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NECノートPCから異臭や煙261件 97万台改修へ

NECノートPCから異臭や煙261件 97万台改修へ

 NEC製の一部のA4サイズノートパソコンから異臭や煙が出る事故が261件起き、同社は10日、約97万台を自主改修(無償点検・修理)すると発表した。組み立て時のミスで、本体と液晶ディスプレーとの間の配線が切れる恐れがあり、予兆として液晶画面が一時的に消えたり点滅したりするという。

(asahi.comより)

 このニュースだけでは詳細は分からないが、液晶ディスプレーパネルに配線されるバックライト電源線のコネクタ部分に接触不良が発生しているのではないだろうか。

コネクタの接触抵抗が大きくなり発熱、徐々にコネクタハウジングのプラスチックが熱で炭化。プラスチックのこげる異臭が発生、最終的にバックライト電源が供給できずに液晶画面が消えてしまう、という不良だろうと想像する。

電流がたくさん流れる部分は、こういう不良が発生する事を想定しておかなければならない。
特にAC電源のように電圧の高いところは要注意だ。

以前スイッチング電源の最大手メーカで、ノートPC用アダプター電源の回収事故が発生した事がある。

ACケーブルのコネクタ周りで接触不良が発生。電圧が高いため。接触不良が発生した場所でパチパチとスパークが発生。このスパーク火花で部品が焼損するという不良だ。

カシメ部分、部品とプリント基板の半田接合部分などが要注意である。

製造現場では、こういう潜在不良を洗い出し事前に対策を取っておく必要がある。


このコラムは、2008年6月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第39号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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製造時にミス、カナダに指導勧告 ボンバル機胴体着陸

 高知空港で昨年3月、全日空機の前脚が出ずに胴体着陸した事故で、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は28日、調査報告書を公表した。
原因として、機体製造元のカナダ・ボンバルディア社がボルトをつけ忘れた可能性を指摘。
品質管理に問題があるとして、カナダ当局に同社を指導するよう勧告した。

 報告書によると、同社は機体を全日空側に引き渡す約1カ月前の05年6月、前脚のテストを実施。その際に関連部品を傷つけ、交換した。
この過程でボルトを一つ付け忘れたとみられる。

(asahi.comより)

 この事故の関連記事は本メルマガ第20号でもご紹介した。

品質管理的にまとめてみると、
「最終検査で見つかった不適合に対し、是正処置とその確認が不十分だった」ということである。

実は私も同じような経験をした事がある。
工場生産のサンプル出荷直前に設計変更が発生し手直しをして出荷することになった。修正作業を完了、検査をして出荷梱包作業を開始した。

あらかた梱包作業が完了したところで、耐圧試験をするのを忘れたことに気が付いた。梱包を解いて耐圧検査をしてみると、不良品が見つかった。

修正作業中に絶縁シートを破損したのに気が付かず再組み立てしてしまったためだ。
サンプル品とはいえ危うく不良品をお客様に出荷してしまうところであった。

それ以来修正作業(中国語では『重工』とか『返工』という)が発生した場合作業の工程をきちんと紙に書き出すことにした。
すなわち、製品の分解→修正作業→組み立て→検査→梱包、全ての工程を書き出し、工程ごとの作業手順を手書きの作業指示書にする。

これをするだけで、うっかり工程を飛ばしてしまうことは激減する。これらの資料を基に作業開始時に作業員を集め説明をする。

こんなひと手間がつまらない不良を防いでくれる。


このコラムは、2008年6月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第37号に掲載した記事です。

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焼酎と間違え客に漂白剤 高松の焼き肉店

 焼酎のペットボトルに入れていた漂白剤を過って客1人に飲ませたとして、高松市保健所は20日、飲食店を展開するフジファミリーフーズ(松山市、内島朝良社長)の焼き肉店「じゃんじゃか十川店」(高松市十川東町)を22日まで3日間の営業停止処分にした。

