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記憶力と忘却力

 年齢を重ねるほどに、物忘れが多くなるものだ。
私は「記憶力は若干衰えてきたが、おかげで忘却力は絶倫だ」とか「自分の頭脳は新しいことを創造するために使っているのであり、記憶は外部補助記憶で十分」などとうそぶいていた(笑)
しかし外部補助記憶(手帳やメモ)のどこに記憶したか思い出せない事もある。
そんな折に「60代から簡単に頭を鍛える方法」という書籍を見つけた。

「60代から簡単に頭を鍛える方法」高島徹治著

いささか直接的な書籍で照れくさいが、いくつか啓発を受けた。

この書籍によると、30代と60代では生きてきた期間が倍違うわけであり、記憶している量も倍違うはずだ。当然思い出すのに時間がかかるのは必然となる。もし記憶容量が一定ならば不必要な記憶を捨てる事、すなわち忘却力が重要になるはずだ。(著者は記憶容量は脳を鍛える事により増やす事が出来ると嬉しい事を言っている)

記憶のメカニズムは、海馬が記憶すべき内容を取捨選択する事により重要な事を長期記憶エリアに送り込み、重要でないことを捨てる働きをしているそうだ。海馬はこの仕事をレム睡眠中に作業している。夢(将来の夢ではなく寝ている時に見る夢)はこの海馬の活動中に見るのだそうだ。
ということは、海馬に重要な事柄と思い込ませることができれば、記憶に残る。当然寝ている間に海馬を騙す(笑)様な事は出来ない。起きている間に仕込む。

つまり記憶の「整理整頓」をする必要がある。
重要ではない記憶、短期的な記憶は捨てる。重要な記憶だけを長期記憶エリアに送り込む。やはり忘却力が必要となる(笑)忘れても構わない様に、TODOアイテムがスマホに届く様にする事は簡単だ。

新しい技術で、高齢となっても知的な生き方が可能となる。大変嬉しい事だ。


このコラムは、2018年2月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第633号に掲載した記事です。

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生産性改善

 中国でバイヤーとして活躍されている方から先週のメルマガ「改善の火をともす」の感想をいただいた。感想というより中国モノ造りを叱咤激励する檄文(読み方によっては愚痴・笑)をいただいた。

この方は定期的にサプライヤーを集めて合同の改善報告会をしておられる。こういうことができる人が本当のバイヤーだと思う。
脅し、すかしでコストダウンを迫る、納期遅れには電話で怒鳴りつける、こういうバイヤーにはできないことだ。

相手に感謝されつつ自社にもメリットをいただく。何事もこうありたいと思う。

メッセージの中に合同改善報告会で中国サプライヤーの社長さんに改善の推進をお願いすると、「改善要員を雇いましたから大丈夫です。」と答えるシーンが出てきたが、思わず苦笑しながら頷いてしまった。
顧客から品質クレームがあると、即座に検査装置を買ってきてこれで大丈夫だと安心する中華系経営者を思い出した。

人を雇えば改善ができる、検査装置を買えば不良が減る、という明るく屈託のない思考回路では改善など不可能だろう。

ところで私も前職時代に生産委託先工場の経営者、品質責任者を自社のインドネシア工場に招き「グローバルQA会議」を開催した事がある。工場の見学、各社からの品質改善の取り組み発表と言う丸1日のプログラムだ。

さすがに全員同業者であり、みな真剣なまなざしで参加してくれた。
しかし自社工場の経営者から「ノウハウの流出」を恐れる声が出て、大変残念に思った。こちらの思惑ではお互いに切磋琢磨してレベルを高めあうことを想定していた。
今持っているノウハウにしがみつく姿勢とは対極の考えかただ。しかも目に見えているところなどたいしたノウハウではない。

そんな訳で2年目に台湾資本の中国工場で第二回グローバルQA会議を開催してその後は継続できなくなってしまった。
無理を承知で開催したので2回も開催できたことでよしと考えているが、少し残念だ。


このコラムは、2009年11月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第125号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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行動評価

 毎月1回中国でがんばっている日本人経営者・経営幹部の皆さんと集まって「人財育成勉強会」をしている。
「人材」を「人財」に変えるために、具体的なワークをしたり事例研究をしている。

