品質保証」カテゴリーアーカイブ

設計品質保証

生産用設備や測定装置を設計生産している中国企業の経営者から、相談を受けた。

経営者の不満は以下の2点が大きいようだ。
新製品のリリースが遅れるため機会損失が大きい。
新製品を出荷した後に、不具合が見つかり品質損失が発生する。

経営者との面談で、この会社に足りていないのは設計品質を保証する仕組みと仕掛けだと判断した。

生産に関して言えば、まとめ生産をやめればより業績が向上するはずだ。基本的には多品種少量生産の企業であるが、生産現場では同じ製品が複数並んでいた。顧客の受注で生産するが、まとめて生産し一部は完成品倉庫で次の受注を待つ事になるそうだ。

私は前職時代に計測制御システム製品の開発設計に携わっていた時期がある。
開発設計は製品の基本機能を設計するが、販売する時はエンジニアリング部門がお客様の要求に合わせて一品一様で設計する事になる。

従って生産現場では、1台ずつ違う製品が生産ラインに並ぶ事になる。

多品種少量生産を通り越して多品種微量生産だ。

工場の生産に使う設備なので、高信頼性が要求される。従って製品リリース後に欠陥が見つかるような事は許されない。その上、競合との競争もあるので、開発納期に対する営業からのプレッシャーも高い。

そんな中で試行錯誤を繰り返し、設計品質の向上を計って来た。
一つは、次工程に完璧なモノを渡すための審査制度。
もう一つは、自工程の品質を完璧にするためのチェック手法。
この二つで相当なレベルになったと自負している。

一つ目は、一般的な品質保証システムやTSが推奨しているAPQPと基本的には同じだ。その運用を確かにする仕掛けにノウハウがある。

二つ目は、過去の経験から作り上げた「ベカラズ集」の様なチェックリストとコンピュータ支援によるDRC(デザインルールチェック)だ。
チェックリストとDRCにより、設計手直しは激減した。
これらがうまく行くためには「失敗を責めない」組織風土が必要だ。

この二つの仕組みと仕掛けがうまく運用されると、今まで個人に帰属していたノウハウが、組織に蓄積される様になる。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2015年10月19日号に掲載した物です。
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旭化成建材、現場責任者の3割偽装 出向が大半、調査難航

 35都道府県の266件でデータ偽装を確認したと、旭化成建材が13日に発表した。残る確認作業を急ぎ、原因解明に努めるという。横浜市のマンションで傾きが発覚してから1カ月。偽装が次々に明らかになり、各地の関係者に不安が広がるなか、新たに別の大手業者の偽装も判明した。

記事全文

(朝日新聞電子版より)

 杭打ち工事のデータ偽装に関して、当初は特定の現場責任者の問題という論調で説明されていたが、予想通り業界全体に波及する問題だったようだ。今の所、データ偽装がどの程度あったのかを中心に報道されている。報道の受け手である一般市民の関心は「ウチのマンションは大丈夫か?」と言う所にあるのでやむを得ないとは思うが、なぜデータ偽装が行われたかと言う点を調査し、業界全体が改善しなければ安心は出来ない。

杭打ち工事の現場責任者は下請け企業からの出向者であり管理が困難、という論調の記事が目立つ。「管理が困難」と言うのはデータ偽造の原因ではない。
「現場監督者が出向者だから管理が困難」と言うのは因果関係としては成立する。しかし管理が困難だからデータが偽造される、と言うのは論理的に成立しない。

このような原因調査は、原因を個人の問題にするのと同様に、有効な再発防止対策の検討を難しくする。

「なぜデータを偽造しなければならなかったのか」と言う点に迫らねば、真の原因は分からず、有効な再発防止対策を打つ事は出来ない。

データの記録に時間がかかる。
測定器の誤差が大きく、測定データに信頼性がない。
データ測定が難しく、測定し損なう事がある。
などの具体的な理由があるはずだ。そのため以前のデータを再利用される。

