「世界金融危機」に端を発して中国の失業率がジワリと上昇しているといろいろなメディアで報道されている.
確かに学校を出て職にありつけない学歴人材もある.特に日系大手が駐在員を帰国させているため,日本語人材が過剰気味になっているようだ.日本語プラスアルファの能力がない人たちは苦戦をしている.
しかし作業員の状況は違っている.
受注が増え始めている工場が作業員確保に奔走しているが,思い通りに集まっていないという話をよく聞く.
私のところにまで作業員をどこかで確保できないかという話が来る.少数精鋭のモノ造りに転換しましょうと常々言っている私のところに相談に来るのだから,よっぽど困っておられるのだろうと察している.
ほんの10年前まで農村地帯から出稼ぎに来る女工さんたちは,無限の資源のように思えた.作業員が必要ならば,工場の門に募集の赤紙を張り出せば翌朝には長蛇の列が門前に並んだ.そんな光景がものすごく昔のことのように感じる.
ではなぜ女工さんがいなくなってしまったのか?
豊かになった都市部ではどんどん第三次産業が増えてきている.この第三次産業が出稼ぎの女工さんたちを飲み込んでしまっているというのが,私の分析であった.
今年下半期は広東省の求人の半数が第三次産業のものになるという予測も地元新聞で報道されていた.工場で苦労して働くよりは,きれいな洋服を着て売り子さんやレストランで働いたほうが楽かもしれない.
しかし先日私が尊敬する工場経営者と話しをしていて目からうろこが落ちた.
彼の仮説によると,開放改革以来30年経ち農村部からの出稼ぎ女工さんが「第二世代」になっているのが原因だという.
つまり2,30年前に出稼ぎに来て当時の劣悪な労働環境で苦労した「第一世代」の女工さんたちが,田舎に帰りその娘が出稼ぎ適齢期になっているというのだ.
農村部と沿岸地区の生活格差が大きいとはいえ,そのころの農村部の生活と比べれば格段に改善されている.わずかばかりの仕送りに期待してかわいい娘を都会に送り出す母親はいないというわけだ.
これは一理ある.
わずかではあるが私の周りにいる地方出身の若者に聞いてみると,母親が以前都会に出稼ぎに来ていた人はいなかった.
報道やデータを鵜呑みにすると,間違った判断をしてしまう.
人々の「心」や「気持ち」を理解しなければ正しい判断はできないだろう.
このコラムは、2009年10月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第121号に掲載した記事に加筆したものです。
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