6ヶ月間「従業員のモチベーションを上げる」をテーマとして取り組んできた。

この勉強会メンバーが基本的に合意している認識は、福利厚生、給与は不満の解消にはなるが、モチベーションを上げるには効果が薄いと言うことだ。一方「公平な評価」はモチベーションを上げる効果があると認識している。

評価において数値評価ができるもの、例えば営業職ならば売り上げ目標に対する達成度などは具体的に数値で評価できる。こういう評価は公平感を維持するのは比較的たやすい。
しかし勤務態度とか勤務意欲などは定量評価が難しい。無理やり点数をつけたとしても、評価者によって大きく異なってしまう。こういう場合は公平感を保証するのは困難となる。

例えばこんな事例もある。
上級管理職で中国人管理職を一人ひとり評価をしていると、人によって大きく評価が変わってしまう。
理由は簡単だ。直属の上司に対しては非常に協力的だが、他部署の上司に対しては何かと理由をつけて仕事を断ってくる。こういう人間に対しては直属の上司の評価は高いが、他の部署の管理職から見ると仕事ができない人間に見えてしまう。

これは評価すべき態度・意欲のありかたとその基準が不明確であるためだ。

そこで期待される勤務態度・意欲を持った人間はどのような行動をとるかを定義する。そしてその行動が取れれば加点する「行動評価主義」を採用すればよいと考えている。

勉強会ではこのテーマに時間を割き、リーダとしての「行動評価基準」を作成した。

これを評価者だけの秘密の評価基準にするのではなく、基準をオープンにする。オープンになっていれば、全ての従業員が会社が期待する行動がどういうものか理解できる。その期待に沿えば給与も上がることが理解できれば、正しい方向に努力するだろう。

上記の例では「部門間協力」「全社的立場での視点」について経営者がどのような行動を期待しているかを明確にしておけば良いわけだ。

いくら機械化を進めて人を減らしても最終的には「人質」が経営に大きな影響を与える。むしろ機械化を進めてゆけば、作業者よりも中間管理職以上の職位の重要性が増す。この人たちの「人質」を上げないことには、機械化投資の負担ばかり増えて業績は上がらないだろう。


このコラムは、2009年11月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第125号に掲載した記事です。

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無駄の反対語は何?

 「無駄の反対語は何?」—無駄学の東大・西成准教授が自民党国交部会で意見

渋滞学や無駄学の研究で知られる東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻准教授の西成活裕氏は2009年3月12日、自民党本部で開かれた同党政務調査会国土交通部会で「無駄とり」に関する意見を述べた。「皆さん、無駄の反対語が何か分かりますか?」—西成氏は発言の冒頭で、部会に参加した同党の国会議員たちにこう問い掛けた。無駄とは何かを理解していないと、反対語をすぐに思い付くことはできない。西成氏は「頻繁に使用している言葉だが、無駄の定義は実は明確でない」と指摘した。

 では、無駄とは何か。「無駄を定義するには『目的』と『期間』を明確にすることが欠かせない」と西成氏は言う。特に「期間」を定めることは重要だ。組織のメンバー全員が目的を共有していても、目的を達成する期間が異なると、それぞれ違う結論を導き出すからだ。

 例えば、短期的な視点に立つ上司と長期的な視点に立つ上司がいたとする。両者とも、厳しい経済状況の中、コスト削減に迫られていた。そんな時、部下が「スキルアップ講座を受講したい」と言ってきた。部下に講座を受けさせれば、短期的にはコストが掛かる。そのため短期的視点の上司は「受講は無駄だ」と断った。しかし、長期的視点の上司は、「受講が部下の能力やスキルの向上につながれば、将来的には会社の利益につながる」と考え、許可した。この例の場合、両者の目的は「会社の利益を上げること」で同じだ。しかし、目的を達成するまでの期間が異なるので、取る行動が違ったのだ。
つまり、目的だけでなく期間も明確にしなければ、系統立てて会社の無駄とりをすることはできない。

(INTERNET BPnetより)

