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朝日新聞ヘリの緊急着陸、部品の摩耗が原因 運輸安全委

 東京都健康長寿医療センター(板橋区)の敷地内にある空き地に4月、朝日新聞のヘリコプターが緊急着陸した原因について、運輸安全委員会は17日、「回転翼を操作するスイッチの部品が摩耗していて操縦に障害が生じた」とする調査報告書を公表した。

 報告書によると、ヘリは4月27日午後、取材から戻る途中に板橋区上空で操縦装置に不具合が生じた。機長は速度を上げようと、回転翼の傾きを操作する「コレクティブスティック」を引き上げようとしたが上がらず、空き地を見つけて着陸した。

 安全委がスティックの摩擦抵抗を緩めるスイッチ部分を調べたところ、ねじが緩んでがたついていた。このため、部品の一部が摩耗し、スイッチを最後まで押し込めない状態になっていたことが分かった。スイッチのねじ部分は覆いがあるため、「目視による点検は不可能だった」と指摘。メーカーに「材質を摩耗しにくいものに変えることが望ましい」とした。

 朝日新聞社広報部の話 予防的に緊急着陸しました。今後も安全運航に一層努めます。

朝日新聞ディジタルより

 私はヘリコプターのメカニズムに関しては,まったくの素人だ.従ってこのコラムは,ヘリコプターの事故を題材にした,メンテナンス,予防保全に関するコラムとして読んでいただきたい.

記事によれば,事故はネジの緩みにより部品が磨耗,コレクティブスティックが操作不能になったということのようだ.運輸安全委員会の報告書には,部品の耐摩耗性をあげることをメーカに推奨しているという.

しかし,部品の磨耗がネジの緩みにより発生したのならば,ここに対策を打たねば事故を未然に防ぐことは出来ないだろう.耐摩耗性の向上だけでは,延命になるだけだ.

常に振動がかかっている部分に使用されるネジは,点検増し締めが必要だ.
しかしこのネジは外部から目視不可能という.ネジの緩みがメンテナンス不良などの人為的原因により発生したのでなければ,ネジは点検増し締めが可能な構造にしなければならないだろう.

操縦不能によって発生するリスクは,乗客,乗務員の生命の危険だ.これはトップクラスのリスクであり,最優先で改善しなければならない.

4月の事故が12月に報告されたのでは,同型ヘリの他の機体に対して点検・予防保全をするのが手遅れになる.

工場の設備も同様だ.
万が一事故があったときは,リスク(生命財産への危険,生産継続への障害など)により優先度,緊急度を決定して,すぐにアクションをとるべきだろう.

設備ばかりではない,車載用の電装モジュールなどは,生産時にモジュール内部のネジ締めは厳重に管理されている.ネジ一点ごとに締め付けトルク,斜行によるネジの浮きがチェックしている.これは抜き取りや目視検査によって行われるのではない.工程内で100%自動検査が行われている.


このコラムは、2010年12月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第184号に掲載した記事に加筆したものです。

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ハインリッヒの法則

 このメールマガジンを読んでおられる方で「ハインリッヒの法則」をご存知ない方はおられないだろう。ハインリッヒという名前を知らなくても「ヒヤリ・ハット」といえばご存知であろう。

大怪我を負うような事故1件につき軽傷事故が29件、事故にはならなかったがヒヤリ・ハットするような事象が300件ある、という経験則をハインリッヒの法則とよんでいる。

これは安全災害だけではない。
例えばお客様の苦情を放置していた結果、保険金未払いで金融庁から業務停止命令を受けた保険会社もある。

我々製造業でも同じだ。
ある製品の工程内不良が0.7%あった。特に出荷を止めなければならないほど不良率が高かったわけではない。しかし全て同一部品による同一現象の不良であった。出荷を見合わせ、解析をした結果部品のロット不良と判明した。検査合格品でも動作環境によっては市場で不良現象が出る可能性があった。