しかし個人的な想像では、もっと構造的な所に原因がある様に考えている。
マンション建設と言うプロジェクトは、土地の取得から始まり、基礎工事、建設、内装工事、入居開始となる。その間に平行して、分譲の宣伝広告、営業。自治体への認可申請。などなど非常に多岐にわたるビッグプロジェクトだ。

多分杭打ち工事の様な基礎工事は、プロジェクトのクリティカルパスになっているはずだ。杭打ち工事が遅れれば、プロジェクト全体が遅れる事になる。杭打ち工事の現場責任者には相当のプレッシャーがかかっているはずだ。

例えば、事前の地層調査に間違いや誤差があり、納品された杭では長さが足りない。こんな事が現場で発生したらどうなるだろう。杭を再発注すれば工期が遅れ、後工程を担当する親会社や元請けに迷惑をかける事になる。こんな事になれば、零細下請け業者は明日から仕事が無くなる。建築物の方は、マージンを加味した設計になっているはずなので、今日明日どうと言う事はない。しかも現実何事も起こらなかった。
このような経験を積み重ね、杭を再発注して工期を遅らせるよりは、データを偽装した方が利口だ、と言う業界文化が出来上がっていたのかもしれない。

日本的文化では、真相は明らかにならずとも当事者に自浄作用が働き、何事もなかったかの様に収まってしまう事もあり得るが、うやむやに解決しておくと対策は次の世代に引き継がれない。時代をへて繰り返し再発する事になる。


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第一回TWI成果発表交流会

 9月18日に第一回TWI成果発表交流会を開催した。
今年3月から、TWI-JI導入サポート、TWI-JI公開研修を開催して来た。
半年間の活動成果を発表し交流するのが狙いだ。

TWI-JIとは作業員に対する仕事の教え方を定型化した現場監督者技能のことだ。
教える内容、教え方を定型化することにより、人に依存せずに、いつでも再現可能になる。

以前生産委託先を指導していた時にこんなことがあった。
検査工程がネックになっており、製品が停滞する。このまま放置すれば、未検査品が下流工程に流出しかねないと考え、検査作業を観察した。その結果ムダな作業動作が多い事に気が付いた。作業方法を変更すれば、サイクルタイムが短縮できる。
班長を呼んで変更した作業方法を検査員に教える様にお願いした。班長は一生懸命教えてくれたのだが、作業員が教えられた通りに作業が出来ない。ついに班長が怒り出し、作業員が泣いてしまうと言う最悪の事態となった(苦笑)
この状況に気が付いた組長が教え直し、検査工程はスムーズになった。
この時の経験で、人に教えると言うのは個人のスキルに依存する技能だと感じた。誰でもが教えられる様に、教える方法を標準化する事の重要性に気が付いた。

当時は山本五十六の教授法を参考にし、我流の8ステップの教授法を考えた。
その後TWI-JIでは四段階教授法を使っている事を知り、8ステップよりずっとスマートだと感じた。
そんな経緯があり、TWIを勉強した。直接中国人監督者に教えられる様に、助手に日本産業訓練協会の公認トレーナーの資格を取得してもらった。

第一回目のTWI成果発表交流会では、3社から成果発表をしていただいた。
成果発表の一部をご紹介したい。

  • 3台の設備を使う多工程持ち作業への適用
    それぞれの設備のサイクルタイムが異なっており、手待ちになるのを恐れる作業員は、毎回違う作業手順で作業をしていた。この工程の作業分解をして標準作業を決めTWI-JIにより作業指導をした。その結果手待ち時間が見える化され、改善の対象が明確になった。現在手待ち時間を減らす活動を実践している。
    そして、サイクルタイムが明確になった事により安全在庫の削減にまで活動が拡大している。
  • 切断作業の効率向上
    従来2台の切断設備を2人で作業していた。作業分解を実施する事により、2台の設備を1人で作業出来る様になった。しかも作業に習熟する期間を30日から7日に短縮出来た。
    今後はTWI-JIによる指導の機会を増やしたい。新入社員研修、職場異動研修、多能工化研修ばかりでなく、作業効率が平均より20%下回ったときも再研修することにした。
  • 導入してから6年目の活動報告
    中国にTWIが持ち込まれたのが2008年、公認トレーナの教育プログラムが開始されたのが2009年なので、中国でもっとも古株のTWI活用企業の活動経緯は参加者に大きな感銘を与えた。
    現在はTWI-JIは間接部門にも展開され、全社で活用している。
    活動の結果2010年との対比で、生産性は1.6倍、工程内不良は1/3以下になっている。離職率も半減した。

