失敗から学ぶ」タグアーカイブ

JR西日本のぞみ破損

「異音後も運行、JR西謝罪 のぞみ破損、運転士マニュアル守らず」
朝日新聞デジタルの記事だ。

記事によると、のぞみ176号の運転士は博多―小倉間を走行中の6月14日午後2時5分ごろ、「ドン」という衝突音を聞いたが、東京指令所に報告せず。小倉駅でも点検せずに出発した。

JR西日本では昨年のぞみ34号で異常に気が付きながらそのまま運行すると言う重大インシデントを発生させている。

過去のメルマガ記事:
「運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル」
「のぞみ34号トラブル」
「組織事故」
「福知山線脱線事故」

今回の事故は、落下した先端部分に車両が乗り上げ脱線、と言う最悪シナリオもあり得ただろう。

報道によると、JR西日本の平野副社長は記者会見で以下の様に述べている。
異常時対応マニュアルで、運転士は走行中に異音を聞いた場合、東京の指令所に報告しなければならないと定めている。今回、運転士は「通常と全く違う音」を耳にしながら報告していなかった。「マニュアルを誤認したか、気が動転して伝える行為を抜かした可能性がある」という。

さらに、のぞみが人をはねた後、最初に停車した小倉駅では、駅員が先頭車両の連結器カバーに血が付き、ひびらしいものを目にして「違和感」があったが、報告したのは出発後。「(駅員は)そこまで重要な事象であるという思いはなかった」と説明した。

平野副社長は、破損した連結器カバー部分は運転士から見えず、駅員からもホーム柵があって見えにくいうえ、客の動きに気を取られていた事情があるとしながらも、「直ちに連絡すべきだった」と指摘。「運転士と指令員が話していれば、『小倉で下りて点検してくれ』ということになったと思う」と反省した。

JR西では台車亀裂問題を受け、再発防止のため、「においや音などが複合的に発生した場合、直ちに列車を停止させて車両の状態を確認する」事を決めた。平野副社長は「迷った時は直ちに列車を止めるということを定着させる働きかけを、継続したい」と語った。

記事を読んで以下の様に感じた。
「異音」「違和感」を見逃した、と言う点ではのぞみ34号の重大インシデントとなんら変わりはない。のぞみ34号の事例は組織内に活かされていない、と言わざるを得ないだろう。

以前のコラム「福知山線脱線事故」で指摘した様にJR西日本には「組織事故」を発生させる組織文化がまだ残っている様に思う。

運転士が報告を怠った理由を
・マニュアルを誤認
・気が動転して伝える行為を抜かした
としか分析していない。

マニュアルにどう書かれているのかわからないが、「においや音などが複合的に発生した場合、直ちに列車を停止させて車両の状態を確認する」と書いてあるのだとすれば、今回の事例では運転士は音しか認識していない。これを誤認と考えると、さらにマニュアルの文言をいじり回すと言う不毛な対策しか浮かばないだろう。

「気が動転して報告できなかった」などと言う分析を聞いた乗客はどう思うだろう。「気が動転してブレーキ操作ができなかった」と言うこともありうるだろう。そんな運転士の列車に乗りたいと思うか?その程度の信頼しか置いていない運転士に列車の運行を任せているのだとすれば、経営トップとして失格だ。

報告しなかった理由は他にもあるはずだ。
停車判断は、運行遅延に対する罰則「日勤教育」を避けたいと言う心理障壁を越えられないだろう。

日勤教育に関しては前述のコラム「福知山線脱線事故」を参照いただきたい。

孔子はこう言っている。
子曰:“過而不改。是謂過矣。”
子曰く、過ちて改めざる、是を過ちと謂う。

過ちそのものは、改善のチャンスだ。
過ちを改めない、それが本当の過ちだ。

「過ち」をチャンスと捉える文化を組織内に定着させなければ、こう言う事故は防げないだろう。


このコラムは、2018年6月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第682号に掲載した記事に加筆しました。

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大阪北部地震

 大阪北部地震で発生した小学校の違法建築ブロック塀倒壊により小学生が死亡する事故が発生した。専門家が過去に危険性を指摘しているにも関わらず対策がなされていなかった。

同様な事故は過去に何度も発生している。これは明らかに「人災」だ。

被災地の写真を見ると、他にも民家のブロック塀が倒壊している。こちらは写真を見る限りブロック塀には鉄筋は入っていなかった様だ。また地震がなくても、ブロック塀除去作業中に倒壊したブロック塀により作業者が死亡している事例がある。

