品質保証」カテゴリーアーカイブ

PCの品質劣化

ある書籍を読んでいて驚いた。
「工場で正常に生産され検査も合格したのに、市場で不良が発生する。これは出荷後に劣化するのが原因である」当然こういう事例はある。しかし著者はその事例としてパソコンを挙げている。彼の主張は以下の通りだ。

「購入して二年ほどでスイッチを入れてから立ち上がるまでの時間や画面の切り替え時間が目に見えて遅くなる。わずか二年で製品が劣化してしまうのは工業製品のトップグループに入る」

これはパソコンが劣化したのではなく、アプリケーションソフトの機能が進化したためメモリを大量に必要とし、しばしばメモリ領域のスワップが発生するためだろう。これを製品の劣化と言われてはパソコンメーカは立つ瀬がない。

著書の本質はそこではないし、OA機器メーカの開発設計者としての経歴があり、現在も後進の指導をされている方だ。著者を非難するつもりは全くない。

パソコンという商品は単体では何も役には立たない。アプリケーションソフトがあって初めて機能する。そういう意味では二年間で劣化したのではなく、たった二年で進化したと考えるべきだろう。

例はまずかったが、著者の指摘は正しい。
昔から出荷後の環境ストレスで色々な故障が発生している。
出荷時に良品だった製品が環境ストレスで故障する事例は多い。

信頼性問題

または出荷時に機能検査ができない製品もある。タカタのエアーバックも出荷検査で機能検査はできないし、爆発することもない。

環境ストレスによる劣化は製造や検査で解決できない。設計時に環境ストレス耐性を上げておかなばならない。そのためには多くの環境ストレス事故事例とその原因を知らなければならない。


このコラムは、2020年7月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1011号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

笹子トンネル事故から6年

 中央高速笹子トンネルの天井板崩落事故が発生したのは2012年12月2日。先週日曜日には現地で遺族らが慰霊式典を開催した。

6年経った今もまだ事故原因が明確になっていないようだ。

事故を契機にNHKの取材斑が5年間かけて、日本全国のトンネルや橋梁などの安全性を取材している。

笹子事故5年 インフラは安全になったのか?

しかしこの記事は「老朽化」がキーワードとなっている。
重大災害につながりかねない交通インフラの老朽化を取材し明らかにする事に異議はないが、笹子トンネル事故は「老朽化」が原因ではないはずだ。当時の記事からは、不適切な施工が原因と思われる。

ボルト、引き抜ける状態 笹子トンネル、6割が強度不足

笹子トンネル天井崩落事故

当時の調査では、引き抜かれたボルトには先端の一部にしか接着剤が付着していなかったものが多数あった事がわかっている。老朽化により接着剤の強度が劣化することはあるかもしれない。しかし硬化した接着剤の量が、経年変化で少なくなるとは思えない。

NHKの取材そのものは意味があるにせよ、記事タイトルに「笹子トンネル」を入れることにある種の「作為」を感じるのは私だけだろうか?どこかに真実を隠蔽する力が働いていると言う疑惑を感じざるを得ない。


このコラムは、2018年12月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第754号に掲載した記事です。

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リアサス連結プレート誤装着

 ホンダは4月8日、『CBR1000RR-R』のリアサスペンションについて、不適切に組付けたものがあるとして、リコール(回収・無償修理)を国土交通省へ届け出た。対象となるのは2020年3月31日~7月23日に製造された439台。

今回、リヤクッションアームとスイングアームを連結するクッションコネクティングプレートの表裏を逆向きに組付けたものがあることが判明。そのため、凹凸路面等を繰り返し走行するとプレートが折損し、最悪の場合、走行安定性が損なわれるおそれがある。

改善措置として、全車両、クッションコネクティングプレートの組付け状態を点検し、該当するものはクッションコネクティングプレートとダストシールを新品と交換する。

不具合は2件発生、事故は起きていない。市場からの情報によりリコールを届け出た。
                        

carview.yahoo.co.jp/news/より)

 リヤクッションアームとスイングアームを連結するプレートの裏表を逆に取り付けてしまったという不良だ。
不具合を二件発見している、と記事にある。このような作業ミスの対象範囲を約4ヶ月、439台とどうやって特定したのだろうか?同じ作業員がプレートの組み付け作業した製品を全て回収対象としたのだろうか?
それにしても、回収対象範囲を特定するのは相当困難だっただろう。

この手の作業ミスによる不具合は、何度も発生する。裏表を勘違いしていたらその作業者が作業した分は全て対象となる。しかし「うっかり」間違えたのならば問題のない製品まで回収し確認をしなければならなくなる。非常に厄介な問題だ。従ってこの手の不良を「作業ミス」と考えるべきでない。

