品質保証」カテゴリーアーカイブ

続・見えない不良

 先週月曜日のメルマガでお約束した様に、書籍「『品質力』の磨き方」から、品質工学(田口メソッド)について、シェアしたい。

「『品質力』の磨き方」長谷部光雄著

品質工学に関してはこちらの書籍も大いに理解を助けてくれるだろう。
「技術者の意地」長谷部光雄著

この書籍は、湿度センサーの開発者が製造部門での不安定性、市場不良を解決すべく奮闘する姿が物語として語られている。品質工学を指導する十文字教授が登場するが、この人は品質工学の元祖・田口玄一教授がモデルだろう。田ー口=十だ(笑)

この2冊の書籍を読んでも即「品質工学」を活用出来る訳ではないが、考え方は理解出来る。その上で品質工学の専門書を読まれるのが良いと思う。

若い頃田口玄一教授の講演を聞いた事がある。残念ながら当時は田口教授の言っている事が全く理解で樹なかった(苦笑)田口メソッドは実験計画法の一種だと思っていた。田口メソッドは実験計画法の直交表を使うが、実験計画法とは全く違う理念に基づいた手法だ。

工程内不良や市場不良の原因を分析する時に、よく「分ければ分かる」と言う。
現象を層別したり、原因となる要因を分け、要因ごとに解析し対策を検討する。そんなやり方が一般的だろう。このやり方が悪い訳ではない。しかしこの方法は不良が発生しなければ、活用出来ない。

一方田口メソッドは「いじめれば分かる」という。
設計時に「いじめる」事により、より堅牢な(ロバスティックな)設計をするのが田口メソッドだ。堅牢な設計とは、製造時の変動や市場環境の変動による影響に対して「鈍感」にしておくと言う意味だ。
製造条件の変動に対して「敏感」であれば工程内不良は減らない。
市場環境の変動とは、ユーザの使い方や経年変化を含む。
これらの変動に対し「鈍感」(ロバスティック)になる様に設計パラメータを決める。

通常は設計パラメータを決定する場合、条件を製品仕様範囲内で検討する。
一方、田口メソッドの場合は、製造や市場での環境変動を仕様範囲を超えて極端に振る。これを「いじめ」と言っている。いじめによって、変動に「鈍感」なパラメータを設定し、特性に対して感度の高いパラメータで特性を調整する。

つまり変動に対する感度(SN比)と狙いの特性に対する感度(S)を同時に評価し設計するのが田口メソッドだ。

田口メソッドは「見えない不良」を設計時に先行対策するのに大いに力を発揮する。それだけではない、巨大化するソフトウェアの評価にも力を発揮する。

田口教授の講演を聴いてもさっぱり分からなかったが、その後もずっと気になっており、当時の部下に品質工学会に入会して勉強してもらった。彼はその後全社のソフトウェア評価の責任者になっている。

中国の日系工場は設計は既に本社で完了している事が多いが、徐々に設計を中国に移管し始めている企業もある。

書籍を読む限り簡単に応用出来そうだが、実際には制御因子、信号因子、誤差因子をどのように決めるかの経験智が必要になる。実践して経験を積むことにより活用出来る様になるだろう。

余談だが、本日ご紹介した書籍「技術者の意地」は、本のソムリエさんからいただいた。本のソムリエさんは、読んだ本を毎日一冊づつ紹介するメルマガを配信しておられる。読んで見たけど紹介に値しない本もあるだろう。年間356冊以上本を読んでおられると思う。驚異の読書量だ。

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このコラムは、2017年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第554号に掲載した記事です。

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見えない不良

 最近大規模な市場クレーム・リコール問題が多く発生している。
昔と比較して日本企業の技術力が低下しているのではないだろうか?私自身もこの様な危惧を抱いていた。技術力と言うのは設計技術ばかりではなく、生産に関わる現場の技術も含む。

バブル崩壊後、日本の製造業の多くが米国流の株主最優先の経営に傾倒し短期業績を追求した結果「現場力」を失ってしまったのが最大の原因と考えていた。つまり現場の職能工を、派遣社員や臨時工に置き換え人件費を変動経費化する事により経営を建て直そうとした。しかしその結果、現場に有ったモノ造りの力が消散してしまったのが原因と考えていた。

