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クオリティマインドのお勧め書籍

木鶏

© freepik


 安岡正篤「禅と陽明学」を読んでいる。


この本の中に「木鶏」が出てくる。ちょっとご紹介したい。

木鶏の原典は《列子・黄帝篇》だ。
『紀渻子為周宣王養斗鶏,十日而問:「鶏可斗已乎?」曰:「未也;方虚驕而恃気。」十日又問。曰:「未也;猶応影向。」十日又問。曰:「未也;猶疾視而盛気。」十日又問。曰:「幾矣。鶏雖有鳴者,已無変矣。望之似木鶏矣。其徳全矣。異鶏無敢応者,反走耳。」』

闘鶏師・紀渻子が周宣王のために闘鶏を育てる。周宣王は紀渻子にその成長を尋ねる。
紀渻子は以下のように答えている。
十日目:虚驕(きょきょう)にして而して気恃(たの)む。
二十日目:なお影響に応ず。
三十日目:なお疾視(しつし)して而して気を盛んにす。
四十日目:幾(ちか)し。鶏、鳴くもありと雖(いえど)も、已に変ずることなし。之を望むに木鶏に似たり。其の徳全し。異鶏敢(あえ)て応ずるもの無く、反って走らん。

10日目はまだ虚勢を張り、己の気を恃むところがある。
20日目はまだ相手の気勢に応じてしまう。
30日目はまだ相手を睨みつけて気勢を発してしまう。
40日目は相手が威嚇しても応ぜず。木彫の鶏のごとくしている。相手は戦わず逃げ出すだろう。

訓練によりただ所作(技術)を身につけても、強い闘鶏にはならない。徳を全うし初めて最強の闘鶏が完成する。

当然技術を養わなければ、戦えない。戦闘技術を磨いた上で、敵に動揺しないココロを養う。

気迫だけに頼るようでは、相手の戦闘能力が高ければ負ける。
戦闘能力をつけても、相手の気迫に応じて動くようではまだ足りぬ。
相手を威嚇できるレベルになっても、相手の気迫がより強ければ負ける。
威嚇にも平然としていれば、相手が恐れてかかってこない。
ということだ。

本当に力のある者は「泰然自若」としていられる。

安岡師の書籍には「木猫」も出てくる。
木猫がいるだけで、ネズミが逃げてゆく。最強の猫だ(笑)

安岡師はこの話を『知者不言、言者不知』(知る者は言わず、言う者は知らず)という老子の言葉で締めくくっている。

部下の指導

 電子デバイスで読書をする事が増えて来た。すぐに読みたい書籍は電子書籍ならばすぐに手に入る。そうやって購入した書籍が、iPhoneの中に積んドク状態となっている(笑)
電子書籍は隙間時間に読むのに好都合だ。移動中や外出中の待ち時間をつぶすのにもってこいだ。iPhoneの中の電子書籍を数えてみたら67冊あった。これを紙の本で持ち運ぶ事を考えたらぞっとする(笑)

今回はiPhoneの奥底にたまっていた書籍を紹介したい。

「ひとことの力 松下幸之助の言葉」江口克彦著

江口氏はPHP総合研究所社長を務め、23年間松下幸之助の側近として直接経営の神様から指導を受けた人だ。本書を読むと、早朝から深夜まで、公私の分け目無く指導を受け、語り合った姿が目に浮かぶ。最高の師弟関係だと、羨ましく思う。

この書籍の中から一つのエピソードを紹介したい。

ハーマン・カーンと言う米国の学者が昭和43年に来日し、松下幸之助と会う予定になっていた。松下さんは「ハーマン・カーンと言う人はどういう人か知ってるか?」と江口さんに聞かれたそうだ。当然江口さんは,カーン氏との面談予定を知っているので、新聞などでカーン氏の事は調べておいた。それを松下さんにお伝えする事ができた。
しかし翌日もその翌日も、松下さんは同じ質問を3回されたそうだ。

