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続々・道具に神が宿る

 99号の「道具に神が宿る」に対するS様のメッセージから引き続き話題を広げたいと思う。
99号:道具に神が宿る
100号:続・道具に神が宿る

私は日本人の勤勉さの根底に「道具に神が宿る」という精神性があると、考えている。道具に感謝する、道具を大事にする気持ちが日本人の勤勉さの基本であり、工業立国を支えた精神性だと考えている。

中国の生産現場を見ると残念ながらそういう気質は感じられない。
ペンチをハンマー代わりにする。エアードライバーをリュータの代わりにしてネジ穴周りの塗装を剥がす。こんなことを平気でやる。

仕上がりだけを見ても道具に対する愛情・尊敬の念が感じられない。
私の住んでいるアパートの扉についている蝶番を止めるネジは2/3がネジ頭のプラス溝が潰れてしまっている。

同じようにNC加工機を使っても、日本のように機械に名前をつけて可愛がるという発想は世界的に見てもまれなのではないだろうか?愛情を持った扱いが、徹底的なメインテナンスや加工機を自らの工夫で進化させようという意欲につながると考えている。

欧米では「一神教」をベースとした宗教観により機械を擬人化する事が宗教的忌避となる。
中国にも道具に対する愛着は長い歴史の中にあったはずだと思う。
しかし現代中国は職人の腕を育てるよりは新しい加工機を買うと言う即効性重視に陥っている。

私はNC加工機などの設備も「道具」と位置づけている。
定義の違いを考えると、実はS様の考えと私の考えには共通性があるのではないだろうか。

☆S様のメッセージ

ちなみに、上記のマシニング加工機などマザーマシンと呼ばれる加工機も日本は物真似から始めました。弊社の自動旋盤も、今は日本製が世界の主流ですが、50年前はスイスのトルノス社のコピーでした。
 自動車も然り。その他の家電製品類も舶来と呼んで輸入品が最高だといわれた時代もありました。でも工作機械でも自動車産業でも、コピーから創めた産業が、世界一と呼ばれるまでになった。
 そこにあるものは、職人気質ではなく、「先生に追いつきたい!」との日本人の勤勉性だったと思います。

その日本人の特性が裏目に出た産業が時計産業ではないでしょうか?
生産数量は世界一!機能だって、時を刻むという性能だって世界一です。SEIKO、CITIZEN、CASIO…これらのメーカーに勝る海外企業はありません。
でも、クォーツでもなく、時を刻む精度もそれほどでもないスイス製のほうが、今でも相変わらず高級品です。

 安くて良いものを大量に生産する。そんな「効率的モノづくり」を成熟させすぎた結果でしょうか…
今の時代は半導体産業と民生商品では携帯電話が、そんな道を歩んでいるように小生には見えます。

  • 安くするために、大量生産を続ける
  • 不良品を防ぐために、標準化された生産ライン=誰でも同じ品質=職人の排除
  • ハードウエアではなくソフトウエアで機能を構成する。=簡単なモノ造り

そんな構成の産業は、いずれ中国に持って行かれるでしょう。そうなった時に、時計産業のように高付加価値のモノづくりをどのように見出すか?

日本企業の命題は非常に大きいと思います。

(林のコメント)「効率的モノ造り」の功罪

セイコーは世界で初のクウォーツ腕時計を商品化している。
これも物真似と揶揄されるかもしれないが、他の発明品を1/1000の大きさにするのも一つの発明だ。

ところがS様がおっしゃるとおり、廉価品を大量生産したところに今日本が弱体化してしまった遠因がある。もちろん当時はモノが行き渡ってなく、廉価なモノを大量に要求している市場があったので、当時の考え方が間違っていたとは思わない。

生産の効率と品質を上げどんどんコストダウンをしてモノ造りをした。
その結果モノと一緒に「貧乏」も量産してしまった。

今はマーケットのあり方が変わってしまった。
規格大量生産品は作れば作るほど「貧乏」になる。
顧客が欲しがるモノを少しだけ造る時代だ。
スイスの高級時計路線はこれを頑なに守っているのではないだろうか。