多くの前例があるにも関わらず、再点検により倒壊の危険があるブロック塀が全国で多数見つかっている。

金がないなどの理由があるのかもしれない。しかし最優先せねばならないのは人命だ。政府は直ちに建設国債を発行し、助成金を全国にばらまくべきだ。日本の国債は現在品薄で価格が上昇していると聞く。1兆円程度の国債を発行したところで問題はないだろう。1兆円程度では2%のインフレ目標を達成できないかもしれないが、60年後100年後の物価が上昇していれば償還は屁でもないはずだ。

我々も自分の周りの潜在リスクを考えるべきだ。
うちの工場にはブロック塀などない、という方は視野があまりにも狭すぎる。
食堂や休息室にある自動販売機は倒れないか?
生産設備で倒れる可能性がるものはないか?
従業員寮の二段ベットは倒れないか?
もっと言えば地震以外の災害も考慮に入れるべきだろう。

これを全社で展開する。一部の幹部だけでやるのではない。従業員全員に周知し提案を受け入れる。これで従業員の防災意識は高まる。そして会社が自分達の安全を優先して考えてくれていると感じれば、経営者に対する信頼度も上がるはずだ。

従業員の感謝と信頼がマネジメントのバロメータだ。


このコラムは、2018年6月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第685号に掲載した記事に加筆しました。

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ヒューマンエラー

 先週はつくばエキスプレス南流山駅で20秒早く列車を発車させた「事故」について考えた。この様な事故の原因を「ヒューマンエラー」とするから「乗務員の再教育」などと言う効果を実感出来ない再発防止対策しか出て来ない。

先週のコラム「南流山駅早発事故」

このメルマガでも再三申し上げているが、ヒューマンエラーは「原因」ではなく、「現象」だ。ヒューマンエラーが発生する原因を特定しなければ有効な再発防止対策を打つ事は出来ない。

ではヒューマンエラーとは何だろう?
JIS Z8115:2000「信頼性用語」定義では「意図しない結果を生じる人間の行為」となっている。

では人間の行為(行動)はどの様に決定されるのか?
心理学者レヴィンの行動の法則によると、人間行動は「人間特性」と「環境」の関数だ。つまり人は環境の制約中で、環境から得た情報を判断し行動する。情報の認識、判断、行動には人間特性が影響を与える。

ここで注意すべき点は「環境」は物理的な環境ではない。人が認識した心理的環境だ。

例えば、先日こんな笑い話をネットで発見した。
英語の授業中にall day longの下に教師が「田中」と板書した。さっぱり訳が分からなかった。と言うツィートが有った。教師が板書したのは「田中」ではなく「1日中」だ。1と日が近く「旧」の様に見える。しかも日の横棒が左に突き出ている。「1日」→「田」と誤認識した訳だ。

これをたんなる「笑い話」と考えてはいけない。我々製造業にも深い教訓が有る。例えば、材料の配合指示を手書きメモで「ABC(硬化剤 )10mg」と記した時に、硬化剤ABCを「110mg」添加してしまう可能性は否定出来ないだろう。

普通に考えればすぐに分かる事だが、人は自分の心が認識した現実に基づいて判断し行動する。その結果「意図しない結果を生じる人間の行為」となり事故が発生する。

ヒューマンエラーに対して、

  • 職業意識が高ければヒューマンエラーはしない
  • 初歩的なミスだ
  • 精神がたるんでいる
  • 注意力が足りない
  • こんな偶然はしかたがない

この様な考え方では、有効な再発防止は期待出来ない。
再教育・再指導をするが、年に1、2度再発する。それは偶然と諦める。と言う事になる。

我々はヒューマンエラーをした人の心理的環境や、行動の元になった判断を直接観察する事は出来ない。観察出来る行動により、なぜそうなったのか当人から話を聞くしかない。当然叱責、責任追及などとなれば真実は引き出せない。慢性化しやすいヒューマンエラーに有効な再発防止をしたいのであれば、叱責、責任追及は脇に置いて、再発防止対策検討の協力をあおぐ、と言う姿勢で対応した方が良かろう。


このコラムは、2017年11月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第595号に掲載した記事です。

