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伊丹空港保安検査

 全日空(ANA)によると、26日午前7時すぎ、大阪(伊丹)空港の全日空便の保安検査場で、女性係員が手荷物にナイフを持ち込んだ乗客を見つけたが、誤って乗客に返却した。係員が誤った対応に気付き、約2時間40分後の同9時40分ごろから、搭乗待合室にいた他の乗客も含めて全ての手荷物検査をやり直し、空港ターミナルが混乱している。

 保安検査場を約2時間にわたって閉鎖し、検査場を通過した乗客らもいったん外に出すなどして安全を確認した。同社によると、この影響で午前9時40分以降の全便の運航を見合わせ、遅延や欠航が相次いだ。午前11時50分現在、到着便を含めて計14便の欠航が決まった。

 捜査関係者によると、40~50代男性が折りたたみナイフを1本所持し、係員が誤って「この長さなら大丈夫」と通したという。

(神戸新聞より)

 この事故により、南側ターミナルは午前9時30分ごろから午前11時59分まで約2時間30分にわたり閉鎖となった。伊丹発着の28便が欠航となった。
男性が持っていたのはアーミーナイフ。航空法第86条では、刃物などの危険物の機内持ち込みを原則禁止している。保安検査員は男から持ち込んで問題ない旨の説明を鵜呑みとし、保安検査を通過させた。

 ANAは保安検査場の入場を停止後、搭乗済みの乗客も降ろして再検査を実施。午前11時44分までに、南側保安検査場を通過したすべての乗客を一般エリアに誘導し、正午から保安検査を再開した。

問題の男は特定されず、事態収拾前にナイフを持ったままANA機に乗って伊丹空港を離れた様だ。

何が起きたのかは想像の域は出ないが、この事例をどう学ぶかを考えたい。

この事故の根本原因は、保安検査でナイフを男に返却した係員の「判断ミス」だ。保安検査では、ハサミでさえ機内持ち込みを禁止されることもある。

判断ミスに対する対策は、更に分析しなぜ判断を誤ったかを特定しなければならない。

係員のミスさえなければ、問題は発生していない。
しかし問題の影響がここまで拡大したのは、係員のミス発生後の対応に問題があったと考えられる。

我々製造業に馴染みのある表現で言えば、不良発生後の修復処置が適切でなく問題の波及範囲が拡大してしまった、ということになろう。

この様な事態が発生した場合の修復処置手順は以下の様になるだろう。

  1. 保安検査を通過した乗客(搭乗済みの乗客を含む)全員を保安検査前に戻す。
  2. 保安検査後のエリア、搭乗開始済みの機内で問題のナイフを捜索する。
  3. 捜索終了後再度保安検査を実施。

今回の事件の影響が拡大したのは、修復処置に手間取った、且つ乗客への情報提供が不十分だったからだろう。

しかも問題のナイフとそれを持った男は、発見されていない。

7時から9時40分まで修復処置に手をつけられなかったのは、この様な事態が想定できていなかったためと考えられる。今回の問題は保安検査で100%食い止めるめるべき問題ではあるが、この関門が破られたら、という想定をするのが未然防止だ。
「関門が破られたら」という想定をFMEAでは「潜在不良」と定義している。


このコラムは、2019年10月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第883号に掲載した記事に修正加筆しました。

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アエロフロート着陸失敗

 ロシアの首都モスクワのシェレメチェボ空港で5月5日、露航空会社アエロフロートの旅客機が緊急着陸に失敗し炎上、乗員・乗客ら計41人が死亡するという事故が発生した。

離陸後に機体が避雷し機体に損傷が発生、着陸に失敗という報道が事故直後にあった。事故調査が行われていると思うが、まだ公式の発表はない。

その後の報道から推測すると、人為ミスの可能性がありそうだ。

悪天候の中を離陸したが、直後に雷に打たれている。ここで機長は引き返す事を決断。離陸した空港に引き返し、着陸後機体後部から出火、機体は炎上。
旅客機は離陸直後には燃料がまだ消費されていないので、機体重量が重くそのままでは着陸の衝撃に耐えられない。機体を軽くするため燃料を投棄してから着陸に入る。

事故機は燃料廃棄をせず着陸し、機体後部を滑走路に打ち付けるなどの衝撃で燃料に引火、炎上したのではなかろうか?