以前指導していた中国企業は、『售后服務部』(アフターサービス部門)に寄せられる顧客からの情報は設計部門にも製造部門にも共有していなかった。

製造部門の工程内不良、アフターサービス部門の顧客からの情報、これらはヒヤリハット情報といっても良いだろう。

不良率だけではなく、不良現象別に不良率をリアルタイムに集計していれば異常を早期発見できる。大量の工程内不良が発生する前に対策することが可能になる。その結果不良が市場に流出するという最悪の結果を未然に防ぐことができる。

アフターサービス部門の情報を全社で共有すれば、顧客クレームの無い製品を設計できるようになるはずだ。また修理情報などから部品の寿命データを収集できる。この結果顧客に対する予防保全サービスの提案ができるようになるし、新製品の設計に活かせば、他社との差別化にもつながるはずだ。

製造の不良情報、アフターサービスのクレーム情報、修理情報などネガティブに捉えることなく、社内で共有する体制を作るべきだ。


このコラムは、2018年11月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第751号に掲載した記事に加筆・修正したものです。

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不立文字

 りゅうもんとは禅宗の教義を表す言葉で、文字や言葉による教義の伝達のほかに、体験によって伝えるものこそ真髄であるという意味。

通常私たちは,文字や言葉を使って他人とコミュニケーションをしている。
しかし相手に伝わる情報は言葉よりも、表情、仕草などの言葉以外の要素によるところが多いと言われている。口角を上げる、ウィンクをする、親指を立てる。こういった仕草が言葉以上の情報を相手に伝えることもある。

しかし不立文字で得る情報は,相手の感情ではなく禅宗の教義だ。単純な事柄ではない。言葉を使わずに禅宗の教義を理解することができるのだろうか?

禅宗には「只管打坐」という言葉がある。真理を会得するためには教えを請うのではなくひたすら坐禅をせよ、という意味だ。

真理とは何かを百言を費やしても理解できないであろう。だからこそ不立文字であり只管打坐なのではなかろうか?

百言を費やして説き教えるよりは、自ら体験することで理解させる。
このように簡単に言葉にしてしまうと、ありがたみがなくなるが(笑)
「教える」とは、体験を通して自ら理解させることではないだろうか。


このコラムは、2019年9月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第870号に掲載した記事に加筆したものです。

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続・女工さん不足

先週の「女工さん不足」の記事に読者様からメッセージをいただいた.

K様のメッセージ

今回の記事の女工さん不足の件ですが、湖北省・武漢の近くの出身者が言っていましたが、最近、武漢に多くの企業が進出したそうです。

華南のそれに比べて若干の給料差はあるようですが、ほぼ地元で収入を得られるためにわざわざ華南地区まで出稼ぎに来なくても良いという子が増えているとのこと。

当然親もバスに乗ればすぐに帰ってこられる地元が安心できるでしょう。

今までは内陸部に工場が少なく、沿岸部まで出稼ぎというパターンでしたがアパレルやおもちゃでしょうか、人件費の高騰に音を上げ内陸部に移設しているという話を聞きましたが、この関係も大きいと思います。

華南の人手不足は続くと思います。

K様メッセージありがとうございます.
ご指摘のとおり,内陸部に農村の余剰労働力を受け入れる受け皿が増えている.

90年代末ころ東莞の新聞に重慶(だったと思う)の工場の人材募集広告が出ていた.東莞と同じ条件で採用する,という広告だった.当時はまだ工場の前に人材募集の赤紙を貼ればいくらでも応募者が並んだのでそれほど脅威には思わなかった.

それがあっという間に女工さんが雇えなくなり,工場の中に男子工員が増え始めた.業種によっては男子工員のほうが良いのだが,電子部品の組立てのように細かい作業はやはり女子工員のほうが忍耐強く作業をしてくれる.

当時女工さんがずらりと並んだ工場を見てオートメーションをもじって「乙女ーション」といっていたのが懐かしい.今では男子工員の数が目立つ.