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南流山駅早発事故

 11月14日、つくばエキスプレス南流山駅で9時44分発の下り列車が20秒早く発車すると言う「事故」が発生した。これを事故と言うべきかどうか判断に苦しむ。つくばエキスプレスを運行している首都圏新都市鉄道は、当日乗務員の確認不足が原因で「深くおわび申し上げます」とホームページに謝罪を掲載している。

サンケイ新聞は本件に関して海外メディアの報道を紹介している。
英BBC放送や米FOXは「日本に関して最高なことの一つだ」といったツイッターの好意的な投稿を紹介した。
ニューヨークの大衆紙デーリー・ニューズは「日本の駅の交通量は世界的にも多いが、効率の高さで知られている」と伝えた。

ANNの動画を見ると、米国市民の反応は「たった20秒で謝罪」と半ばあきれながらも日本の交通機関を賞賛しているようだ。

9時44分40秒発車の列車が20秒早く発車したと言う「事故」だが、時刻表には9時44分としか書いていない。顧客との「契約」に違反したとは言えない。

首都圏新都市鉄道は以下の様に説明している。
当社はワンマン運転(乗務員1人)で運行していて、ホームでは発車の15秒前になると自動的にメロディーが鳴り、ドアを閉めると自動運転で出発します。今回は20秒早発してしまったので、メロディーが鳴っていないのに電車が動き出したことになります。

しかし乗り遅れた乗客は一人もいなかった。
従って「事故」と言うよりは「ヒヤリ・ハット」と言った方が良かろう。わざわざホームページに謝罪を発表した意図は対外的な謝罪ではなく、内部に対する再発防止が目的だろう。

首都圏新都市鉄道の担当者は以下の様に説明している。
運転台には、行路、到着時刻、出発時刻をまとめたメモが置いてあり、乗務員は、メモで確認をしつつ、自分の時計でも時刻を確認します。今回は、それが十分できていなかったので、基本動作を徹底することに努めていきます。

ホームページ上の再発防止対策は以下の様になっている。
「基本動作を徹底するよう、当該乗務員に対し指導いたしました。」

この再発防止対策により、当該乗務員は同じ失敗をしない様になるかも知れない。別の乗務員も基本動作を徹底する様に、謝罪を公開したと考える事が出来る。

しかしこの様な再発防止対策は「個人の注意力」に依存している。ポカよけになっていない。「ポカよけ」とは仕組みや仕掛けによりミスを防ぐ事をいう。従って毎年1、2回は同様な事故が発生している。

次の様な対策を考えれば「ポカよけ」になるだろう。
出発メロディが鳴り終わってからドアを閉め出発する様に、手順を変更する。
出発メロディは出発時刻に合わせて自動的に鳴る様になっている。この様に手順を変更すれば、注意力は不要となるはずだ。この対策に必要な経費は、乗務員に対する業務連絡と、マニュアル変更だけだ。


このコラムは、2017年11月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第592号に掲載した記事です。

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上手くできた事は忘れる

「30年前に上手く行った事を今やってみても上手くは行かない。」
臨済宗妙心寺退蔵院副住職・松山大耕禅師の言葉だ。

成功体験は、成功する要因があって得られる。要因の内には成功した時代背景、社会背景、タイミングなど制御できない要因が含まれている。したがって成功事例をそのままやってみても上手くいかない事が多い。

会社の役員などをみていれば良くわかる。昔の成功体験により高い地位を得ている。30年前に上手く行った事業が、今うまくいくはずはない。顧客の嗜好も社会そのものも変わってしまっている。
例えばコンパクトカメラの商品企画で、会社に大きな利益をもたらした重役がいまだに商品企画に関わっている様では、その会社の繁栄は怪しい。コンパクトカメラの役割がスマホに奪われて久しい。過去の成功体験が邪魔をして、今売れる商品を見極める目が曇る。

しかしダメな事をやれば必ず失敗する。
たまたま何事もなくても、いつかは失敗することになる。

従って上手くできた事は忘れてしまう。失敗した事はしっかり覚えておく。

精神衛生上あまり好ましくはないかもしれない。
人は上手くできた事はいつまでも覚えておきたいだろうし、失敗した事は他人に知られるのも嫌だ。早く忘れてしまいたいものだ。

上手く行った事は、皆で賞賛して忘れてしまう。
失敗した事は、失敗したことで進歩できたと皆で感謝し時々に思い出す。時々にとは月に一回とか二回という意味ではない。折に触れてという意味だ。そんな組織文化を持てば、失敗から学ぶ事ができる組織になる。


