月別アーカイブ: 2018年10月

仁者安仁,知者利仁。

yuē:“rénzhějiǔchǔyuēchángchǔrénzhěānrénzhìzhěrén。”

《论语》里仁第四-2

(注)约:贫困

素読文:
子曰わく、不仁者ふじんしゃもっひさしくやくからず。もっながらくからず。仁者じんしゃじんやすんじしゃじんす。

解釈:
孔子曰く:“仁の徳なき者は貧しい苦しさに長くは耐えられない。また長く安楽の境地におられない。仁の徳ある者は心安らかであり、知ある者は仁を生かすことができる。

新幹線緊急停車、1人けが 時速285キロ、部品落ち停電

新幹線緊急停車、1人けが 時速285キロ、部品落ち停電 福岡

 山陽新幹線の小倉(北九州市小倉北区)─博多(福岡市博多区)間で8日、停電が起きて列車が緊急停車し、乗客1人がけがをする事故があり、福岡県警は9日、業務上過失傷害容疑での立件も視野に、車両を実況見分した。JR西日本によると、停電の原因は車両から落下した部品が架線に接近してショートしたためで、部品の固定が不十分だった可能性があるという。

(以下略)

(朝日新聞電子版より)

 事故車輛の写真を見ると、落下した部品が窓のすぐそばにぶつかっている。少し間違えば、落下部品は窓を直撃し乗客に大怪我をさせたかもしれない。

落下した部品は車輛下側に取り付けられたアルミ製カバーの一部。車輛下部のモーターやブレーキを守るため車輛下側を覆っている。カバーが外れ、風圧で車体にぶつかりながら送電線まで舞い上がった様だ。

カバーはネジ2本で固定する構造になっており、ネジは見つかっていない。となりのカバーのネジも1本なくなっており、1本は緩んでいたと言う。

保守点検作業に何らかのミスが有ったのかもしれない。JR北海道では点検作業データ捏造事件が昨年発覚しており、JRの保守点検作業に対する信頼感が揺らぐ事故だ。

事故後の調査で、事故車輛は試験走行に使っている事が判明している。
試験走行後に行われた確認作業でカバーを外し、それが正規の手順で復旧確認されなかったのではないだろうか?

実は工場でも同様の事故はしばしば発生している。
工程内不良品を、班長が修理し正規の工程を通さずに、直接梱包工程に戻した。
開発部門が手造りした、エンジニアリングサンプルをそのまま顧客に出荷した。

上述の2例共に、工程内でQA検査をすると言う正規の手順を外れたため、顧客に不適合品を流出させることになる。

この不適合品の流出は、手順の不適合だけでは発生しない。修理品、サンプルに不適合がなければ何事も起きない。従って手順に不適合が発生していても気が付いていない場合もありうる。

非定常作業にその様な潜在リスクが有る。
対策は「非定常作業を定常作業化する」ことだ。逆説的な言い方だが、例外的作業にリスクが有るので、例外作業を正規作業に乗る様にルール化すれば良いのだ。

工程内不良を修理した場合、再投入する工程を決めておき、工程内QA検査を通る様にする。
顧客に出荷する製品はサンプルと言えど、製造部門で製造する。
この様にルール化しておけば、正常に生産した製品と同等の検査が行われる事になる。


このコラムは、2015年8月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第437号に掲載した記事に加筆しました。

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続・四川航空機事故

 先週のメルマガで四川航空機の緊急着陸事故をお知らせした。概要は以下のとおり。

中国・重慶からチベット自治区ラサに向かっていた四川航空エアバスA319型機(乗客・乗員計128人)が、高度約10,000m上空を飛行中に操縦室の窓が突然、破損して脱落。副操縦士が外に吸い出されそうになり、成都・双流国際空港に緊急着陸。副操縦士と女性乗務員が軽い怪我、乗客に負傷者なし。

まだ事故原因となった窓ガラス脱落の原因は発表になっていない。先週私はメンテナンス時の問題を推定した。その後のニュースによると、事故機体は11年に同航空が導入。飛行時間はのべ1万9912時間で、落下した窓ガラス周辺を含め、最近15日間に修理した記録はなかったという。それでもメンテナンス時の作業ミスの可能性は残っているだろう。

