品質保証」カテゴリーアーカイブ

続・四川航空機事故

 先週のメルマガで四川航空機の緊急着陸事故をお知らせした。概要は以下のとおり。

中国・重慶からチベット自治区ラサに向かっていた四川航空エアバスA319型機(乗客・乗員計128人)が、高度約10,000m上空を飛行中に操縦室の窓が突然、破損して脱落。副操縦士が外に吸い出されそうになり、成都・双流国際空港に緊急着陸。副操縦士と女性乗務員が軽い怪我、乗客に負傷者なし。

まだ事故原因となった窓ガラス脱落の原因は発表になっていない。先週私はメンテナンス時の問題を推定した。その後のニュースによると、事故機体は11年に同航空が導入。飛行時間はのべ1万9912時間で、落下した窓ガラス周辺を含め、最近15日間に修理した記録はなかったという。それでもメンテナンス時の作業ミスの可能性は残っているだろう。

今回再び取り上げたのは、以下のような記事を見かけたからだ。
米華字メディア『多維新聞』は以下のように指摘している。

“ネット上ではこの出来事を「中国版ハドソン川の奇跡」と称し、乗客乗員の命を守った機長に対する絶賛の嵐が吹き荒れていると紹介。そのうえで「よくよく考えると、恐ろしい。最近の飛行機は手動操縦の機会が少なくなっているからだ。もし機長に空軍での操縦経験がなかったら、大惨事になっていたかもしれない。事故の原因を究明し、四川航空の責任を追及せよとの冷静な声は、ネットユーザーの大絶賛の前に隠れてしまっている」と指摘している。”

『多維新聞』は反政府系のメディアなのだろうか(笑)
ネットでの大絶賛が、真の原因追求を阻害している。そしてそれを演出しているのが政府筋だとすると、私が期待する原因調査の公開はないのかも知れない。

しかし上記の記事には承服しかねる。
「事故の原因を究明し、四川航空の責任を追及せよ」というのが冷静な声だとしているが、事故原因がまだ判明していないのに「四川航空の責任を追及」という言葉が出てくるのが奇異だ。こういう声が冷静だとは思えない。事故原因の究明は、事故原因の責任主体を明らかにすることも含まれる。その責任主体をあらかじめ明示して事故原因究明を行う、という点に全く承服できない。

大げさに言えば「魔女狩り」だ。あいつは魔女だ、と決めて証拠を集める。
こういう手法では、有効な再発防止を考えることは不可能だ。

同様に「事故機は天津の工場で組み立てられた」という意見(真実かどうか判定できないので「意見」と表記する)も、原因分析にバイアスをかける作用を持つ。

原因分析に対して、なんら仮説を持たずに立ち向かうことはなかろう。しかしその仮説が「漏れなくダブりなく」で列挙されており、事実に基づいて採否を判断しなければならない。

私たちの製造現場で起きている問題の原因分析や、改善活動の現状把握も同様だ。予断を持って事に当たれば正しい判断や分析はできない。


このコラムは、2018年5月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第673号に掲載した記事に加筆しました。

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四川航空機事故

 

「中国機、1万メートル上空で窓脱落 体の半分が外に」

 中国メディアによると、中国・重慶からチベット自治区ラサに向かっていた四川航空のエアバスA319型機(乗客・乗員計128人)が14日、成都に緊急着陸した。高度約9800メートルの上空を飛行中に操縦室の窓が突然、破損して脱落。副操縦士が外に吸い出されそうになり、操縦室内の気温も零下20~30度に急低下したという。

 中国メディアの取材に応じた機長の話によると、窓が割れたのは成都まで100~150キロの地点。副操縦士の体の半分が操縦室の外に吸い出されたが、シートベルトをしていたため、転落せずに済んだ。副操縦士は顔と腰を負傷した。

全文

(朝日デジタル)

 重慶や四川の中国企業の指導で四川航空は何度か利用したことがある。他人ごとではない事故だ。
5月14日に発生した事故なので、まだ事故原因などの発表はない。

最近同種の事故が発生している。
「女性の上半身が機外に、乗客ら引っ張り戻す 米国機事故」

こちらの事故は、1万m上空を航行中のノースウェスト機で客席の窓が割れ女性乗客が吸い出され死亡している。国家運輸安全委員会(NTSB)が調査中だが、エンジンが金属疲労を起こしていた可能性が指摘されている。