しかし、長谷部光雄氏の『「品質力」の磨き方』と言う書籍を読んで得心した。

『「品質力」の磨き方』長谷部光雄著

長谷部氏はリコーで複写機の開発をして来られた方だ。
彼の主張では、リコールの増加は技術力の低下ではなく、社会的要求の変化だ。

市場クレームやリコール問題が発生する製品は、製造過程では良品であった。工程内検査も、出荷検査も全て合格品だった訳だ。(この書籍が執筆されたのは2008年であり、昨今の検査データ改ざんなどの品質問題には触れていない)
出荷後の使用環境(温湿度や経年変化だけではなく、ユーザの使い方、期待等)の変化を予め想定出来なかった「見えない不良」がリコールの原因だと、彼は主張している。つまり現場力の低下が問題ではなく、開発設計力が市場要求の変化に追従できていない事が、リコール問題の根本原因だと言う。

設計の確からしさ、妥当性の確認が不十分だと言う事だ。もちろん設計評価に十分時間をかけていただろうが「見えない不良」(潜在不良)の想定が時代の変化に対して不十分だったと言う考え方だ。

「見える不良」「可視化で切る不良」は製造現場の力で排除出来る。しかし「見えない不良」を解決出来るのは開発設計工程だけだ。長らく開発設計に携わって来た技術者としての見識だろう。私も開発、品証を経験して来た者として、得心を得た。

書籍から判断すると、長谷部氏は「品質工学」(田口メソッド)に精通した方の様だ。近いうちに『「品質力」の磨き方』から得られた知見をシェアしたいと考えている。


このコラムは、2017年8月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第552号に掲載した記事です。

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品質記録

 先週と今週は、中国民営企業で現場改善を指導している。

現場で以下の様な状況を発見した。完成品の最終検査で不具合が見つかり、不良内容をテープに書いて不良現品に貼付けてある。大きな製品なので、不良品を入れる箱に入れる事は不可能だ。不良品置き場に隔離する事も、現実的ではない。不良を示すテープを貼る事は合理的だと思う。不具合内容も書いてあるので、後の修理処置も明確になる。

しかし驚く事に、この不良は記録されていない。

検査では検査数量,不良数量を記録している。不良の責任工程も記録してある。しかし不良内容が記録されていない。検査記録の目的が、我々の常識とは違っている様だ。彼らの検査記録は、出来高制の給与計算が目的なのだろう、と勘ぐってしまう。

彼らは、生産工程ごとに品質検査をしており、正しく加工出来た事を、1台毎に添付された検査記録表に記録している。ISOの要求だから記録している、と言う事なのだろう。

品質記録は自分たちの改善に活用すべきだ。各工程で発生した不良を記録する様に指導をした。品質管理担当の副総経理が、私の話を聞きながら熱心にメモしているのを見て、少し驚いた。このレベルから指導をしなければならない、と言うのは彼らの伸び代が大きいと言う事であり、私の貢献意欲が大いに刺激される(笑)

何かのコマーシャルで「物より記憶」と言うキャッチコピーが有った様に記憶している。社会が豊かになると、物への欲求より「思い出」の様な精神的な欲求が強くなるのだろう。

生産現場では記憶より記録が重要だ。

この工場の生産記録には、投入台数と完成台数だけしかなかった。更にかかった工数、正規工数よりよけいにかかった時間とその原因などの項目を追加した。

その結果色々な事がデータとして分かる。
生産現場のリーダや管理職は、部材が計画通りに揃わない事が、生産ロスの最大の原因だと主張している。しかしデータから判断出来る事は、生産機種の変更に最も時間がかかっていると言う事だ。

