月別アーカイブ: 2022年3月

失敗学

 今週の「ニュースから」では他社の失敗事例を自社の失敗未然防止に役立てようという趣旨で書いた。

たまたま先週は「失敗の予防学」という本を読んでいた。

著者の中尾政之氏は元々エンジニアだった人で、今は東大工学部の教授である。

失敗から予防保全につなげないと、毎回同じような失敗ばかりしていることになる。良く失敗は授業料だと思えば良いというが、授業料だけ払っていてはいけない。今回のように他人が支払った授業料で予防保全ができれば大変お得である。

同じ現象を見てもそこから改善のヒントや、そこにある失敗のリスクを見分ける事が出来る人と、できない人がある。この能力は天性の能力ではなく、訓練で身につく能力だと思っている。

書物からも勉強できるがこの手の能力は実践訓練が一番身につきやすい。


このコラムは、2008年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第48号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

「匠チーム」、中国の服工場に派遣 不良品削減へ丸紅

 丸紅は、中国などの提携衣料品工場に品質管理などを指導する「匠(たくみ)チーム」を立ち上げた。アパレル業界出身者ら5人を日本で採用し、中国・上海と香港の現地法人に派遣する。主要販売先の総合スーパーの衣料品売り場などでは、低価格競争が進んでおり、不良品を減らすことでコストを抑える狙い。

 採用したのはアパレルやスポーツ衣料業界で、製造管理などの経験がある40~60代のベテラン。丸紅は08年4月には中国とベトナムで約150の工場に衣料品生産を委託していたが、非効率な工場との契約を打ち切り、3月までに提携先を92社に絞り込んだ。匠チームは、このうち約30の主要工場をまわり、品質や工程管理を直接指導する。

(asahi.comより)

 知人に深センで衣料品縫製工場を経営されている方がある。
彼は歯に衣を着せず、中国の衣料品工場をだめにしたのは日本の商社だと言い切る。
モノ造りが分からない日本の商社が(丸紅のことではない)ただコストだけを追求して中国工場に発注をかけてくる。満足が行かない仕上げの仕事を安い工賃で受注するのは工場のレベルダウンになるというのだ。

彼によると欧米の商社は仕様の違いを理解し、納得の行くコスト設定をしてくれるそうだ。

ファーストリテーリングは技術者が定期的に生産委託先の巡回指導をすることにより、商品の品質を確保してきた。検品もするのであろうが、検査で良い物だけを選別するという方法ではコストがかかるだけで品質は向上しない。

業種は違うが私は前職時代に東南アジア、中国の生産委託先指導のために品証部のリソースのほとんどを投入していた。この指導により工場の工程内不良が減れば出荷品質も良くなる。同時に生産委託先の生産性、品質能力も高まる。

商社も「売る人」「造る人」という分業から「一緒にモノ造りをする」という方向に転換すれば、その分の付加価値がつくと思う。

規格商品が売れない時代である。
衣服も大量生産したものは安くしか売れない。
多品種少量の生産に移行しなければなるまい。

また生産リードタイムを2日に短縮できれば、日本からイージーオーダーの受注ができるであろう。このためには工場の改革が必要だ。


このコラムは、2009年4月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第94号に掲載した記事です。

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仕事のやりがい

 年末に不発弾処理隊の話しを、ラジオ番組で聞いた。
ラジオニッポンの「ザ・ボイス そこまでいうか!」(*)と言う番組だが、ポッドキャストで中国でも聴取可能だ。

日本には戦後70年の現在も2,200トンを越える不発弾が残っていると言う。
不発弾処理隊は、設立以来40年間で1,500回緊急出動し、1,700トンの不発弾を処理したそうだ。しかも、危険と隣り合わせの作業にも関わらず40年間一度も事故を起こしていない。なぜ1,500回もの緊急出動で、一度も事故が発生しなかったのか、隊員は危険と隣り合わせの仕事をどう考えているのか、非常に興味を持って番組を聞いた。

