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続・顧客工場監査

 先週のコラムで顧客工場監査について書いたら、読者様からメッセージをいただいた。

※F様のメッセージ

いつも有意義な情報をありがとうございます。毎週愉しみにしております。
今回の工場監査の件は目からうろこでした。確かに毎回小職がてきぱき回答していて成功したと思っておりましたが、監査する側の心理を考えておりませんでした。今後は現場リーダの教育機会の側面もあるとの観点から対応します。筆者の方の体験の豊富さがにじみ出ている良い建議でした。重ねてお礼申し上げます。

過分なご評価をいただき、恐縮しております。
私の場合は、顧客監査を受けるだけではなく、仕入先の監査・指導もしていたので、両方の心理が分かっているだけだと思う。

経営者や品証幹部が全て答えるのではなく、現場の作業者が正しく答えることができれば、ちゃんと教育が行き届いていると安心出来る。そしてそれが、たまたま答えられたのではなく、仕組み化してあるのが分かれば、もっと安心していただける。

例えば、倉庫の保管期限を質問された時に、その場にいた作業員がすらすらと答えたら相当安心していただける。そして、新人でもちゃんと答えられるね、と理解してもらえたらもっと安心していただける。この「なるほど」と思っていただくのがコツだ。

倉庫の事例では、倉庫の目立つ場所に保管期限の規定を貼り出しておく。○○類:6ヶ月、△△類:1年、□□類:2年などと倉庫保管期限を貼り出す。別途有効期限がある材料は、直接袋や瓶に書いておく。そして、マニュアルの文書番号も小さく書いておく。有効期限が切れた時の手順を聞かれたらば、この文書番号を頼りに、マニュアルを持って来て説明すれば良い。

マニュアルの内容が覚えられずに、適当に答えてボロを出すのが最悪。
マニュアルに書いてあります、と答えてマニュアルを見せることができれば、合格だが、ここでモタモタする様だと「大丈夫か?」と疑惑が湧く。

マニュアルに書いてあります、と答えるだけではまだ駄目だ。顧客監査官が一目見てどのように管理しているのか分かる様に「見える化」しておく。こうしておけば、現場の作業員がたとえ新人でも、正しく判断出来る。このレベルになれば、日々のオペレーションが安心出来る様になる。これが、監査を通してレベルアップすると言う事だ。

当然作業者は、日本語は理解出来ない。通訳を通して答えさせる訳だが、そこまでやる価値がある。

昔指導していた生産委託先で、顧客監査を受けた際に材料倉庫の管理についてお叱りを受けた。部品が入っている段ボール箱の蓋が、開封したまま開いていたのだ。倉庫担当の課長に対策を検討させたら、毎日班長が自主巡視をして改善する、そして週末は毎日の自主巡視報告書の内容を確認する為に自分で巡視する。と言う改善案を出して来た。
実はこの課長は、どちらかと言うと人の面倒見は良いが、管理が上手く出来るタイプではなかった。その彼が自分で改善案を考えて来た。黙ってやらせてみたが、何週間経っても蓋が開いた段ボール箱がゼロにならない。

毎日の自主巡視報告書には、蓋が開いている段ボールを見つけるたびに、封をしましたと書いてある(笑)これでは改善ではなく処置をしただけだ。蓋の封が出来ない理由を考えて対策をしてごらんと教えたら、キッティング台車にガムテープを乗せる場所を作った。

この改善を生産委託先の工場長にも知らせ、倉庫の課長は成長し始めたから良く見てやってくれとお願いしておいた。その後彼は、隠れていた能力をどんどん開花して行った。今は自分で工場を経営している。

これも監査をきっかけにして、人が成長した事例だ。


このコラムは、2014年8月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第373号に掲載した記事に加筆したものです。

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作業員の離職率

 毎年日本の明治大学で、経営学部の学生さんに講義をしている。
毎週日替わりで現役の著名経営者が講義をする。私から見ると、大変羨ましい授業だ。その特別講義のトップバッターとして登壇させていただいた。

