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エビノマスク

 神奈川県海老名市が、地元企業から寄贈された新型コロナウイルス対策のマスクを市内全世帯に送ったところ、市のツイッターなどに「国のマスクより早く届いた。ありがとう」といったメッセージが相次いだ。

 市民からの反響に内野優市長は「アベノマスクよりを喜んでウチノマスクを喜んでもらえましたかね」とユーモアを交えて反応。市危機管理課は「マスクに限らず、素早い対応に努めたい」としている。

 マスクは、コンピューター周辺機器の製造などを手掛ける「オウルテック」が贈った30万枚。東海林春男社長(58)が5月11日に市役所を訪れ、「マスクで不安を取り除いて早く日常に戻ってほしい」と託し、内野市長は「1世帯に3枚ずつ、すぐに配り始める」とその場で約束した。

 全文

(読売新聞より)

 いまだに迷走しているアベノマスクに対し海老名市で配布したウチノマスクが優れているという論調だ。しかし1.25億人、5,800万世帯の国民に配布するアベノマスクと3万世帯に配布するウチノマスクを直接比較するのは公平ではないだろう。しかもウチノマスクと称しているが、民間人の東海林春男氏が寄付したマスクだ。市長が自慢することではないだろう。

アベノマスクは品質問題、検品問題、どこかの組織の資金中抜き疑惑、など迷走が止まらない。官僚が考えそうな「ご機嫌取り」の愚策としか思えない。
シャープ、パナソニック、大王製紙、アイリスオオヤマなどがマスクの生産に参入している。こういう篤志企業のマスク生産を支援する方がよほど有効に金を使えると考えるがいかがだろう。

アベノマスクに費やした450億円は、日本経済に循環せず訳のわからない砂地に染み込んで消えた。


このコラムは、2020年6月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第991号(に掲載した記事です。

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成功はゴミ箱の中に

 マクドナルドを世界的なチェーン店にしたレイ・クロックの自伝「成功はゴミ箱の中に」を読んだ。

レイ・クロックはファストフード店にミルクシェーキを作る機械を売る仕事をしていた。マクドナルド兄弟が経営するハンバーガ店に魅力を感じ商権を買い取り今のマクドナルドに成長させた。成功者のイメージを持っていたが、書籍から浮かぶ彼の人生はあまり幸福だったとは言えないようだ。

彼の言葉「競争相手の全てを知りたければゴミ箱の中身を調べればいい。知りたいことは全て転がっている」が紹介されていた。さすがに競争相手のゴミ箱を覗いて回ることはできないだろう。しかし社内のゴミ箱を見ることは可能だ。職場ごとにゴミ箱に捨ててあるモノを見れば、職場の問題点が見えてくるはずだ。

私は仕事柄、顧客の工場でゴミ箱を覗いてみることがある。

「整理とは」

ゴミ箱にあるべきモノ、あるべきでないモノを見れば、その職場の実力が判る。
そしてそこから課題も見えてくる。

例えば、ゴミ箱の中に仕損の材料がたくさんあれば、その作業に改善が必要なことが判る。逆にその職場で使わない材料が見つかれば、何らかの問題が発生していることが判る。不良や事故が発生する前に原因を調べ、対策することができる。

毎日作業をしている人にとって当たり前で、無駄に気付いてないこともある。例えばゴミ箱の中に調整作業で発生する材料ロスが多くあれば、調整作業の改善が必要なことが判る。材料のロスだけでなく、時間のロスもゴミ箱の中で可視化される。


このコラムは、2020年11月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1061号に掲載した記事です。

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スランプ

 森村誠一が小説作家のスランプについて書いているのを読んだ。
作家にはスランプがつきものだという。どの作家もスランプに陥る。しかしスランプを抜け出る方法は作家によって違う。森村は以下のように分類している。
小説作家のスランプ脱出方法
・死
・スターの座にこだわらない
・路線変更

「死」は最悪の選択だが、小説作家には人気のある方法のようだ。
太宰治:玉川上水で入水心中。
芥川龍之介:田端の自宅で服毒自殺。
三島由紀夫:陸上自衛隊東部方面総監部の総監室で割腹自殺。
川端康成:逗子の別荘でガス自殺。