今回再び取り上げたのは、以下のような記事を見かけたからだ。
米華字メディア『多維新聞』は以下のように指摘している。

“ネット上ではこの出来事を「中国版ハドソン川の奇跡」と称し、乗客乗員の命を守った機長に対する絶賛の嵐が吹き荒れていると紹介。そのうえで「よくよく考えると、恐ろしい。最近の飛行機は手動操縦の機会が少なくなっているからだ。もし機長に空軍での操縦経験がなかったら、大惨事になっていたかもしれない。事故の原因を究明し、四川航空の責任を追及せよとの冷静な声は、ネットユーザーの大絶賛の前に隠れてしまっている」と指摘している。”

『多維新聞』は反政府系のメディアなのだろうか(笑)
ネットでの大絶賛が、真の原因追求を阻害している。そしてそれを演出しているのが政府筋だとすると、私が期待する原因調査の公開はないのかも知れない。

しかし上記の記事には承服しかねる。
「事故の原因を究明し、四川航空の責任を追及せよ」というのが冷静な声だとしているが、事故原因がまだ判明していないのに「四川航空の責任を追及」という言葉が出てくるのが奇異だ。こういう声が冷静だとは思えない。事故原因の究明は、事故原因の責任主体を明らかにすることも含まれる。その責任主体をあらかじめ明示して事故原因究明を行う、という点に全く承服できない。

大げさに言えば「魔女狩り」だ。あいつは魔女だ、と決めて証拠を集める。
こういう手法では、有効な再発防止を考えることは不可能だ。

同様に「事故機は天津の工場で組み立てられた」という意見(真実かどうか判定できないので「意見」と表記する)も、原因分析にバイアスをかける作用を持つ。

原因分析に対して、なんら仮説を持たずに立ち向かうことはなかろう。しかしその仮説が「漏れなくダブりなく」で列挙されており、事実に基づいて採否を判断しなければならない。

私たちの製造現場で起きている問題の原因分析や、改善活動の現状把握も同様だ。予断を持って事に当たれば正しい判断や分析はできない。


このコラムは、2018年5月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第673号に掲載した記事に加筆しました。

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四川航空機事故

 

「中国機、1万メートル上空で窓脱落 体の半分が外に」

 中国メディアによると、中国・重慶からチベット自治区ラサに向かっていた四川航空のエアバスA319型機(乗客・乗員計128人)が14日、成都に緊急着陸した。高度約9800メートルの上空を飛行中に操縦室の窓が突然、破損して脱落。副操縦士が外に吸い出されそうになり、操縦室内の気温も零下20~30度に急低下したという。

 中国メディアの取材に応じた機長の話によると、窓が割れたのは成都まで100~150キロの地点。副操縦士の体の半分が操縦室の外に吸い出されたが、シートベルトをしていたため、転落せずに済んだ。副操縦士は顔と腰を負傷した。

全文

(朝日デジタル)

 重慶や四川の中国企業の指導で四川航空は何度か利用したことがある。他人ごとではない事故だ。
5月14日に発生した事故なので、まだ事故原因などの発表はない。

最近同種の事故が発生している。
「女性の上半身が機外に、乗客ら引っ張り戻す 米国機事故」

こちらの事故は、1万m上空を航行中のノースウェスト機で客席の窓が割れ女性乗客が吸い出され死亡している。国家運輸安全委員会(NTSB)が調査中だが、エンジンが金属疲労を起こしていた可能性が指摘されている。

四川航空機の場合は操縦席の窓が破損しているので、ノースウェスト機の事故とは違う原因だろう。また1万m上空を航行中だったので、バードストライクも考えにくい。

過去の同様事故を探してみると、1990年6月10日に発生したブリティッシュ・エアウェイズで操縦席の窓が割れ機長が機外に吸い出された事故があった。
この時の事故は、メンテナンス時に規格外のネジ(正規品より短い)で窓枠を固定したことが原因だった。

