品質保証」カテゴリーアーカイブ

「Galaxy Fold」発売延期

 米国時間4月22日、またしてもサムスンの折りたたみスマートフォン「Galaxy Fold」に関する悪い知らせが飛び込んできた。同製品をめぐっては先週、早期に生産されたレビュー用端末の画面が破損するという報告が複数寄せられていた。サムスンは、26日に予定していた同製品の発売を延期することを認め、「数週間のうちに」新しい発売日を発表すると述べた。

 「ディスプレイについて報告された問題を検査したところ、ヒンジの上下の露出部分における衝撃が関係している可能性があることがまずわかった。端末内部の物質がディスプレイの表示性能に影響していたケースもあった」と、サムスンは声明で述べた。「このフィードバックを十分に評価し、さらなる社内テストを実施するために、Galaxy Foldの発売を延期することにした」(サムスン)

 同社は、このデバイスを予約注文していたユーザーに電子メールを送り、「2週間以内に、より具体的な出荷情報」を通知すると述べた。出荷されるまでは端末代金がユーザーから徴収されることはなく、気が変わった場合は、出荷前ならば注文をキャンセルすることができる。

(CNET Japan より)

 「折りたためるディスプレイ」という驚きをもって迎えられたサムスンのGalaxy Foldの落胆ニュースだ。

発端はレビュー用にメディアに配布したサンプル機のディスプレイ故障だ。サムスンはサンプル機の故障に関して以下のように言っている。
“何人かのデバイスは可能な限り最高のユーザーエクスペリエンスを保証するために、Galaxy Foldがさらなる改善を必要としていることを我々に示してくれました。このフィードバックを十分に評価し、内部テストを実行するために、Galaxy Foldの発売を延期することにしました。”

プロトタイプを展示会などで発表することはありうるだろう。しかし発売日を決定して発表した商品で、このような事例はお粗末としか言いようがない。

当然4月26日発売の初ロット生産前に、製品の信頼性評価、妥当性評価は完了していたはずだ。

折りたたみ式ディスプレイという新技術を搭載したスマホであれば、折りたたみ耐久評価が完了していなければならない。例えば商品の耐用年数3年、1日の折りたたみ回数を10回と定義すれば、10,000回程度の開閉評価をすれば分かることだ。つまり1秒に1回開閉する検査機を作れば約3時間もあれば評価可能だ。

またユーザが保護フィルムを誤って剥がしてしまう事が,故障原因の一つであると言っているが、こういう問題を事前に洗い出す事が「妥当性評価」だ。

開発の立場で考えれば、いち早く市場に投入して業績に貢献したいと考える。
しかし品質保証の立場で考えると、顧客利益を守る(品質損失を最小限にする)ために必要な手続きを踏みたいと考える。どちらが良い、悪いということではないと思うが、どちらを優先するかが企業文化であり、それを評価するのは消費者だ。


このコラムは、2019年5月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第820号に掲載した記事に加筆したものです。

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安全不良

 安全不良と言うのは、不良により顧客の生命・財産の危険が発生するリスクがあるモノを言う。自動車に関しては、外観不良以外全て安全不良であると、言えるかも知れない。

電気製品では、感電、火災のリスクが有る不良は、安全不良となる。
安全不良に関しては、製造現場だけではなく、顧客も神経質となる。

例えば、電源装置の耐圧不良は安全不良となる。以前指導していた電源工場は、耐圧試験機の検査NG信号を利用して、耐圧試験が出るとサイレンが鳴り、ラインが停止する。同時に品証、生産技術のオフィスのアラーム灯が点灯し、エンジニアが1分以内に現場に駆けつける、と言う仕組みを作っていた。そして耐圧不良の原因が波及性が無いと判断出来るまでラインは再開出来ない。