「スターの座にこだわらない」は売れっ子の先生から、新人の作家と同じ扱いに落ちることだ。出版社や編集者の扱いが変わる。自殺に至らずとも相当辛い思いをするだろう。売れっ子時代に尊大になっていたような人物には人間的な成長機会と言えるかもしれない。

スランプ脱出方法として「死」はいうまでもなく「スターの座にこだわらない」の二つはネガティブな解決方法だ。結果としてスランプに屈服したことになる。

「路線変更」はスランプに屈服することなくスランプから脱出する方法だ。

例えば北方謙三は学生時代に書いた純文学作品が認められ、作家デビューした。
しかしその後作品を書き続けるが書籍が出版され注目を集めることはなかった。「弔鐘はるかなり」で路線変更。ハードボイルド作家として生まれ変わった。さらに「武王の門」で歴史小説に路線変更している。

ハードボイルドへの路線変更は編集者の「暗い話を書いている場合じゃない」というアドバイスがきっかけだったそうだ。
あっという間に売れっ子作家となった。

第二の歴史小説への路線変更は北方謙三自身から生まれた。
北方はこう言っている。「探偵が公衆電話を探すシーンは、すぐに陳腐になる。歴史物は初めから古いので時代に影響を受けない作品になる。」
賞味期限の短い作品を書き続けスランプに陥ったのだろう。時に淘汰されない作品を書きたいという作家の崇高な志による路線変更だと思う。

さて我々も大きなスランプに直面している。作家のスランプは自身の内的要因が大きいが、新型コロナウィルスという外的要因のスランプだ。新型コロナウィルスに屈服するスランプ回避ではなく、スランプ脱出する方法を考えねばならない。

新コロナウィルス感染で大変な思いをされていると思います。
少しではありますが、出口の光明が見えてきたように思います。
このピンチをチャンスに変えようではありませんか。


このコラムは、2020年4月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第966号に掲載した記事です。

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すべては心から始まる

 先週末は若手の勉強会に参加し不正会計の事例を勉強した。

日本人が関わる不正会計の大半が個人利益目的ではなく、本社から与えられた事業計画達成のため経理数字を誤魔化す事で発生しているのではないかと想像している。
今期事業計画を達成するため、今期の支払いを来季に回す。架空の受注で完成在庫を積む。などなどの不正操作を続けるうちに、金額が累積して破綻する。

このような不正が発生するのは、数字をごまかしてでも計画を必達しなければならないという上からの強いプレッシャーがあるからではなかろうかと思う。

品質に絡む不正事件も同様に上位職からの強いプレッシャーで「問題を隠す」組織文化が蔓延するからだろう。

正しいことを正しいとし、不正を不正とする、そういう企業文化があれば問題には常に光が当たっているはずだ。

安全事故が発生すれば隠しおおせないだろうが、ヒヤリハットは黙っていれば上長に知れることはない。
設計ミスは黙って修正しておけば、のちに誰かの知るところとはならない。
修理品を工程内不良にカウントしなければ工程不良率はぐんと下がる。
このように問題を表に出さない(もしくは出せない)組織では、問題は隠され、改善は行われない。そして隠された問題は累積し、閾値を超えた所で大問題として発覚することになる。

  • 設計ミスを表に出せば、そのミスは共有され後に発生しなくなる。
  • ヒヤリハットが表に出ていれば、重大事故の抑止になる。
  • 工程不良が正しく表に出ていれば、改善が行われる。

問題や失敗を強く叱責する組織文化のもとでは、上記のような良い循環は発生しない。

以下中村天風の言葉だ。

天高うして日月かかり、地厚うして山河横たわる。
日月の精、山河の霊、静まりて我が心に在り。
心に力ありと言えども、養わざれば日に滅ぶ。
心に霊ありと言えども、磨かざれば日に暗む。
心滅び霊暗みてただ六尺の肉身を天地の間に帰するのみ。
かかる中に50年の生涯尽く。
心の力と心の霊と我の備わるものぞと知らば
これを養い磨くべき道自ずからここに開けん。