3回とも同じ答えをした江口さんは、はたと考えた。当然松下さんは新聞記事に出ている内容は知っていたはずだ。もっと深い内容を知りたかったに違いないと気がつく。すぐにカーン氏の書籍を買い求め、徹夜で読み上げ要旨をまとめ、その内容をカセットテープに吹き込んだそうだ。

その日も松下さんは,同じ質問をされた。朝までかかって読んだカーン氏の著作の要旨を伝え、テープを渡した。

翌日出社して来た松下さんは江口さんに「君、ええ声しとるなぁ」とひとことおっしゃったそうだ。

普通の上司ならば、二度目に同じ質問をして同じ答えが帰って来た時に、部下を叱っているだろう。一回目の質問に対して、新聞に書いてある程度の答えしか返ってこなくても、よく勉強しているなぁと褒めてやれる。しかしその時、自分の答えに不足はなかったかと勉強するのが、成長意欲の高い人間だ。

私ならば、一度目の質問に対する答えに、よく勉強しているなぁと褒め、こういう点とこういう点をもっと詳しく知りたい、調べておいてくれ、と指示してしまうだろう。

それを黙って3回同じ質問を繰り返し、忍耐強く4回目の同じ質問をする。具体的に指示をする事が必要な時もある。しかし部下が自ら気付きを得て仕事をすれば、成長度合いは大きいはずだ。
ただ仕事をさせるだけではない。それをどう部下の成長に役立てるか、そんな事を常に考えているから、何度も同じ質問をして部下の気付きを促進させる事が出来たのだろう。

そして「君、ええ声しとるなぁ」のひとことに凝縮した部下への賞賛と感謝は、江口さんの言葉によると、身震いするほど感動し、この人のためならば死ねる、と思ったそうだ。

こういう部下が一人でもいれば、私の人生は無駄ではなかったと言い切る事ができよう。

index_s「ひとことの力 松下幸之助の言葉」著者:江口克彦 出版社:東洋経済新報社


このコラムは、2015年10月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第447号に掲載した記事です。
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トイレ掃除の効能

 相前後して2人の友人から「そうじ資本主義」と言う本を紹介された。

そうじ資本主義
書籍名:そうじ資本主義
著者:大森信
出版社:日経BP

紹介してくれた友人の一人は、本人も中国工場でトイレ掃除をしている。初めは従業員から『精神病』と言われたそうだ。しかし継続しているうちに、中国人幹部が手伝う様になり、全従業員で掃除をする様になった。
その結果、生産性は4倍となった。最近は、掃除を見せて欲しいと、他の工場から見学に来る人までいる。

トイレ掃除と言えば、イエローハット創業者の鍵山秀三郎氏が有名だ。
鍵山氏は創業時から社長自らトイレ掃除をしている。最初の10年間はだれも手伝わなかったそうだ。社長がトイレ掃除をしている横で、用を足して行く職員すらいたと言う。それが今では「鍵山トイレ掃除道」は社内のみならず、公衆便所を清掃する会ができ、国内から全世界に広まっている。

鍵山氏は、哲学者・ショーペンハウエルを引用し、物事が成功するまでには3段階あると言っておられる。
第1段階は「嘲笑される」
第2段階は「反対される」
第3段階は「同調する」

初めは従業員から『精神病』とバカにされる。それでも継続しようとすれば反対する。やらない理由を探す方がずっと楽だ。たいていの人はこの辺りで挫けてしまう。それでも継続すると周りから、同調する者が出て来ると言う。

大森氏の「掃除資本主義」では、欧米企業の経営観は「目的志向」と説明している。利益を上げることが企業の目的であり、目的に合致しない作業を減らし、目的に合致する作業を増やすと言う合理主義が貫かれる。従って掃除は外部に委託することになる。
一方日本的経営観は「手段志向」と位置づけている。掃除や5Sを大切にする。
掃除は直接目的に貢献はしないが、大切な事だから一生懸命にやる、と言う姿勢だ。