コストダウンばかり考えるのではなく、顧客が価値を感じるところには思い切ってコストをかけてゆく,という発想の転換が必要だと考えている。


このコラムは、2009年6月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第101号に掲載した記事に加筆しました。

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全日空系機長、客室乗務員らを操縦席に 操縦桿触らせる

 全日空グループのエアーセントラルの機長(51)が飛行中2度にわたり、客室乗務員ら計3人の女性を操縦席に座らせていたとして、国土交通省は4日、口頭で再発防止を指導した。うち2人は操縦桿(かん)も触っていたという。
同社は記者会見し「信じられない事態で遺憾」と謝罪した。

(asahi.comより)

 勉強のために運行支援者、客室乗務員を副機長席、機長席に座らせたという。
この機長さんは教官の資格を持っており、普段から教育熱心であったのだろう。
しかし乗員・乗客の生命安全、会社の資産安全に責任を持つ機長が規則に違反してまで行う行為ではない。

これをあなたの工場に当てはめて考えてみよう。OJT(現場教育)の名の下に未熟な作業者を工程に投入していないだろうか?
ライン外で十分に教育・訓練しても実ラインでのOJTは必ず必要である。
ライン外と違い実ラインでは、タクトタイムのプレッシャーの中で部材の欠品、不良の発生などなどさまざまな事が発生する。これらの実経験を経て一人前の作業者になる。

しかしお客様(または次工程)に対する品質責任はきちんと保証しなければならない。上記のニュースのような品質の危機が発生しないように手を打つ必要がある。

OJT期間中の作業者の作業品質をどう保証するか一度見直されてはどうだろうか。
事前のライン外教育・訓練の効果確認方法。ベテラン作業員とOJT作業員を組み合わせて作業品質を保証する。などいくつも考えるべきテーマがある。


このコラムは、2008年4月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第28号に掲載した記事に加筆しました。

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サービス業の業務標準化

 中国では、稲盛和夫氏の経営哲学を学ぶ者が多い様だ。書店に行くと、稲盛氏の著書が平積みされている。中国の盛和塾活動も盛んであり、勉強会や、セミナーの案内が良く来る。

去年成都で、稲盛氏をお呼びして大々的な盛和塾塾生の大会があった。
この様子はテレビ東京の「未来世紀ジパング」で紹介されたので、ご存知の方も多かろう。会場に到着した稲盛氏はまるでアイドルスターのようだった(笑)

その番組では、稲盛経営哲学を実践する中国人経営者として、不動産業経営者と深センで美容院経営者の二人が紹介されていた。

以前東莞にある京セラ中国工場に勤める若い中国人から、社内文化につい話を聞いて感服したことがある。

番組で紹介された2人の中国人経営者は直接稲盛氏とつながりがなく、しかも製造業ではない組織で、稲盛経営哲学がどのように企業文化に取り入れられているのかものすごく興味を持った。

そこで番組で紹介された、経営者の名前と深センの美容院の名前を手がかりに、連絡先を突き止め、訪問のアポをいただき先週末に会って来た。

2時間の予定で、社長室に経営幹部二人が同席していただき、色々話を伺った。
時間が足りなくなり、そのまま社長室で昼食をしながら話を聞き、午後はテレビ東京が取材に来たと言う店舗に案内してもらい、現場も拝見した。

美容院と言うと、我々日本人は「髪結い」を想像するが、いわゆるSPAと言うエステサロンの様なモノだ。(SPAもエステも行った事がないので正しいかどうかは分からないが)

彼らのビジネスでもっとも重要な資源は、人でありその能力をどう高めるかが課題と理解している様だ。本社には、研修用の学校も併設してある。その他にも施術能力を高めるための制度を設けている。

その施術の流れも、技術も標準化してあるが、そのレベルをもっと高めたい、と言うのが経営者・経営幹部が考えている課題だ。
製造業は、工程フローや作業手順の標準化や教育訓練方式に関して長い経験と実績を持っている。
しかし私が彼らに伝えたのは、標準化の方法ではなく、如何に標準を越えるかと言う話をした。