我が師・原田則夫の言葉「すべては人の心から始まる」が中村天風師の言葉にダブって思い起こされる。


このコラムは、2019年8月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第862号に掲載した記事です。

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東莞バレー

 東莞でバレー教室を開催しようというわけではない(笑)
米国西海岸に新興企業が集積しシリコンバレーと呼ばれた様に、ビットバレーが渋谷に生まれ、さらに五反田にスタートアップ企業が集まり五反田バレーが誕生しつつあるというニュースを見た。

2000年前後にベンチャー企業が渋谷界隈でオフィスを構え始めた。
近年では渋谷あたりのオフィス価格が高騰しており、新興のベンチャー企業がオフィスを構えるのが困難となり、オフィス賃料の安い五反田が注目され始めているという。

広東省東莞あたりは、一頃PCの生産基地と呼ばれていた。PC生産に必要な部材が東莞・深センあたりに集積しており、すべての部材を半日ほどで集めて回れる環境だった。○○バレーというと、工場が集積しているというイメージではない。開発型の企業が集積している地域が○○バレーだろう。

そういう意味では、深センあたりはすでに研究開発型の新興企業が集積し始めていると言えるだろう。つい最近深セン市内には石油エンジン式のトラックが規制され始めたと聞く。部材運搬用のトラックは深セン市内では電動トラックしか走行できない。こういう環境下では製造業から研究開発型の企業にシフトしていくのではないだろうか。

そこで東莞の出番だ。(風俗の街と誤解されている五反田と妙に親近感もある)
モノ造りベンチャーが集積する東莞バレーが誕生しても良いではないか。
従来型の工場ではない。高い企業文化を持ち顧客満足と従業員満足を極める夢工場。高い付加価値を提供する感動工場。提供する製品と共に高い付加価値を顧客、従業員、地域社会に提供する工場が集積する場所として、東莞バレーという呼称が使われるといいなぁと夢想している。

以前東大阪の「まいど一号」葛飾区界隈の「江戸っ子一号」の向こうを張って東莞で「ネイホーヤッホー」(広東語で「ニイハオ一号」)プロジェクトを起こしたいと夢想したことがある。単発のプロジェクトではなく、東莞バレーという夢工場が集積する地域を作る方がワクワクしそうだ。

周りにいる志の高い人々を巻き込んだら、人生最後の夢が叶うかもしれない。


このコラムは、2018年7月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第689号に掲載した記事です。

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味の素、総菜調味料「2人前」増産へ新工場 小容量化の流れに対応

 味の素は家庭で簡単に調理できる総菜調味料「クックドゥ」の新工場を整備する。2015年中に稼働する計画で総生産能力を3割高める。シニア世帯や働く女性の利用が増えているため、2人前の中華や和食メニューなどを増産する。
少子高齢化で世帯人数が減るなか、消費者の「簡便・小容量」需要に応える。

(以下略)全文はこちら

(日本経済新聞電子版より)

 味の素は、主力生産拠点の川崎工場内に、23億円を投資し生産能力を3割増強する。これにより「2人前」商品の販売量を増やす考えだ。更に「1人前」商品の投入も視野に入れていると言う。

少子高齢化、核家族化により、1世帯の推計平均人数は、2.5人となっている。二人暮らし、一人暮らしの世帯が全体の49.7%を占めているそうだ。
勤労女性が増加し、専業主婦が減っているのも、食生活を大きく変化させている。このような市場の変化に適応するために、新工場を投資したのだろう。

味の素は、B to Cビジネス企業だから、この様な社会的構造変化に対応して行かねば、売り上げが減少してしまう。逆に変化に対応すれば、売り上げを伸ばすチャンスだ。

この様なニュースを、ウチはB to Bビジネスだから無関係だと、決め込んでいては、駄目だ。先週のメルマガに書いた様に、CS(顧客満足)チェーンの先頭にいる市場顧客の要求を掴む事が、B to B企業にも必要だ。

