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幹部研修

 先週土曜日は、中国企業の経営幹部(経理以上)の研修をしていた。
経営者からは、離職率が高い、各部門の責任感が足りない、などを解消する講義をしてほしいと依頼された。難題だ(笑)講義だけで、これらの問題を解決するのは難しいだろう。現状を打破するため部下のモチベーションをどう上げるか、という話を中心に進めてみた。

打ち合わせ時に現場を見せていただいていいる。5SはもちろんTPMも実践している、という。確かに現場は整理整頓されている。悪くはない。しかし活動が従業員全体の「心」に至っていないと感じた。
例えば、職場のそこここにTPMのメッセージが掲示してある。金型もきちんと整頓されている。しかし金型のメンテナンス時期の表示がない。ショット数はコンピュータで管理している。それだけではコンピュータを叩かねば見えない。現場でひと目見てわかる様にしておくことがTPMの本質だ。

そんなわけで、モチベーションの仕組みについて話をしてみた。
経営幹部の部下に対する「やる気がない」「責任感がない」という不満は、幹部自身の問題であり、部下を変えるより自分が変わらねばならない、と言う私の考えを伝えた。

研修は好評だった(と思う)質問タイムがなかなか終わらなかった。

特に皆が興味があったのは、顧客クレームをいかに減らすか?という課題だ。
顧客クレームに対応する仕事で疲弊し離職してしまう部下が多い、というのが今回の研修を企画した品証経理の危機感だった様だ。

昼食時に品証部門の経理に、台湾企業で顧客クレームを半年で1/2削減、一年で1/3にする、という目標で活動した時の話をした。前日OQA(出荷抜き取り検査)で発見した不良を、朝一の会議(現場で立って会議する)を半年継続した時点で顧客クレームは1/2になった。実は1/3達成は目前だったが、経営者が罰金制度を入れたため、各部門が責任の押し付け合いをして元の木阿弥となった話もしてみた。

重要なことは、与えられた仕事ではなく、自ら目標を設定し仕事をすることだ。
経営幹部というのは仕事を与えられる人ではなく、仕事を作る人だ。


このコラムは、2021年11月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1209号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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双日、海外現地社員を日本で研修 幹部候補として

 双日は海外現地社員を幹部候補として日本で研修する制度を月内に導入する。
欧米、中東、中国、東南アジアなどから15人前後を選抜し、年2回開催する。商社の海外拠点は日本の出先機関として補助的な意味合いが強く、幹部社員のグローバル化が製造業に比べて遅れている。双日は将来的に現地社員の支店長も誕生させる方針だ。

 初回の研修は、米国やブラジル、ドイツ、アラブ首長国連邦(UAE)など12カ国から16人の社員を選抜した。30代後半から40代で、約2週間かけ企業理念のほか、本社での仕事内容、リーダーシップ論などを学ぶ。

 双日は6月に海外社員を1~3年間本社に置き実務を担当させる「本社逆駐在制度」を導入済み。今回、集合研修を加えることで現地の優秀な人材を登用しやすくし、競争力強化に向けた取り組みを加速する。三菱商事や三井物産など他商社も、海外で採用した社員の研修回数を増やしている。

(日本経済新聞電子版より)

 研修を日本本社で行うだけでは、本当のグローバル化とはいえない。
現地採用の幹部職員が、日本本社で海外拠点の戦略を決め、司令塔として働く。
日本採用の職員が、海外拠点で現地採用のトップの元で仕事をする。
この様な双方向の、グローバルな人材活用が普通に行われて、グローバル化と呼べるのではないだろうか。日本本社での研修はその第一歩でしかない。

記事には製造業のグローバル化が進んでいるように書かれている。
しかし私の周りの日系企業を見ると、ローカル採用の人材(日本人を含む)が経営幹部となっている企業はまれだ。部長職のローカル人材はいるが、経営的決定権は持っておらず、課長職、係長職レベルの仕事しかしていない例が多い。

中国人大学生の日系企業に対する人気は低い。
就職したい企業トップ100に入る日系企業は、2、3社しかないのが実情だ。
それは彼らにとって、社内の上昇空間が狭いからだろう。重要なポジションは、全て日本本社からの駐在員が占めており、その下にしか中国人従業員のポジションがないとしたら、優秀なものほど転職してゆく。