標準化の目的は、下側のレベルを合わせる事だ。つまり誰がやっても、最低限のレベルを保証するに過ぎない。
モノ造りの現場に居る作業者であれば、それで問題はない。一人ひとりが作業標準を守れば、QCDを保証出来る様にシステム化する事が可能だ。それにより、顧客満足を達成することができる。

ここで言う顧客満足は、「顧客要求を理解しそれに過不足なく答える」と言う意味だ。しかしサービス業が目指すゴールは「顧客満足」ではない。
サービス業が目指すべきゴールは「顧客感動」だ。
顧客感動によってお客様は「信者」になり儲かるのだ。「儲」の字を良く見ていただければ理解出来るだろう(笑)信者になればリーピート顧客になる。

従って彼らに必要なのは、標準化の上に作るべき「感動共有のしかけ」とでも呼ぶモノだ。つまり最低限のレベルは保証しなければならないが、その上で現場の従業員がお客様に感動を与える事を競い合う様な環境を作る事だ。

サービス業は、人の質が直接サービスの質を決定する。
私自身も製造業の質を上げるためにサービス業の仕組みを勉強した。
特にディズニーランドの手法は、アルバイト職員が90%であり年間離職率が50%に達する条件で素晴らしい業績を上げている。出稼ぎ労働者を採用し工場経営している経営者に大変参考になるはずだ。

「9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方」

そして、稲盛経営哲学を実践しようとしている中国人の若手経営者に製造業のノウハウを伝えることは異業種間の大きな交流の流れになるだろう。


このコラムは、2014年3月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第355号に掲載した記事に加筆しました。

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日本人部下への不満

 春節休暇で日本に戻って来ている。
先週は、新宿まで出かけ小学校時代の同級生と会った。

彼は定年後も嘱託で仕事をしている。部下はほとんど派遣社員であり、やる気が感じられない、すぐに辞めてしまうなどの悩みが有る様だ。突然休むことも有り、仕事のやりくりが間に合わない時もあるそうだ。

何処かで聞いた話だなぁと、話を聞きながら感じた(笑)
中国工場の経営者と同じ様な悩みだ。
翌朝彼との会話を思い出しながら、朝刊を見ていたらこんな書籍の広告が出ていた。

「あ、『やりがい』とかいらないんで、とりあえず残業代ください」

思わず吹き出した。(この書籍をお薦めしている訳ではないので宜しく・笑)
こういう書籍が出ていると言う事は、中国の方がやり易いと感じた。

中国では、離職率が月当たり10%になると言う工場も珍しくはない。仕事を教えても教えても、また新しい従業員を雇わねばならない。
それでも日本よりやり易いと感じるのは、中国の若者の方が自己成長意欲が高いからだ。自己成長意欲を仕事のやりがいに変容させるのは難しくはない。会社に対する帰属意識(愛社精神)などなくても、自己成長意欲を求心力とすることができる。

日本の若者に愛社精神を期待するのは時代錯誤だろう。しかもシャイな(笑)彼らは自己成長意欲を真っすぐ出したりしない。

幼なじみとの飲み会で、余り無粋な話もアレなので(笑)友人にはこんな本を薦めておいた。

「9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方」
「9割がバイトでも最高の成果を生み出す ディズニーのリーダー」


このコラムは、2014年2月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第347号に掲載した記事に加筆しました。

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従業員教育

 直接ご相談を受けた訳ではないが、先週いただいたメールの中に、多くの読者様が直面していると思われる課題があったので、皆さんとシェアしたい。

“従業員の教育育成は重要だと分かっているが、大手企業と違って中小企業はしっかりした教育体系も無く、日常業務に忙殺されて十分教育が出来ない。”
多くの方が、このような問題点を抱えておられると思う。

私が知る範囲では、大手企業と言えどしっかり教育システムが機能している所ばかりではない。
日本本社には、社内研修を専門にしている部署があり、別会社として独立している。日本本社にグローバル品証部門があり、世界中の拠点の教育企画を立てている。その様な会社も存じ上げているが、必ずしもうまくいっていない。

もっとも大きな問題は、日本本社と現地工場経営者の温度差だ。日本本社はよかれと考えて色々な施策を提供して来るが現地の感覚とずれており、現地経営者から受け入れられない、と言う事例を何度も見た。