 一見ムダに思えてもその「目的」を考えれば、ムダではないという事例はいくらでもある。
作業の下準備がその良い例だ。
下準備をきちんとしておけば、効率も良くなるし、品質も良くなる事が多い。
よく「段取り8分」というが、段取りがきちんとできれば仕事の8分は完成したようなものだという意味だ。

以前中国の工場で、壁のペンキ塗りをした事がある。
我々の常識からすれば、マスキングテープを使い養生をしてから塗り始めるのだが、いきなり塗り始めた。その結果床にはペンキが落ち、腰板にもペンキがはみ出した。

後で拭き掃除をすれば良い。拭き掃除は掃除係の仕事。だから自分たちには関係ない、という考え方だろう。
その結果工場をきれいにしようという「目的」に反して、汚してしまいムダな仕事を生んでいる。

人に仕事を頼むときも同じだ。
きちんと仕事の目的・方法を教え、相手が理解できていることを確認した上で作業を開始しなければならない。これは上司にとって手間がかかることだ。ここで「あれやっといて」と指示をすれば手間は省けるが、結局やり直しをすることになる場合が多い。そのたびに部下の無能さを呪い、自分が忙しくなるだけだ。

目的のあるムダを省けばこういうことになる。

更に西成氏は「期間」という時間軸を取り入れて説明している。長期視点に立った日本的経営が、バブル崩壊後多くの経営者には「ムダ」に見えてしまった。そして一斉にムダを排除した。それが現場力の弱体を招き、更に大きなムダを生んでしまった原因だと考えている。

ところで「ムダ」の反対語は何だろうか?実は私も今のところ妙案はない。

成功の反対語はこちら


このコラムは、2009年3月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第89号に掲載した記事です。

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不審物は「見る・かぐ・問う」 北京のバスに警戒要員

 【北京=坂尻信義】 北京では路線バスを標的としたテロを警戒し、8月1日からバス会社が特別要員を車内やバス停に配置、乗車拒否も辞さない姿勢で臨む。

 北京公共交通グループの馮幸福副総経理が中国メディアに明らかにしたところでは、訓練した乗務員5千~7千人に携帯型の安全検査器を持たせて警戒させる。ただ、乗客の手荷物を強引に検査する権限がないため、「一に見る。二にかぐ。三に問う」の構えで警戒にあたらせる。

(asahi.comより)

北京だけではなく深センでも安全強化が進んでいる。
香港がオリンピック馬術会場となっているため、テロ警戒が必要なのだろう。

しばしば利用する深セン羅湖のバスターミナルにも新たにX線検査装置が追加され、バス利用者の荷物を検査している。

今までは二階にある切符売り場からエスカレータを降りたところに1台だけX線検査装置が設置されており、時々気が向くと検査、という状況であった。このエスカレータ以外にもバスターミナルに入る事が可能であり「ザル状態」であった。

最近は厳格に検査をし始めている。地方に向かう乗客などは大きな荷物を二つも三つも持っており、大変な混雑である。
今のところエスカレータを下りたところのX線検査はそれほど人が並んでおらず、一度2階に上がってからバスターミナルに入るのがすばやく荷物検査をクリアする「裏技」である。

しかしエスカレータを降りてすぐの場所にX線検査装置が設置されており、この「裏技」を多くの人が気が付いてしまうと危険なことになる。検査待ちの人の列がエスカレータまで伸びてしまうと、上から降りてくる人たちが将棋倒しになりかねない。

安全強化がアダにならない事を祈るばかりである。


このコラムは、2008年8月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第45号に掲載した記事です。

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非常識なパフォーマンス

 不良率、生産性などのパフォーマンスを業界内だけで比較をしていると「井の中の蛙」になってしまう。

例えばセットメーカは電子部品業者に対し不良20ppm以下の納入品質を要求されるところが多い。部品にもよるだろうが、まったく実現不可能な品質レベルではない。がんばれば何とか達成できる。

しかしこの要求を電源装置にも適用されて、大いに弱った。
電源装置の中には、電子部品、機構部品が200点ほど入っている。それぞれの部品が20ppmの品質レベルなのに電源も同じ品質要求では不公平ではないかと、お客様に苦情を呈した事がある(笑)