 保健所によると、18日午後7時ごろ、店は市内の男性客(41)に、水で薄めた漂白剤を焼酎として提供。男性客は2口飲んで店員に味の異変を訴えたが、気分が悪くなって発熱し、病院に搬送された。手当てを受け、快復しているという。

 漂白剤はまな板などの消毒用に保管していたといい、焼酎のラベルが付いたペットボトルに入れてあったという。

(asahi.comより)

 漂白剤をお客様に飲ませるなんて、想像しただけでも恐ろしいことだ。

わざわざ漂白剤の容器から焼酎のペットボトルに移し替える手間をかけて、事故の潜在要因を作っている。普通ならばこんな馬鹿なことはしない。多分漂白剤のオリジナルの容器が大きすぎて、普段使う時に不便だったのだろう。

この事故の原因は「整頓」がきちんとできていないことにある。
整頓とは、
「決まったモノを、決まった位置に、決まった量だけ、表示をして置く」
である。

漂白剤が入ったペットボトルには、「漂白剤」と書いた表示が必要だ。漂白剤を使用するのは、閉店後の後片付けの時であろう。従って置く場所は、清掃道具を置いてある場所とする。間違っても調理台に置いてはならない。

調理台は、飲食店にとって付加価値を作る場所である。その重要な場所に今使わないモノを置いてはならない。スペースの浪費だ。場所が狭ければ、モノをあちらにやったり、こちらに移したりと、付加価値を生まないムダな作業がどんどん増える。

どんな業種であろうと5Sは仕事の基本だ。

あなたの工場も、このような事故の潜在原因がないか見直しを是非していただきたい。

例えば、複数の接着剤を使用する場合、それぞれの接着剤が誤用されない様に整頓をしなければならない。

機構部品に使用する接着剤を、電子部品の固定に使用すると接着剤の添加物が触媒となり電気化学作用により、電触を起こすことがある。
電界がかかっている部分にハロゲンイオンなどがあると、マイグレーションが発生し回路を形成している導体金属が断線する、または回路間が短絡する等の、信頼性不良が発生する。

この手の不具合が深刻なのは、工場内の検査では不良が見つからないことだ。
市場に出てエンドユーザが使用中に不良が発生し、事故となる。
このような事故は通常波及範囲の特定が困難だ。事故の影響度によっては、安全を見込んで多くのロットを回収することになる。

接着剤の場合オリジナルの容器をそのまま生産現場で使うことは出来ない。ディスペンサーに移す、小袋に入れ替えることになる。
これらの容器に接着剤の型名と、有効期限を明記しておく。紛らわしい場合は○○用としっかり書いた方がよい。

これが整頓である。物をきれいに見栄え良く並べておくことが整頓ではない。


このコラムは、2012年7月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第267号に掲載した記事です。

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加湿器にショートの痕跡か 長崎グループホーム火災

 長崎市東山手町の認知症グループホーム「ベルハウス東山手」で高齢女性4人が死亡した火災で、火元の部屋にあった加湿器とみられる電気製品にショートのような痕跡があることが県警への取材で分かった。県警は燃え残りを分析し、出火原因の特定を進める。

 県警は12日、4人の死因を一酸化炭素中毒と発表した。司法解剖の結果、4人に目立った外傷はなかった。火元は2階中央付近の男性入所者の居室と断定した。

 火元の部屋からは、加湿器とみられる焼け焦げた電気製品が見つかっている。この電気製品付近の焼け方が特にひどかったという。施設内は禁煙で、暖房はエアコンのみを使用。加湿器は、希望者に施設側が貸し出していたという。

 一方、長崎市によると、火災が起きた8日午後7時30分ごろ、本来は2人の職員が勤務すべきところ、このホームでは当直の女性職員(56)1人しかいなかった。別の職員1人が出火直前に早退し、交代で出勤予定だった職員が遅刻していたためだった。長崎市による、ホームの運営会社への聞き取りで分かった。