目的志向の合理的経営は、利益を上げるためにはリストラも辞さない。むしろリストラをすれば、株主から評価され株価が上昇したりする。しかしこの合理主義が万能であるかと言うと、そうでもない。前出の友人の工場は、総経理自らトイレ掃除をすることにより、生産性を4倍にし結果的に利益に貢献している。多くの日本的経営の企業も同様の成果を上げている。この成果は、合理主義では説明がつかない。

では、なぜ手段志向型経営で成果を出すことができるのか?
経営者、経営幹部から末端の作業員までが、掃除と言う一つの作業を毎日共有する。手段を共有することにより、目的を共有する土壌も出来上がっているのではないだろうか。

目的志向型経営が合理的に見えても、全従業員が目的を共有しなければ無意味だ。手段志向型経営で、全従業員が手段を共有していれば、自然と目的の共有が出来るのではないだろうか。

当然企業には、社会的な存在目的や経営理念は必要である。これは「目的志向」だ。しかしそれを支えているのは「手段志向」による経営者と全従業員の連帯と考えれば、日本的経営の素晴らしい側面が見えて来ると思える。

index_s「そうじ資本主義 日本企業の倫理とトイレ掃除の精神」


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】に掲載した物です。
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禅脳思考

 タイトル「禅脳思考」は全脳思考(ホール・ブレイン)の誤変換ではない。心理学者チクセントミハイの「フロー理論」を辻秀一氏が発展させたのが禅脳思考だ。
人が熱中している状態を「フロー」と言い、最もパフォーマンスが高くなる。
これを応用して、スポーツ選手や企業人のパフォーマンスを上げる仕事をしておられるのが辻先生だ。

独立以来、どのようにしたら中国人従業員のモチベーションを上げられるかを考え続けて来た。2013年に広東省の人事関係のフォーラムに参加した。その時一人の講師がフロー理論の講演をした。中国でも人のパフォーマンスを上げるためにフロー理論を応用しようと考えている人が居るのを知り、椅子から転げ落ちる程驚いた。中国国内にもフロー理論に関する学会が有ると言う。
ネットで検索し、辻先生の「フロー・カンパニー」と言う書籍を知り、即注文した。

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書籍名:フロー・カンパニー
著者:辻秀一
出版社:ビジネス社

その辻先生が香港和僑会で講演されると聞き、香港まで出かけて来た。
講演のあとも、ずっと辻先生のお話を聞き、気が付いたら10時を回っていた。
多くの啓発を受けた。

人間の脳は、五感を通して得た情報を認知する機能が有る。これは人間が生存するために必須の機能だ。例えばライオンと出会ったら危険だと認知し逃げると言う行動を起こす。

認知脳はあらゆる事に意味付けをしようとする。
例えば、朝起きた時に雨が降っていると「雨かぁ。サイテー」と考える。本来雨そのものには、サイテーと言う意味はない。今までの経験から、認知脳がサイテーと判断する。出社途上の満員電車で、塗れた傘を押し付けられズボンが濡れる。ここでも認知脳は「サイテー」と認知する。会社に到着して苦手なボスと最初に遭ってしまった。自分のデスクについた頃はサイテーのどん底となる。この様な心理状態で最高の仕事ができるはずはない。

自分の心が外界の事象や人に支配されることにより、左右されてしまう。その結果、自分のパフォーマンスが落ちてしまう。自分の心を自分でコントロールすることが出来れば、より自由となりパフォーマンスを上げられる。

一般的には「ポジティブ・シンキング」と言う方法で解決しようとする。
「雨が降れば緑が奇麗になり気持ちがよい」「イヤな上司もいい所がある」と言い聞かせる訳だ。こういう考え方をしている人は多いだろう。しかし言ってみれば、自分の心を騙すことになる。これでは疲れてしまう。

