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タイヤ直撃事故 ボルトすべて破断、一部は以前から?

 

東名高速の吉田インターチェンジ付近で11日午前に起きたタイヤ脱落事故。
トラックにタイヤを固定するボルト8本はすべて破断し、うち2本の破断面にはさびが付いていた。専門家は、2本は事故以前から折れていて、残ったボルトに過大な力がかかった可能性があるとみている。

(asahi.comより)

脱落したタイヤが対向車線に飛び出してバスの運転台に激突し運転手さんが亡くなっている。大変気の毒な事件である。

トラックの運転手は始業点検をきちんとしていたのだろうか?
そして運送会社はどのように始業点検を指導していたのだろうか?

タイヤを固定するボルト2本は破断面に錆が発生していたというのであれば、始業時,休憩時の点検で見つかったはずである。ナットの頭をハンマーでたたいてみれば異変に気が付いていたはずだ。

運転手は,顧客と会社の財産を安全に運行する義務,自分自身と社会に対して身体人命の安全を図る義務がある。
また会社も同様に,顧客の財産を守る義務,従業員とその家族の生活を守る義務,社会に対する安全義務がある。
日常点検という作業がこれらの義務から発生しており,重要な予防保全活動であることをきちんと認知をする必要がある。

あなたの工場でも日常点検作業が確実に行われなかったときのリスクをきちんと評価して,従業員に再度徹底してみてはいかがだろうか。

ところで金属破断はそのメカニズムによって破断面が大きく異なる。
最初に折れていた2本のボルトは,長期間にわたって「疲労破壊」をしたものと推定できる。この場合破断表面は滑らかな表面になる。
一方最後に折れたボルトは,本来8本に分散していた荷重が1本に集中したため,過大な荷重に耐えられず破断したはずである。この場合のは断面は荒れたものになる。


このコラムは、2008年4月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第29号に掲載した記事です。

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デンソー燃料ポンプ

 低圧燃料ポンプのインペラ(樹脂製羽根車)において、成形条件が不適切なため、樹脂密度が低くなって、燃料により膨潤して変形することがあります。そのため、インペラがポンプケースと接触して燃料ポンプが作動不良となり、最悪の場合、走行中エンストに至るおそれがあります。

(トヨタホームページ・リコール情報より)

 トヨタ車に使われたデンソー製・燃料ポンプ内部のインペラに不具合があり、リコールとなっている。

ガソリンポンプ部品に樹脂が使われていると知り驚いた。プラスチック部品のソルベントクラックを引き起こす筆頭がガソリンだと思っていた。ガソリンタンクは金属製だと思っていたが、調べてみるとプラスチック製もある。

当然燃料ポンプのインペラの材料もガソリンに対する耐性を持っている。インペラには、ガラス繊維やタルク(ケイ酸マグネシウム)を含有した強化・ポリフェニレンスルフィド(PPS)だということだ。
成形時の金型の温度が低いと結晶化度が低くなり、樹脂(PPS)の密度が低下。PPSの内部に生じた隙間にガソリンが侵入してインペラが膨潤した。膨潤変形したためインペラが回転しなくなる。というメカニズムのようだ。

金属製インペラならば、プレス加工で簡単に作れるはずだ。それでも樹脂製にするメリットがあったのだろう。

リスクのある技術を製品に応用する際には、事前に十分な検討により未然防止を仕掛けておくべきだろう。

統計的ばらつき:材料のばらつき、設備のばらつき、作業のばらつきなど依存的事象:成型条件(温度、圧力、時間)作業方法など

これの検討によりリスク要因が常に管理範囲となるよう仕組み仕掛けを用意すべきだろう。
この事例は「成型温度の管理が不十分だった」という学びだ。


このコラムは、2020年11月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1054号に掲載した記事です。

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三菱の洗濯機に発煙・発火の恐れ 6万9千台無料修理へ

 三菱電機は21日、99年7月に発売した全自動洗濯機計6万9166台で、パネルのスイッチ部分から発煙・発火の恐れがあるとして、無料で部品を交換すると発表した。対象製品は「MAW―V7QP」と「MAW―V8QP」の2シリーズで、00年7月まで製造した。

