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完結編・不況の処方箋・高付加価値

【今週のお題】
不況に打ち勝つため,高付加価値にするための工夫やアイディア

【私のアイディア】
本編では

  • 高品質にこだわることにより,顧客での受け入れ検査省略などの付加価値を付ける.
  • 顧客が部品を生産現場に投入する時の利便性を考えて梱包形態を変更する
  • 次世代売れ筋商品(高付加価値商品)の生産技術開発
  • 顧客心理を捉えた接客

などのアイディアを書いた.

別の切り口から考えてみよう.
「オーラを造りこむ」
モノにはモノそのものが持つ機能や価値以外にモノから発せられるオーラがある.造り手のモノづくりの思いを込めてオーラ造りこむ.モノづくりのストーリィそのものが,広告になる.
例えば岡本雅行さんの「痛くない注射針」はそのモノづくりの技術もすごいが,その完成ストーリィを聞くと,思わずその注射針で注射してほしくなる(笑)
これも「付加価値」になると思うがいかがだろうか.

【S様のご意見】
違う視点で考えることができ、ためになっています。
品質管理畑を長年やっていたため、中々アイデアがありません。
QCD以外の観点がないか?もう少し考えてみたいと思います。

S様いつもご投稿ありがとうございます.
品質管理屋だから思いつく付加価値もあると思う.
Qに関して言えば,受入検査が省略できる製品というのは「高付加価値」と言ってよいだろう.
Cに関してはメーカ側の都合なので,顧客にコストで「高付加価値」を提供するのはちょっと難しいかもしれない.むしろ「高付加価値」によりコストにかかわらず高値で売れる製品・サービスを考えたい.
Dは業界の常識を超える短納期を提供できればそれが「高付加価値」になる.

【K様のご意見】
自社製品やサービスの付加価値を上げるための工夫ですが、私の工場では全ての客先に対して同じ品質管理をしています。
日本の本社以外の独自の仕事もしているのですが、ヨーロッパ系の客先からの品質要求は厳しくありません。しかし、日本の客先と同じ品質管理で生産をしています。工数はアップしますが、製品の付加価値を上げる為に、厳しい基準での生産を行なっています。
このおかげでこの客先からのクレームは全然発生していませんし、新たな受注にも繋がっています。
以上、ありきたりな内容ですが、投稿させて頂きます。

ありきたりと謙遜されているが,普遍的な考え方だと思う.
中国で車を買う場合,購入費用が高くても国産車より日本車を選ぶと言う人は増えている.メンテナンスなどの生涯コストを考えると,日本品質の車を買ったほうが
 安くなるからである.日本品質が世界品質だと思われる時代が来るに違いないと思っている.
日本の自動車メーカは更にその上で,ヨーロッパ車のような「高くても乗りたい」というオーラを持った車を開発できれば,鬼に金棒だ.


このコラムは、2008年12月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第73号に掲載した記事です。

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不況の処方箋・高付加価値

 先週は世界同時金融不況の逆境の中で,高品質にこだわり収益性を上げようというテーマで書かせていただいた.

今週は逆境をチャンスに変えるため「高付加価値」の追求について考えたい.

高付加価値:
「高品質」も一種の付加価値になりうる.従って先週の記事とダブるところはある.
例えば不良が極端に少なければ(狭義の高品質)顧客は受け入れ検査を省略できるであろう.これは物そのものの品質ではなく物を使う際に発生する付加価値といって良いだろう.

顧客が部品を生産現場に投入する時の利便性を考えて梱包形態を変更するという事例も高付加価値の実現だ.

この事例のように物の付加価値を上げることは,開発設計が伴わなくても可能だ.

工場で製品の開発をするということはあまりないかもしれない.しかし工場が開発機能を持たなくて良いということではない.物を作りながら(今日のメシの種)新しいモノ造りの技術(明日のメシの種)を開発すべきだと考えている.

次世代主力になるであろう製品を作るための技術を先駆けて開発しておく.
これはOEM工場でも採れる戦術だろう.

CDドライブを搭載した廉価音響製品を作っていたあるOEM生産工場は,DVDを搭載した高級製品をばらして作り方を研究していた.今その工場は超高級音響製品を生産している.

OEM供給先の要求に先駆けて生産技術を蓄えておけば,こちらから商品企画の提案もできる.顧客・ベンダーの主従関係から,パートナー関係に転換できる.

