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神戸製鋼所データ改ざん

 一年近く前に発覚した神戸製鋼所の検査データ改ざん問題で、検察は企業に対し虚偽表示で起訴、検査責任者の品質部門長は不起訴処分となった。と毎日新聞が7月20日付で報道している。

東京地検特捜部と警視庁による捜索から1カ月余りで起訴するというスピード捜査となった。その背景は、欧米の司法が調査に乗り出そうとしているため、神戸製鋼所が社内データの海外流出を恐れ、早期決着のため地検・警視庁の捜査に全面協力したと毎日新聞は解説している。

昨年10月頃に神戸製鋼所、日産自動車で立て続けに発覚した検査データ捏造・改ざん問題をコラムに書いた。この事件により神戸製鋼所が顧客から信頼を失い、最悪倒産するという私の予測は外れたようだ。

神戸製鋼所データ改ざん問題

ちなみに株価総額は、問題発覚直後に2,900億円を割り込んでいたが、先週末現在3,700億円を超えている。

この事件の深層には「川上産業の傲慢」があるのではないかと感じている。顧客は不正があったとしても、他から調達ができなければ転注はできない。

深々と腰を曲げお詫びしながら、心の中では仕様通り生産するには値上げを顧客に呑ませねば、などと考えているのではなかろうかと邪推してしまう。

我々がこの事例から学べることがあるとすれば、神戸製鋼所を反面教師として

  • 工程能力指数を上げる努力をする。
  • 顧客との仕様取り決めを真摯に行う。

チェック機能として、受注判定会議の議事内容に「仕様の妥当性確認」を追加。ということになるだろうか。
(以上の検討は、事実関係に基づいたものではなく私個人の私見です)


このコラムは、2018年7月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第697号に掲載した記事に加筆しました。

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車両火災

 小田急小田原線の代々木八幡ー参宮橋間で9月10日に発生した車両火災事故に関して考えてみたい。経緯をまとめると以下の様になる。

  • 沿線のボクシングジムで火災発生。16時6分119番通報。
  • 消防士の要請により現場にいた警察官が踏切緊急停止ボタンを押す。16時11分。
  • 火災現場前に停止した車両の屋根に延焼。
  • 消防士の指示で列車が移動(ただし後部車両は火災現場前に残る)。16時19分。
  • 乗客の避難完了。16時42分。

幸いけが人はなかった様だが、過去には桜木町事故(1951年)、北陸トンネル事故(1972年)で車両火災事故があり多くの死傷者を出している。

桜木町事故は、車両扉の非常時開閉コックが乗客が操作しない事を前提に設計されており多くの人が車両外に避難出来ずに死亡した。この事故以降、非常開閉コックは乗客が操作する事を前提にし、改善された。

北陸トンネル事故は、火災発生時にトンネル内で停車したため消火活動、避難が困難となり多くの人が亡くなった。運転手は火災発生時には停車する様に運転マニュアルに定められていた。この事故以降、トンネル内、橋梁上で車両火災発生時には、速やかにトンネル、橋梁を抜けた後に停止する様マニュアル改訂が行われている。

今回の事故の最初の誤りは、踏切の非常停止ボタンを押してしまった事に有る、と言えそうだ。警察官は非常停止ボタンを押した場合、列車は自動停止する事を知らなかったのであろう。火災現場で停止すれば、列車に延焼する事は容易に推測出来る。

運転手は非常停止し前方の踏切を確認に行っている。この時、後部車両から火が出ているのを発見。消防士の指示で車両を移動。ただし後部車両は已然火災現場前にあった。消防士は列車の長さを把握せずに停車位置を指定したのだろう。この時に最後部にいた車掌は何をしていたのだろうか?火災現場が前方に見えており、車両に延焼した事も知れる位置にいたと思われる。

これだけの情報で何かを判断するのは無理だが、あえて私見を述べるならば、乗客の安全責任を持っている運転手、車掌の判断が何も入っていない事に問題が有ったと考える。警察、消防など非専門家の指示を鵜呑みにしてしまった。

運転手も車掌も規定通りの仕事をした様だが、「現場の判断」に基づいた仕事が出来なかった。マニュアルや規定は万全ではない。インシデントに直面している現場の裁量で判断しなければならない事もあるはずだ。

当然運転手も車掌も、その技能を認定され職位についているはずだ。
異常時の判断能力もその技能に含まれるべきだと考える。

例えば製造業では、作業訓練時に「正常作業」ばかりでなく「異常作業」も訓練すべきだ。例えば、ミリねじとインチねじを取り違えた時の作業感、ねじを斜行して締めてしまった場合の作業感を、体験訓練する事により異常に気が付く感性を養えるはずだ。