 3階に居住していて亡くなった中島千代子さん(82)を担当していた訪問介護のヘルパーも出火直前に朝食用のパンを買いに出て部屋を離れていた。長崎市は、当時の勤務実態を詳しく調べる方針だ。

(asahi.comより)

 先週に引き続き焼損事故だ。

高齢者のグループホーム火災は、現場調査により、加湿器が火元と判明した。記事には加湿器のショートが原因の様に書かれているが、加湿器のショートは現象であり原因ではない。
しかも、加湿器のショートは火災後の現象であるだけの可能性もある。

例えばAC電源の様に電圧が高い部分の半田付けに不良が発生し、断続的に接触・非接触を繰り返す。接触・非接触のたびに火花が発生しプリント基板の絶縁がじわじわと劣化。最終的にAC100Vがショートし発熱焼損。つまりショートに至る前に、半田付け不良という原因がある。

実はこういう事例が意外と多い。

電源スイッチが使用中に劣化し接触抵抗が上がる。接触抵抗が上がり発熱。ますます接触抵抗の上昇が加速する。最終的に発煙焼損。
結果的に電源スイッチが丸焦げになっているので、スイッチのショートの様に見えるが、原因はスイッチ接点の接触不良である。

電源ケーブルのコネクタが、挿抜による外力でカシメ部分が緩んで来る。カシメ部分の接触抵抗が上昇し発熱、同様のプロセスにより発煙焼損。これもコネクタのショートの様に見えるが、電源ケーブル挿抜の外力が直接カシメ部分にストレスを与える様になっている機構設計のミスだ。

結果的には、製品がショートし発熱焼損した様に見えるが、原因は製造不良であったり、設計不良だったりする。ここまで原因の解析を深める事により、再発防止を検討することが可能となる。


このコラムは、2013年2月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第297号に掲載した記事です。

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スズキ、社内監査働かず 燃費の違法測定、26車種

 スズキの燃費試験データの不正問題で同社は31日、違法な測定の対象が2010年以降に発売された軽自動車と普通車の26車種、約214万台に上ると発表した。現場の不正をチェックする部門が機能せず、違法性を認識する社員がいたことも判明した。

全文はこちら

(朝日新聞電子版より)

 フォルクスワーゲン、三菱、スズキと自動車メーカのデータ不正が立て続けに出て来た。

担当社員の遵法意識とか、関連部門のチェック機能に関して振れている記事が多いが、私には開発業務そのものに重大な欠陥が有った様に思う。

私が開発のエンジニアだった頃、レポートの書き方を厳しく指導された。
例えば、評価実験の結果を報告するレポートでは、結果の再現性を保証するため実験方法を明確にする事、と教わった。

スズキの排ガス測定は、実測データではなく理論値を積み上げて計算していた訳だから、レポートには根拠となるデータと計算式が書いてあるべきだ。レポートにこの情報がなく、ただ燃費データだけが有ったとしたら、上司や関連部門はレポートの書き方について担当者を指導せねばならない。

理論データと計算式が書いてあれば、燃費測定方法が間違ってる事に気がつくはずだ。

「現場の不正をチェックする部門」と記事に書かれているが、燃費データを国に提出する法規承認部に現場の不正をチェックするミッションを与えていたのか疑問だ。申請手続きだけがミッションであれば、申請書類が過不足ない事を確認するしか出来ないだろう。

こういう確認を担当部門だけではなく、設計審査など関連部門が集まる中で確認するのが良いと考えている。

以前品証部門を担当していたときは、設計審査の前に関連する開発レポートや評価レポートに目を通していた。そこに書かれている事、書かれていない事をきちっと読み取れば、設計の現場で何が起こっているのか理解出来る。

うるさい品証部長を演じる事で、若手設計者の育成も出来たと考えている(笑)