彼らの主張通り,部材調達問題の改善に取り組んでもそれほど大きな効果は見込めないだろう。機種変更段取り時間をいかに短縮するかが、優先課題だ。

この記録から、ある工程では、5月上旬を境に生産性が平均70%向上している事が一目瞭然となった。生産性が急増した境目は、前回指導時に与えた宿題が実施された日だ。

実はこの工程に与えた宿題は2S(整理・整頓)だけだ。
不要不急の部材を整理し、今生産する為の部材を適切な場所に整頓する。たったこれだけの事で生産性が70%向上した。


このコラムは、2016年5月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第477号に掲載した記事に加筆しました。

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記憶より記録

 2010年4月5日配信のメルマガで「記憶より記録」と言うタイトルでコラムを書いた。行動主義で部下を評価する、そのためには記憶より記録が重要だ、と言う論旨だった。

今回は別の切り口で「記憶より記録」について考えてみたい。

QCC活動などで問題解決のテーマに取り組む場合、正しく課題を設定する事、原因分析により真の原因を発見する事が重要となる。

原因分析には色々な手法があるが、QC七つ道具の「特性要因図(魚骨図)」を描いて安心してしまうサークルが多い様に思う。確かに特性要因図は、問題の原因となる要因を沢山挙げるための有効なツールだ。その要因が真の原因である事を確かめる。今回の原因ではないが、潜在的不具合要因に対策を検討しておく、などの様に活用する事が出来る。

QCC活動の指導をしている企業で、金属表面処理の不良改善に取り組んでいるサークルがある。何時間もかけて表面処理をした結果、不良となる。その間のコストだけではなく、再処理のために金属表面を化学処理で元の状態に戻す時間とコストが必要になる。彼らの目標は数%の改善だが、その年間費用改善効果は数100万元を越えている。(計算は直接損失コストしか含んでいないが、不良ロットの修復にかかるコストや、納期遅延による顧客信頼ロスを含めるともっと改善効果は高そうだ)

初めてQCC活動をする彼らも、特性要因図を描いた所で安心している(笑)
その結果、表面処理設備の真空ポンプと蒸着の陽極電源の故障が主原因と分析した。彼らは今までの経験(記憶)に従って,不具合発生の要因を挙げ、その中から主原因を選択している。やり方が間違っている訳ではないが、証拠を揃えながら原因分析をしなければならない。

彼らは、金属表面処理の専門家ではあるが、設備(真空ポンプや高圧電源)の専門家ではない。彼らが取るべきアプローチは、過去に発生した設備故障の原因と製品不良の因果関係を記録によって調べる事が最初だろう。その結果、何が主要因であるか絞り込む事が出来、更に真の原因を分析する事が出来るはずだ。真空ポンプや高圧電源は彼らに取って専門外の固有技術であっても、管理技術で分析した結果を元に、設備メーカと協力して原因分析、対策検討が出来るはずだ。

管理技術だけで問題解決をする事は出来ない。しかし「記憶」と言う不確かな状況証拠だけではなく、「記録」と言う客観的な証拠を元に管理技術を駆使し固有技術を持っている人の協力を求める。こういうアプローチで改善が出来るはずだ。


このコラムは、2017年6月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第534号に掲載した記事に加筆しました。

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問題解決の優劣

 問題に優劣なし、問題解決に優劣有り。
 問題に気付かぬは問題外。
 処置のみするは下。
 再発防止をするは中。
 未然防止をするのが上。

現場の改善指導をしていてこの標語を思いついた。
問題には影響の大小、重軽はある。リコールに発展する市場問題、工程内で発見出来る不良問題など、経営に与える影響の大きさは同じではない。従って問題に対する対応の優先順位や緊急度の違いはある。しかし問題そのものに優劣がある訳ではない。

問題に優劣はなくとも、問題解決には優劣がある。
問題解決を誤って倒産、と言う事例を挙げればきりがないだろう。

使用期限切れ材料で問題を起こした飲料会社は、問題解決を誤り倒産。
ゴキブリ混入問題を起こした食品会社は、工場・設備を作り直し清潔の見える化を徹底した。たった1件の問題にここまで対応し、消費者の信頼を回復。

