コラム」カテゴリーアーカイブ

電解コンデンサの発煙事故

先週インターネットのニュースを閲覧していて「製品評価技術基盤機構」(Nite)という独立行政法人を発見した.ホームページでは製品安全・事故情報を公開している.「安心を未来につなぐナイトです」というキャッチフレーズだ.過去の事故事例から未来に発生するかもしれない不具合・事故を未然に防ごうという趣旨である.

是非このサイトを時々ご覧になって,自社製品の不具合・事故の未然防止に役立てていただきたい↓
製品評価技術基盤機構(Nite)

今日はこのサイトにあった事故ファイルから事例を紹介したい.

【事故通知内容】

 CDプレイヤーを使用していたところ、電源アダプターから煙が出た。

【事故原因】

 電源回路の平滑用コンデンサー製造時に混入した異物がセパレーターに損傷を与え、電極間にスパークが発生し発熱したため内圧が高くなり、防爆弁が作動して内部の電解液が蒸気となって噴出したものと推定される。

【再発防止措置】

 コンデンサーメーカーにおいて、作業者の教育訓練を強化し、作業現場の温度管理を強化して環境の安定化を図るとともに、工程ごとの部品管理の改善を図っている。

アルミ電解コンデンサの不良事故である.
残念ながら事故原因の追及が甘い.コンデンサーに異物が混入した原因までさかのぼる必要がある.
どんな異物であったのかが特定できれば,どの工程で混入したのかが分かるはずだ.
例えばアルミ箔のくずが混入していたのならば,アルミ箔を一定の幅に切りそろえる工程でバリが発生していた事が考えられる.
非導電性の異物であれば,アルミ箔と絶縁紙を巻き取る工程で混入したと考えられる.

このように発生工程と原因を更に特定をしなければ,正しい対策は打てない.

したがって再発防止措置のところに「作業者の教育訓練」がトップに出てきたりする.もちろん作業者に対する教育訓練は必要だがこれだけでは不十分だ.

真の原因に対する対策が不足している.
例えばアルミ箔のバリが混入していたのならば,バリが発生しないようにする.
箔の巻き取り工程で異物が混入したのならば,異物が発生しないようにする.

皆さんの工場では再発防止対策に,
「従業員に注意をした」とか
「従業員に再教育をした」
などという言葉が並んでいないだろうか?


このコラムは、2008年9月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第51号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

作業員の質

 最近SNSを利用して中国企業の人事部門、品質部門の人たちと議論を始めた。日本人は私一人(笑)他は全部中国人幹部だ。

ある民営企業の品質部門幹部が、こんな悩みをSNSに揚げた。この企業はSMT部品を実装機にかけられる様にテーピングの作業をしている。作業員の60%が臨時工だ。

しばしば異部品を混入させ顧客クレームを発生させている。品証部門は顧客に対しするクレーム処理に忙しい。彼は臨時工の質が悪いからクレームが発生すると愚痴っている。

SNSのメンバーからは様々な意見・アドバイスが飛び交う。

  • 教育が足りていない。
  • システムに問題がある(ミスに対して罰金だけで、褒賞が足りていない)
  • 工程に問題がある(自動化すればミスはなくなる)
  • 経営者の従業員に対する「愛」が足りない。

臨時工の質に問題があるから、教育する、褒賞を与えてやる気を引き出す。
しかし出された対策では、効果が確信できないと私には思える。

例えば、東京ディズニーランドは90%の職員が臨時工だ。それでも一人一人の従業員が自ら工夫し、顧客の感動を目指して仕事をする。だから多くの顧客がリピータとなって業績が上がる。

確かに「教育」は重要だ。東京ディズニーランドでは1日だけの臨時工でも例外なく1日の導入教育をする。スターバックスでは80時間の導入教育をしているそうだ。この教育の目的は、企業の目的を明確にし従業員の役割を理解させる事だ。
今現在顧客クレームを垂れ流している現状には何ら役に立たない。血を流している患者に、健康の意義を説いても始まらない。