三菱自、顧客に補償へ 対象車種の拡大焦点

 燃費データ不正問題で揺れる三菱自動車が顧客への補償の具体策を詰めている。問題の解明はまだだが、顧客つなぎとめには早期の対応が重要とみている。軽自動車4車種の改ざんだけでなく、現在販売中の他の車種について試験方法に不備があった可能性がある。影響がでる対象車種が広がるかも今後の大きな焦点だ。
 三菱自問題を受けて石井啓一国土交通相は22日、「極めて遺憾だ」と指摘、全容解明を求めた。

 顧客からの問い合わせが相次ぐなか、三菱自は実際の燃費が悪かったことで想定より余計にかかっていたガソリン代の提供などを軸に、補償額を調整している。

全文

(日本経済新聞より)

 「またか」と言うのが皆さんの感想だろう。リコール隠し、「空飛ぶタイヤ」事故を連発しふそうトラック・バスをダイムラーに奪われたのは記憶に新しい。エコ減税を期待して三菱の車を購入した顧客に対する重大な背任行為だ。

フォルクスワーゲンは、排ガス規制逃れの不正で2,000億円の赤字に転落している。不正がなければ増収増益だったはずだ。

どんなビジネスも顧客が有って成立する。顧客に対して不義を働けば必ずや因果は自らに返る。業績ばかりではなく、企業の存亡にすら影響を与える。

パジェロ、ランサーなどのコアなファンも多いはずだ。三菱自動車のエンジンは多くの自動車メーカにOEM供給されていると聞く。
「顧客第一」はただのお題目ではない。顧客の信頼を取り戻していただきたい。


このコラムは、2016年4月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第473号に掲載した記事です。

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群馬県南牧村バス転落

 10日午後2時50分ごろ、群馬県南牧(なんもく)村大仁田の大仁田ダム近くで、マイクロバスが転落したと119番通報があった。富岡甘楽広域消防本部や群馬県警によると、6人を救急搬送したが、命に別条はないという。ほかに13人が村の車で病院に搬送された。

全文

(朝日新聞電子版 より)

 記事によると以下の事実が浮かび上がる。

  • 消防本部への通報によると、登山を終えた登山客がバスに乗り込んでいたところ、バスが突然走り出し、山林の中の崖を10メートルほど落下。
  • バスが動き出した時、運転手は車外で作業中で「サイドブレーキはかけたが甘かったかもしれない」と供述している。
  • 県警は、当時エンジンはかかっていて、ギアはニュートラルに入っていたとみており、事故原因を詳しく調べている。

怪我をされた方だけではなく、過失を問われるだろう運転手も気の毒な事だ。
このような事故が発生しない仕組みはないものだろうかと考えてみた。

運転手は、下山してきた乗客の乗車を手伝うために車外に出ていたのだろう。
停車した位置は、サイドブレーキが甘くてもバスがずり落ちるほどの勾配ではなかった。
乗客がバスに乗り込む時の振動などで、車輪を辛うじて止めていた小石などを乗り越えてしまったのではなかろうか?

  • サイドブレーキをかけ忘れて車外に出る。
  • サイドブレーキの効きが悪くなっている。

このような状態を防ぐ事ができれば、同様の事故は防げそうだ。

サイドブレーキがかかっていないと乗降口が開閉しないようにインターロックをかける。
始業点検時にサイドブレーキ点検を入れる。ただサイドブレーキを引いてみるだけでは点検は不十分だ。後輪をスロープに乗り上げて点検すれば良さそうだ。

現場も現物も見ないで、このような解決案を考えることには意味がないだろう。しかし我々が日々仕事をしている製造現場に置き換えて考える思考訓練をする意味はある。

この事故から学ぶべきキーワードを「安全機能の確認」とする。
例えば、

  • 設備の非常停止ボタンが機能するか。
  • 温度制御装置の上限リミッターは機能するか。
  • X線検査装置の検査品投入口を開けた時にX線の放射が止まるか。

当然設備は安全側に機能するように設計されているはずだ。しかし故障・劣化が発生した状態でも、保護機能が働くかを始業点検で確認する必要がある。


このコラムは、2019年5月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第823号に掲載した記事です。