例えば、一次評価で耐圧不良の原因がトランスだと判明すると、更にトランスの不良原因を解析する。トランスを分解して原因を見つけるまで調べる事になる。トランスの場合は、全数仕入れ先工場で耐圧検査をしているはずなので、原因が分かったとしても、その仕入れ先のトランスの使用は凍結する。もし代替え品がなければ、仕入れ先に返却したトランスの再検査が終わるまで生産が止まることになる。

こんな事がしばしばあっては堪らない。
従ってトランスメーカの採用監査は厳重になり、問題が発生していなくても最低年に1回は定期監査に行くことになる。一種の予防保全だ。
ここまでやっておくと、現役時代から10年間9社の電源メーカを指導したが、トランスによる工程内耐圧不良は1度しか記憶にない。(この時は相当酷い目に有ったが・苦笑)


このコラムは、2014年12月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第403号に掲載した記事に加筆したものです。

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続・ノウハウとノウホワイ

 先週は作業標準を現場の判断で改変して核臨界事故を発生させた事例を紹介した。
「ノウハウとノウホワイ」
今週も同様に作業標準の改変で発生した事故を紹介したい。

城島後楽園遊園地で発生した「スカイショット」(ゴムによって座席を上方に打ち上げる逆バンジー遊具)の事故だ。座席を吊るすワイヤーとゴムの連結部はねじ止めされており、ねじのゆるみを防ぐために割りピンが使われていた。割りピンは、ねじ軸のピン穴に通し折り返して固定する。割りピンは折り返すため、交換すると再利用出来なくなる。メンテナンス作業を効率化するために、割りピンをスナップピンに変更した。スナップピンとはピン材料の弾性を利用し、脱着が可能となっている。一般的には「β」の形をした形状になっており、ベータピンと呼ばれている。

参考:ベータピン(事故事例の物ではありません)

何度も使用している間に、ピンの弾性が弱くなり抜けてしまったのだろう。
当然メンテナンス要員は、安全が第一であり、安全と効率をトレードオフするべきではない事は知っていたと思われる。しかしベータピンが緩んでしまう事を想定出来なかったのであろう。(判断のミス)

「ゆるみ止めピンを交換する」と言うノウハウは分かっていても、ノウホワイが作業者に伝わっていなかった。

設計者は設計FMEAなどにより緩み止めピンの脱落と言う潜在リスクを把握しており、割りピンを使用し定期交換対象としていたはずだ。メンテナンスマニュアルにノウハウ(方法)だけではなくノウホワイ(理由)が記述されていれば、この事故は防げたはずだ。

設計FMEAは設計者だけのモノではない、メンテナンス作業にも展開すべきだ。設計FMEAで検出した潜在故障を、工程FMEAやメンテナンス作業にも展開する仕組みを作り、製造時、メンテナンス時にリスク管理が出来ているかどうかレビューするとよい。APQP(先行品質保証計画)のCP(コントロールプラン)にここまで記述してある例を見た事はないが、APQPをここまで深めておけばベストプラクティス事例になるだろう。

今回の失敗事例は「失敗百選」中尾政之著を参考にさせていただいた。


このコラムは、2017年5月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第529号に掲載した記事に加筆修正しました。

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ノウハウとノウホワイ

 先週は「悪意」による事故について検討した。今週は「悪意」ではないが、標準作業手順を遵守せずに発生した事故について検討してみたい。

日本で初めて原子力事故で死亡者を出した事例、東海村JCO臨界事故だ。
高速増殖炉の燃料製造工程で、標準作業手順が遵守されずに核燃料が臨界状態となり、多量の中性子線が発生。作業者3名が重篤な被爆を受けた。内2名は治療のかいなく死亡している。

核燃料の製造において、原料であるウラン化合物の粉末を溶解する工程では、標準作業手順では「溶解塔」という装置を使用すると定められていたが、現場ではステンレス製のバケツを用いるという裏マニュアルが存在した。しかも事故前日からは、更に作業の効率化をはかるため、裏マニュアルとも異なる手順で作業がなされていた。具体的には、濃度の異なる硝酸ウラニル溶液を混合して均一濃度の製品に仕上げる均質化工程において、「貯塔」という容器を使用するべきところを「沈殿槽」という別の容器を使用していた。