先週のコラム:「スマイルカーブ」

日経の記事から読み取れる事は、少人数世帯と言うのは、学生、独身者、若い共働き夫婦、老人世帯と年齢幅が大きいはずだ。当然食の嗜好も大きく異なる。その結果、多くのバリエーションを取り揃えた商品の展開が必要となる。従って、新工場は単純に生産数量を確保するだけではなく、多品種少量に対応出来る工場となるはずだ。

この様な動向は、食品産業だけではない。
自動車や電機製品の部品製造も、単一製品を大量に生産する「戦艦大和」型の生産ラインではなく、小型駆逐艦を何艘も持ったフレキシブルな生産ラインを構築すべきだと考えている。

先週は、設備の設計生産をしている中国メーカを訪問して来た。非常に優秀な経営者だが、彼の発想は戦艦大和型だ。こういう生産が通用する業界はまだある。しかし後5年もすれば、小型駆逐艦型の生産ラインに切り替わると予測している。


このコラムは、2014年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第371号に掲載した記事です。

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初期流動管理

 先週のコラム「設計審査を企業文化とする」で、設計審査の事例をご紹介した。また設計部門を持たない、中国工場で設計審査を企業文化にした事例もご紹介した。

それに対して読者様からメッセージをいただいたので、ご紹介したい。

※M様のメッセージ

 私が以前所属していた企業も、生産を100%外部に委託するファブレスでした。QAレビューの後に、量産開始の初期流動会議、量産移行会議等で、事前確認するようにしていました。それでも予期せぬ不具合が発生することもありましたが、概ね不具合を事前に予防することができたと記憶しています。
 やはり基本をコツコツと手抜きせず継続することが成功への近道なんですね。

全く同感です。
決められた事をコツコツやってゆく。そういう行為が、習慣となり、習慣が文化を作る。

今の時代のモノ造りは、差別化する事がどんどん難しくなって来ている。
同じ材料を、同じ機械で、同じ様に加工するだけでは、競合との差別化は出来ない。材料も、設備も、技術も誰でも簡単に手に入れることができる。
差別化出来る要因は「人」以外にはない、と言えるだろう。
人の感性を商品設計に盛り込む。人の良き習慣で企業文化を作り上げる。
モノ造りは,人の手作業から、省力化・機械化に向かった。そして今度は、「感性」と言うキーワードに従って「人」に戻って行くのだと思う。
人の手から出て人のココロに戻ると言う事だ。

さて前置きが長くなったが、「設計審査を企業文化とする」の続編として、M様もメッセージで触れている、初期流動管理について、話をしてみたい。

設計審査文化として、設計完了から生産・出荷までのフェーズには「出荷判定会議」と「初期流動完了判定会議」を開催していた。
設計審査は、設計部門の主催で、設計の完成度を確認する審査だ。
出荷判定と初期流動完了判定は、品質保証部門の主催で、生産品質を確認する審査だ。

出荷判定会議は、最初の出荷ロットの生産で、今後の生産で品質保証出来る事を確認する。

  • 生産のための設備、治工具類が準備出来ている。
  • 生産設備の調整や設定が確定している。
  • 作業手順は確定し、作業者への教育・訓練が確実に行われる。
  • 工程能力指数が十分ある。
  • 工程内不良の解析設備・能力が十分ある。
  • 工程直行率が一定の基準をクリアしている。
  • 原因を特定出来ない工程内不良がない。
  • 関連法規の認定がおりている。

等を確認する。
最初の出荷ロットを、ただ造り上げただけでは、上記の項目はパス出来ない。
同じ品質で次のロットも作り続ける事が出来るかどうかを確認する。

この審査が合格しない限り、出荷は出来ない。

出荷判定会議にはもう一つ決定事項がある。それが初期流動管理期間と管理項目だ。

出荷判定会議がめでたく合格判定となると、出荷が開始され初期流動管理期間となる。初期流動管理とは、予防保全活動の一種であり、初期の段階で潜在不良の要因を潰してしまうための活動だ。

初期流動管理期間は、最低3か月。製品にあわせて初期流動管理終了の条件を決める。例えば、直行率99.9%以上を初期流動管理終了の条件と決めると、3ヶ月経っても、直行率99.9%を達成していないと、初期流動管理は継続となる。