このお客様に収めた電源装置は生産開始初期につまらない不良を何度か出してしまったため、最終的には20ppmを切れなかったが、0ppmを何ロットも継続した。

電源屋は電源屋の常識で品質レベルを考えていると、そこそこのところで止まってしまう。電子部品業界の常識レベルにチャレンジすることにより、更に上のレベルに到達できるわけだ。

一方自動車関連部品やモジュールを生産されている方々は、初めから不良ゼロが常識である。
ひとつには人の命を預かる部品であるということ、更に部品不良が発生すると最終の完成車組み立て工程が止まってしまう。という理由により不良ゼロが常識なのである。この常識は自動車関連の部品メーカであれば、ネジ屋にも適用される。

このように業界を越えてパフォーマンス評価をすると、更に高い目標がでてくるものだ。

同じような作業をしているにもかかわらず、業界内比較をしてしまうとこの程度で十分というレベルになってしまう。ベストプラクティスを業界の外に求め、それにチャレンジする。同業者の中では非常識なパフォーマンスを実現することにより、業界内で圧倒的な競争優位が得られるであろう。


このコラムは、2008年8月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第45号に掲載した記事です。

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那覇空港ヒヤリハット事故

 先週のニュースからで、自衛隊ヘリ、日本トランスオーシャン航空機、全日空機、のヒヤリハット事故を紹介した。
続報によると、
全日空機に対する管制官の「速やかに離陸せよ」と言う指示を、自衛隊副操縦士が自分への指示と勘違いした。
管制塔との通信の間に機長は、乗組員への指示や機内の点検にあたっていた。
そのため副操縦士の勘違いに、機長も気が付かなかった。
その結果離陸助走中の全日空機の前を横切ってしまった。
と言う顛末の様だ。

続報で新たに分かったのは、自衛隊のCH47ヘリは、操縦席から後方確認がしづらい構造になっていると言うことだ。

自衛隊那覇基地の幹部は、11日に記者会見で経緯を説明し再発防止対策を発表している。

各紙の報道によると、その再発防止対策は
朝日新聞

  • 乗組員への指示と管制のやりとりを同時に行わない
  • 離陸前に後方の安全を確認するために機首を向ける
  • 管制の指示の確実な聞き取り

日本経済新聞

  • パイロットが管制官の指示を確実に聞き取る
  • 離陸時には他機の状況を把握する

読売新聞

  • 重要な交信などを決して聞き逃すことがないよう運用を見直した

毎日新聞

  • 飛行量の多い那覇空港などについては、飛行前の点検などで機内のクルー間のやりとりが終了した後に、管制に離陸許可を得るよう運航手順を見直した

同じ記者会見からこうも幅のある記事が出て来るとは(苦笑)
取材記者の問題意識と理解度により同じ再発防止でも違う内容に理解される。

朝日新聞の「管制の指示の確実な聞き取り」日経新聞の「パイロットが管制官の指示を確実に聞き取る」これらは対策とは言わない。どうすれば「確実な聞き取り」となるのかもっと踏み込まねばならない。

読売新聞の記事では、運用をどう見直したか不明だ。毎日新聞の記事を読んで初めてどう運用を見直したかが判明した。

今回のヒヤリハットの原因は、

  1. 管制官の離陸許可を聞き間違えた。
  2. 離陸助走中のANA機を見落としていた。

の2点だと思う。これを更に真因まで原因分析を深める。

1.に関して、

出発前の準備完了後管制塔とのコミュニケーションをすると言う再発防止対策は、流出防止対策だ。
機長が出発前の確認、乗務員への指示に忙しく、ダブルチェック出来なかった、と言う「流出原因」の防止対策でしかない。
本来、なぜ他機に対する離陸許可を自機のモノと勘違いしたか?と言う原因を追求しなければならない。
記事には公開されていないが、管制官の指示「ANA○○便、速やかに離陸せよ」の前半がなければ、勘違いしてもムリはない。また管制官は、自衛隊機の復唱を聞いていないと言っているが、なぜ聞こえなかったのか?この原因を追及しなければ、形を変えて事故が発生する。
また「飛行量の多い那覇空港では」と再発防止対策に曖昧な制限を付けると、潜在要因に対する「未然防止対策」とはならない。

