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メルセデスベンツリコール

 メルセデス・ベンツ日本は7月8日、『Aクラス』など18車種について、ステアリングシャフトに不具合があるとして、国土交通省にリコール(回収・無償修理)を届け出た。

(中略)

対象車両は、ステアリングシャフトにおいて製造機器の使用が不適切なため、ユニバーサルジョイントのベアリングを圧入する穴径が大きいものがある。そのため、使用過程で操舵時に遊びが発生して異音が発生し、最悪の場合、ユニバーサルジョイントが脱落することで操舵不能になるおそれがある。

改善措置として、全車両、ステアリングシャフトのシリアル番号を点検し、交換が必要なものは良品に交換する。
不具合および事故は起きていない。ドイツ本社からの情報によりリコールを届け出た。

(全文)

(Responseより)

 記事には「ステアリングシャフトにおいて製造機器の使用が不適切なため」とあるが、単純にステアリングシャフトに穴を開ける際に間違ったドリルの刃を使用したのではなかろうか?単純なヒューマンエラーのように思える。

ドイツという国の印象から考えると、ありえない不良のように思える(笑)

多分そんな単純なヒューマンエラーではないのだろう。
例えば、作業開始時に初物検査で穴径を測定した。ドリルの刃が破損したので交換。このとき径の違うドリルの刃を選んでしまった。またはドリルのキレが悪くなったので、刃を研いだ。その時にそばにあった径の大きなドリルの刃と取り違えた。

「初物検査」は始業時にやる検査ではない。変化点における検査だ。
当然上記のような状況も変化点だ。この変化点でも「初物検査」を行うべきだ。


このコラムは、2021年7月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1162号に掲載した記事です。

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原因に対策

 「フランクル回想録・20世紀を生きて」という書籍に、田舎に引っ越した男が早朝の鶏の鳴き声で睡眠不足となる。男は鶏の餌に睡眠薬を混ぜて問題解決した。というエピソードが出ているらしい。

鶏の鳴き声がうるさくて睡眠不足(早朝に起きてしまう)問題の原因である鶏の鳴き声を除去する(時間をずらす)という意味では、秀逸な問題解決方法と言えるかもしれない。しかしこの対策の実施が許されるかどうかは微妙だ。

問題の原因をもっと広角でとらえる必要がある。原因には「田舎に引っ越した」も入るはずだ。これは自責なので対策は可能だろう。

また睡眠不足の原因は起床時刻だけではないはずだ。就寝時刻を早くすれば早朝に起床しても睡眠不足にはならない。鶏の鳴き声の時間をずらすのは問題かもしれないが、自分の睡眠時間帯をずらすのは何ら問題はない。

鶏の鳴き声が大きいのが睡眠不足の原因と定義すれば、防音が対策となる。防音装置が高額ならば耳栓でも良かろう(笑)

今回ご紹介した書籍「フランクル回想録・20世紀を生きて」は2011年11月の出版ですが、もう絶版になっているようです。著者は精神療法の創始者だそうです。しかし9年足らずで絶版になってしまうとは…


このコラムは、2020年10月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1045号に掲載した記事です。

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スイッチ接点不良

 タイホンダおよびホンダは7月8日、『レブル250』など8車種について、ヘッドライトが点かなくなるおそれがあるとして、リコール(回収・無償修理)を国土交通省へ届け出た。
対象となるのは(中略)8車種で、2014年3月19日~2021年4月28日に製造された4万3387台。
対象車両はハイビーム/ロービーム切換えスイッチの接点構造が不適切なため、はんだフラックスが接点表面に残留するものがある。そのため、そのまま使用を続けると、切換えスイッチが接触不良となり、最悪の場合、ヘッドライトが点かなくなるおそれがある。

改善措置として、全車両、対策品の切換えスイッチを組付けたウィンカスイッチアッセンブリと交換する。

不具合は104件発生、事故は起きていない。市場からの情報によりリコールを届け出た。

Responseより)

 「ハイビーム/ロービームの接点構造が不適切」としか表記されていないので何が問題なのか判断できない。普通に考えるとスイッチの端子はスイッチ筐体の外側にあり、筐体内側のスイッチ接点にフラックスが侵入するような構造になっていないはずだ。