40年間毎日の仕事の積み上げの中で、作り上げて来た伝統が、隊員達を支えているのだろう。手順は全て決まっている。チームの役割も決まっている。先輩から教わった通りの作業を進めている間は、恐怖を感じないと言う。怖いと感じるのは、不発弾の構造が分からない時だけだそうだ。分からない時は処理作業をしない。分かるまで調べてから処理を始める。こういう伝統を先輩から代々受け継いでいるのだろう。

一人ひとりが、強く安全を願い、その思いが一人ひとりの技術を磨く。小さな失敗を、教訓として積み上げ仲間と共有する。一人のミスが、チーム全員の命を危険に晒すことになる。

これは伝統と言うよりは、組織文化と言った方がいいかも知れない。

隊員の内の何名かがプロと言う訳ではない。隊員全員が不発弾処理のプロだ。チーム内で議論する時は、上下関係はなくお互いにプロとして尊重し合い議論が進む。

命がかかった危険な任務だ。しかし隊員は全員志願して不発弾処理隊に配属されている。彼らのやりがいは、子供や住民からの感謝だと言う。命がかかっている、かかっていないは、問題ではない。それは自分たちだけが知っていれば良い事だと、少し照れながら隊員が話していた。不発弾処理隊に限らず、災害時に救援に出かける自衛隊員全員の思いも同じだろう。
激しくココロを揺さぶられた。

私たちの製造現場に命がけの作業が有ってはならないが、現場の従業員達が、自らの誇りにかけて、命に換えてでも仕事をやり抜く、そんな組織文化を作ることができたら、最強の製造部隊になるはずだ。

(*):『ザ・ボイス そこまで言うか!』は、ニッポン放送で2012年1月9日から2018年3月29日まで放送されていた報道番組。
飯田浩司(ニッポン放送アナウンサー)の司会で、長谷川幸洋(ジャーナリスト、宮崎哲弥(評論家)、有本香(ジャーナリスト)、高橋洋一(数量政策学者)らが日替わりでコメンテータを務めた。


このコラムは、2015年1月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第406号に掲載した記事です。

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三省

zēng(1)yuē:“sānxǐng(2)shēnwèirénmóuérzhōngpéngyǒujiāoérxìnchuán(3)?”

《论语》学而第一-4

(1)曾子:孔子の弟子。姓はそう、名はしんあざな子輿しよ
(2)三省:三点を反省をする

素読文:

そういわく:“われたびかえりみる。ひとためはかりてちゅうならざるか。朋友ほうゆうまじわりてしんならざるか。ならわざるをつたうるか。”

解釈:

毎日自分は三つのことを反省する。一:今日1日人のために全力で働いたか。二:友人との交流に信義を尽くしたか。三:生半可に学んだことを人に伝えていないか。

『三省』は生半可な覚悟ではできません。

三省堂書店は論語のこの一節から「不忠」「不信」「不習」の三つを省みるという創業者の思いがこもっているそうです。

カイゼンのゼンは禅

 私は仏事の時だけ仏教徒となるいい加減な信者ではあるが、一応曹洞宗・禅宗の仏教徒である。
曹洞宗では「只管打坐(しかんたざ)」という。ただ座る、目的を持って座禅をするのではなく、ただ座禅をする、と言う意味だ。

改善は目的も目標もある。現場を観察、作業を観察することで、不良を撲滅、生産性を向上させる。禅の教えとは異なる様に思える。

しかし目的を持って観察を続けてもなかなか改善方法は見つからない。
トヨタでは「現場百遍」と言うらしい。ひたすら観察をすることで、只管打坐の境地に入れるのではなかろうか?虚心坦懐になるまで観察すると初めて見えて来るものがある様な気がする。
当然改善には目的・目標がある。それを忘れるまで現場・現物・現実を観察することで、答えが見えて来るのではなかろうか?