 昨年8月と10月、運転中にスイッチ部分から発煙、発火する事故が1件ずつあった。制御基板の設計に問題があり、コンデンサーの劣化で発煙・発火する場合があることが分かったという。

(アサヒ・コムより)

 こういうニュースを見ると『元エンジニア』の好奇心が疼き始める。

コンデンサの事故というと、四級塩電解液を使ったコンデンサの液漏れ水系電解液による寿命問題が思い出される。

しかし今回の事故は、これらの問題とは微妙に時期がずれている。

モータの進相コンデンサの寿命による扇風機、洗濯機の事故も最近報告されている。
しかし今回の不具合はスイッチパネル近辺からの発煙なので、この問題でもなさそうだ。

こんな故障発生メカニズムを推定してみたがどうだろうか。
スイッチパネル部分の電源の安定化のために入れられた電解コンデンサが劣化、リップル電流が増加、リップル電流によりコンデンサが発熱、更に電解コンデンサが劣化。

スイッチパネル程度の消費電力でこの様な不具合が発生するかどうかちょっと疑問である。やはり現物を見ないことには本当の原因は見えてこない。

この様に回収事故の記事からあれこれ考えるのは単なる「野次馬精神」ではない。同様な事故を未然に防ぐために必要な事だ。失敗事例を未然防止ができる程度まで、詳細原因を社会が共有できればこの様な回収事故はもっと減ると思うのだが。


このコラムは、2008年2月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第21号に掲載した記事です。

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新常用漢字

新常用漢字、12年度から指導=中学で読み、高校で書き―文科省

 文化審議会が常用漢字表に追加を答申した196字について、文部科学省の専門家会議は29日、2012年度から中学で読み、高校で書きの指導を始めることを決めた。196字が追加された漢字表は11月にも告示される
見通しで、同省は学習指導要領の一部改定作業に入る。

 同省によると、小学校では当面、196字の指導はしない。読みは中学の各学年に割り振り、高校では主な漢字を書けるように指導する。

 文化審議会は6月、文科相への答申で196字のうち「鬱(うつ)」など画数の多い字を念頭に「すべてを手書きする必要はない」としていた。

 専門家会議はこれを受け、書きの指導を必要としない字を明示することも検討したが、すべての高校に一律の基準を示すのは適当でないとして見送った。

 高校、大学入試では、新常用漢字を中学、高校の1年生時から学んだ生徒が受験する15年度試験から出題できることにした。また、大学入試で手書きが難しい漢字を書かせる問題が出されることがないよう、配慮を求めた。 

 

(asahi.comより)

 日本の常用漢字が1945文字から2136文字に改定したのを受け、文部科学省が指導方針を出した。

調査によると、10代の若者は「俺(おれ)」や「鬱(うつ)」の追加で話題の文字を7割以上の人が知らない。常用漢字表の存在を知らない者が6割もあるという。

文部科学省の指導方針は、えらく甘いように思えるがいかだろうか。
手書きでかけなくても読めればOKという方針は、PCの普及により文書作成をPCに頼っていることを背景としているのであろう。

しかし子供たちが、漢字を覚える負担から開放される時間で、何を習得すべきか、明確にしておく必要がある。「ゆとり教育」の時のように、その背景にある意図が明確に現場に伝わっていなければ、施策は有効に機能しない。

私なりに「ゆとり教育」まで遡って考えて見た。記憶偏重だった教育による画一な人材よりは、豊かな感性、思考能力を持った人材を多く育てたい、という意向だと理解している。

日本の戦後教育は、画一的でそこそこ優秀な人材が製造現場で「和」を持って仕事をするのに、有効だったのだろう。しかし時代は変わり規格量産品の生産では、国の経済を支え、国民の生活を豊かにすることができなくなった。
多様性、変化の時代には、一人ひとりがより創造的な仕事が出来なければならない。
そんな時代的要請が「ゆとり教育」の背景にあると理解している。