設計ミスと言ってしまうと設計者に気の毒かもしれないが、設計配慮が足りていなかったと考えるべきだ。今回の事例を設計FMEAの潜在故障モードに追加し、「裏表のない設計」「裏表逆には取り付かない設計」となるようにしなければならない。

「失敗から学ぶ」という事は知識を増やすことではなく、失敗が二度と発生しないように標準を作る(または変える)ということだ。

回収対象製品を知らないので「プレートを逆に付けるとプレートが破損する」という故障モードのメカニズムが理解できない。しかし裏表が逆だと取り付かない構造にする事は可能だろう。


このコラムは、2021年4月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1123号に掲載した記事です。(タイトルを変更しました)

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初期流動管理

 先週のコラム「設計審査を企業文化とする」で、設計審査の事例をご紹介した。また設計部門を持たない、中国工場で設計審査を企業文化にした事例もご紹介した。

それに対して読者様からメッセージをいただいたので、ご紹介したい。

※M様のメッセージ

 私が以前所属していた企業も、生産を100%外部に委託するファブレスでした。QAレビューの後に、量産開始の初期流動会議、量産移行会議等で、事前確認するようにしていました。それでも予期せぬ不具合が発生することもありましたが、概ね不具合を事前に予防することができたと記憶しています。
 やはり基本をコツコツと手抜きせず継続することが成功への近道なんですね。

全く同感です。
決められた事をコツコツやってゆく。そういう行為が、習慣となり、習慣が文化を作る。

今の時代のモノ造りは、差別化する事がどんどん難しくなって来ている。
同じ材料を、同じ機械で、同じ様に加工するだけでは、競合との差別化は出来ない。材料も、設備も、技術も誰でも簡単に手に入れることができる。
差別化出来る要因は「人」以外にはない、と言えるだろう。
人の感性を商品設計に盛り込む。人の良き習慣で企業文化を作り上げる。
モノ造りは,人の手作業から、省力化・機械化に向かった。そして今度は、「感性」と言うキーワードに従って「人」に戻って行くのだと思う。
人の手から出て人のココロに戻ると言う事だ。

さて前置きが長くなったが、「設計審査を企業文化とする」の続編として、M様もメッセージで触れている、初期流動管理について、話をしてみたい。

設計審査文化として、設計完了から生産・出荷までのフェーズには「出荷判定会議」と「初期流動完了判定会議」を開催していた。
設計審査は、設計部門の主催で、設計の完成度を確認する審査だ。
出荷判定と初期流動完了判定は、品質保証部門の主催で、生産品質を確認する審査だ。

出荷判定会議は、最初の出荷ロットの生産で、今後の生産で品質保証出来る事を確認する。

  • 生産のための設備、治工具類が準備出来ている。
  • 生産設備の調整や設定が確定している。
  • 作業手順は確定し、作業者への教育・訓練が確実に行われる。
  • 工程能力指数が十分ある。
  • 工程内不良の解析設備・能力が十分ある。
  • 工程直行率が一定の基準をクリアしている。
  • 原因を特定出来ない工程内不良がない。
  • 関連法規の認定がおりている。

等を確認する。
最初の出荷ロットを、ただ造り上げただけでは、上記の項目はパス出来ない。
同じ品質で次のロットも作り続ける事が出来るかどうかを確認する。

この審査が合格しない限り、出荷は出来ない。

出荷判定会議にはもう一つ決定事項がある。それが初期流動管理期間と管理項目だ。

出荷判定会議がめでたく合格判定となると、出荷が開始され初期流動管理期間となる。初期流動管理とは、予防保全活動の一種であり、初期の段階で潜在不良の要因を潰してしまうための活動だ。

初期流動管理期間は、最低3か月。製品にあわせて初期流動管理終了の条件を決める。例えば、直行率99.9%以上を初期流動管理終了の条件と決めると、3ヶ月経っても、直行率99.9%を達成していないと、初期流動管理は継続となる。

初期流動管理中は、最低1ヶ月に1回初期流動管理会議を開催する。
会議では、管理項目に指定された内容を報告審議する。例えば、工程能力指数、工程内不良の不具合解析結果、などが報告され、改善方法などが審議される。

当然この様な管理は,工場にとっても、事業部にとってもコストがかかる。
利益幅があるから、コストをかけても平気な訳ではない。本格量産になってから問題が顕在化すると、顧客に迷惑がかかるし、修復のために大きなコストが発生し、利益など吹き飛んでしまう。それを防ぐための予防保全なのだ。