その講義の後に、中国人留学生からご相談を受けた。
彼女のお父様は、中国で300人規模の工場を経営されているが、従業員の離職率が高くて困っている。どうすれば作業員を定着させることができるか、と言うのがご相談の趣旨だ。

非常に問題意識の高い現実的なご質問だと感心した。
自分が20代の頃は、経営的な問題意識は微塵もなかったが、まだ20代前半の彼女は、経営者としての問題意識をしっかり持っている様に思えた。

「離職率が高い」と言う現象に対して、解決課題をどう定義するかを、まず考える。

「離職率を下げる」と言うのも解決課題になるが、他にも解決課題は設定可能だ。つまり離職率が高くて問題になるのは、作業員の熟練度が不足する、人員の確保が難しい、などの原因により、生産性、品質、納期などを、望む範囲にコントロール出来ない事だ。

従って「離職率を下げる」以外にも、「少人数で生産出来る様にする」という解決課題も出て来るはずだ。
又は「作業員の教育・訓練の質と効率を上げる」という解決課題とする事も出来る。
この解決課題に関しては、こちらの記事をご参照いただきたい。

「班長の仕事」

今回はとりあえず、「離職率を下げる」と言う解決課題に関して、根源的なアドバイスをさし上げた。

まず従業員が辞める理由を理解しなければ、離職率を下げる事は出来ない。
ここで多くの経営者や経営幹部が犯す間違いは、最近の若者は理解出来ない、と考える所に有る。

「違い」に着目すれば、当然理解出来ない。
たとえ「違い」を見つけることができたとしても、それがどうマネジメントの役に立つのか考えてみると良い。
今の若者は、上からの指示に従うことに慣れていない。では指示をせずに仕事をしてもらうことができるだろうか?
多くの一人っ子は、両親祖父母に大事に育てられたから、叱るとすねる。では全く叱らずに仕事を教えることができるだろうか?

「違い」を理解してもマネジメントの役には立たない。
「違い」に着目すれば、このように矛盾する事ばかり列挙することになる。

「違い」ではなく「共通点」に着目すべきだ。
70后、80后、90后どの世代にも、経営者でも作業者でも、人間としての共通点があるはずだ。その共通点に着目すれば、年代の差、職位の差は無くなる。
その共通点は、幸せになる事だ。幸せになる事は、人として共通の人生の目的と言って良いだろう。

仕事を通して成長することにより、幸せになる。これが実感出来れば、人は簡単には離職しなくなる。なぜなら、仕事と人生の目的が一致するからだ。
逆に言えば「仕事を通して成長することにより、幸せになる」と言う理念に納得出来ない人は、辞めてもらった方が企業にとって好結果となるはずだ。


このコラムは、2014年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第382号に掲載した記事です。

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内部監査

 ISO9001は内部監査の実施を要求している。
あなたの工場でも、内部監査を年に1回は実施しているだろう。ISOのためにやる内部監査ならば、1回で良いかも知れない。しかしこれを1回しかやらないのは勿体ない(笑)

私は前職時代に、臨時内部監査と称して定期内部監査以外にも、しばしば実施していた。不適合が発生した時に対象職場を臨時監査をする。不適合の原因を追求して行くと、原因の更に奥にその問題を誘発させた遠因が見つかることがある。多くの場合その遠因は、マネジメントの問題である。
そんな理由で、事前通知も何もなく突然レフリーがイエローカードを出す様に臨時監査を始める事があった。

通常内部監査をするのは、品証部門の内部監査官だが、部門ごとに内部監査を相互にし合う。これにより、部門間でベンチマーキング・ベストプラクティスを促進する。
ISO9001は内部監査官に資格を与えなければならないことになっている。
従って、正式な内部監査と言う訳には行かないだろうが、こういう活動をすることにより、5Sなど社内活動の部門間温度差を減らすことができるだろう。