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続・人為ミスの再発防止

 先週取り上げ「ぴーかんテレビ」の不適切テロップ問題に関する検証番組「検証 ぴーかんテレビ不適切放送~なぜ私たちは間違いを犯したのか~」を東海テレビのホームページで見ることが出来た。

番組では、ミス発生の経緯が明らかにされていた。

直接原因は、タイムキーパがテロップ送出機の操作ミスをし、オンエア画面に不適切テロップを送出してしまったことだ。これは人為ミスの内の「行動ミス」に分類される。

流出原因は、仮テロップの不適切さに気が付いたアシスタントプロデューサの指示がテロップ製作者に対する修正指示が適切に伝わっていなかった。これは人為ミスの内の「認識ミス」に分類される。

また副調整室の誰もが、他の作業に気を取られ、オンエア画面に気が付いていなかったこと。最後の砦の主調整室では、次に送出するCMの確認作業に気を取られ、オンエア画面から目を離したことであろう。

そして問題を発生させてしまった遠因には、職員の放送倫理観、職業人意識の欠落を挙げていた。その誘因として、番組制作のコストダウンによる職員への負担の大さ、現場と経営層の乖離、利益優先の経営方針にも言及していた。

再発防止に関して、緊急対策と共に「再生委員会」を設け恒久対策を実施する、という内容となっていた。

今回の番組では、具体的な内容には触れていないが、今後再生委員会の活動により具体的な是正対策が明らかになってゆくことを期待する。

例えば倫理問題に関しては、社員、製作外注の職員全員に放送倫理研修を毎年実施している。放送倫理ハンドブックを配布してた。それでも不十分だったということだ。何が不十分だったかをきちんと分析し、具体的に研修の内容、やり方を変えなければならない。

放送倫理というものは、毎年変わるものではない。同じ内容を毎年聞かされるだけでは、効果はないだろう。受講者は何かと理由をつけ研修をサボる。会社側もそれを容認する体質が出来上がっていたのではなかろうか?知識を与える研修ではなく、放送倫理に沿った行動が取れるように、行動変容を起こす研修でなくてはならない。

今回の番組では、人為ミスに対する再発防止は全く語られていなかった。
今回の問題は、報道人としてあるまじき行為がまず問われており、人為ミスはさほど重要な問題ではないのかもしれない。

しかしモノ造りをしている我々にとって、人為ミス防止は重要な課題だ。
このコラムでは、ここを少し掘り下げてみたい。

タイムキーパの行動ミスについては、なぜ行動ミスをしたのか更に分析をする。テロップ送出機は2台あり、1台はオンエア画面、1台はスタジオモニターに送出するようになっている。左がオンエア、右がスタジオモニターとなっているだけで、一目見て区別がつかない。オンエアテロップであることが一目で分かるようにすべきだ。

テロップ制作担当者が、APの指示を認識ミスをしたのは、指示が不確かであったからだ。日本のように「あうん」の呼吸で仕事が成立してしまう組織では、軽視されがちだ。特に我々のように中国で仕事をしている者にとっては、軽視してはならない問題だ。

指示は具体的に何時までに、どう直す、ということと、直したら報告をすることを含めておかねばならない。

直したら報告、というのはアシスタントプロデューサの指示すれば、直してくれるだろうという「判断ミス」を補うものとなる。これは同時に、アシスタントプロデューサの報告を受けながら、最終確認をしなかったプロデューサにも当てはまる。

副調整室の誰もが気が付かずに、オンエアが流出した原因を慣れによる油断と片つけてしまうと、対策が難しくなる。
オンエア画面は副調整室の中央に一回り大きなモニターに出ている。これだけではなく、音声担当、スイッチャー、ディレクター、タイムキーパなど全員の手元に小型モニターを準備し、どんな姿勢をとっても目に入っているようにする。
専任の人間を置いて常時監視する、というのは良い方法ではない。

