コラム」カテゴリーアーカイブ

活動の定着

 先週はカイゼン活動について書いた。
カイゼン活動もトップが指導して始めると、最初の頃は成果が出始めるのだが、なかなか継続して成果を出し続けるのが難しい。

特に5S活動のように継続そのものに意味があるような活動では、尻すぼみ現象は痛い。

ではなぜ活動が継続しないのであろうか?

それは活動の「目的」と「目標」をきちんと明示していないからだと考えている。
例えば「清掃」の目的、目標はきちんと従業員が理解しているだろうか。
どのくらい綺麗になるまで清掃をしなければならないか基準は明確だろうか?

何をしなければならないか(What)だけを伝えても不十分だ。
何故しなければならないか(Why)と何処までしなければならないか(Goal)を同時に伝えなければならない。

「Why」と「Goal」を共有することにより、メンバーの取り組む意欲がわいてくる。何事もメンバーを「その気」にさせないとうまくは行かない。


このコラムは、2008年6月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第40号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

旅客機滑走路逸脱事故

 4月23日に山形空港で名古屋行きフジドリームエアラインズ(FDA)386便が離陸時に滑走路を逸脱した事故があった。
運輸安全委員会の調査結果が報道されている。

「滑走路逸脱のFDA機、車輪操作装置に不具合 山形空港」

 山形空港で4月、フジドリームエアラインズ(FDA)の旅客機が離陸走行中に滑走路を逸脱した重大インシデントで、国の運輸安全委員会は28日、旅客機の車輪を操作するステアリング装置の一部に不具合が見つかったと明らかにした。

 FDAの聞き取りでも、機長は「機体が左にそれたので戻そうとしたが、(車輪を操作する)フットペダルを踏んでも戻らなかった」などと話していた。原因を特定するため、運輸安全委は飛行データや機体を詳細に調べるという。

 インシデントがあったのは4月23日夕。名古屋行きのエンブラエル175型機(乗客・乗員計64人)が離陸走行中、全長2千メートルの滑走路の途中で左にそれて草地で止まった。けが人はいなかった。運輸安全委によると、直後の初期調査でステアリングの不具合が見つかったという。

朝日新聞 DIGITALより

事故機はエンブラエル社製ERJ175。エンブラエル社(ブラジル)はあまり耳にしないが、エアバス、ボーイングに次ぐ世界第3位の航空機メーカだ。カナダのボンバルディアより売り上げ規模が大きいらしい。

実はERJ175より一回り小さいERJ145を、広西省出張時にしばしば利用した。
左1列、右2列という変則的な座席レイアウト。搭乗ドアがタラップになっており、ボーディングブリッジには接続できず沖スポからの搭乗。ひょいと離陸する軽やかさなど印象のある機体だった。

事故機は2016年6月製造、2019年1月に「重整備」が行われている。おそらく何も問題はなかったのだろう。

記事にある「旅客機の車輪を操作するステアリング装置」とは航行中方向舵を操作するフットペダルだ。地上でタキシングする際には前輪の向きを変える役割を持つ。

ここまでの情報で大胆にも「素人考え」で事故原因を推測してみた(笑)

事故機は駐機位置から誘導路を通って滑走路までタクシング出来た。従って離陸開始までは前輪操舵機能には問題がなかったはずだ。
離陸後はフットペダルは方向舵の制御に使う。離陸後のタイミングで、手動または自動で前輪/方向舵の制御が切り替わるはずだ。

離陸開始後から離陸前にこの切り替わりが発生すれば、前輪の方向を制御しようとフットペダルを操作しても、虚しく方向舵の角度が変化するだけとなる。

従って今回の事故は、前輪/方向舵の切り替えに何らかの人為ミスまたは故障があったと推定する。

多分新聞記事になった時点(5月28日)で、事故調査官はすでに答えを知っているだろう。本当の事故原因はわからないし、今後公表されないかも知れない。それでも、原因を考えてみるのは「頭の体操」だけではない。

今回の事例では「モード切り替え」「タイミング」がキーワードとなる。

  • モード切り替えができない。
  • 予期せぬタイミングでモード切り替えが発生する。

という潜在要因の引き出しが増えるはずだ。
これは自社の製品設計、工程設計の時の潜在不具合要因となる。
同様に問題原因解析時に挙げることができる問題要因が豊富になる。


このコラムは、2019年6月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第832号に掲載した記事です。

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新技術には新ルール

 私が幼少の頃、母方の祖父が亡くなった時は電報で連絡が来た。今の若者で「ウナ電」という言葉の意味を知っている人はいないだろう。
電報どころか葉書を出す機会もほとんどなくなった。