あなたの工場でも、何かテーマを決めて相互内部監査をやってみてはいかがだろうか。


このコラムは、2014年2月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第350号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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なぜなぜ5回

 定期開催している品質道場では、「顧客クレームの対応」をテーマとする回がある。

毎期同じテーマで開催している。昨年開催時に、参加者から困っている慢性不具合を聞いてみた。
色々な不具合があったが、要約してしまうと、人為ミスによる不具合が慢性化し易い様だ。もしくは人為ミスに対する再発防止対策をどうしたら良いか?と言う点に困っているケースが多かった。

参加者皆で例題として取り組んだ人為ミスは、出荷梱包に乾燥剤の入れ忘れがあり、顧客からクレームをいただいた、と言う不具合だ。
製品をトレーに入れて、2トレーごとにビニール袋で簡易真空パックする。
顧客要求でビニール袋に一個ずつ乾燥剤を入れることになっている。

これをなぜなぜ5回の演習として皆で演習した。
「なぜなぜ5回」と言う名前から、本当に効果的な分析が出来るのか?と思う方もあるかもしれない。しかし適切になぜなぜ5回が出来る人がやれば効果がある。まずは最初の問題の定義の仕方が重要だ。

この不具合を「乾燥剤を入れ忘れた」と定義しては駄目だ。
「乾燥剤が入っていない製品が、客先で見つかった」と定義する。

「乾燥剤を入れ忘れた」としてしまうと、入れ忘れ以外の原因に気が付かなくなる。「乾燥剤が入っていなかった」と定義すれば、入れたがその後に落ちてしまったと言う可能性も気が付く。

今回の不具合の原因が脱落でなくても、ビニル袋に乾燥剤を入れた後、真空パックするまでの間に乾燥剤が脱落する、取り出すなどの可能性があれば、そこに事前に対策を打っておくことができる。

「客先で見つかった」と定義することにより、乾燥剤が入っていない物を流出させた事が明確になる。これにより、なぜなぜ5回は最初の質問で二つに分岐して、発生原因と流出原因を分析することになる。
つまり
「なぜ乾燥剤が入っていなかったか?」
「なぜ乾燥剤が入っていない物を出荷したか?」
と言う二つのなぜに分岐することになる。

これで発生原因対策と、流出原因対策の両方を検討出来る。

参加者でやったなぜなぜ5回により、
(1)作業方法の改訂
  ・乾燥剤を入れる位置をビニールパックの外から見える位置に規定
  ・乾燥剤を入れる作業に十点法を採用
(2)作業指導書の改訂
(3)梱包作業者による確認(流出防止対策)
以上三つの対策が出来た。

作業者への注意喚起、再指導と言う再発防止対策よりは、ずっと効果がありそうだ。
この様な即興のなぜなぜ分析を私が全てやった訳ではない。
参加者した中国人幹部が分析をした。
適切な指導さえすれば、現場リーダでも出来る様になる。


このコラムは、2013年12月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第341号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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TQCを捨てたツケ

 

TQCを捨てたツケ

日本メーカーの高品質を支えてきたTQC(統合的品質管理)や、TQCに欧米のマネジメント要素を取り込んだTQM(総合的品質管理)をやめてしまったからでしょう。1990年代、いわゆる「バブル景気」の崩壊により、日本メーカーは全体的に自信を失いました。そこから脱するために、米国式の経営管理手法を日本メーカーは積極的に導入しました。MRP(資材所要量計画)やERP(統合業務パッケージ)、SCM(サプライチェーン・マネジメント)といったものです。
ところが、これらは主に財務管理を強化するためのもので、品質については後回しになってしまった。そして結果的に、多くの日本メーカーはTQCやTQMをやめてしまったのです。実際、この頃、日科技連などでも品質関連の講座の受講者が大幅に減ったと聞いています。