主調整室の業務は、オンエア画面の監視とCM送出の確認だ。
オンエア画面の監視は、人間が張り付く仕事だ。従ってこの作業に別の仕事を入れることが間違っている。CM内容の確認を機械化もしくは外段取り化する必要がある。

コストダウンにより、職員への負荷が多くかかっているというのは言い訳に過ぎない。本番中にやらねばならないこと(内段取り)、本番時間以外でもできること(外段取り)にきちんと分けて、本番時間に余裕のある仕事が出来るようにしなければならない。

コストダウンのために頑張れ、というのは本当のコストダウンではない。

私の推測と違い、当選者テロップは番組開始前に準備できなかったようだ。(たぶん番組中にプレゼント告知をし、番組中に応募を受け付ける形式だろう)しかしその他に、番組開始前にできることはいくらでもあるはずだ。例えば、収録済みビデオをオンエア中に、その後のスタジオ放送のリハーサルをしていたようだが、番組開始前に済ませることができるはずだ。

更に職場を、番組単位の大部屋制とする。
部門毎に別の部屋で仕事をするのではなく、番組スタッフが大部屋に集まって仕事をする。テロップ製作者も自分のデスクではなく、番組の大部屋で仕事をする。こうすることにより、部門間のコミュニケーション不足を解消することができるはずだ。

製造現場で言えば、機能別ショップフロア配置を止めて、ラインフローに合わせた配置にするのと同じだ。


このコラムは、2011年9月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第221号に掲載した記事です。

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人為ミスの再発防止

 東海テレビ「ぴーかんテレビ」で岩手産米プレゼント当選者を知らせるテロップに「怪しいお米・セシュウムさん」「汚染されたお米・セシウムさん」などというテロップを放送してしまう事故が発生した。

東北地方の放射能汚染被害に世間の注目が高まっている中で、この様な不謹慎なテロップを電波に乗せてしまったことは重大な問題だ。社長のお詫び放送くらいでは納まらず、スポンサー企業が続々と番組広告を下りている。

東海テレビでは、事件発生直後の約束どおり、「検証 ぴーかんテレビ不適切放送~なぜ私たちは間違いを犯したのか~」という検証番組を30日午前9時55分から約60分間放送するそうだ。

この放送の中で、今回のミスの再発防止対策も説明する。
残念ながらこの放送を見ることが出来ないが、人為ミスの再発防止をどの様にやるつもりなのか大変興味がある。

私なりに、今回の事故の経緯を推定し、再発防止を考えてみた。

事故発生の経緯はこういうことだろう。

番組のリハーサルまでに、プレゼント当選者のテロップが出来上がっておらず、アシスタントディレクターもしくは放送技術員が、その場で仮のテロップを作成。本番前に正式テロップと差し替えて放送するはずであったが、・差し替えを忘れ、仮テロップをそのまま放送。
・差し替えたが、正式テロップと仮テロップを間違えて放送。
 →仮テロップを消去しなかった。
という人為ミスが発生したのであろう。

こういう分析をすると、「なぜ差し替えを忘れたか」「なぜ消去しなかったか」という問題に再発防止を打つことになる。
人はミスをするものだという前提を考えると、本当に有効な対策を立てるのは困難になる。職員の報道倫理を高める、などという曖昧な対策となる。そのためダブルチェックなどの「流出防止対策」になる事が多い。流出防止対策は、付加価値を生まない仕事を増やすだけだ。
(視聴者やスポンサーの信頼を失うというリスクを考えれば、当然コストが
かかっても流出防止はしなければならないが)

あなたの工場でも、このような場面があるのではないだろうか?