このコラムは、2019年1月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第772号に掲載した記事です。

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HVソフト品質管理に課題 プリウスのリコール

 トヨタ自動車は12日、ハイブリッド車(HV)「プリウス」のリコール(回収・無償修理)を発表した。HVシステムの制御ソフトの不具合が原因。トヨタは既にソフトを修正したうえで生産を始めており、現在受注済みの車両の納車に影響はないもようだ。

 今回リコールの対象は2009年3月から今月5日までに生産した車両で、輸出分も含めて約190万台。このうち国内で販売した99万7千台については、販売店で制御ソフトの修正や部品交換に応じる。顧客にはダイレクトメールなどを通じてリコールを知らせる。「プリウスα」や「プリウスPHV」「アクア」などその他のHVはリコールの対象外。

 問題となったシステムはサプライヤーからの供給品。サプライヤーの名前やリコール費用の補償については明らかにしていない。品質の最終責任はトヨタが持つが、同社はリコールなどに対応するために引当金として年間5千億円以上を確保している。

 今回の制御異常は車の発売から時間を経てから見つかっており、出荷時にはチェックしにくい種類の不具合の可能性もある。HV化が進み電子部品の重要度が増すなか、ノウハウの蓄積が比較的浅いソフト関連の品質管理が自動車各社の課題になりそうだ。

(日本経済新聞電子版より)

 トヨタのホームページのリコール情報は以下の様になっていた。

  1. 不具合の状況
    ハイブリッドシステムにおいて、制御ソフトが不適切なため、加速時などの高負荷走行時に、昇圧回路の素子に想定外の熱応力が加わることがあります。そのため、使用過程で当該素子が損傷し、警告灯が点灯して、フェールセーフのモータ走行となります。また、素子損傷時に電気ノイズが発生した場合、ハイブリッドシステムが停止し、走行不能となるおそれがあります。
  2. 改善の内容
    全車両、制御ソフトを対策仕様に修正します。
    制御ソフト修正後に素子が損傷して警告灯が点灯した場合は、電力変換器(DC-ACインバータ)のモジュールを無償交換します。

これだけでは詳細は理解出来ないが、ハイブリッド制御モジュールの組み込みソフトにバグがあり、加速時にモータの駆動用ドライバー素子に定格以上のパワーロスを与えてしまい、熱破壊してしまう、と言う故障モードの様だ。

この手の組み込みソフトのバグによる不具合は、設計検証で洗い出し、実車により妥当性を確認しなければならない。しかしこの検証や確認が困難であり、「永遠にバグはもう一つある」などと揶揄される事がままある。

設計検証時にどこ迄「非定常条件」を想定出来るかが、検証試験の鍵となる。また単体だけの検証ではなく、周辺を組み合わせた結合試験も実施する。ハイブリッド制御モジュール、駆動モジュール、モータを組み合わせて検証評価をすることになる。

「追い越し加速」と言う条件の検証項目は、あったはずだ。
この検証時に実機で検証していれば、駆動モジュールのドライバー素子は壊れたはずだ。ソフトウェアの設計担当者だけで検証していると、ハードウェアの故障を見逃す事もあり得る。ドライバー素子の破損をソフトが原因と特定せずに、ハードの問題としてスルーしてしまうと言う事だ。

メカトロニクスの設計・設計検証には、ハード・ソフトに精通したエンジニアがあたるべきだ。

今回のハイブリッド制御モジュールは、サプライヤーからの調達品だ。
しかし完成車の品質保証は、トヨタが最終責任を持っている。
従ってハイブリッド制御モジュールが、どのような手順で設計検証されたか、
確認する責任はトヨタにもあるはずだ。

最近の製品は、組み込みソフトの力を借りて機能を実現する製品が多い。
ハード・ソフト、内製・外製を問わず、量産前にバグを洗い出す品質保証の手順を確立しておく必要がある。


このコラムは、2014年2月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第349号に掲載した記事です。

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カレー鍋スープ、6万パック自主回収

 調味料の〇〇(東京)は21日、「カレー鍋スープ」の約6万パックを自主回収すると発表した。工場での殺菌処理の工程でトラブルが見つかり、雑菌が混入している恐れがあるという。

 自主回収するのは関東工場で8月1日に生産し、賞味期限が2012年7月31日の6万540パック。カレーチェーンを運営する会社と共同開発した商品で、全国のスーパーなどで販売している。

 購入者から「すっぱい味がする」との指摘を受けて調べたところ、同日の生産分のうち1344パックの殺菌処理が不十分だった。同社によると、腹痛などをおこす恐れがあるという。

(asahi.conより)

※社名等を特定する必要がないので、伏字としました。

 この記事だけでは,どの工程でどんなトラブルが発生したのか具体的には分からない.全て仮定になるが,今回の回収事故から教訓を探してみたい.