この企業に今必要なことは、まずクレームを撲滅することだ。
現場を見ていないので、確かなことは言えないが、作業そのものが異部品混入のリスクを抱えていると思える。

  • 部品置き場の識別管理ができていない。
  • 作業完成品の識別管理ができていない。
  • 同じ作業台に複数の部品が置いてある。

など現場の問題をしっかり見極めれば、自動化(テーピング中にAOI検査)などの設備投資をせずとも、5Sの徹底で解決するだろう。

その上で、自分たちはなぜ働くのかを明確にし、それを企業文化として育てる。
その役割の責任者は経営者自身だ。経営者の心を変えなければ、この企業は「絶望の工場」のままだろう。


このコラムは、2018年6月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第678号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

問題対処

 先週の「失敗から学ぶ:問題解決と問題対処」で、発生した問題を根絶するため原因追求し改善するのが「問題解決」、発生した問題の影響を管理するのが「問題対処」と書いた。

例えば、生産中に発生した不良を、生産に影響を与えない様にラインアウトし修理工程に回すのは「問題対処」。生産中に不良が発生したらラインを止めて、再発防止をするのが「問題解決」。

短期的に見れば、生産に影響を与えない様に「不良」を管理する方が合理的に思える。しかし長期的に見れば、不良を根絶する様「改善」した方が合理的だ。

この様に考えると問題対処などせずに問題解決をしなければならない事になる。しかし問題が工程内ではなく、顧客や市場で発生した場合は「問題対処」が重要となる。

「問題の発生防止」は当然だが、「問題の拡大抑制」、「問題の影響緩和」という問題対処も重要となる。
拡大抑制とは、波及範囲(問題が内在している製品ロットなど)を特定し隔離するなどの対処だ。
影響緩和とは、内部発熱が大きくなった時に機能停止により焼損事故防止するなどの対処だ。

しかし「拡大抑制」も「影響緩和」も市場で問題発生した場合、出来ることは限られる。ほとんどの場合、市場回収しかなくなる。

いずれにせよ、問題発生前の平素から「問題解決」に心がけることが必要だ。問題が発生しない平素から問題解決、という言い方に矛盾がある様に感じるが、ヒヤリハット300件に重大事故1件というハインリッヒの法則にある通り、日々発生する工程内不良を粛々と問題解決し続けることで顧客クレームを防ぐことができよう。

以前生産委託先の中国工場を日本から遠隔管理する際に、工程内不良が0.3%を超えたら即現地に出張指導をしようと決めていた。当時はハインリッヒの法則を意識したわけではないが、10ppmの重大事故(顧客クレーム)の陰に3000ppmのヒヤリハット(工程内不良)が潜んでいる、と後付けできそうだ(笑)


このコラムは、2018年1月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第621号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

不況の処方箋・高品質

 北京オリンピックが終わって一気に世の中の景気が冷え込んでしまった.
米国ビッグ3は経営難に陥り,政府の援助を要請している.
日本の自動車業界も押しなべて減産計画を打ち出している.
電子産業界も数千人単位の人員削減を発表した.

右を見ても左を見ても景気の悪い話ばかりである.
しかし景気が悪いと嘆いてはいられない.世界経済はいくら経営努力をしても自分達の力ではどうにも改善はできない.どの会社にも同じ条件だ.自分達でコントロールのできる条件で改善する事が出来れば,一気に競合の中で優位を占める事が出来る.

逆境はチャンスである.

こういう時期に体質改善を図り基礎体力を付けたい.
今までのような低コスト・大量生産から,高品質・高付加価値・高フレキシビリティ生産に切り替える事が重要だと考えている.

高品質:
今までのように不良率の低さを話題にするのではなく,不良がないのが当たり前にする.日本の企業の優れたところは,偏執狂ともいえるほどの不良低減活動を継続することである.
オペレーションリサーチ(OR)の教科書には品質とコストの曲線の最低地点(サドル点)が最適の品質だと書いてある.しかし世の中はそう単純ではない.品質とコストの2軸だけで世の中は説明できない.

