投稿者「master@QmHP」のアーカイブ

班長マニュアル

 先週は「職位が人を育てる」というテーマで記事を書かせていただいた。
しかし勘違いをしてはいけない。職位を与えておけば自動的に人が育つわけではない。モチベーションを与えて、教育訓練をしなければ人は育たない。

作業者の中から少し優秀な者を班長に抜擢する。
これはどこの工場でも良くやっている。しかしきちんと教育訓練ができているところは少ないように思う。
このような状態で、元作業者の班長がめきめき力をつけて立派な現場リーダに育つというのは、ほとんど奇跡といってよいだろう。

作業者のためのマニュアル(作業指導書)はほとんどの会社で作っている。しかし班長のためのマニュアルがある工場はあまり見たことがない。

以前このメルマガで紹介したことがあるが、ある工場(台湾資本の中国工場)でこんな光景を見たことがある。

作業現場の掲示板に、A4の紙に「私は注意して作業します」と何度も何度も書いてあるものが、作業者の署名入りで掲示してあった。
事情を聞くと、班長が作業不良を多発する作業者に書かせたものだという。

たぶん班長は、作業者に作業不良を発生させないようにどう指導してよいか分からずに、昔学校で教師から受けた「罰」を思い出して同じことをしてみたのだろう。

苦笑するとともに、この班長が不憫に思えた。
この班長は会社からも上司からも何も教えてもらっていないのだろう。

班長に昇進したといっても、他の作業者と同じように農村で中学を出てすぐに出稼ぎに出てきた女工さんなのだ。その彼女たちに何も教えないで仕事をさせる方が間違っている。

作業者に作業指導書があるのと同じように、班長が仕事の指針とできるマニュアルが必要だ。そしてそのマニュアルを使いきちんと教育をする。時々現場でフォローをしてやることによりOJTをする。

実はある工場のためにそのようなマニュアルを作ってみた。
「現場リーダのためのQAマニュアル」というタイトルだ。
書くそばから項目を追加したくなりほぼ毎日改訂している(笑)


このコラムは、2009年11月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第128号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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レンジから火花、犯人はゴキブリ 掃除で製品事故防止

 火花が出たオーブンレンジの中からゴキブリ4匹の死体が――。製品評価技術基盤機構(NITE)の製品事故の調査で、小動物がしばしば“犯人”とされている。

 「電気炊飯器が過熱して煙が出た」「電子レンジの電源が勝手に入った」。これらの原因は、製品内に入り込んだゴキブリやそのフンが基板に触れたことだった。

 他にも、ネズミがかじって冷蔵庫のコードから火が出たり、エアコンの室外機やパソコンの中にムカデが入ったり。彼らがよく出没する台所などは掃除して清潔に。

(asahi.comより)

 笑い話のようだが昆虫や小動物による被害は結構ある。
私は以前サラリーマンだったころ電源装置を作っていた。お客様(PCメーカ)から黒焦げになった電源装置を返却され、原因の調査を依頼された事がある。

エンドユーザ様からのクレームで、長期休暇の後電源を入れたらPC本体から異臭と煙が上がったという。電源装置の中を開けてみると、プリント基板のパターン面が焼けて殆ど炭化していた。中から黒焦げになった巨大なゴキブリが出てきた。

デスクトップPCの電源はPCがオフの時にも動作し続けている。
PC本体についている起動スイッチは電源スイッチではなく、CPUに起動の割り込みを入れるためのスイッチだ。このスイッチが押されたことを検出するために、PCがオフの時にも5Vの出力だけ供給し続けている。

僅かな電力だが、スイッチング電源は動作しており内部の電圧は400V以上になっている部分がある。この電圧に感電死したゴキブリが原因で発火したと推定した。

当然推定だけではお客様に信じていただけないので、実証実験をした。
事業部のメンバー全員に同報メールを流し、生きたゴキブリを捕獲してくるよう依頼した。さすがにすぐには集まらなかった。数日して知り合いのレストランから貰ってきた(苦笑)というゴキブリが手に入った。