(以下略)

 自動車業界で大規模リコールが何件も発生している。日本メーカの品質力は落ちてしまったのだろうか?と言う問いに対し、日野三十四氏(モノづくり経営研究所イマジン所長)は、品質が落ちていると言うよりも停滞しているとしながら、その原因をバブル崩壊以降自信をなくした日本人経営者が安直に、米国の合理的経営手法を真似したために、手を広げ過ぎ忙しくなりすぎたからと分析しておられる。

私も、バブル崩壊後に米国式経営に飛びついたのが、日本の品質力を落とした原因と考えている。しかし日野先生の分析とは少し違っている。

米国式の株主至上主義経営が、短期の利益を追求するあまり「現場力」を落としてしまったため、日本の品質力が落ちたと考えている。つまり現場の作業者を、派遣要員、契約社員に置き換えることにより短期的な経営数字改善を狙う経営をした。その結果現場にあった「暗黙智」が霧散してしまったのだ。

米国式のMRP、ERP、SCMを導入すれば、導入当初は手が回らなくなるのは理解できる。しかしこれらのツールは、オフィスワーカの生産性を上げる物であり、程なく余裕が出て来るはずだ。
現場力が失われたと言う私の分析の方が、的を射ている様に思うがいかがだろうか。

現場力が失われた結果TQC、TQMなど現場改善の活動が下火になって来た。
TQC、TQM活動の総本山である日本科学連盟(日科技連)に登録されているQCサークル数が年々減少傾向にある。以前は登録QCサークル数の年間推移グラフが公表されていたが、それが「累積登録数」となり、最近は日科技連のHPを探しても、単年度の登録QCサークル数しか見当たらなくなった(苦笑)

もう一度「現場力」を取り戻すためにQCサークル活動を活性化すべきだと考えている。QCサークル活動停滞の歴史を教訓とすれば、以下の様な活動方針に変えてゆくのがよいと思う。

・管理職が積極的に参加する。
 QCサークル活動は「ボトムアップ」活動として、一般従業員の自主性に任せられていた。自主性に任せる、と言えば聞こえはよいが、現実には「丸投げ」状態となっており、業務からかけ離れた活動となってしまった。活動はサークルメンバーの自主性に任せるが、活動テーマ選定時には、経営幹部、管理職も一緒に議論する。活動の成果が業務に直結すれば、サークルメンバーの達成感も経営側の満足度も上がる。

・QCサークルメンバーの自己実現の場とする。
 QCサークル活動による、メンバー個人の知識・経験の成長実感、達成感を重視する。チームワークを通して感動共有を計る。

・楽しくやる
 QCサークル活動を通して、仕事の楽しさを実感する。

この様な方針で活動をすれば、QCサークル活動がまた活性化すると考えている。社内のQCサークル活動の成果発表会や、他社との成果発表交流会がより活性化を高めるだろう。


このコラムは、2015年9月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第442号に掲載した記事です。

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TWI工場見学会

 2014年の2月に、主催している東莞和僑会の定例会で工場見学・交流会を開催した。
訪問した工場は、光センサーを応用した製品を生産する日系工場だ。

こちらの工場は、2007年に一度訪問したことがある。当時指導していた工場の幹部を数名連れて、工場見学をさせていただいた。全く違う業種だが何かしら得るモノがあるはずだが、ただ見ただけでは何も分からないだろう、と言う経営者の意向により、私が引率することになった。
当時から、コンジットパイプで作った作業ステーションを組み合わせた、フレキシブルな工程を作っておられた。

その後もご縁があり、同社の人事部長さんと知り合いになった。
社内にTWIを導入しようとしている彼女に、人財育成勉強会でスピーチしていただいた事もある。

TWIとはTraining within Industryの略で、仕事の教え方・指導方法を体系化したものだ。この手法は特に製造業の方々の参考になると思い、実際にTWIを実践しておられる現場での見学・交流会を開催することにした。

