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【華南マンスリーコラム】作業服で団結?

おそろいの作業服が持つ意味
#10
工場を訪問する時は必ず作業服を着てゆく.もちろんスーツにネクタイも持っているのだが,工場訪問時は作業服が正装だと考えている.
日系の工場は幹部職員までおそろいの作業服を制服として着ている場合が多い.日本人の発想としては一致団結して仕事をする象徴として制服・作業服があると思う.作業服→ユニフォーム→スポーツチーム→団結という連想だろう.
確かにスポーツチームの選手はチームへの貢献,所属チームに対する誇りの象徴としてユニフォームに愛着を持っているだろう.
では中国の生産現場で作業服が団結の象徴になるだろうか?

四川大地震から私達が得た教訓
残念ながら,私は否定的な意見を持っている.中国人たちは制服に対し日本人が持っているような意味は感じていないだろう.
それは彼らにとって会社に対する帰属意識というのが余り意味を持たないからだ.彼らは所属する会社にではなく,自分の職業・職種に対して帰属意識を持っている.
では一致団結が出来ないかというと,そうではない.一定の条件がそろえば一致団結し,高い貢献意欲を発揮する.
実は最近これに気がついた.5月12日に発生した四川大地震のTV報道を見ていて気がついたのだ.
被災地に続々集まってくるボランティアたち,それぞれの地方で義捐金箱にわれ先に群がる人々.明らかに普段接している中国人とは違う.何かが彼らの心の中のスイッチをONにして高い貢献意欲を発揮しだしたのだろう.
何が「心のスイッチ」をONにしたのか.
それは四川の被災者を救おう,被災地を再建しよう,という共通目的が心のスイッチを入れたのだと考えている.
心のスイッチがONになった中国人達は日本人をしのぐ貢献意欲や他人を思いやる心を発揮する.
 
心のスイッチを入れる共通目的
この仮説が正しいとすれば,組織経営に応用しない手はない.
会社の経営理念・目的・目標が従業員の心のスイッチをONにする共通目的になれば,高い貢献意欲を持った強い組織になる.
共通目的の鍵になるのが従業員の「自己成長意欲」だと考えている.高い自己成長意欲を持ち,それをまっすぐ見せて来る中国の若者達に共通目的を与えるのは難しいことではない.
そうなれば,作業服すら一致団結の象徴になりうる.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.

【華南マンスリーコラム】ジャンプで改革

#9跳ぶ!
今月はなぜか跳んでおります.小道具とはいえないかもしれないが,飛翔力について書かせていただく.
改善というのは一歩一歩登ってゆくイメージだが,改革というのはぴょんと跳び上がるイメージである.
例えば生産現場で新しい生産設備を導入する.そうすると生産性は一気に改善される.
大きな投資をしなくても改革は可能である.生産方法の工夫で4人作業が1人になったりする.
しかし実際には新しい設備,新しい方法に作業者がなれるまで生産性が落ちる事がある.改革でもやはり改善と同じように習熟するため一歩一歩地味な部分はある.
特に今まで慣れ親しんだ作業を変更するのは現場作業者には抵抗がある.原理的に効率のよい方法を採用しても実際にデータを取ってみると生産性が落ちている事がありうる.こういう場合は現場の班長・組長クラスの監督者を巻き込んで改善を進めなければならない.

一つの部署の改善が全社の改革を牽引する
会社はひとつの部署で成り立っていることはまずない.色々な部署が関連を持って成り立っている.あたかも各部署がゴムひもでつながっているようなイメージである.
例えば製造現場の能力が上がると,設計が変わらなければならなくなる,生産技術も変わらなければならない.
製造のリードタイムが改善されれば,生産計画が変わらなければならない,営業の顧客への売り方も変わる,そしてそれは物流にも影響を与える.
ひとつの部署が上に上がってゆくとある閾値を越えた時に,ゴムひもでつながっているすべての関連部署もぴょんと跳び上がる.
これが全社が改革される瞬間だ.
 
業界の常識も跳び越える
ある業界では工程内不良が十数%あるのが常識だったりする.従って出荷品質もそれなりの値にしかならない.品質を保証するために全数第三者検品をすることになる.
例えば電子部品の業界は出荷品の不良率が20ppm以下であるのが常識であったりする.
また自動車部品業界の常識では出荷品不良率は0ppmだ.
業界トップを目指していては改善はできても改革はできない.
異業種にベストプラクティスを求め業界常識の壁を飛び越えなければならない.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.