半田付けによりフラックスがスイッチ内部の接点まで侵入するのであれば、部品選定時の評価不足と言わざるを得ない。

前職時代に新規部品登録委員会の主査をしていた。機構部品は分解して内部観察、スイッチ、コネクタ類は硫化水素による腐食試験を実施していた。ただ分解するだけでは何も判断できないかもしれないが、継続することによりどういう構造でフラックスの侵入を防いでいるのかわかるはずだ。

またこのような事故が、経験値を積み上げる。流石にどこのメーカのどの型番のスイッチかを公表はしないだろう。しかしその気になれば道はある(笑)

以前回収対象になっていたPC電源をジャンク屋を回って探した事がある。
手に入れたPC電源を分解し、中を調べてみたが原因は分からなかった。しかしこの話を他社の品質担当者にしたら、それはこういう不良なのだよ、とそっと教えてくれた。熱意があれば道は開けるものだ(笑)


このコラムは、2021年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1165号に掲載した記事です。

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大阪市の電車型おもちゃに不具合 電池が60度まで過熱

 大阪市交通局は22日、市営交通案内所などで販売していた電車型玩具「スルッとKANSAI どこでも電車 大阪市交通局66系」に、電源を切った状態でもコントローラー内の電池が60度近くまで過熱する不具合が見つかったと発表した。被害の報告はないという。
発売元の「スルッとKANSAI」は同種玩具5種類の販売を中止し、発売済みの商品については不具合があれば点検済みの商品との交換か返金に応じる。

この記事には原因が書いてないが、製造不良により電池を過放電させるような短絡路ができていたのであろう。

では何故この不良が見つからなかったのか?
電池で動作するこの製品の機能検査は、電池ではなくDC電源を使ったのではないだろうか?
DC電源ならば1A軽く流せても、電池にとっては厳しい値となる。

また検査に電池を使っていても機能検査が短時間ですんでしまえば、気がつかないこともありうる。

検査項目に消費電力を入れておけばこのような不良は発見可能になるはずだ。単純にDC電源に電流制限をかけておくだけでも良いだろう。

このようなよその製品の事故記事から、自社製品の不良未然防止対策を考える事が出来る。
このような事例を集めて自社製品用のFMEA(故障モード影響解析)の項目を充実してゆく事が出来る。

今回の事故の教訓は
「ショート事故は0Ωショートとは限らない」ということだろう。


このコラムは、2008年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第第48号に掲載した記事です。

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スイッチ接点不良

タイホンダおよびホンダは7月8日、『レブル250』など8車種について、ヘッドライトが点かなくなるおそれがあるとして、リコール(回収・無償修理)を国土交通省へ届け出た。

対象となるのは(中略)8車種で、2014年3月19日~2021年4月28日に製造された4万3387台。

対象車両はハイビーム/ロービーム切換えスイッチの接点構造が不適切なため、はんだフラックスが接点表面に残留するものがある。そのため、そのまま使用を続けると、切換えスイッチが接触不良となり、最悪の場合、ヘッドライトが点かなくなるおそれがある。

改善措置として、全車両、対策品の切換えスイッチを組付けたウィンカスイッチアッセンブリと交換する。

不具合は104件発生、事故は起きていない。市場からの情報によりリコールを届け出た。

Responseより)

 「ハイビーム/ロービームの接点構造が不適切」としか表記されていないので何が問題なのか判断できない。普通に考えるとスイッチの端子はスイッチ筐体の外側にあり、筐体内側のスイッチ接点にフラックスが侵入するような構造になっていないはずだ。

半田付けによりフラックスがスイッチ内部の接点まで侵入するのであれば、部品選定時の評価不足と言わざるを得ない。

前職時代に新規部品登録委員会の主査をしていた。機構部品は分解して内部観察、スイッチ、コネクタ類は硫化水素による腐食試験を実施していた。
ただ分解するだけでは何も判断できないかもしれないが、継続することによりどういう構造でフラックスの侵入を防いでいるのかわかるはずだ。

またこのような事故が、経験値を積み上げる。流石にどこのメーカのどの型番のスイッチかを公表はしないだろう。しかしその気になれば道はある(笑)

以前回収対象になっていたPC電源をジャンク屋を回って探した事がある。分解し、中を調べてみたが原因は分からなかった。しかしこの話を他社の品質担当者にしたら、それはこういう不良なのだよ、教えてくれた。熱意があれば道は開けるものだ(笑)