「貯塔」は臨界が発生しにくい構造に設計されていたが、用途が違う「沈殿槽」は容易に臨界が発生する構造であった。

その結果沈殿槽周辺の冷却水が中性子線の反射材となり、ウラニウム溶液が臨界状態となり大量の中性子線が放射された。

この事故は、現場で作業標準通りに作業がされず、裏マニュアルにより作業が行われていた事に原因がある。現場の監督職や作業員に「悪意」があったわけではなかろう。むしろ現場での作業改善により考えられた「ノウハウ」として裏マニュアルが存在したのだと推測する。

作業標準を定めると言う事は、改善の進歩を止める事になる。従って標準作業は改訂されなければならない。JOCの事例は作業標準の改訂方法に問題がある。製造現場が勝手に改訂をし、裏マニュアルが存在する事が、本事故の管理上の問題点だ。本来作業標準の改訂は、しかるべき組織の審査承認を経なければならない。

しかし現実問題として、なぜそのような作業手順が定められているのか判然としない事例もあるだろう。JOCではそのような事はないと信じたいが、普通の工場では、作業手順を定めた生産技術や設計の担当者が退職し、なぜその手順が定められているのか分からなくなっていると言う事もあるだろう。

作業標準は、作業をどのようにやるのかと言うノウハウが記述されている。更になぜその手順でやるのかと言うノウホワイも記述しておくべきと考えている。

以前生産委託先で、製品に貼付ける小さな表示シールの貼り忘れが発生した事がある。対策として梱包数量単位に表示シールの台紙を分け、表示シールを使い終わったら、製品と一緒に台紙をコンベアに乗せ梱包工程に送る事にした。梱包作業者は、台紙が来たら梱包箱が満杯になっている事を確認する。いわゆる「十点法」と言う定量管理によるシール貼り忘れの再発防止対策だ。

作業者から見れば、余分な作業が発生する。ノウハウと一緒になぜこの作業をやらねばならないのかと言うノウホワイをきちんと作業標準に入れておかねば、この対策はその内遵守されなくなる。

あなたの現場には、裏マニュアルや裏標準作業はないだろうか?
ノウハウとノウホワイが伝わる様になっているだろうか?

JCO臨界事故に関してはウィキペディアを参照させていただいた。


このコラムは、2017年5月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第528号に掲載した記事に加筆修正しました。

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横浜市大口病院点滴殺人事件

 昨年9月に入院患者2人が連続して死亡する事件が発生。捜査の結果点滴に消毒用の界面活性剤が入っており、界面活性剤による中毒死と断定。この事件は既に半年以上経過しているが、いまだに犯人が分かっていない。

点滴に使用しない消毒液が死因である事から、過誤による死亡事件ではなく、意図を持った殺人事件と判断されている。

犯人は誰かを考えるのは、このコラムの趣旨と反する。
失敗から学び自社で同様な失敗の発生を未然に防ぐ、という立場でこの事件を考えてみよう。

当然製造業で同様な事故が発生する事はない。
しかし悪意を持った者によって発生する事故はあり得る。
会社に不満を持った作業員が、不良品を出荷品に混ぜる。
設備の設定を変更し、大量の不良損失、又は設備の故障を発生させる。

この様な悪意による事故は、残念ながらあり得る。
こういう事故が発生する組織に共通するのは、従業員の職場に対する満足度が低いことだ。

過去に指導した工場で経験した事例は、春節前に退職を願い出たが、繁忙期のために退職を却下した事例だ。退職が認められればその月の給与は支払われる。しかし故郷に戻らねばならない事情がある者は、1ヶ月分の給与を諦め自主退社する事になる。そのような従業員が故意に不良品を出荷品に混入させた事がある。検査が終わった後で不良品を混入させれば、FQCの抜き取り検査で偶然サンプリングされなければ、そのまま出荷してしまう。

