コラム」カテゴリーアーカイブ

ダメモト改善

 私は改善の目標を置くときにいきなり2倍,3倍向上という目標を置いている.例えば不良の減少であれば,目標を1/2とか1/3に置いてしまう.データを眺めて積み上げていると,どうしても2割,3割アップという数字になってしまう.データの積み上げではなく,「ありたい姿」から目標を設定するようにしている.

もちろん既に長い時間をかけて改善活動をしている工場では,いきなり2倍といってもなかなか難しいが,中国の工場では達成できてしまう事が多い.

一緒に活動をする人は「え~?」という顔をしているが,2ヶ月とか3ヶ月くらいで2割,3割アップを達成してしまうと,メンバーの顔が「ひょっとしたら」に変わってくる.こうなるとしめたモノである.まずはメンバーから信頼を得て,ひょっとしたらと思ってもらう事が大切だ.

ある工場で半年で不良を1/2に,一年で1/3にしましょう,と経営者と約束をして活動をした事がある.正直に言うと自分でも半信半疑であった(笑)
しかし本当に半年で不良は1/2になった.一年後には1/3には届かなかったがかなり良いセンまでいった.
目標は達成できなかったが,一年前と比べたらすごく改善した.しかもメンバーのやる気が上がったのが一番の収穫であろう.

「ダメモト」(ダメで元々)と思えるような目標を立てて活動する.そしてスピードを大切にする.ここを改善しようと決めたらその日のうちに改善するくらいのスピードでやる.来週までとか来月までとはいわない.

拙速でもいいと考えている.完璧を期して考えていても,考えている間は何も改善されていない.60点でも良いからすぐにやってみる.改善の効果は時間の積分で効いて来るはずだ.やってみればその次の問題点が見えてくる.考えていただけでは見えてこない問題点だ.

やってみてダメなら,すぐに元に戻せば良いだけだ.金をかけずにすぐにやってみる.これならば元に戻すのは怖くない.ものすごく高価な設備を導入してしまうと時間もかかるし,元に戻すに戻せなくなってしまうものだ.

ダメなら元に戻す.これが「ダメモト改善」のもう一つの意味だ.

失敗を糧に 疲れたときにこそ技術は身につく

 中国で仕事をする様になってプロ野球を見る事は無くなってしまった。もうじきWBCが始まるらしい、という程度であり野球ファンとは言えない状態だ。本日のタイトルは、日経新聞に出ていたキャンプ中のバッファローズ二軍監督田口壮さんの記事だ。

失敗を糧に 疲れたときにこそ技術は身につく

グランドで実践練習中にミスをすると、反復練習をすると言う。例えば、送りバントを失敗すると、屋内練習場に移動しバントだけを練習する。その練習が5時間に及ぶと言う。さすがに職業野球選手の世界だ。手を抜けば収入が無くなる。そう言う覚悟が出来ている人だけが生き残れるのだろう。

実は若い頃職場のメンバーと草野球チームを作り、地域のリーグ戦に参加していた。普段練習などしない。いきなり集合して試合をする。そんなチームだ。
多分私が一番練習量が多かっただろう。土日に近所のバッティングセンターで練習をしていた。外角の球を右方向に流し打ちをする、などとテーマを決めてバッティング練習をしていた。他の人たちは、バットを長く持ち思いっきりスイングをして長打を狙う。流し打ちばかりしている人は異様に見えたかも知れない。テニスの練習マシンで守備練習もした(笑)
しかし練習量はせいぜい30分。5時間もバント練習だけをやるというのは想像すら出来ない。そのくらい練習をしなければ、プロとして満足のゆくプレーは出来ないのだろう。

さて、我々製造業の職場での仕事の練習はどうだろう。
作業ミスをしたら、5時間作業訓練をさせる。こんな事をしたら作業員は一人もいなくなるだろう(笑)第一それでは生産効率が悪くて会社がつぶれる。そんな練習をしなくても、仕事ができる様に生産方法や製造工程を設計する。効率よく作業訓練が出来る様に、作業指導方法を考える。

我々の場合は、選手一人ひとりが激しい訓練をするのではなく、経営者や幹部が従業員一人ひとりが成果を上げられる様に考え抜く、という事になるだろう。会社にいる8時間だけではない。四六時中考えていなければならない。夢の中で改善のアイディアがひらめく様になれば、一人前だ(笑)


このコラムは、2017年3月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第518号に掲載した記事に加筆しました。