四川航空機の場合は操縦席の窓が破損しているので、ノースウェスト機の事故とは違う原因だろう。また1万m上空を航行中だったので、バードストライクも考えにくい。

過去の同様事故を探してみると、1990年6月10日に発生したブリティッシュ・エアウェイズで操縦席の窓が割れ機長が機外に吸い出された事故があった。
この時の事故は、メンテナンス時に規格外のネジ(正規品より短い)で窓枠を固定したことが原因だった。

航空機事故の事故原因は「メンテナンス」に関連するものが多いという印象がある。上記米、英の事例も、御巣鷹山の事故もメンテナンスの問題だった。

我々製造業もメンテナンス直後の事故(災害だけでなく不良発生も含む)発生事例は多くある。この機会にメンテナンス手順、実際の作業、記録方法などを見直してはいかがだろうか。

今回の四川航空機事故は、中国民用航空局が事故原因調査をすると思われる。
公正な調査が行われ、原因が公表されることを期待したい。


このコラムは、2018年5月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第670号に掲載した記事に加筆しました。

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人的要因に対する改善

 5月から隔週で開催しているQCC道場が佳境に入っている。対策実施、効果確認のフェーズに入っている。目標を達成すると年間効果額が100万元、200万元と言うチームがある。大変楽しみだ。

今回は人的要因に対する改善対策のノウハウをメルマガ読者様にもお伝えしたい。例えば人為ミスで発生する不具合、技能の熟練不足で発生する不具合、を改善し不良削減や効率改善の対策を考える場合の考え方だ。

原因分析を「人為ミス」「技能不足」で終わってしまうと、往々にして「教育訓練の強化」「作業指導書に厳格に従わせる」などの抽象的かつ効果を実感出来ない対策となる。多分これでも効果は出るだろう。それは効果を測定する際に、サークルメンバーの思いがバイアスとなり作業員が頑張るからに他ならない(笑)この様な効果は長続きしない。

原因分析を「人為ミス」「技能不足」から更に一歩二歩深める事が、より良い対策を見いだすコツだ。

「人為ミス」がなぜ発生するのか?更に掘り下げると、作業方法が不適切とわかる。どのように不適切か?やりづらい、手間がかかる、と更に問題点を掘り下げる。そうすれば、作業方法を変える、治具を作る、自動化するなどのより具体的かつ効果が実感出来る対策を考えつく事が出来るはずだ。

「技能不足」も同様にどの作業のどういう技能が不足しているか、まで分析を深めれば、どんな作業訓練をすれば良いか、又は新人でも作業出来る様にするためにはどうすれば良いか、と言う具体的な課題を見つける事が出来る。


このコラムは、2017年7月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第535号に掲載した記事に加筆しました。

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データについて

 科学的なアプローチを取ろうと思えば,データが重要であることは皆さんよくご理解しておられると思う.

しかし何のためにデータを取っているのかが明確になっているだろうか?

班長さんが,本日の生産日報を書く.生産日報には生産投入数,生産完了数,不良数などが記入されており保管される.一ヶ月経つと一月分にまとめてファイルに閉じられる.一年経つとファイルから取り出し,紐で閉じ保管用の段ボール箱にしまわれる.

班長さんが毎日残業して日報を書くのは,段ボール箱に保管するためなのか?

活用されないデータはムダである.こんな極端な例はまれかもしれないが,ほとんど同じと言える例を何度も見てきた.なぜそのようなデータを取っているのかと聞くと「ISOのためです」という答えが返ってくるのが通常だ.

ISO9001には生産日報を記録しろと言う要求事項はない.

データを取る目的を明確にし,最適の方法でデータを残し,分析・活用をする必要がある.

例えば,半田槽の溶融半田の温度を測定するのは,設備が正しく運用されていることを確認する意味がある.しかしそれをエックスバー・アール管理図に書き込むのは全く意味がない.

同じくエックスバー・アール管理図を,部品の受け入れ検査に応用している例を見たことがある.具体的にはコンデンサの容量値を受け入れロットごとに抜き取り測定をし,エックスバー・アール管理図に書き込んでいた.一見統計的手法を活用して,データを管理しているように見える.しかし普通は部品工場での生産ライン・生産設備が毎回同じと特定出来ないので,エックスバー・アール管理図で問題を見つけるのはほとんど不可能だ.

不良手直し件数はあるが,不良内容の記録がない.これではデータは改善の役には立たない.

タッチアップ工程に,修正記録用紙があるがタクトタイムから考えて記録をしている暇がない.この様な工程から出てきたデータを分析に使えば,正しい判断は出来ない.