自分の心が認知脳に捕われず、揺らがない状態にするために、ライフスキル脳を鍛えよう、と言うのが禅脳思考の考え方だ。

例えば、タイガー・ウッズは、マッチプレーで相手のパットが入れば負けると言う場面で、相手がパットを打つ時に「入れ!」と念じるそうだ。相手を応援する行為は、心をフローにする。念じたからと言って、相手のパットが入るはずはない。相手のパットが外れた時に、自分の心がフローになっていれば、必ず自分のパットが入り逆転出来ると知っているから、そう念じるのだそうだ。

普通のゴルファーは、前のホールで3パットしてしまった事に捕われ、次のホールでドライバーがスライスしOBとなる。これは心がフローになっていないからだ。禅脳思考体得者は、一瞬にして心をリセットし、今この瞬間に集中することができる。

認知脳が重要と判断しているにも関わらず、実行に移せない。上手くやろうと緊張するあまり、失敗してしまう。こういう状況は心がフローになっていないために発生する。心の状態をコントロールするライフスキル脳力と認知脳のバランスが取れている状態を作り出す事が重要だ。

中小企業が、技術や資本だけで競争優位に立つ事は難しい。あなたの会社をフロー・カンパニーとすれば、従業員のパフォーマンスを上げ、業績を上げる事が出来るはずだ。

index_sフロー・カンパニー

無印良品のムジグラム

IMG_0703書籍名:『無印良品の、人の育て方』
“いいサラリーマン”は、会社を滅ぼす
著者:松井忠三
出版社:角川書店

 文房具やガジェット好きの私は、日経トレンディと言う雑誌のPodcast番組を毎週聞いている。この番組は、たまにスタジオにゲストを招いてインタビューをすることがある。
良品計画の松井忠三会長がゲスト出演した時の放送を聞き、「無印良品の人の育て方」を電子書籍で読んだ。
松井会長は、赤字転落した良品計画の社長に就任して1年でV字回復させた経営者だ。良品計画の業務マニュアルとして有名な「ムジグラム」を作り上げた人だ。

ムジグラムは、現在13分冊2,000ページになると言う。
業務ごとに、店舗ディスプレイ、接客、レジ清算などに分冊化されており、レジに近づいて来るお客様に、どの位置で挨拶をするか、目線は相手の目を見る、手にされている商品に目をやらないなど、事細かに書かれている。

こういうマニュアルは、人事部門の教育担当や、現場を離れた管理職が書ける物ではない。現場一線にいる人の気付きで出来上がったマニュアルだ。

松井会長が、このマニュアルが出来上がった経緯を話されている。
元々無印良品の社員は、先輩の仕事ぶりを見習って成長すると言う「経験主義」の育成を受けていた。そのため100人の店長がいると、100通りの店舗が出来る。
そしてその店長の指導を受けた人が店長になると、また少し違ったスタイルの店舗が出来る。

中には抜群のセンスを持った店長がいて、顧客に愛されるすばらしい店舗を作ることができる。しかし一方で、平均点以下の店舗しか作れない店長もいる訳だ。全員100点でなくても良い。まずどの店舗も80点以上にする。そのために「標準」を作る。それがムジグラムの始まりとなった。

私も常々言っているが、標準とかマニュアルは進歩を止める物だ。今日一番良い方法が、標準作業となりマニュアルに書かれる。従って標準作業、マニュアルが明日も一番良い方法であるとは限らない。むしろ日々改善が行われ、明日は更に良い方法に変わって行かねばならない。

ムジグラムは、現場からの要求で常に改訂されているそうだ。2,000ページの内20ページは毎月改訂される。毎月1%、一年で12%変わることになる。多分初版のままのページは1ページもないだろう。

こういうマニュアルが有れば、人財の流動は怖くはない。
新人が即戦力となる。ノウハウが人ではなく組織に残る。この様な状態に到達すると、店舗間の異動、職種の異動を大胆にすることができる様になる。