【華南マンスリーコラム】リストストラップで理論武装

守れないルール
#8
静電気に敏感な電子部品を取り扱う現場に出るときは必ずリストストラップを着用している.
皆さんも冬場にドアのノブをつかもうとしてパチッと電撃を感じた事があるであろう.着衣に帯電した静電気が指先を通してドアノブに放電したのである.静電気は簡単に数千Vの高電圧となる.
この数千Vの静電気が電子部品に放電したらひとたまりもない.簡単に壊れてしまう.
従って電子部品を取り扱う作業者は必ずリストストラップを手首に巻いてアースに接続し,静電気の放電を防がなくてはならない.
ところがこれがなかなか守られない.休憩時間後ついうっかりという作業者が何人かいることになる.

理論武装でルールを守らせる
「作業時はリストストラップをすること」ルールは明確だ.現場の班長もリストストラップをしていない作業員を見つけるたびに指導をしている.それでも守られない.
小さな子ともに躾をするときと同じである.
「○○をしなきゃだめ」と約束を教えて,約束を守れないたびに叱る.この方法では約束が守れるようになるのにはすごく時間がかかる.
「○○をしなきゃだめ」な理由を教えて,「○○をします」と約束をさせる.子供が理由を理解できれば,約束はきちんと守られる.
作業者に教える時も同様である.叱り続けるよりは,理由を教えた方が簡単である.私はこれを「理論武装」と呼んでいる.
 
理論を可視化する
理論武装といっても「静電気の帯電とは原子の中で陽子と電子のバランスが崩れ……」などとやってはダメだ.もっとわかりやすく教える.
工程の中にある物を並べて実際に静電気メータで電圧を計って見せる.どんな物が帯電するのか,どうすると帯電するのかを現物で見せる.いわば理論の「看える化」である.
例えばセロテープをピーッと引き出したとき,プラスチックトレーにブローで空気を吹き付けたときなど,どのくらい静電気が発生しているか見せる.どうして帯電したかを教える.
そして静電気放電を自分の体で体験してもらう.3kVくらいから放電により痛みを感じるはずだ.いわば理論の「体験化」である.
理論武装によりHowだけではなくWhyをきちんと理解・体験できればルールは守られるはずだ.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.

【華南マンスリーコラム】手袋で損失予防

作業員が守るべきルールは管理者も率先して守らねばならない
#7
 現場に出るときはいつもその現場が要求するモノをきちんと着用することにしている.
 例えば手袋である.以前セラミックコンデンサーのメーカに採用監査に行った事がある.その工場の品証責任者が現場で説明する際に原材料であるセラミックの円板を素手で触った.
 この一つを見ただけで,この工場は採用に値する品質レベルではないと判断できる.セラミック円板に付着した汗の成分が耐圧不良を起こす可能性があるのだ.
 現場の作業者がきちんと手袋をしていても,管理者がルールを守らないということは作業員もルールを守らない可能性がある.
管理者に必要なのは損失リスクを予防する力
 電子製品でもプリント基板に汗が付着すると,それが触媒になってプリント基板の線間がショートする可能性がある.この不良は工場の中では発見できない.エンドユーザが製品を使用中に不良が発生する.大変厄介な不良であり,損失コストは莫大なものになる.
 最近有害物質が玩具に使われて回収騒ぎになる事例が多い.ニュース記事を見て,心配で夜も眠れない経営者が多いのではないだろうか.しかし心配していても始まらない.心配しなくて良いようにするのが経営者の仕事である.
 自社,他社の失敗事例から,工程中のどこに損失リスクがあるか見抜きそれを事前に予防する事が必要である.
 
守られるルールにする 
手袋の着用もそんな予防対策のひとつである.しかし作業者は目を離すと手袋をしていない.そのたびに叱ってもなかなか改善しない.
手袋着用が守られない理由を深掘りしなければならない.ルールにムダ・ムラ・ムリがある場合が殆どである.
守られるルールにするにはムダ・ムリ・ムラを取り除いてやらなければならない.
 ある電源メーカで耐電圧試験の作業者がゴム手袋を着用し作業をしていた.顧客監査時に感電事故防止を指摘され,ゴム手袋を着用することにしたという.
 しかしこの対策は守られないのは日の目を見るより明らかである.蒸し暑い工場の中でゴム手袋をしていたら汗で不快になるはずだ.
 客が来た時だけ守る様なルールは却って逆効果だ.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.