顧客の安全・安心を徹底的に極めれば,コストと品質は相互にコンフリクトする要因にはならないはずだ.

以前指導をしていた工場でこんな事があった.
トランスを納入していた工場から,品質要求が厳しすぎるから値上げを認めなければ納入しないと申し入れがあった.トランスに付着している半田ボールの規格が厳しすぎるというのだ.

トランス工場に出かけて見入ると,コイル線をリード端子に半田付けする工程で発生した半田ボールを最終検査工程で拡大鏡を使って除去していた.女工さんを大勢投入しており,確かにコストがかかっている.

この工場には,半田付け工程で半田ボールが発生しないように工夫する事を教えた.
ちょっとした工夫で,半田ボール除去のための工数が大幅に削減できた.
こういう工夫をしなければ,この工場は永遠に顧客のクレームを受け,品質とコストのトレードオフに苦しんでいたはずである.

高品質にすることにより,顧客の信用が得られより良い条件で取引ができるようになる.コストをかけずに高品質にする事が出来た.高品質にすることにより,不良損失コストが抑えられる.

そんな事例があなたの工場にもないだろうか.
まだ成功事例がなくともアイディアを実行に移せば,必ず成果はあるはずだ.


このコラムは、2008年12月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第70号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

データの活用

 「ビッグデータ」「データマイニング」というキーワードを目にする機会が最近増えて来た。色々なデータを収集活用する事が可能になって来ている。
IoTの広がりが多種のデータ収集を可能にしている。例えばApple Watchなどに代表される身につけるデバイスがネットにつながる事により、個人のヘルス・データが大量に集まる様になっている。このビッグデータを解析する事により医療が、治療から予防に進化しようとしている。

これは我々製造業にも応用可能だ。

工程内検査のデータを集約し、Cpkをリアルタイムでモニターするなどと言う応用は既に実用化されて久しい。数値データのみではなく言語データの解析も可能だ。

先日顧客工場でアフターサービス部門が管理しているデータを見せてもらった。
単純に保守用パーツの在庫データを管理しているだけだ。しかし見方を変えると、これは市場での部品故障のデータだ。このデータにより部品ごとのMTBFを計算し、保守部品の最適在庫量を決める事が可能になる。

更に踏み込んで、設計時にこれらのデータを活用すれば、期待寿命に適合した部品選択、設計が可能となる。データを一見した所、期待寿命に適合した設計によりコストダウンが可能になるというよりは、製品のライフサイクルコスト、可動率の改善に役立ちそうだ。どちらにせよ顧客満足を上げる事が出来る。

こういう考え方が出来れば、アフターサービスのデータは「事後対策」から「事前対策」のためのデータとなる。

もちろんその効果を得ようと思えば、収集しているデータ(保守部品の在庫量)だけでは不足だ。「事前対策」に必要なデータは何か、アフターサービス部門だけではなく、設計部門、品質保証部門と協力して検討する必要がある。

顧客クレームが発生してから行う「事後対策活動」は、緊急度が高く精神的な負担も大きい。一方顧客クレームの発生を抑える「事前対策活動」はより効果が高く精神的な負担が少なくなるはずだ。

こちらもご参考に
「データの活用」


このコラムは、2016年9月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第492号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

データの活用

 データを活用して仕事のパフォーマンスを評価する。生産活動の中で日常的に行われていると思う。SPC(統計的工程管理)SQC(統計的品質管理)もその一種だが、1日の生産量、品質の出来映え、納期の遵守率など単純なデータで管理する事も多い。

管理すべき指標に合わせて採取するデータが変わる。
例えば、生産量のデータを毎日記録していても生産性は分からない。生産に要した時間、作業人数を記録する事により一人当たりの単位時間生産量が計算できる。これが生産性の指標になる。

当たり前の事だが、これが出来ていない工場を時々見かける。
ある工場では、品質指標として「直行率」(手直しなしで工程内検査を合格する率)と「品質達成度」を毎日記録していた。「品質達成度」が平均90数%となっている。
日々の推移を見るグラフでは、ほぼ毎日100%を達成しており、1日だけ85%と言う日が有った。これで平均が100%近くになるはずはない。よく見ると、品質達成率が125%の日がある。
またもう一つの品質指標である「直行率」を見ると、0%(手直せずに完成する製品が0個と言う意味)の日が沢山ある。