私が学生の頃はコンピュータといえば工学部の計算機室に控えており、利用者はパンチカードを持って利用しに行った。

学会に参加した時に京都大学(だったと思う)の人が、インテル8080を使って実験データを実験中にその場で処理した、という発表を聞いた。

東京の企業に転職し、DECのミニコンで開発しているのを目の当たりにした。
地方都市の零細企業との差を実感したが、ミニコンのプログラム開発がラインエディタで行われているのに驚いた。当時からAPPLEはスクリーンエディタが使えた。

技術が進歩すれば、ルールも変わる。
通信技術の進歩により、電報は電話になり、手紙はメールとなる。
さらにコンピュータ処理はオンデマンドが当たり前となり、電車の乗車券は電子決済となった。

新しい技術には新しいルールを適用しなければならない。
コンピュータの活用は、バッチ処理からオンデマンドになった。つい最近まで発注伝票の処理が毎週末にバッチ処理するルールになっている企業があった。この企業に納品する会社は、週末に納品しに行ったら発注キャンセルと知らされ翌週月曜日に納期変更の伝票が届く、と愚痴をこぼしていた。

またMRPシステムを導入したが、一向に部品欠品や余剰が解決しない。原因を調べてみると、MRP導入後在庫管理を従来と同様に月に一回しか実施していないことが原因と判明した。MRPがあれば、棚卸しをしなくても在庫数量は正確に分かる。入出庫のたびに在庫確認ができるはずだ。


このコラムは、2021年3月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1107号に掲載した記事です。

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シンプルに考える

 「物事はシンプルである」エリヤフ・ゴールドラット博士の「ザ・チョイス」の根底にある考え方だ。

例えばパン屋さんは閉店時間が近づいて、売れ残りそうなパンばあれば値引きして売り切ろうと考える。逆に閉店前に売り切れてしまえば、販売チャンスを失う。
したがってパン屋の経営者は、「売れ残りがない」「売り切れがない」と、相反する目標を達成するために知恵を絞る。

顧客の需要が正確にわかれば、それに合わせて仕入れをすれば良い。
例えば地域全体のパンの需要動向が日々わかっていれば、連動させ仕入れ数を決めればいい。しかしそのような統計データはないだろう。日本全体の需要量、季節変動、曜日ごとの変動などがわかれば、予測はできるかもしれない。しかしそのデータは、明日自分のパン屋で売れるパンの数ではない。

パン業界という大きな塊で考えれば、需要予測はつくだろう。しかしその中の小さなパン屋では、変動要因が複雑でバラツキが大きくなる。実用的な予測は不可能だろう。

この問題はパン屋一軒ごとの問題ではない。パン屋は売れ残りを嫌って仕入れを少なめにする。多くのパン屋に出荷している製パン工場にとってみれば、大きな販売機会の損失となる。

売れ残った商品を割り引いて引き取る。という対策を製パン工場は考えた。
同業者も真似をし、割引率の引き上げという不毛な競争に陥った。

ここで「需要の予測は不可能である」とシンプルに考える。
製パン工場は1日一回だった出荷を、朝と昼の二回に変更した。
パン屋は午前中の売れ行きを見て午後の注文を確定する。午前中に売れ切れた場合は「お昼に用意しておきます」と顧客に言うことができる。顧客は親切なパン屋だと誤解(笑)するだろう。

顧客満足→パン屋の繁盛→製パン工場の業績向上の連鎖が完成する。

「顧客需要の予測」という恐ろしく複雑なことを「顧客需要は予測不可能だ。ではどうすればいいか」とシンプルに考える。

障害は時として、競合他社との競争に打ち勝つ障壁となる。


このコラムは、2021年3月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1115号に掲載した記事です。

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検証力

 このメールマガジンの読者様の大部分は、製造業に関わる方だと思う。工程内や市場で発生する不具合の解析をされたご経験も多いだろうと思う。

現在進行中のQCC道場でも何チームかが工程内不良、客先不良の低減をテーマに取り組んでいる。工程ごとの検査がない製品や、客先・市場で発生した不良はどの工程に問題があるのかを特定するのが難しくなる。

工程ごとに検査をして次工程に送る製品であれば、どの工程でどんな不良が発生するかがわかり、原因の特定も容易になる。しかし工程ごとの検査がないまたは抜き取り検査で次工程への移行を判定するような製品だと、手がかりとなるデータがない。