【華南マンスリーコラム】クリップボードでコミュニケーション

全能力を駆使したコミュニケーション
#6
 現場に出るときはいつもクリップボードに白紙を挟んで持ち歩いている.私の大事なコミュニケーション手段の一つである.
 現場のリーダーたちに英語や日本語でのコミュニケーションを期待しても無理がある.当然中国語でコミュニケーションをしなければならない.
 現場では話す,聞く,書く,読む,描く,見る,身振り,手振り,全てのコミュニケーション手段を活用して指導をしている.
 そんな時に役に立つのがクリップボードだ.現場で問題点や改善点を図解で説明する.これで意思疎通が可能である.更にその後のリーダーの行動をきちんとフォローをすれば,理解できているかどうかを判断できる.
通訳に必要な能力は日本語ではなく正しい中国語を話せること
 もちろん通訳を使った方が簡単かもしれない.しかし通訳を信頼しきるのも問題である.
 通訳たちは日本語を勉強した日本語の専門家である.必ずしもその現場の仕事に精通しているわけではない.
例えばプラスチック成型工場の通訳で,イソプロピルアルコール,エタノール,メタノールをすらすらと中国語で言えるだろうか?ある種のアルコールはプラスチックにダメージを与える.重要な事だ.
 日本語検定2級,1級を持っている通訳でもすぐには使い物にはならない.現場で徹底的に鍛えないと使い物にはならない.
私が1年半一緒に仕事をした通訳君は,元々営業職であったが,私との仕事を通して一人前の品質エンジニアに成長した.
 現場の通訳として重要な能力は日本語を上手に話せることではなく,私の考えを中国語で平易に話せることである. 
難しい事を平易に説明する
 平易に説明する,というところが重要である.通訳がいても自分で説明しようとするポイントはここにある.
現場のリーダーが理解できるまで,手を変え品を変え例を示して説明する.
 難しい事を難しく説明するのでは能がない.クリップボードの白紙に図解で示して平易に説明する.このように難しい事を平易に説明する能力が現場指導には重要だ.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.

【華南マンスリーコラム】手帳で部下育成

記憶より記録#5
 現場に出るときはいつも作業服の胸ポケットに手帳を入れている.手帳が汗で濡れてしまわないようにビニール製のカバー付だ.
 この手帳に何でも,記録している.加齢により記憶力が減退したからではない.もとより私の大脳はモノを覚えるためには使っていない.記憶よりは創造に大脳を使っている.
 現場で即指導をモットーにしているので,記録しておく必要はないが,メモを基に後日理論付けをして再指導をするのに役立つ.
 現場指導(OJT)の「Why」を理論で教えることにより更に教育効果が上がる.
OJTは計画的に
 知識は簡単に教えられるが,能力はなかなか開発できない.教えた知識を能力に変換するのがOJTだ.
 OJTなどムダだ,と言っておられる経営者とお目にかかった事がある.彼は現場に新人を放り込んでおけば自動的に人は育つ,これがOJTだと考えていたようだ.
 これでは人は育つはずもない.これはOJTではなく放任主義,もっと厳しい言い方をすれば教育放棄主義だ.
 各自の能力を見極め,足りない部分を現場での仕事を通して鍛える.これがOJTだ.
 各自に要求される能力と現有能力の差分からOJT計画を立てる.そしてOJTのPDCA(計画・実施・評価・是正)のサイクルを回さなければならない.
行動記録で能力評価
 では能力はどう評価するか.知識であれば試験をすれば数値評価が可能である.例えば部下の指導能力とか企画能力というのはどう評価すれば良いか.
 成果主義的な考えでは,部下の成長,アウトプットされた企画の質で評価されることになる.しかしできの悪い部下しか持たない不幸な上司や,企画立案のサポートに回ったメンバーの評価が公平にできるだろうか.
 要求する能力を発揮してどのような行動が取れているか,というプロセス評価主義で評価するのが妥当であろう.
 ここで登場するのが胸ポケットの手帳である.現場での部下の行動記録によって,期待するレベルの行動が取れているかどうかを評価する.
 この評価によりOJT計画の是正を行うわけである.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.