生産量が落ちている時ほど「重要だが急がない案件」に取り組むチャンスである.

製品やサービスの付加価値を高めるためには,必ずしも製品の開発設計は必要ではない.自社ブランド製品がない工場でも応用は可能なはずだ.

製造業以外でも応用可能だ.
例えばレストランで店員が顧客の名前を覚えて名前で呼びかける.
たったこれだけで顧客のリピート率は上がるはずだ.
石龍にあったレストランは私を名前で呼んでくれた.
たったこれだけのことで,私は毎日通っていた(笑)

ハンバーガチェーンのように「こちらもいかがですか?」と芋フライを勧めても顧客ロイヤリティは上がらない.


このコラムは、2008年12月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第72号に掲載した記事です。

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天職について

 先週のニュースからのコラムに読者様からメッセージをいただいた.

※N様のメッセージ

車椅子つくりに専念したことに感動。
仕事を始めてから 40年にもなるが、”天職”とは何か?
判らんが、今やっていることが ”天職”と信じて 残りの時間を仕事に専念したい。残り少ない時間ではあるが。

このところ「天職」を考えるテーマが続いている.
私自身は,製品の設計者から,ひょんな縁で品質保証を担当することになった.若い頃は,製品設計の仕事に誇りを持っており,違う仕事をするくらいならば転職をしようと考えていた.

しかしその頃,既に守らなければならないモノをたくさん抱えてしまい(笑)
転職をする勇気はなかった.ところが品質保証の仕事をしてみると,これが実に面白く感じた.二流の設計技術者でいるよりは,よほどやりがいのある仕事であり,品質保証の仕事が天職だと思うようになった.

そして独立をするに当たり,次の世代に仕事を通して学んだことを伝えてゆくことが自分の使命であり天職だと気が付いた.

いささか場当たり的ではあるが,私もN様と同じように,人生の残り時間を天職を全うするために時間を使いたいと思っている.


このコラムは、2011年1月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第188号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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亡き弟の姿胸に、電動車いす開発40年 京都の技術者

 進行性の難病だった幼い弟のため、父と電動車いすを作った兄がいた。弟は19歳で世を去ったが、兄は40年たった今も車いすを作り続ける。

 「オメガ・スリー」。ジョイスティックを指で傾けると六つのタイヤが動き出し、約10センチの段差を軽々と乗り越えた。悪路にも対応した機動性と安定性に乗り心地の良さを兼ね備えた電動車いすだ。

 作ったのは京都府宇治市で有限会社「アローワン」を経営する西平哲也さん(58)。社員と2人で、車いすをオーダーメードする。室内型の「くるくるマウ」、座席が床まで下がる「エフ・エックス」もある。障害の状態に合わせた特注のため1台200万円以上するが、脳性まひや筋萎縮性側索硬化症の人たちを中心に全国で約200人が利用している。

 1967年、九つ年下で当時6歳だった弟守儀(もりよし)さんが全身の筋力が低下する筋ジストロフィーと診断された。3年後には自力で車いすを動かせなくなった。電動車いすは高価な輸入車しかなかった時代、工業高校に通っていた西平さんは木材加工職人の父と一緒に開発に乗り出した。

 室内で使うにはシートの高さが変わらなければ不便だ。そこでシートの昇降やリクライニング機能をつけた。病状に合わせて10号機まで作り、守儀さんは亡くなる直前までわずかに動く指で車いすを操り、趣味の絵を描いた。

 西平さんは弟の死後、担当だった理学療法士に「必要としている人は他にもいる」と励まされ、車いすを作り続けた。しかし、東京・深川で会社は98年に経営が行き詰まった。知人の紹介で福祉機器販売会社の研究拠点があった宇治市に移り、修理と改造を主にして再出発した。

 5年前、堺市内で開かれた福祉機器の展示会で、大阪市西淀川区の福祉コンサルタント栂(とが)紀久代さん(58)と出会ったことが転機となり、新車づくりを再び始めた。

(asahi.comより)

 西平氏にとっては酷な言い方かもしれないが,弟さんの難病のおかげで天職に就けたとは言えないだろうか.難病の弟のために,高校生の時から車椅子を造る.大学でも機械工学科で,車椅子の研究をしている.そして卒業してからも一貫して車椅子に関連した仕事をしてこられた.

