信頼性技術」カテゴリーアーカイブ

列車の制御、新時代へ

 以前メルマガに2007年に発生した「福知山線脱線事故」について書いた。
この事故以来ATS(自動停止システム)の導入が加速した。

5月26日付の朝日新聞に新しい列車制御システム・ATACSの記事が出ていた。
列車の制御、新時代へ 位置情報発信、車間保つ 路線データ搭載、脱線防ぐ

従来のATSは750mの閉塞区間に車両が1編成しか入らないように制御していた。
線路は全てつながっているように見えるが、実際には短い線路が1本ごとに電気的に結ばれている。これを750mを単位として閉塞区間が設けられ、車輪で左右の線路を短絡している区間に列車が存在している、と判断する仕組みとなっている。

この仕組みでも問題はないのだろうが、自動車を改造した工事用車両は左右の車輪間に導通がないので、ATSではどこにいるか見えない。都心の通勤時間帯の過密ダイヤでは750mに1編成では乗客輸送が間に合わない。

新たに導入されるシステムは「無線式列車制御システム」といい、位置情報を列車自らが無線で発信する方式のようだ。

しかし「なんとまぁ時代遅れな」という感想を禁じ得ない(笑)

自動車はGPSを頼りに無軌道で自動運転を模索する時代だ。
軌道上しか走らない鉄道の方が、自動運転に近いはずだ。自動運転となれば、運転手がミスを咎められることを恐れて過速度運転することもないはずだ。
乗用車事故が発生すれば数人から十数人の死傷者が発生する。それに対し列車事故が発生すれば数百人規模の死傷者が出る。慎重にならざるを得ないのは理解できる。

しかし過去の不幸な出来事を克服するのが、進歩だ。
我々の生産現場でも「前例がない」「リスクがある」などの言い訳で新しい事への挑戦を避けていないだろうか?前例がないから、画期的な進歩が得られる。リスクがあるなら、事前にリスクを洗い出し未然防止をする。

「失敗から学ぶ」とは失敗を恐れて身を縮めることではない。


このコラムは、2019年5月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第829号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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トヨタ、北米でリコール カローラなど136万台

 【ニューヨーク=山川一基】トヨタ自動車は26日、米国、カナダ、メキシコで販売した主力車の「カローラ」と「カローラマトリックス」計約136万台をリコール(回収・無償修理)する、と発表した。エンジンを制御する電子部品の不具合でエンジンが止まる恐れがあるという。

 対象車は2005~08年型で、そのうち米国向けが113万台。制御システムに使われる電子基板が使用中にひび割れる可能性があり、エンジンがかからなくなったり、運転中にエンジンが止まったりする恐れがあるという。

 日本など北米以外で販売されたカローラなどは部品が違うため、リコールを実施する予定はないという。

 トヨタによると、この不具合によるとみられる事故が3件報告されており、そのうち1件は軽傷事故だった。この問題を巡っては、米高速道路交通安全局(NHTSA)が消費者からの苦情を受けて本格調査に乗り出した、と発表したばかりだった。

 また米自動車最大手ゼネラル・モーターズ(GM)も同日、トヨタの2車種と同じ機構を使い、米工場でトヨタと共同生産していたポンティアック「バイブ」(05~08年型)約19万9千台をリコールすると発表した。

(asahi.comより)

 トヨタは以前中国で,68万8千台のリコールをしている.それを上回る台数のリコールとなってしまった.米国でフロアマットの問題対象は380万台だったが,これはリコールとは違い,注意文書の配送だけだった.したがって136万台と言うのは過去最大規模のリコールではないだろうか?

ところで今回の不良は,報道によると,プリント基板のひび割れが原因だ.プリント基板が経年変化によりひび割れるとすると,機械的ストレスが継続的にかかっていたと思われる.

  • プリント基板が,筐体ケースとぶつかっている.
  • プリント基板の固定ねじ穴の位置がずれており,ネジ締めでストレスが発生.

しかしこんな簡単な不良を,生産時に見逃し,3年間も生産し続けたとは思えない.