客先発生の不良も同様の手がかりが得られるが、市場不良の場合はさらに最終顧客の環境ファクター(取り扱い方法も含む)も加わるため、より手がかりが少なくなる。わずかな痕跡から真因を推定することになる。

いずれの場合にせよ、推定した原因が正しいことを検証しなければ正しい原因推定とならず、対策しても再発することになる。

例えば金属加工製品で、顧客工場でバリがある製品が見つかる。従来抜き取り検査で済んでいたものが全数検査、しかも検査部門の検査を要求される。
こうなると、不良品のロスだけではなく、検査費用もロスとなる。しかも発生頻度が少ない不良であれば、検査見逃しのリスクもある。全数検査の上で流出したら、一気に顧客の信頼を失うことになる。

バリ発生のメカニズムを特定できれば、改善は容易だ。バリが発生する要因を列挙し、各々の要因で再現試験をしてみる。

例えば金型をプレス機に組み込む精度でバリが発生すると仮定する。
X,Y,Z軸方向、垂直方向の角度、水平方向の角度などわざと振ってみる。もちろん生産できない(金型が破損する)レベルまで振る必要はない。

どのパラメータの変動が不良率の増減に影響があるかを突き止めれば、厳しく管理しなければならないパラメータが分かるはずだ。


このコラムは、2021年5月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1134号に掲載した記事です。

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作業手順の設計

 中国のコロナ感染もひと段落したと感じていたが、広州で感染者が発見され、ついで佛山、深センでも感染者が出た。広東省では一気に厳戒態勢に戻り、全住民の一斉PCR検査を開始した。

私が住んでいる小区(日本で言えば町内会?)でもPCR検査を受けるよう指示がでた。小区指定のPCR検査会場に行ってみると、大勢の人が検査会場の外まで行列しており、恐れをなして引き返した(笑)

代わりに事務所の近所にある会場に行くと受診者は大勢いるが、検査員が多いため行列は粛々とはけている。

PCR検査の手順は以下のとおり。

  1. 個人情報をスマホに入力する。(事前に広報されている方法に従って個人情報などを入力、スマホ画面に二次元バーコードが出るように準備する)
  2. 列に並ぶ
  3. 列ごとに係員が10名単位に分ける
  4. スマホの個人情報を係員がスキャン
  5. 喉の奥に綿棒を突っ込み検体を採取
  6. 検体の入った試験管と個人情報を紐づける
  7. 検査センターで検体を検査要請・陰性を判定
  8. 結果をデータ入力すると各個人のスマホ画面に結果が表示される

7.8.はさらに詳細手順が決められていると思われるが、我々には窺い知るすべはない。

手順を決めておかないと、大規模検査で混乱が発生するだろう。(日本ではワクチン摂取の予約段階で混乱が発生したと聞いている)

1000万人ほどの人を対象として3日間で検査をする。きちんと手順を決めておかねば大混乱するはずだ。ほぼ完璧な手順のように見えたが、現場を見ると大きなリスクが残っていた。私が並んだ列の係員は検体採取作業者の側で個人情報の確認をしないで、次の十人を並ばせた時点で個人情報のスキャンを完了してしまった。

そのため列の順番が入れ替わる、傍から人が入ってくる、などの事態が発生すると、検体と個人情報の紐付けが狂ってしまう。現に私の横の列にでは、柵外から入ってきた人が列に割り込んでいた(苦笑)

別の大規模会場の動画を見るとほぼ同じ手順で行われていた。しかし別の会場では個人情報のスキャンは検体採取の直前に行われており、検体と個人情報の整合性は保たれているように見える。

多分大筋の手順設計者は横入りや、順番の入れ替わりが起きることを想定していなかったのだろう。この場合現場の作業管理者、実作業者が気がつかねばならないのかもしれない。作業指示だけでは気がつかないだろう。その作業の意味を現場に伝えなければならない。

このような観点で、工場での作業手順書を見直してみる価値があるだろう。


このコラムは、2021年6月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1150号に掲載した記事です。

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悪い情報

 悪い情報は良い情報より伝わりやすい。
「□□不良が発生した」という情報は「□□不良の対策を実施した」という情報より伝わりやすい。

恣意的に悪い情報を隠蔽しても漏れ伝わる。
同じ職場、同じチーム内ならば良い情報は盛り上がり、共有されやすい。しかし他所の情報は良い情報より悪い情報の方が伝わりやすい。

重要なのは「伝わりやすい」ということより「共有されやすい」ということだ。不都合な情報が共有できれば、その対策を多くの視点で考えることができる。

そしてゆっくりした変化より、早い変化の方が伝わりやすい。

例えば「毎日1%ずつ悪化している」という情報より「70日で2倍に悪化した」という情報の方が伝わりやすい。どちらも毎日1%の悪化は同じだが、70日で2倍に悪化の方が急激な変化に見える。