この差は大きいが、違いは僅かだ。
問題発生時に世間(お客様)から逃れようとするか、真っ向から対応するかの違いだ。

問題解決の優劣を検討してみよう。

「問題に気付かぬは問題外」
 これは説明するまでもないだろう。
職場で発生しているヒヤリハット問題に気が付かず放置した結果、安全事故が発生する。
工程内で発生している慢性不良に気が付かず(麻痺して)放置、客先に流出、最悪市場まで流出。

「処置のみするは下」
 処置とは、発生した問題を正常に復帰させることをいう。次の様な例で理解出来るだろう。
設備から異音が発生。調査の結果扉を固定しているねじが緩んで、扉が設備の振動と共鳴し異音発生と原因が分かった。
ねじのまし締めをするのが処置。
なぜねじが緩んだのかを原因究明しないと問題解決は出来ない。

人為ミスに対し、ミスをした作業者に「注意」「再教育」「罰金」をするのが処置。
なぜ人為ミスが発生するのかを原因究明しないと問題解決は出来ない。

「再発防止をするは中」
 前述の例で言えば、再発防止とは次の様な対策となる。
なぜねじが緩んだ→ねじに振動がかかり続けた。なぜネジに振動がかかった→モータが振動した。なぜモータが振動した→モータのプーリーが偏心。
と解析の深度を深めれば、プーリーの偏心を修正する事が再発防止となる。

人為ミスも同様に解析し、やりにくい、分かりにくい、間違えやすいなど人為ミスが発生する原因を除去する事で再発防止となる。

再発防止の中でもランクが存在する。

  • 人の注意力に依存する対策(例えば目視検査)は下の下。
  • 検査で不良を除去するのは下。
  • 発生原因を除去する生産方法の改善(例えば治具の活用)は中。
  • 発生原因そのものを除去する(例えば設計変更)は上。

「未然防止をするのが上」
 未然防止とは、まだ発生しない問題に対し対策を実施する予防保全だ。
例えば次の様な問題に対する事前対策が未然防止対策だ。

  • 工程内で発生したヒヤリハット。
  • 設計、生産に於ける潜在不良。(FMEAが活用出来る)
  • 他社事例、異業種事例。

このコラムは、2017年6月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第533号に掲載した記事に加筆しました。

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言葉の定義

 中国企業で不良低減の指導をしている。製造各部門、技術、品質、購買リーダに集まってもらい、各部門の困っている事を列挙してもらった。

以前別の中国企業でも同じミーティングをした事がある。この時はテーマが大量に出て、収集がつかなくなった(笑)
今回はあらかじめ各部門に問題点を3つ考えてもらった。それでも4、5個問題点を出して来る部門がある。今までこのような機会がなかったのだろう。毎回このミーティングは熱くなる(笑)

今回の改善活動は塗装部門の課題となった。各部門のリーダが一緒に改善活動に取り組む。もちろん購買部門のリーダには塗装不良はあまり関連がない。
参加してもらうのは、各部門のリーダに改善手法を理解してもらい、同様な活動を自部門で展開してもらうためだ。

塗装部門で発生する『飛辺』『毛刺』不良の改善が課題となった。
塗装不良が発生すると、手直し作業をしなければならない。手直し作業にはベテランが投入される。そのため通常作業は新人やパートなど未熟練作業者が従事する。そしてまた不良が発生すると言う悪循環となっている。

まずは作業現場で行き、不良が発生する「点」を観察する。

この観察により『打磨』と言う作業がポイントだと分かった。この『打磨』と言う作業は、ナイロンたわしで塗装面をこする作業だ。
しかしこの作業は二つの役割を持っており、方法も少し変わる。一つは、マスキングテープを密着させるのが目的。もう一つは、重ね塗りをする塗装面を荒らして塗料のつきを良くするのが目的。

従って『打磨』作業は、目的によって作業対象となる部位、達成すべき状態が異なる。まずは、目的の違う作業に別の名前を付けるべきと感じた。
もちろん作業指示書には、二つの作業の目的も方法も書いてある。その作業が同じ名前だと言うだけだ。それだけの事で問題視する事はなかろう、と思う方もあるだろう。
しかし言葉の定義をおろそかにすべきではないと考えている。
人の思考は言葉で決まる。そして思考が行動を決める。
そのように考えると、目的の違う作業には違う名前を付けた方が良いだろう。