この場合、考えなければならないのは、「仮テロップを作らなければならなかった」という誘因が発生していることだ。仮テロップさえなければこのような事故は発生しない。更に仮テロップを作成するというムダな作業も発生することはなかったはずだ。

プレゼントの当選者が本番直前まで明らかになっていないということは考えにくい。仮テロップを作らねばならなかった原因に対策を打つべきである。

放送という仕事は、色々な工程を経て出来上がる。
例えば当選者は、営業が顧客から当選者リストを受ける。それを報道部に渡し、制作部の技術スタッフに渡りテロップが制作される。というプロセスがあるはずだ。

これは工場の、材料入庫、前加工、組み立て、検査、梱包という工程と同じだ。
どこかでモノの流れが止まっていたから、仮テロップを作ることになったはずだ。そこを見つけ再発防止をしなければならない。

しかしここまでやってもまだ不十分である。
たとえ当選者リストの入稿がリハーサルに間に合わなくても、職員が報道倫理、もっといえば人としてのあるべき姿をきちんと理解していれば、不謹慎なテロップなど書くはずはない。

たとえ誰かが下種な仲間受けを狙って書いたとしても、現場の全員がその様な行動を阻止するような組織でなければならない。

そのためには「報道倫理を向上します」という曖昧な対策ではなく、今までの社員教育に何が欠けていたのか、それを是正するために何をすべきかを提示しなければ、再発が防止されたと実感することは出来ない。

更に与えた知識が、行動になるように仕掛けを作っておく。知識があっても行動が伴わなければ、教育をした意味はない。

地方都市で放送局に務めているということは、光の当たる場所に居て、誇りもあるはずだ。その誇りが驕りになってはならない。放送局の社会に対する使命をきちっと理解していれば、生活バラエティ番組の担当といえど、正しい誇りを持って仕事ができるはずだ。

名古屋出身の私としては、東海テレビがどのように再発防止を考えているのか大変興味がある。


このコラムは、2011年8月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第220号に掲載した記事です。

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中国製品の市場回収

 2007年は中国製品の市場回収が多くニュースとなった.記憶にあるものを並べてみると,

  • 「圧力なべ」:取っ手が高温になってやけどの危険性
  • 「IH電磁調理器」:部品不良による発煙の可能性
  • 「たこ焼き器」:電源コード接続部のネジ止め不良による発煙・発火の可能性
  • 「練り歯磨き」:ジエチレングリコールが検出
  • 「土なべ」:鉛の溶出
  • 「おもちゃ」:塗料から鉛が検出
  • 「塩ビのおもちゃ:フタル酸ジエチルヘキシルが検出
  • 「ポータブルDVDプレーヤ」:高熱により変形や発煙・発火の危険性

市場回収が発生すると莫大な費用損失が発生する.そればかりではなく,生産委託したメーカ,輸入商社の信用も大きく損なわれる.回収事故一件で倒産してしまう会社もあるだろう.

市場回収となる安全性の欠陥については,商品企画,開発,試作,量産の各段階で事前にリスクをきちんと評価・対策しておかねばならない.予防的品質保証活動が重要である.

他社の事例から自社製品にも同じ問題が発生しないか検討し予防処置をとっておくことが必要だ.
上記の事故事例は過去の問題が形を変えて発生しているだけだ.
日本から製造現場が少なくなってくると,リスクを見抜く力が落ちてくる可能性がある.安易なリストラで設計の検証,協力工場の選定,協力工場の生産管理などの能力をなくしてはならない.

地雷を踏まないように祈りながら歩くのではなく,地雷を取り除いたところに道をつけて走るべきだ.


■今週の雑感

 職業柄市場回収の報道があると,原因を調べずにはいられなくなる.以前最大手の電源メーカがPC用アダプタ電源の回収事故を出したことがある.
その時は回収対象品を中古品市場やジャンクマーケットで探し回った.見つけてきた回収対象品を分解して,回収になるような事故の原因を探った.

そのものずばりの原因は見つけられなかったが,設計的なリスク,製造的なリスクがいくつも見つかった.そういうリスクに対する対策を自社製品に盛り込んでおくわけである.

こういう話を業界の人にすると,そっと本当の原因を教えてくれたりするものである(笑)


このコラムは、2007年12月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第11号に掲載した記事です。

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