導入のきっかけは、離職率の上昇により、新人作業者が増え、生産性や品質が不安定になってしまった。新人に対する作業指導を改善し、品質、生産性を安定させるのが動機だった。そのために、現場の班長さんクラスにTWI手法を習得させることになった。これにより誰が指導しても同じレベルに教えることができる様になった。その結果、作業者が変わっても作業のバラツキが発生しない。従って品質が安定し、生産性は向上した。

離職率が高くても、問題がない体制を構築出来たが、実は離職率も半分近くに下がっている。

新しい事に取り組み、成果を出し継続する事は、多くの困難を伴うものだ。
ここ迄成果を出し、継続発展出来ている理由を自分なりに考えてみた。

◆幹部への権限委譲
TWI導入のアイディアは、日本人総経理が出している。しかし彼は「TWIという手法があるらしいよ」と言っただけだ。後は幹部が自ら調べ、導入を決めた。総経理があれこれ指示を出した訳ではない、部下を信じて任せた。
当然幹部達は、自分で考え自分で行動することになる。これが活動の意欲を上げる元になったと考えている。

◆人事部門の参与
TWI導入の鍵となったのは、人事部門だ。通常ならば、製造部門、生産技術部門が中心となってもおかしくはないはずだ。
人間は、変化に対して抵抗感を感じる傾向にある。新しい手法を制度として導入する場合、抵抗勢力が生まれる事がままある。人の心のマネジメントは、人事部門が一番良く知っている、だから人事部が中心となって進めました、と導入時の人事部長が語ってくれた。
TWI導入によって、給与制度や監督職・管理職の昇進要件も変更している。
導入後1年近くは、人事部門のスタッフが現場に入り込んで活動をした。

◆企業文化
上記の2点はともに「人」のモチベーションに関わる問題だ。
この工場には、人を育てて幸せにする、自己成長を目指す、と言う経営者と従業員間に共通した企業文化がある様に感じる。
この企業文化がTWI導入により更に強化されたのだろう。

その他に生産現場の見学で、以下の点に感銘を受けた。
◆新人ライン
新人だけで実生産ラインを組んでいる。通常導入時の研修をするとすぐに実生産ラインに新人を投入してしまうだろう。しかしこの工場は新人ばかりのラインを持っている。簡単な機種、ダブル品質検査をすることにより、リスク管理をしつつ新人の熟練度を上げることができる。

◆作業OJT
ネジ締め、リードカットのOJT実習をやっている。
通常半田付け、圧着作業などの特殊工程に関しては、OJT実習と資格制度を設けている工場は多い。特殊工程とは、品質検査をする事が不可能、又はコスト的に不合理な作業工程であり、品質保証が作業者のスキルに依存する工程を言う。
従ってネジ締め、リードカット作業も特殊工程であると言うのが私の持論だ。

東莞和僑会では、異業種との交流、工場見学により、経営者・経営幹部の気付き、成長が得られる様な定例会を開催している。


このコラムは、2014年2月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第349号に掲載した記事です。

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品質意識

 昔台湾人経営者から、ISO9001を取得したいので指導して欲しい、と依頼を受けたことがある。ISO9001を取得するだけならば、指導をパッケージ化して低価格で取得サポートしてくれるコンサル企業が有るから、そういう会社を探しなさいとアドバイスした。しかし彼は、ウチが必要なのは「ペーパーISOではありません」とおっしゃった。つまり認証が欲しいだけではなく、ISOを組織運営の基礎にしたいと考えておられた。大変意識の高い方だと感心し、工場を訪問した。経営者より先に、会議室に集まっていた品質部門の幹部と雑談していると、幹部からは「ウチの経営幹部は品質意識が低い」と愚痴を聞かされた。残念ながらこの会社の品質部門の幹部には、組織の品質意識を高めるのは自分の仕事である、と言う意識が低い様だ。