【華南マンスリーコラム】ストップウォッチで生産改善

#4
ストップウォッチで生産改善
 現場に出るときはいつも作業服の胸ポケットにストップウォッチを入れている.
 はじめて中国の工場に指導に来た頃,工場の生産技術のエンジニアがストップウォッチを持っていないのを見て驚いた.どうやって作業時間を設定し,評価をするのか?元来彼らには標準作業時間という概念がなかったのである.
 標準時間とは何か,というところから指導が始まった.指導の長い道程を憂いながら,彼らと一緒に仕事をした.しかしその次の回にはエンジニアは得意げにポケットからストップウォッチを出して見せてくれた.更に次の回には作業指導書に標準作業時間が入れてあった.
 少しずつでも現場のエンジニアたちが成長するのを見ているのは楽しい物である.
ストップウォッチで作業を見える化
ストップウォッチがなくても作業時間は計測できる.一日なり一時間に出来上がった製品の数から一台あたりにかかった時間は計算できる.しかしこれは平均値である.平均値からは作業の問題点は見えてこない.
現場でストップウォッチを片手に作業を見つめる事が重要である.同じ作業を繰り返したときに必ず作業時間のばらつきが発生する.平均値よりはこのばらつきの幅に着目する.なぜそのばらつきが発生するのか現場でじっと見ることにより作業を阻害している要因が見えてくる.ここが改善のポイントである.
同じように作業者間で作業時間のばらつきがあれば,ここをじっと見る.早く作業ができる作業者の動作を分析し,それを他の作業者もできるようにする.
ストップウォッチで作業を楽しく
お手伝いしている工場で「F1 プロジェクト」というのが始まった.この工場は設備産業であり設備の稼働率を上げる事が生産性を改善することになる.まずはロットの切り替え時間を1/3にへらすことにした.従来1時間半かかっていたので目標は30分である.
簡単に1/2になった.しかしその後がなかなかうまく行かない.そこでF1プロジェクトの登場となった.ロットの切り替えをあたかもF1のピットのように全員が一致協力して作業をする.
毎回作業の結果が見えるから仕事が楽しくなる.作業員の心に火がついた.今は目標が15分になっている.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.

【華南マンスリーコラム】ものさしで品質管理,人質管理

#3 現場に出るときはいつも作業服の胸ポケットにものさしをさしている.これでサボっている作業者の頭をペシッとやる,訳ではない.
現場・現物・現実の3ゲン主義を徹底するためには,率先垂範が大切である.
現場で部品がケースに収まらない,ケースの不良だと騒いでいる.こういう時にものさしがさっと登場する.ケースの寸法を測り図面とつき合わせる.
ケースの問題だと騒いでいるのが,部品の組み立て方が悪いのが分かったりする.何事も現物で確認するということをやって見せる.
 口で言っているだけではなかなか習慣にならない.現場のリーダが常にものさしと図面を持ち歩くようになるまで,徹底的に率先垂範で教え込む.
ものさし=基準の見える化
 ものさしの効能はこれだけではない.ものさしというのは「基準」である.常に基準を明確にしておくという効果を徹底したい.
モノのばらつき,作業のばらつきが不良を発生させる.これらのばらつきを基準内に管理する事が,品質管理である.
作業の基準.検査の基準.これらがきちんと明確になっていなければ,モノ造りはできない.
更に人のばらつきを管理することも重要である.人のばらつきは品質ばかりでなく生産性にも大きく影響を与える.
 人の基準は人それぞれ違っている.「一生懸命」仕事をする.という「一生懸命」は人によってレベルが違う.これをひとつのものさしによって統一する.
 すなわちこの作業は○○秒以内に完了する.作業の出来上がり品質はこのレベル.と明確に基準を設定する.
これが達成できるように,作業者の教育・訓練をする.場合によっては工程改善・治具化・機械化を行う.これで人のばらつきを抑える.
「人質管理」から「人心管理」へ
人のばらつきを抑えれば,品質,生産性ともに安定するはずである.しかし作業の基準を明確にすることの本当の効果は別にある.
 作業に対する要求基準を満たすために,作業者が努力をする.その努力が評価される.という仕組みがきちんと機能すれば,規準は作業者の目標になり,目標達成のモチベーションを与える事が出来る.
「会社に対する忠誠心」は求心力にはならない.「自己成長意欲」を求心力としたオペレーションが重要である.
これが「人心管理」の第一歩である.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.

【華南マンスリーコラム】ハンカチで文化の違いを知る!