本社採用の中国人が、中国に異動になると、中国人上司より給与が高くなると言う逆転現象も発生している。

ローカル採用でも、実力さえあれば日本本社の職位にもつける。
そのためには、給与テーブルもグローバル化しなければならないだろう。
ローカル人材をコストと考えていると、本当のグローバル化は不可能だろう。


このコラムは、2011年11月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第230号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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ディズニー流人材育成

 人ごみが嫌いな自分は、東京ディズニーランドに行った事はない。
しかし、随分昔から東京ディズニーランドには興味を持っている。
そのきっかけは、週末の夕刻に放送していたFM番組でTDL設立のエピソードを聞いたことだった。

米国ディズニーランド本社役員に、TDL開業のプレゼンテーションをした時の逸話が実に面白かった。

  • 本社役員たちは、リスク分散のため出張時には同じ飛行機に乗らない。
  • 浦安の建設予定地を案内する時に使ったトリック。
  • 役員たちの好みを事前調査し、徹底的にもてなした。
  • プレゼンテーションとはこう有るべきだと、当時大いに啓発を受けた。
    (このテーマに関しては、後日機会があれば…)

    その後、海外の生産委託先を指導するようになって、委託先工場とTDLの類似点に気が付き、TDLのマネジメントを調べてきた。

    その共通点は、

    • TDLでは、マニュアルによってアルバイト職員がゲストに感動を与えている。
    • 工場では、作業指導書によって出稼ぎ労働者が製品に付加価値をつけている。

    どちらも、長くて3年ほどしか働かない職員を、戦力として活用している。
    しかし一方は、アルバイト職員がゲストに感動を与え続け、リピート顧客が98%もある。他方は、作業員の管理がうまくゆかず四苦八苦している。

    TDLに集まるアルバイトが皆優秀かと言うとそうではない。
    毎年9千人のアルバイトが入れ替わる。優秀な人材を選別している余裕はない。
    「素質は問わない」採用しか出来ない。
    工場と同様だ。

    秘訣はTDL内の人材育成システムにあるはずだ。

    TDLでは、アルバイトをトレーナー(アルバイト)が指導する。
    工場では、作業員を班長(元作業員)が指導する。

    顧客に価値を提供している職員(感動、製品の加工)を直接指導しているトレーナー、班長を育成することが重要となる。

    TDLのリーダー育成システムを、工場に応用できたら、すばらしい工場になるはずだ。そんな思いで、手当たりしだいにTDL関連の書籍を読み、セミナーに出席し、元TDLの職員(しかもディズニーインスティチュート職員)に会いに行き話を聞く。そんなことをしてきた。

    最近読んだ
    「9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方」
    はお勧めだ。

    初版が出て1年経つが、未だに売れ続け版を重ねているようだ。
    私は5月の連休に帰国した折、ショッピングセンター内の書店で見つけ、家内の買い物を待っている間に一気に読んでしまった(笑)


    このコラムは、2011年11月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第231号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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班長研修

 先週は立て続けに、班長研修についてのご相談を受けた。
日本人たった一人で、中国企業の品質改善に乗り込んでいる大先輩。
研修を提供しているパートナー。
職場を班編成にするため、班長の力量をアップしたいと考えておられる方。

班長研修で重要な点は、

  • 教える目的、学ぶ目的を明確にする。
  • 班長目線で、現場事例を中心に教える。難しい理論は使わない。
  • 一テーマ一回、30分くらいで完結する。
  • 研修の効果は、行動で測定する。

だと考えている。

こう考えると、班長研修は研修会社に任せるのではなく、社内で行うのがベストだと考えている。

私のビジネスにとって、研修はひとつの柱なので、自己矛盾しているように見えるだろう。しかし私たちが提供したいのは、班長研修のシステムそのものだ。
お客様から、毎年班長研修の仕事をいただくよりは、お客様に班長研修をするシステムを提供した方が、効果・コスト共に満足いただけるはずと考えている。

先にあげた、班長研修のポイント「一テーマ一回、30分」を外部の研修講師を呼んでやったのでは、お客様、研修会社共にコストがかかりすぎる。

「研修の効果は、行動で測定する」は、外部研修講師にはほとんど不可能だ。

研修の目的は、「知っている」を「できる」にする。「できる」を「行動を起こす」にすることだ。
並みの研修は「知っている」までしかサポートできない。
良い研修ならば「できる」までをサポートできる。
優良な研修でも「行動を起こす動機付け」までであろう。
その後、期待する行動を評価し、その行動を強化するのはお客様の仕事になる。

