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シャープ、鴻海頼み誤算 再建、サムスンに活路

シャープ、鴻海頼み誤算 再建、サムスンに活路

 シャープは6日、韓国サムスン電子と資本提携すると正式発表した。
サムスンの日本法人を引受先とする第三者割当増資を実施し、発行済み株式の3.04%に当たる103億円の出資を受ける。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との協業で危機を脱するシナリオに狂いが生じ、財務改善と業績回復の両方につながるサムスンとの提携に活路を見いだそうとしている。

全文

(日経電子版より)

 シャープと鴻海の資本提携の合意から,既に1年経とうとしている.
670億円の資金調達で,シャープは復活のストーリィを描いただろう.しかし資本提携の発表後も株価の下落が続いた.ここで鴻海がゴネ始める(笑)

株価が下がったのだから,出資総額も下げると言う論理だ.非常に論理的・合理的な交渉だが,シャープがこの条件をのまなかった.シャープは,喉から手が出るほど資金が欲しいのが見え見えなのに,強気な交渉に見えた.逆に,出資総額が減らされては焼け石に水と言う崖っぷちなのかもしれない.そういう意味では,サムソンとの資本提携もそれほど財務改善には貢献しないのかもしれない.

台湾企業を見ていると,あの手この手の交渉術を繰り出して来る.当事者は胃の痛む思いをされているだろうが,外野から見ていると「よくもまぁ」と感心する事もしばしばだ.

以前指導していた台湾企業に対し,鴻海から資本提携の申し出があった.
その台湾企業は、鴻海傘下のEMS企業・フォックスコンに製品を供給していた.そのため鴻海は経営権を支配したかったのだろう.資本の51%に当たる金額をオファーして来た.
オーナー経営者は,その提案に合意したのだが,調印の直前に自分が経営する別の会社から資金を移動して,鴻海の出資比率が50%未満になる様にしたのだ.結局この企みが鴻海にばれて,出資の話はご破算となった.

笑話の様だが本当の話だ.

彼はビジネスはゲームだと思っているようで,何事も相手との「勝ち負け」で判断しているフシがある.以前部品納入業者に,支払いを止めたことがある.そんな事はするなと叱ったが,納入業者とのパワーバランスを考慮し,値引き交渉のために支払いを止めており「ゲームなんだから大丈夫だ」と取り合わなかった.

こういう経営では,この企業は今より大きくなる事はないだろう.多分彼一代で終わりだ.


このコラムは、2013年3月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第300号に掲載した記事に加筆しました。

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キャッシュフロー

 資金繰りに窮している中国企業を、投資会社が資金注入し資本の過半数をとった。投資会社の依頼を受け、この中国企業の指導をしている。

最初の工場診断で、中間在庫が大量にあるのを発見。その量は多すぎて、工場敷地内,作業現場のあちこちに置いてある。そのため物の運搬(ムダな作業)が頻繁に発生しており,正常な生産が出来ていない。
まず正常な生産をするために、前工程への投入を制限する様指導した。

しかし二回目の指導訪問時に、在庫が前回より在庫が増えていた。
経営者(資本の注入を受けた前経営者がまだ経営をしている)には「工場診断の結果は奥さんに伝えたい」と言ってみた。この工場は、既に末期症状なのでご家族に覚悟を決める様話をする、と言う比喩だ(笑)

そして三回目の訪問指導に来ているが、明らかに又前回より在庫が増えている。
経営者に指摘すると、在庫が増えている事は認めるが、ちゃんと消化できる見込みが有る、と主張している。実は前二回には知らなかったが、外部に工場を借りており、そこにとんでもない量の中間在庫を発見した(苦笑)

どうも私の見立てが間違っていたようだ。
彼は末期癌ではなく、慢性自殺だ。私が呼ぶべきは彼の家族ではなく、和尚さんだった(笑)

彼は資金繰りの失敗により、資本注入を受けた事から何も学ばなかった様だ。
手に入れた資金により、倉庫を借り更に在庫を積み上げている。理解に苦しむ。
投資会社は資本金の51%を手中にしているのに、前経営者にそのまま経営を任せているのも謎だ。