プリント基板アッセイの半田接合点に,ひび割れが発生したのではないだろうか?半田接合点に機械的ストレスをかけ続けると,経年変化でひび割れが発生する(半田クリープ)

  • 半田付け後に半田結合点にストレスを与えるような実装方法だった.半田付け後にネジ締めがある場合などは,要注意.
  • プリント基板端の部品が傾いて実装され,筐体ケースにぶつかり半田接合点にストレスがかかり続けた.
  • プリント基板アッセイ内の重量部品が,自動車に実装後半田結合点にストレスを与える方向になった.(例えば重量部品が実装されているプリント基板アッセイが半田面を上にして実装されれば、重量部品の半田結合点には常にストレスがかかり続けることになる)

こういう予測される不適合を,設計時,量産移行時に洗い出せる仕組み(例えばFMEAやレビュー制度)を持つ必要がある.
この予測力の広さと深さが,それぞれの企業のノウハウだ.


このコラムは、2010年8月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第168号に掲載した記事に加筆しました。

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電解コンデンサの発煙事故

先週インターネットのニュースを閲覧していて「製品評価技術基盤機構」(Nite)という独立行政法人を発見した.ホームページでは製品安全・事故情報を公開している.「安心を未来につなぐナイトです」というキャッチフレーズだ.過去の事故事例から未来に発生するかもしれない不具合・事故を未然に防ごうという趣旨である.

是非このサイトを時々ご覧になって,自社製品の不具合・事故の未然防止に役立てていただきたい↓
製品評価技術基盤機構(Nite)

今日はこのサイトにあった事故ファイルから事例を紹介したい.

【事故通知内容】

 CDプレイヤーを使用していたところ、電源アダプターから煙が出た。

【事故原因】

 電源回路の平滑用コンデンサー製造時に混入した異物がセパレーターに損傷を与え、電極間にスパークが発生し発熱したため内圧が高くなり、防爆弁が作動して内部の電解液が蒸気となって噴出したものと推定される。

【再発防止措置】

 コンデンサーメーカーにおいて、作業者の教育訓練を強化し、作業現場の温度管理を強化して環境の安定化を図るとともに、工程ごとの部品管理の改善を図っている。

アルミ電解コンデンサの不良事故である.
残念ながら事故原因の追及が甘い.コンデンサーに異物が混入した原因までさかのぼる必要がある.
どんな異物であったのかが特定できれば,どの工程で混入したのかが分かるはずだ.
例えばアルミ箔のくずが混入していたのならば,アルミ箔を一定の幅に切りそろえる工程でバリが発生していた事が考えられる.
非導電性の異物であれば,アルミ箔と絶縁紙を巻き取る工程で混入したと考えられる.

このように発生工程と原因を更に特定をしなければ,正しい対策は打てない.

したがって再発防止措置のところに「作業者の教育訓練」がトップに出てきたりする.もちろん作業者に対する教育訓練は必要だがこれだけでは不十分だ.

真の原因に対する対策が不足している.
例えばアルミ箔のバリが混入していたのならば,バリが発生しないようにする.
箔の巻き取り工程で異物が混入したのならば,異物が発生しないようにする.

皆さんの工場では再発防止対策に,
「従業員に注意をした」とか
「従業員に再教育をした」
などという言葉が並んでいないだろうか?


このコラムは、2008年9月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第51号に掲載した記事です。

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予防保全

 以前このメルマガで,今住んでいるアパートのエレベータに閉じ込められた事故を,書かせていただいた.
「エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが」
引っ越して来て5年経ったが,この5年間で5回エレベータに閉じ込められている.最後の一回は,エレベータのかごを吊っているワイヤーが切れて,10階から7階まで落下した.
アパートの管理事務所の職員は,5本あるワイヤーのうち1本が切れただけだから,大したことはない.と言う認識だ.

アパートには4機のエレベータがあり,落下したエレベータには,なるべく乗らない様にしている.最近別のエレベータが長期間運転を停止している.掲示板の貼り紙を見たら,このエレベータも牽引ワイヤーが切れた様だ.