従業員の数だけではなく,質も変わってきた.
中国では若い人たちの気質の変化を「80后」(’80年以降生まれ)「90后」と表現する.
親の生活を支えるため,弟,妹の学費を稼ぐために農村から出てきた女工さんたちは「苦役」に耐え,田舎に帰ることを夢に見て働いた.

しかし最近では,都会の生活にあこがれて出てくる若者が増えているように見える.

工場を見ていても作業員が携帯電話を持っている.太った若者が増えてきた.
残業を喜ばない者が増えてきた.工場が街から離れているという不満が出る.
90年代後半にはなかった現象だ.

この流れは国の発展に伴う必然の変化だろう.日本の歴史を見れば明白だ.

ではもう華南地区で工場経営を維持するのは不可能なのだろうか.今までどおり多くの女工さんを集め苦役に耐えながら作業をさせるという考え方を変えなければ,工場経営の未来はないだろう.

若者の気質の変化は考えようによっては,都合の良い変化だ.
「苦役に耐える覚悟」を持って出てきた若者はやがて疲れて故郷に帰ってゆく.しかし「都会に対する憧れ」をもって出てきた若者は指導の仕方で,憧れを夢に,夢を現実に変えるため仕事を通して自己成長を遂げるだろう.

こういうモチベーションの高い若者を正しく導き,少数精鋭で高品質・高付加価値・高フレキシビリティなモノ造りに転換してゆけば,激しいコスト競争の外側で経営ができるはずだ.

時代の流れは変えられない.
変えられないことを嘆くよりは,自ら変えられるところに注力すべきだ.


このコラムは、2009年10月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第122号に掲載した記事に加筆したものです。

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女工さん不足

 「世界金融危機」に端を発して中国の失業率がジワリと上昇しているといろいろなメディアで報道されている.
確かに学校を出て職にありつけない学歴人材もある.特に日系大手が駐在員を帰国させているため,日本語人材が過剰気味になっているようだ.日本語プラスアルファの能力がない人たちは苦戦をしている.

しかし作業員の状況は違っている.

受注が増え始めている工場が作業員確保に奔走しているが,思い通りに集まっていないという話をよく聞く.
私のところにまで作業員をどこかで確保できないかという話が来る.少数精鋭のモノ造りに転換しましょうと常々言っている私のところに相談に来るのだから,よっぽど困っておられるのだろうと察している.

ほんの10年前まで農村地帯から出稼ぎに来る女工さんたちは,無限の資源のように思えた.作業員が必要ならば,工場の門に募集の赤紙を張り出せば翌朝には長蛇の列が門前に並んだ.そんな光景がものすごく昔のことのように感じる.

ではなぜ女工さんがいなくなってしまったのか?
豊かになった都市部ではどんどん第三次産業が増えてきている.この第三次産業が出稼ぎの女工さんたちを飲み込んでしまっているというのが,私の分析であった.

今年下半期は広東省の求人の半数が第三次産業のものになるという予測も地元新聞で報道されていた.工場で苦労して働くよりは,きれいな洋服を着て売り子さんやレストランで働いたほうが楽かもしれない.

しかし先日私が尊敬する工場経営者と話しをしていて目からうろこが落ちた.
彼の仮説によると,開放改革以来30年経ち農村部からの出稼ぎ女工さんが「第二世代」になっているのが原因だという.

つまり2,30年前に出稼ぎに来て当時の劣悪な労働環境で苦労した「第一世代」の女工さんたちが,田舎に帰りその娘が出稼ぎ適齢期になっているというのだ.

農村部と沿岸地区の生活格差が大きいとはいえ,そのころの農村部の生活と比べれば格段に改善されている.わずかばかりの仕送りに期待してかわいい娘を都会に送り出す母親はいないというわけだ.

これは一理ある.
わずかではあるが私の周りにいる地方出身の若者に聞いてみると,母親が以前都会に出稼ぎに来ていた人はいなかった.