この企業は完全受注生産のはずだが、顧客の納期要求に応えるために見込み生産をしている。そのためキャンセルされた製品や、顧客の要求仕様が変わり出荷出来なくなった製品を多く抱え、キャッシュフローが悪化し、受注が有るのに、資金が足りないと言う状況に落ちいている。

根本の原因は、ロットまとめ生産に有ると私は見ている。
まとめ生産のために、受注に対して柔軟な納期対応が出来ない。そのため見込み生産をする。そしてまとめ生産の量が更に増える。と言う負のスパイラルに陥っている。

これを何度も説明しているが、経営者は7月に在庫は一掃出来るの一点張り。
在庫が無くなったら指導に来ると言う事で辞去した。クライアントである投資会社には、傷の浅いうちに資金を引き上げる様進言する事にした。


このコラムは、2016年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第469号に掲載した記事に加筆修正しました。

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場の力

 「場活師」と言う変わった職業が有るのを知った。
場を活性化することを生業とした職業だそうだ。泉一也さんと言う方が、その道の先駆者だ。

たまたまPodcastで泉さんの放送を聞き、興味を持った。人を活性化し成長させる場の力が有る。「場を活性化させることにより、人を活性化し、組織を活性化させる」大雑把にまとめるとこういうことになる。

「企業病に効く!ビジネスコーチング」泉一也著
http://tinyurl.com/z4k5hr2

人が活性化しなければ、その場を活性化する事は出来ない。場が活性化していれば、人は自ずと活性化する。人と場の活性化は、相互作用関係に有ると私は考えているが、泉さんの考えには大いに共感出来るものが有る。

泉さんが言っておられることを一部シェアしたいと思う。
「言葉の力」が場を活性化させることが出来る。

営業不振の会社で頻繁に聞かれる言葉
非活性化ワード

  • やってくれない
  • ちゃんと考えた?
  • 違うよ
  • 足りないね
  • ムダムダ
  • でもね
  • どうせ

活性化ワード

  • その考え良いね
  • 一緒に仕事ができて嬉しい
  • やってくれてありがとう
  • さすがだねぇ
  • どうしたらうまく行く?
  • 他に良いやり方ない?
  • 気がかりは何か有る?
  • うまくいっていること何か有る?
  • その気持ち分かるよ
  • 自分も気付いたよ
  • 学んだよ
  • オレも一緒にやるよ
  • 必ずやるよ
  • きっとうまく行くよ
  • いつでも相談しよう

あなたにも心当たりが有るのではないだろうか?
組織としてダメかどうか別としても、物事がうまくいっていない時に非活性化ワードを多用していないだろうか?逆に物事がうまくいっている時は活性化ワードが多用されているはずだ。

非活性化ワードは、問題や原因に着目し、他責でモノを考えネガティブな用法で使われる。
一方で活性化ワードは、課題や方法に着目し、自責でモノを考えポジティブな用法で使われる。

私も気をつけていないと、非活性化ワードを使ってしまう事がある。
意識して活性化ワードを使う様に心がけたい。

【閑話休題】
指導している中国企業でメンバーの合い言葉『口号』を決めました。
『我来做!一起做!快心地做!』
企業小説「黒字化せよ」からの丸パクリですが(笑)言葉の力でメンバーのココロを変えようと思っています。

「黒字化せよ!出向社長最後の勝負」猿谷雅治著


このコラムは、2016年4月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第472号に掲載した記事です。

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アップル、iPhone減産継続 4~6月も3割

 米アップルのスマートフォン(スマホ)、iPhoneの減産が長引いている。国内外の部品メーカーによると、1~3月期に続き、4~6月期も前年同期比3割程度の減産を継続する。昨秋発売の主力モデル「iPhone6s/6sプラス」の販売が低調なため。高性能部品を供給する国内メーカーの工場は稼働率が低下しており、収益圧迫につながるのは避けられない状況だ。
全文はこちら

(日本経済新聞より)

 失敗と言えるかどうか少し微妙だが、iPhone旋風が下火になって来たのは否定出来ない。ジョブズ亡き後、iPhone6/6+、iPhone6S/6S+の投入が戦略的に失敗だったのではなかろうかと愚考している。もしジョブズが生きていたら、iPhone6/6+の試作品を見た時に激怒しただろう。