このコラムは、2016年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第484号に掲載した記事に加筆しました。

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洞察力

 例えば組み立てラインの不良部品を入れる箱に、ねじが一本入っているのを見つけたとする。見つけたねじは正規の部品M3×10mmではなく、M3×8mmだった。これを見つけたあなたはどうするか、考えてみていただきたい。

このねじを見つけた時のリスクをどれだけ思い浮かべられるかが洞察力であり、そのリスクに対してどういう行動を取るかが、リーダの資質だ。そしてそう言うリーダを育成する事があなたの仕事だと思うがどうだろう。

問題が起きてから部下を叱るのではなく。部下にリスクを洞察する力を付けてやるのが、経営幹部の仕事だ。

例えば、冒頭のねじを見つけた時にたまたま異部品の混入を見つけたのは1本だけだったが、他にも短いねじが混入しており、気が付かずにそのまま組み付けてしまった可能性があると考える。そして即座にラインを止めて完成品、半完成品のねじを再チェックする。一瞬でこういう判断と行動が取れれば合格だと思う。判断が遅れてしまうと、不良の可能性がある半完成品が大量に後工程に流出することになる。その結果、ねじの再チェックを実施する決断が鈍る。

自分自身が、判断・決断が出来てもまだ十分ではない。実際に生産に直面している班長がリスクを評価し、判断・決断出来る様に育成しなければならない。

本当の所は、作業員が異常を見つけた時に作業員自身がラインを止めることが出来る様になる事がゴールだ。

こちらの記事もご参考に「答えを教えない教え方」


このコラムは、2017年7月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第536号に掲載した記事に加筆しました。

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京浜東北線脱線再発防止対策

 先週のニュースからに、京浜東北線で発生した工事用車両と回送列車の衝突脱線事故をご紹介した。

同様の事故は

  • 1999年2月、東京・品川のJR山手貨物線でも発生。作業員5人が死亡。
  • 2003年10月、JR京浜東北線の大森─大井町間で、乗客約150人を乗せた電車が、補修工事で線路内に置き忘れられた機材と衝突し、立ち往生した。

このため、保守作業前の線路閉鎖を徹底させるなど点検を厳格にしてきたが再発は防げなかった。典型的な「うっかりミス」による慢性的再発問題だ。再発防止対策が有効ではないため、期間をあけて慢性的に再発することになる。

この事故に対する有効な再発防止対策を検討する事を、先週のメルマガで読者の皆様に提案をした。お考えになっただろうか?残念ながら私に対策をメールして下さった読者様はお一人しか居なかった。

この事故原因を記事から整理してみると、

  • 下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した。
  • JR東日本職員が不在であり、管理監督責任を果たしていなかった。
  • 工事用車両は車輪に非電導ため自動列車制御装置(ATC)が効かない。(ATCシステムは左右の線路を電気的に短絡することにより、車両の位置を750m間隔で確かめることができる)

この条件で、再発防止対策を考えてみよう。

このような問題が発生すると、一番気の毒なのは下請け業者だ。
事故で亡くなるのは下請け業者の社員であり、事故によってその下請け業者は指名業者から外されたり、一定期間出入り禁止となったりする。その結果倒産廃業となる事もあるだろう。
国鉄時代からの風習で下請け業者は、お上には逆らえないと言う体質が受継がれている様に思う。

以前の事故に伴い「点検を厳格にする」と言う対策をとってもJR職員は現場にすら居なかったと報道されている。

「うっかりミス」がきちんと防げないのは、なぜうっかりしてしてしまうのかにメスを入れずに、単純に点検を厳格にするなどとするからだ。うっかり点検を忘れる、と言うミスもあり得るはずだ。

点検で「うっかりミス」を防ぐためには、点検動作をしなければ、次の工程に進まない様にするくらいやらねば有効とは言えない。

本事例には上手く適合出来ないかも知れないが、一世代前のボーイング社の旅客機の扉には「うっかりミス」防止対策がしてあった。(先週乗ったB787にはこの仕掛けがなくなっていた)