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続・B737MAX機墜落事故

 ボーイング737max8機の墜落事故に関して、メールマガジンで検討してみた。

WEBサイトengadgetの記事によるとボーイング社はMCAS(失速回避システム)を大幅に変更。変更の検証評価・妥当性評価が不十分であったとNew York Timesが報じている。その変更はパイロットにも周知されていなかったという。

engadgetの記事

ボーイング社の自動操縦システムの基本設計思想は、システムと操縦士の操作に食い違いがあった場合、人の操作を優先するようになっている。

1994年名古屋空港で発生したエアバスの着陸失敗事故は、システムと人の操作の矛盾をシステムを優先させて失速・墜落した。当時既にボーイングの基本設計は、人の判断を優先していた。

航空機事故から

B737max8のMCASの修正はバグ修正にとどまらず、基本設計の変更に関わるモノとなってしまった。当然制御システム全体と整合性が取れない場合が発生するはずだ。それにもかかわらず検証・妥当性評価が不十分であった。

航空機の航行システムがどの程度の規模のソフトウェアなのか想像もつかないが、相当な規模であろう。そのような制御プログラムで基本設計に反する改造をして簡単な検証で済むはずがない。

物事には、変えていいところと変えてはいけないところがある。


このコラムは、2019年7月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第844号に掲載した記事に加筆しました。

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中国製ベビーベッドを米国で回収 乳幼児2人死亡

 【ニューヨーク=中前博之】米国のベビー用品メーカーのデルタ・エンタープライズ社は21日までに、中国などで製造されたベビーベッドを使用して乳幼児2人が死亡する事故があったとして、約160万台のベビーベッドをリコール(回収・無償修理)すると発表した。日本で流通しているかどうかは不明。

 同社は死亡例の詳細は言及していないが、ベビーベッドの両側の柵を支える留め具に不備がある可能性があるという。同社はウェブサイト上で、2006年以前に中国で製造されたベッドは「直ちに使用を中止」するよう呼び掛けている。

 ロイター通信によると、ベビーベッドは中国のほかに台湾、インドネシアでも製造されている。

(NIKKEI.NETより)

また中国製だ,という論調の記事である.
タイトルには「中国製ベビーベット」と書いてあるが,記事の最後に申し訳程度に「中国の他に台湾,インドネシアでも製造されている」とある.

詳細を米国の消費者製品安全委員会のホームページで確認してみると,これは工場の製造問題ではなく,設計上の問題のように見える.

ベビーベットの柵を固定しているピンが外れるかなくなっているのに気が付かず,柵が落ちて幼児が挟まれたようだ.

デルタ・エンタープライズ社も回収はしていない.
交換用の固定ピンもしくは改造用の固定ピンを製品にあわせて送ってくれるだけである.
この製品を特定するために「中国製」「台湾製」「インドネシア製」という言葉が出ているだけである.

昨今,中国製食品問題や,中国製玩具問題などが多発しており,またもや中国の工場の問題と決め付けて記事を書いたのではなかろうか.少なくとも同社のホームページを見れば,リコールしているという記事はかけないはずである.

この調査の過程で,以下の工夫が参考になった.

交換用の固定ピンは,従来の物と色が変えてある.
これは固定ピンの付け忘れ,脱落などを看える化するためだ.
意匠デザイン的には違和感があるかもしれないが,初めからそのようにデザインすれば違和感なくデザインできるはずだ.

このベビーベッドのように利用者が組み立てをする製品については,このような工夫がリスク回避につながるだろう.

また生産工程内でも,工程飛ばしを防ぐためのアイディアに応用できそうだ.


このコラムは、2008年10月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第57号に掲載した記事に加筆しました。

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知識を行動に

 先週末は、方針管理勉強会に出席した。方針管理勉強会とは東莞和僑会で開催している勉強会だ。1年間かけて経営者・中国人経営幹部と一緒に方針管理・目標管理を勉強している。二期目の今年は6社が参加。メンバー企業を会場とし、相互交流をしながら勉強会を開催している。12月16日開催予定の最終回で次年度の事業計画を開催する事になっている。

勉強会事務局が精力的に運営しくれているので、私の出番は殆どない(笑)
今回は珍しく懇親会の後にスピーチをする事になった。「お疲れ様でした」と簡単に挨拶したら、事務局や参加しているメンバーからもっとしゃべれと叱られてしまった(笑)