松井会長は、人事異動が人を育てると言っている。仕入れ担当だった役員と、販売担当の役員を入れ替える、などと言うコトを簡単にやってしまう。これは人の成長ばかりではなく、組織の風通しを良くする役割も有る。
例えば製造部門一筋で出世して来た部長と、営業部門一筋の部長は、大概仲が悪い(笑)各々が部門の利益を代表しているから、部門間の調整などが上手く行かなくなる。部長を入れ替えてしまえば、双方の都合が理解出来、お互いに助け合うことができる。

我が師匠・原田師も、社内のジョブローテーションを制度化していた。
役職者はその職位によって一定期間しか同じ職位にいられない様になっている。
つまり製造係長は3年しかその職位にいられない。3年以内に別の部署に異動
するか、課長職に昇格しなければならない。課長職も部長職も同様だ。
こうする事によって、中国人組織にありがちな部門の壁は一切なくなる。

松井会長のもう一つの人財育成のコツは「修羅場」だ。
たった一人で海外店舗に赴任した者は、異文化環境の修羅場の中で必死に経営
をする。この経験が人を一回りも二回りも大きくする。帰任した時に、周りの
同僚・部下からも尊敬の眼差しを受ける。これによって、周囲の人財も修羅場
に飛び込んで行く覚悟が出来る。

index_s『無印良品の、人の育て方 “いいサラリーマン”は、会社を滅ぼす』

黒字化せよ!

黒字化せよ!
書籍名:黒字化せよ!出向社長最後の勝負
著者:猿谷雅治、五十嵐英憲(解説)
出版社:ダイヤモンド社


友人に勧められてこの本を読んだ。ストーリィ仕立てのビジネス書、と言ったら良いだろうか。小説としても、面白く一気に読んだ。

一部上場企業で、取締役候補だった沢井が、万年赤字の子会社(鋳物工場)の社長として出向命令を受ける。
条件は、一年以内に会社を整理するか継続するか判断すること。
従って、新たな人材の投入も、設備の導入などの投資も出来ない。その様な状況の元で、たった9ヶ月で黒字化した物語だ。

沢井は、万年赤字工場で自信をなくし、意欲を失った従業員のココロを変えた。
従業員が月を追うごとに、徐々に変わって行き、同じ目的に向かって協力し始める様子を読んで、何度も熱いモノが胸に込み上げて来た。

我が師匠・原田則夫師は「全ては人のココロから始まる」「工場の再建は、人を変えれば簡単に出来る」と言っておられた。
全くその通りの展開で、万年赤字の工場が黒字となって行く。

以前このコラムで「上杉鷹山」と言う歴史小説をご紹介した。こちらの小説も、財政危機を抱えた大名が、人々のココロに火をつけて危機を克服すると言う筋立てだ。

どちらの書籍も、経営者、経営幹部の方に多くのヒントを提供するだろう。
しかし「黒字化せよ!」の方は、鋳物工場と言う具体的な製造業が現場となっており、従業員の心に火をつける方法もより現実的に提示されている。
きっとあなたの会社又は部門の業績を上げるヒントが掴めるはずだ。

index_s黒字化せよ!出向社長最後の勝負

無印良品のムジグラム

 文房具やガジェット好きの私は、日経トレンディと言う雑誌のPodcast番組を毎週聞いている。私の趣味の話しをこのコラムでは紹介する事はないが、先週の番組は、このコラム読者様にもシェアする価値があると思える。

先週の番組は珍しく、スタジオにゲストを招いてインタビュー形式だった。
そのゲストが、良品計画の松井忠三会長だ。
松井会長は、赤字転落した良品計画の社長に就任して1年でV字回復させた経営者だ。良品計画の業務マニュアルとして有名な「ムジグラム」を作り上げた人だ。

ムジグラムは、現在13分冊2,000ページになると言う。
業務ごとに、店舗ディスプレイ、接客、レジ清算などに分冊化されており、レジに近づいて来るお客様に、どの位置で挨拶をするか、目線は相手の目を見る、手にされている商品に目をやらないなど、事細かに書かれている。