当然ミリねじとインチねじが混入している事が問題であり、混入防止対策が必要だ。しかし完全に防止する事が出来ないのであれば、作業者の気付きが最後の砦となる。

今回の車両火災事故も同様だ。
鉄道路線沿線の建築基準を変更すれば、事故は発生しなくなるかも知れない。しかし現実的ではないだろう。運転手、車掌に対して異常時対応訓練をする事で能力を上げる事が出来るだろう。当然マニュアルで規定された事を確認する訓練では不足だ。どのような潜在問題があるか、議論する所から訓練を始める。
この様な訓練を継続、蓄積する事により訓練内容は深化するだろう。

KYT(危険予知訓練)もこのような手順で進めれば、予測したインシデント以外にも潜在インシデントを蓄積する事が出来よう。


このコラムは、2017年9月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第568号に掲載した記事です。

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火災事故の本質

 先週先々週と思わぬ原因による、火災もしくは爆発事故についてコラムを書いた。

粉塵爆発
うどん屋火災

S様からこんなご感想をいただいた。

※S様のコメント

「火種がなければ火災は起きない」との思い込みがもたらした事故にも見えます。
「失敗」は水平展開することで「学び」になるのだと思いました。
「失敗に学んだのか」。社内でもよく聞く言葉ですが、「問題の本質は何か」まで掘り下げていかないと再発してしまうことを時々感じます。

コメントいただいた通り「本質」が重要だと思う。

火災事故の「本質」は
・酸素の存在
・可燃物の存在
・可燃物の発火温度以上の熱源(火種)
以上の3点が同じ場所、同じタイミングで揃うことだ。

そして酸素が十分に供給され続ければ、爆発事故になる。

「油の酸化熱」が火種となり、うどん屋火災事故が発生している。

1996年山梨厚生病院で発生した事故は、高気圧酸素治療装置内に使い捨てカイロを持ち込み爆発事故を起こした。
使い捨てカイロの発熱は鉄の酸化熱だ。高気圧酸素が満たされた治療装置内で酸化熱が火種となりアクリルの下着が、高気圧酸素下で爆発的に燃焼した事故だ。この事故の「本質」を社会が共有していれば、うどん屋の火災は発生していないはずだ。

1969年の飛行船ヒンデンブルク号爆発事故は静電気放電が火種となった。
水素を充填した飛行船はもはや見かけないが、静電気による事故は未だにある。

世の中の事故はほとんどが既知の原因による再発事故だ。

個別の事故原因・不良原因ではなく、事故の本質・不良の本質に目を向け対策をしなければならない。


このコラムは、2018年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第646号に掲載した記事です。

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天かす自然発火

うどん店全焼、天かす自然発火か 消防「保管に注意を

 福岡県嘉麻市のうどん店で7日未明、天かすの自然発火が原因とみられる火災が発生した。熱を持ったままの天かすは1カ所に集めて置いておくと、余熱で燃え出すことがある。消防や警察は、飲食店や家庭で天かすを扱う場合は十分注意するよう呼びかけている。

全文

朝日新聞より

この火災はは、天かすが自然発火した事が原因だ。
こういう記事を読んだ時に、ウチはうどん店ではないからと、安心すべきではない。

天かすが発火したメカニズムを考えると、天かす表面に残留した天ぷら油が酸化→酸化熱が発生→酸化熱がこもり温度上昇→天かすが発火、という事になる。ここでキーワードとなるのは「酸化による発熱」「熱がこもる」だ。これはうどん店でなくとも発生しうるメカニズムだ。

先週ご紹介した「粉塵爆発」は、アルミ材料の研磨工程でアルミの研磨粉が空気と一定の割合で混合され、火種があれば爆発する。
この場合のキーワードは「粉体と空気の混合比」「火種の存在」だ。
つまりアルミ粉がなくとも、木工の削り粉でも粉塵爆発が発生するし、静電気放電も火種になりうる。つまりアルミホイールの工場だけではなく、家具工場でも同様な事故は発生する。

失敗事例から未然防止対策を導くということは、上記の様に失敗の本質(キーワード)を抽出して対策を検討することだ。


このコラムは、2018年3月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第643号に掲載した記事です。

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続・未知の災害

 先週のメルマガで未知の災害であっても、他社、他業種、他業界から学ぶべきことがあり、未然防止が可能であると言う趣旨のコラムを書いた。その事例として、米国は9.11同時多発テロを紹介した。その後9.11同時多発テロに関する情報を見つけたので、今週は続編としてお伝えしたい。