機長は総飛行時間6,800時間、うち事故機と同型機の飛行時間は1,400時間。経験豊富と呼べるパイロットだった、と報道されている。経験豊富な機長がなぜ緊急時の基本動作を実施できなかったのだろうか?

副操縦士の経験は報道されていないが、副操縦士がパニック状態になり機長が取り乱したというのは、普通は考えにくい。上司が取り乱しているのを見て部下がパニックになるというのはあり得ると思うが、部下が取り乱せば上司は冷静にならざるを得ないだろう。

機長はパニックにはなっていないにせよ、冷静さを欠いていたかもしれない。
副操縦士が助言することはできるはずだが、コックピットに「心理的安全性」がないと助言など口にできないこともありうる。

「心理的安全性」とは、ハーバードビジネススクールのエドモンドソン教授が提唱した概念だ。
「対人関係のリスクを負うことに対して安全であるという、チームに共有された信念」として定義している。つまりチームのメンバーが何を発言しても否定されたり罰せられたりしないという確信がある状態をいう。

グーグルはチームの生産性を上げるにはどうしたらよいか、という目的で「アリストテレス・プロジェクト」という調査研究をしたことがある。その結果「心理的安全性」が低いチームは生産性が低いという結論が出ている。

この事故に関して考えると、機長が強権抑圧的な態度でチームを統制すると、心理的安全性が
低くなりチームのパフォーマンスが悪くなる。その結果チーム内には以下の状態が蔓延する。

  • 無知だと思われることへの不安が増す
  • 無能だと思われることへの不安が増す
  • メンバーから嫌われることへの不安が増す
  • ネガティブだと思われることへの不安が増す

副操縦士がこのような感情を持っていたとすると、緊急着陸の前に燃料投棄の手順が必要だと機長に助言することはできないかもしれない。

強いチームのリーダは部下を一人前の人間として扱い、指示命令よりは質問により提案を引き出す。質問とは解決方法を教えるための暗示だ。教える・指示するよりは気付きを引き出す。

部下の育成に無関心な人間は、その上に職位に上がるのは難しい。なぜなら自分の仕事を任せる部下がいなければ、永久に今の職位に留まることになる。


このコラムは、2019年9月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第880号に掲載した記事に修正加筆しました。

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CT写真の表裏見誤り、手術で頭に穴 名古屋の市立病院

CT写真の表裏見誤り、手術で頭に穴 名古屋の市立病院

 名古屋市立東部医療センター東市民病院(名古屋市千種区)で昨年10月、患者のコンピューター断層撮影(CT)写真の表裏を見誤って、本来とは反対の左側の頭部に穴を開ける手術をしていたことが18日、病院への取材で分かった。病院は患者に謝罪し、同市千種保健所に届け出た。

 病院の説明によると、患者は80代の男性。慢性硬膜下血腫のため、市内の他病院から紹介されて入院した。側頭部の左右両側に血腫があり、脳神経外科の主治医が緊急で手術が必要と判断。入院翌日に手術をした際、前の病院で撮影したCT写真の表裏を見誤り、右側頭部の血腫を取り除くはずが、左側頭部の骨に直径1センチの穴を開けた。左側の血腫が小さかったために誤りに気付き、すぐに穴を閉じ、右側を手術した。患者に手術による後遺症はないといい、すでに退院した。

 同病院管理部は「あってはならないミスで大変申し訳ない。緊急の場合でも、院内の電子カルテに写真を取り込んだ上で、手術室の全員で確認するなどの再発防止策を徹底した」と話している。

(asahi.comより)

 初歩的な医療ミスだと思う.左右非対称な部位ならば,間違うこともなかろう.脳などは左右対称なので,写真の裏表を間違えれば,このような事故につながる.

紙焼きではなくフィルムなので,裏表どちらからでも見えてしまう.医療関係には詳しくないが,当然間違いがないようにフィルムには裏表が分かるようなマークが入っていると推測する.

このような失敗を「ポカミス」と言う.