現地生産工場のトップについている方は製造のプロである事が多く、本社から出て来る教育企画を有効に落とし切れていない、と言う事例もよく見る。

例えば、昇格者に研修をすると言う規定がある。毎年の品質計画に昇格者研修も入れてある。しかしその目標が「参加率100%」となっていると、本来研修の目的である効果を保証する事が難しくなる。

元々大手企業の経営者・経営幹部は、4,5年の任期を終えれば帰任出来る。その間大過なく過ごす、などと言う「大企業病」もあるだろう。

中小企業の場合は、違う意味で、難しいところがある。
絶対的なリソースが少ないので、一人何役もこなさなければならない。特に日本人幹部に対する負荷が高くなっている。また中国工場に赴任して来ている方は、製造部門のプロばかりだ。

余談だが、中国に工場を出して初めて品質保証部門を作ったと言う方もあった。
日本本社では、製造部門の品質係で十分だったが、独立した品質保証部がないと中国では機能しないと、気が付かれた様だ。

その様な背景があり、人材育成は重要だと実感しているのだが、どうしたら良いか、そのための時間をどう捻出するかが分からない。こういう問題を抱えておられる方は、多いだろう。

私が独立して最初にお手伝いした台資工場での事例をご紹介しよう。
当時、他にお客様がなかったので(苦笑)毎日この工場で指導をしていた。
経営者には、半年で顧客不良を半減、一年で三分の一にすると言う目標を示していた。指導を始めて感じたのは、まず現場の班長のレベルをあげなければならないと言う事だった、

この会社には教育システムはない。むしろ教えてもムダだと考えているフシがあった(苦笑)ISO上必要なので、技能認定の教育と、新入社員に会社の規則を説明する半日の入社時研修があるだけだった。従って、朝採用された新人達は午前中の研修(会社や寮の規則説明会)を終えると製造現場に新しく貰った作業服を持って上がって来ると言う状態だ。
(念のために申し上げておくが、今はちゃんと個人スキルに合わせた教育計画がある……はずだ)

従って現場の班長さんと言っても、他の女工さん達と同じ様に採用され、作業が他の人より上手に出来るので班長さんに抜擢されているだけなのだ。
班長としての知識は何も教わっていない。

この班長さん達を二班に分けて、毎朝30分ずつ研修した。
二班に分けたのは、現場に班長さんがいなくなると問題が起きた時に面倒を見る人がいなくなるからだ。一度に一テーマ、30分以内で終わりにする。
初期は、5S、ホウレンソウ、識別管理、4M管理などの基本が理解出来る様に、簡単に事例を多くして教えた。
その後は、毎日現場で見つけた問題点をフィードバックする方式で指導を継続した。

「教育研修」と大げさに考えると、一歩が踏み出せない。毎朝始業前の30分幹部を集めて話をする、こういう感覚で始められたら良いと思う。幹部は教えられた内容を部下に教える。
そして、毎朝の話題をA4一枚にまとめておく。これが蓄積すれば、立派な教育資料となる。これを使って中国人幹部が社内研修をすることができる様になる。

大変な様に見えるかも知れないが、毎日1テーマなので、隙間時間で十分準備出来る。夕食後の時間で準備すると決めてしまえば、習慣になる。
何よりも、班長さん達の熱心な態度や、自分に対する信頼感を感じることができ、自分自身のモチベーションが上がる。

こちらもご参考に
景気と改善コンサルの仕事
教育投資


このコラムは、2013年12月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第339号に掲載した記事に加筆しました。

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モノ造りの誇り

 先週は品質道場にて「統計的品質管理」を中国人、日本人に教えていた。
品質道場の門下生の中に、非常に熱心な日本人駐在員Oさんがいる。Oさんはギターを生産する協力工場の指導で中国に来ておられる。彼は元々フォークギターを演奏することが趣味で、この職業に就いたそうだ。

品質道場の後の懇親会では、持参のギターで弾き語りをしてくれた。日本食レストランで突然開催された一人ライブに、ウェイトレスや厨房のスタッフまでが集まり彼の演奏に耳を傾けた。