早速スイッチング電源と同じ電圧のパターンの上をゴキブリに歩いてもらった。何度か繰り返すうちに、感電して死んでしまうゴキブリを観察する事が出来た。
ゴキブリは感電死した後も体内に電流が流れ続け、湯気のようなモノが立ち上がる。その後徐々に炭化してゆく事が分かった。

連休中PCがオフになっており、電源のファンが回っていない。
ファンの風孔からゴキブリが侵入。電源装置は動作しているので僅かながら暖かい。暖かいところを求めてさまよっていたゴキブリが内部の高電圧に触れ感電死、徐々にゴキブリ体内の水分が蒸発してしまい炭化してゆく。
そして連休明けにオフィスに戻ってきた人間がPCを立ち上げる。
電源の冷却ファンが回りだし新鮮な空気(酸素)が大量に供給され一気に発火、発煙にいたった。

実験結果からこんな「推理小説まがい」の不具合解析報告書を書き上げお客様に提出した。

しかしこの対策に困ってしまった。
世の中にはゴキブリが寄り付かないプリント基板が存在する。
家電メーカ系列のプリント基板業者がゴキブリが寄り付かないプリント基板を商品化している。昆虫の生態学者かと思われるほどの知識を持った営業マンに色々教えていただいた。

ゴキブリが嫌う臭いを基板に印刷してある。この基板を使うとゴキブリが寄って来ないそうだ。
しかし普通のプリント基板よりもコストが高くなってしまう。
実はこのプリント基板業者の親会社も、一部の高級炊飯器にしか使っていないそうだ。

またゴキブリは温かいところが好きなので、常時通電しておくようなアプリケーションでは暖を求めてゴキブリが寄ってきてしまう。
ゴキブリは平たい隙間ならば難なくもぐりこんでしまうが、円形の孔に対しては体の幅以下の直径ならばもぐりこめない。

など教えてもらったゴキブリの習性から、冷却ファンの通風孔の形状を変更することにした。しかし出荷済み製品には適用できない。既出荷品に関しては長期休暇の間はコンセントを抜いておくように注意をしていただくことになった。

後にも先にもゴキブリによる電源装置の焼損事故はこれ一度きりだった。
当時品質保証を担当していた私は、こういう事故の調査解析が秘かな楽しみであった(笑)


このコラムは、2009年5月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第97号に掲載した記事に加筆しました。

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お金は「ありがとう」を流通させる通貨

 毎月定例で深センと東莞でセミナーを開催している。
毎回セミナーの後に懇親会を持っているが、参加された経営者様、経営幹部の方との懇談が毎回非常に有意義だ。

先週はある経営者様からこんな話を聞いた。

営業職員が、受注額確保のために無茶な値引きをするので「お金の意味」を教えたそうだ。

 マクドナルドでハンバーガを買ったときに店員に渡すお金は、ハンバーグを作るために働いてくれた人全てに「ありがとう」を伝えるためのものだ。

 オーダーを聞いてくれた人、キッチンで調理してくれた人ばかりでなくパンを作るための小麦を育ててくれた人、牛肉を作るために牛を育ててくれた人皆にお礼をいわなければならない。
 だけど皆忙しく、農場や牧場まで行って御礼を言う暇はない。

 遠くにいる人にも「ありがとう」を届けるためにお金はある。
 
 自分達がいただいているお金も、自分達の製品を作るために働いてくれた全ての人たちに「ありがとう」を伝えるためのものだ。だからむやみに安く製品を販売してはいけないのだ。

これなら誰が聞いても良く分かるだろう。
こんな子供みたいな話を、と馬鹿にしてはいけない。我々日本人とは違う教育、環境で育った人たちだ。理解しあっているつもりでは足りない。お互いに一つずつ理解しあう努力が必要だ。

以前、営業職員が楽に売れる利益率の悪いモノばかり受注してきて困る、と嘆いている社長さんにお会いした事がある。
この方には、営業職員の目標を「売上高」ではなく「売り上げ利益」にしてはどうですか?とお話をした。

やさしい例で意義を教える。
目標をきちんと目的に合わせる。

この二つがそろえば、従業員は成果を出す方向で仕事をしてくれるはずだ。


このコラムは、2009年2月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第84号に掲載した記事に加筆しました。