こういうマニュアルは、人事部門の教育担当や、現場を離れた管理職が書ける物ではない。現場一線にいる人の気付きで出来上がったマニュアルだ。

松井会長が、このマニュアルが出来上がった経緯を話されている。
元々無印良品の社員は、先輩の仕事ぶりを見習って成長すると言う「経験主義」の育成を受けていた。そのため100人の店長がいると、100通りの店舗が出来る。
そしてその店長の指導を受けた人が店長になると、また少し違ったスタイルの店舗が出来る。

中には抜群のセンスを持った店長がいて、顧客に愛されるすばらしい店舗を作ることができる。しかし一方で、平均点以下の店舗しか作れない店長もいる訳だ。全員100点でなくても良い。まずどの店舗も80点以上にする。そのために「標準」を作る。それがムジグラムの始まりとなった。

私も常々言っているが、標準とかマニュアルは進歩を止める物だ。今日一番良い方法が、標準作業となりマニュアルに書かれる。従って標準作業、マニュアルが明日も一番良い方法であるとは限らない。むしろ日々改善が行われ、明日は更に良い方法に変わって行かねばならない。

ムジグラムは、現場からの要求で常に改訂されているそうだ。2,000ページの内20ページは毎月改訂される。毎月1%、一年で12%変わることになる。
多分初版のままのページは1ページもないだろう。

こういうマニュアルが有れば、人財の流動は怖くはない。
新人が即戦力となる。ノウハウが人ではなく組織に残る。この様な状態に到達すると、店舗間の異動、職種の異動を大胆にすることができる様になる。

松井会長は、人事異動が人を育てると言っている。仕入れ担当だった役員と、販売担当の役員を入れ替える、などと言うコトを簡単にやってしまう。
これは人の成長ばかりではなく、組織の風通しを良くする役割も有る。
例えば製造部門一筋で出世して来た部長と、営業部門一筋の部長は、大概仲が悪い(笑)各々が部門の利益を代表しているから、部門間の調整などが上手く行かなくなる。部長を入れ替えてしまえば、双方の都合が理解出来、お互いに助け合うことができる。

我が師匠・原田師も、社内のジョブローテーションを制度化していた。
役職者はその職位によって一定期間しか同じ職位にいられない様になっている。
つまり製造係長は3年しかその職位にいられない。3年以内に別の部署に異動するか、課長職に昇格しなければならない。課長職も部長職も同様だ。
こうする事によって、中国人組織にありがちな部門の壁は一切なくなる。

松井会長のもう一つの人財育成のコツは「修羅場」だ。
たった一人で海外店舗に赴任した者は、異文化環境の修羅場の中で必死に経営をする。この経験が人を一回りも二回りも大きくする。帰任した時に、周りの同僚・部下からも尊敬の眼差しを受ける。これによって、周囲の人財も修羅場に飛び込んで行く覚悟が出来る。

ぜひ松井会長のお話を参考にされていただきたい。私は既に5回聞いた(笑)

週刊日経トレンディ
第367回「ゲスト登場!『無印良品の、人の育て方』とは?」2014/10/6

こちらは松井会長の書籍。

『無印良品の、人の育て方 “いいサラリーマン”は、会社を滅ぼす』

『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』

儲けとツキを呼ぶ「ゴミゼロ化」工場の秘密

枚岡合金
書籍名:儲けとツキを呼ぶ「ゴミゼロ化」工場
著者:古芝保治
出版社:日本実業出版社



倒産寸前だった町工場・枚岡合金工具の,古芝さんはワラにもすがるような気持ちで「3S」を始めた.整理,整頓,清掃の3Sだ.

バブル時代,5,000円の利益を出すために100万円の売り上げが必要だったそうだ.最悪の経営状態から3Sに取り組んで,一気に業績が回復した.