Oさんは、指導先の生産委託工場でもしばしば作業員に演奏を聞かせ、一緒に歌を歌っているという。一緒に歌を歌うことにより一体感が生まれる。しかしその効果はそれだけにとどまらない。
自分たちが生産している楽器が、どのように使われ、どのように人々の心を豊かにしているのか実感することが出来る。

それは、自分が生産している製品に愛着を持ち、誇りを持つことになる。
そしてそれが作業員自身の職人としての誇りとなる。

ギターというのは、工業製品というよりは工芸製品といった方がよいだろう。
この種のモノ造りは、作業員の質が直接製品の品質につながる。
製品に愛着、誇りを持った作業員が造り出した製品には魂がこもる。
彼の活動は、製品の良品不良品といった品質を超えた「質の向上」に大いに貢献しているだろう。

こういう指導は、技術的指導を超えた、職業人としてのココロの指導だ。
Oさんがこのような指導が出来るのは、製品に対する愛着・愛情と、それを生産する作業員に対する愛着・愛情があるからだ。

量産工業製品も同様だ。
先週指導した自動車部品工場のリーダは、自分の仕事が車社会の繁栄に貢献しているのが誇りだと話してくれた。
中国の生産現場でまだ足りていないのは、作業員一人ひとりがこのような誇りを持って仕事をすることだと感じている。

あなたの工場が生産する製品は、どのように人々を豊かにしているだろうか?
どんな製品でもそれが必要とされている以上、必ず誇りを持てる製品のはずだ。
そしてあなたの工場の作業員はその誇りを、自分自身の誇りとして感じているだろうか?


このコラムは、2010年12月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第185号に掲載した記事です。

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仕事の報酬は仕事

 98号のニュースから:「受かって何になるん?」 大阪検定、逆風でオマケまでに読者様からメッセージをいただいた。

☆S様のメッセージ
(前半省略)
そんな中で今日のメルマガのまとめ文には、いささかの違和感を感じました。
違和感というより、消化不良といったほうが正しいかもしれません。

 「仕事の報酬は仕事」であり、それによって得られる能力向上が「長期的な実利」であることをしっかり教えてやる事が正しい対応だと考えている。

これは、中国人に限ったことではありませんね。
日本人の最近の若年層の考え方も似たようなものです。
企業規模が大きくなるにつれて、個々の社員は狭い領域の仕事だけが己の職務すなわち、給与の対象と考えている。
 能力評価を上げて上級職を目指し、結果的に給与水準を上げる。そんな考え方よりも、先月の残業代のほうが重要だと…。

『自己の能力向上が長期的な利益』と教えるには、対象とする部下の今現在の能力が実はたいしたことは無いレベルなのだ。とある種の評価否定から入らなければなりません。
 この点が、中国人にはもっとも難しい点ですね。中華思想というべきか、ほんのちょっとの能力を、ことさら誇大に自己主張する。
その背景には、大陸性の民族としての習性もあるのでしょうが、この部分の指導方法こそが、最大の課題なのではないかと、日々感じています。

【林のコメント】
S様がご指摘の通り、日本の若者も「仕事の報酬は仕事だ」ということを学ぶべきだと感じる。特に昨今のフリーターという働き方が生活の糧を得るためだけに働く、という貧しさを感じる。
7日間のうち5日間を働かなければならないとすると、週末に「自分」を取り戻すよりは仕事を通して「自分らしさ」を実現したほうが幸せなはずだ。

「自己の能力向上が長期的な利益」であることを教えるのに部下に否定的評価をする必要はないと考えている。「現在の実力がたいしたことない」という評価は原点が現在にある。それよりは評価の原点を将来の夢(目標)に置く。その目標と現在の差を埋める行動を取るようにする。

やることは同じかもしれないが、原点が現在にあるのか、将来のありたい自分にあるのかに大きな違いがある。

現在の能力を否定された形でのスタートはココロがネガティブになる。
将来の夢を原点として物事を考えればココロはポジティブになる。
ポジティブなココロがポジティブな行動を生む。