航空機事故の事故原因は「メンテナンス」に関連するものが多いという印象がある。上記米、英の事例も、御巣鷹山の事故もメンテナンスの問題だった。

我々製造業もメンテナンス直後の事故(災害だけでなく不良発生も含む)発生事例は多くある。この機会にメンテナンス手順、実際の作業、記録方法などを見直してはいかがだろうか。

今回の四川航空機事故は、中国民用航空局が事故原因調査をすると思われる。
公正な調査が行われ、原因が公表されることを期待したい。


このコラムは、2018年5月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第670号に掲載した記事に加筆しました。

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改善と改革

 先週のメルマガで、ワインバーグの言葉を紹介した。
今週ももう一つ別の言葉を紹介したい。

「複雑なシステムは選択的に改造するより、破壊する方が楽だ」

参考:「ワインバーグの文章読本」

ワインバーグはシステムエンジニアなので、彼のこの言葉はシステム開発・メンテナンスに当てはめて考えるとすんなり理解できる。

膨大なシステムソフトを小改造することは困難だ。その改造が全体にどのように影響を与えるか、全て洗い出し、悪影響を与えないように改造しなければならない。ならばいっそ捨ててしまえ。というのが本日紹介した言葉の真意だろう(笑)

さすがに破壊したり、捨ててしまうことはできないだろうが、この思いは素人の私にも理解できる。サーバ・クライアント型やアプレト型のシステムが基幹ソフトにも入り込んできたのは、システムソフト業界のジレンマから来るのだろう。

同じことが生産現場の改善にも言えるだろうか?
選択的に改善がうまくゆかないから破壊する、というのは同様に無理だろう。
「選択的改善」がうまくゆかないのは、ソフトウェアの世界と比較すれば、単純だ。全体を見ずに部分を選択的に改善するからうまくいかない。
例えば10人で1時間に100台のサブユニットを生産しているラインの生産能力を10人で1時間120台に改善する。これが改善かどうかは、後工程の生産能力と需要に依存する。

後工程が1時間に100台しか生産できないのならば、10人で1時間に120個生産するのは改善ではない。8人で1時間に100個生産できるようにした方が良い。

改善はどこまで行っても改善であり、改革には至らない。生産改善でよく耳にする言葉だ。改善で20%、30%の効率を上げるより、どんと設備投資をして20倍、30倍の改革を目指したい。そんな要求は理解できるが、需要がないのに生産量を上げても意味はない。

コストを下げるためにたくさん造る。
大量生産により貧乏も大量に生産してしまった。20世紀に犯した我々の蹉跌はここにあるのではなかろうか?

いきなり設備投資で改革を目指すのではなく。金をかけずに改善を繰り返す。
改善をすることにより、見える世界が変わるはずだ。改善を繰り返し成長した視点で設備を検討すれば、より効率の良い設備が設計できるはずだ。


このコラムは、2018年6月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第675号に掲載した記事に加筆しました。

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TMP

 このメルマガで「TMP」について書いたことが何度かある。ご記憶の方もあるだろう。念のため再度説明すると「TPM」とはTPM(トータル・プロダクティブ・メインテナンス)のことではない。トータル丸パクリを略して「TMP」と言っている。

他人様のやっていることを丸パクリしよう、と肯定的に使っている。人真似はよくないという風潮があるが、まずは他所でうまく行っている方法をそのまま真似てみる。やって見た上で、自分たちに合うように改善すればよい。
何もしないうちから、できない理由を並べ立てても何も進歩はない。まず真似て、独自のモノを作り上げればよい。そんな考えが「TMP」だ。

今読んでいる文章術の本にこんな言葉が出てきた。
「一箇所から盗めば盗作。いろいろなところから盗めば情報収集」
著者のワインバーグ氏は、石ころをたくさん集めて壁を作るようにして文章を作れと言っている。それでは文章の創作ではなく、文章の盗作ではないか、という読者の疑念に対し先手を打った言葉だ。

参考:「ワインバーグの文章読本」

一冊の書籍、一編の詩歌から石ころ(言葉)を集めて文章創作をすれば盗作。
多くの書籍、多くの詩歌から石ころ(言葉)を集めるのは情報収集である、という主張だ。
ちなみに上記のワインバーグ氏の文章は、ちゃんと出所を記してあるので、盗作ではなく引用だ。