Appleの強みは、消費者のニーズにより商品開発をするのではなく、消費者がまだ気がつかない価値を提供する所に有ると考えている。

例えば「ポケットに音楽を入れて街に出る」と言う価値は、既にソニーがウォークマンで提供していた。それを更にiTunesと言う仕組みで進化させた。
以来カセットテープやCDが市場から駆逐されてしまった。この様なインパクトを持つ商品(サービス)を新たに提供するのがAppleだ。それに合わせてApple自身も進化し、社名からコンピュータがとれた。

しかしiPhone6/6+以降少し様相が変わった。
その変化の影に三星の影響があっと言うのは、穿った見方だろうか?
スマホ市場で覇を争っている間に、Apple本来の「まだ見たこともない価値」を提供すると言う基本的な姿勢が忘れ去られた様に思う。

iPhoneSEが発表されたが、市場の大方の見方は「廉価版」だ。口の悪い人は過去の資産の使い回しなどといっている。確かにiPhone6S/6S+と同等の性能を持ち、価格が安くなっている。しかし私は「原点回帰」と見た。

自社が市場に提供する価値からぶれてしまい、販売不振を招いた。それを元に巻き戻そうと言うのがiPhoneSEの本来の意味ではないだろうか。

アップル教徒の私は、3DタッチはなくともiPhone6SよりはiPhoneSEを選択する。ついにiPhone4S(iPhone For Steve)をiPhoneSE(iPhone Steve Edition)に替える時が来た(笑)


このコラムは、2016年4月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第472号に掲載した記事です。

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実践躬行

yuē:“wén(1)yóuréngōngxíng(2)jūnwèizhīyǒu。”

《论语》述而第七-33

(1)莫:概ね、だいたい
(2)躬行:自ら実践すること

素読文:
わく:“ぶんばくわれなおひとのごときなり。くんきゅうこうすることは、すなわわれいまこれることらず。”

解釈:
孔子曰く:“学問は人並みにできると思うが、君子の行いを実践するにはまだ不足だ。”

仁の道を説き君子たらんことを教える孔子が、自分自身未だ君子としての行いが不足だと言います。謙遜して言っているのではなく、理想が高いと考えるべきでしょう。

安全事故対策

 工場の中での優先課題は、次の順位だ。1.安全、2.品質、3.効率。
安全を無視して品質を追求することはあり得ないし、品質を無視して効率を追求することもあり得ない。製造業以外でも同様の優先順位だと思う。

その第一優先の安全だが、企業のみならず社会全体でも安全を保証するための予防保全対策がとられている。

曲がりくねった道で事故が多発する。そのため道幅を広くとり見通しの良い直線道路に改修工事をする。
津波による災害を防ぐために防潮堤を高くする。
健康被害を防ぐために、低タール,低ニコチンタバコを販売する。

この様な様々な安全対策が、実は安全を阻害していると言う主旨の本を読んだ。

「事故がなくならない理由」芳賀繁著

著者の芳賀繁氏は、心理学を専攻された方で、ヒューマンエラー、作業安全等の研究をされている。

芳賀氏によると上記に上げた予防対策は以下のようにリスクを増加させる結果となる。
交通事故防止のために道路を拡幅し直線とすると、見通しがよくなりオーバースピードで走る運転手が増え、却って交通事故が増える。
防潮堤を高くすると、油断が生まれ避難行動が遅れる。これは先の3.11東日本震災時に体験したことだ。
タバコを低タール、低ニコチンタイプに換えると喫煙者は、喫煙本数が増える、より深く吸い込む、などの行動変化が起こり却って健康リスクが増える。

予防対策で、増加した「安全」を心の油断により減少させてしまう。むしろリスクを上昇させてしまうこともありうるという。

安全事故予防対策は無意味、もしくは逆効果であるかというと、そうではない。この書籍の主旨を、大雑把にまとめてしまうと次のようになるだろう。
技術的に安全事故予防措置を取っておくことは必要だ。しかしそれよりも重要なことは、全社員の安全意識の向上だ。特定の危険作業をしている作業員だけではない。経営者、幹部を含めた全社員が、安全意識を高めなければならない。