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両エンジンとも脱落 回収急ぎ原因究明へ 

 【ニューヨーク=真鍋弘樹】USエアウェイズ機がニューヨークのハドソン川に不時着した事故で、米国家運輸安全委員会(NTSB)は16日、事故原因の調査を本格的に開始した。野鳥の衝突による事故とみられているが、エンジンは2基とも外れて水没していることが判明し、原因を特定する物証はまだ得られていない。
……
 両エンジンは、機体がハドソン川に不時着した際に脱落したとみられている。水中ソナーで沈んでいる位置を特定する作業を進める。エンジンを回収し、付着物のDNA分析をすることで、バードストライクの有無や、鳥の種類まで分かるという。

(asahi.comより)

エンジンが停止してしまった旅客機を155人の乗客乗務員誰一人犠牲者を出さずにハドソン川に不時着させたチェスリー・サレンバーガー機長はすごい奇跡を起こした英雄としてたたえられている。

別の記事には

「あの機長は男の中の男だ。事故後、フェリーターミナルに座り、何ごとも起きなかったかのように制帽をかぶってコーヒーをすすっていた」
救出後の機長を近くで見た警察官は、そう米メディアに語った。

と紹介されている。まるでアメリカ映画のような話だ。

まだ事故の原因は判明していないが、このバードストライクというのは何とかならないものだろうか。鳥が飛行機のエンジンに巻き込まれるのは、奇跡的な確率だろう。航空機の事故も車の事故と比較したら発生確率はうんと低いだろう。
しかし発生確率だけで考えてはいけない。

人命がかかっており、更に1回の事故での犠牲者が自動車事故の100倍もある。
「重大性」という概念からすれば、航空機事故の発生確率は自動車事故の1/100でなければならない。
人命がかかっているという事を考慮すれば、発生確率は限りなくゼロでなければならない。

私たちのように工場でモノ造りにかかわっている者も、業界の水準がこの程度だからと不良率という概念に甘えるのではなく。不良ゼロを目指すべきであろう。


このコラムは、2009年1月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第78号に掲載した記事です。

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現場を知らない設計者が良い設計が出来るはずはない

 今日はテーマとして「設計不良」を取り上げた。

私が若かった頃は、工場にはたいていすごく怖い人がいたものだ。下手な図面を出すと電話がかかってきて叱られる。場合によっては工場まで呼びつけられて叱られる。

私は機械加工は専門ではないのだが、若い頃板金図面を描いていた時期がある。
その頃は良く板金工場の親方に呼び出されて叱られていた。加工する機械を見せられ、この機械でどうやってこれを作るのだ、と叱られるわけである。

私はこんな風にして、専門外の機構設計を学んだ。

本日のテーマで取り上げた会社は、本社設計部門の若手設計者が中国工場に出張してくることはめったにない。
実はこの会社の経営者は技術系の人間であり、設計者が忙しいのを十分承知しており、設計者の処分な負担を極力排除しようとしているように見受ける。
しかし現場を知らない設計者が良い設計が出来るはずはない。


このコラムは、2007年10月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第5号に掲載した記事に加筆しました。

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竈の神

wángsūn(1)wènyuē:“mèi(2)ào(3)nìngmèizào(4)wèi?”
yuē:“ránhuòzuìtiānsuǒdǎo。”

《论语》八佾第三-13

(1)王孙贾:衛の霊公の大夫
(2)媚:機嫌を取る
(3)奥:家の最も良い場所南西の角に祀る神
(4)竈:かまど

素読文:
おうそんいていわく:“おうびんよりは、むしそうこびよ、とはなんいいぞや。”
いわく:“しからず、つみてんれば、いのところきなり。”

解釈:
王孫賈が孔子に問うた“奥の神より灶の神を大切にせよとはどういう意味でしょうか?”
孔子曰く“そうではない。天に背く様なことをすれば祈っても無駄だ。”

衛の霊公は孔子の考えを政治に取り入れようとはせず、その妃・南子の乱倫な生活に嫌気がさし、孔子は魯に残してきた弟子たちの元に帰ろうと考えていました(帰らんか、帰らんか)。そんな折に王孫賈に質問され、思わず辛辣は言葉が出てしまったのかもしれません。衛の国ではどこの神に祈っても未来はないだろうと考えていたのでしょう。

ちなみに日本でも家の中に複数の神がいると考える風習があります。竈門の神もいますが、日本人が大切に考えているのはトイレの神様ではないでしょうか?

