月別アーカイブ: 2019年3月

続・ローパー

 先週の雑感に書いた「ローパー」(ローパフォーマンス従業員)に関するコラムに読者様から以下のメッセージをいただいた。

※T.O様のメッセージ
 今回の雑感「ローパー」についての貴兄のご意見(特に雇用側の義務・責任 に関するご意見)、“したり”とひざを打ちました。2003年から8年余北京の事務所(中国法人)にて知財のアドバイザー(組織内唯一の日本人でした)をし、中国においては知的レベルの高いはずのスタッフや管理職であっても貴兄ご指摘の様な事態があることがわかっていたからです。
尚、いつも読みはじめるのが、このコラム「雑感」です。今後もこのような話題が提起されることを期待しております。

以前メルマガで、マクレガーのX理論、Y理論をご紹介した。中国はX理論に基づく人材マネジメントが多い様に感じる。

つまり人は本来怠け者であり、仕事は嫌い、自ら進んで創造性を発揮したり、責任を取ったりしない。こういう人たちを管理するためには、飴と鞭の管理が必要。と言うのがX理論によるマネジメントだ。
ダニエル・ピンクのモチベーション2.0と同じレベルだ。

好ましい行動を強化するために報酬を与える。
好ましくない行動を抑制するために罰を与える。

実はこのような人材マネジメントは中国企業だけの特徴ではない。中国の日系企業も同様なマネジメントをしている企業が多く有る。

中国人はまじめに働かないから、金で釣る必要が有る。
中国人に規律を守らせるのは罰金が有効。
このようなことを昔から言われ続けており、盲目的に信じ込んだ経営者がX理論マネジメントをしているのだろう。まぁ、中国人経営者が中国人労働者をこのように見ているのだから、日本人経営者もそれを信じてしまうのかも知れない。

ようは経営者が従業員をX型人間と思えば、従業員はX型人間と見える。X型人間として従業員を扱うから、従業員はX型人間になる。それだけの話だろう。(これをピグマリオン効果と言う)

人の可能性を信じそれを引き出す。これが人材マネジメントの基本だと思う。


このコラムは、2016年4月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第470号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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まとめ造りの無駄

 日系、中華系を問わず多くの生産現場でまとめ造りをしておられるのを、見かける。
一つの工程で複数の作業がある場合、一つの作業を全てのワークに施してから次の作業も同様に全てのワークに施す、このような作業方法を「まとめ造り」と呼んでいる。
それに対して、一つのワークに全ての作業を施し工程の作業を完成させ、順にワークを完成させて行く作業方法を「一個流し」と呼んでいる。ベルトコンベア作業は必然的に「一個流し」作業となる。

先週訪問した工場でも「まとめ造り」をされていた。
各工程で、加工ロット分のワークをまず作業台に並べる。まとめ造りで全てのワークに1作業ずつ作業し、工程作業を完成させる。その後机の上に並んだ作業済みワークをコンテナに入れて、次工程に送る。こんな作業方法を採用しておられた。
コンテナからワークを取り出し作業台に並べる、作業台に並んだワークをコンテナに戻すと言う作業が無駄だ。ベルトコンベアはなくても、一個流しは可能だ。未加工ワークをコンテナから取り出し、全ての作業を完了させた後、加工済みコンテナにワークを入れる。一個流しで作業をすれば、取り置き動作を省ける。従って一度に加工する個数が多ければ多いほどまとめ造りの無駄は多くなる。

一緒に現場を案内してくださった日本人指導者は即座にこの理屈を理解された。
しかし現場のリーダ達は、なかなか納得してくれない(笑)「絶対にまとめ造りをした方が速い」と譲らない。習慣による思い込みだろう。

こういう場合は、いくら理論的に教えても効果はない。体験で腑に落ちる様にしなければならない。教えても、今までの経験や学習によって積み上げた知識がそれを否定すれば、新たな学びは発生しない。体験する事により、今までの経験や学習を通して、新たな知識を作り出す事が出来れば学びが発生する。
つまり「学び」とは、上から与えられて発生するモノではなく、体験を通して自分の中で作り上げるモノだ。

「一個流し」の優位性は、以前このメルマガでご紹介した「封筒貼り」実験で体験できる。

「まとめ造りvs一個流し」↓

まとめ造りvs一個流し

批量制造vs一个流

10枚分の封筒貼り実験で、一個流しの方がまとめ造りより1/3近く速かった。


このコラムは、2015年11月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第450号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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まとめ生産

 先週はある工場の訪問指導をした.