整理,整頓,清潔で社内の空気ががらりと変わり,従業員の行動も変わった.行動が変わり,新しい行動が習慣になる.

その結果,工場見学に訪れる人が増え始め,工場見学に来た人から仕事を受注するようになった.その噂を聞いたパナソニックの人たちが工場見学に来ると,正帰還がかかったように見学者が増え,今までに8,000人の見学人が来ている.

年間3,000個もの金型を造っているのに,図面がキレイさっぱり整理されている.パナソニックからの見学者が感心する.これが元になって社内で使っていた文書管理システムがビジネスになる.

古芝さんは3Sとしか言っていないが,
工具を探す時間に1分掛けていたのを30秒にする,更にその半分にする,といっている.これが「清潔」だ.
整理,整頓,清掃が人間の感性を磨く,と言っている.
これが「躾」に他ならない.

5Sに真剣に取り組んで,倒産の危機から脱したばかりでなく,新ビジネスまで立ち上げることが出来た.

「たかが5S」と思っている方が多いかもしれないが,ホンモノの5Sとはこういう力を持ったモノだ.

儲けとツキを呼ぶ「ゴミゼロ化」工場

星の商人

星の商人
書籍名:星の商人
著者:犬飼ターボ
出版社: サンマーク出版


小説仕立ての成功本です.
大変面白く一気に読みました.

貧しい家庭に育った若者が,商人になるために都会に出て来て成功する過程を描いた小説です.
賢者と出会い,その教えを実践し商人として成功する.

賢者教えとは

  • 他の成功は己の成功
  • 成功者にふさわしき者を選べ
  • その者の成功を知れ
  • 仕組みで分かち合う
  • この世の富は限られたものではなく,無限である

これらの教えが,若者の成長にあわせて一つずつ提示されていく.
RPGの様なストーリィ仕立てで,若者が経営者として成長する姿が描かれています.

著者が提唱する成功とは,奪い合う経営ではなく,分かち合う経営を目指すことです.
競争相手を倒し,シェアを奪うのが奪い合う経営.
仲間を助け,パイを大きくして行くのが分ちある経営です.

市場が一定の大きさしかないと仮定すれば,誰かの成功は,自分にとっては「負け」です.常に利益はゼロサム.しかし市場が無限にあると考えれば,分かち合う経営が出来るはずです.仲間の成功を自分の「不労所得」とする仕組みを作り上げれば良いのです.

そしてその成功が次々と連鎖し拡大するようにする.
成功連鎖マネジメント(SCM)とでも言えば良いのでしょうか.

他人を蹴落として得た成功では,幸せにはなれません.
外側の成功と,内側の幸せを同時に達成することが,人生の目的なのだと思います.

星の商人

半導体デバイスの信頼性技術

半導体デバイスの信頼性技術
書籍名:半導体デバイスの信頼性技術
松下電子工業 (編集)
出版社: 日科技連出版社 (1988/07)


この本は初版が出てから既に20年以上経っています.
半導体デバイスの世界はこの20年でものすごい進歩をしています.しかしこの本は,未だに重版を続けています.モノゴトの基礎は普遍なんでしょうね.
半導体エンジニアばかりではなく,半導体を応用する人,信頼性エンジニア,不具合解析エンジニアなど多くのエンジニアの「教科書」として,まだまだ現役で活躍していると思います.

私も昔この本のお世話になりました.
当時半導体素子の不良が発生し,その解析方法や不具合のメカニズムなど,本書を何度も読みました.
「水和腐食」と言う言葉も,この本で勉強しました.

本書の内容を,かいつまんでご紹介するのは,ちょっと難しいです(笑)
せめて目次だけでも

第1章 半導体デバイスの特質
第2章 品質保証の実際
第3章 信頼性評価の基本
第4章 信頼性要因と故障解析
第5章 個別デバイスの信頼性の課題
第6章 集積回路デバイスの信頼性の課題
第7章 品質保証に関する規格および認証制度

「半導体デバイスの信頼性技術」