今回の事故で4機のエレベータの牽引ワイヤーを再点検した.その結果が貼り紙に書かれていた.なんとすべてのエレベータの牽引ワイヤーに問題がある.今停まっているエレベータは5本のワイヤーのうち3本に問題がある.その他の3台は,各々3本,2本,1本のワイヤーに問題が見つかった.

ワイヤーは切れている訳ではないが,点検により問題ありと分かっていながら,普通に運転をしている.

ワイヤーが1本切れても,あと4本あるから大丈夫.
ワイヤーが切れても,ブレーキシステムが作動し停まるから大丈夫.
と言うロジックは,他に故障がない場合にだけ適用可能だ.

例えば,1本のワイヤーが切れた時に,その衝撃により問題のあるワイヤーが一気に切れる.残った2本のワイヤーだけでかごを吊ることになる.その時にブレーキシステムが正しく動作すると言う保証があるとは思えない.

エレベータは,オーチス製である.
安全に関しては,何重にも冗長化設計がしてあると,信じたい.しかし,設計にも製造にも問題がなくとも,運用に問題があれば,事故は発生する.

エレベータは,国家基準により年1回の定期点検が実施されている.点検の機会は年に1回だけではないはずだ.エレベータはしょっちゅう故障している.その度にメンテナンス会社が来ている.

今回の落下事故で改めてワイヤーの点検をして,20本あるワイヤーの内9本のワイヤーに問題が見つかっている.今までノーチェックだったとしか思えない.

今住んでいるアパートは築7年だそうだ.
まともなメンテナンスをしていれば,エレベータがたった7年で,こんなに故障が多発するとは思えない.

メンテナンスとか,予防保全は故障した所を修理することではない.
故障が発生しない様にすることだ.


このコラムは、2013年4月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第304号に掲載した記事に加筆修正しました。

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シンドラー製エレベーター、全国5500台を緊急点検 国交省、事故の再発防止めざす

 国土交通省は清掃会社の従業員がシンドラーエレベータ社製のエレベーターで死亡した事故を受け、来週にも緊急点検を実施する。対象は全国にある同社製のエレベーター約5500台。原因究明を徹底し、事故の再発防止を目指す。

 同省は都道府県などに通知を出す。事故の原因とみられるブレーキのほか、カゴの停止位置や扉の開閉を制御する装置、ドアのスイッチ、エレベーターの巻き上げ機などを集中的に調べる。

(中略)

 事故機は2006年に起きた事故のエレベーターと、ブレーキや制御装置などが同型。国交省は09年から、新設エレベーターに安全装置をつけることなどを義務化した。だが既存エレベーターに装置をつけさせる強制力はなく、今回の事故機にも設置されていなかった。

 シンドラー社製エレベーターの事故は今年10月31日に金沢市のホテルで発生した。エレベーターに乗ろうとした清掃会社の従業員が扉が開いたまま上昇したカゴの床と扉上部の枠の間に挟まれて死亡した。同社は06年にも東京都の集合住宅で死亡事故を起こしており、再発防止策が急務となっている。

(日本経済新聞より)

 先週お伝えした,金沢でのエレベータ死亡事故の続報だ.

他の記事から,以下のことが分かっている.

  • 2006年に高校生が死亡した事故は,シンドラー社の同型機である.
  • 東京の事故機,金沢の事故機は,前後4ヶ月以内に設置されてた.
  • 06年当時の調査では,当初ブレーキに異常な磨耗痕を発見していないが,3年がかりでブレーキパッドの磨耗を事故原因として特定した.
  • この原因調査を受けて,国土交通省は扉が開いた状態でかごが動いたら自動停止する保護機能の設置を再発防止として,09年から義務付けている.
  • しかし金沢の事故機は,1998年に設置されており,規制の対象外だった.
  • 金沢の事故機も,06年と同様に扉が開いたまま上昇をしている.
  • 金沢の事故機は15年間点検異常は発見されていない.