これからTWIを導入しようと考えている参加者からは、

  • 教え方を標準化しただけで生産性や品質がよくなると分かっていなかったので、違う活動の報告発表を聞いているのではないかと思ってしまった。
  • 自分たちの改善活動は10%、20%の改善を目標にしているのに、今日の発表では50%、80%の改善が当たり前の様に報告されているのに驚いた。
  • 発表の中に、外観検査員へのTWI-JI指導による教育訓練期間の事例があったが、自社も外観検査工程があり、参考になった。

等の感想が上がった。

  • 導入時に社員の抵抗はなかったか?それをどう克服したか?
  • 資料作成に時間がかかるが,どう克服したか?
  • 導入後長く継続しているコツは何か?

等々、実際に苦労している実践者同士の交流は意義があったと思う。

この様な交流会により、活動推進者のモチベーションを上げる、同じ様に努力している他社の事例からヒントが得られる、など仲間同士で切磋琢磨して成長することができるだろう。

今後も半年に1回交流会を開催し、TWI導入成果をより上げるお手伝いをしたいと考えている。

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スケジュール管理

 突然オフィスを引っ越すこととなった。今のオフィスに引っ越して丁度2年。
そろそろ賃貸契約の延長をしなければと考えていたら、大家さんから呼び出しがかかった。もっと条件の良い借り手が見つかった様だ。新しい借り手は、2年分先払いをするそうだ。
2年分の家賃を先払いする余裕は有ったが、チャンスが来た時に支払済の家賃が足を引っ張らない様に(笑)フリーハンドをキープすることにした。

そんな訳で、急遽オフス探しに炎天下を歩き回った。最終的に先週月曜日助手と、ほぼ一日がかりで候補物件を歩き回り決定した。

なかなかいい感じのオフィスだ。
表通りに面した棟のオフィスも紹介された。現在別の人が使っているが、部屋代を滞納しており、そろそろ空けてもらう時期だそうだ。こちらのオフィスの方が断然良さそうだ。
予約金を支払う際に、こちらのオフィスが空いたら変更する様に依頼した。

引っ越し日程は決定したが、引っ越し先はどちらのオフィスになるか決まっていない(笑)

早速引っ越しのスケジュールを作成した。
引っ越しと言っても、荷物をまとめて運べば終わり、と言う訳には行かない。

オフィスの内装工事業者の手配。
運搬業者の手配。
空調設備の取り外し・設置の業者手配。
ネットと電話は、引っ越しの当日から使用可能にしたい。
登記住所の変更。
会計事務所への連絡。
新しい名刺の印刷。
お客様へのご挨拶。
新オフィスお披露目パーティの準備。

などなど細かな項目が山ほど有る。

例えば、内装業者、運搬業者、空調の設置業者は、引っ越し日程決定後、手配可能となる。しかし新しい名刺の印刷は、オフィスの部屋番号が確定するまで着手不可能だ。

これらを整理し、最速着手可能日・最遅完了日を明確にするのが、新QC七つ道具の「アローダイアグラム」だ。

引っ越しの様な単純なプロジェクトでも、アローダイアグラムを描くことで、必要な作業項目が全部挙がっているかどうか、余裕がない作業(クリティカル・パス)はどれか、を見える化し確認することができる。

今週は何件か仕事が入っており、相当忙しくなりそうだ。
オフィスのホワイトボードに、アローダイアグラムをプリントアウトして貼り出してある。朝礼で進捗を確認しながら、準備をすることになる。

今週末は品質道場で「新QC七つ道具」の研修をする。アローダイアグラムの演習は、引っ越しプロジェクトになりそうだ(笑)