しかし「ゆとり教育」は、学力の低下しか生まなかったのではないだろうか。その反省の一部として今回の196文字の追加があるのかもしれない。

ところで、中国を考えてみると、漢字は8000文字あるといわれ、4、5000位の漢字を覚えていないと生活にも支障をきたすだろう。ひらがな・カタカナがある日本と違い、小学一年生でもいきなり教科書は漢字だけだ。

50文字を覚えれば、教科書を読める日本の小学生一年生と比較すれば大いなるハンディだ。まずは漢字を覚えてしまわなければ、次がない。

「おねえさんは、りんごをひとつもっていました。おとうとは、りんごふたつもっています。ぜんぶでいくつあるでしょう」という足し算の問題は、中国の教科書では「姐姐有一個苹果。弟弟有二個苹果。一共多少?」となる。
漢字が読めなければ算数も勉強できない。

そのため中国の教育は、記憶能力に大きく偏っているように思う。
中国人の若者を見ていて感心するのは、その記憶力の良さだ。
11桁の電話番号も難なく暗記している。日本人の様に3桁とか4桁に区切って覚えるようなこともしない。

しかし残念ながら、全体的に物事を把握したり、論理的に分析、説明する力は見劣りがする。創造的な文章を作るよりは、記憶の中から成語を選び出す方が得意だ。もちろん13億人もいるので、優れた人もいるが、平均的に考えると記憶力偏重といえるだろう。

だから駄目なんだ、と嘆いている場合ではない。
足りないところは、鍛えればよいだけだ。


このコラムは、2010年10月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第174号に掲載した記事です。

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工場移転

 フォックスコンの龍華工場が、内陸部に移転した。
20万人いるといわれた、フォックスコンタウンが一気に移転したわけだ。工場敷地内には、従業員の宿舎、銀行、レストランなどがあり、工場間を移動するための電気自動車が巡回している、という規模だ。
まさに一つの町が全部内陸部に移転してしまったということだ。

深セン地区の、賃金上昇が原因で労務費の安い内陸部に移転したわけだが、その賃金上昇を加速させたのがフォックスコン自身だったのが皮肉だ。つまり連続自殺騒ぎを、金の力で抑えようと賃金を倍にすると発表し、そのまま内陸部にトンズラした形になっている。

一頃ベトナムへの移転が騒がれた。当時ベトナムまで視察に行った知人が何人かあり、現地の様子を聞かせてもらった。また内陸部に移転を考えている工場もかなりあっただろう。

移転の資金がないのでここで頑張る、と自嘲気味に決意された経営者様のお話も伺った。

内陸部、ベトナム、ミャンマー、果てはアフリカに安価な労務費を求めて移転しても、労務費の上昇は時間の問題だ。つまり問題の先送りでしかない。

徹底的にムダをそぎ落とし、5年後でも戦える生産能力をつける。移転する費用で、LCA(ローコストオートメーション)に投資する。少数精鋭で、高品質、高付加価値、高フレキシビリティのモノ造りを実現することが、今手をつけなければならないことだ。


このコラムは、2010年10月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第174号に掲載した記事です。

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充関門海峡利用し潮流発電機 北九州市が開発へ

 関門海峡の潮の流れを利用した発電機の開発に、北九州市が乗り出す。25日に発表した2011年度一般会計当初予算案に、潮流発電機の試作機1基の製作費1千万円を計上した。市によると、国内では潮流発電の実用例は
ない。東日本大震災や原発事故を受けて「脱原発」の声が高まるなか、新たな自然エネルギーの開発として注目されそうだ。

 市によると、関門海峡の潮の流れは最速の地点で秒速4メートル以上で、潮の向きは1日に4回変わる。潮流発電はこれを利用して海底に置いた水車を回し、電気を起こす仕組みだ。二酸化炭素(CO2)の排出はない。

 市が昨年度、関門海峡での潮流発電の可能性を調査したところ、航路や漁場などを避けて長さ10キロ超の海峡に、高さ1メートルの水車32万7千基を設置すれば、理論上は年間5万5千メガワット時の発電ができるという
試算結果が出た。同市若松区の約半分に当たる一般家庭1万6千世帯分の年間消費電力をまかなえる計算だ。このため「潜在的なエネルギーが眠っている」と判断し、地元の九州工業大学や企業と連携して試作機の製作に乗り出すことにした。

