「心理学実験、再現できず信頼揺らぐ 学界に見直す動き」
「つまみ食いを我慢できる子は将来成功する」「目を描いた看板を立てると犯罪が減る」――。有名な心理学の実験を検証してみると、再現できない事態が相次いでいる。望む結果が出るまで実験を繰り返したり、結果が出た後に仮説を作り替えたりする操作が容認されていた背景があるようだ。信頼を失う恐れがあり、改めようとする動きが出ている。
(中略)
最も典型的な例とされるのは米スタンフォード大学で60~70年代にまとめられた「マシュマロ実験」だ。研究者は幼い子どもの前にマシュマロを置いてしばらく席を離れる。その間にマシュマロのつまみ食いを我慢できた子は「その後、高い学力などを身につけ社会的に成功する」という内容だ。
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(日本経済新聞 電子版より)
マシュマロ実験
マシュマロ実験とはタンフォード大学の心理学者・ウォルター・ミシェルが1970年に行った実験だ。
実験の対象は、大学職員の子どもたちが通う、学内の付属幼稚園の4歳の子供186人。子供たちを机と椅子だけの部屋に入れ、椅子に座らせる。机の上には皿があり、マシュマロが一個載っている。
実験者は「私はちょっと用がある。それはキミにあげるけど、私が戻ってくるまで15分の間食べるのを我慢してたら、マシュマロをもうひとつあげる。私がいない間にそれを食べたら、ふたつ目はなしだよ」と言い部屋を出ていく。
この実験でマシュマロ(目の前の欲望)を我慢しもう一つのマシュマロ(将来の価値)を手に入れたのは1/3ほどだった。
実験当初は、どういう行動をする子供が食べるのを我慢できるのかを観察するのが目的だったようだ。しかしその後、ウォルター・ミシェルは実験結果と子供の成長後の社会的成功に相関があるのではないかと気がつき、追跡調査をする。
1988年に実施した追跡調査では、22歳に成長した被験者を目の前のマシュマロを我慢出来たグループと我慢出来なかったグループに分けると、大学進学適性試験(SAT)の点数には、トータル・スコアで平均210ポイントの相違が認められ、我慢出来たグループの方が成績が優秀だったと結論づけた。
この実験結果により、「我慢強い子どもは成績も良くなる」というもっともな定説が出来上がった。
しかし2018年に別の研究者たち(ニューヨーク大学のテイラー・ワッツ、カリフォルニア大学のグレッグ・ダンカンとホアナン・カーン)の再実験によりこの定説が覆る。こちらの実験では対象者を900人以上とし、いろいろな階層の子供を調べた。
その結果分かったことは、「二個目のマシュマロを食べるのは家庭の経済的な背景に影響を受けている」ということだった。ウォルター・ミシェルらの実験は対象が大学職員の子供であり、経済的背景はほぼ同等だったと推測される。
現代の成功する若者が「我慢強い」という性格を武器としているとは思えない。
むしろ目の前にある「マシュマロ」に対して旺盛な好奇心を持っており、まずは手をだし、触り、匂いを嗅ぎ、食べてしまうだろう(笑)その上で色々な事を思いつき、全く新しいビジネスをローンチするのではなかろうか?
製造現場でも、この事例から学べることは大きいと思う。
現象から推定した因果を間違わないようにするにはどうすべきか、という命題が与えられたということだ。
結果の統計的な解釈も必要だろう。
SATテスト(当時は2400点満点)62人と124人の平均点の差が210点というのが統計的に有意であると言えるだろうか。
例えば「完成品倉庫が狭い」という課題は、本当に倉庫が狭いのではなく、「注文よりたくさん作るから」が原因である。というのがマシュマロ問題からの教訓だ。これを間違えると、「倉庫を増築する」という間違った課題解決に向かう。
このコラムは、2019年12月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第916号に掲載した記事です。
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