電子カルテに取り込んでディスプレイで見れば,CT写真を裏から見てしまうことはないだろう.しかし電子カルテに取り込む時に裏表を間違えてスキャンしてしまえば,同じミスが発生する.

従ってこの再発防止対策は,ミスが発生する場所を他に移しただけと言える.

手術には,執刀助手,麻酔医,看護師など複数のスタッフが参加するはずだ.これらの人達が,CT写真を見ながら,事前ミーティングをしていれば,クロスチェックが働き,この様なミスは発生しないだろう.

私の偏見かもしれないが,医療現場というのは主治医・執刀医の独断が通ってしまう様に思える.
高度な専門家ほどこのような状況に陥り,ごく初歩的なミスを犯してしまう事があるのではないだろうか.

リーダであればこそ,部下のミスを叱る前に,自分もミスを犯す可能性があることを認め,部下の意見に耳を傾ける必要がある.これは自分の権威を落とすことにはならない.意見を述べさせることは,部下育成には必要なことだ.

そのためには日頃から「ホウレンソウ」環境を整えておかねばならない.
部下からの意見が上がって来なくなれば,「裸の王様」と同じだ.
部下が上司の意見に異を唱えない環境では「ホウレンソウ」は育たない.

ホウレン草が「酸性土壌」では育たないのと同様に,
ホウレンソウも「賛成土壌」では育たない.


このコラムは、2011年1月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第189号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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マニキュアに発がん物質 ダイソー、一部販売を中止

マニキュアに発がん物質 ダイソー、一部販売を中止

 100円ショップ「ダイソー」を展開する大創産業(広島県東広島市)は17日までに、マニキュアの「エスポルールネイル」の一部商品から発がん性物質のホルムアルデヒドが検出されたため、販売を中止したと発表した。健康被害の報告はないとしている。

 同社によると、エスポルールネイルは8月発売で全148商品あり、検出されたのは「5 ビーチピンク」など26商品。自主回収し、購入者には返金する。全商品の検査を月内に終える予定で、検出されなかった商品の販売は続ける。

 大創産業は「直ちに重篤な健康被害が発生する可能性は極めて低いが、敏感な体質の場合、アレルギーのような反応を起こす可能性がある」と説明。混入原因を調べている。商品は大阪市の会社が中国で製造し、発売後の自主検査で発覚。管轄する大阪府に報告した。

(日本経済聞電子版より)

 ダイソーは、生産委託時(又は商品購入契約時)にホルムアルデヒド非含有を確認し、製品仕様に明記しているはずだ。記事には自主検査で発覚とある。定期的に自主検査をしていたが、店頭に並んでからホルムアルデヒドを検出してしまったのだろう。

混入原因は調査中との事だが、いくつかの可能性がある。

  • 4M変更による混入
     通常4M変動は意図的に発生するモノだ。従って変動後の確認を徹底していれば、回収は防げたはずだ。
  • 意図しない事故で混入
     意図しない「変更」が発生する事により混入があったとすると、事前に確認する事は不可能だ。生産ロットごとに非含有を保証する仕組みが必要となる。

4M変動が発生しているのに、変動管理手順が実施されない事もあり得る。この場合も生産ロットごとの保証が必要になる。

生産ロットごとの抜き取り検査もロット保証の手段となるが、以前発生したインスタント焼きそばのゴキブリ混入のような事故は、抜き取り検査では見つからない。

どのようにマニュキュアを生産しているのか分からないが、加工バッチごとに検査する事が可能だと思える。瓶詰め工程後にホルムアルデヒドが混入する事は考えにくいので検査により100%製品保証できるだろう。

納入後の抜き取り検査は100%保証する事は困難だ。しかもコストがかかる。上流で管理するのが品質保証の鉄則だ。

インスタント焼きそばの事故は、幸いにして多くのファンの支持により業績に影響を及ぼすような深刻な事態には発展しなかった。
しかしダイソーの様にいくらでも代替えが効く商品を取り扱っている業態では回収・販売停止は深刻な影響になりかねない。


このコラムは、2015年10月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第446号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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相次ぐ異物混入、マック謝罪 経営不振に追い打ち