以前指導していた工場で、ある工程だけが作業がうまくゆかずボトルネックとなっていた。一眼見て原因は分かった。しかしどう対策したら良いか分からない。同じ作業をしている作業員を何人も見続けた。その何たった一人、うまく作業できている作業員がいた。多分彼女は理屈が分かって、その様な作業方法を考えたのではなかろう。ただ作業をやり続ける中で体得した作業方法だったのだろう。これもまた只管打坐の境地と言える。

改善に目的・目標は必要であるが、その目的・目標を忘れるまで観察する。
それで解決の糸口が見えてくることがある。改善は禅に通じる。


このコラムは、2021年8月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1178号に掲載した記事です。

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中国南方航空機が滑走路誤進入 中部国際空港

 11日午後1時ごろ、中部国際空港で、瀋陽行きの中国南方航空698便(エアバスA319型機、乗客乗員42人)が管制官の指示に反して滑走路に進入し、この滑走路に着陸を予定していた全日空機が着陸をやり直すトラブルがあった。国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は事故につながりかねない
「重大インシデント」と位置づけ、12日に調査官3人を派遣する。

 交信記録などによると、中部国際空港の管制官は午後1時4分、中国機側の求めに応じて滑走路途中からの離陸を許可。その上で、滑走路の手前で待機するよう指示した。中国機は「待機する」と復唱したが、停止線で止まらずに滑走路に進入。管制官は危険を避けるため、8キロ手前まで迫っていた全日空220便(エアバスA320型機、乗客乗員59人)に着陸をいったんやめるよう指示した。

(asahi.comより)

頭が痛い不適合である。

11月5日にご紹介した、
「スカイマーク機、着陸時にカートが動いて客が足を骨折」と同様に、「ついうっかり」事故は再発防止がなかなか難しい。

先回の記事ご紹介したように「ダブルチェック」と「ポカよけ」を仕込んでおく必要がある。

今回の場合「待機する」という復唱がダブルチェック対策として既に組み込まれている。それでもうまく行かなかった。多分復唱そのものが「習慣化」してしまっており、機能していなかったのではなかろうか?

プリント基板アッセイの組み立てでも、電気検査できない部品の極性を目視検査する場合がある。この場合検査漏れを防ぐために、検査済みの部品にマーキングをしたりする。これが一種のダブルチェックの役割を果たすが、マーキングそのものが習慣化してしまい極性が逆の部品にもしっかりマーキングしてある事がある。

今回の事故も「待機する」と復唱しながら滑走路に進入してしまったわけである。復唱そのものが条件反射的に行われ、頭の中は別のことを考えていたのであろう。

この復唱は自分自身によるダブルチェックである。当然自分自身によるダブルチェックよりは、他人によるダブルチェックのほうが効果が高い。

機長以外にも副操縦士がいるわけだから、管制塔の指示に対する復唱は機長、副操縦士の二名で行うようにする。と改善すれば、若干は改善できよう。

しかしこれだけでは不十分だ。
この手の不適合によって人命にかかわる事故が発生する可能性があるわけであるから、発生確率を減らすだけでは不十分である。ゼロディフェクトでなければならない。

「ダブルチェック」以外にきちんと「ポカよけ」を仕込んでおく必要がある。

いずれにせよ、機長が機長としての機能を果たせる健康状態、精神状態である事が前提である。一昔前になるが、日航羽田沖墜落事故の「逆噴射」のように故意に操作されてはどんな対策を仕込んでおいても効果は期待できない。

作業員、職員の健康状態、精神状態が品質に重大な影響を与えるにもかかわらず、意外とお座成りにされていないだろうか。

皆さんの組織では職員の健康状態、精神状態をどのように管理しておられるでしょうか?


このコラムは、2007年11月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第8号に掲載した記事です。

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スカイマーク機、着陸時にカートが動いて客が足を骨折

 3日午後7時15分ごろ、スカイマークの神戸発羽田行きボーイング767―300型機が着陸時、飲み物用のカートが動いて乗客2人にぶつかった。

 調べでは、客室最後部にあった重さ44、5キロのカートが着陸時の衝撃で動き出し、約13メートル走行した。カートは、車輪のストッパーのほか、本体を機体につなぐ留め金もある構造という。

(asahi.comより抜粋)