このような状況で、平均90数%の「品質達成率」と言うのは奇異だ。担当者に「品質達成率」の意味を尋ねると答えられない(笑)

このように作成したグラフが、毎月の経営会議なり品質会議で一人歩きしている。

どこかに間違いがあるはずだ。収集しているデータがおかしい、データを計算しているExcelの計算式がおかしい、指標そのものがおかしい、と言う事を確認しなければならない。

実はこのような事はままある。
標準作業時間を決める時に、ストップウォッチで作業時間を計測しただけの値を使っている。
部品調達率を計算する時に、ベンダーの納期回答に対する差異を使っている。
ベンダーの品質能力の指数に、受け入れ検査合格率だけを使っている。
顧客に対する納期遵守率に、納期変更後の日付を使っている(苦笑)

例を挙げれば、いくらでも出て来るだろう。

またこのような事例は現場だけではない。
経営者がバランスシートしか見ていないのでは?と疑問を持たざるを得ない事例を良く目にする。この様な工場では、材料在庫、中間在庫、完成品在庫が大量にある。こういう状態で受注が増えれば、あっという間に資金がショートし倒産する。

事例に挙げた工場では、コンサルに指導を受けてKPI管理をしている。
グラフを作成するためのExcelシートはコンサルが提供してくれたそうだ。管理すべき指標が正しいのか、指標が正しく管理出来ているのかをコンサルは指導しなかった様だ。

こちらもご参考に
「データの活用」


このコラムは、2016年8月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第488号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

単機能人材

 中国で生活していると色々な場面で,仕事が細分化され,それぞれの仕事に人が割り当てられているのを見る.

レストランに行くと,入り口にいるチャイナドレスの女性が客を席に案内する.それで彼女の仕事は終わりだ.次にテーブルの食器を準備する服務員が来る.この服務員に料理をオーダすることは出来ない.担当が違うのだ.メニューを持って来てくれれば,運がいい方だ.
その後黒服を着たオーダ受付係が来る.
料理を運んで来る者も,運んで来るのが仕事だ.テーブルの上に料理を並べたりはしない.別の服務員がテーブルに並べる.
皿を下げに来た服務員にお勘定を頼んでも,別の人が勘定書を持って来る.
全ての作業が役割分担されており,お互いにその分担線を越えたりはしない.
キャッシャー担当は,他がどんなに忙しくとも持ち場を離れることはない.
このような組織は,相互の連携が重要となるが,運が悪いと延々と待たされることになる.

オフィスの近所には,靴を生産する零細工場がいくつかあるが,採用募集の貼り紙を見ると,ミシン工,裁断工,手縫い工,雑用をこなす普工と細分化されているようだ.

品質保証部の中も細分化されている,受け入れ検査,工程内品質管理,出荷検査,品質エンジニア,顧客クレーム担当,ISO担当,それぞれに管理者がおり,作業者がいる.

このような組織は往々にして,部分最適となりがちだ.自部署のエゴで仕事をしがちなので,更にこれらを束ねる管理者が必要となる.

製造現場も同様であり,班長は自工程で決められた量だけ決められた時間内に仕上げることだけが仕事だと思っている.改善は別の人がやるモノ.へたをすると,品質は検査係の仕事だと思っている.

作業員やスタッフの流動性が高いために,この様なスタイルとなったのだろう.各自の作業責任範囲を狭くして,短期間で熟練出来る様になっている.しかしこの方法は,流動性が高いという問題を解決する対策にはなっていない.毎日同じ仕事をしていれば,成長感を感じられず転職して行くことになる.悪いことに,意欲の高い者から辞めて行く.