相次ぐ異物混入、マック謝罪 経営不振に追い打ち

 チキンマックナゲットなどから異物が見つかったのを受けて、日本マクドナルドは7日、記者会見を開いた。食品への異物混入は最近、他社でも相次いで見つかっており、消費者には不安が広がる。ただ、食べられる物まで廃棄に
追い込まれている面もあり、冷静な対応を呼びかける声も出ている。

 「多くのお客様に多大なご迷惑とご心配をかけ、深くおわび申し上げます」

 日本マクドナルドホールディングスの青木岳彦上席執行役員は東京都内で開いた記者会見で、深々と頭を下げた。

 会見で公表した異物混入4件は、すべて報道が先行した。

全文はこちら(既に記事の公開期限が終了したようです)

(朝日新聞より)

 ソフトクリームからプラスチックの破片、チキンナゲットから青いビニール片、チキンナゲットから白っぽいビニール片、フライポテトから人の歯!。「歯」が食品から出て来たと言うのは、前代未聞だろう。新聞を読んでいて、危うく椅子から転げ落ちそうになった。

日本マクドナルドの基準では、「健康に影響があったり、被害が大きく広がる恐れがあったりするものを公表する」としている。今回発表した4件も社内の公表基準にはあたらない、と言っている。しかしアイスクリームを食べた少女が、プラスチック片で口内を切っているのに、「健康に影響がない」と考えているのだろうか?立派な人身事故だ。

謝罪の記者会見には、執行役員が対応している。
日本人的な感覚では、社長以下上級役員が5、6人並んで頭を下げる、という光景を想像する。たった2人だけ?しかも上級執行役員?と感じた人も多いのではないだろうか。

論理的に考えれば、人数や役職は関係ないだろう。4件の事故に責任を持っている人が出て来て謝罪し、今後の対策を説明し、消費者に安心してもらう、これが出来ていれば、良いはずだ。

しかし、消費者は論理的には考えていない。「社長を出せっ!」と言う事になる。しかも記事を見る限り、消費者が安心出来る材料は何も説明されてない。
(朝日新聞の記事に載っていないだけ、と言う可能性も有るが。)

ペヤングのゴキブリ混入事故の時は、そこまでやるか?と言う対策を宣言した。設備を一新し、清潔に生まれ変わった工場をマスコミに公開すれば、漏泄した汚い生産設備の写真も、帳消しになるだろう。

日本マクドナルド程の「大企業」となると、品質問題で潰れてしまうかも知れないと言う危機意識が低いのかも知れない。どんなに大企業でも、老舗企業であろうと、品質問題を起こし対応を間違えれば、一発退場になりかねない。経営者はその様は危機感を持っていなければならない。

消えたペヤング 虫1匹に払う数十億円の代償

消えたペヤング 虫1匹に払う数十億円の代償

 カップ焼きそば「ペヤングソースやきそば」が全国から一斉に姿を消した。原因は商品混入を指摘された1匹の虫。製造する「まるか食品」は全商品を自主回収し、生産を全面停止。数十億円かけて設備の刷新も検討しており、周囲から「そこまでやるのか」と驚きの声も漏れる。年間売上高約80億円の中堅企業にとって負担は重い。まるか食品はなぜ、これほどの「代償」を払うことにしたのか。そして耐えられるのか。

全文はこちら

(日本経済新聞より)

 虫一匹で、年商80億円の会社が潰れるかも知れない。
市場からの回収費用、生産設備の刷新などで数十億の費用がかかると言う。更に、生産停止による機会損失や、従業員の雇用を考えれば、年商分くらいの金額は吹き飛んでしまうだろう。最も深刻なのは、消費者の信頼を失ってしまった事だ。これは金額では換算出来ない。未来に渡って課せられた負債となる。

品質問題で、企業が丸ごと無くなってしまったのを何度も見て来ている。

品質保証関連の仕事をされている方は、対岸の火災と、高みの見物をしている場合ではない。自社の中を再点検する必要があるだろう。特にB to C製品を扱っている場合、今回の様に一発退場を、食らう事がある。

以前勤務していた会社は、B to B製品を取り扱っていたが、私がいた事業部でB to C製品を、販売したことがある。当時品質保証部長をしていた私は、自社製品の噂がネットに出ていないか、日々検索していたモノだ(苦笑)
幸い、たまに検索に引っかかるのは商品に好意的な書き込みしかなかったが、毎日ヒヤヒヤしていた。当時東芝クレーマー事件が話題になっており、神経を尖らせていたモノだ。