2.に関して、

自衛隊のヘリコプターは、昔の黒電話の受話器様な形をしており、操縦席から後方確認が出来ないのは、素人目にも理解出来る。そして災害救出の為に出動する自衛隊のヘリコプターは、管制設備が整った飛行場以外でも離着陸をしているはずだ。離陸時に一気に上昇しないで、ホバリングで前後左右を確認した後に上昇すると言うのは常識のはずだ。
何かまだ隠れている原因が有るはずだ。

大事故と言うのは、水面に浮かぶ氷山と同じだ。
大事故として見えているのは水面上の部分だけであり、水面下には大事故の何倍ものヒヤリハットが有る。
原因も水面下の氷と同じく、表面には見えていない。原因究明を表面的にやって、対策をしても水面上の氷は以前として存在し、また浮上して来る(事故は再発する)


このコラムは、2015年6月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第428号に掲載した記事に追記しました。

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C管理図

 C管理図は欠点数の工程管理に使用する。
布地の織り傷の数、液晶画面の欠点数などは、その発生確率はポアソン分布になる。例えば、交通事故の数、切符販売窓口に並んでいる人の数もポアソン分布だ。欠点は不良とは少し異なる。不良率は、その分母の数が分かっている。しかし欠点は分母が無限に大きくなる、もしくは良く分からない。

例えば交通事故の件数を率で表そうとした時に、分母はどう考えれば良いか?
車全部の数とすると、ちょっと変だ。1台の車が2度事故を起こすことだってありうる。
クリーンルーム内の1立方ft当りのダスト数の分母は何になる?1立方ftに入るダストの数なんて無限大だ。
こういう数はポアソン分布に従うと考えれば良い。

では、C管理図は何を管理しているのか?
当然ダストの数も、交通事故の件数もバラツキが有り、測定するたびに違う値となる。このバラツキは0から無限大まであり得る。しかし平均値から離れるに従って、その発生確率はどんどん小さくなる。

例えば、ある都市の平均年間交通事故件数が3,650件であり余り変動していないとすれば、1日に10件交通事故が発生する確率となる。しかし毎日10件発生する訳ではない、0件の日も有れば20件の日も有る。100件発生することもありうる。しかし1日に100件も交通事故が発生することは稀(発生確率が低い)になるはずだ。

C管理図は、偶然のバラツキなのか、何か原因が有ってバラついているのかを識別するために使う。
発生確率が0.3~99.7%の場合は、偶然のばらつき。
0.3%以下の場合は何か異変が有る。と判断する。

クリーンルームのダスト管理では、
実力範囲(確率0.3%以上で発生するダスト数の範囲)内のバラツキなのか、異常(確率0.3%以下で発生するダスト数の範囲)なのかを上下限の管理線の内側に有るか、外側に有るかで判断する。
下限管理線よりダストが少なければ良いではないか、と考えてはいけない。偶然ではない何かが起きている、例えばダストカウントの測定を間違えた、測定器が壊れたなどの異変が起きていると考えるべきだ。
これがC管理図の「理屈」だ。

全ての数字にはバラツキが有る。
このバラツキが「偶然によるバラツキ」なのか「何か原因があるバラツキ」なのかを区別することが、統計的品質管理の「理屈」だ。

理屈さえ覚えておけば、統計的品質管理は難しいことではない。


このコラムは、2015年7月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第432号に掲載した記事に追記しました。

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タカタ、納入価格の引き下げ見送り要請 車各社に

 エアバッグの品質問題を抱えるタカタが、製品納入先であるホンダ、トヨタ自動車などの完成車メーカーに価格引き下げを見送るよう要請したことが分かった。年間で100億円規模の収益改善効果を見込み、リコール(回収・無償
修理)拡大による損失を一部穴埋めできるとみている。各社が応じれば取引先による本格的なタカタ支援の第1弾となる。

全文はこちら

(日本経済新聞電子版より)