米政府の原子力規制委員会(NRC)は同時多発テロの翌年2002年2月に「原子力施設に対する攻撃の可能性」に備えた特別の対策(通称B5b)を各原発に義務づけている。

  • 電源喪失
    交流電源と直流電源両方を同時に喪失する事態を想定。中央制御室を含むコントロール建屋の全滅も想定。
  • 原子炉内部の減圧
    持ち運び可能な直流電源で「逃し安全弁」を現場で開け閉めする方法の準備を義務づけている。
    バッテリーを運ぶ台車や、交流電源を直流に変換する整流器の準備も促す。
  • 原子炉の冷却
    直流電源や交流電源がない状態でも、IC(非常用復水器)やRCIC(原子炉隔離時冷却系)を手動で起動・運転する方法の文書化を義務づけている。
  • 格納容器ベント(排気)
    ベント弁を手動で開けるための準備を義務づけ。空気駆動の弁を開けるのに必要な物資は被災を避けるため少なくとも100yd(91m)離れた場所に保管するよう明記。

B5bが2002年に日本の原発にも適用されていれば、2011年の福島原発メルトダウンは防げただろう。

福島原発では、

  • 電源喪失
    交流電源の喪失しか想定していなかった。実際には交流・直流電源共に津波で水没した。
  • 原子炉内部の減圧
    「逃し安全弁」を開けるのに手間取り、炉内に水を注入するのが遅れた。
  • 原子炉の冷却
    電源喪失により監視盤が使えず、1号機のIC、2号機のRCICの作動状況を見誤り、対応を誤った疑いがある。
  • 格納容器ベント(排気)
    ベント弁を開ける準備がなく、格納容器内部のガスを外に放出して減圧するのが遅れた。

B5bには事細かく非常時に対する準備や手順の策定を規定している。
「テロ」と「自然災害」を置き換えて考えれば、B5bを導入出来たはずだ。


このコラムは、2018年4月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第658号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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未知の災害

 「失敗から学ぶ」ということは失敗事例から学び、事故や災害の未然対策をすることを目的としている。したがって未知の事例・災害には対処の方法がない、ということになってしまう。例えば2011年に発生した福島原発事故は、1000年に一度の大津波が原因であり全く想定外、事前の対策は不可能だった。本当にそうだろうか?

福島原発事故は、想定外の津波により全ての電源が水没したため電源の使用が不可能となり、炉心が冷却出来ずメルトダウンに至った。

原因が未知の事故・失敗はない、業界を超えて考えればほとんどの事故・失敗は既知の原因によるものである、とこのメルマガで書いてきた

2001年9月11日ワールドトレードセンター同時多発テロ事件発生後に、米国は原子力発電所に対してテロが行われることを想定して、対策を実施している。

津波が想定外であっても、全電源が使用不可能になることはありうる。しかもその事例は10年前にあったのだ。「津波」を「テロ」に置き換えて未然防止を考えるのが「失敗から学ぶ」ということだ。

世の中には多くの失敗事例がある。それをいかに自社の問題として捉え直す事が出来るか、というのが失敗から学ぶための極意だと思う。


このコラムは、2018年4月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第655号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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過去トラブルの再発

 「売家と唐様で書く三代目」という川柳がある。創業者は食うものも食わず、必死に働いて身代を築き上げる。二代目は父親の苦労を見ており、一生懸命に働く。しかし三代目ともなると、子供の頃から大店のお坊ちゃんとして不自由なく育てられる。教養だの芸事だのに精を出し、商売を省みない。その挙句に左前となり財産を失い自宅も売り払ってしまう。その自宅にかけられた「売家」の札が、唐様に格調高く書いてある、というオチだ。

いきなり川柳で始めたが、三代目が身代を潰す、というのが三世代隔てれば失敗を繰り返す、というのに類似していると思ったからだ。

以前このメルマガに「問題は再来する」というタイトルで、同様な信頼性問題が形を変えて5年、10年ほどの周期で再発していると書いた。

一つには、過去の失敗事例が次の世代に引き継がれていないという問題がある。組織内に失敗事例を継承する仕組みがなければ、大店の若旦那が先々代の苦労を知らないのと同じことになる。

例えば未燻蒸処理パレットに消毒液をかけられ、Al電解コンデンサの容量抜け事故が起きた事がある。これは過去の低直流抵抗電解液で封止ゴム腐食による容量抜け事故を知っていれば、想定できたかもしれない。