航空機の扉は、着陸後開ける時にマニュアルモードにしなければならない。オートモードのまま扉を開けると、脱出用シュートが出てしまうからだ。そして離陸する前に扉を「うっかり」マニュアルモードのまま締めてしまうと非常事態の時に扉を開けても脱出シュートが出ない。
マニュアル・オートの切り替えをうっかり忘れない様に、扉の開閉レバーを操作する時に必ずマニュアル・オート切り替えレバーに付いているピンを抜く動作が必要になっている。こういう仕組みが点検動作による「うっかりミス」防止だ。製造現場では「ポカよけ」と呼んでいる。
ただ点検を厳格にすると言っても有効とは言えない。

しかし本事例の本質的対策は、点検ではない。ATCを有効にすれば良いのだ。トラックを改造した工事用車両だから、左右の車輪間で電気的導通がない、だからATCが効かない。その通りだろう。しかしATCが効かない理由を考えても意味はない。ATCさえ効けば、今あるシステムで衝突回避は出来るはずだ。

トラックのタイヤのままでは、左右の車輪で導通を取るのは難しいだろう。
しかしタイヤは、鉄道用の車輪に変更されている。チョットした工夫で左右の車輪の導通が取れ、ATCのシステムが働くはずだ。

※上海のN様の再発防止対策。
ポイントは「下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した」という部分かなと思いました。

つまり、「うっかり手順を間違えてしまった場合」でも事故が起きないような対策を取る事がポイントです。なぜなら「下請け業者」というのは自社ではないので、場合によって変わる可能性があります。

現下請け業者へ対策を講じても、何かの原因で下請け業者が変わってしまい、仮に今回の事故の教訓が伝わらないようなことがあれば再び事故が起きてしまうからです。

私が注目したのは、「ATC」です。本来ATCはうっかり手順を間違えた時に作動する装置のはずです。それが工事用の車両だけ対象外になっていることが問題だと感じました。

「ガソリンが動力の工事用車両は車輪に電気が通らないため、作動の対象外」
この対象外を対象内にする改良を加える事を義務化すると再発防止に繋がるのではと思いました。

満点をさし上げてよい回答だと思う。
私も(多分)N様もJRの仕事をした事はないので、ピントがずれているかも知れないが、今あるシステムで上手く行く方法を考えるのが良いと思う。
問題が発生するたびに個別に対応する再発防止対策を考えると、再発防止対策だらけとなり、管理しきれなくなる。例外処理を作らない様に再発防止を考えるのが肝要だ。


このコラムは、2014年3月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第352号に掲載した記事に加筆しました。

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京浜東北線脱線、現場の線路閉鎖されず 工事手順ミスか

 JR東によると、線路内での作業は「線路閉鎖」の後で始める手順だった。現場の「閉鎖責任者」の端末から、JRのシステムを経由して運転席に停止信号を送る仕組みだ。閉鎖されれば電車は減速し、現場の手前で止まる。だが京浜東北線の北行きは事故当時、線路閉鎖に向けた確認作業中。乗客がいれば大惨事につながった可能性がある。

京浜東北線の回送電車が横転 川崎で進入の作業車と衝突

 回送電車は横浜市のJR桜木町駅で乗客を降ろし、東京都大田区の蒲田駅に向かっていた。一方、工事用車両(全長5・1メートル、幅2・5メートル、重さ9・5トン)はガソリンを動力に、単体で動く。川崎駅の東側から西側へ、順に東海道線の下り(南向き)と上り(北向き)、京浜東北線の南行きの各線路を閉鎖して横断。同線北行き線路上で、車輪走行の準備をしていた。