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教え方の教え方

 製造業に限らず、どのような業種であっても新人社員に仕事を教えなければならない。新人社員ばかりではない。社内異動をした従業員も同様だ。市場の変化を考えると、仕事を教える機会はますます増えて来るだろう。

第一線の監督職にとって仕事を教える能力は、非常に重要なスキルだ。
しかし、現場の班長・組長にその様な教育をしている企業は多くはない。
以前生産委託をしていた工場では、班長・組長への教育訓練を真っ先にした。研修後、彼らから貰ったアンケートの中に、今までこういう研修を受けた事が無かった、と言う感想がいくつも有った。
最近は、班長・組長への研修指導を依頼される事が増えて来ている。単発のご依頼では難しいが、長期でお手伝いしている工場では、班長・組長研修の講師を育成するところまでやっている。

この様な指導は、教える人の能力に依存してしまうと考えていた。
つまり「教える」と言う技能は、個人的なスキルに依存するアートだと感じていたのだ。しかし日本産業訓練協会のTWIーJIの内容を詳しく知り、相当なレベルまで、教える技能を教える事が出来ると確信している。

私たちが育成しなければならないのは、福島正伸の様なカリスマセミナー講師ではない。作業員に正確に作業方法を教えられる監督者だ。

例えば、公認トレーナー(監督職に教え方を教える人)は、この言葉を黒板に板書する、この文章は1字1句同じに言う、ここは現場に合わせてアレンジ、といった具合に指導方法まで、研修で叩き込まれる。

現場の監督者は、教え方の台本にそって教えれば良いのだ。
この様な教え方であれば、監督者のレベルのバラツキを気にする必要はない。

以前生産委託先工場で、掲示板に「私は注意して作業します」と何度も何度も書いたA4紙が貼り出されているのを見たことがある。聞けば、何度注意してもミスが減らない作業者が、班長に言われて書いた物だと言う。この班長はどう作業者を指導して良いか分からずに、子供の頃漢字を書き間違えると、教師に何度も同じ漢字を書かされた事を思い出して、作業員の指導をしたのだろう。
漢字ならば何度も書けば、次から間違わないだろう。しかし作業ミスに対し、「注意します」と何度書いても改善は期待出来ない。
この紙を見た時に、何も教えてもらっていない班長が不憫に思えた。

作業のバラツキが無くなれば、品質、生産、コストのバラツキは無くなる。
そのためには、教え方のバラツキをなくせば良いのだ。

TWI-JIについてはこちらもご参照ください。

教え方のバラツキを減らす

 前回までのコラムで、班長の作業員に対する作業指導能力を高める事が、生産のQCDを高め、業績を高める事を解説した。そしてその作業指導能力は、中国の発展・成熟に連れて、ますます重要になって来ている。

前々回のコラム:「慢性不良」
前回のコラム:「班長の仕事」

いくつもの作業をこなすことができる、いくつもの工程を任せることができる、そんな作業員がいれば、少人数精鋭の製造チームを作ることができる。少人数精鋭製造チームにより、高品質、高生産性、高フレキシビリティの製造軍団を作ることができる。この様な製造軍団が有れば、難易度の高い高付加価値の生産が可能になる。

以前指導していた電線メーカは、電源コードを作っていた。大量の作業員が、広いフロアで大量に電源コードを生産している。毎月何百万本もの電源コードを生産しても、経営は楽ではない。利益率が低い、顧客の転注にいつも怯えていなければならないからだ。この工場には、少人数で多品種少量生産する方法を教えた。その結果、エレベータに使うケーブルアッセイの仕事を受注出来る
様になった。電源コードと比較すれば利益率は遥かに高い。この様な、高品質、高生産性、高フレキシビリティのモノ造りが、高付加価値を生む。

ここで重要な事は、作業員の質を高める事だ。作業員のバラツキが、品質、コスト、納期のバラツキとなる。

作業標準を決め、作業指導書を作る。しかし作業員の作業にバラツキが有り、標準作業とはなっていない。これが作業員のバラツキだ。作業標準を決めてあるのに、作業者の作業は標準作業になっていない。

この問題の原因はどこに有るか?
作業者の素質?作業者のやる気?90后には無理?
これが原因だとすると、あなたに解決方法は有るだろうか?