このような問題を回避するためには、潜在的問題を先手で改善しておくしか方法はない。新聞記事には「初動の対応が悪い」と指摘があったが、事が起きてからでは遅いのだ。

例えばペヤングの工場内部の写真(多分工場勤務者からの漏泄だろう)を見ると、お世辞にも奇麗な工場とは言い難い。食品工場としては、かなりお粗末だ。とても顧客に公開出来る工場ではない。設備を更新したとしても、今のままの設備管理では1年で顧客に見せられる工場では無くなるだろう。基礎化粧品のメーカが、毎日生産設備を分解清掃している事を、TVコマーシャルに流した事がある。もし、まるか食品にまだチャンスが有るとすれば、このくらいの事をやらなければ、失われた信頼は取り戻せないだろう。

問題が起きてしまってからでは遅い。
品質保証の本来の仕事とは、発生した問題の後処理ではない。問題が起きない様にする事が、本来の品質保証の仕事だ。


このコラムは、2014年12月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第404号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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爆発事故

愛知・豊田自動織機の工場で爆発、社員1人死亡

 7日午前5時10分ごろ、愛知県大府市江端町1丁目の豊田自動織機大府工場内で爆発があり、作業をしていた同市共和町の同社員高木甲子朗(こうしろう)さん(24)が全身にやけどを負って病院に運ばれたが、間もなく死亡した。爆発があった建物の屋根が曲がり、窓ガラス約50枚が吹き飛んだ。東海署は業務上過失致死の疑いで捜査している。

(asahi.comより)

壮絶な事故である.
報道によると作業現場は,

「製造ラインから流れてきたアルミ製のピストン部品(長さ12センチ、直径3センチ)を4本ずつ、液体の入ったステンレス製の水槽(長さ1メートル、奥行き60センチ、高さ40センチ)の中に入れ、不良品がないか調べる作業をしていた。
 液体は塩化ナトリウムを液化させたものとみられ、温度は530度に保たれていた」

530℃に加熱され液体となった塩化ナトリウムというのが想像を絶する.固体を加熱すれば液体となるというのは理屈としてわかっていても,食塩が液体になっている様子を想像する事が出来ない.

実際どんな作業なのかは想像ができないが,作業員の安全は十分に考慮されていたのだろうか?

高温の液体塩化ナトリウムの水槽内に何かを入れて,塩素と結合してしまうとナトリウムが単体になってしまう.ナトリウムが高温化で激しく反応したら大変なことになる.化学の知識がないのでこんな想像をしてしまうが,恐ろしく危険な作業をしていたのではないだろうか?

薬剤を水槽に投入後爆発があったと報道されている.
職場に不要な物(あってはならない物)がおいてあり,誤って投入してしまったのではないだろうか?

以前プラスチックケースを組立てる工程に防錆スプレーが置いてあったのを見て班長を叱った事がある.
こちらは作業員が危険になるようなことはないが,防錆スプレーをプラスチック材料にかけたりすると,「油脂クレージング割れ」が発生する.

プラスチックの油脂クレージング割れ

この不良は時間がかかって発生するので,工程の中では発見できない厄介な不良である.
もちろん防錆スプレーがおいてあるだけで,プラスチックに油脂が付着するはずはない.しかし作業員が誤ってこれを使う可能性はある.したがって防錆スプレーはプラスチック組立工程にはあってはならない物なのだ.

この報道の最後に,
「爆発があった工程は当面止まる見込みだが、同社は顧客への供給に影響はないとしている」
と付記されている.若い従業員を亡くしてしまったのに顧客への影響しかコメントはないのだろうかと悲しくなる.