典型的なまとめ生産をしていた.
まとめ生産をすると効率が悪く,品質も改善できないと指摘をした.しかし経営者様は,ウチはまとめ生産をしていない.受注に合わせて生産していると反論される.

この経営者様に誤解をさせてしまったが,工程ごとにまとめて生産するという意味でまとめ生産という言葉を使っている.受注生産に対応するのは,計画生産だ.

この工場では,製品投入から組み立て完了までを工程ごとにまとめて生産.生産が完了したら,まとめて検査・梱包をする.
こういう生産方式をまとめ生産といっている.まとめ生産に対応するのは,一気通貫生産だ.

この工場の例では,部品投入から組み立て,検査・梱包までの各工程をドミノ倒しのように一工程ごと次々に生産するのを,一気通貫生産といっている.

まとめて作ると,取り置のムダが発生する.
工程間で一度製品をコンテナなどに入れて溜めておく,そしてそれをまたコンテナから出して,次の工程に投入することになる.この出し入れの手間と,モノを置いておく場所が取り置きのムダだ.

また半完成品を溜めて次工程に流すため,次工程で不良が発見された場合,大量に同じ不良が混入していることになる.一気通貫生産ならば,不良が見つかった時点で前工程の改善ができる.

以前別の工場で指導した事例では,電子部品のリードフォーミングを,翌日生産分をまとめて作業していた.このため翌日の組み立てで,この部品が基板に挿入できない不良が発生すると,昨日作った部品はほとんど手直しをしなければ基板に挿入できないことになる.このため大きな時間ロスばかりではなく,品質リスクも発生する事になる.

この時は組み立てライン横で,組み立てに合わせて電子部品の前加工をすることにした.当初現場リーダの強い反対にあった.前加工と組み立てラインのスピードが違うのでロスが大きいというのだ.

彼が言っていることは当然である.しかしそれは今までのやり方をしていたら,という前提がある.新しいやり方に合わせた改善をすればよいだけだ.

その他にも,10日以上かかっていた工程を,一気通貫生産で1.5日にしたことがある.また別の事例では,乾燥のためのまとめ生産していたのを,インライン乾燥を導入し24時間かかっていたリードタイムを4時間にしたこともある.

工程リードタイムが短くなれば,不良を発見した時に,原因工程がまだ生産中である.すぐに改善ができる.まとめ生産をしていると,不良を見つけても既に原因工程は作業が終わっており,その場で改善ができない.

まとめ生産を止めて,一気通貫生産をすればQCD全てにわたって改善することができるはずだ.
従来どおりのやり方に慣れてしまっていると,なかなか気が付かないものだ.更に生産方式を変える勇気を持たなければならない.勇気を持つためには,うまく行っている事例を見たり,聞いたりするのが一番だろう.


このコラムは、2011年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第213号に掲載した記事です。

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貧賤に留まる覚悟

yuē:“guìshìrénzhīsuǒdàozhīchùpínjiànshìrénzhīsuǒdàozhījūnrénchéngmíngjūnzhōngshízhījiān(1)wéirénzào(2)shìdiānpèi(3)shì 。”