であるならば、私たちのノウハウをお客様に全て公開し、研修のPDCAを回すシステムを提供した方が、研修の効果は高くなる。

つまり、お客様の現場に即した教材の作り方から、研修の成果を測定する方法までを、お客様に合わせて造りこむ。そしてそれを毎年改善してゆく仕組みを入れる。
こういうやり方をすれば、お客様での研修効果が上がり、複数年度で見れば研修コストも安くなるはずだ。

このメルマガの読者様には、研修会社の方もあるかもしれない。
他の研修会社の方に、私の研修戦略を公開してしまったが(笑)
研修業界のレベルアップにつながれば「三方よし」(お客様、業界、自社)だと思う。


このコラムは、2011年10月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第229号に掲載した記事です。

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班長マニュアル

 先週は「職位が人を育てる」というテーマで記事を書かせていただいた。
しかし勘違いをしてはいけない。職位を与えておけば自動的に人が育つわけではない。モチベーションを与えて、教育訓練をしなければ人は育たない。

作業者の中から少し優秀な者を班長に抜擢する。
これはどこの工場でも良くやっている。しかしきちんと教育訓練ができているところは少ないように思う。
このような状態で、元作業者の班長がめきめき力をつけて立派な現場リーダに育つというのは、ほとんど奇跡といってよいだろう。

作業者のためのマニュアル(作業指導書)はほとんどの会社で作っている。しかし班長のためのマニュアルがある工場はあまり見たことがない。

以前このメルマガで紹介したことがあるが、ある工場(台湾資本の中国工場)でこんな光景を見たことがある。

作業現場の掲示板に、A4の紙に「私は注意して作業します」と何度も何度も書いてあるものが、作業者の署名入りで掲示してあった。
事情を聞くと、班長が作業不良を多発する作業者に書かせたものだという。

たぶん班長は、作業者に作業不良を発生させないようにどう指導してよいか分からずに、昔学校で教師から受けた「罰」を思い出して同じことをしてみたのだろう。

苦笑するとともに、この班長が不憫に思えた。
この班長は会社からも上司からも何も教えてもらっていないのだろう。

班長に昇進したといっても、他の作業者と同じように農村で中学を出てすぐに出稼ぎに出てきた女工さんなのだ。その彼女たちに何も教えないで仕事をさせる方が間違っている。

作業者に作業指導書があるのと同じように、班長が仕事の指針とできるマニュアルが必要だ。そしてそのマニュアルを使いきちんと教育をする。時々現場でフォローをしてやることによりOJTをする。

実はある工場のためにそのようなマニュアルを作ってみた。
「現場リーダのためのQAマニュアル」というタイトルだ。
書くそばから項目を追加したくなりほぼ毎日改訂している(笑)


このコラムは、2009年11月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第128号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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お金は「ありがとう」を流通させる通貨

 毎月定例で深センと東莞でセミナーを開催している。
毎回セミナーの後に懇親会を持っているが、参加された経営者様、経営幹部の方との懇談が毎回非常に有意義だ。

先週はある経営者様からこんな話を聞いた。

営業職員が、受注額確保のために無茶な値引きをするので「お金の意味」を教えたそうだ。

 マクドナルドでハンバーガを買ったときに店員に渡すお金は、ハンバーグを作るために働いてくれた人全てに「ありがとう」を伝えるためのものだ。

 オーダーを聞いてくれた人、キッチンで調理してくれた人ばかりでなくパンを作るための小麦を育ててくれた人、牛肉を作るために牛を育ててくれた人皆にお礼をいわなければならない。
 だけど皆忙しく、農場や牧場まで行って御礼を言う暇はない。

 遠くにいる人にも「ありがとう」を届けるためにお金はある。
 
 自分達がいただいているお金も、自分達の製品を作るために働いてくれた全ての人たちに「ありがとう」を伝えるためのものだ。だからむやみに安く製品を販売してはいけないのだ。