これらの事実から推定すると,06年に事故調査は真の原因に達していなかった.したがって国土交通省の再発防止対策は,真因対策ではなかった.しかし真因対策ではなくとも,事故防止の効果があるはずだ.何らかの故障が発生しても,人身事故には至らない.設置済みのエレベータにも対策を実施すべきだったと考えられる.
国土交通省の強制力がなくとも,エレベータ業界,特に事故を発生させたシンドラー社は自主的にでも,再発防止を設置済みエレベータにも実施すべきだったろう.

一故障で即人身事故につながるようでは,人の安全に関わる装置としては信頼性が十分とは言えない.逆に言うと扉が開いた状態で,上昇・下降の駆動系にインターロックがかかっていないと言う設計に問題がある.

先週に引き続き素人の大胆原因予測をすると(笑)

  • エレベータの制御ロジックにバグがあり,一定の条件が揃うと扉が開いたまま上昇してしまう.
  • 外来ノイズなどの影響により,制御回路が誤動作する.

これらの疑いを調査するためには,

  • 制御ロジックの設計検証,妥当性確認を何処までやったか.
  • 耐ノイズ性能はどのようにして検証したか.
  • 通常耐ノイズ性能は,タイプテスト(試作機でのテスト)しかしないが,耐ノイズ性能が量産品でも保証される論理に漏れはないか.

と言うことを,設計時の検証記録から調べる必要があるだろう.

それにも増して,事故機の現場・現物での検証が重要なことは言うまでもない.設計がキチンと保証されていても,製造過程,メンテナンス過程で瑕疵が発生することはありうる.

このような事故を再発させないためには,該当企業の真摯な事故原因調査が必要だ.役所に「調査される」と言う態度ではなく,業界全体の威信回復に向けて,積極的,自発的に行動していただきたい.

この事件から,以前ご紹介したタイヤのハブ破損事故を思い出してしまう.
「空飛ぶタイヤ」池井戸 潤

自社の利益のみを考えて,リコール隠しの様な事は避けていただきたい.


このコラムは、2012年11月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第283号に掲載した記事を修正加筆したものです。

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同型エレベーター80台 シンドラー製、金沢の女性死亡

 金沢市で女性が挟まれて死亡したエレベーターは、2006年に東京都港区で高校生が死亡したエレベーターとブレーキなど主要部分が同型だったことがわかった。同様のエレベーターは全国に約80台ある。金沢の事故機は06年の事故原因の対策をしており、国土交通省は別の不具合があった可能性があるとみて調べている。

 シンドラーエレベータ社によると、同型なのはブレーキのほか、巻き上げ機や制御盤などエレベーターの基幹部分。同社は2日、80台のうち約8割の点検を終えたが、異常は見つかっていないという。

 06年の事故を調査した国交省の報告書によると、扉が開いたままかごが上昇して男子高校生が挟まれた。ブレーキが中途半端にかかった状態で運転を繰り返したためブレーキパッドが摩耗。ブレーキのききが弱くなり、ブレーキをかけてもかごが上昇してしまった。製造後の定期点検では、こうした不具合が見つけられなかった。

 事故後、シンドラー社は同型のブレーキではパッドの摩耗を検知するセンサーを取り付けるようになった。金沢の事故機にもセンサーは取り付けられていた。しかし今回も、女性が扉の開いたエレベーターに乗り込もうとしたときにかごが急に上昇して挟まれた。

 金沢の事故機には2日までの石川県警や国交省の調査では目立った異常は見つかっていないため、06年の事故とは原因が異なるとみられる。ブレーキの不具合以外の点検ミスや、エレベーター本体に製造上の欠陥があった可能性を視野に入れ、国交省は事故機の調査だけでなくシンドラー社や保守業者にも話を聞く方針だ。

(asahi.comより)

 中国でエレベータに乗るときは,細心の注意が必要だ.
私は今のアパートに引っ越して5年目になるが,その間に5回エレベータに閉じ込められている.そのうち4回目は,エレベータの牽引ワイヤが切れ,2,3階分落下した.普段から激しい異音がしていたのに,壊れるまで修理されなかった.