《论语》里仁第四-5

(1)终食之间:食事を済ますだけの時間。わずかな時間。
(2)造次:とっさの時。
(3)颠沛:危急の時。

素読文:
子曰わく:“とみたっときとは、これ人のほっする所なり。その道をもってせざれば、これるともらざるなり。ひんせんとは、是人のにくむ所なり。その道を以ってせざれば、これるとも去らざるなり。君子は仁を去りて、いずくにか名をさん。君子は終食しゅうしょくかんも仁にたがうこと無く、造次ぞうじにもかならここおいてし、顚沛てんぱいにもかならここおいてす。”

解釈:
人は富や地位が欲しいものだ。しかし道に外れた行いでそれを得たのであれば、富や地位を享受すべきではない。人は貧困や卑賤を厭うものだ。しかし道を誤ってそうなったのでなければ、無理にそこから逃れようとすることはない。君子たるもの仁を忘れて君子の名に値せず。君子は束の間も仁に背かぬ様に心がけるべきだ。それどころかとっさの時、危急の時にも仁の道を外れてはならない。

下村湖人は『终食之间』を箸の上げ下ろしの間と解釈しています。一瞬たりとも仁の心を忘れない、という心が伝わる解釈だと思います。

組織間の協力

 中国の工場を見ていると、日系、台湾系、大陸系問わず部門ごとに「蛸壺化」しており、部門間の協力・協調が見られないことが有る。

以前に指導した自動車部品工場は、前工程のプレス工程で加工した半完成品を後工程の転造工程で加工して製品を生産している。プレス工程の方が生産能力が高いため、転造工程の前には半完成品の中間在庫がたまる。
プレス工程は後工程の都合を考えず、自分の都合だけで全力で生産する。
そのため、中間在庫がふくれあがり従業員食堂にまで半完成品を置く様になる。その結果、従業員は食堂が使えなくなり、職場の加工機械の横で食事をする事になる。それでも相変わらず次工程の都合を考えずに生産を続け、経営者は外に倉庫を借りる事を考えはじめる。

購買部門は、受注に従いどんと発注をかける。一気に納入された材料は倉庫に格納される。生産計画は、注文書の納期に合わせ生産計画を立てる。その結果倉庫から生産計画に合わせ、材料が一度に出庫される。プレス工程はすぐに生産完了し、中間在庫に積み上げる。各職場が、自分の都合しか考えていない。

後引き生産にすれば、このような事は発生しない。
しかしロット単位でまとめづくりをしていると、後引き生産のメリットが中々理解出来ない。いきなり小ロットで平準化生産しようと、指導しても理解して貰えない。材料の小口出庫が無駄、段取り替えがムダ、などなど100個もデメリットを並べ立てる(笑)

こういう時に、各部門の代表者に集まってもらって、各自の都合を話し合って貰う。これで上手く行くなら、とっくに問題は無くなっている!と言う声が聞こえてくる(笑)
続きが有る。

もちろん各自の都合を主張してもらっても,上手く行くはずはない。
各自の都合を話し合った後に、役割をチェンジしてもらい相手の立場で議論をしてもらう。
例えば、プレス工程、出庫係が立場を入れ替えて、議論する。

プレス工程の役割をしている出庫係は「一度に出庫されると、プレス工程現場に材料の置き場所がなくて困る」と言う。
「そうは言っても、何度も出庫作業をすれば効率が悪くなる」と出庫係の役割をしているプレス工程が反論する。こういう議論で、プレス工程の責任者が、プレス工程が自分で倉庫に材料を取りにいくと言うアイディアを思いつけば、大成功だ。

いかがだろうか?
この方法は、工場経営の師匠・原田師が実施していたジョブローテーションから思いついた。
原田師は管理職を定期的にジョブローテーションさせていた。製造部長が、購買部に異動になる。こういう事を頻繁にしていた。幹部は皆他の職場を経験しているので、相手の気持ちがわかっている。そのため部門間の対立は、簡単に調和出来る。
模擬ジョブローテーションとして,役割を変更してディベートをしてみたら上手く行くのではないかという発想だ。

まだこの方法を試した事はない。
もし試された方が有れば、是非ご一報いただきたい。


このコラムは、2016年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第469号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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