 JR東は「本来は工事管理者から、工事用車両の運転手に作業開始の指示があるはずだが、その有無は確認中」としている。

 同様の事故は1999年2月、東京・品川のJR山手貨物線でも起き、回送電車にはねられた作業員5人が死亡。2003年10月にはJR京浜東北線の大森―大井町間で、乗客約150人を乗せた電車が、補修工事で線路内に置き忘れられた機材と衝突し、立ち往生した。このため、保守作業前の線路閉鎖を徹底させるなど点検を厳格にしてきたが再発は防げなかった。

 今回、電車は自動列車制御装置(ATC)も搭載していた。電車間の位置を検知し、後続列車が停止する仕組みだが、ガソリンが動力の工事用車両は車輪に電気が通らないため、作動の対象外という。

 鉄道アナリストの川島令三さんは「現場に業者をチェックするJR東の担当者が不在なのは問題。コスト削減のためか現場を業者任せにする態勢が続いている。業者への指導にも責任がある」と指摘する。

(朝日新聞デジタルより)

 東急東横線の追突事故に引き続きJR東日本でも衝突事故を起こしている。
乗客が乗っていない車両の事故だったのが、不幸中の幸いだった。しかし反対側に脱線していれば、乗客を乗せた列車と衝突した可能性もある。

工事用車両と言うのは、小型トラックを線路を走らせるためにタイヤをレール用の車輪に交換した改造車の事だろう。

日経新聞の記事も合わせ読むと、事故発生の状況は以下の通りだった様だ。

工事用車両の男性運転手(43)が神奈川県警の聴取に「作業時間を間違え、閉鎖される前の線路に車をのせてしまった」と話している。
事故当時、工事管理者(JR職員)らは現場近くで打ち合わせをしていた。
工事管理者らは、JR東日本の調べに「作業開始の指示は出していない」と説明している。

この事故原因を記事から整理してみると、

  • 下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した。
  • JR東日本職員が不在であり、管理監督責任を果たしていなかった。

と言うことになろうか?

国交省は、緊急対策会議を招集している。

さてこのメルマガを読んでおられる読者様は、この事故に対してどのような再発防止対策を取ったら良いとお考えだろうか?
本業と関係なくても、この様な人為ミスに対しどう再発防止を立てるか、思考訓練のために考えてみていただきたい。
お考えになった事故再発防止対策をぜひ教えていただきたい。このメールにご返信いただければ、私に届く。

私の再発防止対策は来週のメルマガで発表する。


このコラムは、2014年3月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第351号に掲載した記事に加筆しました。

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神戸製鋼所データ改ざん

 一年近く前に発覚した神戸製鋼所の検査データ改ざん問題で、検察は企業に対し虚偽表示で起訴、検査責任者の品質部門長は不起訴処分となった。と毎日新聞が7月20日付で報道している。

東京地検特捜部と警視庁による捜索から1カ月余りで起訴するというスピード捜査となった。その背景は、欧米の司法が調査に乗り出そうとしているため、神戸製鋼所が社内データの海外流出を恐れ、早期決着のため地検・警視庁の捜査に全面協力したと毎日新聞は解説している。

昨年10月頃に神戸製鋼所、日産自動車で立て続けに発覚した検査データ捏造・改ざん問題をコラムに書いた。この事件により神戸製鋼所が顧客から信頼を失い、最悪倒産するという私の予測は外れたようだ。

神戸製鋼所データ改ざん問題

ちなみに株価総額は、問題発覚直後に2,900億円を割り込んでいたが、先週末現在3,700億円を超えている。

この事件の深層には「川上産業の傲慢」があるのではないかと感じている。顧客は不正があったとしても、他から調達ができなければ転注はできない。

深々と腰を曲げお詫びしながら、心の中では仕様通り生産するには値上げを顧客に呑ませねば、などと考えているのではなかろうかと邪推してしまう。

我々がこの事例から学べることがあるとすれば、神戸製鋼所を反面教師として

  • 工程能力指数を上げる努力をする。
  • 顧客との仕様取り決めを真摯に行う。

チェック機能として、受注判定会議の議事内容に「仕様の妥当性確認」を追加。ということになるだろうか。
(以上の検討は、事実関係に基づいたものではなく私個人の私見です)


このコラムは、2018年7月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第697号に掲載した記事に加筆しました。

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