データを記録するのは,管理や改善のためである.
しかしデータだけを眺めているだけでは何も分からない.
データを採取している現場をよく観察しなければならない.


このコラムは、2010年6月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第157号に掲載した記事に加筆しました。

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生産現場の静電気管理

 先週お邪魔した電子応用製品の生産工場は静電気の管理が良くできていた.
導電材料で床が接地されており、作業員は(見学者も)導電性の靴を履いている.

しかしそこまで静電気対策ができているのに作業員はみな静電気防止用のリストストラップを着用している.

この工場はセル方式の生産ラインを組んでおり、作業者は立ち作業である.この場合リストストラップの接地線は、作業者の行動範囲を限定する.又機械取り扱い作業者はリストストラップをすることにより、接地線が機械に巻き込まれるなどの作業安全上のリスクもある.

導電床に導電靴を使用していれば静電気防止ができているのになぜリストストラップまで使用するのか尋ねてみた.管理者の方はお客様の指摘によりリストストラップを使用せざるを得ないとおっしゃっていた.

生半可な知識で生産協力工場の指導をするものではない.

私も前職勤務中にお客様の監査を受けたときに、不条理な要求・指摘を受けることがまま有った.その都度きちんと説明をして納得いただくよう努力をしていた.
中には自説を金科玉条とし聞き入れていただけない場合も有った.

時にはリストストラップの接地線の抵抗が1MΩもある、切れかかっているのではないか.というご指摘を受けたこともある(笑)その都度きちんと説明している.そういう積み上げで監査官の方との信頼関係ができてくるのだと思っている.

中国の工場を指導して回っていたときに、こちらの指摘に対し「すぐ改善します」と素直に受け入れるのだか、次回訪問してみると何もやっていないことがよくあった.「お客さんだから頭を下げておこう」的な発想だろうが、こういう工場は印象が良いだけで内容がまったくない.


このコラムは、2008年1月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第17号に掲載した記事に加筆しました。

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ISO9001導入

 ISO9001を導入したいという台湾資本の工場から引き合いをいただいた.

以前,他の工場をお邪魔したときに通された応接室にISO9001のシステム文書がファイルに入ってでんと飾ってあった.中を見せていただくと案の定一度も読んだ形跡がない.

コンサル会社がシステム文書一式を提供し,手っ取り早くISO9001の認証取得をしたようである.お客様から要求があるからISO9001の認証を取る.商売のライセンスと考えておられるのであろう.ライセンスの維持や更新にコストがかかるのはやむをえないという考えであろう.

しかし本来ISO9001は品質向上・顧客満足向上経営ツールとして活用してこそ導入の意義があると考えている.

この工場は生産現場を見せていただいても,品質に対するまじめな取り組みが見えてこなかった.

そんな経験があったので,今回の引き合いにもあまり乗り気ではなかった.
そんな気持ちで,先方の董事長と電話で打ち合わせをした.

しかし董事長の「ペーパーISOは要らない」の一言で私の心に火がついた.すぐに工場訪問の日程を決めさせていただいた.

問題は11月までに認証を取得したいということだ.
一ヵ月半で「魂の入った品証システム」を構築し,全従業員が魂をこめて運用できるようにするのはほとんど不可能である.
玉砕覚悟の仕事ではあるが,董事長の心意気に何とか応えたいと考えている.


このコラムは、2007年10月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第2号に掲載した記事に加筆しました。

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表現力

 独立して13年余り、多種多様な生産現場で改善のお手伝いをして来た。前職勤務時に生産委託先の指導をして来た期間を入れると20年余りになる。

生産委託先の品質・生産性改善指導をしていた時は、自分の中でこのくらいは改善できるだろうと目算し取り組んでいた。リーダシップを発揮し、指導先のリーダを巻き込んで改善する方式だった。

独立してこれでは効率が悪いことに気がついた。目標を提示し、改善方法を教え改善リーダを育成する。その結果業績に貢献し、改善リーダの能力も向上する。しかしそれは「与えられた経験」だ。自ら勝ち取った経験ではない。
そんなことを考える様になった。

問題発見能力・解決能力を高め、継続的に改善活動を進める意欲を高める。
これを効率よくやるためには、自分で問題を発見し解決する。そして達成感を感じることが必要だと考えている。

そんなわけでQCCストーリィを意識した指導をして来た。
改善活動のテーマ・目標も指導先のリーダたちが話し合って決める。もちろん自由気ままに活動してもらうわけではない。業績に直結するテーマを選ぶ様に、成果が出る様に導く。成果が達成感となり、継続の意欲が高まるからだ。