そこで勉強会や研修について普段思っている事を短く話した。
30名程の参加者はほとんどが中国人であり、日本人経営者も中国語がわかるので中国語でスピーチをした。

『知識不如能力、能力不如行動、行動才有成果』
研修や勉強会で知識だけを覚えても、頭でっかちになるだけで役には立たない。
知識を実践する事で能力に変換する。ここまでは、研修や勉強会で達成出来る。
そして研修や勉強会の後に能力を活かして行動する事により成果が生まれる。
成果は知識や能力からは生まれない。行動によってのみ成果が生まれる。
と言う事を伝えたかった。

日系企業に勤務する中国人は、日本人が話す中国語に慣れているのだろう、私のいい加減な中国語でも理解出来た様だ(笑)

研修で達成出来るのは、知識を与え実践練習で能力に変換する。そして行動したくなる様に、学習者の意欲を高める所までだ。成果は学習者一人一人の行動によってしか生まれない。

参加者の中に以前私の研修を受けた中国人がおり、彼は他の参加者に『主動一点』(積極的に行動する)だと説明している。実は以前彼に『玉』の意味を尋ねた事が有る。当然何の事か分かるはずはない。これは中国語のなぞなぞだ。『玉』一字で四文字の言葉を推測する。答えは『主動一点』。

日本語で言えば以下の様になる。
玉とかけて、主動一点と解く。その心は「玉」の点を動かせば、「主」となる。

こんなくだらない駄洒落を彼は覚えていてくれて、以来自分の信条として部下にも教えている、と言ってくれた。
こういう事を言ってくれる弟子がいると本当に嬉しい。分不相応にも、孔子になった様な気がして有頂天になってしまった(笑)孔子の様な仁者であれば、にこりと微笑むだけであろう。しかし小人の私は、帰宅し床に入るまで嬉しさで心が満たされた。


このコラムは、2017年11月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第591号に掲載した記事に加筆しました。

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心臓手術ミスで4歳死亡 愛知・豊橋市民病院

 愛知県豊橋市の豊橋市民病院は6日、2010年に心臓病の手術を受けた男児(当時4)が、約10日後に死亡する事故があったと発表した。手術の際、血管に空気が入って心筋梗塞(こうそく)を起こしたためで、同病院は手術ミスを認めて謝罪した。
 男児は、心臓の壁に穴が開いたままになる「心房中隔欠損症」と診断され、心臓血管・呼吸器外科などの執刀医3人らが10年11月、穴をふさぐ手術をした。
 手術は、いったん心臓を止め、血管を人工心肺装置につないで行われた。その間、心臓を壊死(えし)させないように冠動脈に「心筋保護液」を流そうとしたが、装置のチューブの接続部が緩み、2回にわたり計32ミリリットルの空気が入ったという。
 このため、心臓に保護液が届かなくなって心筋梗塞を起こして死亡した。
 同病院によると、心臓手術の中では初歩的な手術で、死に至るケースはまれだとして、調査委員会を設置。スタッフが装置のチューブ接続部などをしっかり点検していなかったとして「人為ミスの可能性が高い」と結論づけた。

(asahi.comより)

 この医療事故の原因は,
「スタッフが装置のチューブ接続部などをしっかり点検していなかった」ではなく,
「心筋保護液回路に空気が混入した」ことである.

「点検をしっかりしていなかった」は流出原因であり,根本原因ではない.

「点検をしっかりしていない」という人為ミスに対して対策を考えると

  • 点検をしっかりする様に指導をする
  • 点検チェックリストを作り,点検漏れを防ぐ
  • 臨床技師と看護士のダブルチェックとする

という効果を実感できない対策となる.

根本原因「空気が混入した」に対策を考えると,以下の3分類の対策を考えれば良いはずだ.

  • 空気が混入しない様にする
    チューブ接続部分を,カチッとはまるコネクタ方式にする.中途半端な接続が出来ない様にする.
  • 空気が入っても問題ない様にする
    エアートラップを循環回路の中に入れる.
  • 空気が入ったらすぐに循環を停止する様にする
    気泡検出装置を付けておけば,自動で循環装置を停止させる事は簡単だろう.

人為ミスで解析を停めてしまうと,このような対策は出てこない.
上記の根本原因対策の実施が全て不可能だった場合は「しっかり点検しなかった」流出原因に対策を考えることになる.

  • 空気混入により事故が発生する事を知らなかった(あり得ないと信じたいが)
  • 点検箇所が漏れていた
  • 点検したが見つけられなかった(点検困難,誤判断)

それぞれの対策が変わって来るはずだ.