(asahi.conより)

 こういう取り組みが、チリも積もれば「脱原発」が実現するのかもしれないが、気の遠くなるような話だ。
たまたまなのか、故意なのか潮流発電の能力を、年間の発電量で表示してある。年間5万5千メガワット時というと、ものすごい発電量のように感じる。

原子力発電による総供給能力は4950万kWである。つまり4万9500メガワットだ。ここに数字のごまかしがある。潮流発電は年間発電量で表示してあり、原子力発電は発電能力だ。
従って同じ単位で比較すると、
年間発電量は
潮力発電:55000メガワット時
原子力発電:433.6百万メガワット時となる。

同規模の潮力発電所が7900箇所ほどなければ、原発一機分の代替えにはならない。

電力会社が、まとめて発電した方が効率が良いように見えるが「脱原発」を決意すると、各自治体、各個人がリサイクル可能なエネルギーで「電力自己調達」の努力を払わなければならないのかもしれない。

ところで私は、学生時代に波による発電実験に駆り出された事がある。
街の発明家(土建業の若旦那)の思いつきで、冬の内灘でいかだに乗せた波発電機を50mほど沖に引っ張って行き、発電が出来た証拠にパトライトを点灯させると言うデモンストレーションをした。

電子工学部の頭脳を期待されたのではなく、ウェットスーツを着て冬の日本海をいかだを引っ張って沖まで泳ぐという力仕事を期待された(笑)

ならば水泳部の学生を連れてくれば良かったのだが、貧乏学生だった私は何かと若旦那に恩義があり、冬の海を泳ぐ羽目となった。

溺れかけて必死だったのだが、肝心の地方新聞の記者が来ておらず、私たちのデモンストレーションは徒労に終わってしまった。


このコラムは、2011年5月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第207号に掲載した記事です。

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不具合事例から未然防止

 「不具合事例から未然防止」が、私の長年のテーマだ。
開発のエンジニアだった頃からだから、既に20年余りこのテーマを考えている。
このメルマガの「ニュースから」「失敗から学ぶ」のコラムも、他社事例から未然防止を考えるきっかけになればと思い書いている。

30代だった頃は、ひたすら不具合事例を暗黙智として、溜め込んでいた。
役職が付き、部下を預かるようになってから、暗黙智を形式智にに置き換え、いかにして部下に伝えるかを考えるようになった。

当時はチェックシートを作り、類似の問題がないことを確認するようにしていたが、形だけの形式智であり、自分自身の暗黙智の領域を出ていなかったように思う。

その後品質保証部を担当することとなり、「不具合事例から未然防止」はテーマと言うより、課題として取り組むことになる。
事例を理解し、応用できるように「不具合事例集」を作った。つまり具体的に不具合事例、原因、対策を記録し、そこから導かれる「教訓」を抽象化して抽出するようにした。

例えば、外部から購入しているOEM製品のネジの頭がポロリと取れてしまう不具合が発見されると、発生の経緯、不具合のメカニズム、不具合の発生原因、対策を統一フォーマットに書く。
そして其々を一度抽象化し後に、キーワードとして検索できるようにする。

「ネジ頭ポロリ」に関して言えば、不具合現象は、ネジをメッキした時に残留した水素による、水素脆性破壊現象。原因はメッキ後のアニール工程を飛ばしてしまったことだ。

この事例に「水素脆性破壊」「熱処理」「工程飛ばし」などのインデックスを付けておく。
このデータベースを、新規の不具合に出遭った時や、新製品のレビューの時などに活用する。

以前紹介した「失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する」の中尾教授が提唱しているように、失敗を上位概念に上げて失敗ライブラリーを作る。失敗ライブラリーの事例を下位概念に下ろし、現実問題への応用をする。
と言う考え方と同じだ。