顧客が価値を感じてくれている所には、コストをかけてでもその価値を上げなければならない。

顧客の我々に対する評価は、開発期間が短い、量産試作サンプル提供が速い、市場品質が安定している、と言うポジティブな評価が、価格が高いと言うネガティブな評価をカバーしていた。

この様な顧客の期待に応えなければ、その他大勢のベンダーと価格競争で受注を奪い合うことになる。


このコラムは、2013年10月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第331号に掲載した記事です。

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可視化管理

 一目で分かる様にすることを可視化管理とか見える化管理と言う。「一目で」と言う部分が重要だ。例えば今月の売り上げは、売り上げ台帳を合計すれば分かる。しかし利益を知ろうと思えば、更に経費を集計しなければならない。こういう状態は、経営が見える化出来ているとは言わない。

工場の現場も同じだ。コンピュータの管理画面を見なければ分からないのでは、まだ不足だ。現場で一目で分かる様になって初めて可視化管理が出来ていると言える。

更に「誰が見ても」を追加する。
現場の作業員が見て分かる必要があるが、管理職や掃除のおばさんが見ても分かる様にしておく。究極は、今日初めて工場監査に来たお客様でも分かるレベルにすることだ。

可視化管理の要点は

  • 一目で分かる
  • 誰が見ても分かる

と言うレベルにすることだ。
このふたつが揃えば、一瞬で理解出来る、考えずに理解出来る、と言う水準に到達出来るはずだ。

実はこういう説明をしても、なかなか理解していただけない。こういう水準に到達している現場を見て理解するのが一番の近道だ。

先週訪問した工場は、現場の可視化のみならず、部署ごとの業績も可視化管理を実施しておられた。


このコラムは、2015年7月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第431号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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品質改善

 先月の定例セミナーにご参加いただいた方に、生産委託先の品質改善をどうしたら良いかという相談を受けた。

例えばネジを4点締めなければならないところを3点しか締めてない物が見つかり、日本で全数再検査したと言う。大変な品質損失コストである。

工場で検査をさせても無駄なコストが発生する。
品質とコストがトレードオフ関係になる対策はうまく行かない事が多い。工程できちんとネジ4本が締めてある事を保証するようにしなければならない。

作業前にネジを4本取り置き、作業後過不足なくネジが使われている事を確認する。もしあまっていれば締め忘れ、足りなければ製品の中に落ちている可能性がある、ということだ。

問題がおきてから考えるのではなく、事前に問題が起きそうな工程でこういう品質作りこみの仕掛けを用意する。
このような不良未然防止活動で品質損失コストは大幅に減らす事が出来る。


このコラムは、2008年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第43号に掲載した記事です。

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生産委託先の指導

 先週のメルマガに読者様からご感想をいただいた。

いつも楽しく「技術者のための中国語講座」を拝読させていただいておりましたが、「中国生産現場から品質改善・経営革新」を登録してからは、身につまされる思いでいっぱいです。

この読者様は一ヶ月中国の生産委託先を指導され、別のメンバーに交代してまた何ヶ月か後に出張されるそうだ。出張指導者がころころ変わってしまいなかなか指導が徹底できないとお感じのようだった。

私も会社勤務時代は、何人かのメンバーで交代に指導をして回っていた。
一時期中国の広東省だけで4社同時に指導していた時があり、とても一人では回りきれなかった。

その時のやり方がご参考になるかもしれないと思い、メールに書かせていただいた。

毎年期末になると翌年の生産委託先の指導計画を作る。
まずは翌年度の出張予算の策定が必要なので、それとあわせて指導計画も作ってしまうのだ。

新製品の立ち上げの時は出荷判定会議を開催、その他の定例指導ではリストアップした指導項目が一年間で一巡するように計画を立てた。

毎回の出張では指導先に指導結果のレポートを残して帰ってくるのだが、これは委託先の工場経営者や幹部に次回までの改善の宿題を伝えるためである。一方内部的には出張者同士の指導レベルの向上に使っていた。出張から戻ると、このレポートをネタにメンバーでミーティングをする。
写真などを元に指摘した内容と、改善結果をディスカッションする。これがメンバー相互で結構勉強になる。

私も部下に、今回も前回と同じ指摘をしているが歯止めがうまく利いていないのではないか、などと指摘を受けていた。こういうディスカッションがお互いのレベルアップにつながる。

次回出張指導する時はこのレポートを持参してゆくので、改善が維持できているかどうかすぐに確認ができる。別のメンバーが指導に行ってもも大丈夫だ。


このコラムは、2008年7月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第44号に掲載した記事です。