#2
 中国人と日本人.見かけはほとんど同じ.話をして見なければ中国人か日本人か区別が付かないことがある.実は私には中国人と日本人を見分ける方法がひとつある.トイレで手を洗ったあと,ハンカチを出して手を拭いていれば日本人.そのままならば中国人.
私たち日本人は小学校に上がったときから毎朝母親に「ハンカチは持ったか?」と聞かれ,学校では先生に持ち物検査をされハンカチを持っていないと廊下に立たされた.こういうことを2,3年も続けてようやくハンカチをいつも携帯するという習慣ができるわけだ.
習熟→習慣→習性にまでステップアップすると,ハンカチを持たずに外出すると気分が悪くなる.こういう習慣が文化を支えることになる.
中国の工場でも同じだ.従業員に対して母親のように辛抱強く毎日指導をすればやがて習慣となり,強い企業文化の基になる.
中国で仕事をしているとよく中国人の習性,習慣に戸惑うことがある.
例えば現場で問題が発生する.関係者を集めて再発防止,改善を検討.参加者は口々に自分は悪くない,だれそれの問題だ,と責任の所在をめぐって責任のなすりあいになる.
初めのころはいらいらして「そうじゃない,昨日起きてしまったことはもういい.明日どう問題を解決するかを話したいんだ」と大きな声を出していた.これを何度も繰り返しているとこちらも学習し,会議が始まって30分くらいは黙って聞いていることにする.言い訳合戦が一段落したところで「ではこの問題が又発生しないようにするにはどうしたらいい?」と初めて口を開く.
こういうことを続けていると,問題を隠すよりは問題を解決したほうが高い評価が得られるということを理解してもらえる.
こうして「問題を共有する」という文化が芽生え始める.
「ホウレンソウ」は日系の工場ならば常識である.「報告・連絡・相談」をまとめて「ホウレンソウ」といっている.「ホウレンソウ」もなかなか習慣にならない.
例えば毎日生産高を報告しなさい,と指示をする.報告される数字は毎日1000とか1100などとキリのいい数字が並んでいる.毎日発生する不良の数は違うはずであり,毎日の完成数がキリのいい数字になるはずはない.
調べてみると投入数を報告している.これを報告がちゃんとできないと嘆いてはいけない.管理者の指導が足りないのである.
生産管理板の完成数の数字を報告するのだと,具体的に教えなくてはいけない.まずきちんと理解させてそれを繰り返すことによりきちんと報告するという習慣が出来上がる.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.

【華南マンスリーコラム】ルーペで改善を拡大?

 筆者は世界の工場・中国珠江デルタエリアで,製造業を中心に品質改善・経営革新のお手伝いをしている.私は工場に出かけるときにいつも身に着けている小道具がある.少々大げさだが「魂の小道具」と名付けた.
今月から12回「魂の小道具」で品質改善・生産性改善の秘訣をお話しする.
第一回目はルーペ.
#1
現場に入るときはルーペが欠かせない.携帯用のルーペを首からぶら下げている.
現場で現物を見る.これがモノ造りの基本の基本.モノが事実を語る.モノから事実が見えてくるまでじっと見る.
不良品を見る.良品を見る.ごみを見る.
不良品からは,その不良を作りこんだ原因が見えてくるはずだ.原因に対してすぐに対策を立てる.
不良品というのは結果だ.結果を見つめることにより原因を知る.そしてその場で改善する.
不良のデータをオフィスで見ていただけではこうは行かない.今日のデータを明日の朝見たのでは,今日の改善のチャンスはすでに失われている.
良品を見ることにより生産の品質を保証する.初物(ハツモノ:その日初めて作る物)初品(ハツシナ:新製品,改良品など初めて作る物)をきちんと見て生産開始時に生産の品質を保証する.製品の検査をするという意味ではない.良品がどう加工されたか,モノに語らせる.切断加工品の破断面を見れば,刃の磨耗や設備の状態などが見えるはずだ.
ごみを見ることにより工程の品質を保証する.例えば切削屑.切削屑がいつもと違えば,切削設備に何か異状があるはずだ.加工不良が発生する前に設備・工具のメンテナンスができる.
ゴミ箱の中には改善のヒントがいっぱい詰まっている.
良品とごみは過程.過程を見つめることにより結果を保証する.
これはいわば「予防保全」である.まだ発生していない不具合の発生を予防する.
管理者が自ら見ることが重要だ.管理者の行動は現場の人間が良く見ている.しかし管理者は自分でモノを見ているだけではだめ.現場がモノをちゃんと見ていることを見る.現場がモノを見られるように指導をする.これが管理者の仕事だ.
第二回は「ハンカチで文化の違いを知る!」

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.