リコールの対象となっているタカタのエアバッグは、作動時に異常に強い爆発が起きることで内部の金属片が飛散。運転手らを死傷させる事故が発生した。

この問題が、ここまで長期化し、リコール対象が拡大している原因は、異常爆発が起きる原因を特定で来ていないからだ。

ガス発生剤の「硝酸アンモニウム」が湿気に弱いようだ、と言う曖昧な推測が提示されているだけで、真因が分かっていない。少なくとも公表されていない。

硝酸アンモニウム+湿気が原因と推定したのならば、それを確認する実証実験をすれば良いはずだ。既に実証実験が済んでおり、硝酸アンモニウムの吸湿が原因ではないと特定出来ているのであれば、実験結果とともに公表すべきだ。
それがないから、リコール交換品にまで不安が発生する。

原因究明に一生懸命頑張っておられるであろうタカタのエンジニアの方々には敬意を表したい。しかし失礼を承知で、あえてネガティブな想像を申し上げる。これはタカタを非難するのが目的ではなく、貴重な経験として共有したいと考えている。製造業に携わっている方々も同様なリスクを背負っているはずだ。

第一:真実を隠さないこと。

リコール問題が発生し、真実を隠し通せたことはない。異常爆発のメカニズムを判明したが、これを公表すると更に自社に取って不利益となる、などの理由で秘匿しても絶対にうまくいかない。一時的に隠せても、必ずその報いは来る。

第二:全社を挙げて自主的に関わること。

タカタは異業種からシートベルトで自動車部品業界に参入している。シートベルトは自社技術が応用出来る商品だ。しかしエアバックは、新規技術が必要となる。新聞記事によると、完成車メーカからの強い要請が有り、自動車部品業界に参入したそうだ。これをイクスキューズとしてはならない。商品化したからには、自社に責任がある。購入原材料に関しても同じだ。

第三:新規、珍奇は慎重に評価すること。

ガス発生剤に硝酸アンモニウムを使っている大手エアバッグメーカーはタカタだけという。他社が使っていない優れた物を採用すれば、それが優位性を確保する要因になる。しかし同時に技術的な問題、調達性の問題が発生するリスクが存在していることを認識しなければならない。


このコラムは、2015年7月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第432号に掲載した記事です。

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研究開発

 中国の現場で仕事をしていると,どうしても製造現場に偏りがちだ.今まで日系・台湾系のお客様が多かったため,研究開発は本社,生産は中国と住み分けが出来ているからだ.

元々開発設計上がりの品質証証マンなので,設計品質保証の仕事が少ないのを寂しく感じていた.

それでも応用設計は中国でやります.と言うお客様はあった.
応用設計の仕事は,ミスを減らしたり効率を上げるのは比較的易しい.

中国企業の場合は,開発設計の機能を持っているところが多い.
先週訪問した中国企業も,商品開発主導型の企業だ.
生産の方は,開発設計部隊の試作生産の延長と言う趣であり,多分あっという間に20%,30%は生産効率を上げられるだろう.

商品開発・製品開発の現場は,応用設計のように仕事がパターン化していないことが多く,効率を上げる努力をすると創造性を失ってしまうこともありうる.
大体設計者と言うのはルールに縛られるのを嫌がる(自分もそうだった・笑)

こういう仕事を無理やり「ISO9001だから」みたいな強制力で縛ろうとすると,うまくゆかないことがある.
例えば,設計審査などのレビューが形骸化しており,実際には設計を完了しているのに,初期設計審査の開催がまだ済んでいない.などと言うことが起こる.

もう仕事は終わっているのに,ISOのための「アリバイ作り」のために設計審査をするという形式主義に陥っている.このようなことはムダ以外の何物でもない.更に本来,設計審査で機能すべきチェックが働かなくなる.

私は前職の会社で,開発期間が3年もかかる製品の設計をしたことがある.
同時に顧客の受注から1ヶ月で最初の量産出荷をしたこともある.
もちろん異なる事業部での経験だが,会社の品質保証システムは一つである.システムと運用を工夫し,全くカテゴリィの違う製品も,同じ品質保証システムでマネジメントを出来るようにしていた.

こういう運用の工夫をすることで,研究開発エンジニアの創造性を失うことなく,新製品プロジェクトの目標管理,品質保証をしてゆくことが重要だ.


このコラムは、2012年3月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第247号に掲載した記事です。

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