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検査不正・罰則強化へ

国交省、検査不正で罰則強化へ 自動車メーカーに再発防止

 自動車メーカーによる新車出荷時の完成検査で不正が相次いだことを受け、国土交通省は7日、罰則を強化する方針を固めた。不正発覚後、是正命令に応じない場合に新たに罰金を導入するほか、国の監査で隠蔽を図った際の罰金を大幅に引き上げ、再発防止を図る。今国会に道路運送車両法改正案を提出する。

 不正発覚時に関しては、昨年秋の省令改正で是正を勧告できるようにした。これに加え、強制力のある是正命令を新設、履行まで出荷は一時的に停止できるようにする。罰金と併せて速やかに不正を改めさせる。罰金は数十万円とする方向で調整している。施行時期は未定。

(共同通信社)

 以前完成車検査不正が報道された際に、このメルマガでも取り上げた。

日産の完成車検査不正

日産不正検査

当初発覚した完成車検査不正は検査員資格のない従業員が検査を実施していた、という不正だった。当時は完成車検査(陸運局の車検を新車出荷時に自動車メーカが代行する)制度そのものの存在意義について疑問を呈した。

しかしその後も、排ガスや燃費データの改ざん、ブレーキ検査の不正などが次々に明らかになった。

メーカ側に同情的な意見を述べていたが、報道記事にフットブレーキの検査にハンドブレーキを併用していたという不正を目にして、もう同情の余地はなくなった(苦笑)

検査不正

罰金・罰則がなければ品質保証ができない、という日本車品質事情に深く失望している。昔、生産委託先の台湾企業の経営者が検査装置を導入するから品質問題はなくなると言われ苦笑した。その苦笑を日本の製造業に向ける日が来るとは想像だにしなかった。

日本製品の「安かろう悪かろう」という世界中の悪評を払拭し、日本品質を確立してきた先人の努力を思うと、残念でならない。

品質はお上に頼るのではなく、モノ造りに関わる一人一人の努力によってしか達成できないものだ。


このコラムは、2018年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第704号に掲載した記事です。

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リコールのTDK加湿器が火元か 長崎の介護施設火災

 4人が死亡した長崎市の認知症グループホーム「ベルハウス東山手」の火災で、電子部品大手のTDK(東京)の上釜健宏社長は22日、長崎市内で記者会見し、リコール(無償回収・修理)の対象になっている同社製加湿器が火元となった可能性が極めて高いことを明らかにした。

 1998年9月に発売した加湿器「KS―500H」で、ヒーターなどに不具合があり、99年1月にリコールを通産省(現経済産業省)に届け出た。販売された2万891台のうち約26%の5509台が回収されていない。上釜社長は「亡くなった4人の方々、遺族の方々、負傷された方々などに、心よりおわび申し上げます」と謝罪した。

 TDKによると、KS―500Hは長崎の火災のほか、焼損16件、発火14件、発煙16件の計46件の事故を起こしている。火災となったり、けが人が出たりしたケースはないという。

 都道府県別の事故件数は北海道が10件、東京が9件、埼玉が5件、千葉、静岡、三重が各3件、栃木、愛知、京都が各2件、秋田、宮城、群馬、長野、富山、兵庫、宮崎が各1件。

 KS―500Hは内部で蒸気を発生させる蒸発皿にヒーターを十分に固定できていないものがあり、ヒーターが変形して蒸発皿から外れ、底の部品に接触するなどして発煙、発火することがある。異常発熱すると、ヒーターの温度は1000度を超えるという。

 TDKは15日に長崎県警から連絡を受け、21日に火元の部屋にあった焼けた加湿器を確認。ヒーターの一部が蒸発皿から外れ、脱落するなどの不具合があったことから、過去の不具合と同様に脱落部分が異常発熱し、ほかの部品に触れて発火した可能性が極めて高いと判断した。

 TDKは回収への取り組みが不十分だったとして、全国のグループホームなどに加湿器の使用状況を確認する作業を22日から始めた。

 火災は8日夜、ベルハウス東山手が入居する4階建てビルのうち、入所者の居室がある2階から出火。入所者の女性3人と、元入所者で建物3階に住んで
いた女性(82)の計4人が死亡した。

(日経電子版より)

 2月8日に発生した、長崎の認知症グループホームの火災について先週のコラムで、加湿器のショートは「原因」ではなく「現象」だと書いた。
丁度2月22日の日経電子版に、上記記事が出ていた。