記事を読むと,今回の事故は術中に空気の混入に気が付いたが,正しく処置出来なかった可能性もある.つまり冠状動脈に入った空気を,迅速に抜く操作が出来なかった.
この場合も,上記同様に更に原因を掘り下げる.

  • やり方を知らなかった
  • やり方は知っていたがやり難かった
  • パニックになった

例えばパニックになる原因を更に考える.
初めての体験でパニックになったとすれば,シミュレーション訓練で防ぐ事が出来るはずだ.
術中に発生する可能性のある潜在事故を洗いざらい上げて,その対処方法をシミュレーションできる実地訓練を準備すれば,予防保全が出来るだろう.

工場でも同じ事だ.
事故や,不良の発生を潜在故障としてリストアップし予め対応方法を決めておく.いわゆるFMEAと同じだ.

勝手なことを書いたが,私は医学に関しては全くの素人だ。工学の専門家としての知見から、我々が遭遇する可能性のある事故に置き換えて思考実験をしてみた。


このコラムは、2012年7月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第265号に掲載した記事に加筆しました。

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失敗しないとダメ

――リチウムイオン電池の開発に入る前に三つの研究をしていた。その三つの失敗が成功につながった?

 「今日の講義の中でもその話をしました。失敗しないと絶対に成功はありませんよ、と。企業での基礎研究は、1人で2年くらいやる。見込みがあるかどうかみて、ないとなると次に行く。3番目までは見事に失敗しました。
4番目はリチウムイオン電池。それぞれ失敗した理由はある。失敗を生かした。失敗しないとダメだと思う」

朝日新聞より

 ノーベル賞受賞受賞決定後、名城大学で吉野彰教授が記念講義をされた。
その後の記者会見で上記のように答えておられる。

人は失敗しようとして失敗をしているわけではない。もちろん成功を目指している。当然未知のことに挑戦をしているのだから、失敗はする。しかしその失敗は成功するための失敗だ。失敗の原因を調べ再挑戦する。したがってこの失敗は成功のための失敗となる。つまり成功の過程にある失敗は、ほんとうの失敗ではなく、上手くゆかない方法の発見であり、成功への一歩だ。

本当の失敗とは、挑戦を諦めることである。


このコラムは、2019年11月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第901号に掲載した記事に加筆しました。

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不良原因分析

 先週は「GM~踊れドクター」というTVドラマをまとめて見た.

米国でトップレベルの総合診断医師が,ダンサーとして日本で再デビューする事を夢見て帰国する,というかなり無理な設定のTVドラマだ(笑)

仕事を終えて,ビールを飲みながらドラマを見ている.面白ければそれで良いのだが,一応そのドラマを見る事の意義を考えることにしている.
このドラマの面白さは,患者の容態,行動,言動から可能性のある疾患を上げ一つずつ検証確認し,消去法で真因に迫って行くプロセスに有る.

このプロセスが,我々の不良原因分析に似ている.
不良現品,生産現場を良く観察し,可能性のある不良原因を一つずつ仮説検証する.
ドラマでは仮説検証の過程で,新たな仮説が浮かび上がり更に検証を進め真因を見つけることになっている.

まさに不良原因分析のプロセスそのものだ.
ホワイトボードに,可能性のある不良原因を書き上げる.それぞれに検証方法を考え,検証により原因を一つずつ消し込んで行く.

ドラマの設定では,このミーティングの過程で研修医や問題の有る医師たちが成長して行く.

我々の仕事も同じだ.
不具合原因解析のプロセスを「見える化」することにより,メンバーが解析のアプローチ方法や考え方を身につけることになる.
客先から不良が戻って来た時に,深刻な顔をして考え込まないで,メンバーを集めホワイトボードに解析のプロセスを見える化しながら,解析をしてみよう.メンバーの成長チャンスだと思えば,客先不良にもそんなに落ち込まずにいられるだろう.


このコラムは、2012年7月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第265号に掲載した記事に加筆しました。

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プリント基板の白化不良

 先日オフィスでプリント基板の品質問題に関するご相談を受けた.
プリント基板に電子部品を実装し半田付けをした後に,プリント基板のところどころが白化してしまうという不具合が発生し,どう対策すればよいかと言うご相談だった.

このような不具合現象は,一般に「ミーズリング」「クレイジング」「ボイド」「デラミネーション」と呼ばれている.積層プリント基板の内部に剥離や気泡が発生するために,外観上白化した様に見える.