「TMP」に抵抗がある方のために我々業界には都合の良い言葉がある。「ベストプラクティス」と言えば耳障りは良い。しかしやることは「TMP」と同じだ。

全く同じ言葉を使っても文章を書くことができる。盗作かどうかは類似点の全体に対する割合により判断されるのだろう。

マネジメント手法は、そのまま真似しても組織の特性が違えば機能しない事が多いはずだ。それでも丸パクリをしろと言っているのは、あれこれ考えるよりまずやって見てうまくゆかないところを改善せよ、という意味だ。


このコラムは、2018年5月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第672号に掲載した記事に加筆しました。

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質より量

 武井壮の大人の学校という講義をたまたまyoutubeで見た。

ほとんどTVを見ないので、恥ずかしながら武井壮という方を知らなかった。半ズボンで登壇した姿を見て、見るのをやめようかと逡巡しているすきに、「水は飲みたいと思えば飲める。しかしホームランは打ちたいと思っても打てない」という言葉にヤラレ、最後まで見た(笑)

打ちたい時にホームランが打てない理由は「見えていないからだ」という。
しかし一流の打者は、ボールをしっかり見ているはずだ。あの川上哲治などは、ボールが止まって見えると言っていた。
武井氏が言っているのは、ボールは見えていても、自分の体がどのように動き、バットのヘッドがどのような軌跡をたどっているか見ていないという。

確かに、見えていない体を使い、見えていないバットヘッドの軌跡を制御して時速100km以上で飛んでくるボールにジャストミートすることは困難だろう。
打ちたい時にホームランを打つためには、体を見ていなくてもイメージ通りに動かせるように、バットの先端を見ていなくても思い通りの軌跡を描くように鍛錬する必要がある。

我々も不良が発生する瞬間を見ることができれば、不良発生の原因は簡単にわかるだろう。不良発生の瞬間が見えないので、仮説を立て検証し原因を推定する事になる。仮説検証の能力を鍛錬しなければならない。

さてここからが本日の主題だ。
武井氏は、社会的価値は質(クオリティ)ではなく量(クォンティティ)だと言っている。彼はアスリートの立場として、社会的価値は質より量だという。選手がいくら高いクオリティ(運動能力、瞬時の判断力など)を持っていても、社会的価値は上がらない。そのスポーツを見る観客のクォンティティ(人数)が社会的価値を決定する。
観客動員数が多ければ興行収入が大きくなり、また広告効果などの付帯価値も上がるという事だ。

ここで比較している質と量は、供給者側の質と消費者側の量である。こう理解すれば「質より量」という現代社会にマッチしないキャッチコピーはいきなり当たり前になる(笑)

我々製造業も同じだ。供給と消費のバランスが変わり、同一規格大量生産品の社会的価値が下がった。そして消費者の欲求に応える多品種少量生産品しか売れなくなっている。
一見すると「量より質」、つまりたくさん粗悪品を作るより質の良いものを少量作った方が価値が高い、と解釈できる。

製造業にとって「質」が良いのは当たり前の前提、その上で顧客の需要という「量」が重要となる。
スポーツと同じく製造業も、生産者の質よりも消費者の量が社会的価値を決定する、という事だ。
当然製品の質と量(顧客需要)には相関関係がある。質が悪ければ量は減る。しかし質が良くても量が上がるとは言えない。という片側相関関係だ。
簡単に言ってしまえば、製造業が作っている製品の社会的価値は生産者ではなく、顧客である消費者が決定しているという事だ。製造業以外でも同様だ。

「質より量」心に留め置きたい。


このコラムは、2018年6月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第674号に掲載した記事に加筆しました。

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子貢仁を為すを問う

gòngwènwéirényuē:“gōngshànshìxiānshìbāngshìzhīxiánzhěyǒushìzhīrénzhě。”

《论语》卫灵公第十五-10

素読文:
こう、仁をすことを問う。子曰わく、こうの事をくせんとほっせば、必ずまず其のにす。くにに居るや、其の大夫たいふけんなる者につかえ、其のの仁なる者を友とす。