このコラムは、2008年5月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第33号に掲載した記事を改題・修正しました。

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上り特急停車中の線路に下り特急が進入、緊急停止 佐賀

 22日午後0時20分ごろ、佐賀県白石町坂田のJR長崎線肥前竜王駅で、上りの特急かもめ20号が止まっている線路に、下りの特急かもめ19号が進入し、運転士が手動で緊急ブレーキをかけて止まった。JR九州によると、列車同士の距離は約90メートルで、正面衝突する危険があったという。2本の特急の乗客計約230人にけがはなかった。

 同社によると、19号は線路の分岐点から約40メートル進んで止まった。速度は「最大で時速35キロ」としている。ATS(自動列車停止装置)は異音で停車した場所より手前にあり、作動する状況になかった。運転士が気付かなければ正面衝突の可能性があったという。

 19号と20号はもともと、隣の肥前鹿島駅ですれ違う予定だったが、19号の異音トラブルでダイヤが乱れたため、肥前竜王駅ですれ違うことになった。当初は、両列車とも肥前竜王駅の2番線を通過することになっていたため、JR九州の博多総合指令(福岡市)は、上りの20号が1番線に入るようプログラムを変更。20号は先に1番線に入って停車した。

 JR九州によると、19号は異音トラブルの際、線路の分岐点の手前にある信号を数メートル過ぎて止まったが、総合指令は信号の100メートル手前で止まったと認識していた。このため、総合指令は列車を信号まで進ませてから、分岐点を1番線から2番線に切り替えるつもりで進行を指示。しかし実際は信号を過ぎていたため、19号はすぐ分岐点を過ぎ、1番線に進入したという。

 国の運輸安全委員会は、このトラブルを深刻な事故につながりかねない「重大インシデント」と認定し、鉄道事故調査官2人を現地に派遣した。23日に、JR九州関係者から詳しく事情を聴き、現場を視察する。

(朝日新聞電子版より)

 米国で大きな列車事故が有ったが、日本の鉄道では久々の「ヒヤリ・ハット」事故ではないかと思う。

単線区間なので、列車は駅ですれ違う。すれ違いのために停車していた上り列車のいる線路に下り列車が進入し、あわや衝突という所で緊急停止した。

本来、もう一駅上り寄りの駅ですれ違う予定だったのが、下り列車の運転手が異音に気付き停車、10分遅れたため、一駅下り寄りの駅ですれ違う事となった。

上り列車を肥前竜王駅の1番線に入線させ、下り列車を2番線を通してすれ違うようダイヤ変更をした。しかし上り側のポイントが1番線側になっていたため下り列車が1番線に入線してしまった。

現場直前のATSの列車検出器で下り列車を捉え、その後に肥前竜王駅手前のポイントを2番線側に切り替える予定で準備していたが、異音点検で停車した位置が列車検出器を通り越していたので、通過信号が得られず、ポイントの切り替えが出来なかった、と言うのが新聞記事から読み取れる事故の経緯だ。

しかし何事もなければ、一駅下り寄りの肥前鹿島駅ですれ違いを済ませ、上り下り列車ともに、肥前竜王駅の2番線を通過することになっていた。従って何もしていなければ、肥前竜王駅上り側のポイントは2番線側になっていたはずだ。

上り列車を1番線に入線させる際に下り側ポイントを1番線側に倒せば、上り側ポイントも1番線側に自動的に切り替わる、などの事情が有るのかも知れない。残念ながら鉄道マニアではないのでこの辺りの事情は不明だ。

いずれにせよ、普通ならば下り列車が10分遅れたくらいで大騒ぎせず、上り列車を予定通り肥前鹿島駅で待機させておくだろう。日本の鉄道でなければ、この様な事をしないと思う。現場が臨機応変に対応し、遅れ時間を最小に出来る。そして現場が、遅れ時間を最小にしようと言う情熱を持っているからこそ発生した事故だと思う。

しかし憂慮しなければならない事は、我々が信じて疑わないJRの現場力が健在なのか?と言う事だ。日本の鉄道はATS/ATCシステムによって、安全運行が行われる様になっている。都内の列車は3分間隔と言う過密ダイヤでも事故が発生しない。以前工事車両が原因で事故が発生したが、工事車両はATS/ATCで制御出来ない。システムに頼りすぎて、本来現場力で対処出来ていた部分が脆弱になりつつ有るのではなかろうか?