安全意識が低い状態はなぜ発生するのか、まずここを突き詰めて考える。
安全と危険の間に存在するリスクを知らない。
リスクは知っているが、リスクの危険度を正しく認識していない。
そしてそれらについて、どのように対策をすれば良いか全員で考える。
いわゆるKY(危険予知)活動とかKY訓練を呼ばれる活動だ。
朝礼でこのようなことを皆で議論してみてはいかがだろうか。


このコラムは、2017年3月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第520号に掲載した記事です。

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リーダー像

日本人と中国人は異なるリーダー像を持っているらしい。
深圳日本商工会で、コーチングについて講演をしていただいたコーチ・エイの講師から伺った。詳細をットで調べてみると、講師の方が説明した元データが公開されていた。

15カ国を対象として、組織とリーダーに対する価値観を調査したデータだ。
ご興味がある方は、是非ご参照いただきたい。
「組織とリーダーに関するグローバル価値観調査

講師による説明は以下の様だった。
日本人はリーダーに対し「戦略性」を重視する。
中国人はリーダーに対し「戦略性」をあまり重視していない。
中国人はリーダーに対し「権限移譲」を重視する。
日本人はリーダーに対し「権限移譲」をあまり重視していない。

調査資料には、各国のアンケート回答者(25~39才一般職員、100名)が考える理想のリーダー像、各自が所属する組織リーダが考えるリーダー像の二通りの分析結果がある。

一般職員100名が考える理想のリーダー像は、以下の様になっている。
日本:
 1位。責任感が強い。
 2位。人の話を聞く。
 3位。決断力がある。
 4位。人を育成する。
 5位。常に学んでいる。
中国:
 1位。責任感が強い。
 2位。人の話を聞く。
 3位。チーム力を高める。
 4位。決断力がある。
 5位。戦略的である。

日本人と中国人が考えるリーダー像は、責任感が強い、人の話を聞く、決断力
がある、が上位5位に入るのは同じ。
違いは日本人は、人を育成する、常に学んでいる、を入れているが、
中国人は、チーム力を高める、戦略的である、を入れている。

各々の実際のリーダが考えるリーダ像は以下の様になる。
日本:
 1位。戦略的である。
 2位。発想が豊かである。
 3位。謙虚である。
 4位。人の話を聞く。
 5位。権限委譲できる。
中国:
 1位。権限委譲できる。
 2位。発想が豊かである。
 3位。ビジョンを示す。
 4位。人の話を聞く。
 5位。指示が明確である。

日本人リーダーは理想のリーダを戦略的だと思っているが、一般職員は理想のリーダーに戦略性より「決断力」「成長(部下も自分も)」を求めている様に見える。一方中国人リーダーは「指示が明確である」ことが理想のリーダ像に入っている。権限委譲がトップであるのと矛盾している様な気もする。

日本人経営者に、中国人は指示をしないと行動しない、と感じておられる方が多いと思うが、この結果がそれを象徴しているのかも知れない。

従って、講師が解説したリーダー像は以下の様に修正した方が良さそうだ。

日本人リーダーは「戦略性」を重視している。(1位)
中国人リーダーは「戦略性」を重視していない。(11位)
中国人リーダーは「権限移譲」を重視している。(1位)
日本人リーダーは「権限移譲」をあまり重視していない。(5位)

日本人も中国人もリーダーに対し「戦略性」を重視していない。
日本人も中国人もリーダーに対し「権限委譲」を求めていない。


このコラムは、2017年3月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第521号に掲載した記事です。

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リーダのあり方

 先週は三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長の退任に関連し、指導者のあり方について考えた。

先週の記事「小売業界の顔、噴出した社内の不信」

書籍から老子のリーダ論についてご紹介した。
「世界最高の人生哲学 老子」守屋洋著

君主四段階。
一番ダメな君主は人民から侮られる。
二番目は人民から畏れられる。
三番目は人民から敬愛される。
最も優れた君子は人民に存在を知られているだけだ。

最も優れた君子の例として、飼い犬に散歩してもらっている老夫婦の事例を紹介した(笑)

この記事に読者様からご感想をいただいた。

※S様のメッセージ
 今週の「亢竜の悔い」は「従業員の物心両面の幸せを追求」する視点を持てば価値の薄い改善活動を強いることもなく、自然にやるべきことが見えてくることに気付かせていただいたようです。

こう言うメッセージをいただくと舞い上がってしまう(笑)