この様な悪意による事故を防止するには、職場の人間関係を改善するのが根本対策だと考えている。しかしそれだけでは不十分だ。人には弱い心を持った者もいれば、正しい心を見失う状況もあり得る。

悪い事が出来ない状態を作っておく事が大切だ。
作業の見える化とトレーサビリティが対策のキーワードとなる。

不良品混入の事例で言えば、検査合格品が工程内に滞留している状況をなくす。
不良品の員数管理、識別・隔離管理を徹底すれば、不良品を混入させる事が困難になるはずだ。

点滴事故の場合は、作業記録として録画をしておけば「抑止力」となる。
事故が発生した病院では、消毒液を有色のモノに変更したそうだが、これでは消毒液の混入は防げても、他の薬剤の混入は防げない。真の再発防止対策とはいえない。
薬局からの出庫記録、ナースセンターでの受け入れ記録および作業記録が、トレーサビリティの記録となる。

薬剤の発注、受け入れ、出庫、ナースセンターでの受け入れ、調合作業、患者への処置と工程を分割し、それぞれの工程で発生しうる不適合(潜在不良)を列挙し、それを防止する方法を検討する。
製造業の我々は、工程FMEAとして活用している手法だ。

こういう検討を事前にしておけば、「点滴の調合中にナースコールが発生する」ことにより作業を中断、作業再開時に間違える、という潜在問題が見つかる。このようは潜在問題に対して、事前に対応策を検討しておくことが可能となる。


このコラムは、2017年5月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第527号に掲載した記事に加筆修正しました。

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失敗ノウハウの蓄積

 メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】の「ニュースから」のコーナーは、ニュースの中から教訓となる不適合事例をピックアップして、その再発防止を考えるコラムとしてスタートした。
事例として取り上げた不適合事例・再発防止を抽象化することにより、自社に適用すれば同類の不適合事故を未然に防止することが出来るだろう。そんな思いで、市場回収事案、鉄道事故、不祥事事案などを取り上げ、原因を推定し再発防止対策を考えて来た。実際には当事者ではない私には真の原因を知る機会はなく、原因がこうならばこんな再発防止対策が有効になるのでは?と言うシミュレーションだ。こういう訓練を繰り返すことにより、現実に発生した不適合に対応する能力も高まると考えている。

自分自身の訓練になるとともに、読者様にも気付きの機会を提供出来たのではと自己肯定している(笑)

しかし問題も有る。
ニュースからそのような事例を探すのに非常に時間がかかる。メルマガのネタを探しているはずが、途中からネットサーフィンになってしまったりする(笑)

そこで次週から「ニュースから」のコーナーを「失敗から学ぶ」とタイトルを変え、ニュースにこだわらず、広く失敗事例から題材を選んで、記事を書こうと考えている。

もちろん読者様から事例をご提供いただくのも大歓迎だ。

痛い目に遭って学ぶ、と言うのは効果がある。人の行動モチベーションは痛みを避ける、快楽を求める、の二通りが有ると言う。当然痛い目にあった経験は二度と繰り返さない様に再発防止の努力する。こういう経験が失敗ノウハウの蓄積となる。

しかしこの学びには失敗によるコストがかかっている。他人が経験した失敗から学ぶことが出来れば、コストをかけずに未然防止が出来る。人の痛みから学ぶと言うことは、不謹慎だが快楽と言っても良かろう(笑)

しかし痛みの経験がない分、身にしみない。
他人の失敗から学んだ失敗ノウハウを蓄積する方法を持たねばならない。

私は自ら経験した失敗、他人の失敗から学んだことをFMEAの潜在不良の項目に追加すると言う方法をとっている。設計FMEAでも工程FMEAでもこの方法は活用できる。

FMEAを単なる飾りにしない様に、ノウハウをどんどん蓄積する器にしたら良いと考えている。このコラムが、読者様の失敗ノウハウ蓄積のヒントになれば本望だ。


このコラムは、2016年3月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第467号に掲載した記事に加筆修正しました。