これなら誰が聞いても良く分かるだろう。
こんな子供みたいな話を、と馬鹿にしてはいけない。我々日本人とは違う教育、環境で育った人たちだ。理解しあっているつもりでは足りない。お互いに一つずつ理解しあう努力が必要だ。

以前、営業職員が楽に売れる利益率の悪いモノばかり受注してきて困る、と嘆いている社長さんにお会いした事がある。
この方には、営業職員の目標を「売上高」ではなく「売り上げ利益」にしてはどうですか?とお話をした。

やさしい例で意義を教える。
目標をきちんと目的に合わせる。

この二つがそろえば、従業員は成果を出す方向で仕事をしてくれるはずだ。


このコラムは、2009年2月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第84号に掲載した記事に加筆しました。

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QFD

 QFD(品質機能展開)とは顧客の要求を開発、生産技術、製造、品質保証の各工程でどのように実現するかを明確にするツールだ。
例えば顧客の要求事項が「可愛い」だとする。商品企画は「可愛い」を実現するため商品の特性を定義する。という具合に設計、製造、販売、品質保証の各工程が達成すべき特性に展開する手法だ。

以前勤務していた会社でもQFDを作成していた。どちらかというとこの作業は開発設計部門の仕事のように捉えられていた。顧客要求事項をマーケティング部門から聴取し、製品仕様を決定する。各工程への展開は新規の製造技術が要求されない限り従来と同じ項目を埋め込むことになる。

アリバイ的にQFDを作成しました、という形式主義だったように思う。

しかし従来とは少し違う市場向けの新製品を投入する。市場が同じでも従来にない製品ラインナップを投入する。という場合には力を発揮するはずだ。
特に部門間のベクトルを合わせる機能がある。技術試作品が完成してからマーケティング部門からNGを喰らうようなことは発生しないはずだ。

つまりQFDは新製品開発における社内各部門のコミュニケーションツールとして活用できるはずだ。


このコラムは、2021年6月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1151号に掲載した記事に加筆しました。

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将棋と組織経営

 日本の将棋とチェスや象棋(中国の将棋)との大きな違いは、相手の駒を使える、「歩」であっても成金となることができる事だ。

日本の組織経営は「将棋型」と言えるのではないだろうか?

欧米の先端企業では、専門職を雇い専門職の能力を引き出し経営に貢献させる。と言う経営のように思える。高い金を出し、優秀な人材を雇う。その人材の効率を高めるために、余分な仕事をさせない。そのための人材を部下としてあてがう。

日本の組織のように「すり合わせ」とか「会議」などはない。
日本企業では社長がコピーを取る姿も見かける。日系企業に勤める中国人人事部長は、人材の無駄遣いと嘆いていた。

しかし日本の経営は「歩」や「金」銀」「飛」「角」が一緒に戦う。「歩」は単純な動きしかできないが、敵陣に攻め入れば「金」と同等の働きができる。さらに敵方の駒をも自陣の駒として活用できる。

日本の企業では雇った人材は「歩」を「金」にするように育てて使う。職種の変更も普通に行われる。工学部を卒業して技術者として雇われても、職場異動で営業職として活躍する人もある。

日本的組織は効率が悪いように思えるが、その効率の悪さが百年企業が多くある理由ではないだろうか?
今はだいぶ変わっているようだが、若手社員の給与を抑え、「年齢」で給与の上昇が期待できるようになっていたのも、社員が長く勤め自己成長をとげるモチベーションになっていたのだろう。

中途半端にチェスや象棋方式の組織経営を真似ないほうがいいと思う。


このコラムは、2021年6月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1155号に掲載した記事に加筆しました。

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8年前の若者は今?

 先週の編集後記に、昔一緒に仕事をした中国人が8年ぶりに電話をくれたと書いた。早速読者様からメールをいただいた。

※G様のメッセージ
 編集後記の話をもう少し聞きたかった。
 8年ぶりの彼がどう変わっていたのでしょうか。
 それとも変わっていなかったのでしょうか。

お言葉に甘えて、昔話をば。
彼は、生産委託先の工場で品質保証部のQCエンジニアとして働いてた。少し英語が話たので、我々日本の顧客が出張に来ると、サポートしてくれていた。