このコラムは、2021年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1165号に掲載した記事です。

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顧客満足

「顧客満足」という言葉が当たり前になっている。顧客とは次工程であり、その顧客の顧客も顧客だ。最終的には市場で製品を購入していただいた消費者も顧客である。次々と顧客満足を鎖の輪のように繋いでいくことで顧客満足のリンクが完成する。その顧客満足チェーンの一つのリンクが壊れても顧客満足は達成できなくなる。

今更当たり前のことを書いたが、実は信じられない最悪の事例を体験した。

顧客満足の反対は顧客不満足である。顧客満足は顧客満足チェーンの一つ一つの努力の上に成り立っている。しかし顧客不満足はそのチェーンの一つでも機能しなければ、すべてのチェーンの努力は水泡に帰す。

日本で購入したブルートゥース・イヤホンが故障したため近所の電気店でブルートゥース・イヤホンを購入した。有名ブランドの製品だが割引で格安になっていた。通勤時にオーディオブックやPodcast、ランニング中に音楽を聴くために使っている。音質に対する要求は高くない。要求はただ耐久性のみ。

しかし、一週間もしないうちに大音量の雑音を発して壊れた。
当然このような顧客不満足を解消するために初期不良品の無償交換を保証している。しかしこれは「顧客満足」ではなく「顧客不満の解消」でしかない。
もしアフターサービスを顧客満足に繋げようとするならば、顧客の使用状況を尋ね、故障原因を特定し、製品設計・製造方法の改善をしなければならない。

しかし不良品を工場に返却し代替え品を受け取っても、故障原因の報告はない。
まぁ、通常の消費者がそのようなことに興味を持っているとは思えないので、そこは許容範囲としなけらばならないだろう。しかし送られてきた交換品は充電もできないし、最初のペアリングもできない不良品だった。

返却の際に取扱説明書を同梱するのを忘れたら、代替え品には、丁寧にも、取扱説明書は添付されていなかった。わざわざ取説を取り除き代替え品を発送したとしか思えない。

今回の事例で「顧客不満の解消」どころか「顧客不満の増長」となり、結果として「ブランド不信」という最悪の結果となった。

正しいクレーム対応で「顧客不満の解消」だけでなく「顧客支持」が得られた事例もある。

相次ぐ異物混入、マック謝罪 経営不振に追い打ち

消えたペヤング 虫1匹に払う数十億円の代償

少なくとも今回の事例で、私は今回購入したブルートゥース・イヤホンメーカの製品は二度と買うことはないだろう。


このコラムは、2021年8月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1176号に掲載した記事です。

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デンソー燃料ポンプ

 低圧燃料ポンプのインペラ(樹脂製羽根車)において、成形条件が不適切なため、樹脂密度が低くなって、燃料により膨潤して変形することがあります。そのため、インペラがポンプケースと接触して燃料ポンプが作動不良となり、最悪の場合、走行中エンストに至るおそれがあります。

(トヨタホームページ・リコール情報より)

 トヨタ車に使われたデンソー製・燃料ポンプ内部のインペラに不具合があり、リコールとなっている。

ガソリンポンプ部品に樹脂が使われていると知り驚いた。プラスチック部品のソルベントクラックを引き起こす筆頭がガソリンだと思っていた。ガソリンタンクは金属製だと思っていたが、調べてみるとプラスチック製もある。

当然燃料ポンプのインペラの材料もガソリンに対する耐性を持っている。インペラには、ガラス繊維やタルク(ケイ酸マグネシウム)を含有した強化・ポリフェニレンスルフィド(PPS)だということだ。
成形時の金型の温度が低いと結晶化度が低くなり、樹脂(PPS)の密度が低下。PPSの内部に生じた隙間にガソリンが侵入してインペラが膨潤した。膨潤変形したためインペラが回転しなくなる。というメカニズムのようだ。

金属製インペラならば、プレス加工で簡単に作れるはずだ。それでも樹脂製にするメリットがあったのだろう。

リスクのある技術を製品に応用する際には、事前に十分な検討により未然防止を仕掛けておくべきだろう。

統計的ばらつき:材料のばらつき、設備のばらつき、作業のばらつきなど依存的事象:成型条件(温度、圧力、時間)作業方法など

これの検討によりリスク要因が常に管理範囲となるよう仕組み仕掛けを用意すべきだろう。
この事例は「成型温度の管理が不十分だった」という学びだ。


このコラムは、2020年11月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1054号に掲載した記事です。