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判断基準を持つ

 本日は品質に関する判断基準について考えたい。

判断のスピードを要求される場合がしばしばある。量産ラインで工程内不良が発生。ライン停止の判断が遅れれば、不良の山を抱える可能性がある。一日の生産が完了し、工程内不良率を計算してから判断したのでは手遅れだ。

工程内不良の波及性の判断を間違えば、顧客に不良品を出荷してしまう。最悪の場合は市場回収が必要になる。

つまり判断の速度と、判断の妥当性を両立しなければならない。
判断を急ぐあまり、判断の妥当性が不足する。判断の妥当性を上げるために、判断の適時性を失う。こういう危険性を回避しなければならない。

例えば、工程内で不良が発生する。その時点ではその不良原因は不明であり、波及性の有無も分からない。この時点でどう判断するか?

安全側に判断をする、という考え方もあるだろう。しかしそのために納期遅れが発生したのでは、顧客に迷惑を与える。
不良原因や波及性がまだ不明な状態で、リスクを最小にする高度な判断が要求される。そのために高い給料を払って品質部長を雇っている(笑)という意見もあるだろう。しかし品質部長が会議中や食事中にもタクトタイムに従って製品は次々と流れている。現場で対応可能な判断基準を持たねばならない。

原因は不明でも、その不良モードが顧客や顧客の顧客(ユーザ)に与える影響で判断する。不良率を計算する前に、単位時間の発生頻度で判断する。などの判断基準を現場が持っていれば、自律的判断でラインを停止し、より高度な判断を待つ事が出来る様になる。

判断基準の原則は、1:安全、2:品質、3:効率、の優先順位を守る事だ。

例えば、顧客やユーザの安全に関わる不良が発生すれば、直ちにラインを停止。不良原因を解析し、他の製品に波及性がない事が分かるまで、生産を停止する。電気製品の生産ラインでは、耐圧試験が該当する。

連続して2個同一不良が発生したらライン停止。
2時間で同一不良が3件発生したらライン停止。(2時間置きに小休止をしていたので、2時間を単位とした)

生産開始時に「初物検査」をするのも同様の趣旨だ。


このコラムは、2016年9月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第494号に掲載した記事に加筆修正しました。

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不良原因

 仕事柄非常にたくさんの不良再発防止対策書を見てきたし、自分自身で書くことも少なからずあった。本人は真剣に書いているのだろうけど、頓珍漢な対策書もある。詳細は書けないが、面白い(笑)事例をご紹介しよう。

研磨工程での傷不良に対し「力加減が不適切」と一次原因を分析、更に二次原因を「自主検査能力不足」としてあった。

これは全く論理があっていない。力加減が不適切ならば、傷がつくこともあるだろう。しかし自主検査能力不足が原因となって力加減の不適切は発生しない。

この様に逆から読み直してみれば、論理矛盾にすぐ気がつく。

連関図で一次、二次と直列につなぐからおかしくなる。

「力加減が不適切」は発生原因。
「自主検査能力不足」は流出原因。

発生原因と流出原因が重なると不良となる。連関図ではこの二つは並列になる。
簡単なことだが、担当している本人は気がつかなかったのだろう。こういう間違いを防ぐため、以下の様に指導している。
連関図(なぜなぜ5回)は逆から読んで見て論理矛盾がないか確認する。
不良原因は発生原因と流出原因をそれぞれ別に分析する。


このコラムは、2017年12月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第605号に掲載した記事に加筆しました。