調子に乗って、もう一つご紹介したい。
老子は「暗愚」であれと説いている。リーダは聡明でなければならないが、それを見せつけてはまだ本物ではない。「暗愚」を装うことが本物のリーダであると言っている。

書籍では、日露戦争時の満州軍総司令官・大山巌の事例を紹介している。
大山巌はロシア軍に包囲され全滅に瀕した時に、前線に出て「今日は朝からドンドンパチパチ音がするでごわすが、何かあったとでごわすか」と指揮官に尋ねたと言う。もちろん知らないわけではない。そうやって前線の指揮官を冷静にさせたのだろう。
また、砲兵に向かって「大砲は上に向ければ遠くに届くか」などと質問している。大山巌は砲兵術の研究のためにフランスに遊学したことがあるそうだ。当然知り尽くした内容である。質問することにより、戦闘で混乱している前線兵士を冷静にさせようとしたのだろう。

これが老子の説く「暗愚」だ。
中途半端な指導者は、部下にバカにされまいと「知識」を振り回す。本物の指導者は、暗愚であることを装う勇気を持っている。これは自分に対する自信があるからできることだ。

慌てふためいている兵士に向かって叱責すれば、より慌てふためく。
兵士に砲身を正しく向けるよう指導すれば、言われた通りに動くだけだ。
「質問」によって兵士を冷静にさせれば、自ら考え正しく働く。
これができるのは、兵士を信じているからではない。自分自身を信じているからできることだと思う。普段の指導により兵士が正しく行動できると信じることができる。自分に自信がなければ、兵士の行動を信じることはできないだろう。


このコラムは、2017年3月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第520号に掲載した記事です。

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粉じん引火か、幹部ら拘束 中国工場爆発、死者69人に

 中国江蘇省昆山市の経済開発区にある「中栄金属製品」の工場で2日朝に起きた爆発による死者は69人にのぼり、約190人が負傷した。工場で、これだけ大規模な惨事が起きることは中国でも珍しく、事態を重くみた習近平(シーチンピン)指導部は陣頭指揮のため、王勇・国務委員を現地に派遣した。

 国営新華社通信などによると、爆発は自動車のホイールの研磨をする作業場で起きた。工場内の粉じんに引火したのが原因とみられる。当局は同社の幹部ら5人の身柄を拘束し、安全管理などに問題がなかったか事情を聴いている。

 爆発があった工場に通じる道路は2日、警察官らが封鎖した。出入りができなくなったものの、多くの人たちが集まっていた。

 隣の工場の男性工員(24)は「大砲のような、ものすごく大きな音がした。働いている工場のガラスが割れた」。近くの工場に勤務する趙東舟さん(28)は、けが人を運ぶなど救援活動に参加。「全身がやけどで真っ黒になった人たちが次々と出てきた。焼けてしまって、服も身につけていなかった」と興奮気味に話した。

 姉が爆発のあった工場で働いているという許雨朋さん(32)はネットで事故を知って駆けつけた。「何が起きたのか、まったくわからない。姉の携帯電話もつながらない。心配でたまらない」と顔をゆがめた。

 ホームページなどによると、同社は1998年に設立された台湾企業。従業員は約450人で、アルミニウムのめっき加工などを手がけている。中国メディアは、同社が米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)に部品を供給していると伝えた。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、同開発区には昨年7月時点で、200社以上の日本企業のほか、約2千社の台湾企業などが入居している。

 日本企業の駐在員らでつくる昆山市日本人同郷会は、日本企業への被害は確認していないという。

(朝日新聞電子版より)

 爆発と言うと、引火性の高い物質が原因と考えがちだが、引火性の無い物質が爆発を起こすことがある。それが「粉塵爆発」だ。

引火性が全くない綿や小麦粉でも爆発は発生する。粉塵爆発の条件は、

  1. 空気中に一定の割合で微粒子粉塵が存在する。
  2. 発火エネルギー
  3. 酸素

この3点が揃うと粉塵爆発を起こす。

アルミニウムは引火性も燃焼性も無い。しかしアルミニウムの微粒子が空気中に一定の割合で存在すると、爆発を起こすことがある。

爆発の引き金となる発火エネルギーは、開閉器や電動機からのスパーク、稼働部分の摩擦熱が原因となる。また静電気放電によるスパークですら原因となる。

小さな発火エネルギーでも、局所的に空気中の浮遊微粒子が加熱され、そのエネルギーが近隣の浮遊微粒子に一気に連鎖し、爆発が起きる。

アルミ粉は、水と激しく反応し水素を放出する。放水消化をすると、二次爆発が発生する可能性もある。作業現場に消化スプリンクラーが設置されていると更に被害を拡大することになる。