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三菱の洗濯機に発煙・発火の恐れ 6万9千台無料修理へ

 三菱電機は21日、99年7月に発売した全自動洗濯機計6万9166台で、パネルのスイッチ部分から発煙・発火の恐れがあるとして、無料で部品を交換すると発表した。対象製品は「MAW―V7QP」と「MAW―V8QP」の2シリーズで、00年7月まで製造した。

 昨年8月と10月、運転中にスイッチ部分から発煙、発火する事故が1件ずつあった。制御基板の設計に問題があり、コンデンサーの劣化で発煙・発火する場合があることが分かったという。

(アサヒ・コムより)

 こういうニュースを見ると『元エンジニア』の好奇心が疼き始める。

コンデンサの事故というと、四級塩電解液を使ったコンデンサの液漏れ水系電解液による寿命問題が思い出される。

しかし今回の事故は、これらの問題とは微妙に時期がずれている。

モータの進相コンデンサの寿命による扇風機、洗濯機の事故も最近報告されている。
しかし今回の不具合はスイッチパネル近辺からの発煙なので、この問題でもなさそうだ。

こんな故障発生メカニズムを推定してみたがどうだろうか。
スイッチパネル部分の電源の安定化のために入れられた電解コンデンサが劣化、リップル電流が増加、リップル電流によりコンデンサが発熱、更に電解コンデンサが劣化。

スイッチパネル程度の消費電力でこの様な不具合が発生するかどうかちょっと疑問である。やはり現物を見ないことには本当の原因は見えてこない。

この様に回収事故の記事からあれこれ考えるのは単なる「野次馬精神」ではない。同様な事故を未然に防ぐために必要な事だ。失敗事例を未然防止ができる程度まで、詳細原因を社会が共有できればこの様な回収事故はもっと減ると思うのだが。


このコラムは、2008年2月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第21号に掲載した記事です。

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不具合事例から未然防止

 「不具合事例から未然防止」が、私の長年のテーマだ。
開発のエンジニアだった頃からだから、既に20年余りこのテーマを考えている。
このメルマガの「ニュースから」「失敗から学ぶ」のコラムも、他社事例から未然防止を考えるきっかけになればと思い書いている。

30代だった頃は、ひたすら不具合事例を暗黙智として、溜め込んでいた。
役職が付き、部下を預かるようになってから、暗黙智を形式智にに置き換え、いかにして部下に伝えるかを考えるようになった。

当時はチェックシートを作り、類似の問題がないことを確認するようにしていたが、形だけの形式智であり、自分自身の暗黙智の領域を出ていなかったように思う。

その後品質保証部を担当することとなり、「不具合事例から未然防止」はテーマと言うより、課題として取り組むことになる。
事例を理解し、応用できるように「不具合事例集」を作った。つまり具体的に不具合事例、原因、対策を記録し、そこから導かれる「教訓」を抽象化して抽出するようにした。

例えば、外部から購入しているOEM製品のネジの頭がポロリと取れてしまう不具合が発見されると、発生の経緯、不具合のメカニズム、不具合の発生原因、対策を統一フォーマットに書く。
そして其々を一度抽象化し後に、キーワードとして検索できるようにする。

「ネジ頭ポロリ」に関して言えば、不具合現象は、ネジをメッキした時に残留した水素による、水素脆性破壊現象。原因はメッキ後のアニール工程を飛ばしてしまったことだ。

この事例に「水素脆性破壊」「熱処理」「工程飛ばし」などのインデックスを付けておく。
このデータベースを、新規の不具合に出遭った時や、新製品のレビューの時などに活用する。

以前紹介した「失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する」の中尾教授が提唱しているように、失敗を上位概念に上げて失敗ライブラリーを作る。失敗ライブラリーの事例を下位概念に下ろし、現実問題への応用をする。
と言う考え方と同じだ。