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パレート図の書き方

 私が初めてパレート図の書き方を教わった頃は、電卓を使い方眼紙に鉛筆で描いた。今ではExcelを使い、あっという間にきれいにパレート図を描くことが出来る。

改善活動にはパレート図を活用することが多い。
例えば、不良低減活動をする場合、不良現象ごとに件数の多い順に棒グラフを、累積比率を折れ線グラフにする。この棒グラフと折れ線グラフの組み合わせをパレート図と呼んでいる。パレート図を見て、改善対象の不良現象に優先順位をつけることが出来る。

パレート図

パレート図

今一緒に改善指導をしている中国人コンサルも、パレート図を使っている。
パレート図として使えるレベルのグラフは描けているが、純正のパレート図とはいいがたい。これを見た私の助手が、すぐさま熱血指導(笑)で正しいパレート図をかける様にした。

実は私自身も正しいパレート図をExcelで描ける様になるまでには、試行錯誤を繰り返した。助手が中国人コンサルにパレート図の書き方を指導しているのを、横で頼もしく眺めていた(笑)

品質道場「QC七つ道具」でパレート図の書き方も指導する。


このコラムは、2016年4月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第473号に掲載した記事に加筆しました。

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ヒューマンエラー

 先週はつくばエキスプレス南流山駅で20秒早く列車を発車させた「事故」について考えた。この様な事故の原因を「ヒューマンエラー」とするから「乗務員の再教育」などと言う効果を実感出来ない再発防止対策しか出て来ない。

先週のコラム「南流山駅早発事故」

このメルマガでも再三申し上げているが、ヒューマンエラーは「原因」ではなく、「現象」だ。ヒューマンエラーが発生する原因を特定しなければ有効な再発防止対策を打つ事は出来ない。

ではヒューマンエラーとは何だろう?
JIS Z8115:2000「信頼性用語」定義では「意図しない結果を生じる人間の行為」となっている。

では人間の行為(行動)はどの様に決定されるのか?
心理学者レヴィンの行動の法則によると、人間行動は「人間特性」と「環境」の関数だ。つまり人は環境の制約中で、環境から得た情報を判断し行動する。情報の認識、判断、行動には人間特性が影響を与える。

ここで注意すべき点は「環境」は物理的な環境ではない。人が認識した心理的環境だ。

例えば、先日こんな笑い話をネットで発見した。
英語の授業中にall day longの下に教師が「田中」と板書した。さっぱり訳が分からなかった。と言うツィートが有った。教師が板書したのは「田中」ではなく「1日中」だ。1と日が近く「旧」の様に見える。しかも日の横棒が左に突き出ている。「1日」→「田」と誤認識した訳だ。

これをたんなる「笑い話」と考えてはいけない。我々製造業にも深い教訓が有る。例えば、材料の配合指示を手書きメモで「ABC(硬化剤 )10mg」と記した時に、硬化剤ABCを「110mg」添加してしまう可能性は否定出来ないだろう。

普通に考えればすぐに分かる事だが、人は自分の心が認識した現実に基づいて判断し行動する。その結果「意図しない結果を生じる人間の行為」となり事故が発生する。

ヒューマンエラーに対して、

  • 職業意識が高ければヒューマンエラーはしない
  • 初歩的なミスだ
  • 精神がたるんでいる
  • 注意力が足りない
  • こんな偶然はしかたがない

この様な考え方では、有効な再発防止は期待出来ない。
再教育・再指導をするが、年に1、2度再発する。それは偶然と諦める。と言う事になる。

我々はヒューマンエラーをした人の心理的環境や、行動の元になった判断を直接観察する事は出来ない。観察出来る行動により、なぜそうなったのか当人から話を聞くしかない。当然叱責、責任追及などとなれば真実は引き出せない。慢性化しやすいヒューマンエラーに有効な再発防止をしたいのであれば、叱責、責任追及は脇に置いて、再発防止対策検討の協力をあおぐ、と言う姿勢で対応した方が良かろう。


このコラムは、2017年11月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第595号に掲載した記事です。

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