利用者に対する愛情があるから,素晴らしい製品を作ることができる.
その製品の一つ一つは,彼の一生をかけた天職によるものだ.そして弟の夢を,他の車椅子利用者に託す希望だ.

お金儲けのために,何かを造ろうというのとはまったく方向性の違う事業だ.お金儲けが卑しいものだというつもりはない.しかし,まず困っている人を助ける.そしてそれが収入となる.これが本来の順番だと思うのだ.

○○が売れそうだから,工場を建てる.というよりは,○○で困っている人がいるから工場を建てる,というアプローチの方が,人々の共感を得られる.

どのように考えようが,それはそれで,その人の人生だ.
しかし自分の人生ならば,仕事そのものが夢であり,人々から共感を得て支援される仕事に就きたいと考えている.

西平氏は「夢が叶う魔法の翼―電動車イスは移動の自由だけじゃなく、心の自由も与えてくれた!」という本を書かれている↓

アマゾンの読者書評欄には,西平氏の車椅子ユーザと思われる方の書評もあり胸を打たれた.

車椅子ユーザは,オフィスで働こうと思っても,コピーすら思うように取れない.そういうことが健常者には分からない.西平氏の車椅子には,座席の高さを上昇下降する機能もある.これでコピー機に原稿を載せ,コピーをとることができるようになる.

お客様の要求や言葉にならない願望を実現し,お客様の役に立とうとする事により,初めてお客様や社会から必要とされる企業になることが出来る.


このコラムは、2011年1月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第187号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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空港でカートが暴走、係員が別車両で突っ込み阻止

 米シカゴのオヘア国際空港で9月30日、ケータリング用のカートが制御不能になって暴走する騒ぎがあった。カートは駐機場にあった機体に衝突する目前で、アメリカン航空の誘導員が暴走を食い止めた。

 (中略)

カートは円を描いて暴走しながら、近くにあった航空機の機首の方へと徐々に近づいていた。そこへアメリカン航空の誘導員が別の車両に乗って現れ、カートに突っ込んで暴走を食い止めた。

 (中略)

アメリカン航空は声明を発表し、カートを止めた従業員の素早い行動を評価した。暴走したカートはアクセルが引っかかって制御不能になっていたことが判明。同航空の従業員にけがはなかったが、便の出発には10分の遅れが出た。

(CNN.co.jpより)

 詳細は報道されていない。推測すると、旅客機に機内食を積み込む作業中にカートのアクセルペダルが戻らなくなり、制御できなくなった。カートに搭乗していた作業員は危険を感じて飛び降りた?飛び降りる際にハンドルを切り速度を落とそうとしたのではなかろうか。
ハンドルが切ってあった事が幸いし、別の車両でカートを停止させる事ができた。またはハンドルから手を離すと、ハンドルが片側にロックし同じ場所を旋回するように安全設計がされていたのかもしれない。

根本原因に対する対策を考えると、アクセルペダルが引っかからないように設計する。引っかかった場合安全側に停止する仕組みを入れる、などが思いつく。
しかし「引っかかったことを検出して…」と考えると、複雑になってしまう。
こう言う仕組みは単純なほど良い。今回の事例では、主電源を落とす非常停止ボタンをつければ良いだろう。

工場の設備も問題が発生した場合、安全側に停止する仕組みを組み込んでおくべきだ。


このコラムは、2019年10月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第886号に掲載した記事に修正加筆しました。

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不良対策

 不良が発生したら、再発防止対策を検討する。当たり前のように聞こえる。
しかし「不良が発生したら再発防止対策を検討する」この様な姿勢だから不良がなくならない、と私は考えている。

例えば、家庭では散らかったり汚れたりすると整頓や掃除をする。しかし工場の5Sは散らかる前に整頓し、汚れる前に清掃をする。だから散らからないし、汚れないのだ。

不良も同様だ、不良が発生してから対策をするのでは遅い。不良が発生する前に対策をすれば、不良は発生しない。

詭弁の様に聞こえるかもしれない。しかし市場回収をしなければならない不良、従業員・工場設備の安全に関わる事故が発生すれば、企業の存続に即影響する。

不良が発生する前に行う対策を「未然防止対策」という。
他社事例、他業種・他業界事例を自社に適用し、同様な問題が発生しない様に対策を検討する。こういう活動が不良が発生する前の不良対策活動だ。