初期流動管理中は、最低1ヶ月に1回初期流動管理会議を開催する。
会議では、管理項目に指定された内容を報告審議する。例えば、工程能力指数、工程内不良の不具合解析結果、などが報告され、改善方法などが審議される。

当然この様な管理は,工場にとっても、事業部にとってもコストがかかる。
利益幅があるから、コストをかけても平気な訳ではない。本格量産になってから問題が顕在化すると、顧客に迷惑がかかるし、修復のために大きなコストが発生し、利益など吹き飛んでしまう。それを防ぐための予防保全なのだ。

顧客が価値を感じてくれている所には、コストをかけてでもその価値を上げなければならない。

顧客の我々に対する評価は、開発期間が短い、量産試作サンプル提供が速い、市場品質が安定している、と言うポジティブな評価が、価格が高いと言うネガティブな評価をカバーしていた。

この様な顧客の期待に応えなければ、その他大勢のベンダーと価格競争で受注を奪い合うことになる。


このコラムは、2013年10月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第331号に掲載した記事です。

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自主職務分掌

 日本企業では、従業員の職務分掌が曖昧になっている、と言うのが特徴だと思う。曖昧になっているだけではなく、社内に職務分掌なる文書がない場合もある。ISO9001の要求事項にそって、各部署の任務と権限を決める規定はあるが職務分掌と言えるレベルにはなっていない。

心当たりのある方も多いと思う。

これが、駄目だと言っている訳ではない。むしろ職務分掌を明確に決めないことにより、組織の境目の仕事を、皆でフォローすることができていた。つまり仕事に垣根を作らないことにより、問題を発見した人が素早く対応する、そう言う体制が出来ていた。これがうまくいっていた時の日本流の仕事術と言ってよいだろう。

欧米企業の様に職務分掌がきっちりあると、他人の仕事に手を出せなくなる。問題を見つけても自ら手を出すのではなく、責任部署に連絡をすることになる。こう言う仕事の仕方をしていると、暇な部署、忙しい部署が出来てしまい、従業員は単能工化する。

しかし「日本流」が上手く行くのは、日本と言う特殊環境に依存している。つまり日本社会では、均一である事を要求され、多様性が排除されて来た。そう言う環境では職務分掌がなくても、阿吽の呼吸で各自が互いに補いあう事が出来る。

従って日本以外の国では、この方法は上手く行かない。
中国では、職務分掌をきちんと決めてやらないと、何をしてよいか分からない、職務分掌以外の仕事を依頼すると、給料を改定してくれと言ってくる。

こう言う経験をした事のある方も多くおられると思う。

きっちり職務分掌を決めてしまうと、組織間の境界に落ちてしまう業務を誰もやらない。しかし職務分掌を決めておかないと、職員たちは何をしたら良いか分からない。
こう言うジレンマに対して、以前私は、組織間の協調をのりしろの様にして職務分掌を広げてしまう事を何人かの経営者にアドバイスしたことがある。

職務分掌の中に、○○部門と協調して□□業務を行う、と入れてしまう。
また組織内も、課長を補佐して△△業務を行う、と言う具合に職員間の協調も入れてしまうのだ。

最近更に良い方法を考えついた。
「職務分掌を自分で書いてもらう」と言うアイディアだ。
突拍子もない様に見えるが、他人から与えられた職務分掌よりは自分で決めた職務分掌の方が、実施の意欲が高いはずだ。

自分で決めると言っても、好き放題に作れる訳ではない。会社の目的・目標、組織の目的・目標をブレークダウンしたモノになっていなければならない。しかしゼロから職務分掌を構築する必要はない。通常やらなければならない定常業務はあるはずだ。定常業務はそのまま職務分掌に入れる。組織間、担当者間に落ちてしまうような業務を自ら設定してもらう。

例えば、顧客クレーム対応の職員は、最低限やらねばならない仕事は、顧客クレームの管理(件数や回答納期の管理)と報告書の作成だ。しかしここに、製造部や技術部と協力して、再発防止対策の検討も入れられれば、この担当者は相当成長するだろう。
こう言う設定が自分で出来てしまう職員には、高い給与を与えても良かろう。