中尾教授は「つまり」が上位概念への上昇であり、「例えば」が下位概念への下降であると喩えている。

しかし、当時作った不具合事例集は余り活用されることはなかった。

原因のひとつは、検索のコンピュータ支援が不十分だったことと考えている。
当時データは、紙に印刷しファイルキャビネットにしまってあった。
これでは検索は困難だ。

これはIT技術の進歩により解決可能だ。
個人のPCにあった事例集原稿を、サーバにおき、検索可能にしておく。
ありがたい事に、殆ど無料でこういうシステムを作り上げることが出来る。

もうひとつの理由は、キーワードに対する事例が不足していたことだろう。
「水素脆性破壊」などと言うキーワードで検索しても、「ネジ頭ポロリ」しか出てこない。と言うより「水素脆性破壊」で検索することが二度となかった。

周辺装置と言う広い分野で収集した、わずかなデータではこうなってしまうだろう。「失敗百選」のようなパブリックデータベースも活用すれば、改善できそうだ。

しかし分野を絞れば、かなり役に立つ。
設計不良も、工程不良も抽象化すれば、殆どが「再発問題」であり、原因はそれほど多岐にわたるモノではない。

むしろ問題なのは、事例集を活用する側の問題だ。
いくら立派なナレッジデータベースがあっても、それが活用されなければ意味がない。未然防止と言う立場から考えれば、設計レビュー、新製品試作レビューで、活用されるのが良いだろう。

前職時代には、レビューは開催者からの一方的な「儀式」だったが、事例集によるレビューを持ち込み、うるさい品証オヤジとして恐れられていた(笑)

最近は、このナレッジをFMEA(故障モード影響解析)に入れ込んでしまうのが良いと考えている。

【参考文献】
「失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する」中尾 政之
これだけの事例を収集整理された中尾教授の業績に感服する。

「失敗の予防学 人は、なぜ“同じ間違い”を繰り返すのか」中尾 政之
磁性体のバラツキ不良を調べて、磁性体薄膜形成のコストダウン。
こういう事例を読むのが楽しみだ。残念ながら販売終了。古本のみ。

「失敗に学ぶものづくり」畑村 洋太郎
この本も既に販売終了。
私はアマゾンの古本を注文した。

「失敗学のすすめ」畑村 洋太郎
「失敗学」を世に送り出した本。14万部売れ、畑村氏を「失敗学の教祖」とした。畑村氏は中尾教授の元上司。
この本も販売終了。しかし文庫版が出ている。

整理・整頓

 最近5Sに関する研修の引き合いを受けることが多くなって来た。
世の中の5Sに対する認識が変わって来たというわけではないが、中国で発行している日本語雑誌「EMIDAS」「華南マンスリー」で5Sに関するコラムを書き始めたためだと思う。

整理・整頓のことを「2S」ということが良くある。
普通に言えば「片付け」だ。

最近「人生がときめく方付けの魔法」という本を読んだ。

腰帯でにっこり笑っている著者の近藤真理恵さんは、子供の頃から、主婦向け雑誌の「片付け特集」が大好きだったそうだ。今は「片付けコンサル」というちょっと変わった肩書きで仕事をされている。

主婦向けの雑誌と言えど馬鹿には出来ない。5Sを指導する者にとって、参考になることもある。そんな訳でこの本を手にとって見たが、普通の片付け本とは一線を画す内容となっている。

「大切なのは過去の思い出ではありません。その過去の経験を経て存在している今の私たち自身が一番大切だということを、ひとつの物と向き合うことを通じて、片付けは私たちに教えてくれます」

「空間は過去の自分ではなく、未来の自分のために使うべきだと、私は信じています」

という哲学的考察の上で、整理の意義をといています。

また整頓の方法論も、以下のように示唆します。

「散らかるのは「元に戻せない」から。使う時の手間よりしまう時の手間を省くことを考える」

「散らかった状態が、人の心を蝕む理由は、あるのかないのか分からないのに探さなくてはならず、しかも探しても探しても出てこないことにあるのです」

ただ片付けの方法論を語るのではなく、哲学的な考察を持って片付けの真髄に迫っている。

5S実践のバイブルと言ってしまうとちょっと大げさだが、整理・整頓の意義を見失っている人に5S指導をする際に参考になる内容だ。

無論個人生活の片付けに関しては、間違いなくバイブルと言って良い内容だ。著者が提唱するのは、片付けの結果得られる「好きなものだけに囲まれて生活する幸せ」だ。

この幸せな状態とは、工場やオフィスではどう言う状態なのか、その答えを見つけるのが今の私の課題だ。

「人生がときめく方付けの魔法」
書店で探す時は、生活実用書に分類されているので、いつもと違う書棚を探していただきた(笑)