例えば、アルミ製品の加工工場で粉塵爆発が起きたら、製粉工場、木工工場等も対策を検討し、未然に対策を実施しておくという具合だ。

毎週水曜日配信の「失敗から学ぶ」のコラムはそういう趣旨で書いている。
先週のアエロフロート機着陸失敗事故では、操縦室内のリーダシップについて考えたが、どの様な組織・チームでも同じことが起きうるだろう。

つい先日発生した伊丹空港での保安検査ミスによる大混乱も、製造業にとって参考事例になるはずだ。


このコラムは、2019年9月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第882号号に掲載した記事です。

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伊丹空港保安検査

 全日空(ANA)によると、26日午前7時すぎ、大阪(伊丹)空港の全日空便の保安検査場で、女性係員が手荷物にナイフを持ち込んだ乗客を見つけたが、誤って乗客に返却した。係員が誤った対応に気付き、約2時間40分後の同9時40分ごろから、搭乗待合室にいた他の乗客も含めて全ての手荷物検査をやり直し、空港ターミナルが混乱している。

 保安検査場を約2時間にわたって閉鎖し、検査場を通過した乗客らもいったん外に出すなどして安全を確認した。同社によると、この影響で午前9時40分以降の全便の運航を見合わせ、遅延や欠航が相次いだ。午前11時50分現在、到着便を含めて計14便の欠航が決まった。

 捜査関係者によると、40~50代男性が折りたたみナイフを1本所持し、係員が誤って「この長さなら大丈夫」と通したという。

(神戸新聞より)

 この事故により、南側ターミナルは午前9時30分ごろから午前11時59分まで約2時間30分にわたり閉鎖となった。伊丹発着の28便が欠航となった。
男性が持っていたのはアーミーナイフ。航空法第86条では、刃物などの危険物の機内持ち込みを原則禁止している。保安検査員は男から持ち込んで問題ない旨の説明を鵜呑みとし、保安検査を通過させた。

 ANAは保安検査場の入場を停止後、搭乗済みの乗客も降ろして再検査を実施。午前11時44分までに、南側保安検査場を通過したすべての乗客を一般エリアに誘導し、正午から保安検査を再開した。

問題の男は特定されず、事態収拾前にナイフを持ったままANA機に乗って伊丹空港を離れた様だ。

何が起きたのかは想像の域は出ないが、この事例をどう学ぶかを考えたい。

この事故の根本原因は、保安検査でナイフを男に返却した係員の「判断ミス」だ。保安検査では、ハサミでさえ機内持ち込みを禁止されることもある。

判断ミスに対する対策は、更に分析しなぜ判断を誤ったかを特定しなければならない。

係員のミスさえなければ、問題は発生していない。
しかし問題の影響がここまで拡大したのは、係員のミス発生後の対応に問題があったと考えられる。

我々製造業に馴染みのある表現で言えば、不良発生後の修復処置が適切でなく問題の波及範囲が拡大してしまった、ということになろう。

この様な事態が発生した場合の修復処置手順は以下の様になるだろう。

  1. 保安検査を通過した乗客(搭乗済みの乗客を含む)全員を保安検査前に戻す。
  2. 保安検査後のエリア、搭乗開始済みの機内で問題のナイフを捜索する。
  3. 捜索終了後再度保安検査を実施。

今回の事件の影響が拡大したのは、修復処置に手間取った、且つ乗客への情報提供が不十分だったからだろう。

しかも問題のナイフとそれを持った男は、発見されていない。

7時から9時40分まで修復処置に手をつけられなかったのは、この様な事態が想定できていなかったためと考えられる。今回の問題は保安検査で100%食い止めるめるべき問題ではあるが、この関門が破られたら、という想定をするのが未然防止だ。
「関門が破られたら」という想定をFMEAでは「潜在不良」と定義している。


このコラムは、2019年10月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第883号に掲載した記事に修正加筆しました。

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アエロフロート着陸失敗

 ロシアの首都モスクワのシェレメチェボ空港で5月5日、露航空会社アエロフロートの旅客機が緊急着陸に失敗し炎上、乗員・乗客ら計41人が死亡するという事故が発生した。

離陸後に機体が避雷し機体に損傷が発生、着陸に失敗という報道が事故直後にあった。事故調査が行われていると思うが、まだ公式の発表はない。

その後の報道から推測すると、人為ミスの可能性がありそうだ。

悪天候の中を離陸したが、直後に雷に打たれている。ここで機長は引き返す事を決断。離陸した空港に引き返し、着陸後機体後部から出火、機体は炎上。
旅客機は離陸直後には燃料がまだ消費されていないので、機体重量が重くそのままでは着陸の衝撃に耐えられない。機体を軽くするため燃料を投棄してから着陸に入る。

事故機は燃料廃棄をせず着陸し、機体後部を滑走路に打ち付けるなどの衝撃で燃料に引火、炎上したのではなかろうか?