殺菌処理の工程でトラブルが見つかったとある.
殺菌処理工程には,調理に使う設備の殺菌,食品そのものの殺菌,包装パックの殺菌が推定される.記事だけではどの殺菌工程かは分からない.

また殺菌工程のトラブルの波及範囲が,1344パックと特定できているということは,1バッチ分(または数バッチ分)の生産だったということであろう.そしてそのトラブルは,認知されており,記録にも残っているはずだ.

さすがに,食品そのものの殺菌工程にトラブルが発生していたのならば,出荷は止められたはずだ.

恐らくバッチごとの,設備洗浄殺菌とか,包装パック殺菌などの補助的な工程でのトラブルなのだろう.

消費者からのクレームに基づいて,生産記録を調べても異常が見つからない.しかし設備などのメンテナンス記録を調べることにより,異常が見つかったという経緯だろう.
例えば,殺菌温度が不足していることに気が付き,殺菌設備の調整・修理が行われたという記録が見つかったのではないだろうか.

その不具合が製品に与える影響を推定しきれなかった(認識ミス).
またはその後にも殺菌工程があるので問題ないと判断した(判断ミス).
のようなミスがあったのではないだろうか.

このような人為ミスを防ぐためには,製品の品質に影響がある工程で不具合が発生したら,強制的に主ラインが止まってしまう仕組みを作ればよいだろう.原因の追究と波及範囲の特定・処理を決めた後,ライン停止解除できる仕組みにしておく.このようにしておけば,一人の作業員の認識ミス・判断ミスで不具合が拡散する可能性を低くすることが出来る.

以前半導体部品のロット不良に遭遇したことがある.
トランジスタのVbe電圧(トランジスタがONになる電圧)が,仕様を外れていた.製造元の出荷検査では,一瞬で検査が終わってしまうため不良を発見できない.しかし通常の使用状態では,トランジスタが自己発熱する為に,Vbe電圧不良が顕在化する.

製造元の調査によると,トランジスタチップをリードフレームにボンディングする設備に異常があり,調整をしたという記録が見つかった.不良の原因はトランジスタチップとリードフレームが密着していなかったため,トランジスタの自己発熱がリードフレームを通して散熱出来ずに,Vbeの温度特性により,ON電圧が仕様を外れてしまった.

このロット不良も,ボンディング設備の調整メンテナンスをした時点でその影響と波及範囲を特定する仕組みがあれば,少なくとも不良ロットを出荷しなくても済んだはずだ.またはボンディング設備の品質をモニターできるようにしておけば,不良の発生もなかったはずだ.

まずは,各工程の潜在故障が製品品質に与える影響を特定する.
製品品質に影響を与える潜在故障の発生をモニターする仕組みを工夫する.
少なくとも,故障発生時に主ラインが止まるようにすれば,回収事故にはならないはずだ.


このコラムは、2011年9月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第224号に掲載した記事です。

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JR運転士を書類送検へ 三重・名松線の無人走行事故

 津市白山町のJR名松線家城(いえき)駅で4月、車両の入れ替え準備中だった回送列車(1両編成)が無人で約8キロ自走した事故で、三重県警は、ブレーキをかけずに列車を離れた男性運転士(25)を業務上過失往来危険の疑いで、近く書類送検する方針を固めた。

 県警などによると、男性運転士は4月19日午後10時ごろ、JR名松線家城駅で車両の入れ替え準備中に列車のエンジンを始動させたまま、ブレーキをかけずに運転台を離れ、列車を同市一志町の井関─伊勢大井駅間の踏切付近まで8.5キロ自走させ、衝突などの危険を生じさせた疑いが持たれている。

 名松線では06年8月、今回と同様に家城駅に止めてあった無人の列車が車輪止めの付け忘れなどが原因で自然に走り出す事故があり、男性運転士が業務上過失往来危険の容疑で書類送検され、起訴猶予となった。

 捜査関係者は、今回も運転士のみを送検する理由について「JR側の再発防止策が不十分だったわけではなく、運転士の過失が大きいと判断した」としている。

(asahi.comより)

 記事にある06年8月の事故は,車輪止めのつけ忘れに加え,エンジンの停止時に空気圧が抜けてブレーキが緩む構造だったことが分かり,JR東海はエンジンを切った場合も制動の機能が落ちないようブレーキの機構を改良していた.