急激に悪い変化が発生しているという情報を共有できれば、問題意識も高まるだろう。


このコラムは、2022年2月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1257号に掲載した記事です。

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ノートPCバッテリーパックリコール

 エプソンダイレクト株式会社が2008年10月から2010年7月まで販売したノートパソコン「Endeavor NJ3100」に搭載したバッテリーパックの一部製造ロットにおいて、製造上の不具合があり、発火に至る可能性があることが判明いたしました。
 このため、弊社は、当該特定ロットのバッテリーパックの無償交換(リコール)を実施いたします。 交換対象のバッテリーパックが搭載されたノートパソコンをお使いのお客様は、交換が完了するまでの間、バッテリーパックをはずし、ACアダプターを接続した状態でご使用いただきますようお願いいたします。

 ご愛用の皆様には、大変なご迷惑をおかけいたしますことを謹んでお詫び申し上げます。 今後、品質向上・管理に一層努力を重ねてまいりますので、何卒ご理解・ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

(エプソンダイレクトホームページより)

 このリコールの説明は非常に明確だ。
エプソン製品登録ユーザへのメールによると、

  • 原因および想定される事故内容
    2008年11月から2009年1月に製造されたバッテリーパックの一部において、
    バッテリーパック内部の制御基板製造時に部品実装の誤りがありました。
    このため、制御基板において異常状態を検出した際に保護機能が正常に機能
    せず、制御基板が発火し、火災に至ります。
  • 対象バッテリーパック
    エプソンダイレクト製ノートパソコンEndeavor NJ3100に搭載された特定
    ロットのバッテリーパックが該当します。
  • 【機種名】
    ノートパソコン Endeavor NJ3100
  • 【交換対象となるバッテリーパックの製造ロット番号】
    847 / 851 / 902 / 903 (対象数 2,009個)

となっている。

ここから推定すると、バッテリー内部に入っている回路(たぶん保護回路)に使用している部品が間違っていた。そしてその対象が2009個となっているので、間違った部品はSMT部品であり、生産中にマウンターマシンに補充したSMT部品1リール分が間違っていたのであろう。

2009個とは半端ではないかと、思われる読者様もあるだろう。
通常1リールに2000個の部品が入っていることになっているが、実際には少しおまけしてあるものだ。そしてこのおまけの数量は、必ずしも同じではない。

以前ツェナーダイオードの誤納入があった。箱の中に間違ったツェナー電圧の部品が入って納入されたのだ。この時は、箱の中に入ったおまけの部品が何個あったかを特定するのに、四苦八苦した。

部品の生産投入は先入れ先出しをしている。マウンターに部品を補充するたびに部品のロットナンバーを生産記録として控えてある。頭で考えるとピタッと不良対象台数を割り出せると思うであろう。しかし現実はそうは甘くない(笑)

使用した部品の外箱に書いてあるデートコードは、何箱も同じ日の生産になっている。仕様書に2000個入りと書いてあっても、おまけが入っていることがある。

往々にして現場は、理屈どおりでは割り切れずに、泥臭いことをしなければならないものだ。今回のリーコールの記事に対象が2009台と書いてあるのを見て、現場の品証エンジニアの泥臭い奮闘を見る思いがした。


このコラムは、2010年10月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第175号に掲載した記事です。

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初代iPodナノ、過熱のけが4人に なおリコールせず

 米アップル製の携帯デジタルプレーヤー「iPodナノ」の初代モデルが充電中に過熱・焼損する問題で、消費者庁は27日、新たな事故が起きてユーザー1人がやけどをしたと発表した。これで事故は27件目、負傷者は計4人になった。経済産業省はリコール(回収・無償修理)するよう再三求めているが、同社は応じていない。

 問題のモデルは「MA004J/A」「MA005J/A」「MA099J/A」「MA107J/A」の4機種で、2006年9月までの1年間に計181万2千台が販売された。これらの一部のバッテリーは製造不良があり、充電中に最高約200度まで過熱する恐れがある。

 消費者庁によると、新たな事故は今月13日、東京都で起きた。充電中に製品から火花が出て破裂音がし、ユーザーが製品に触れた際に指先にやけどを負ったという。

 事故は07年11月から起きており、うち6件は消防機関から火災と認定されている。しかし、同社はリコールという自主的な対応はとらず、実際に過熱などが起きて顧客窓口(0120・27753・5)に連絡してきた人に限り、バッテリー交換に応じている。同社広報部はその理由について、これまでの取材に対しては「重大な人的被害や物的損害は報告されていない」と説明してきた。この日は「対応できる者がいない」としてコメントしなかった。