普通の職員にはいきなり自発的に職務分掌を定義せよ、と言ってもムリだ。こう言う場合は、上司と相談する中で誘導してやれば良い。

自分自身の職務分掌のできばえや、実際の業務達成度などを考課対象とする。
こう言うアイディアを「自主職務分掌精度」と名付けてみた。
一言で言えば、目標管理制度と職務分掌が一体化したような形だ。

この制度の一番の狙いは、職員の自主性をひき出し、パフォーマンスを上げることだ。

このアイディアを試してみた方は、ぜひ効果をご報告ください。


このコラムは、2013年8月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第321号に掲載した記事です。

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求道心

 いささか大仰なタイトルになってしまった。
中国人経営者を見ていると、「即効性のあるモノ」をありがたがる傾向があるように思える。

彼らと話をしていると、良く「系統」(システム)という言葉が出てくる。
ここでいう系統は、MRPのようなコンピュータシステムだけではない、会社の仕事のやり方などの仕組みなどもさす。

現場リーダの管理能力が足りない。何か良い系統、工具(ツール)はないか?

ISOのマニュアルもどこかから貰って来る、または買って来る。
随分昔の話だが、S社のグリーンパートナー監査を控えた委託先は、既にグリーンパートナー監査に合格している会社から、関連規定一式を手に入れた。
同時に指導していたもう一社は、工場の前の歩道の掃除から始めた。

手っ取り早く問題を解決できれば、効率が良いのは確かだ。しかし即効性のあるモノは、失効性も早い。それは苦労して築き上げたものではないからだ。

「真理」というものは、空の彼方または海の深遠のどこかにあるものだ。真理とは手に入れられるものではなく、手に入れようとする努力に価値があるモノだ。

永遠に手に入らないかもしれないモノを追い求める。その努力が本物の成長と成功を手に入れる過程だ。

どこかから手に入れた社内規定は、「お飾り」以上の役割を果たさない。苦労して作り上げた社内規定は、ココロを込めて運用されるだろう。結局成果を上げられるのは、効率を求めるのではなく「道を究める」努力だ。

日本には、元々道を究める求道心があった。職人は一生掛けて、匠の技を磨く。これは死ぬまで続く求道の道だ。

人材育成も、品質改善も終わりのない求道だと思うのだがいかがだろうか。


このコラムは、2011年8月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第219号に掲載した記事です。

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エア・ドゥ機長ら3人、飲酒検査せず乗務 「失念した」

 エア・ドゥは16日、40代の機長ら3人のパイロットが、社内規定で定めたアルコール検知器を使った飲酒検査をせずに14日午前8時25分新千歳発中部行きに乗務したと発表した。機長は「検査を失念していた」と話しているという。
 (中略)
 同社では、パイロットの飲酒問題が相次いだことを受け、昨年12月18日から検知器での検査を義務化。社内規定で乗務前12時間以内の飲酒も禁止しており、副操縦士と訓練生は前日に飲酒していたが、いずれも違反はなかったという。

(朝日新聞デジタルより)

 「失念した」という記述に驚いた。さらに記事にはエア・ドゥでは、飲酒検査を昨年12月18日から開始しているとあり、二度驚いた。日航パイロットが英国で逮捕されたのは昨年10月だ。あれほど大騒ぎになっていたのに飲酒検査を始めたのがひと月半後だ。

他にも、空港まで車で来ているのだから操縦には問題ない、とか呼気検査装置の使い方がわからなかった、などという緊張感がない記事が散見される。

呼気1l中アルコール濃度0.1mg(車の場合は0.15mg)という基準が厳しすぎるという認識なのだろうか?(0.1mg/lは英国の基準と同じレベル)

検査を始めてひと月半、パイロットがアルコール検査を失念したというのはありそうに思える。しかし「ありそうだ」というのと「あってはならない」というのは全く別の話だ。

いずれにせよ、失念したり偽装したり出来ないように仕組みを作るべきだ。
エア・ドゥはLCCなので「コスト負担が…」という議論は成り立たない。コストが安全に優先するなどあってはならない。


このコラムは、2019年1月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第775号に掲載した記事です。

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