機長は総飛行時間6,800時間、うち事故機と同型機の飛行時間は1,400時間。経験豊富と呼べるパイロットだった、と報道されている。経験豊富な機長がなぜ緊急時の基本動作を実施できなかったのだろうか?

副操縦士の経験は報道されていないが、副操縦士がパニック状態になり機長が取り乱したというのは、普通は考えにくい。上司が取り乱しているのを見て部下がパニックになるというのはあり得ると思うが、部下が取り乱せば上司は冷静にならざるを得ないだろう。

機長はパニックにはなっていないにせよ、冷静さを欠いていたかもしれない。
副操縦士が助言することはできるはずだが、コックピットに「心理的安全性」がないと助言など口にできないこともありうる。

「心理的安全性」とは、ハーバードビジネススクールのエドモンドソン教授が提唱した概念だ。
「対人関係のリスクを負うことに対して安全であるという、チームに共有された信念」として定義している。つまりチームのメンバーが何を発言しても否定されたり罰せられたりしないという確信がある状態をいう。

グーグルはチームの生産性を上げるにはどうしたらよいか、という目的で「アリストテレス・プロジェクト」という調査研究をしたことがある。その結果「心理的安全性」が低いチームは生産性が低いという結論が出ている。

この事故に関して考えると、機長が強権抑圧的な態度でチームを統制すると、心理的安全性が
低くなりチームのパフォーマンスが悪くなる。その結果チーム内には以下の状態が蔓延する。

  • 無知だと思われることへの不安が増す
  • 無能だと思われることへの不安が増す
  • メンバーから嫌われることへの不安が増す
  • ネガティブだと思われることへの不安が増す

副操縦士がこのような感情を持っていたとすると、緊急着陸の前に燃料投棄の手順が必要だと機長に助言することはできないかもしれない。

強いチームのリーダは部下を一人前の人間として扱い、指示命令よりは質問により提案を引き出す。質問とは解決方法を教えるための暗示だ。教える・指示するよりは気付きを引き出す。

部下の育成に無関心な人間は、その上に職位に上がるのは難しい。なぜなら自分の仕事を任せる部下がいなければ、永久に今の職位に留まることになる。


このコラムは、2019年9月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第880号に掲載した記事に修正加筆しました。

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完結編・5Sは知っているけど……

今週のメルマガでは,5Sは知っているけど実践できないリーダをどう指導すれば良いかというテーマを提供させていただいた.

【今週のお題】
5Sの知識はある.言うことも立派.
でも彼の職場はごみダメの様になっている.

この班長さんにちゃんと5Sが徹底できるようにするにはどう指導したら良いだろうか.あなたが彼の上司だったらどう指導しますか?

【私のアイディア】
メルマガにはまず現場で率先垂範し手本を見せると書いた.
一種のOJTだ.教えた知識を行動に移すことで知識が能力に変換される.

その前に5Sの目的と基準をきちんと説明する事が重要だと考えている.
何のために整理・整頓・清掃をするのかをきちんと教えなくてはならない.
お客様が来るから整理・整頓・清掃をするわけではなく,それらによるメリットを教えるわけだ.

また整理・整頓・清掃の到達すべき基準を明確にする事が必要だ.
整理・整頓・清掃しなさいといってもどのレベルにしなければ分からなければ対応のしようがない.

例えば清掃をしなさいといっただけでは,どこをどの程度きれいにしなければならないのか分からない.
合格レベルをきちんと示す事が必要だ.

【S様のご意見】
中国で現場指導した経験が無いので、すなおに実施出来るかわかりませんが、次のような手順でしょうか。
(1)現状の作業時間をチェック
(2)ゴミと必要なものを分け、ゴミは捨てる。
(3)赤札作戦で、頻度が低いものを現場から離す
(4)現場にあるものを定置化する。
(5)作業時間の再チェック

を繰り返す。また、一緒に実施していく。
効果が目に見えてくれば、意識が変わってくると思います。

S様がご指摘のように,5Sが習慣になるまでは繰り返し指導が必要だ.