解釈:
子貢が仁を行う道について問うた。孔子曰く:大工は仕事の前にまずノミや鉋を研ぐ。同様に仁を行うためにはまず自分を磨かねばならない。そのためにはどの国にあろうとも、その国の賢者に仕え、仁者を友とすることだ。

「ダイヤはダイヤでしか磨かれない。人は人でしか磨かれない」立派な上司や友人を持つことが重要だということですね。

改善とカイゼン

 改善のことを「カイゼン」とカタカナ表示する文章を見て違和感を覚えた。この文章は、現場が自分たちの都合のいいように勝手に作業方法を変更する事を「カイゼン」とカタカナ表記をしていた。
本日は改善とカイゼンの境目について考えて見たい。

辞書で改善を引いてみると以下のように出ている。

悪いところを改めてよくすること。「生活を改善する」⇔改悪。
[補説]トヨタの生産方式を象徴する言葉として世界で知られる。

(コトバンクより)

「改善」とは悪いところを改めてよくすること。
では「カイゼン」とはなんだろうか?[補説]に有るようにトヨタ生産方式を象徴する「KAIZEN」を示すものと考えるのが妥当のように思える。

上述の現場の都合に合わせて勝手に作業方法を変えるようなことは、どの様な表記をしようとも改善とは言い難い。例えば東海村JCO臨界事故の様に、燃料加工工程で正規作業手順を逸脱した「裏マニュアル作業」はどんな表記をしても改善とはいえない。

では「カイゼン」と「改善」の違いはどこにあるのか?
「改善」は辞書にある様に悪いところを改めて良くすること。
「カイゼン」は悪くなくても更に良くすること。
この様に定義してはどうだろう?

以下の様な例で理解していただきたい。
不良が発生する工程を不良が発生しない様にすることは「改善」。
作業効率を〇〇%向上させることは「カイゼン」。

作業効率を上げなければ出荷が間に合わない、または利益が確保できないなどのネガティブな状況を改めることは「改善」と表記する。一方、作業効率を上げ、短納期出荷で顧客満足を得る、または利益率を上げる事は「カイゼン」と区別して表記することになる。

日本のモノ造りの凄いところは、悪くなくても「カイゼン」を継続するところにある。

英語で言うならば我々が目指すのは“Improve”ではなく“KAIZEN”だ。


このコラムは、2018年4月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第657号に掲載した記事に加筆しました。

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生産改善

 もう10年近く前の話になる。従業員9,000人ほどの大工場の指導をしていた。人手による生産から脱却し、自動化生産をしたいという経営者の要求を受けた。自動化設備の設計製造をしている友人からの要請でプロジェクトに参加した。現状のラインをどのように自動化するかアイディアを出すのが私の役割だった。友人はアイディアを設備として実現する才能を持っている。

当時すごい勢いで上昇し始めた労務費の削減が狙いだが、経営者と話をすると従業員マネジメントの苦労から逃れたいようだった。

現場を見ると、なるほどと思える。
従業員の躾が全くできていない。製品の持ち出しを懸念して作業現場の出入りには保安係の身体検査がつく。従業員を信じていないから、現場も経営幹部を信頼しない。

現場の改善は日本人幹部がやる。
作業改善のために治具を製作し現場に投入するが、班長が治具の使用を拒否。信じられない状況だ。日本人幹部がトップダウンで生産改善をしても、それを現場が運用しなければ効果は発生しない。

この様な状況下で、全自動化したいという経営者の要求が生まれたのだろう。

ここまで極端な事例はあまりないと思う。
しかし現場の中国人幹部に改善の積極性が低い、という日本人経営者の不満はよく聞く。自ら改善提案ができない、改善活動に消極的な中国人幹部が多い。そのため日本人赴任者主導で改善を進める。そして中国人幹部の能力も積極性も養われない、という悪循環になっている様に思う。

生産現場の監督職までも積極的に改善活動に参加する「改善文化」を作る。そのためには、現場の管理職、監督職の能力と意欲を磨く必要がある。
全自動生産設備を導入すれば生産性は上がるだろう。しかし改善は一度だけだ。改善文化を磨けば改善は継続する。


このコラムは、2018年3月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第647号に掲載した記事に加筆しました。

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