綿や小麦粉の粉塵で爆発が起きた事例もある。
粉塵が発生する現場は注意が必要だ。

対策は、
清掃、排気により空気中の粉塵を減らす。
粉塵環境の電設設備は、防爆対応品とする。
静電気の発生を抑える。(アイオナイザーはコロナ放電によりイオンを作っているので、逆に発火エネルギーを与えることになるかもしれない)

あなたの工場は大丈夫だろうか?
アルミニウムと言うキーワードではなく、粉塵と言うキーワドに着目すれば、金属加工だけではなく、木工、紙、粉体製品にも、適用範囲が広がる。


このコラムは、2014年7月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第373号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

工芸連

家具の設計製造販売をしている中国企業の工場を訪問した。
中国の家具工場は何社か訪問したことがある。こちらの工場も、だいたい同じようなレベルだ。

経営者の一番の悩みは、『工芸連』の管理が上手く出来ない事だと言う。工芸連(工艺连)とは、サプライチェーンの生産技術的な側面に焦点を当てて考える言葉の様だ。
つまり、品質、納期に関する顧客要求に応えようとしても、仕入れ先が対応しきれない。しばしば仕入れ先の品質問題や納期問題により、顧客に対し納期問題が発生するそうだ。

自社製品が少量多品種なので、仕入れ先が自社製品の加工をやりたがらない。しかし仕入れ先に加工してもらっている工程を、自社に取り込むと経営は重くなる。

このような問題を解決する『工芸連管理系統』を教えて欲しいと依頼された。
中国人経営者・経営幹部から、しばしば『○○管理系統』を教えて欲しいと、リクエストされることがある。彼らがどういう思いで『管理系統』と言う言葉を使っているのか良く分からないが、ちょっとピントがずれているのではないかと感じる。

この経営者様には、仕入れ先の経営者とメシでも食べて仲良くなりなさいと、アドバイスした(笑)

当然仲良くなっただけでは解決しない。仲良くなって「目的」を共有する。
現状は、こちらは自社製品に必要な加工を対価を払って提供してもらう、仕入れ先は仕事を受注することにより売り上げと利益を確保する。それぞれに別々の目的を持ち、商売上の関係があるだけだ。

自社製品を市場に販売することにより、どのような貢献をしたいのか、仕事を通して、自社、従業員、仕入れ先がどのように成長したいのか、この様な経営目的を共有する。

この様な腹の足しにもならない目的を共有しても無意味だ、とお考えになる方もおありだろう。しかし目的の共有をしないから、金銭の論理だけで動く事になる。少量多品種で利益が少ないから生産を請け負わない、利益の大きい仕事の後回しにされる、と言う事が発生する。

しかし全くメリットがなければ、目的の共有など出来ない。
相手が十分満足する金銭的メリットを与える事は難しい。ならば「成長」と言うメリットを互いに分け合えば良い。

仕入れ先が、少量多品種生産に対応出来れば、今より利益を上げられるはずだ。
お互いの生産改善メンバーが交流し、生産改善を一緒にやる。お互いの工程に参考になる事も有るだろうし、相手の工程を知れば、設計レベルに立ち返った改善も可能になる。

自社の生産改善が出来、仕入れ先も生産改善すれば一石二鳥だ。

こういう活動により、自社と仕入れ先、仕入れ先同士の関係が良くなるはずだ。仕入れ先の中に同業者が有れば、業種ごとに最も意欲の高い仕入れ先を選定すれば良い。
私は前職時代に、自社の子会社2社、生産委託先4社と一緒に年に一回グローバルQA会議を開催していた。全員電源を生産する工場だ。ガチンコの同業者だが、お互いに生産ラインを見せ合ったりしていた。意外と簡単に出来たりする。難しかったのは、実は社内調整の方だった(笑)


このコラムは、2014年9月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第380号に掲載した記事です。

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