【T様のご意見】
 私は以前“ホテル客室”を管理、製造業の経験はありませんが、「職場での意識」は共通してますね。中国では「管理者」が仕事を管理し、従業員は「指示されたこと」をするという考えが強い。
 整理、整頓と言われても「個人の感覚誤差」があり、管理者がどの程度を求めているのかわからない。管理者は、まず自分が求める「標準形」を示す。中国人従業員は、その「標準形」に沿って仕事をする。
 また、この班長さん、周囲が「ゴミ」などが散乱していたそうですが、彼ら中国人は、「自分は清掃員ではない」という考え。清掃員にやらせろ!という感覚ですね。典型的な中国人ですね。

T様のご意見は典型的な中国人スタッフの行動原理を良く把握されていると思う.このように相手がどのように考えて行動しているかを理解したうえで指導とより効果的であろう.

【H様のご意見】
座学を終えた班長に納得して5Sを推進して貰うために、先ず現場へ行って
設備や治具からありとあらゆるモノに対して、
何のためにそこに有るのか、
いつどのように使うのか、
誰がどこで使うのか
について一つずつリストして行きます。
「赤札作戦」のようなものですね。

それを、日頃必要になる頻度・優先度に則って順位を付けます。

これには間接部門にも参加してもらい、
同じ尺度で現場現物を見て同一の認識に立って全員が知恵を出し合って改善を後押しすると良いと思います。

さらに恒久対策と水平展開として、
他部署の班長など第三者による組織によって、より客観的な水準に基いた評価と不具合箇所の発見に努めると良いと思います。相互の部署への現場査察や改善報告などに結び付けたいと期待します。

最後に、現場の定点観測すると良いと思います。

単に現場に存在する余計なモノをポイポイ捨てるだけでは現場リーダーは付いて来ないと思います。作業合理性や生産性だけ説いてもダメ。
客先品質保証部門へ図面変更を依頼したり、作業標準更新であったり、治具の設計製作をしたり、会社規定や人事評価基準を改めたり、間接的かつ強力なバックアップが欲しいと思います。

H様のご意見は詳細な手順も入っており,皆さんの参考になったのではないだろうか.
5Sをバックアップできるように人事制度を整えるというのは,すばらしい視点だと思う.

【Y.H様】

  1. 整理:いるものといらないものの区別をつけ、いらないものは撤去する
    (一定のスパンでそれを行い、その間ずっと使っていないものは撤去する)
    目的は、誤使用の未然防止
  2. 整頓:必要なものを必要なときに効率よく取り出せるような状態にすること
    (物の置場を決める)
    目的は、物の置場を決めることにより、それを探したりする無駄な作業の低減
  3. 清掃:職場のゴミや汚れなくし、きれいな状態にすること
    目的は、汚れていない状態を維持することにより、汚れたときの異変に気づく

清潔、しつけの前に、上記(1)~(3)を目的をよく説明すること、もし整理整頓清掃をしなかったらどうなるか=失敗事例を交えて説明する。それを理解させたうえで、手法はその班長に考えさせる。
5Sを一気にするより、上記の3Sを徹底させる必要があります。

Y.H様のご意見は目的を理解させたうえで,具体的な方法を考えさせる.
考えさせる手法で,OJTをうまく活用できると思う.
ただ教えてもらっただけではなく具体的に自分で実施してみる,ということにより考える力や応用力がつく.
特に知識偏重の中国人スタッフを鍛えるには良い方法だ.


このコラムは、2008年12月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第67号に掲載した記事です。

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近づければ不遜、遠ざければ怨む

yuē:“wéi(1)xiǎorénwéinányǎngjìnzhīxùnyuǎnzhīyuàn。”

《论语》阳货第十七-25

(1)女子:教養のない女性

素読文:
わく:“じょしょうじんとは、やしながたしとす。これちかづくればすなわそんなり。これとおざくればすなわうらむ。”

解釈:
子曰く「女子と小人は付き合い方に困る。近づければのさばり、遠ざければ恨む」

孔子は《论语》为政第二-14でこう言っています。
わく、くんしゅうしてせず。しょうじんしてしゅうせず。

女子とは女性全般ではなく、教養のない女性のことです。念のため。