QFD

 QFD(品質機能展開)とは顧客の要求を開発、生産技術、製造、品質保証の各工程でどのように実現するかを明確にするツールだ。
例えば顧客の要求事項が「可愛い」だとする。商品企画は「可愛い」を実現するため商品の特性を定義する。という具合に設計、製造、販売、品質保証の各工程が達成すべき特性に展開する手法だ。

以前勤務していた会社でもQFDを作成していた。どちらかというとこの作業は開発設計部門の仕事のように捉えられていた。顧客要求事項をマーケティング部門から聴取し、製品仕様を決定する。各工程への展開は新規の製造技術が要求されない限り従来と同じ項目を埋め込むことになる。

アリバイ的にQFDを作成しました、という形式主義だったように思う。

しかし従来とは少し違う市場向けの新製品を投入する。市場が同じでも従来にない製品ラインナップを投入する。という場合には力を発揮するはずだ。
特に部門間のベクトルを合わせる機能がある。技術試作品が完成してからマーケティング部門からNGを喰らうようなことは発生しないはずだ。

つまりQFDは新製品開発における社内各部門のコミュニケーションツールとして活用できるはずだ。


このコラムは、2021年6月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1151号に掲載した記事に加筆しました。

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将棋と組織経営

 日本の将棋とチェスや象棋(中国の将棋)との大きな違いは、相手の駒を使える、「歩」であっても成金となることができる事だ。

日本の組織経営は「将棋型」と言えるのではないだろうか?

欧米の先端企業では、専門職を雇い専門職の能力を引き出し経営に貢献させる。と言う経営のように思える。高い金を出し、優秀な人材を雇う。その人材の効率を高めるために、余分な仕事をさせない。そのための人材を部下としてあてがう。

日本の組織のように「すり合わせ」とか「会議」などはない。
日本企業では社長がコピーを取る姿も見かける。日系企業に勤める中国人人事部長は、人材の無駄遣いと嘆いていた。

しかし日本の経営は「歩」や「金」銀」「飛」「角」が一緒に戦う。「歩」は単純な動きしかできないが、敵陣に攻め入れば「金」と同等の働きができる。さらに敵方の駒をも自陣の駒として活用できる。

日本の企業では雇った人材は「歩」を「金」にするように育てて使う。職種の変更も普通に行われる。工学部を卒業して技術者として雇われても、職場異動で営業職として活躍する人もある。

日本的組織は効率が悪いように思えるが、その効率の悪さが百年企業が多くある理由ではないだろうか?
今はだいぶ変わっているようだが、若手社員の給与を抑え、「年齢」で給与の上昇が期待できるようになっていたのも、社員が長く勤め自己成長をとげるモチベーションになっていたのだろう。

中途半端にチェスや象棋方式の組織経営を真似ないほうがいいと思う。


このコラムは、2021年6月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1155号に掲載した記事に加筆しました。

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生産委託先指導

 住友ゴム工業は30日、加古川工場(兵庫県加古川市)で生産する防舷材と、南アフリカ子会社で生産するタイヤにおいて、品質管理の不正があったと発表した。タイヤでは顧客仕様と異なる製品を最大40万本出荷していた。防舷材では定められたガイドラインとは異なる試験方法の実施やデータ変更を500物件(5389基)で行っていた。発覚後に社内で検証し、安全性には問題はないという。

 品質管理のばらつきや管理体制が孤立していたことで不正が発生したとしている。南ア子会社で1月に品質調査を実施したところ、不正が発覚。対象は2017年8月~21年5月までに出荷していたタイヤで、寸法や重量、剛性などの均一性、一部製品のビード部形状が顧客と取り決めた仕様と異なった状態で出荷していた。

 南ア子会社は、13年にアポロタイヤ南アフリカを買収して子会社化したため、品質管理をアポロ社のシステムのまま継続していた。今回対象の製品は南アフリカ製の新車向けへの供給分で、車両8万台分に相当する。