ある工場では,加工の前処理作業を一人のベテラン作業員が担当していた.彼女が辞めてしまうと,別の作業者が熟練するまでの間,生産が停滞する.他の作業員の育成をする必要があるが,経営者は彼女は病弱な夫と子供を抱えており,辞めたりしないと言い切っていた.従業員一人一人の家庭の事情まで把握できており,立派な経営者と感じたが,それが本当の従業員のためになっているとは思えない.

その工場では彼女一人しか出来ない作業だが,作業そのものは単純な研磨作業だ.他の工場に転職しても,同じ様に高い給与がもらえるとは思えない.更に悪いことに,そのベテラン作業員は自分の職位を守るために,他の作業員に作業のやり方を教えたりはしない.

従業員思いの経営者ならば,彼女が辞職した後も生活できる様にするだろう.
単機能人材に,高い給与を払ってやることが思いやりではない.それでは飼い殺しだ.

多機能人材を育成すれば,どこの工場に転職しても良い給料が得られる.これが本当の意味での「雇用の保証」だと思う.

多機能人材がどんどん育つ仕組みを作れば,自社の経営効率も上がる.
製造現場では,セル生産方式などを導入するためには多能工を育成しなければならない.作業員ばかりではなく,スタッフも多能工化を進めることが必要だ.
まずは,現場の班長たちに改善も自分の仕事だと理解させてはいかがだろう.

こちらもご参考に
単機能人材
続・単機能人材


このコラムは、2012年7月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第268号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

5Sは経営決断

 5S活動は何のためにやっているのだろうか?
お客様の監査があるから?
日本本社の要求?
となりの工場もやっているから?

こういう動機で5Sに取り組んでいても、あまり効果はないだろう。
こういう工場の経営者は、常に「明日はお客様の工場監査があるから5Sをしっかりする様に」とか「ウチの従業員は整理整頓が出来ていない」と言っている。

整理整頓とは、必要なモノだけが現場にあり、いつでもすぐ手に取れる状態になっている事だ。こうなっていれば、生産性が上がらないわけがない。部材や工具を取りに行く、探す、と言う行為は生産活動に対して付加価値を与えていない。実はこういう付加価値のない作業(付帯作業)は想定以上に多い。整理整頓によりこういう時間を短縮するわけだから、必ず生産性は向上する。

しかし整理整頓は現場従業員の責任だろうか?
部材や工具を使いやすい場所に必要な数だけ準備する。これが整頓だ。これは現場従業員がやらねばならない。しかし整頓がきちんと出来ていない最大の要因は、不要なモノが沢山あるからだ。

調達コストを下げるために大量発注した部材、見込みで生産した中間在庫、出荷の当てがない完成品在庫、全く使われていない設備などが生産現場を圧迫している。整頓をするためには、モノをあちこちに移動すると言うムダな作業が必要になる。

これらの「使えないモノ」「使わないモノ」「今使わないモノ」を整理するのは現場従業員の仕事ではない。一般従業員がB/S上の資産を勝手に消却出来るとは思えない。
これは経営者の経営決断だ。受注量以上に部材購入する、生産をするのと同様に、経営判断した上で経営決断をしなければならない。

5Sとは、企業の業績を上げるために経営者が行う経営決断だと考えている。一般従業員の「草の根活動」ではない。全ての従業員が同じ方向を向いて生産活動するために「躾」をするのも経営者、経営幹部の責任であるはずだ。


このコラムは、2016年8月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第489号に掲載した記事を修正・加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

従業員との信頼関係構築

 人の行動欲求の根源は「苦痛回避」と「快楽享受」だと言われている。
死の恐怖に直面すると、非常に強い行動欲求が生まれ、実際に行動する。「火事場の馬鹿力」の様に高いパフォーマンスを発揮することもある。報酬などを求めて行動を起こすのは、快楽の享受だ。

そんな単純ではないとは思うが、究極まで突き詰めれば、快楽と苦痛で説明が付きそうだ。
報奨金、昇格・昇給の餌で釣って、好ましい行動を強化する。
罰金、降格・降給などの罰則を使って、好ましくない行動を抑制する。
簡単に言えばこの様な「快楽」と「苦痛」の組み合わせで、人のマネジメントを行っている方が多いと思う。