利発そうな面構えをしていたので、現場でいろいろ教えてみたら飲み込みが早い。そんなことがあり、出張のたびに何かと目をかけていた。

製品立ち上げの時に、本社から来た変更指示のFAXを彼に渡し、コピーを取って生産技術のリーダに渡すよう指示をした。
しかし彼は、指示を理解できなかったようで、コピーを取らずにFAX原紙を生産技術に渡してしまった。

変更指示として文件中心に渡し正式に配付してもらうため、FAXを持って来るように言うと、一言「無い」という。
無いはずがないだろう、渡したじゃないかと何度も確認して、コピーを取らずに原紙を渡してしまったことが漸く判明。じゃすぐ生産技に行って取り返して来いと言っても、何やらゴチャゴチャ言って腰を上げようとしない。

そこまでのやり取りで既にうんざりしていた私は、大きな声ですぐ取りに行って来いと叱ってしまった。
驚いたことに、彼は泣き出してしまった。
父親にも大きな声を出されたことが無かったそうだ。

そのころはまだ一人っ子世代(80后)が、とやかく言われる前だ。彼は70年代生まれのはずだが、兄弟はいなかった。きっと大事に育てられたのだろう。

その後フォックスコンに転職して行った。
2、3年間連絡もなくなったが、8年前突然電話がかかってきた。日本に出張に来ていると言う。会って見ると、日本の顧客に納品している製品の品質が悪く、不良品の選別に来ているところだった。

その日は自宅に招いて、夕食を食べさせた。
ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「なぜ前の会社を辞めたの?」
「あの会社には夢想が無かった」
私は、彼のこの言葉を聞くまでは中国の若者は給与が少しでも良いところがあれば、すぐに転職して行くと思い込んでいた。
仕事を通して自らの夢を実現したい。自分のキャリアアップのために転職をする。そういう中国人がいることに気付かせてくれた。

そしてそういう目で周りを見てみると、実は殆どの若者がそういう思いで仕事に取り組んでいるのだと気が付いた。

別に特別かわいがったわけでもない。一緒に仕事をしたのは1年足らずだ。それでも私を覚えていて電話をくれた。嬉しくないはずは無い。

まだG様の質問に答えていないが、実は電話で話をしただけで、まだ会っていない。8年でどう変わっているかは、まだしばらくお預けだ。
いずれにせよ、彼のおかげで私の中国人の若者に対する見方・接し方が変わったのは事実だ。


このコラムは、2010年11月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第177号に掲載した記事に加筆しました。

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データは現場・現物で理解する

 先日ある工場経営者から、部門ごとの生産効率のデータを見せられ「ウチの工場の問題点はどこにあり、どう改善したらよいか」と質問された。

エクセルに整理されたデータは、4つの生産部門ごとに毎日の生産数量、累計標準時間、投入工数が記録されている。生産効率は累計標準時間/投入工数で計算してある。

このデータを見せていただいて、データの取り方に問題があるのは分かるが、どこに問題があるかはこのデータからでは分からない

まず生産効率が100%を超えてる日がたくさんある。この工場が生産効率といっているのは「可動率」と同じ考え方であり、100%を超えるはずはない。
組立部門は毎日の生産効率が、20%から200%の間で変動している。ありえない。

また投入工数がゼロなのに生産出来高に数字が入っている日がある。

このようなデータを見ただけで、生産効率を阻害している問題点がどこにあり、どう改善すべきか分かれば天才を通り越して「神」である。

現場を熟知していれば、
部材欠品(たとえば梱包材料欠品)があり前日までの完成品は生産工程にうずたかく積み上げられている。梱包材料が手に入ると作業員全員で梱包だけして、ありえない数量の生産が1日だけで完了してしまう。
という現場の状況が推測でき、可動率が100%を超えるという信じられないデータが事実であるが、役に立つ真実ではないことが分かる。

部門全体のデータをまとてみていると、現場の各ラインで起こったことは見えてこない。インプットとアウトプットだけ見て現場を理解しようとすることに無理がある。

まずは層別をして改善に役立つデータに加工すべきである。
せめて生産ライン単位、生産機種単位に層別しなければデータは何も語りかけてこない。

層別したデータで、どこから改善するか当たりをつける。
現場で生産性を阻害する要因を洗い出して改善する。
という手順が必要だ。


このコラムは、2009年9月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第116号に掲載した記事に加筆しました。

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