私たちの考えは、作業員にバラツキが有るという属人的な問題ではなく、教え方にバラツキが有るから作業にバラツキが発生する、と言う事だ。

つまり作業標準を決めても、作業者が標準作業が出来ないのは、教え方の標準を作っていないからだ。

私たちが指導しているTWIはこの「教え方の標準」をシステム的に構築する方法だ。

TWIに関してはこちらをご参照いただきたい。

班長の仕事

 生産現場の班長の仕事はイロイロあるが、要約すれば生産のQCD(品質、コスト、納期)を安定化する事だ。

そのためには、担当生産ラインの品質バラツキをなくし、生産性のバラツキを減らす。品質と生産性が安定している状態を維持出来れば、生産のQCDを安定化出来る。前回のメルマガにも書いた様に、品質、生産性のバラツキは作業のバラツキに起因する。従って班長の最大の仕事は、作業のバラツキを抑える事だ。

一昔前ならば、この仕事はそんなに難しいモノではなかった。作業員の中から抜擢された班長さんが、普通にこの仕事をこなしていた。しかし中国の社会が発展・成熟するに連れて、作業員の指導は難しくなって来ている。

以前は同一規格製品を大量生産していれば、利益を上げられた。
この様な生産は、大量の人員を投入し一人当たりの作業手順を減らすことにより、作業訓練・技能習得を簡単にすることができる。従って今朝採用した作業員は、午後から生産ラインに入って作業することができた。
また、離職率が高くても、農村部から出稼ぎに出て来る打工妹が無尽蔵に有り、作業員の採用に困る事はなかった。

しかし同一規格大量生産品の価格はどんどん下落し、利益が上げられなくなって来た。消費者の嗜好に合わせた、多品種少量の生産に対応しなければ、生き残りは難しい。
また社会の成熟に伴い、製造業に従事する若者は減少しており、作業員の採用が困難になって来ている。

この様な社会的変化により、作業員に対する要求は上がっている。多品種少量生産に対応するには、一人当たりの作業手順は多くなる。更にいくつもの工程を担当出来る多能工の育成が必要となって来ている。
作業員の教育・訓練コストが上昇している、更に求職者の減少のため、離職率を下げなければならない。

昔の班長の様に、作業が上手に出来るだけでは、班長の職務が務まらなくなって来いるのだ。そのため、私たちの会社にも「班長研修」をして欲しいと言うご要求が随分増えて来た。今当社が最も力を入れている班長研修は、作業員に対する作業指導方法を訓練する研修だ。班長がこの能力を身につけることにより、作業員のバラツキを抑え、QCDを安定化することができる。

その様な能力の育成・研修をシステム化したのがTWIだ。
TWIに関してはこちらをご参照いただきたい。

慢性不良

 20年ほど日本、中国などの工場で指導をしているが、多くの工場が「慢性不良」に悩んでいる。「慢性不良」とは、何度対策をしても再発してしまう不良の事だ。全く同じ不良でなくとも、同じ原因が形を変えて不良発生する事も有る。

例えば、人為ミスはこの様な慢性不良の一つだ。
全く同じ人為ミスはないかも知れないが、原因分析をすると、皆人為ミスとなってしまう不良がある。例えば、間違った材料を製造部門に出庫する、ネジを締め忘れる、梱包時に間違った製品型名を記入する、これらは皆人為ミスとして片付けられる。そして、ミスをした作業員に「再教育をしました」と言うのが、対策となる。

この様な対策が、本当に再発防止対策になっているのか?少し考えてみれば、再教育だけでは、再発防止できない事は明白だ。今までも作業者に教育はして来たはずだ。それでも発生した不良を、再教育で防止出来るとは考え難い。
ミスをしなかった作業員が、明日ミスをしない保証は有るのか?新人作業員に同じ教育をして、ミスが防げるのか?