つまり,車輪止め忘れと言う人為ミスが発生しても,ブレーキの欠陥を改善することにより問題が発生しないようにしている.言ってみればポカ除けをしてあったわけだ.

今回の事故では車輪止めをはずした後にブレーキをかけ忘れている.
ポカ除けがしてあっても人為ミスを起こしたのだから,今回は書類送検となったようだ.

もちろん人の命を預かる業務をしている者が「ついウッカリ」でも良いというわけでは無い.
しかし人の命にかかわる作業であるからこそ,人の注意力に頼らない徹底的なポカ除けを考えるべきだろう.

工場の不具合発生にも同様の人為ミスはある.その不具合に対し「作業員に注意し,再教育した」「作業員を罰して,担当業務からはずした」などというレベルの低い対策を良く見かける.

今回のニュースをポカ除けの観点で見直してみよう.

06年の不具合は車輪止めを付け忘れている.
そのためブレーキの性能を上げて(エンジン停止後にブレーキが緩むという欠陥を改善して)対策とした.

今回の事故ではブレーキをかけ忘れている.人為ミスとしては同じレベルのミスだ.エンジンをかけた状態では車輪止めをつけないわけだから,ブレーキのかけ忘れが直接事故につながる場面は多いはずだ.

例えば駅に停車した際に運転席からプラットホームに降りるという状況はいくらでもあるだろう.

従って車輪止めの付け忘れと言う人為ミスよりもブレーキのかけ忘れと言うミスの方がリスクは高いだろう.
リスク=影響×発生確率と考えた時,上記のミスはどちらも同じ影響度であり,ブレーキのかけ忘れのほうが発生確率が高そうだ.

車輪止め忘れよりもブレーキかけ忘れに対するポカ除けをする方が優先度が高いはずだ.
列車の運転手は指差し点呼で人為ミス防止をしているが,これは自己チェックの機能しかなくポカ除けとはいえない.

例えばブレーキレバーを引かなければ運転席の扉が開かない構造にするなどは比較的簡単に出来るのではないだろうか.こういうのがポカ除けだ.


このコラムは、2009年7月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第107号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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完結編・灯油誤販売の対策

 今週のメルマガで,灯油とガソリンを間違えて販売してしまったという事故に対する現実的な対策を募集した.
「灯油と間違えてガソリン販売 福岡の石油店」

ヒューマンエラーをなくすためには,まずミスを防ぐ事が出来るようにはっきりと識別できるようにしておくことが重要だ.
更に一歩突っ込んでミスをしたら作業ができないようにする「ポカよけ(フールプルーフ)」まで対策ができると良い.

私が考えた「ポカよけ」は

※灯油とガソリンの給油口のネジ径を変えてしまう.

タンクローリィのホースを接続する地下タンクの給油口のネジ径を灯油だけ変えてしまう.こうすることによりガソリンを持ってきたタンクローリィのホースは灯油の給油口には接続できなくなる.

しかしタンクローリィのホースの接続口と地下タンクの給油口は規格化されており,これを変更するとなると,販売店ばかりか輸送業者にも影響がありうまく行かない.

この方法はタンクローリィのホースの接続口と給油口の間にアタッチメントを付けるようにする.

販売店は灯油のタンクローリィが来た時には,伝票を受け取るときに灯油用給油口に接続するアタッチメントをタンクローリィの運転手に渡す,アタッチメントの反対側はタンクローリィのホースが接続できる様になっている.給油後運転手は納品書と引き換えにアタッチメントを返却する.
という仕組みだ.

これでガソリンスタンド,タンクローリィともに最小限の変更で誤給油をポカよけできる.

以下ご投稿いただいたアイディアを紹介する.

※作業する上ですぐに判別出来る方法として

  • 形を変える=>給油口の変更=>費用がかかる(今回はそぐわない)
  • 給油口の色と表示を変える=>作業する人が間違わない

というのは、どうでしょうか?赤と黄色とか。

 色と表示による識別で徹底する方法ですね.
 「形を変える」というのはポカよけになります.

