良の疑いがあることが分かり、施工データも改ざんされていたと発表した。
同省関東地方整備局は、施工した東亜建設工業(東京都新宿区)に調査を指示した。

全文はこちら

(朝日新聞電子版より)

 この手の事件が頻繁に再発している。
マンションの杭打ちデータ捏造車の排ガス規制逃れ車の燃費データ捏造
すぐさまこの3件くらいは思い出せる。なぜこの様な不祥事が再発するのか?再発防止は不可能なのか?ちょっと考えてみたい。

当然だが、不正を働く側はばれないとタカを括っているからこういう事案が無くならない。しかしほとんどの場合は内部告発でばれる。情報を内部にも漏らさなければ告発は不可能だ。しかし現場で作業をする人間に秘密に出来るはずは無い。では口止め料を握らせる?多分逆効果だろう。

内部告発を止める方法は無いと考えた方が良いだろう。

しかし内部告発が起きない方法は有る。顧客、従業員、取引先、社会に対して誠実に仕事をする事だ。これを守れば、告発すべき内容が無くなる。
期限切れ食材使用の問題、データ改竄、リコール隠しなど幾多の過去事例から学べる唯一の方法だ。

工場の品質保証をしていると、普段はデータを捏造する必要はない。
しかし出荷品の不良や、顧客監査時の指摘事項などでウソの報告をしたくなる事は有るだろう。しかし一度ウソをついてしまうと、その後整合性を保つため更にウソを重ねる事になる。

絶対にウソはつかない。それが現役時代品質保証部の仕事をしていた時の鉄則だった。しかし顧客に心配をかけるのは本意ではない。ウソはつかないが、言う必要がない事は言わない、と言うポリシーだった(笑)

前職の会社では、第一出荷ロットで「出荷判定会議」をするのが決まりだった。
ある製品で、最初の生産で直行率が99.3%だった。出荷判定の条件は満たしていたが、0.7%の不良が全て同じ部品の不良であり、部品メーカからの不良解析報告はまだ入手していなかった。
この不良モードが波及性を持っているとすると、検査合格の製品にも何らかの問題が有るはずだ。出荷を止める事を決断し、翌日顧客に報告に行った。
当然叱られると思っていたが、逆に褒められた(笑)

その後部品メーカから報告書が届き、部品製造時に設備に不調が有り、ロット全体に波及する不良と分かった。

黙って出荷してしまっていれば、この報告書が届いた時点で製品回収をお願いする事になったはずだ。既にエンドユーザに出荷が済んでいれば、市場回収だ。そうなった場合、品質保証部門長として、事業部長に市場回収を説得出来ない可能性だってありうる。

被害が拡大する前に正直に言ってしまえば、何でも無い事の方が多いはずだ。


このコラムは、2016年5月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第475号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

スズキ、社内監査働かず 燃費の違法測定、26車種

 スズキの燃費試験データの不正問題で同社は31日、違法な測定の対象が2010年以降に発売された軽自動車と普通車の26車種、約214万台に上ると発表した。現場の不正をチェックする部門が機能せず、違法性を認識する社員がいたことも判明した。

全文はこちら

(朝日新聞電子版より)

 フォルクスワーゲン、三菱、スズキと自動車メーカのデータ不正が立て続けに出て来た。

担当社員の遵法意識とか、関連部門のチェック機能に関して振れている記事が多いが、私には開発業務そのものに重大な欠陥が有った様に思う。

私が開発のエンジニアだった頃、レポートの書き方を厳しく指導された。
例えば、評価実験の結果を報告するレポートでは、結果の再現性を保証するため実験方法を明確にする事、と教わった。

スズキの排ガス測定は、実測データではなく理論値を積み上げて計算していた訳だから、レポートには根拠となるデータと計算式が書いてあるべきだ。レポートにこの情報がなく、ただ燃費データだけが有ったとしたら、上司や関連部門はレポートの書き方について担当者を指導せねばならない。

理論データと計算式が書いてあれば、燃費測定方法が間違ってる事に気がつくはずだ。

「現場の不正をチェックする部門」と記事に書かれているが、燃費データを国に提出する法規承認部に現場の不正をチェックするミッションを与えていたのか疑問だ。申請手続きだけがミッションであれば、申請書類が過不足ない事を確認するしか出来ないだろう。

こういう確認を担当部門だけではなく、設計審査など関連部門が集まる中で確認するのが良いと考えている。

以前品証部門を担当していたときは、設計審査の前に関連する開発レポートや評価レポートに目を通していた。そこに書かれている事、書かれていない事をきちっと読み取れば、設計の現場で何が起こっているのか理解出来る。

うるさい品証部長を演じる事で、若手設計者の育成も出来たと考えている(笑)