なぜ人為ミスが発生したのか、本当の原因を見つけなければ、再発防止は難しい。

ほとんどの場合、作業員のバラツキが、作業のバラツキとなり、品質や生産性のバラツキとなる。

元々品質や生産性のバラツキをなくすために、標準作業を決定する。標準作業を作業員に指導するために、作業標準書や作業指示書を作っている。しかし作業員がばらつくことにより、作業標準や作業指示書の理解がばらつく、そのために、一人ひとりの作業がバラつき、標準作業にならない。

当然人は一人ひとり個性を持っている。この個性を工場の都合に合わせて、無理矢理変える事は出来ない。しかし、作業標準に対する理解のバラツキをなくす、作業指導書が指示する標準作業が出来る様にする事は可能だ。

この様な作業指導にTWI(Training within Industry)と言う手法が有効だ。
TWIは1950年から、日本で活用されて来たシステム的な指導方法だ。

TWIに関しては「TWI-JI 仕事の教え方」をご参照いただきたい。

中国市場について

 友人の紹介で、日本から出張で来られた工具メーカの方のご相談を受けた。
「中国の生の声を聞きたい」と言う曖昧なご要求での面談だった。

この会社は、工場で使用する工具の専業メーカであり、それなりのシェアを持っている。海外販売は、全て商社を経由したチャネル販売だ。
中国向けの受注が3月から急増しており、中国で代理販売をしている会社から呼ばれて、展示会に参加する事になった。

社内には、中国市場への展開に反対する幹部も有り、市場実態調査のため出張に来られた。現地代理販売会社からの情報で、シェアトップ企業が撤退を決め顧客に内示をしたため、受注が急増している事が判明した。

中国からアセアン地区への日系企業転出など色々質問を受けた。私にはそんな事は重要ではないと思えた。

彼らには、二つのアドバイスをさし上げた。

一つ目は、エンドユーザの工場に行くこと。
商社に任せきりで、顧客接点を持たないと、顧客情報、市場情報が分からなくなる。

「私の話など聞いている場合ではない。あなた達の知りたい事は全てお客様が知っている」と檄を飛ばした(笑)

二つ目は、修理センターを現地に作る。
修理センターが近くに有れば、顧客は安心して製品を使ってくれる。
しかし修理センターを立ち上げる目的はそれだけではない。

どのような不良が返って来るのかを知れば、顧客がどのように使っているのか分かる。修理センターに集まる修理品の声に耳を澄ませる。それが新製品開発や現行品改良のアイディアにつながるはずだ。

商社や代理店にマージンを支払って販売をしてもらっている。余分な販売経費をかけたくない、と言う事情は理解出来る。しかし市場や顧客から遠ざかっては、チャンスは見えなくなる。
例えば3月から受注が急増していると言うのは、ビッグチャンスだ。もし現地の情報を事前に知っていれば、増産体制は既に完成しており、業績に結びついているはずだ。
チャンスを業績に変えるためには準備が必要となる。そのためには顧客・市場を知らなくてはいけない。

経営・営業も「現場主義」が重要だ。会議室で商社や代理店の注文台数を検討するよりも、顧客の所に話を聞きに行く。
研究開発も同様だ。頭の中であれこれ新商品を考えるよりは、顧客工場や修理センターに行く。
そこには新製品のアイディアが多くあるはずだ。

投資が不可能ならば、方法を考えれば良い。
お客様の所に行くのが目的ではない。お客様の情報が集まれば良い。
修理センターを作るのが目的ではない。現地修理でお客様に喜ばれ、故障情報が集まれば良い。
本来の目的を達成するためにどうすれば良いか考える。
(この先は企業秘密と言う事でご容赦願いたい・笑)