自己の能力を最大限に誇張表現する、と言うのは中国人にしてみれば生活がかかっているので当然の行動原理だと思う。

しかし一緒に仕事を開始しすれば誇張表現はなくなる。
こちらからお前はダメだと否定するより、自分からその差に気がつき学ぼうと思ってもらったほうが効果は高い。

一緒に仕事をしてなおかつ誇大表現が止まらない人は、
 自分の能力を適正評価できない
 世の中で通用する能力レベルが理解できない
という欠陥がある可能性がある。
こういう人にはいくら教えてもムダだ。むしろ教える側のモチベーションが下がると言う弊害がある。


このコラムは、2009年5月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第99号に掲載した記事に加筆しました。

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「受かって何になるん?」 大阪検定、逆風でオマケまで

 ご当地検定ブームから遅れること3年、大阪でもようやく「なにわなんでも大阪検定」(6月21日実施)がスタートする。各地の検定が受検者の減少にあえぐなか、主催者側は合格者の特典を充実させ、受検者集めに躍起だ。大阪検定の第1回の申し込み締め切りは5月13日。検定界にナニワの新風が吹くか――。

 (中略)

 来場した同市の主婦吹留あきさん(47)は「大阪検定なんて初耳。受かったら何になるん?」と首をかしげ、「大阪人に訴えようと思ったら、豪華な景品とか、仕事に就けるとか、何かいいオマケがないと」と注文を付けた。

(asahi.comより)

 2007年に久し振りに金沢に行ったときに「ご当地検定」というのを知った。
大学の時の先輩が金沢に住んでおり、「受験勉強」をしていた(笑)市役所の職員でも合格できないほどの難関だそうだ。

このニュースにある大阪のオバサンのコメントが面白い。検定に合格すると言う名誉よりは、実利優先だと言う。

この「大阪人気質」って中国人にも似たモノがあると思う。もちろん13億もいる中国人を一括りに考えるのは。間違いを犯す元だが。

自分に実利があることに対しては一生懸命に取り組むが、実利がないと判断したことに対しては見向きもしない。例えば自分の給与を決定している上司の指示に対しては忠実に従うが、給与決定権のない幹部の言うことは耳も傾けない。こんな傾向がある。

これを「拝金主義」として退けるところからは何も生まれない。むしろ相互の信頼関係を損なうだけだ。

大阪人にしても、中国人にしても「実利」に対する欲求がとても分かりやすい人たちだ。相手がちゃんと見せてくれているのだから、こちらは正しく対応する事が出来るはずだ。

例えば職務分掌に仕事を追加する。多くの場合中国人従業員は、ではいくら給与が上がるのか?と聞いてくる。この要求に対して正しく対応する方法は、要求どおり給与を上げてやることではない。

「仕事の報酬は仕事」であり、それによって得られる能力向上が「長期的な実利」であることをしっかり教えてやる事が正しい対応だと考えている。


このコラムは、2009年5月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第98号に掲載した記事に加筆しました。

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連合モノ造り

 一つの製品を生産するのに、素材を購入して全て一から作るというのは困難であり、合理的ではない。
例えば電源装置を生産するために、プリント基板、プラスチックケース、金属シールド版、金属放熱器、トランス、ワイヤハーネス、主銘版の印刷、梱包材料などを全て素材から加工すれば、高い付加価値を付けられる。しかしそれに必要な生産設備や人員を考えれば賢明な選択とはいえない。

そこでそれぞれの製品の生産に特化した工場が、水平分業してひとつの製品を完成させることになる。しかし「水平」とはいっているが、往々にしてパワーバランスで上下関係のようなものが出来上がってしまう事が多い。

以前電源装置を生産していたときに、自虐的な戯言として「士農工商電源屋、その下を行くトランス屋」などと言っていた。もちろんこれは戯言であり本心ではない。時としてパワーバランスが崩れると、トランス屋の言い値でトランスを購入しなければ供給を止められることもある。

しかしこのような構造はいかにもいびつである。
水平分業している工場の目的は同じはずである。協力して一つの製品を完成させ顧客、更にその先のエンドユーザの満足を得て利益を上げるのが目的だ。そのような共通目的によって結びついた理想的なモノ造りを連合モノ造りと勝手な名前を付けてみた。