 怪我人の内の一人は足を骨折しており、かなり重傷である、この記事だけでは何が原因か不明なので今回の事故に関しては言及しないことにする。

飛行機に乗ると、乗客の搭乗完了時搭乗口を閉める時に「乗務員はオートモードに切り替えた後相互に確認を行ってください」という機内放送を聴くはずである。この後クルーが扉の操作を行った後お互いに親指を立てあっているのをご覧になった事があると思う。

旅客機は乗降口を開けると自動的に非常脱出用の滑り台が出て来る様になっている。しかし空港で乗客が乗り降りする時にも滑り台が出てきてしまっては不都合なので、マニュアルモードにして扉だけ開けるわけである。

このマニュアル・オートモードの切り替えを万が一忘れてしまうと大変なことになる。そのため「ポカよけ」と「ダブルチェック」を操作に仕込んである。

ポカよけと言うのは、モード切替の操作が完了しないと扉開閉のハンドルが操作できないようにしてある仕掛けのことである、扉が開いている時にマジックテープのたすきがかかっているのをご覧になった事があるであろう。

飲食物用カートの固定がどのような「ポカよけ」「ダブルチェック」の仕掛けをしてあるのかは良く知らないが、乗降口のモード切替のように厳重ではなさそうである。

製造現場でも同様に「ポカよけ」「ダブルチェック」を組み込まないといけない工程がある。

自己確認も「指差し確認」「声だし確認」など古くから工夫されている、皆さんの工場ではどんな工夫をされているだろうか?


このコラムは、2007年11月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第6号に掲載した記事です。

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検査不正、データ改ざん

 自動車部品大手の曙ブレーキ工業は16日、自動車メーカーに提出する製品の検査報告で、データを改ざんしたり、未実施の検査データを記載したりするなどの不正があったと発表した。少なくとも2001年から行われていた不正は約11万件にのぼる。ただ安全性は確保されているとしており、自動車大手による大規模なリコール(回収・無償修理)には発展しない見込みだ。
 検査不正があったのは、主力製品のディスクブレーキやブレーキパッドなど4製品。国内の6工場中、4工場で不正が見つかった。01年1月から20年5月まで自動車メーカーに提出した検査報告19万2213件を再調査したところ、約6割に当たる11万4271件で不正があった。うち4931件はメーカーが求める誤差を超えていたが、国の保安基準に定められた性能は確保されており、いずれも安全性に問題はないという。
 宮地康弘社長は16日のオンライン会見で「安全に大きくかかわる製造業であってはならないこと。全力で信頼回復をはかる」と陳謝。自動車メーカーによる「リコールにはならないと聞いている」と話した。

(朝日新聞より)

 2月17日付のニュースだ。
以前完成車メーカのブレーキ検査不正についてメルマガに書いた。
「検査不正・罰則強化へ」

罰則規定がなければ、決められた事を決められた通りにできないのかと、日本の完成車メーカの品質管理について苦言を呈した。

大元のブレーキメーカでは、完成車メーカの不正検査が報道され、罰則強化により再発防止がされたのを知りつつ、自社では検査データの改竄、検査データの捏造などがまかり通っていた。

「他山の石」どころではない、同じ業界、顧客の不正に対してなんら顧みる事事なく自ら不正を継続していたわけだ。現場で行われていた不正に、部門長も経営陣も気付いていなかったのだろうか?
少なくとも完成車メーカのブレーキ検査不正が明らかになった時点で、自社内の再点検があってしかるべきだと思う。

他人の失敗から学べば、自ら傷を負うことはない。
自分が傷つかなければ学べないようでは、命がいくつあっても足りないだろう。

「日本の品質」を誇りにすることはもうできないのかも知れない。
残念なことだ。


このコラムは、2021年3月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1105号に掲載した記事です。

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活動の定着

 先週はカイゼン活動について書いた。
カイゼン活動もトップが指導して始めると、最初の頃は成果が出始めるのだが、なかなか継続して成果を出し続けるのが難しい。

特に5S活動のように継続そのものに意味があるような活動では、尻すぼみ現象は痛い。

ではなぜ活動が継続しないのであろうか?