福岡航空重大インシデント

 2018年3月24日(土)に福岡空港で関空発のピーチA320-200機が着陸後、前脚タイヤが横を向き動けなくなり滑走路上に停止する重大インシデントが発生。本件に対する調査情報が運輸安全委員会から公表されている。

「福岡空港で発生したピーチアビエーション機の重大インシデントに関する情報提供」

調査報告書によると前輪ユニットを構成する部品・トルクリンクのピンが消失しており、前輪の操舵ができなかったようだ。

報告書の図面によると、上下のトルクリンクを締結するピンはナットで固定され、ナットの緩み止めロックプレートが連結ピンにボルト留めされている。さすがに絶対外れてはいけない部品である。点検用のアイマークが付いているだけでは不十分だ。
どのように点検作業をしていたのかは不明だが、報告書の図面を見るとトルクリンクの締結部はタイヤの直径よりわずかに上にあり、締結ボルトのロックプレートは簡単に点検できる位置にある。

製造業で使用する設備も、締結部分(ボルト・ナット)が緩んでいないか目視点検したり、ビビリ音がないかなどの点検をすることがある。
この重大インシデント情報から我々も以下のことを学ぶことができる。

  • ナットの緩み留めにロッププレートを使用する。
  • 締結部を点検しやすい位置にする。

締結部が緩んだ時のリスクに合わせ未然防止対策を検討すると良かろう。


このコラムは、2018年12月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第757号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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離陸機が緊急停止=日航機、滑走路へ進入―上海

 【上海時事】中国民用航空局によると、上海浦東国際空港で13日昼(日本時間同)ごろ、米デトロイト行きデルタ航空の旅客機が離陸に向け速度を上げていたところ、滑走路に日本航空の旅客機が進入、急ブレーキで緊急停止した。

 中国メディアによると、急ブレーキの影響でデルタ機のタイヤが破損。非常事態に備え、消防車がタイヤに向かって放水した。けが人などは出ていない。中国当局が緊急停止の原因を究明するため、両社のパイロットや管制官から事情を聴いている。 

(時事通信より)

 英国でJAL機副機長飲酒問題が起きたばかりだ。今度はJAL機が上海で離陸中の旅客機の前方を横切るという重大インシデントを起こしている。

中国ではあまり報道されていないようだ。中国百度検索で「上海浦東机場」を検索すると当該インシデントは3件しかヒットしない(15日午前現在)

事故原因調査に国土交通省運輸安全委員会が関与するのかどうかはわからない。いずれにせよすぐには何があったかはわからないだろう。

管制官(中国人)JALパイロット(日本人)DELTAパイロット(米国人)が英語でやり取りをしていて、聞き間違いがあったというのがもっともらしい原因かと思う。しかしこれでJALパイロットが免責となるわけではない。管制官にミスがあったとしても、DELTA機に緊急ブレーキを踏ませたのはJAL機だ。

例えば、信号交差点で横断中に信号無視の乗用車にはねられ即死たとしよう。
当然歩行者には何ら法的な責任はない。しかし一番重い「罰」を命と引き換えに背負うのは被害者である歩行者だ。

いくら管制システムが機械化されようが、自動航行技術が発達しようが、最後の砦は、管制官やパイロットの「勘」だと思う。「勘」というと伝承不可能な属人的能力のように感じるが、事故の予兆とか潜在事故と言い換えれば「勘」は訓練で身につくはずだ。

例えば今回のインシデントで言えば、上海浦東空港では2本の滑走路で離着陸する。駐機場もしくは離陸滑走路にタクシングする場合、他方の滑走路を横断しなければならない。従って離陸機と着陸機が同時にある場合は両機の挙動に注意を払う、というのが上海浦東空港での潜在事故に対する予防保全行動になる。

ベテランの「勘」も言葉に置き換えることができれば、新人に教育可能ということだ。

このコラムを書くためにネット上の情報を検索した。
ドクターヘリの元パイロットの方が「ヘリを離陸させる時は、ホバリングのまま90度旋回して後方確認をした上で上昇するものだ」と書いておられた。なるほどなぁと感心した。

「勘を働かせろ」と指導するより「ホバリングで90度旋回し後方確認せよ」と具体的行動を指導する方が効果があろう。その上でこういう行動が危険を予知する「勘」であると指導するのがよかろう。


このコラムは、2018年11月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第748号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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