ここで「意識の高い経営者」「品質意識が低い経営幹部」と言う時の「意識」とは一体何を指すのだろうか、考えてみたい。

意識とは「起きている状態にあること」または「自分がおかれている状況を認識出来る状態にある事」と言う定義が有る。つまり覚醒している状態を意識がある、と表現する。昏睡状態に陥っている時は「意識が無い」外界の状況を認識出来る状態を「意識が有る」と言う定義だ。
この定義では「意識が有る・無い」を表すことができるが、冒頭の事例の様に「意識が高い・低い」を表現しようとすると違和感が有る。

あなたはどのように定義されるだろうか?
続きを読む前に、少し考えてみていただきたい。

続きを読む

常識?非常識?

 先週は、電子製品の組み立て工場を「無料工場診断」で訪問した。
この工場は、ベルトコンベアに作業員が並んで作業をする従来型の生産方式だ。

組み立てラインで全数検査した製品を、全数出荷検査をしておられた。工程内検査と同じ検査をする検査専用ラインに完成品を再投入し、コンベアに着席した検査員が再検査をする。

私は以前、お客様から「抜き取り出荷検査」を要求され断った事がある。
その時の私の常識は、工程内で100%検査している製品をAQLで抜き取り再検査しても無意味と考えていた。しかしお客様の常識は、AQL抜き取りで出荷検査をする、だった。
例えば、生産ラインの検査プログラムが間違っていたり、検査装置が故障しているなどの問題があれば、抜き取り検査で発見出来る。しかし我々の工程は、そのような潜在問題は考慮済みであり、生産開始時と生産終了時に検査設備の始業点検・終業点検をすることにより、問題回避を計っている。
最終的には「目視検査」を別の検査員が別の場所で実施する事の意義を問われ、その代替を説明出来なかったので、抜き取り出荷検査を引き受けた。実は官能検査の確からしさを追求されると答えに窮するので、議論を終わりにした(笑)

ある通信機器メーカは、全数24時間のエージングテストを要求して来た。
電子回路製品で、まともな部品を使っていればエージングでスクリーニング出来る故障モードはほとんどない。エージングによるスクリーニングが有効なのは「電解コンデンサの極性違い」不良だけだ。1時間以内で発見可能なので、24時間のエージングは無意味だ、と説明した。
しかし24時間稼働の彼らの製品の信頼性を保証する一手段として、24時間のエージングは彼らの常識だった。
この時は、エージングで一定ユニットアワーを無不良でクリアしたら、段階的にエージング時間を削減する、と言うプログラムを提案し、最終的には2時間のエージングで了承いただいた。
ちなみにこの製品は、製産開始後エージング中の不良は1件もないばかりか、顧客工程内不良、市場不良も1件も発生せず、我々の工場は伝説の工場になった(笑)

お客様の常識は自分たちの常識と異なっているのが、当たり前だと考えた方が良い。
しかしお客様の常識に合わせる必要はない。
自分たちが生産している製品に関しては、お客様より知識も経験も深いはずだ。
重要な事は、お客様要求の背後にある真の要求を理解する事だ。

前述の100%出荷検査を要求しているお客様も同じだ。

アパレルなどの業界では、検品会社による100%再検査が常識となっている。しかし本来お客様の要求は100%再検査ではないはずだ。真の要求は100%良品納入だ。
要求の背景には、国内での受け入れ検査コストを押さえたい、受け入れロットアウトによる販売機会ロスのリスクをなくしたい、などがあるだろう。
これらの真の要求を満たすことができれば、100%再検査がマストではない。

工場としては100%良品出荷を保証出来ないのであれば、100%再検査もやむを得ない。しかし唯々諾々と100%再検査を続けるのではなく、100%再検査をしなくてよくなる様に努力するのが本来の姿だろう。


このコラムは、2014年5月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第362号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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仕事の教え方