元請が下請けの利益を圧迫して利益を上げるのではなく、それぞれに協力研鑽して利益が出る体質を作り上げる。
今お手伝いしている新製品立ち上げの仕事がまさにそういう仕事だ。部品を生産する工場に出かけると、「顧客監査」という姿勢で構えられてしまう。そうではなくお互いの利益を得るために来ているということから説明することになる。

元請がリーダ的存在となり、協力工場の改善指導ができればお互いにwin-winの協力関係が強くなる。

新規プロジェクトの立ち上げの時は、量産開始まで頻繁にこうした活動を行うことになる。

通常時も協力工場が集まり異業種改善活動をすれば、連合モノ造りの力をつけwin-win関係を深める事が出来るはずだ。


このコラムは、2009年5月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第98号に掲載した記事に加筆しました。

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現場力

 読者様から「現場力」に関する記事を紹介していただいた。

  問題を解析し、知恵やアイデアを出し、粘り強く改善するのは、あくまで人間である。この現場力こそが、日本の競争力の源泉である

日本企業の競争力は、現場をたんなる「コスト」として見てこなかったことから生まれている
 
困れば知恵が出る。そして、それが現場力強化につながる。その際に、現場だけを困らせるのではなく、経営トップも一緒になって困ることが肝心だと大野(耐一)氏は指摘する

「変動費化」という甘い言葉が、現場の品質を毀損させているという現実を、経営者は直視しなければならない。経営の目的は、変動比率を高めることではなく、現場の競争力を高め、そこから生み出される付加価値を高めることなのである

 ○○と他のスーパーの最大の違いは、仕入れにある。大手スーパーが集中購買を指向する中で、○○は鮮魚、精肉、青果といった生鮮食品の仕入れ担当者は、各店舗に配備されている「競争戦略」と「オペレーション」の両輪が揃ってはじめて卓越した競争力は生み出される

競争戦略が合理的であることの最も重要な要素のひとつは、自社の「身の丈」に合っているかどうかである。ビジネスとしての可能性があるからといって、あれもこれも漫然と手を出していたのでは、資源配分が分散してしまい、優位性構築に結びつかない

人づくりのための投資とは、お金をかけることではなく、経営幹部がどれだけ自らの時間をかけたかである

ボトムアップという現場力のエネルギーは、じつはトップダウンからしか生まれない

企業活動における「よい行動」とは、「しつけ」と「くせ」の2つで成り立っている

「見える化――伝わる化――つなぐ化――粘る化」

サービス業や流通業においては、過度な分業・分散化は、顧客満足の低下をもたらす

 いま、後輩たちに遺さなければならないのは、たんなる機械の使い方や作業手順ではない。「なぜこの機械が生まれたのか」「なぜこの作業手順が必要だったのか」そんな根源的な経験則こそが、継承されなければならない。それこそが「スピリット」である

90年代、バブル崩壊で日本的経営に自信をなくした経営者達が。こぞって米国流経営手法を真似をした。

株主重視主義により短期経営数字を追いかけ現場を変動経費化した。このため現場の力が代々伝承していく仕組みが失われた。
成果主義に偏りすぎたため従業員にOUTPUTばかりを求め、人財育成が不十分となった。

このような問題を抱えた組織が、バブル崩壊以降未だにテイクオフできていないのではなかろうか。

ところで90年代に力を取り戻していた米国は、実は70年代から日本に追い上げられジリ貧状態であった。80年代になり更にそれが顕著になり、日本式経営の強さの秘密が研究された。

そこで注目を浴びたのがデミング博士である。
デミング博士が戦後の日本に統計的品質管理を教え、そこからモノ造りの日本が急成長したのを突き止めたのだ。デミング博士は全米で再評価され多くの経営者がデミング経営哲学を取り入れた。フォードもGMもデミング博士の直接指導を受けて当時復活している。

バブル崩壊時に真似をした米国の強い企業は実はこうして蘇ったのである。シックスシグマ、TQM、マルコムボルドリッジ品質賞など日本式経営を研究した結果米国に取り入れられたものである。

現場の力を大切にしてきた日本式経営をもう一度取り戻す必要がある。


このコラムは、2019年2月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第84号に掲載した記事に加筆しました。

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