「薫蒸処理によるAlコンデンサの容量抜け」

「コピー製品」

もう一つは、時代の変化によって再発してしまう例だ。
例えば、ICの微細化に伴い、既知だった不良モードがクローズアップされる。
環境規制により、過去の問題が再発してしまうなどの例がある。

例えば錫ウィスカーは、錫メッキの残留応力がかかっている部分で発生する。これを防止するために少量の鉛を添加すれば良い事が知られていた。しかし環境問題で鉛の使用が禁止され再びウィスカー問題がクローズアップ。

プラスチック材料の難燃剤に使う赤燐が原因でしばしば火災事故が発生する。その対策に臭素を使う事で火災事故は激減した。しかし環境規制により臭素が使えなくなり、赤燐を使いLSIの焼損事故が多発した。

「トラブルは繰り返す」

「プラスチック材料の難燃剤」

いずれにせよ、このような事例は、失敗事例を継承しておけば再発を防ぐ事ができただろう。単純に知っているだけでは無理かもしれないが、原理に遡り、問題を抽象化すれば、次の世代に継承する事が出来るはずだ。


このコラムは、2018年8月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第712号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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問題は再来する

過去に発生した問題は再来する。その理由は二つある。

一番多いのが、問題が発生した真因を把握出来ていないために同じ問題が再来するケースだ。問題の真因が分からないまま流出原因にだけ対策を実施しても流出は発生する可能性が高い。

もう一つは、同じ問題が形を変えて再来するケースだ。例えば以前紹介した信頼性問題を考えてみよう。

高耐圧部品の発煙焼損事故。
1990年代に、CRTディスプレイ装置に使う高耐圧トランスの市場不良がしばしば発生した。25KVのアノード電圧を発生させるフライバックトランス(FBT)は、耐圧性能を上げるため、FBT内部にエポキシ樹脂を充填している。エポキシ樹脂は可燃性があるため、難燃性を上げるために赤燐を消炎剤として添加していた。この赤燐が吸湿するとコイルの絶縁皮膜を腐食させる。絶縁皮膜腐食によりコイルがレアショート、ショート部分が発熱し、最終的にはエポキシ樹脂から発煙しFBTが故障する。FBTの故障により、CRTディスプレイの表示が消えるだけではなく、エポキシ樹脂がこげた臭いがし、火災につながる重大事故として扱われる。

当時は、FBTメーカは消炎剤に赤燐を添加するのを止め、臭素系の消炎剤を採用する事により対策した。

しかし臭素は、環境問題の懸念があり、RoSH規制により使用が禁止された。FBTメーカは、臭素系の消炎剤が使えなくなり、赤燐を再使用する事になる。材料開発により、赤燐を防湿コーティングする事により使用可能にした。上記部分は私の推測だが、RoHS規制以降のFBTは難燃消炎剤に赤燐を採用している。

その後CTRを使用したディスプレイ装置は激減し、FBT焼損事故はほとんど話題になっていない。

しかし高耐圧性能を上げるためにエポキシ樹脂を使う部品は他にもあるだろう。同じ不良発生メカニズムが、形を変えて再来する可能性はある。市場で発生している事故は、原因は既知であっても、このように形を変えて事故が5年、10年の期間をおいて再発していると言ってよかろう。


このコラムは、2016年9月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第493号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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失敗が進歩をもたらす

 市場クレーム、顧客クレーム、工程内不良などの失敗が進歩をもたらす。
クレーム、不良はない方がいいに決まっている。しかしクレームも不良も全くないとどうだろう?

進歩を促す機会が得られないので、組織の成長が得られない。
他社事例から学ぶことができれば、それを「疑似失敗」として成長の糧とすることができるだろう。本コラムは世の中の失敗事例を自社の「疑似失敗」に活用するために、情報提供している。

しかし現実的には、他社の失敗事例を深く解析することは難しい。最近の日産自動車、神戸製鋼所などの事例も、外部の人間が本当の原因を知ることはないだろう。なぜなら「失敗の科学」の著者・マシュー・サイドが指摘する様に、「クローズド・ループ」な社会では、失敗やその原因は隠蔽される。

「失敗の科学」マシュー・サイド著

制御システムの設計者だった私には、マシュー・サイドのクローズド・ループ、オープン・ループの区別が逆の様に思えてならない。制御システム業界では、クローズド・ループは制御が効いている状態を指す。オープン・ループは制御が効いてない状態だ。マシュー・サイドは、情報がオープンとなっている状態をオープン・ループと呼んでいる。