このコラムは、2011年6月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第208号に掲載した記事です。

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課題発見力を鍛える

 課題を与えられて改善活動をする。
例えば流れ作業の生産ラインの□□工程がボトルネックとなっているので□□工程を改善する、という課題を与えられて改善活動をする。
それに対して課題を見つけて改善活動をするのは、〇〇生産ラインのボトルネックがどこにあるかを探すところから始まる。この場合は、流れ作業生産ラインの改善は、工程編成効率を上げるという鉄則があるので、課題発見は公式化されており誰がやっても同様にできる。

しかし一般的にいうと課題を発見することの方が課題を解決するより難しい。

ではどうすれば部下の課題発見力を上げられるか考えてみた。
こういう能力は「暗黙知」に分類される。したがって「形式知」として言葉で表現するのは難しい。しかし人に伝え課題発見力を高めるためにはまず形式知に置き換える必要がある。
例えば問題発見能力には「関心を持つ」「基準を持つ」その上で「思い込みを排除する」のように言葉に置き換える。しかし残念ながらこのままでは問題発見能力は高まらない。この形式知を部下に「体験」させることによって部下の「暗黙知」に変換する必要がある。

この過程はスポーツに置き換えれば容易に理解できるだろう。
野球のバッティングならば「ボールの芯をとらえる」という形式知を、何度も素振りをすることにより暗黙知化する。


このコラムは、2020年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1017号に掲載した記事です。

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人間と設備の調和

 「人偏の付いた自働化」の定義は、不良が発生したら直ちに停止する、と言うことだ。その昔、豊田佐吉が、糸が切れたり、なくなったときに直ちに停止する自動織機を発明した。これが「人偏の付いた自働機」の始まりと言われている。

この発明以前の自動織機は、常に作業員が生産機械を監視していなければならなかった。さもなくば、糸が切れたまま自動織機は不良の布を生産し続けてしまう。

「作業員が機械を監視する」と書いたが、見方によっては、わがままな機械に作業員が奉仕しているようにも見える。機械の都合で働く作業者は、機械の「奴隷」と同じだ

糸が切れたら自動的につなぐ、糸がなくなったら新しいボビンを自動的に装填する。こんな自動機が出来たら、作業員の負担は減るだろう。しかし「人偏の付いた自働化」は、人と機械の作業分担に調和を持たせることに焦点を当てる。

「人偏の付いた自働化」とは、調和を基にした作業員の奴隷解放運動だ。

設備は予め仕様で決められた以上の生産はできない。しかし人は、工夫次第で自ら能力の向上が出来る。設備産業と言えど、人が主、設備が従でなければならない。

設備を最速で動かすことばかりに、着目し、作業員を多く投入する。
設備のスピードに合わせるために、事前に準備作業をまとめてやっておく。

このような生産方式は、冷静に考えればムダだ。

1時間に100個生産可能な設備の前工程が80個/時間/人の能力しかない場合、もう一人前工程に投入する。これでは、50個/時間/人の生産効率しかない。
設備のスピードを80個/時間に落とせば、80個/時間/人の生産効率になる。
更に、前工程の作業改善をして100個/時間/人だけ造れるようにするの改善だ。

事前準備をまとめ作業すると、その間設備は空運転となる。空運転となれば、後工程は全て手待ち状態になってしまう。

こう書くと誰でもが当たり前だと納得するだろう。
しかし目の前の設備を止めてはいけないと、必死に作業している作業員や班長には見えないことがある。

指導者は理解できていても、現場ではこのようなムダに気が付いていないことがしばしばある。
指導者は、班長・作業員に人間と設備の調和を納得させ、人を減らす、設備のスピードを落とす勇気を与えなければいけない。


このコラムは、2011年12月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第234号に掲載した記事です。

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