それは活動の「目的」と「目標」をきちんと明示していないからだと考えている。
例えば「清掃」の目的、目標はきちんと従業員が理解しているだろうか。
どのくらい綺麗になるまで清掃をしなければならないか基準は明確だろうか?

何をしなければならないか(What)だけを伝えても不十分だ。
何故しなければならないか(Why)と何処までしなければならないか(Goal)を同時に伝えなければならない。

「Why」と「Goal」を共有することにより、メンバーの取り組む意欲がわいてくる。何事もメンバーを「その気」にさせないとうまくは行かない。


このコラムは、2008年6月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第40号に掲載した記事です。

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旅客機滑走路逸脱事故

 4月23日に山形空港で名古屋行きフジドリームエアラインズ(FDA)386便が離陸時に滑走路を逸脱した事故があった。
運輸安全委員会の調査結果が報道されている。

「滑走路逸脱のFDA機、車輪操作装置に不具合 山形空港」

 山形空港で4月、フジドリームエアラインズ(FDA)の旅客機が離陸走行中に滑走路を逸脱した重大インシデントで、国の運輸安全委員会は28日、旅客機の車輪を操作するステアリング装置の一部に不具合が見つかったと明らかにした。

 FDAの聞き取りでも、機長は「機体が左にそれたので戻そうとしたが、(車輪を操作する)フットペダルを踏んでも戻らなかった」などと話していた。原因を特定するため、運輸安全委は飛行データや機体を詳細に調べるという。

 インシデントがあったのは4月23日夕。名古屋行きのエンブラエル175型機(乗客・乗員計64人)が離陸走行中、全長2千メートルの滑走路の途中で左にそれて草地で止まった。けが人はいなかった。運輸安全委によると、直後の初期調査でステアリングの不具合が見つかったという。

朝日新聞 DIGITALより

事故機はエンブラエル社製ERJ175。エンブラエル社(ブラジル)はあまり耳にしないが、エアバス、ボーイングに次ぐ世界第3位の航空機メーカだ。カナダのボンバルディアより売り上げ規模が大きいらしい。

実はERJ175より一回り小さいERJ145を、広西省出張時にしばしば利用した。
左1列、右2列という変則的な座席レイアウト。搭乗ドアがタラップになっており、ボーディングブリッジには接続できず沖スポからの搭乗。ひょいと離陸する軽やかさなど印象のある機体だった。

事故機は2016年6月製造、2019年1月に「重整備」が行われている。おそらく何も問題はなかったのだろう。

記事にある「旅客機の車輪を操作するステアリング装置」とは航行中方向舵を操作するフットペダルだ。地上でタキシングする際には前輪の向きを変える役割を持つ。

ここまでの情報で大胆にも「素人考え」で事故原因を推測してみた(笑)

事故機は駐機位置から誘導路を通って滑走路までタクシング出来た。従って離陸開始までは前輪操舵機能には問題がなかったはずだ。
離陸後はフットペダルは方向舵の制御に使う。離陸後のタイミングで、手動または自動で前輪/方向舵の制御が切り替わるはずだ。

離陸開始後から離陸前にこの切り替わりが発生すれば、前輪の方向を制御しようとフットペダルを操作しても、虚しく方向舵の角度が変化するだけとなる。

従って今回の事故は、前輪/方向舵の切り替えに何らかの人為ミスまたは故障があったと推定する。

多分新聞記事になった時点(5月28日)で、事故調査官はすでに答えを知っているだろう。本当の事故原因はわからないし、今後公表されないかも知れない。それでも、原因を考えてみるのは「頭の体操」だけではない。

今回の事例では「モード切り替え」「タイミング」がキーワードとなる。

  • モード切り替えができない。
  • 予期せぬタイミングでモード切り替えが発生する。

という潜在要因の引き出しが増えるはずだ。
これは自社の製品設計、工程設計の時の潜在不具合要因となる。
同様に問題原因解析時に挙げることができる問題要因が豊富になる。


このコラムは、2019年6月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第832号に掲載した記事です。

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