スマイルカーブ

 このブログの読者様なら皆さん「スマイルカーブ」をご存知だと思う。
1970年代に、反戦の象徴として日本で流行った黄色いスマイルバッチを覚えておられるだろうか?あのニッコリ笑った口元の半円弧カーブをスマイルカーブと呼んでいる。そんな昔の事は知らないぞ、と言う方は、Facebookのスマイルマークを思い出していただきたい。
スマイルカーブの縦方向に価値の高低を示す軸を当てはめる。左右方向には、モノ造りの工程を示す軸を当てはめる。
左端を原料生産をする川上産業、右端を直接消費者と向き合っている川下産業、その中間を川中産業とする。
そうすると川上産業と川下産業の付加価値が高く、川中産業の付加価値が低い、と言うコトを示すカーブとなる。いわゆる下請け企業と呼ばれる川中産業の付加価値が低いと言うのは、納得がゆかないかも知れない。しかし顧客である川下産業からは、無理な納期やコストダウンを迫られてもイヤとは言えない。
仕入先である原材料メーカからは売ってやると言われ、値上げを呑まなければ出荷を停めると脅かされる。
こういう状況から考えると、スマイルカーブ理論はあながち外れている訳ではなさそうだ。
横軸の取り方には、もう一つの説が有る。左端が開発設計、中央が製造、右端がサービスと言う商品実現プロセスの工程順に並べる方法だ。
この場合は、設計、サービスの付加価値が高く、製造の付加価値が低いと言う事になる。
どちらにせよ、川中産業の製造が一番付加価値が低いと言う理論だ。
お客様の大部分が川中産業であり、製造現場の改善をお手伝いしている私としては、余り心地よい理論ではない(苦笑)
なぜこんな話をしたかと言うと、週末に「カンブリア宮殿」で旭硝子を紹介した番組のアーカイブを見たからだ。
以前、バスを生産する中国工場の指導をした事が有る。倉庫に保管してあるバスのフロントグラスが粉々に砕けているのを見た。夏の暑い日に、気温が上昇し強化ガラスが割れると言う。
中国では、建材用の強化ガラスが突然粉々に割れてしまう事故が時々
り、新聞記事になっている。
多分材料の中に不純物が有り、それが原因となり周囲温度が上昇した時に、熱膨張係数の差により応力が一点集中で発生し、粉々に割れるのだろう。
当然世界トップクラスの旭硝子の製品では、こういう事は発生しないだろう。
こういう品質を「当たり前品質」という。良くて当たり前なので、顧客満足は大して高くならないが、品質が悪ければ一気に不満となる。
番組で紹介されていた旭硝子の商品には、厚さ0.05mmのガラスシート、金槌で叩いても割れないガラス、紫外線を遮蔽するガラス、熱を遮蔽するガラス、蒸気を当てても曇らないガラス、反射しないガラスなどが有った。
どれもこれも、消費者としてこんなガラスが有れば嬉しいと感じる商品だ。
旭硝子は、スマイルカーブ理論で言えば左端の川上産業に属する。
旭硝子が提供する原材料は、切断したり、研削したり、研磨する川中産業を経由し、川下産業で製品に組み込まれ消費者に届く。
旭硝子にとって、川中産業は顧客であり、川下産業は顧客の顧客である。
消費者はそのまた先の顧客となる。
付加価値の高い商品を顧客に提供しようと考えたら、顧客の要望を聞いているだけでは駄目だ。顧客の顧客、更にその先の顧客の要望に耳を傾けなければならない。これをCS(顧客満足)チェーンと呼んでいる。
旭硝子の商品開発は、消費者の潜在ニーズを満たす事を目標とし、顧客の顧客に商品提案をすることになる。その結果直接の顧客である、川中企業が売ってくれと言って来る。いわば、顧客の顧客を通り越して、消費者の心をつかんでしまえば、黙っていても顧客は注文をくれる様になる。
部品を生産し、顧客に納品している川中企業でも同じ事が出来るだろう。
顧客からいただいた図面通りに生産するのではなく、消費者の都合を考え部品開発をする。直接の顧客(購買部門)の要求だけではなく、製造部門、設計部門の要望を聞いて、提供する商品・サービスを改善する、こういう事を考えるとCSチェーンが出来上がり、なくてはならない仕入先となるはずだ。
これは「当たり前品質」を越えた「魅力的品質」になるに違いない。

このコラムは、無料メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】に掲載したコラムを加筆修正したものです。