マシュー・サイドが提唱するオープン・ループにより失敗を進歩に変換する事ができるはずだ。この様な失敗が進歩をもたらす組織を構築するためにはどうしたら良いだろう。「失敗から学ぶ」組織はどの様にしたらできるだろう。
今週はこんなことを考えてみた。

  1. 失敗を隠蔽しない組織文化。
     失敗に対して過度な叱責、懲罰を科す組織は失敗を隠蔽する。(既に公知となり、有効な対策があるにも関わらず、同じ失敗を繰り返す者は論外だが。)
    航空業界は第三者が事故原因の検証に入る。失敗を隠蔽する余地はない。
    医療業界は病院ぐるみで医療過誤を隠蔽する傾向がある。
    飛行機に乗るより医者にかかる方が危険だ。
  2. 失敗原因を究明する。
     失敗の真の原因が分からねば、有効な対策が打てない。失敗原因の分析力が不足していると、繰り返し問題は再発する。
  3. 失敗の原因分析・対策検討のプロセスを共有する。
     失敗を隠さず、真の原因を究明し、有効な対策を実施する。この情報を組織内で共有する。単純に「結果」を共有するのではない。その結果に至る考え方、検証方法などの「プロセス」を共有する。
    問題解決の「結果」(原因、対策)を共有すれば同様の問題に対する水平展開、新製品立ち上げ時の未然対策などが可能になる。しかしこれだけでは不十分だ。
    問題の原因をどのように分析し、どの様に対策を検討したかと言う問題解決のプロセスを共有する事が出来れば、次に発生する未知の問題にも対応可能になるはずだ。

このコラムは、2017年10月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第580号に掲載した記事に加筆しました。

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神戸製鋼所データ改ざん問題

 先週の雑感で日産の無資格検査と共に、神戸製鋼所の品質データ改ざん問題についてふれた。
日産不正検査

当初アルミ、銅製品だけの問題としていたが、鋼線、鉄粉などにも品質データ改ざんの問題が発覚。出荷先は自動車、航空機、原子力、電気電子などの業界に拡大し、データ改ざんした製品を出荷した先は500社に上る。

原発用鋼管は径寸を片側だけ測定し、反対側は適当な数値を記入していた。
パイプの作り方を想像すると、片側の径寸が正しければ反対側もわずかな誤差しかないだろう。最初の一本と最後の一本の径を測定しておけば、問題はないだろう。これが保証できるのであれば、顧客に提出する検査成績書には片側の寸法データの記入だけにすれば良いはずだ。これをきちんと顧客に説明せずに片側のデータを適当に記入するというのは、不正だけではなく、顧客に対する不遜だと思う。

強度測定値にも改ざんがあった。航空機、新幹線などに使われる部品の材料だ。
強度不足が人命に関わることもありうる。ユーザ側の設計余裕度を見越して高を括っていたのだろうか?

神戸製鋼所は何度もこの手の前科がある。
1999年11月:総会屋への利益供与
2006年5月:排煙の窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)データ改ざん
2008年6月:JISで定められた検査をせずに鋼材を出荷
2016年6月:バネ用鋼材の強度検査値改ざん
その都度反省し、内部統制を改善したはずだ。企業全体に隠蔽体質があると思わざるを得ない。

仏の顔も三度までという。今回の件で神戸製鋼所は無くなるのではないだろうか。
株価は先週末に年初来安値を更新し、株価総額は2,900億円を割った。もっと下がりそうな予感がする。外国企業に買われてしまうかもしれない。

本件に関して興味深いコラムを見つけた。
『神戸製鋼所も…名門企業が起こす不正の元凶は「世界一病」だ』

「世界一」であり続けることを義務付けられた組織が、本来の目的を忘れ世界一であり続けることが目的となる「病」に取り憑かれているという。筆者は、三菱自動車、東芝も「世界一病」と論評している。さらにその舌鋒は「世界一勤勉な日本人」にまで向かう(笑)

本来「世界一」であることは、顧客の評価によるものだ。したがって本来の目的は「顧客への貢献」であるはずだ。騙した相手から世界一の評価を得る事などできるはずはない。

私に言わせれば、顧客と取り交わした仕様の検査データを改ざん・捏造せざるを得ないような企業が「世界一」であるはずがない。本当に「世界一」ならば、生産した物は全て仕様規格に入っており、検査などしなくても良いはずだ。


このコラムは、2017年10月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第577号に掲載した記事に加筆しました。

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