近所のホテルのエレベータは,21人(!)乗せ19階から地下1階まで落下し重症を含むけが人を6人も出した.積載重量オーバーのセンサーが正常に動作していなかった,と思われる.

別のオフィスにあるエレベータ乗った時に,扉が閉まるのを止めようとして手を出し,ヒヤリとしたことがある.通常扉に付いているバンパーがなくなっていたのだ.バンパーにリミットスイッチが連動しており,扉が閉まったことを検出するようになっているはずだ.何かの都合で,バンパーがごっそり外され,センサー回路を殺して運転していたものと思われる.

いくらまともに設計製造してあっても,いいかげんなメンテナンスでは,正常に運用は出来ない.
メンテナンスとは,点検により壊れているところを探して,修理することではない.壊れる前に,修理をすることをメンテナンスと言う

今回取り上げたシンドラー製エレベータの事故は,メンテナンスの問題ではないと思う.
素人の大胆な考えを言わせてもらえば(笑),ブレーキがかかっている状態で,上昇用の牽引ワイヤー巻上げモーターが回っていると言うのが解せない.設計不良なのではなかろうか?

モータはエンジンと違って,簡単にON/OFF出来るはずだ.
ブレーキが作動した時点で,モータの回転を止めれば,このような事故は発生しないはずだ.

もしエレベータの専門家がいらっしゃったら,なぜブレーキがかかっている状態でモーターをOFFに出来ないのか,是非教えていただきたい.

もう一点,エレベータ専門家に教えていただきたいことがある.
エレベータには積載重量を計測するセンサーが付いていると思う.たくさん人が乗ると,ブザーが鳴り扉が閉まらなくなり,事故防止の保護が働くようになっている.
この保護機能は,エレベータの定期点検でどのように点検しているのだろうか?点検中のエレベータをしばしば見かけるが,点検作業員が1tの点検用重りを持っているのは見たことがない.
上記の21人乗りのエレベータ落下事故以来,ずっと気になっている疑問だ.

もしご存知の方がおられたら,是非教えていただきたい.
この記事にはコメントを残せるようにした。


このコラムは、2012年11月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第282号に掲載した記事です。

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エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが

 東京メトロは29日、有楽町線平和台駅(東京都練馬区早宮2丁目)のエレベーターでかごをつっているワイヤロープが切れ、乗っていた女性がけがをする事故が起きていたと発表した。

 同社によると、事故が起きたのは26日午後3時。エレベーターが地下1階から地上へ上昇中にかごが急降下し、安全装置が作動して緊急停止した。同社が調べたところ、ワイヤロープ3本が全て切れていた。女性は緊急停止の際、しりもちをつくなどして2週間の打撲を負った。

 安全装置は一定速度以上の降下を感知した際、かごの横からブレーキパッドをあてて落下を防ぐ仕組みになっている。

(asahi.conより)

 実は私も29日午後8時(現地時間)頃,マンションのエレベータに閉じ込められていた.
日本ではエレベータに閉じ込められるなどという経験は一度もない.
今のマンションに引っ越してきてから4度目の事故だ.

以前の3回は,途中で止まってしまった,扉が開かなくなったという比較的軽度の事故だった.しかし今回はかなり重度の事故だった.

外出のため12階から下りのエレベータに乗った.
動き出してすぐ,異常な揺れに気が付いた.10階で2名乗せ下降する際に,同様の揺れを感じたと思ったら激しく揺れ,急降下を始めた.同時にかごの上部に,何かが落下して激突している音も聞こえた.

たぶんワイヤが切れたのではなく,滑車のような部品が破損してエレベータのかごに落下してきたのではあるまいか?もしくはワイヤが切れた後,安全停止のためのブレーキパッドをいくつか吹き飛ばしながら,停止した?