積層プリント基板は,回路パターンを形成する配線板の間に.プリプレーグと呼ばれる絶縁樹脂をサンドイッチして熱硬化させて作る.プリプレーグはガラス繊維に半硬化樹脂を浸み込ませたシート状になっている.

例えるならば,プリプレーグは生八橋のようなものだ.硬い八橋で生八橋を挟んでもう一度焼くと言うイメージだ.

ミーズリング,クレイジング,ボイド,デラミネーションはプリプレーグ部分に剥離,気泡,空洞が出来てしまう現象だ.

その原因は

  1. プリント基板積層後にプリント基板が吸湿し,その水分が半田槽による加熱で膨張する.
  2. 積層時のプリプレーグ硬化が不十分のため,半田槽の過熱により後硬化する.
  3. プリプレーグの保管状態が悪いため,吸湿しその水分が加熱により膨張する.

などが考えられる.

最後の3.が原因の場合,メーカで積層プリント基板が出来上がった時点で白化不良が発生しているはずだ.

メーカにおける材料・完成品管理,積層工程以降で吸湿しないかなどを確認する.自社での保管条件を確認する.などにより原因を特定し対策を立てなければならない.

納入直後のもの,自社で保管後のものを同一条件で半田槽に流して比較する.
白化不良する場所に偏りがないか調べる.
など現場・現物で確認をすればよいだろう.

プリント基板をベーキング(高温放置)すれば,改善するかもしれない.
しかしベーキングは銅パターン酸化のリスクがある.銅パターンが酸化すれば、半田付け不良が多発する.
ベーキングは真の原因をつぶさずに対処療法をするだけだ.一時的に改善しても,根本原因に対策ができていないので再発の可能性が高い.


このコラムは、2011年3月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第196号に掲載した記事に加筆しました。

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信頼性不良問題

 工程内の検査では不良が見つからず,市場で使用中に不良が発生するものを信頼性不良と呼んでいる.

寿命モードの不良,例えば
金属疲労,プラスチックの油脂クレージング割れ,金属のマイグレーション,半田クリープなどさまざまな信頼性不良がある。

本サイトのコラムで「信頼性不良」の事例を紹介している。

工程内検査では不良が見つからず.エンドユーザが使用中に1,2年経って不良が発生する.厄介な不良モードである.
信頼性不良が発生した場合原因の解析・対策をするのは当然だが,更に厄介なのはすでに市場に出荷してしまったものに対してどのような処置をするかということだ.

処置の仕方によっては,莫大な損失金額が発生する.

当然事業として生産活動をしているので,損失金額を最小限にするよう検討することは必要だ.しかし基本はエンドユーザを第一に考えることである.

直接顧客がセットメーカであっても,エンドユーザの立場で検討しなければならない.製品を供給した顧客は,エンドユーザに対して品質責任を持っているので,エンドユーザの立場に立っていない処置は受け入れてもらえない.

例えば銀行ATMのトランザクリョンを処理するノンストップコンピュータで信頼性不良が発生すると,エンドユーザである銀行に迷惑をかける.場合によっては新聞沙汰になり銀行の信頼が低下する.
しかしこのような製品の場合,一般的には保守体制が確立されており予防保全で不良が発生する前に部品を順次交換してしまうことができる.

本当に厄介なのは,民生品である.
例えば,一昔前はTVに使っている高圧トランス(フライバックトランス)の焼損事故がしばしば発生した.当事使用していたフライバックトランスは赤燐系の難燃材料を使用しており,赤燐が信頼性不良の原因となることがままあった.

民生品なのでエンドユーザでの使用環境は千差万別だ.前出のコンピュータの場合は空調の効いた電算室に設置される.したがって使用環境が一定しており,不良が発生する期間も読みやすい.

TVなどはラーメン屋の麺をゆでる釜の上に設置されている場合もあり,電気製品にとっては湿度・温度ともに劣悪な環境となる.

しかし民生品だからといって,許されない故障モードはある.
ただ画像が出なくなるだけならば大きなクレームにならない可能性が高いが,発煙事故となると話は違う.この場合は事故が1件2件発生しただけで,新聞告知で回収するなど莫大な費用がかかる.

他社の事例,異業種の事例などから自社製品への影響を読み取り事前に対策をしておくことが必要だ.このメールマガジンでもしばしば品質問題を取り上げているが,自社製品に当てはめて読んでいただきたいと考えている.


このコラムは、2009年10月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第119号に掲載した記事に加筆しました。

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