※設備改善等ハード面は変更できないという前提で考えました。

  • ガソリンと灯油の給油口に違う色を塗る(例えば、ガソリンは黄色・灯油は赤色)。
    灯油を販売するときに入れる容器の色をこの給油口の色と同一にする。
    表示の文字も同様に給油口の色と同一にする。
  • 給油時に、運転手や伝票とのダブルチェック
    「灯油の給油ですね。ここが灯油の給油口です。間違いないですね?」等の確認。
    納品予定との確認。

 このアイディアも色と文字による識別の徹底です.
 更にダブルチェックを追加されているところが良いですね.

※ガソリンスタンドの問題について考えてみました。
一番良いのは、物理的な対策かと思いますが、なかなか良い案が思い浮かびません。(色分け、表示、記録では弱い為)

  • 給油口の形状と給油ホースの形状を変え、間違った場合は給油(接続)出来ない様にする
     →しかし、相手側(タンクローリー給油ホース)の変更が必要なので、非現実的
  • 給油口に比重計?を付け、間違った比重のものを給油しようとしても、給油口が開かない
     →どれ位の設備投資が必要か不明

以上の通り、私の頭では良い案が思い浮かびませんでした。林さんや他の皆さんのアイディアを期待しています!

 こちらは初めから「ポカよけ」に絞って検討されたようです.
 「比重が違う物は給油できない仕掛け」というのは案外簡単な方法で実現できるかもしれません.
 例えばフロートが弁になっているような物をつけておけばできそうですね.
 ひょっとして実用新案が取れるかもしれません.

今回もすばらしいアイディアをありがとうございます.
私の設問で給油口の位置変更を非現実的なアイディアとして評価してしまったので,ちょっと「引っかけ」のようになったかもしれない.
その制約を一歩踏み込んで現実的な解決方法を考えるというのが良いだろう.


このコラムは、2008年11月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第60号に掲載した記事に加筆修正しました。

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灯油と間違えてガソリン販売 福岡の石油店

福岡県飯塚市川津の石油販売店「ラッキー石油飯塚店」(秋元潤一代表取締役)が、灯油を買い求めた客7人に間違えてガソリンを販売していたことが30日、飯塚地区消防本部の調べでわかった。客の1人は特定できたが、残る6人ははっきりしないといい、消防本部や同市が、店の周辺で広報車両や消防車両を走らせて注意を呼びかけている。同日正午までの段階では、このガソリンが原因と見られる火災の報告はないという。

 消防本部によると、29日午前10時ごろ、タンクローリー車から同店の地下槽へ灯油を補充する際、ガソリンと間違えた。気づいた店側が30日午前10時半ごろ、消防本部に連絡してきたという。灯油を買い求めた客7人に対し、ポリ容器に入れたガソリン計234リットルを販売していたという。

(Asahi.comより)

この手の事故は何度も再発している.業界全体で有効な再発防止対策が取れていないと判断せざるを得ない.

普通ガソリンスタンドでは,灯油の給油スタンドとガソリンの給油スタンドは別の場所に設けてある.ここでガソリンと灯油を間違えて販売することはまずなかろう.
推測だが,このように灯油とガソリンの給油スタンドを分けて配置するのは消防法などにより決められており,これに合致していなければ開業許可が下りない様になっているのではなかろうか.

しかしタンクローリーから地下タンクに給油する口は一列に並べてあるのが普通のようだ.
また給油口に「ガソリン」,「灯油」という表示がしてあるのを見た事があるが,もっと大きな看板の方が良いだろう.

灯油とガソリンの地下タンク給油口を別の場所に配置する.
こうすると灯油を給油しに来たタンクローリィの停車位置は,ガソリンの場合と異なる.間違いがあれば一目瞭然だ.

しかし既に給油口を設置してあるガソリンスタンドに対し給油口の位置を変えなさい,と行政指導をすると販売店側の負担が大きくなり,なかなか守れない.
罰則付きの強制指導とした場合業界から一斉に反発が来るであろう.ただでさえ廃業しているガソリンスタンドが出ている業界である.

現実的な再発防止対策はどうしたら良いであろうか.
皆さんの中にガソリンスタンドを経営しておられる方はいないであろうが,ヒューマンエラーを防止するための対策を検討する時の訓練になると思う.


このコラムは、2008年11月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第59号に掲載した記事に加筆修正しました。

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