報道やデータを鵜呑みにすると,間違った判断をしてしまう.
人々の「心」や「気持ち」を理解しなければ正しい判断はできないだろう.


このコラムは、2009年10月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第121号に掲載した記事に加筆したものです。

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中国華南の景気

 よく利用している白タクの運転手さんが「もう金融危機の影響はなくなったよね」と話しかけてきた.

彼は道の混み具合で景気の動向を計っているようだ.
最近はコンテナ車が多くなり道が混んで来たと言うのだ.
それぞれに自分なりの視点で世の中の動向を感じ取っているのだろう.

日本では失業率や有効求人倍率などから見ると,まだまだ不景気から脱しきれていないようだ.

同じ観点で中国華南の景気を見るとちょっと違和感を感じる.
世の中では「世界金融危機」といわれていたころから,作業員を集めにくくなっているという声をいろいろな場所で聞いている.

いま少し景気がよくなってきている時点ではさらにその声が大きくなってきた.
先日も知り合いの経営者から,どこかに作業員は余っていないかと相談を受けた.

作業員を集め切れなくて,人材派遣会社に多額のマージンを支払って集めている工場もあるほどだ.

あれだけたくさんいた工員さんたちはどこへ行ってしまったのか?

景気が悪くなり,田舎に帰った工員さんたちは都会に出てくるのを様子見している.余っていた工員さんの大部分が自動車関連工場に吸収されてしまった.
などなどいろいろな憶測が飛び交っているが,実は第三次産業に人材が流れ始めているというのが正解ではなかろうかと思っている.

内陸部の安くて良質な労働力で世界の工場として発展した華南であるが,ジワリと製造業離れが始まっているような気がしてならない.

先進国の発展過程を見ても,遅かれ早かれその流れは間違いなく来る.少人数でのフレキシブルなモノ造りに早くシフトしてゆかないと苦しくなるだろう.
受注量が増え始めた今を乗り切るために作業員をかき集めることも必要だが,生産改革に向けてまず一歩を踏み出すべき時期だと考えている.


このコラムは、2009年8月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第114号に掲載した記事に加筆したものです。

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トヨタ、ヴィッツ8万台リコール 窓開け閉めで不具合

 トヨタ自動車は21日、乗用車ヴィッツ8万2226台(05年1月~8月製造)のリコール(回収・無償修理)を国土交通省に届け出た。運転席のドアにある窓を開け閉めする電気スイッチの内部がショートして、窓の開閉が
できなくなる恐れがある。これまでに32件の不具合が報告され、08年11月には、島根県でスイッチから発火した事案もあった。けが人はなかった。

(asahi.comより)

 トヨタがおかしい.
この8月にトヨタは中国市場で窓の開閉スイッチの不具合によりヤリスを含む68.8万台のリコールをしたばかりだ.

「トヨタ、中国で乗用車68万台をリコール 窓の開閉装置に不具合」

ヤリスは名前が違ってもヴィッツそのものだ.中国でリコールを発表して2ヶ月経ってから日本国内で回収を発表している.しかも中国で回収対象となっている他の車種,カムリ,カローラ,ビオスについては記事には何も触れられていない.

市場での発煙事故から14ヶ月かかっての回収発表だ.

国内市場向けの車は国内で生産しているだろうから,問題のスイッチメーカは中国で回収対象となったメーカとは違う可能性もある.しかし68.8万台の回収事故に対して,水平展開が図られなかったのだろうか.

簡単な事だ.
スイッチの故障モードに対してFMEAを全車種に展開すれば良いだけだ.

  • 検査容易度:スイッチベンダー,工程内でのこの不良モード検出度
  • 故障率:この不良モードの予測故障率
  • 影響度:この不良モードが完成車の運転に与える影響度
     パワーウィンドウが開閉できなくなったとしても,重大な影響はないと考えてはだめだ.運転手がパワーウィンドウに気を取られて運転ミスをすれば即人身事故につながる.これは完成車メーカが一番良く知っているはずだ.