しかし人のマネジメントの基本は、信頼関係だと考えている。
上司・部下の間の信頼関係。従業員同士の間の信頼関係。会社・従業員の間の信頼関係。信頼関係が有れば、相当無理な事も聞き入れてもらえる。信頼関係が出来ている組織では、ストライキは発生しない。
つまり、信頼関係が有れば「苦痛」や「快楽」の境界線が大きく変わると、考えれば良い。

2012年に自動車部品メーカの長期ストライキがきっかけで、多くの日系企業に賃上げ要求のストライキが発生した。ある地域の商工会会長さんから、地域で一番給与が安い日系工場があるが、ここでは絶対ストライキは発生しないだろうと言うお話を伺った。組織内の信頼関係ががっちり出来ているからだ。

日本人は、他人をすぐに信用する傾向に有る。海外に出れば、すぐ騙されるなど、ネガティブな側面が強調されるが、人を信頼出来ると言うのは「人間力」だと思う。

他人を容易には信じ合わない人々からどうやって信頼されるか。大変な難問の様に見えるが、実は簡単な事だ。相手に関心を持っている事と信頼している事を伝えれば良いのだ。

経営幹部のあなたは、従業員に対して「あなたの事をいつも気にかけています」と発信し続ければよい。

毎朝挨拶をするのは当たり前。(部下が先に挨拶するモノだと思っている人には、誰も挨拶して来ないだろう。こちらから先に声をかける。)誕生日や家族の記念日に声をかける。小さな善行を褒める。
一日に一回は現場に出かけ、こういう活動をしてみてはどうだろう。

ウチは従業員が5,000名もいるから不可能だと言う方も有るかもしれない。
しかし5,000名いたとしても、今日誕生日の人は平均13人強しかいない。1日に13人ならば、何とかなるだろう。それでも難しければ、携帯メールを送れば良い。誕生会をやっているから良いと考えてはいけない。私一人に言葉をかけてくれた、メールをくれたと思ってもらう事が必要なのだ。

従業員の生年月日、携帯電話、家族構成などは、入社時に書かせれば、人事データベースに入っている。人事部から今日記念日がある人のリストを毎朝提出させれば良いのだ。また慶弔金の支払いが有れば人事部から情報を貰う。この様に少し工夫をすれば、5,000人の従業員の心を掴むことができる。
小さな労力で、大きな効果があるはずだ。


このコラムは、2014年9月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第379号に掲載した記事を修正・加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

部下は上司の鏡

 子供は親の鏡.部下は上司の鏡.従業員は経営者の鏡.
こういうことは皆さんわかっているはずだ.しかし「うちの部下は気が利かなくて」「うちの部下はホウレンソウが出来なくて」なんて言っている人がたくさんいる.それは上司(自分)がだめだと公言しているのと同じだ.

部下が気が利かないのは,上司自身の部下に対する思いやりが足りないからだ.
部下がホウレンソウが出来ないと嘆く上司は「適当にやっといて」と指示を出し「あれどうなってる」を報告を求める.上司自身がホウレンソウが出来ていないと言わざるを得ない.

気が利かない部下を変えることは出来ない.他人と過去は変えられない.
しかし気が利かない部下を替えたところで,多分事態は変わらないだろう.
他人と過去を変えられなくても,自分と未来は変えられる.自分が変われば,他人との関係が変わり,その結果他人も変わる.過去の事実は変わらなくても,その意味が変わる.

子供と同じだ.子供は親が願ったとおりに育つ.悪いことをすると心配していれば,悪いことをするようになる.いつも叱っていれば,叱られることをする人間になる.いつも褒めていれば,自信を持った人間になりいざという時にくじけない.

子供を育てることと,部下の育成には多くの共通点があるような気がする.
もうお子さんが成人していても,こういう本↓に目を通す価値はある.
「子どもが育つ魔法の言葉」ドロシー・ロー・ノルト著


このコラムは、2012年5月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第256号に掲載した記事を修正・加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】