 指導先の工場は生産量が倍増し、作業員を大量に増員している。その結果、作業効率が大幅に低下する。工程内不良が激増する。という結果を招いている。製造担当の副総経理は、安定するまでに2週間はかかる、と諦め顔だ。

人がばらつけば、効率も品質もばらつく。作業手順を標準化しても、作業指導の手順を標準化してなければ、上記の様な結果となる。作業指導手順を標準化し、誰が指導しても、誰に指導しても、いつ教えても、同じ指導効果が得られる様にする。これがTWI-JI(企業内訓練・作業の教え方)の考え方だ。

通常作業指導法の研修には10時間かけている。指導人数も8人を超えない様にして、研修の効果を保証する様にしている。今回は顧客副総経理の希望により、2時間で50名弱の職場管理職、監督職に導入研修をした。初めてやる作業を、『教三連四』(三回教え、四回練習させる)を実演してみせた。仕上がりだけ見ても、どのような作業をすれば良いのか分からない。しかし『教三連四』の結果正確に、かつ同じ効率で作業出来る様になった。

本格的に導入するためには、更に多くの課題を実習し実践練習する必要があるが、作業員を直接指導している現場の監督者達、その上の管理職に学習意欲を持ってもらう事が出来た。

当初中途半端な指導をしても効果はないだろうと懐疑的であったが、対象者の学習意欲を高めると言う点で成果があったと考えている。
無理難題を克服し、成果を上げた助手を褒めてやりたい。


このコラムは、2016年10月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第500号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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モグラ叩き問題

 モグラ叩き問題と言うのは、ゲームセンターにあるモグラ叩きゲームを思い起こしていただきたい。穴から顔を出すモグラを叩くゲームだ。穴から顔を出すモグラと同様に、同類の問題がしばしば発生し、その都度に問題解決をしなければならない問題のことを言う。

本日はなぜモグラ叩き問題が解決できないのかを考えてみたい。

当然モグラ叩き問題が発生している現場ごとに、事情は違うだろう。しかしいささか乱暴だが一言で言ってしまえば「現象として現れる問題にとらわれ、その原因にアプローチしていないから、問題は手を替え品を替えて現れる」と言うことだ。

「人為ミス」による問題に関してしばしばこのメルマガで取り上げている。
人為ミスは「現象として現れる問題」であり「原因」ではない。「人為ミス」と言う言葉を使って再発防止対策を検討している限り、モグラ叩きは続く。

例えば電子部品を搭載したプリント基板を筐体にねじ止めする場合を考えてみよう。プリント基板に実装されたトランジスタなどの発熱部品を放熱のため筐体に密着される様にねじ止め固定する。
このような構造の電子製品は、市場に出てから一定比率で故障が発生する。
プリント基板、筐体のねじ位置の誤差、プリント基板に実装した部品の位置誤差により、発熱部品のリード半田付け点に応力がかかり続けることになる。時間とともに半田フィレットに亀裂が入り、最終的には非導通となり故障する。リード部分に高電圧がかかっていると、亀裂の隙間で放電し発煙出火の危険すらある。

このような故障は、ハンダ割れが発生→半田フィレットに応力がかかっていた→筐体への固定により応力がかかる。と言う具合に問題から原因にフォーカスし対策を検討する。対策としては取り付け方法の設計変更が有効だ。既出荷品や対策完了前の生産には、プリント基板固定後再半田をし、半田フィレットの応力を解放すると言う対策を考えることが出来る。

このように原因にアプローチすれば、問題根絶の対策を考えることが出来る。
しかし問題の原因解析を人為ミスで終わりにしてしまえば、作業員の再教育、作業員の固定、などと言う対策しか出て来ず、人が替わればまた問題が発生する。
人為ミスと言う「現象」にとらわれている限り「原因」にアプローチ出来ない。


このコラムは、2016年2月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第465号に掲載した記事に加筆したものです。

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