例えば、直行率が80%の工程の改善をする。目標は18%改善、直行率98%にする。こういう目標をメンバーが決めると、指導をするわけだ。

同じ活動テーマでも、言い方を変えれば「20%の不良を1/10に減らす」となる。同じことだが18%改善という目標より、不良を1/10に減少の方がより高い目標の様に感じる。成果も同様だ。達成感が違う。達成感が自信につながる。さらに改善効果を金額換算する。より実感が湧くだろう。

活動の内容も成果も同じだが、表現を変えるだけでメンバーの達成感が上がり、さらに改善を続けようという意欲が湧く。


このコラムは、2018年8月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第702号に掲載した記事に加筆しました。

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設計品質

 独立して中国工場の改善支援を始めた頃、顧客のほとんどが日系企業、台湾企業だった。製品の設計は全て日本や台湾の本社で行う。中国工場の技術は設計のマイナー変更や、生産技術的な設計変更に関わっていた。

生産現場の生産性・品質改善に対して設計は大きな影響力を持つ。
例えば、工程内不良を減らすために治具を工夫して生産するよりも、不良が発生しない様に設計を変えてしまった方が、品質改善効果が高い。何よりも設計力が高まれば、新機種の生産を垂直立ち上げが可能になる。

前職時代に電源装置を担当していた。中国生産委託先での直行率を生産開始後3ヶ月で99.99%以上にした事がある。この生産委託先工場は、台湾本社で自社設計の製品も生産している。しかし工程内不良が100ppmを切る製品はひとつもない。量産開始後3ヶ月で生産を安定化させた事もなかった。

これが出来るのは製品設計や工程設計の品質を高める仕組みを持っていたからだ。

実は独立後最初の契約をくれた顧客は、この台湾企業の中国工場だった(笑)
契約時の約束通り、半年で顧客クレームを1/2にした。台北にいる設計の協力がなくてもこの程度は簡単に行く。

この上のレベルを目指すために設計品質の改善を目指した。
しかし台北にいる製品設計部門を直接指導する事が出来なかった。そこで中国工場側で、新製品試作レビュー、量産移行審査の制度を作り間接的に指導する様にした。試作レビューで設計改善要求を出しても「製造克服」と回答してくる事がままあり、設計品質向上の速度は緩やかだった(笑)

最近は中国企業の指導をする機会が増えた。製品設計部門も同じ場所にある。前職時代に作った設計品質向上の仕組みが使える。
仕組みを簡単に説明すると、失敗事例・改善事例の蓄積とレビューシステムだ。
初めの取り組みは、過去の事例収集が必要だが、これにより急速に設計品質が向上する。その後は継続的に設計品質維持向上が可能になる。


このコラムは、2016年11月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第502号に掲載した記事に加筆しました。

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品質保証と言う仕事

 先週末は,今指導している中国企業の経営会議の報告を受けた.
前回と違って,ほとんどの部門長はグラフを使って自部門の業績を報告出来たそうだ.情けない話だが,このレベルから教えなければならない.

この程度のことでは喜んでいられない.
彼らは広大な土地に宮殿の様な工場を建てて,仕事をしている.私の判断では,この工場は倒産の危機に瀕しており,このまま放置すれば1年以内に倒産だ.しかし経営者を含め,従業員に危機感がないのが決定的な問題だ.まさに血が流れ続けているのに気が付いておらず,大丈夫と言い続けている状態だ.

各自が自分都合で仕事をしており,企業の体を為していない.
設計は,目標コストを設定せずに設計している.この会社では,コスト責任は設計者ではなく,購買部門にある.従って,設計者が指定した部材が高ければ,購買部門の担当者が,勝手に別型番,別メーカに変更できる!図面を渡して,加工品を納入してもらうのならばそれもあり得るが,全ての部材を購買部門がコントロールしている.

営業は,受注し易い条件でしか顧客と交渉しない.その結果極端に利益率が低い仕事を受けてしまう.設定した工場リードタイム未満で仕事を受ける.

無理な価格で受けた仕事は,原価管理部の勝手な判断でコストに合う様に仕様が変更される.その結果サンプルとして1台目の生産をし顧客に見せた時点で,キャンセルを食らう.

品質保証は,源流に遡って保証しなければならないが,モノ造りの最源流である設計,営業がこのような状態だ.

製造部門も同様に「源流管理」の概念に欠ける.
不良は,最終工程で修理して直す.と言う考え方でモノ造りをしている.