 防舷材は、港湾岸壁用ゴム防舷材で不正が発覚した。船舶接岸時に発生する防舷材の圧縮状態を再現して圧縮性能を確認する試験で、国際航路協会の定めたガイドラインとは異なる試験方法の実施やデータの変更を行っていた。同製品はハイブリッド事業本部が手がけており、同事業本部以外から品質チェックできる体制がなく、今回の不適切事案につながったとしている。

(YAHOOニュースより)

 なんともお粗末な事件だ。
南アフリカの子会社を買収する際に、社内の管理体制や品質保証システムを監査しなかったのだろうか?さらに買収後も現地のマネジメントのまま放置、ということのようだ。

買収した工場とは言え、自社工場と同等の品質管理システムを運用し、同等の品質水準を持たねばならない。加古川の自社工場ですら適切に管理できないのでは無理もないかもしれない。

前職時、電源装置の品質保証を担当していた時、生産コスト的に国内生産が維持できなくなり、マレーシア、中国、メキシコ、インドネシアに生産委託をしていた。インドネシア工場は自社の孫工場だったので、我々の生産技術・品賞メンバーが立ち上げからサポートした。

その他のマレーシア、中国(4社)、メキシコは事前に生産委託先の採用監査を行い。生産立ち上げの支援・初ロットの生産確認をし出荷可否を判定する。生産開始後も工程内品質の日報・週報の報告を受けるほか、年間計画を立てて委託先工場の指導訪問をしていた。

採用監査では、特殊工程に従事する従業員の教育・技能認定制度をはじめ、品質管理・保証の仕組み、実施状況、生産現場の管理状況まで監査して、生産委託先の採用可否を判断していた。
もちろん監査で見抜けず後で苦労したことはあったが、本日の事例のような事は採用監査時に採用可否判断できることだ。監査時に品質管理システムに不足があれば、生産開始前に補わなければならない。

たかだか単価3US$の電源ユニットでも、愚直に同様の品質保証体制を構築した。
当然コストもかかる。しかしこういう泥臭い努力を重ねた結果、中国の生産委託先工場で、新機種生産開始3ヶ月以内で直行率99.99%以上を達成することができた。上述の3US$の電源ユニットだ。かかった間接コストは、不良損失コストの削減でカバーできたはずだ。


このコラムは、2021年8月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1174号に掲載した記事に加筆しました。

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新規・珍奇技術

 以前ご紹介したプラスチック製インペラの燃料ポンプのリコールが拡大している。

「デンソーの燃料ポンプ」

通常はプラスチック材料をグリースなどの油脂が付着する環境では使用しない。ガソリンもプラスチック材料を侵し、膨潤、破断などの不具合を発生させる。
今回の回収の燃料ポンプはインペラに耐油脂製プラスチック材料の強化・ポリフェニレンスルフィド(PPS)を使用している。ガラス繊維やタルク(ケイ酸マグネシウム)を含有しガソリンが付着しても問題はないはずだ。だが、成形時の温度が低いと、樹脂密度が低くなりガソリンにより膨潤する。

市場不良発生により、初めてこの現象に気がついたというのではお粗末だ。当然新規材料なので分からなかったということはありうるだろう。

燃料ポンプに使用することを決定した時点で、使用環境で変形などの変化が発生しないことを確認すべきだ。なぜなら燃料ポンプのインペラに関して過去から、燃料ポンプの寸法制度、ゴミの巻き込みなどで回収騒ぎを起こして
いる。このことに着目すれば、「プラスチック・インペラの寸法精度」というキーワードが出てくるはずだ。もちろん加工精度には問題は無かろう。
しかし使用中の変動も考えるのが設計者の役割だ。

新規・珍奇技術を採用する時は十分な検討が必要だ。
新規技術を採用すれば、同業者の一歩前に出られる。この誘惑に勝つのは困難だろう。
珍奇技術を採用してしまうと業界標準とはならず、供給性や価格で不利になる。

しかしナーバスになるだけでは、競争力のある製品は作れない。事前に想定できる事態を列挙し、事前に対策することで問題を回避したい。