この評価を使用しているスイッチの構造,製造方法ごとに実施すれば,どの車種が危ないかすぐに分かったはずだ.

トヨタはモノ造りに関しては自動車産業を超えて世界中の企業から尊敬・研究の対象となっている.
そのモノ造りの根底にあるのが「顧客中心主義」「品質第一の心」だと理解している.
最近立て続けに発生した回収問題が,トヨタ崩壊の予兆でないことを祈るばかりだ.

このような大きな回収問題を発生させても,まだ生き残っているのはトヨタという強い体力を持った大企業だからだ.中堅・中小企業ならばひとたまりもない.

設計段階,生産移行段階から安全レビューを実施するなど予防保全的な仕組みを構築する必要がある.


このコラムは、2009年10月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第122号に掲載した記事に加筆したものです。

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トヨタ、中国で乗用車68万台をリコール 窓の開閉装置に不具合

 トヨタ自動車は24日、中国で乗用車約68万8000台をリコールしたことを明らかにした。窓の開閉スイッチに不具合があり、熱が発生して部品が損傷する可能性があるという。リコールは現地時間23日の11時に発表した。

 リコールの対象となったのはカムリ、ヤリス、カローラ、ビオスの一部。同社広報によると、窓ガラスの開閉スイッチ設定部にグリースが多く塗布されたことが原因。

(NIKKEI NETより)

 東莞市ローカルタブロイド紙の25日付記事でリコールを知った.68.8万台のリコールというのは中国でも最大規模の回収となった.

スイッチ部分にグリースを塗布するというのが理解できない.
グリース類はスイッチハウジング,ノブなどのプラスチックに悪影響を与え,比較的短期間でプラスチック部品がクレージング破壊を起こす.プラスチック部品やその近くに潤滑油などの油脂を塗布することはまれだ.どうしても必要な場合は,耐クレージング性の高いPOMなどの材料を使用する.
中国ではパワーウインドウの開閉ができなくなっているタクシーにしばしば乗り合わせる.窓の開閉不良など致命故障ではないという考え方だろうか.
後部座席の左側扉が内部から開閉できず,運転手に右から下りろと言われたこともある.

中国の国産車がこの程度の品質なので,故障に対しては比較的寛大な受け止め方をしているように感じる.

日本車は販売価格が高くても,故障が少ないので維持費を含めた総コストは日本車のほうが安くなる.と多くの人が信じているようだ.

今回のリコールに対する地元紙の論調は,「サービスセンターに持ち込めば15分もあればただで修理してくれる」と友好的な記事になっている.今のところ一時期の日本製品バッシングのような動きはなさそうだ.

下手に隠し立てなどするとこうは行かないだろう.
品質保証は「正直が一番」というのが私の信条だ.


このコラムは、2009年8月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第114号に掲載した記事に加筆したものです。

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「Galaxy Fold」発売延期

 米国時間4月22日、またしてもサムスンの折りたたみスマートフォン「Galaxy Fold」に関する悪い知らせが飛び込んできた。同製品をめぐっては先週、早期に生産されたレビュー用端末の画面が破損するという報告が複数寄せられていた。サムスンは、26日に予定していた同製品の発売を延期することを認め、「数週間のうちに」新しい発売日を発表すると述べた。

 「ディスプレイについて報告された問題を検査したところ、ヒンジの上下の露出部分における衝撃が関係している可能性があることがまずわかった。端末内部の物質がディスプレイの表示性能に影響していたケースもあった」と、サムスンは声明で述べた。「このフィードバックを十分に評価し、さらなる社内テストを実施するために、Galaxy Foldの発売を延期することにした」(サムスン)

 同社は、このデバイスを予約注文していたユーザーに電子メールを送り、「2週間以内に、より具体的な出荷情報」を通知すると述べた。出荷されるまでは端末代金がユーザーから徴収されることはなく、気が変わった場合は、出荷前ならば注文をキャンセルすることができる。