記事によると、加湿器内部のヒーターが動作中に脱落、加湿器内部に接触、接触部分が加熱され焼損に至った、という事が判明した。

製品は燃えてしまっているため、ショートして発熱した様に見えるが、焼損の原因はショートではなく、ヒーターの脱落だ。
そしてヒーターの脱落にも原因がある。
ヒーターの固定が不十分だという作業不良が原因であり、作業不良が発生し易いという誘因があったはずだ。

例えば、ヒーターの固定箇所の機構設計が、ロバストになっていなかった。ヒーターの固定作業方法が、作業者によってばらつく様になっていた。

ここまで原因調査を深堀して初めて有効な再発防止対策が検討出来る様になる。

メーカのTDKは、99年1月にリコール届けを出し、回収を告知している。この時どのような「再発防止対策」を施したのかは、外部からは窺い知る事はできない。
残念ながら、TDKはリコール届けを出してすぐに、加湿器事業から撤退している。加湿器を生産しなくても、同じ轍を踏まないための、ノウハウ化は可能だ。

今回の事件を
「発熱箇所が脱落し、機構部品と接触する」
という潜在故障現象として、設計FMEAや工程FMEAで検証レビューをすれば、他社の失敗事例でさえ、共有出来るだろう。

他業界の企業もこのようにして、失敗事例から「未然防止対策」を引き出せば不必要な品質損失コストの発生を防ぐことができる。品質損失コストは、自社が負わなければならないものだけではない。社会全体、被害に遇われた方及びその家族の方々すべてに損失が発生している。その損失は、金銭的な補償で補いきれるものではないはずだ。これらの損失を未然に防止する事は、企業の社会的責任でもあるはずだ。


このコラムは、2013年2月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第298号に掲載した記事です。

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加湿器にショートの痕跡か 長崎グループホーム火災

 長崎市東山手町の認知症グループホーム「ベルハウス東山手」で高齢女性4人が死亡した火災で、火元の部屋にあった加湿器とみられる電気製品にショートのような痕跡があることが県警への取材で分かった。県警は燃え残りを分析し、出火原因の特定を進める。

 県警は12日、4人の死因を一酸化炭素中毒と発表した。司法解剖の結果、4人に目立った外傷はなかった。火元は2階中央付近の男性入所者の居室と断定した。

 火元の部屋からは、加湿器とみられる焼け焦げた電気製品が見つかっている。この電気製品付近の焼け方が特にひどかったという。施設内は禁煙で、暖房はエアコンのみを使用。加湿器は、希望者に施設側が貸し出していたという。

 一方、長崎市によると、火災が起きた8日午後7時30分ごろ、本来は2人の職員が勤務すべきところ、このホームでは当直の女性職員(56)1人しかいなかった。別の職員1人が出火直前に早退し、交代で出勤予定だった職員が遅刻していたためだった。長崎市による、ホームの運営会社への聞き取りで分かった。

 3階に居住していて亡くなった中島千代子さん(82)を担当していた訪問介護のヘルパーも出火直前に朝食用のパンを買いに出て部屋を離れていた。長崎市は、当時の勤務実態を詳しく調べる方針だ。

(asahi.comより)

 先週に引き続き焼損事故だ。

高齢者のグループホーム火災は、現場調査により、加湿器が火元と判明した。記事には加湿器のショートが原因の様に書かれているが、加湿器のショートは現象であり原因ではない。
しかも、加湿器のショートは火災後の現象であるだけの可能性もある。

例えばAC電源の様に電圧が高い部分の半田付けに不良が発生し、断続的に接触・非接触を繰り返す。接触・非接触のたびに火花が発生しプリント基板の絶縁がじわじわと劣化。最終的にAC100Vがショートし発熱焼損。つまりショートに至る前に、半田付け不良という原因がある。

実はこういう事例が意外と多い。

電源スイッチが使用中に劣化し接触抵抗が上がる。接触抵抗が上がり発熱。ますます接触抵抗の上昇が加速する。最終的に発煙焼損。
結果的に電源スイッチが丸焦げになっているので、スイッチのショートの様に見えるが、原因はスイッチ接点の接触不良である。

電源ケーブルのコネクタが、挿抜による外力でカシメ部分が緩んで来る。カシメ部分の接触抵抗が上昇し発熱、同様のプロセスにより発煙焼損。これもコネクタのショートの様に見えるが、電源ケーブル挿抜の外力が直接カシメ部分にストレスを与える様になっている機構設計のミスだ。

結果的には、製品がショートし発熱焼損した様に見えるが、原因は製造不良であったり、設計不良だったりする。ここまで原因の解析を深める事により、再発防止を検討することが可能となる。


このコラムは、2013年2月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第297号に掲載した記事です。

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