 経産省製品安全課は「アップル社の対応は十分でないと考えており、注意喚起のやり方も含めて積極的な対応を促していく」と話している。

(asahi.comより)

 アップル社の対応が理解できない。
火傷、火災の危険性があれば、社告、回収修理をするのが常識だ。

アップルのホームページには以下の告知がされている。

弊社は、ごくまれなケースとして2005年9月から2006年12月に販売された第1世代 iPod nanoのバッテリーが過熱を起こし、使用ができなくなったり、変形していることを確認しました。弊社はこのような事故の報告を何件か受けており(すべて第1世代iPod nanoであり、0.001パーセント未満です)、これらは一つのバッテリー・サプライヤーからの供給であることを特定しています。これまで、重大な人的被害や物的損害は報告されておらず、また他のiPod nanoのモデルについてはこうした報告はまったく受けていません。

第1世代のiPod nanoをお使いでバッテリー過熱を感じられたお客さまは、AppleCare(顧客窓口)にて交換いたしますので、ご連絡をお願いいたします。
 また、他の第1世代iPod nanoをお使いのお客さまで少しでもご不安を感じられた方も、AppleCareにご連絡ください。

回収はしないが、交換修理をする。というスタンスだ。

事故発生率が0.001%(10ppm)未満であると言っているが、安全事故の場合は事故発生率はゼロでなければならない。

また事故が製品出荷開始後2年目から始まっている。
事故が「寿命故障モード」で発生している可能性がある。この場合現在の事故発生率は余り重要な意味を持たない。事故発生率は徐々に高くなるはずだ。

iPodの様なコンシューマ製品は、2、3年で使わなくなる。
私は未だに第二世代のiPodを使っているが、そのような消費者は少数派だろう。5年前の製品の回収を告知しても、ほとんど戻って来ないのが実情だろう。

大事になる前に、回収告知をしてしまった方が、良い結果につながるはずだ。

iPodは、簡単には電池を交換できない構造となっている。
新しいiPhoneは内部電池が接着剤で固定されていると、聞いている。同様に初代iPod nanoの電池が交換不可能な実装形態だとすると、本体ごと新品交換をしているはずだ。この場合、既に初代iPod nanoの生産は終了しているので、完成品在庫の数だけしか対応が出来ない。これがアップル社が自主回収を拒んでいる真の原因なのではないだろうか。

過去の製品でも、月産100台でも、生産可能ならば、アップルのピンチを救い、自らの成長のチャンスとすることが出来る。大量にモノを作るだけではなく、この様なモノ造りが出来る企業に、今後成長のチャンスがあると考えているが、いかがだろうか。


このコラムは、2010年8月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第164号に掲載した記事です。

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部品からの異音

 先週の「信頼性不良問題」の記事に関して読者様からメールをいただいた。

<T様のメッセージ>
以前テレビの修理をしていたころは、フライバックトランスから高圧が漏れていて、お客さんら変な音がするという指摘が、あり、良くフライバック交換をしていました。

T様、メッセージありがとうございます。

フライバックトランス高圧部と外部の筐体間で強い電界ができている。
何らかの理由でフライバックトランスの絶縁が低下していると、ジリジリという小さな放電音が聞こえてしまうことがある。

TV受像機の場合は音声も出ているので気がつかないこともある。しかしモニターやPCのディスプレイに使うと静かな環境では聞こえてしまう。

こういうのは大クレームにはならないかもしれないが、一度耳につくと気になってしまう。

以前液晶TVのアダプター電源内部のセラミックコンデンサから異音が発生した事がある。部品のロットばらつきなのか、量産後しばらくして突然異音が発生する物が出てきた。

通常は気にならないレベルの音で、工場の検査時には全く気がつかなかった。

クレームのあったエンドユーザは寝室で液晶TVを使用しており、TVを消して就寝しようとするとこの音が聞こえてしまう。TVを消してもアダプター電源は動作したままなので異音は発生したままだ。

セラミックコンデンサの両端にかかった交流電圧による圧電効果でセラミックディスクが振動して異音が発生するようだ。

異音のメカニズムは推定できたが対策には苦労した。
部品を違うメーカの物に変えると音は出なくなる。しかしこれではまたいつか異音が発生する可能性がある。

最終的には部品に細工をして共振しないようにした。


このコラムは、2009年10月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第120号に掲載した記事です。

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