現場にも危機感は全くなく,仕事中にぶらぶらと散歩している.そういう状態なのに,残業・休日出勤が常態化している.

この会社に必要なことは,ちゃんとした品質保証システムを取り入れ,それを機能させることだ.

設計レビューシステムはあるが機能していない.
顧客の要求品質をきちんと定義する仕組みがない.この会社の製品は,基本モデルは先に開発されているが,顧客ごとに仕様細部をエンジニアリングする必要がある.従って,受注判定会議を持ち顧客要求仕様のレビュー,受注金額の決定などのステップを踏む必要がある.

これらの品質保証システムを,全体から見てきちんと機能する様にしなければ,受注が増えれば,増えた分だけ不良損失が指数倍で増える.
忙しくなれば忙しいほど赤字が増えてしまうだろう.

この会社の致命的な所は,この様な状況で赤字経営を続けていても,許されてしまう所だ.親会社の利益を食いつぶして,広大な土地に宮殿の様な工場で,のんびりと仕事をしている.働いている従業員は,会社がつぶれても困らない.別の会社に転職すれば良いからだ.
しかし経営者や経営幹部は別だ.会社を潰した経営者・経営幹部を雇う様な奇特な会社はない.

唯一この会社の希望は,品質保証部門のリーダだ.彼は元々設計者であり,製品の設計に熟知している.その彼を「源流管理」の先兵とすべく,意欲と知識を仕込んでいる.

現状この会社の組織は,設計副総経理,営業副総経理,製造副総経理の3人が総経理を補佐する形で経営をしている(少なくとも外観上は・苦笑)そして品質保証部門は製造副総経理の担当になっている.

製造部門と品質保証部門を一人の人間が担当することは,相当難しい.しょっちゅう相反する決断をすることになる.
製造部門は,納期通りに顧客要求品質を満足した物を生産しなければならない.
品証部門は,時として納期を送らせてでも,要求品質を満足させることを優先させなければならないことがある.

この会社の総経理には,品質保証部門のリーダを二段跳びで,副総経理にすることを提案している.そして,この最年少副総経理の給与を一番高くする.総経理が,この決断が出来れば,良い方向に舵を切ることができるはずだ.能力のある者を抜擢するだけではない.その者に一番高い給与を払う.これにより,本人の意欲が上がるだけではなく,全社に品質保証の重要性を知らしめることになる.

実は品質保証部門のリーダは,設計部門に戻りたがっている.
私も,設計エンジニアから品質保証部門に異動した経歴を持っている.次週訪問時に,外から設計部門をコントロールする生きがいや楽しさを彼に理解してもらわねばならない.
もっと難しそうなのは,総経理を納得させることだが(笑)

【続編】
この企業の総経理は、その後転職し複数の企業を統括する立場となった。そして再び我々に声をかけていただいた。彼の傘下にある2工場を1年間指導した。
実は品質保証部門のリーダも総経理自身も納得させることはできなかった(笑)
それでも再び仕事をいただいたのは、実績に満足いただけたからだろう。


このコラムは、2013年4月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第305号に掲載した記事に加筆しました。

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データで確認する

 常識だと思って、間違った判断している事が、意外と多いのではないだろうか?

例えば、静電気による不良は空気が乾燥している冬の方が多い、と皆が思っているが、実は夏場空調の風が当たる場所の方が帯電しやすかったりする。
ヒューマンエラーについて研究している中田亨氏は、ヒューマンエラーによる労働災害のデータを調べてみると、常識と思っていた事がことごとく違っている。と指摘している。

「ヒューマンエラー対策 事例から見たミス防止の実際」中田亨著

以下の様な事例が上記の書籍に出ていた。

  • 安全事故が多い時間帯:終業時刻間際? または 午前中?
  • 事故が多い季節:夏と冬? または 季節で有意差なし?
  • 事故を起こしやすい人:慌て者、新人,年配者? または 模範的中堅者?
  • 落下事故が起きやすい高さ:3m以上? または 3m未満?

どちらが正解と思われるだろうか?

調査データによると、全て後者だそうだ。
「常識」だと思っている事がただの「思い込み」である、という事が多い様だ。
「こうであるに違いない」と思い込んでいると、全てがその様にしか見えなくなる。他の考えが思い浮かばなくなる。

事実は現場・現物・現実でデータで理解する。
データがないモノは、先ず疑ってかかる。
このくらいの心構えがちょうど良いくらいだろう。


このコラムは、2017年3月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第518号に掲載した記事に加筆しました。

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