(CNET Japan より)

 「折りたためるディスプレイ」という驚きをもって迎えられたサムスンのGalaxy Foldの落胆ニュースだ。

発端はレビュー用にメディアに配布したサンプル機のディスプレイ故障だ。サムスンはサンプル機の故障に関して以下のように言っている。
“何人かのデバイスは可能な限り最高のユーザーエクスペリエンスを保証するために、Galaxy Foldがさらなる改善を必要としていることを我々に示してくれました。このフィードバックを十分に評価し、内部テストを実行するために、Galaxy Foldの発売を延期することにしました。”

プロトタイプを展示会などで発表することはありうるだろう。しかし発売日を決定して発表した商品で、このような事例はお粗末としか言いようがない。

当然4月26日発売の初ロット生産前に、製品の信頼性評価、妥当性評価は完了していたはずだ。

折りたたみ式ディスプレイという新技術を搭載したスマホであれば、折りたたみ耐久評価が完了していなければならない。例えば商品の耐用年数3年、1日の折りたたみ回数を10回と定義すれば、10,000回程度の開閉評価をすれば分かることだ。つまり1秒に1回開閉する検査機を作れば約3時間もあれば評価可能だ。

またユーザが保護フィルムを誤って剥がしてしまう事が,故障原因の一つであると言っているが、こういう問題を事前に洗い出す事が「妥当性評価」だ。

開発の立場で考えれば、いち早く市場に投入して業績に貢献したいと考える。
しかし品質保証の立場で考えると、顧客利益を守る(品質損失を最小限にする)ために必要な手続きを踏みたいと考える。どちらが良い、悪いということではないと思うが、どちらを優先するかが企業文化であり、それを評価するのは消費者だ。


このコラムは、2019年5月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第820号に掲載した記事に加筆したものです。

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インプットとアウトプット

 中国の工場を見ていると,経営幹部がインプットとアウトプットしか見ていない様に思える局面にしばしば出会う.

経営的にはアウトプット(売上)からインプット(投入コスト)を差し引いたものが利益になるわけだから,経営幹部としてインプットとアウトプットを見ていることは間違いではない.

インプットから予定通りのアウトプットが出ていないので是正したい.
インプットを減らしアウトプットを増やしたい.
というのが日々のオペレーションであろう.

しかしこれらの課題は,インプットとアウトプットを見ていても解決方法は見つからない.それらを結ぶプロセスをしっかり見据えなければならない.

インプットとアウトプットを管理するのではなく.
インプットとアウトプットでプロセスを管理すべきだ.
「を」と「で」の違いは大きい.

先日ある工場で,完成品をコンベアに流して梱包を開け再梱包をしているのを見た.現場のリーダに聞くと倉庫にあった製品を出荷するために再点検をしているという.
機能検査をするわけでもなく,外観検査をするわけでもない.ただ梱包箱から出して「点検」をしてまた再梱包をしているだけだ.

このプロセスを見れば,無駄な作業をしているのは一目瞭然だ.しかし経営幹部は入りと出しか見ていないのでこの無駄に気がついていない.

この工場はまとめて作れば効率が良いという考えから抜けられないでいる.何度経営者を説得してもだめだ.それには理由がある.本社指示通りに生産していれば,出荷しなくても生産した分だけ工場にお金が入ってくるようになっているのだ.

そのためこの工場の倉庫は三階までびっしりと製品が並んでいる.
新たに出荷するために生産した物(これも一気に大量に作ってしまう)は置く場所がなく生産現場のそこかしこにおいてある.

明らかに作りすぎの無駄である.

工場が潤っていても本社が在庫の金利負担や,売れなくなった製品の廃却負担が増せば共倒れになることは目に見えている.「部分最適」しか見えていない工場経営者に理解してもらうのは困難だ.


このコラムは、2009年8月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第114号に掲載した記事に加筆したものです。

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