エレベータのワイヤーとか滑車など運行の安全部品が切れたり,破損するということはあってはならない.ましてやブレーキパッドなどのように,事故発生時の安全装置が機能しないというのは致命的な欠陥だ.そのために定期的メンテナンスが法律で定められているはずだ.

平和台駅のエレベータは7月14日に保守点検を受け問題はなかったそうだ.私のマンションのエレベータには5月に保守点検を受け,次回点検は来年5月となっていた.
しかしこのエレベータは,6月に故障し,部品待ちで一ヶ月近く止まっていた.

記録上は,修理後に点検が行われなかったことになっている.

保守点検,修理後というのはとかく事故が発生しやすいものだ.

点検中に部品を破損したのに気が付かない.点検のための措置を戻し忘れる.などのミスが発生する可能性がある.特に安全停止ブレーキなどのように,普段使わない機能は点検方法をよく検討しないと,うまく点検できていない,点検のための処置を戻し忘れて事故になる,などの潜在問題がある.


このコラムは、2011年8月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第216号に掲載した記事です。

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東大でシンドラー製エレベーター事故 学生1人けが

 国土交通省によると、千葉県柏市の東大柏キャンパスの総合研究棟(地下1階地上6階建て)で11日午後、シンドラーエレベータ社製のエレベーター(定員19人)が扉が開いたまま、1階から地下1階方向に下降した。かごを脱出しようとした男子学生1人がひざを打撲して軽いけがをした。同省が16日発表した。

 同省の調べでは、1階から18人が乗り込んで上昇するはずだったが、いきなり下降を始めた。あわてた学生が1階フロア側に脱出しようとした際、かごが下がって生じた段差に足を引っかけ、けがをしたとみられる。事故機は保守点検もシンドラー社が請け負っていたが、原因は不明という。同省はシンドラー社に対し、同型のエレベーターでブレーキに異常がないか点検するよう指示した。

(asahi.comより)

 Wikipediaによると,シンドラー社のエレベータは,扉が開いたまま上昇または下降,乗客の閉じ込めなどの事故が多いようだ.大阪府の西成警察署では,署内に2基あるエレベータのうち1基が,無人のまま最上階の7階まで上昇し,天井に衝突して停止すると言う事故が起きている.

国土交通省はブレーキの異常を点検するように指示をしているが,2007年に東京都港区が実施したシンドラー社エレベーターの電磁ノイズ耐性調査によると,電磁ノイズ耐性が低いことが分かっている.

今回の事故も,制御回路がノイズにより誤動作したのではないだろうか.
エレベータの構造を考えると,携帯電話から発する高周波電磁ノイズよりは,エレベータ自身に内蔵している,リレーやソレノイドから発生するバーストノイズ(低周波電磁ノイズ)の方が,影響を与えやすいと思われる.

このようなノイズによる誤動作は,電機・電子製品業界では既に30年ほど前にメカニズムを解明し,対策も確立したと考えていた.このメーカでは,これらの技術がエンジニアの世代を超えて伝承できなかったのではないだろうか.

ノイズ対策技術などは,世間から注目を浴びるものではない.ノイズによる誤動作を止めたとしても,それで当たり前のレベルになるだけだ.このようなあまり報われない技術がきちんと社内に蓄積され,世代を超えて
伝承されなければ,10年,20年のスパンで同じような不具合が繰り返し発生することになる.


このコラムは、2010年8月に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第180号に掲載した記事を修正加筆したものです。

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過去トラブルの再発

 「売家と唐様で書く三代目」という川柳がある。創業者は食うものも食わず、必死に働いて身代を築き上げる。二代目は父親の苦労を見ており、一生懸命に働く。しかし三代目ともなると、子供の頃から大店のお坊ちゃんとして不自由なく育てられる。教養だの芸事だのに精を出し、商売を省みない。その挙句に左前となり財産を失い自宅も売り払ってしまう。その自宅にかけられた「売家」の札が、唐様に格調高く書いてある、というオチだ。