中尾教授は「つまり」が上位概念への上昇であり、「例えば」が下位概念への下降であると喩えている。

しかし、当時作った不具合事例集は余り活用されることはなかった。

原因のひとつは、検索のコンピュータ支援が不十分だったことと考えている。
当時データは、紙に印刷しファイルキャビネットにしまってあった。
これでは検索は困難だ。

これはIT技術の進歩により解決可能だ。
個人のPCにあった事例集原稿を、サーバにおき、検索可能にしておく。
ありがたい事に、殆ど無料でこういうシステムを作り上げることが出来る。

もうひとつの理由は、キーワードに対する事例が不足していたことだろう。
「水素脆性破壊」などと言うキーワードで検索しても、「ネジ頭ポロリ」しか出てこない。と言うより「水素脆性破壊」で検索することが二度となかった。

周辺装置と言う広い分野で収集した、わずかなデータではこうなってしまうだろう。「失敗百選」のようなパブリックデータベースも活用すれば、改善できそうだ。

しかし分野を絞れば、かなり役に立つ。
設計不良も、工程不良も抽象化すれば、殆どが「再発問題」であり、原因はそれほど多岐にわたるモノではない。

むしろ問題なのは、事例集を活用する側の問題だ。
いくら立派なナレッジデータベースがあっても、それが活用されなければ意味がない。未然防止と言う立場から考えれば、設計レビュー、新製品試作レビューで、活用されるのが良いだろう。

前職時代には、レビューは開催者からの一方的な「儀式」だったが、事例集によるレビューを持ち込み、うるさい品証オヤジとして恐れられていた(笑)

最近は、このナレッジをFMEA(故障モード影響解析)に入れ込んでしまうのが良いと考えている。

【参考文献】
「失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する」中尾 政之
これだけの事例を収集整理された中尾教授の業績に感服する。

「失敗の予防学 人は、なぜ“同じ間違い”を繰り返すのか」中尾 政之
磁性体のバラツキ不良を調べて、磁性体薄膜形成のコストダウン。
こういう事例を読むのが楽しみだ。残念ながら販売終了。古本のみ。

「失敗に学ぶものづくり」畑村 洋太郎
この本も既に販売終了。
私はアマゾンの古本を注文した。

「失敗学のすすめ」畑村 洋太郎
「失敗学」を世に送り出した本。14万部売れ、畑村氏を「失敗学の教祖」とした。畑村氏は中尾教授の元上司。
この本も販売終了。しかし文庫版が出ている。

防錆塗装不良

 本日の失敗事例は「失敗百選」から選んだ。

「失敗百選」中尾政之著

ショックアブソーバに使うコイルスブリングの防錆塗装の前洗浄工程にて排水ポンプが故障。そのため新しい洗浄水が供給されず、コイルスプリングから脱落した不純物が洗浄槽に堆積。コイルスプリングに不純物が付着したまま防錆塗装。不純物付着箇所より錆が発生。腐食箇所が破断。約1000台をリコール。という事例だ。

防錆塗装完了後の目視検査を行なっていたが、コイルスプリングの上部しか検査しておらず発見できなかった。洗浄水に浮いている異物であれば、洗浄槽から引き上げるときに異物が付着するはずだ。その様な想定で上部のみ検査をしていたのだろう。しかし付着異物はコイルスプリング成型時に発生する金属粉であり、洗浄層に沈殿しておりコイルスプリングの下部に付着したようだ。

この事例から学ぶべきことを考えてみよう。

排水ポンプの故障に2ヶ月間気がつかなかったそうだ。設備点検の方法に問題があったと思われる。

外観検査基準は適切だったとは思えない。洗浄層に溜まるのはその前工程で発生する物と容易に推定できる。加工時に発生する金属粉は底に沈むはずだ。多分洗浄・乾燥後ワークをハンガーから取り外す作業と同時に目視検査をしたのだろう。ワークを置く方向を変えれば、簡単に上部と下部の検査ができる。

この2ヶ月間に不良の増加など全くなかったのだろうか?
外観検査不良は簡単に処理されてしまう傾向があるように思える。例えば簡単に手直しできる不良は、検査員が手直しをして合格品として扱う事もありうる。

今回の事例を汎用化すると

  • 設備故障を確実に捕捉できる点検方法になっているか。
  • 製品検査はその工程で発生しうる不良を全て捕捉できるか。

またリコールによって得た該当品の異物付着率や、腐食具合などをきちっとデータ化しておけば得がたいノウハウとなるはずだ。