いきなり川柳で始めたが、三代目が身代を潰す、というのが三世代隔てれば失敗を繰り返す、というのに類似していると思ったからだ。

以前このメルマガに「問題は再来する」というタイトルで、同様な信頼性問題が形を変えて5年、10年ほどの周期で再発していると書いた。

一つには、過去の失敗事例が次の世代に引き継がれていないという問題がある。組織内に失敗事例を継承する仕組みがなければ、大店の若旦那が先々代の苦労を知らないのと同じことになる。

例えば未燻蒸処理パレットに消毒液をかけられ、Al電解コンデンサの容量抜け事故が起きた事がある。これは過去の低直流抵抗電解液で封止ゴム腐食による容量抜け事故を知っていれば、想定できたかもしれない。

「薫蒸処理によるAlコンデンサの容量抜け」

「コピー製品」

もう一つは、時代の変化によって再発してしまう例だ。
例えば、ICの微細化に伴い、既知だった不良モードがクローズアップされる。
環境規制により、過去の問題が再発してしまうなどの例がある。

例えば錫ウィスカーは、錫メッキの残留応力がかかっている部分で発生する。これを防止するために少量の鉛を添加すれば良い事が知られていた。しかし環境問題で鉛の使用が禁止され再びウィスカー問題がクローズアップ。

プラスチック材料の難燃剤に使う赤燐が原因でしばしば火災事故が発生する。その対策に臭素を使う事で火災事故は激減した。しかし環境規制により臭素が使えなくなり、赤燐を使いLSIの焼損事故が多発した。

「トラブルは繰り返す」

「プラスチック材料の難燃剤」

いずれにせよ、このような事例は、失敗事例を継承しておけば再発を防ぐ事ができただろう。単純に知っているだけでは無理かもしれないが、原理に遡り、問題を抽象化すれば、次の世代に継承する事が出来るはずだ。


このコラムは、2018年8月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第712号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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問題は再来する

過去に発生した問題は再来する。その理由は二つある。

一番多いのが、問題が発生した真因を把握出来ていないために同じ問題が再来するケースだ。問題の真因が分からないまま流出原因にだけ対策を実施しても流出は発生する可能性が高い。

もう一つは、同じ問題が形を変えて再来するケースだ。例えば以前紹介した信頼性問題を考えてみよう。

高耐圧部品の発煙焼損事故。
1990年代に、CRTディスプレイ装置に使う高耐圧トランスの市場不良がしばしば発生した。25KVのアノード電圧を発生させるフライバックトランス(FBT)は、耐圧性能を上げるため、FBT内部にエポキシ樹脂を充填している。エポキシ樹脂は可燃性があるため、難燃性を上げるために赤燐を消炎剤として添加していた。この赤燐が吸湿するとコイルの絶縁皮膜を腐食させる。絶縁皮膜腐食によりコイルがレアショート、ショート部分が発熱し、最終的にはエポキシ樹脂から発煙しFBTが故障する。FBTの故障により、CRTディスプレイの表示が消えるだけではなく、エポキシ樹脂がこげた臭いがし、火災につながる重大事故として扱われる。

当時は、FBTメーカは消炎剤に赤燐を添加するのを止め、臭素系の消炎剤を採用する事により対策した。

しかし臭素は、環境問題の懸念があり、RoSH規制により使用が禁止された。FBTメーカは、臭素系の消炎剤が使えなくなり、赤燐を再使用する事になる。材料開発により、赤燐を防湿コーティングする事により使用可能にした。上記部分は私の推測だが、RoHS規制以降のFBTは難燃消炎剤に赤燐を採用している。

その後CTRを使用したディスプレイ装置は激減し、FBT焼損事故はほとんど話題になっていない。

しかし高耐圧性能を上げるためにエポキシ樹脂を使う部品は他にもあるだろう。同じ不良発生メカニズムが、形を変えて再来する可能性はある。市場で発生している事故は、原因は既知であっても、このように形を変えて事故が5年、10年の期間をおいて再発していると言ってよかろう。


このコラムは、2016年9月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第493号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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